ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

韓国

日韓は正しい「隣国」関係を

 韓国国防部(省に相当)が2日公表した国防白書は、日韓関係を前回2020年版の「同伴者」(パートナー)という記述を削除し、「隣国」と明記していることが明らかになった。日韓メディアは「同伴者」から「隣国」への記述変更を「格下げ」と指摘し、文在寅政権下で続く日韓関係の冷却関係を示すものと受け取っている。

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▲新年のスピーチをする文在寅大統領(2021年1月11日、大統領府公式サイトから)

 朝鮮半島から地理的に離れた欧州のウィーンに住んでいる当方にとっては、「同伴者」から「隣国」への記述変更を日韓関係の冷え込みというより、冷静になる機会と好意的に受け取るべきだと思っている。以下、説明する。

 「同伴者」という言葉を聞くと、日本のカトリック作家遠藤周作が「イエスは(隣人ではなく)罪びとの同伴者」と受け取ってきたことを直ぐに思い出す。その「同伴者」という言葉を日韓両国関係に当てはめることはどう見ても無理がある。

 「同伴者」「パートナー」は夫と妻の関係に当てはまる。夫婦となれば相手のいい点も悪い点も知った上で共存する関係だ。「それ故に」というか、愛憎の両感情が絡んでくる。シンプルにいえば、好きだが嫌いにもなる関係だ。「隣国」は基本的には地理的な関係を意味し、日本と韓国は韓国国防省の白書が指摘するまでもなく、「隣国」だったし、今後もその地理的関係は変わらないだろう。

 「同伴者」には双方に選択権がある。嫌いだったら、結婚しなければいいのだ。「同伴者」は相手の選択権を尊重しなければならない。そして一旦選択して同伴者となった以上は「同じボートに乗っている」状況だから、ボートが嵐で転覆しないように双方が助け合って操縦しなければならない。責任が出てくるわけだ。一方、「隣国」関係は主に地理的な定義を意味するから、好き嫌いに関係なく「隣国」関係は不変だ。

 韓国側の根拠の乏しい激しい反日攻撃に辟易した多くの日本人は「隣国は選ぶことができない」と絶望的な諦観に陥る。その通りだ。「隣国」関係には選択権がない。宗教的にいえば、一種の宿命だ。日本が大西洋側に移動すれば、韓国との「隣国」関係は断ち切れるが、大異変が生じない限り、地理的な位置は移動できない。その意味で、日韓関係は地理的には宿命的な「隣国関係」だ。

 ただし、「隣国」間には一定の規律、ルールが大切となる。不可侵条約や友好条約といった外交文書はそれに当てはまる。「同伴者」の場合、双方にそのような外交上の文書は不必要だ。契約結婚とか協議離婚という言葉はあるが、それはあくまでも仮想「同伴者」関係に生じた時の表現だろう。

 韓国は1965年、日本との間で「日韓基本条約」「請求権協定」を締結したが、韓国の司法は元徴用工問題で日本企業に賠償を命じた。明らかに国際法から見ても違反だ。また、日本の岸田文雄外相(当時)と韓国の尹炳世外相(当時)は2015年12月、慰安婦問題で「日韓両政府は、慰安婦問題について不可逆的に解決することを確認するとともに、互いに非難することを控える。この問題が最終的、不可逆的に解決することを確認する」ことで合意した。その日韓合意を文在寅大統領は後日、「慰安婦の同意のない合意は問題の解決とはならない」と述べて、合意の無効を一方的に表明した。

 両件とも国際法に基づいた外交文書だ。それを勝手に破ることは許されない。それを韓国は「あの約束は気に食わない」、「あいつの態度は許されない」といった法の世界とは無関係の理由から、破棄してきたわけだ。「あの国は国際法を守らない国だ」と非難されても仕方がない。それも、人権弁護士であり、法の世界に通じている文大統領の政権下で行われたのだ。日韓関係を「隣国」関係ではなく、「同伴者」関係と受け取り、うま味だけを享受してきたわけだ。韓国側に「甘えの構造」が見え隠れする。

 文政権は問題への対応で間違いを犯している。少し勘繰っていえば、韓国側は日本との関係を時には「同伴者」と言い、時には「隣国」と考えることで、常に責任を回避してきたといえる。例えば、「同伴者」から「隣国」への“格下げ”の理由を「日本による輸出管理厳格化」と説明しているようにだ。常に、責任は日本側にあるという姿勢だ。

 日本側としては、韓国を「隣国」として対応したとしても、その隣国は日本を「同伴者」関係と考え、時には愛憎感情を爆発させ、関係を悪化させる危険性があるということを忘れてはならないだろう。一方、韓国は、日本との関係を「隣国」関係と考え、国際法、外交慣習に基づいた対応が求められる。

 隣国同士の日韓両国は友好な「隣国」関係を築くために努力すべきだ。相手を尊重し、国際法を守り、相互援助関係を深めていけば、両国がいつかは切っても切れない隣国関係となるかもしれない。繰り返すが、相手を一方的に同伴者と考え、相手側に何らかのことを強要したり、期待することは正しくない。

 韓国国防省が日本を「同伴者」ではなく「隣国」と記述したことは、日韓関係の格下げを意味するのではなく、両国関係の正常化へのステップと受け取るべきだろう。

北、李明博韓国政権を切り捨て?

