ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

中国

バイデン新政権就任早々の「変調」

 ジョー・バイデン氏が第46代米国大統領に就任してまだ1週間も経過していない段階で、バイデン新政権に対し「ああだ、こうだ」と批判することは時期尚早だろうが、前兆というか、懸念される変化が既に見られる。

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▲バイデン新大統領とハリス新副大統領(ホワイトハウス公式サイトから)

 海外反体制派中国メディア「大紀元」によると、バイデン政権発足後の21日、米国務省のウェブサイトから「中国の脅威」、次世代移動通信網(5G)セキュリティらの問題が主要政策項目(Policy Issues)から取り下げられたというのだ。同サイトには、反腐敗、気候と環境保護、新型コロナウイルスなど17項目が掲載されているが、先述した「中国の脅威」や5G項目が削除されているという。その理由は説明されていない。

 好意的に受け取れば、バイデン新政権は国務省のウェブサイトの刷新中なのかもしれないから、具体的な動きが出てくるまでは何も言うべきではないかもしれないが、少々心配だ。大紀元(2021年1月22日)によると、トランプ前政権時代の政策課題から消滅した項目は、「中国の脅威」、5G問題のほか、「イラン・危険な政権」、「ニカラグア・民主主義への回帰」、「ベネズエラ・民主主義危機」等々だ。

 トランプ前大統領がホワイトハウス入りした直後、前政権のオバマ・ケアの否定など、オバマ政権カラーを次々と抹殺していったことを思い出す時、バイデン新政権だけが特別変わっているとはいえない。民主党と共和党が政権交代する米国の政界では当然のことかもしれない。

 蛇足だが、トランプ大統領が就任直後、行ったことはホイトハウスの大統領執務室のカーテンを自身の大好きなカラー(黄金色)に変えたことだ。バイデン新大統領がデスク上の山積する書類に次々と署名(大統領令)している写真が配信されたが、大統領執務室のカーテンは22日現在、まだ変わっていない。バイデン氏が落ち着き、時間が出来れば、カーテンをトランプ・カラーからバイデン・カラーに変える大統領令(?)を発令するかもしれない。そうなれば「新政権のカラー」とメディアで騒がれるだろう。

 本題に戻る。トランプ政権のポンぺオ国務長官は離任直前の19日、中国共産党政権によるウイグル自治区のウイグル族ら少数民族への迫害を「ジェノサイド」(集団虐殺)と認定するなど、任期が終わる直前まで中国共産党政権の脅威をアピールしてきた。その後継者、アントニー・ブリンケン新国務長官(オバマ政権下では国務副長官)は上院承認公聴会でトランプ政権の中国政策に同意すると発言していた。その段階では、トランプ外交からバイデン外交へといった威勢のいい言葉は聞かれなかった。

 バイデン新大統領もブリンケン新国務長官も外交問題の専門家であり、中国共産党政権の実態をよく知っているはずだ。それではバイデン新政権下で国務省ウェブサイトの主要政策項目の変化は何を意味するのだろうか。

 トランプ政権時代の「中国の脅威」が米民主党のバイデン新政権が発足した途端に消滅した、ということはないだろう。それとも、北京の中国共産党政権が何らかの対話のシグナルをワシントンの新政権に向けて発信したのを受けた対応だろうか。

 中国共産党政権がバイデン新政権発足を受け、覇権政策を修正して対話路線に変えたということは聞かない。そのような時、米国務省の主要政策項目から「中国の脅威」を削除することは北京に誤解を与える危険性がある。中国共産党は相手が弱く出れば、必ず強く出てくる。バイデン新政権が中国に対して懐柔政策に出れば、北京は待ってましたといわんばかりにさまざまな工作を展開させてくるはずだ。

 「中国の脅威」だけではない。新政権の対イラン政策も懸念材料だ。バイデン新大統領は就任する前から、トランプ大統領が離脱したイラン核合意に再復帰する意向を表明してきた。バイデン氏は昨年9月の選挙戦でトランプ大統領のイラン核合意からの離脱を「失敗」と断言し、「トランプ大統領がイラン・イスラム革命防衛隊ゴッツ部隊のソレイマニ司令官を暗殺したためにイランが米軍基地を攻撃する原因となった」と述べ、対イラン政策の修正を示唆してきた。

 トランプ前米大統領は2018年5月8日、「イランの核合意は不十分」として離脱したが、イラン当局は米国の関心を引くために同国中部のフォルドゥのウラン濃縮関連活動で濃縮度を20%に上げたばかりだ。バイデン氏はイランの核の脅威を軽視してはならないだろう(「米国の『イラン核合意』復帰は慎重に」2020年11月26日参考)。

 バイデン新大統領はトランプ政権の新型コロナ対策が不十分だったと頻繁に批判してきたが、40万人以上の米国人の命を奪った新型コロナが中国武漢発であり、中国政府が感染発生直後、その事実を隠蔽した事実に対しては批判を控えてきた。マスク着用を嫌ったトランプ前大統領は新型コロナの発生源については感染拡大当初からはっきりと中国側を批判してきた。

 バイデン民主政権下には既に親中派が入り込んでいる。同時に、リベラルなメディアには中国資本が入り、情報工作をしている。それだけにバイデン新大統領が明確な対中政策を確立しなければ、中国共産党の懐柔作戦に嵌ってしまう危険性がある。バイデン新政権下の国務省ウェブサイトの主要政策項目から「中国の脅威」が削除されたというニュースはその懸念を裏付ける(「バイデン・ハリス組の『中国人脈』」2020年9月11日参考)。

