国際原子力機関(IAEA)第55回年次総会は19日、ウィーンで5日間の日程で開幕する。今回の総会では、今年3月に発生した福島原発事故によって提示された原発の安全性問題について、日本政府から提出された福島原発事故報告書、6月に開催された閣僚級会合の協議を土台として作成され、9月定例理事会で採択された「行動計画案」について、加盟国151カ国が協議する。また、北朝鮮の核問題や中東の核フリー地帯構想等について話し合われる。
ここではIAEAが久しぶりに作成した「北朝鮮の核報告書」について、当方の見解を述べたい。
天野之弥事務局長は北朝鮮の核問題に関する初の包括的報告書をまとめた。そこで北のウラン濃縮関連活動を始めて言及している。同報告書の意義について、IAEA担当の韓国外交官は、「北のウラン濃縮関連活動がIAEAの公式報告書の中で初めて言及されたという事実だ」という(「北ウラン濃縮施設(4号ビル)を行く」2010年11月29日参照)。
IAEAが北の核関連施設を査察・検証できた期間は1994年5月から2002年12月まで。02年末から07年7月までと、09年4月から今日まで、IAEAは北の核関連施設へのアクセスを失っている。そのため、「北の核問題を検証できない」状況がこれまで続いてきた。にもかかわらず、天野氏は今回、北の核問題を「深刻な懸念」として「理事国の要請」を受けた形で北の包括的核報告書を発表した経緯がある。
その意気込みは評価されるが、その一方で「査察・検証を経ていない不確かな情報」が明記される結果ともなっている。換言すれば、「理事国から入手したインテリジェンスの情報」が多く、核技術機関のIAEAの核報告書とはちょっと異なる内容となった感がするのだ。
「昨年11月に訪朝し、寧辺のウラン濃縮施設を訪れたヘッカー米スタンフォード大教授にIAEAが話を聴いたところ、遠心分離機の配置や外枠の大きさと、闇市場から世界に広まった設計との間に共通性があった」という記述は査察・検証されたデーターに基づくものではなく、あくまで米大学教授の評価だ。そして「IAEAが入手した情報は(北朝鮮が)秘密の供給ネットワークを通じてウラン濃縮に必要な技術と情報の一部を得ていた事実を示している」(時事通信)と記述しているが、詳細な説明はない。
また「リビアは大量破壊兵器の開発を放棄した03年12月、濃縮ウランの原料となる6フッ化ウラン(UF6)が入ったシリンダーを01年に闇市場から入手したと申告。シリンダーはリビア移送前に北朝鮮にあり、UF6は同国で製造された可能性が濃厚」と分析している。これなどは、憶測に過ぎないと反論されても仕方がないだろう。
また、「イスラエル軍が07年9月に空爆した原子炉とみられるシリアの施設は、北朝鮮の協力で建設中だった疑いがある」と指摘したが、IAEA査察局内でもシリアの核関連施設と北との関連性については意見が分かれていたはずだ。にもかかわらず、報告書では断定している、といった具合だ。
IAEA査察局アジア担当のマルコ・マルゾ部長は、「報告書内容は上(天野事務局長)が決めたことだ」と述べ、報告書が査察・検証に基づいた報告ではないことを間接的に示唆している。
昨年12月、内部告発サイト「ウィキリークス」が米外交公電を公表し、そこで、「天野氏はIAEA担当米大使に対し、人事からイラン核問題まで重要事項では米の主張を支持すると伝達した」という。だから、今回の北の包括的報告書も天野事務局長の米従順の証ではないか、といった懸念すら出てくるわけだ。
天野事務局長は12日の理事会冒頭声明の中で北朝鮮の核問題に言及し、「IAEA査察官が追放された09年4月以来、北の核関連情報は限定されている」と述べている。情報がない状況は苦しいが、データーもなく、検証されていない情報を羅列し、憶測情報を記述することは、核技術機関のIAEAが取るべき道ではないはずだ。特に、北と「核の闇市場」関連情報の多くは欧米メデイアが既に報道済みの内容だ。
