ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

中国共産党

中国共産党組織から1億人が離脱

 韓国国内に住む脱北者数が2万人を突破したというニュースは以前、聞いた覚えがあるが、今度は「中国共産党とその関連組織から1億人が離脱した」というニュースが飛び込んできた。発信元は中国反体制派メディア「大紀元時報」の9日付記事だ。
 具体的には、中国共産党、中共青年団(共青団)と中国少年先鋒隊(少先隊)の3つの組織から離脱(3退)が拡大し、その数は今月7日現在、1億人を突破したというのだ。この数字は離脱者数データを管理する全世界脱党支援センターによるもの。
 大紀元時報は、「中国共産党からの脱党者数は3000万人ということになり、全党員8000万人の4割弱に及ぶ。脱党者の中には、中央政府官僚、各地方政府幹部も含まれており、脱党の動きは中国の各社会階層に広がっている」と分析している。
 欧州連合(EU)は現在、アイルランド、ギリシャから始まり、スペイン、ポルトガルなどで財政危機が表面化し、ユーロ加盟国はその対応で悪戦苦闘している。一方、米国は債務上限引き上げ問題で与野党が激突後、瀬戸際で法案が成立してデフォルト(債務不履行)を回避したが、大国・米ドルの信頼性は大きく傷ついたばかりだ。
 それに対し、中国経済は拡大を続け、一見、勢いがある。中国共産党創立90周年祝賀大会が先月1日、北京人民大会堂で盛大に開かれた際、胡錦濤・国家主席(共産党総書記)は「過去90年間の中共の実績」を豪語したが、今回の「1億人の離脱」ニュースは、中共とその関連組織の内部で大きな動揺が進行中であることを明らかにしている(「中共創建90周年」は祝日でない」2011年7月2日参照)。
 ちなみに、中国の場合「金」ではなく、「人」が政府から背を向けだしてきたのだ。その意味で、中国の現状はEUや米国よりも深刻だといわざるを得ない。
 大紀元時報は「3退」の主因として、「食品の安全問題」や「高速鉄道事故」などを例に挙げながら、「国民は政府が安全を守ってくれると信じていたが、そうではないことが明確になったからだ」と指摘している。
 換言すれば、「中国共産党の目は一定の特権階級の利益擁護に向けられ、国民の安全と福祉ではない」ということだ。中国の国民は90年間の中国共産党政権を通じてそのことを実感してきたわけだ。「3退」は中共政権の崩壊がもはや不可避であることを端的に物語っている。

「中共創建90周年」は祝日でない

 中国共産党創立90周年を祝賀大会が1日午前、北京人民大会堂で盛大に開かれた。そこで胡錦濤・国家主席(共産党総書記)が講演を行った。少し長いが、主要部分を中国国際放送(日本語版)のHPから掲載する。

 「過去90年間、民族の独立と人民の解放を実現したこと、社会主義の基本制度を確立したこと、中国の特色ある社会主義の道を切り開いたことは、中国共産党が中国人民を率いて遂行し、推進してきた3つの大きな事柄だ」

 「中国をよりよくする鍵は中国共産党にある。当面の新しい情勢の下で、中国共産党は必ずその指導レベルと執政レベルを向上し、腐敗と変節を防ぐ能力およびリスクを回避する能力を向上しなければならない」

 北京の公式発表によると、共産党の党員数は8000万人というが、党員数がここにきて急減してきた現状については何の説明もない。
 中国共産党員の中には、党員証より、会社社長の名刺を重視する拝金主義が広がっている。イデオロギーに凝り固まった共産党員はもはや少数派に過ぎない。

 海外の反体制派メディア「大紀元時報」(「Epoch Times」)は、「暴力革命で政権をとり、イデオロギー至上主義の共産党は今、法治、憲政、自由、民主主義との対立を解消できず、中国の発展を大いに阻害している」と指摘したドイツ紙の記事「共産党の苦境と選択」を掲載している。

 一方、ローマ・カトリック教会総本山バチカン法王庁のバチカン放送(独語電子版)は30日、「中国共産党創設90周年は祝うべき日でない」という「国際人権協会」の声明文を転載した。それによると、「中国は90年後の今日も一党独裁であり、人権は蹂躙されている。大きなイベント(北京五輪大会など)が過去開催されたが、変化はもたらされなかった」と主張している。

 胡錦濤主席は「中国の発展の鍵は共産党」と主張し、海外の反体制派メディアは「共産党が中国の発展を阻害」と述べ、欧米の人権運動家たちは「中国共産党の創建は祝日でない」と切り捨てている。立場が異なれば、その評価も180度異なる。

 そこでついでに当方の立場を少し述べておきたい。
 マルクスは「ヘーゲル法哲学批判序論」の中で、「宗教はアヘン」と罵倒したが、この有名な文句は現在の中国共産党の党員には「死語」となった感がする。すなわち、「宗教を信じる共産党員が急増」してきたからだ。
 大紀元時報によると、中国共産党の実数は約6000万人で、その内、約2000万人の党員が何らかの信仰をもっている。その内、1200万人が宗教行事に参加し、少なくとも500万人の党員がその信仰を実践しているという。
 もちろん、中国共産党は黙認していない。例えば、「無神論主義の拡大キャンペーン」をラジオやテレビ、大学などを通じて開始する一方、2006年には「マルクス主義の活性化」のために約2000万ユーロを投資している。
 しかし、中国共産党は宗教の挑戦を退けることが出来ないでいる。党内の宗教者の増加がそのことを端的に物語っている。
 旧ソ連の独裁者スターリンは、「ローマ法王は軍隊を保有していないから、恐れるに値しない」と豪語したことがあった。ローマ法王を守るバチカン法王庁の軍は数百人から成るスイス衛兵隊だけに過ぎないから、スターリンの指摘は正しい。しかし、冷戦終焉直後、「ロシア軍兵士の約25%が神を信じている」という調査結果が明らかになったことがある。ロシア軍内に当時、“神の軍隊”が侵入していたのだ。遅かれ早かれ、中国共産党の運命も同じだろう。
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