ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

CTBT

インドネシア、CTBTを批准へ

 インドネシア国会は12月6日、遅くとも同月13日には包括的核実験禁止条約(CTBT)に批准する予定だ。ウィーンのCTBT機関関係者が明らかにした。

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▲ウィーンのCTBT機関を視察したインドネシア国会議員団=2011年11月22日、CTBT機関のHPより

 それに先立ち、インドネシア国会国防外交委員会メンバーの10人の議員たちが今月22日、ウィーンのCTBT機関を訪問したばかりだ。
 インドネシア国会議員団のCTBT訪問は2010年6月、今年3月について3回目だ。CTBTのHPによると、代表団は7政党、与野党、同国外務省から2人の高官から構成されていた。
 議会国防外交委員会のメンバー、Helmy Fauzy議員は「CTBT批准はわが国の安全と国益に最も合致している」と述べている
 インドネシアはCTBT早期発効に批准が不可欠な44カ国の中のメンバー。同国は1996年9月24日にCTBTを署名したが、これまで未批准だった。
 同国のマルティ外相は昨年5月、CTBTの早期批准する意向を表明したこともあって、同国の批准は時間の問題と受け止められてきた。
 議員団はトート事務局長と会談した他、国際データーセンター(IDC)を視察した。同国には6箇所の観測施設が国際監視サービス(IMS)に入っている。同時に、CTBT機関の津波対策関連会合にも積極的に支援してきた。
 インドネシアが批准すれば、未批准国は8カ国に減るだけではない。世界最大イスラム教国のインドネシアの批准は他のイスラム教国、イラン、エジプトなどにも良き影響を与えると予想されている。

【44か国中、未批准国】
 インドネシア、エジプト、イラン、米国、中国、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエル

 

CTBT機関広報部長のアピール

 ウィーンの事務局を抱える包括的核実験禁止条約(CTBT)機関のアニッカ・トウンボルク広報部長はこのほど当方との会見に応じ、「イランが『核開発計画が平和目的だ』と主張するのなら、CTBTを即批准すればいい。核実験の禁止を明記したCTBTを批准することで、イランは自国のクリーンを世界にアピールできる」と述べ、同国にCTBT条約の早期批准を求めた。

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▲会見に応じるCTBT機関のアニッカ・トウンボルク広報部長(2011年11月16日、ウィーンのCTBT機関で)

 国際原子力機関(IAEA)の核保障措置協定(セーフガード)、核拡散防止条約(NPT)と共に核軍縮の重要な要、CTBTは署名開始から今年9月で15年目を迎えたが、条約は依然、発効していない。以下は同部長との会見の概要だ。


 ――CTBT条約署名開始15周年を迎えたが、条約発効の見通しはどうか。条約発効で署名・批准が不可欠な44カ国中、依然9カ国が未署名、ないしは未批准だ。

 「署名国数は182カ国であり、批准国は155カ国に及ぶ。同時に、核実験を監視する国際監視システム(IMS)は今日までに285個所の観測地点を設置済みだ。すなわち、IMSは80%以上が完成しているわけだ。核軍縮ではCTBTの重要性が益々認識されてきている。例えば、インドネシアは近い将来、批准すると公約している」

 ――オバマ米大統領は核軍縮を強調しているが、米国の批准は実現できるか。

 「オバマ大統領は核軍縮に強い関心を有している。来年末の大統領選後、米国上院が批准に動く事を期待している。オバマ政権はCTBTに約3500万ドルを自発的に拠出しているし、IMSの整備に積極的に支援してくれている」

 ――CTBTとしてはオバマ大統領の再選待ち、といったところか。

 「米国の内政問題には干渉したくない。ただし、オバマ大統領はCTBT批准に非常に積極的だ。その大統領の再選はわれわれにとって歓迎すべきだ」

 ――インド、パキスタン、北朝鮮3国は未署名だ。

 「インドはCTBT開催の科学者会議に参加し、パキスタンもオブザーバーの立場で政治会議にも出席している。問題は北朝鮮だ。残念ながら、平壌とは一切の接触がない」

 ――ところで、IAEAのイラン核報告書によれば、テヘランは核兵器製造の意思を有していることが明らかになった。CTBTはイランの核報告書をどのように評価しているか。

 「イランが『核計画は平和利用を目的としている』と主張するのならば、CTBTに批准すればいいだろう。そうすれば、イランがクリーンであることを国際社会は認めざるを得なくなるからだ」

