ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ラマダン

ラマダン明け後の世界はどこに

 30日は祝日だ。国連も休みだ。どのような祝日かというと、イスラム教のラマダン明けの祭り(イード・アル・ファトル)だ。犠牲祭(イード・アル・アドバー)と共にイスラム教の2大祝日に当たる。3日間ほど祝うのが通常だ。
 ラマダンはイスラム教徒が堅持しなければならない神聖な義務の1つだ。日の出から日沈まで飲食、喫煙、性生活はできない。日が沈めば、断食明けの食事(Iftar、イフタール)を友人や親戚関係者と一緒に取る。ラマダン期間の大きな楽しみだ。キリスト信者には分らない彼らの“至福の時”だろう。
 その断食が終わった。イスラム教徒によっては異なるが、ラマダンで体重が減って贅肉が取れた者もいる一方、イフタールを十分楽しんだ結果、ラマダン前より太ったイスラム教徒もいる。
 さて、明日から9月に入る。米国内多発テロ事件(9・11テロ事件)から10年目を迎える日が近付いてくる。北米イスラム・サークル(ICNA)は、「ラマダン明けの祝賀を開催する代わりに、米国民との接触を促進するオープン・デーを計画している」という。ICNA代表によると、9・11後、米国内でもイスラムフォビアが席巻し、イスラム教徒もさまざまな中傷や罵声などを受けてきたという。そこでテロ事件10年目の「9・11」をイスラム教を米国民に啓蒙する国民活動日としたいというのだ。
 一方、トルコのエルドアン首相は国内の非イスラム教の少数宗派代表を招いて夕食(イフタール)を開催し、そこで「宗派の所属に関係なく、全ての宗教は対等だ」と述べたという。トルコ首相がキリスト教とユダヤ教の代表を招いたのは今回が初めてだ。
 同国はキリスト教会やユダヤ教など非イスラム教の財産を返還、賠償する公布を下したばかりだ。招かれたユダヤ教の大ラビ、ハレヴァ師はユダヤ教に所属してきた財産の返還公布を「革命的な決定だ」と歓迎している。
 ラマダンの意義と価値について、スーダン出身の知人は、「日頃の物質的な思いから解放され、神と対面できる期間として非常に重要だ。普段だったら直ぐ怒りが飛び出すケースでもラマダン期間だと不思議と平静に対応できる。これもラマダンの影響ではないか」と述べたことを思い出した。ちなみに、ラマダン後、イスラム教国の中には、政治犯を恩赦する国もある。
 ラマダン明け直後のグットニュースを聞きながら、1カ月余り断食したイスラム教徒たちが今後、世界の平和のために積極的に貢献してほしい、と思った次第だ。特に、今年に入ってチュニジア、エジプト、リビア、シリアなど北アフリカ・中東諸国で民主化運動(アラブの春)が進行している時だ。ラマダン明け後のイスラム教徒の言動に注目したい。

北欧のイスラム教徒と「ラマダン」

 イスラム暦に基づきラマダン(断食月)が1日から始まった。イスラム教徒にとって、ラマダンは、日に5回メッカの方向に向かって祈ること、生涯に1度メッカを巡礼することなどと共に「聖なる義務」に属する。幼少年、妊婦、病人以外のイスラム教徒はこの期間、日の出から日沈まで、飲食、喫煙、性生活を慎まなければならない。
 アラブ・イスラム諸国では通常、全ての国民が断食に入るから特別な感慨もないかもしれないが、欧州のキリスト教社会に住むイスラム教徒たちにとって、「ラマダンは自分がイスラム教徒だという自覚を深める機会」となるという。
 欧州には約1400万人のユーロ・イスラム教徒が住んでいる。彼らも断食し、太陽が沈むと自宅か、近所のイスラム寺院で断食明けの食事をする。知人・友人宅に招かれて食事をすることも多くなる。その意味で、ラマダン期間は親交を深める機会だ。キリスト教社会ではそのような機会は少なくなった。
 ラマダンの意義と価値について、スーダン出身の知人は、「ラマダン期間は日頃の物質的な思いから解放され、神と対面できる期間として非常に重要だ。普段だったら直ぐ怒りが飛び出すケースでもラマダン期間だと不思議と平静に対応できる。これもラマダンの影響ではないか」という。若い時より、年を取るほど、ラマダンの価値が理解できるようになったという。
 当方の周辺には、スーダン出身の知人のように熱心なイスラム教徒たちだけではない。断食をしないイスラム教の記者もいる。断食しないのに、イフタール(断食明けの食事)の席に平気で顔を出す度胸のあるイスラム教徒もいる。
 ところで、北欧社会ではイスラム教徒が少ないこともあって、イスラム教徒の動向にあまり関心が払われなかったが、オスロの大量殺人事件の容疑者が「反イスラム主義」を標榜していたと伝わると、北欧のイスラム教徒に関心が注がれ出した(イスラム教徒数はスウェーデンで約10万人、ノルウェーは10万以下だ。人口の2%にも満たない)。
 北欧のイスラム教徒にとって問題は、断食明け後の持ち時間が少ないという事だ。太陽が沈んでから、翌日太陽が昇るまでの時間だ。この間、食事ができる。サウジアラビアなど中東諸国では断食明けから次の断食開始まで10時間以上あるが、北欧では5時間あまりしかない、といった具合だ。
 世界のイスラム教指導者たちの間でも、「北欧のイスラム教徒がラマダンでは最も肉体的に厳しい」というテーマについて話し合われているという。
 「ラマダンの断食明けを統一すればいい」といった改革案から、「北欧のイスラム教徒は最も地理的に近いイスラム教国のラマダン明けに従えばいい」といった妥協案まで出ている。
 いずれにしても、今年のラマダンは今月29日(一部で30日まで)に終わる。その後、断食明けを祝う(イード・アル・フィトル)祭日が待っている。
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