中国企業の欧州市場進出 

1)独市場に進出する中国投資会社

 ドイツ貿易・投資振興機関(Germany Trade & Invest)は15日、ベルリンで昨年度外国投資状況を発表した。それによると、158社の中国企業がドイツで投資し、外国投資企業数ではトップだった。それを追って、米国企業が110社、スイス91社、フランスが53社と続く。トータル外国投資会社数は昨年、33カ国から827社で前年度比で13社増えた。
 投資先としては、営業分野が多く、生産・研究開発分野での投資は少ない。特に、自動車・機械メーカーへの投資が多くを占めている。
 参考までに付け加えると、EUと中国間の貿易総額は年々拡大傾向にあり、2010年(1月―11月)のEUの対中輸出総額は1240億ユーロ。逆に、中国からEUへ輸出される総額は2440億ユーロだ。ここ数年は中国側の貿易黒字が続いている。


2)EU域内で初の中国車生産工場

 オーストリア日刊紙プレッセが報じたところによると、中国の自動車メーカー、グレート・ウォール・モーター(長城汽車)社が欧州連合(EU)の加盟国ブルガリアで自動車生産工場を建設(50万平方メートル)し、自動車生産に乗り出すという。
 中国の自動車メーカーは過去、EU市場進出を図ってきたが、「品質が悪い」という芳しくない評判に直面し、これまで実現できなかった。今回はブルガリアの小村、BahowitsaでブルガリアのLitexモーターと連携し、車を生産する。
 現時点では120人の労働者が従事しているが、近い将来、2000人まで増員する一方、今年の2000台の生産台数を2015年には年間7万台に拡大する予定という。
 中国自動車メーカーによると、「EU加盟国のブルガリアで完成品を生産する場合、輸入税が低い上、ブルガリアの生産コストも他のEU諸国の中では安いこともあって、ブルガリアで自動車生産の乗り出すことになった」という。完成した中国車はブルガリア国内市場だけではなく隣国にも輸出する計画だ。ちなみに、中国で生産された部品をブルガリアに運び、そこで自動車を完成するが、将来は自動車部品もブルガリア国内で調達できるようにしたいという。

中国への開発支援は停止すべし

 「君は知らないかもしれないが、国連工業開発機関(UNIDO)の開発支援プロジェクト件数では中国が最も多い。UNIDOの開発援助資金を最も巧みに利用している国は中国とイランだ。UNIDOは両国に悪用されている」
 普段は外交的な知人のUNIDO職員もよほど頭にきているのか、吐き捨てるようにこのように語った。
 中国は国内総生産(GDP)で米国に次いで第2の経済大国だ。国民1人当たりにすれば、日本がまだ上位だが、その経済力は既に立証済みだ。拡大する経済力を支えるために、積極的な資源外交を展開させる一方、その豊かな資金は軍事力強化に再投資されている。
 香港時事発の記事によれば、「中国海軍は10日、改修した旧ソ連製空母『ワリャーグ』の試験航行を開始し、史上初めて空母を運用することになった。既に着手したとみられる国産空母の建造を急ぎ、その運用に訓練艦として使うワリャーグの経験を活用する方針だ」という。
 その中国は依然、開発途上国のような国を装い、国際社会、特に、国連専門機関から巨額の開発資金を手に入れているのだ。特に、UNIDOはアフリカ開発支援を標榜している国連の専門機関だ、その貴重な資金が中国に流れているという事実は看過できない。
 知人は、「UNIDOはここ数年、ウィーンのホーフブルク宮殿で国際エネルギー関連のシンポジウムを開催しているが、カンデ・ユムケラー事務局長は開催前に必ず中国を訪問している。中国はアフリカを資源供給地とみなし、UNIDOを巧みに引き込んでいる疑いがある」という。
 ところで、経済大国・中国の開発支援しているのは国連機関だけでない。最大の支援は財政赤字で悩む米国だ。米上院議員たちが上院外交委員会に提出した書簡によると、「米政府は中国に対して昨年だけで6500万ドルを援助し、2001年以来、インターネットサービスや交通運輸のインフラ建設などを含む各種援助項目の合計金額が2兆7500億ドルに達した。中国はこの他、米国が最大の資金提供者となっている国連や世界銀行などから、数十億ドルの援助も受けている」と指摘し、「中国向けの開発援助を停止すべきだ」と要求しているのだ。中国反体制派メディア「大紀元時報」が10日付で、米紙リッチモンド・タイムズ・ディスパッチの記事を引用しながら報じている。
 もちろん、米国だけではない。日本も政府開発援助(ODA)を通じて中国に開発援助を実施してきている。ただし、前原誠司外相(当時)は3月2日、対中ODA削減の意向を決定している。
 UNIDO担当の日本外交官は「日本はUNIDOを通じてアフリカ諸国の開発支援を今後も継続していく」と主張するが、先述したように、多くの援助金がアフリカ諸国ではなく、中国に利用されているのだ。最大分担国である日本はUNIDOの開発援助計画の検証を実施すべきだろう。
 繰り返すが、中国は経済大国だ。開発援助を受けなくても十分自立できる国だ。中国への開発援助は即停止すべきだ。
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