駐IAEAのイランのソルタニエ大使は「IAEAは技術機関から政治機関に変わってきた」と指摘しているが、その懸念が現実化しないことを願う。
ここではIAEAが久しぶりに作成した「北朝鮮の核報告書」について、当方の見解を述べたい。
天野之弥事務局長は北朝鮮の核問題に関する初の包括的報告書をまとめた。そこで北のウラン濃縮関連活動を始めて言及している。同報告書の意義について、IAEA担当の韓国外交官は、「北のウラン濃縮関連活動がIAEAの公式報告書の中で初めて言及されたという事実だ」という(「北ウラン濃縮施設(4号ビル)を行く」2010年11月29日参照)。
IAEAが北の核関連施設を査察・検証できた期間は1994年5月から2002年12月まで。02年末から07年7月までと、09年4月から今日まで、IAEAは北の核関連施設へのアクセスを失っている。そのため、「北の核問題を検証できない」状況がこれまで続いてきた。にもかかわらず、天野氏は今回、北の核問題を「深刻な懸念」として「理事国の要請」を受けた形で北の包括的核報告書を発表した経緯がある。
その意気込みは評価されるが、その一方で「査察・検証を経ていない不確かな情報」が明記される結果ともなっている。換言すれば、「理事国から入手したインテリジェンスの情報」が多く、核技術機関のIAEAの核報告書とはちょっと異なる内容となった感がするのだ。
「昨年11月に訪朝し、寧辺のウラン濃縮施設を訪れたヘッカー米スタンフォード大教授にIAEAが話を聴いたところ、遠心分離機の配置や外枠の大きさと、闇市場から世界に広まった設計との間に共通性があった」という記述は査察・検証されたデーターに基づくものではなく、あくまで米大学教授の評価だ。そして「IAEAが入手した情報は(北朝鮮が)秘密の供給ネットワークを通じてウラン濃縮に必要な技術と情報の一部を得ていた事実を示している」(時事通信)と記述しているが、詳細な説明はない。
また「リビアは大量破壊兵器の開発を放棄した03年12月、濃縮ウランの原料となる6フッ化ウラン(UF6)が入ったシリンダーを01年に闇市場から入手したと申告。シリンダーはリビア移送前に北朝鮮にあり、UF6は同国で製造された可能性が濃厚」と分析している。これなどは、憶測に過ぎないと反論されても仕方がないだろう。
また、「イスラエル軍が07年9月に空爆した原子炉とみられるシリアの施設は、北朝鮮の協力で建設中だった疑いがある」と指摘したが、IAEA査察局内でもシリアの核関連施設と北との関連性については意見が分かれていたはずだ。にもかかわらず、報告書では断定している、といった具合だ。
IAEA査察局アジア担当のマルコ・マルゾ部長は、「報告書内容は上(天野事務局長)が決めたことだ」と述べ、報告書が査察・検証に基づいた報告ではないことを間接的に示唆している。
昨年12月、内部告発サイト「ウィキリークス」が米外交公電を公表し、そこで、「天野氏はIAEA担当米大使に対し、人事からイラン核問題まで重要事項では米の主張を支持すると伝達した」という。だから、今回の北の包括的報告書も天野事務局長の米従順の証ではないか、といった懸念すら出てくるわけだ。
天野事務局長は12日の理事会冒頭声明の中で北朝鮮の核問題に言及し、「IAEA査察官が追放された09年4月以来、北の核関連情報は限定されている」と述べている。情報がない状況は苦しいが、データーもなく、検証されていない情報を羅列し、憶測情報を記述することは、核技術機関のIAEAが取るべき道ではないはずだ。特に、北と「核の闇市場」関連情報の多くは欧米メデイアが既に報道済みの内容だ。
駐IAEAのイランのソルタニエ大使は「IAEAは技術機関から政治機関に変わってきた」と指摘しているが、その懸念が現実化しないことを願う。