 ――米国が批准すれば、中国が動くだろう。米中の批准完了後、他の国(例・北朝鮮)が批准しない場合でも条約を暫定発効するシナリオが囁かれている。

 「われわれは核開発能力を保有する44カ国全てが署名、批准することを願っている。その意味で条約14条の変更や修正は考えていない。北朝鮮を条約から追放しないほうが得策だ。北朝鮮の現政権は目下、厳しいが、近い将来、北の政権がどのように変化するかは分らない。北の政情が変わり、CTBTに署名、批准することも予想できる。その意味で、北がCTBTファミリーの一員となることをわれわれは願う」

CTBTの「暫定発効案」が浮上

 ウィーンに本部を置く包括的核実験禁止条約(CTBT)機関は9月、ニューヨークで条約発効促進会議(通称14条会議)を開く。そこで条約の早期発効をアピールした最終宣言が採択される予定だ。


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▲CTBT機関事務局のあるウィーンの国連(2011年7月、撮影)

 CTBTの署名開始から今年9月で15年目を迎えるが、条約の発効の見通しは暗い。「核兵器なき世界の実現」を提唱するオバマ大統領の米国で先日、「未臨界核実験」が、昨年と今年2月に実施されたことが明らかになったばかりだ。
 CTBT署名国数は7月現在、182カ国だが、条約発効に署名・批准が不可欠の、研究用、発電用の原子炉を保有する国44カ国の内、依然9カ国が署名・批准を終えていない。米国は1996年9月24日、署名したが、クリントン政権下の99年10月、米上院本会議が批准を否決した。その他、中国、インドネシア、パキスタン、インド、エジプト、イラン、イスラエル、そして北朝鮮の8カ国だ。条約14条を堅持する限り、上記の9カ国が署名・批准を完了しないと条約は発効しない。
 ところが、ここにきてCTBTの早期発効のために「条約の暫定発効」案が浮上してきている。米国が批准した場合という条件が付くが、例えば、国際社会の異端児、北朝鮮が最後までCTBTの署名・批准を拒否した場合、批准国が協議して、「14条を一時凍結し、条約を暫定発効させる」ことで合意できれば、条約が暫定発効するというものだ。この場合、北朝鮮の批准がなくてもいい。14条の束縛から解放されるのだ。
 暫定発効案は「14条の改正」より「現実的で合理的」と受け取られている。条約改正の場合、過去の15年間を再び繰り返す可能性も考えられ、時間がかかる。暫定発効案の場合、米国が批准すれば、条約の発効の道が開かれるのだ。現実的だ。
 米国が批准すれば、米国の出方を伺ってきた中国が批准するだろう。イスラム最大国インドネシアの批准は時間の問題だ。イラン、エジプトも動くだろう。インドとパキスタンは既に準オブザーバー国としてCTBT主催の会議には参加してきた。一方が批准すれば他方も批准するだろう。イスラエルも同様だ。問題は予測できない北朝鮮の出方だったが、この暫定発効案ならば平壌の動向に惑わされることはない。北朝鮮抜きで条約は発効できるのだ。
 CTBT関係者は、「条約暫定発効案は何カ国が批准しない時に施行できるかは、加盟国の政治的判断にかかっているから、現時点で何カ国までと答えられない」という。だから、北朝鮮とイラン2国が批准しない場合も暫定発効できる、というシナリオも排除できないわけだ。
 この暫定発効の前提は先述したように米国の批准だ。オバマ政権が未臨界核実験を通じて核兵器の安全度の検証が実現できれば、批准に反対の共和党も条約賛成にまわる可能性が出てくる。その意味で、未臨界核実験は条約批准にとってプラスの影響を与えるという声も聞かれる。なお、条約発効促進会議には、クリントン米国務長官の出席が期待されているという。


【データー】CTBT機関が公表した統計によると、米国が1945年広島に人類初の原爆を降下させから、1998年までに世界で2053回の核実験が行われた。国別にみると、米国が1032回、旧ソ連715回、フランス210回、英国45回、中国45回、インド4回、パキスタン2回だ。その後、北朝鮮が2回(2006年10月、09年5月)実施している(南アフリカとイスラエル両国の核実験が報告されているが、未確認)。CTBT機関広報部によれば、北の3回目の核実験に備え、地震観測網の他、放射性ガス(希ガス)をキャッチするため、26カ所の放射性ガス観測施設網が敷かれている。
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