 朝鮮半島の状況が緊迫してきた。北朝鮮の対南批判のトーンが異常なほど高まっているのだ。「平壌指導部に何があったのか」といった疑問が湧いてくる。
 対南批判が金正日労働党総書記の訪中後急速に高まってきたことから、「金総書記の訪中に何か不快な事が生じた」「中国首脳陣が金総書記の要請を断わった」等の情報が流れてくる。
 
 そこで知人の北外交官に単刀直入、聞いてみた。

 ――北朝鮮は異常なほど対南批判、対李明博政権罵倒呼ばわりを繰り返している。何があったのか。金総書記の訪中が成功しなかった腹いせか。

 「金総書記の訪中と今回の対南批判はまったく別問題だ。両者をリンクして考えるべきではない」

 ――それでは何が理由なのか。

 「明確なことは分らない。韓国軍がわが国の指導者の写真をターゲットに射撃訓練を実施しているという。許されない侮辱行為だ。明確な点は、わが国が李明博政権との交渉をもはや願っていないということだ」

 ――すなわち、現政権を見捨て、次期韓国大統領選(来年12月)に影響行使を考えているというわけか。

 「それに近いのではないか」

 ――中国の梁光烈国防相が今月7日、「(北に)冒険はさせない」と北当局に警告を発したという。この発言内容は、北側が何らかの軍事冒険を行う危険性が出てきた、という事を示唆している。

 「わが国が韓国と戦争状況に入ることはない。軍事衝突は双方に何も利益をもたらさないからだ」

 ――北がミサイル発射や3回目の核実験を実施するのではないかと予想されている。

 「核実験は金総書記と軍部の問題だから、何もいえない」

 ――ところで、北朝鮮は潘基文・国連事務総長の再選を支持したという。

 「当然だ。南北間は目下、険悪化しているが、同じ民族だ。わが国は潘基文氏の最初の立候補時にも率先して支持表明してきた」



【短信】ガネム氏、ウィーン入り

 リビア最高指導者カダフィ大佐の腹心の一人、ショクリ・ガネム(Shokri Ghanem)石油相は先月、カダフィ政権に決別し、リビアを出国してチュニジアに逃亡したが、同氏が先日、ローマからウィーン入りしたことが確認された。同氏の滞在目的は不明だが、同氏の息子が経営している会社と関係があるとみられている。リビア消息筋が明らかにした。
 同氏の周辺には数人のガードマンが常時いる。同氏は安保理決議制裁の資金凍結・渡航禁止対象リストには入っていない。

「私は誰ですか」

 オーストリア日刊紙クリアの日曜日版(22日付)には読者に好評な「現代史」という歴史物記事がある。今回は家系を探索する家系研究家フェリクス・グンダッカー氏(Felix Gundacker)を紹介していた。同氏は「多くの人々が今日、自身のルーツをもっと知りたがっている。自身のアイデンティティを見つけたいという思いがその背後にある」という。
 同氏は22年間、さまざまな家系を探索してきた。洗礼証明書、婚姻証明書、過去帳などを手段に家系を追っていく。同氏によると、「16世紀までのルーツは既に調査済み」という。「家系を調べることは探偵が事件を追跡するようなスリリングな感覚を覚えることがある」と証言している。
 ところで、韓国の初代大統領、李承晩大統領の夫人がウィーン出身のフランチェスカ・ドナー夫人で、両者は1934年、ジュネーブで知り合い、同年、結婚したことはこのコラム欄でも紹介したことがある(「オーストリア・韓国、国交45周年」2008年6月25日)。グンダッカー氏によると「フランチェスカ夫人の家系を調査していくとなんとニーダーエスタライヒ州のプレル知事(Erwin Proll) が夫人の親戚に当たることが判明した」というのだ。
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韓国初代大統領夫人と親戚関係のプレル知事=州政府のHPより


 オーストリア与党国民党の重鎮、エルヴィン・プレル州知事が韓国と深い繋がりがあったことになる。病気を理由に先月、突然政界から引退した同州知事の甥、ジョセフ・プレル前福首相財務相も同じように韓国ルーツを継承していることになるわけだ。
 プレル州知事はフランチェスカ夫人の親戚に当たることを知らされて驚くと共に、「親族が国際政治の舞台に関わっていたことが分かってうれしく思う」と感想をクリア紙に述べている。
 人間の歴史は長い。多くの家系が複雑に絡み合い、交差している。その家系を一つひとつ解き明かしていけばどのような繋がりが飛び出してくるだろうか。楽しみだが、半面、少々怖くもある。
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