一時帰国していた友人が面白い本を買って帰ってきた。マイケル・サンデル著「ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業上」(早川書房)だ。難しいそうなタイトルだが、教授と学生たちの討議を中心に現代の政治哲学の課題を記述している。友人が読み終えたので貸して貰い早速読んだが、とても考えさせられる内容だった。

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▲マイケル・サンデル著「ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業上」(早川書房)

 サンデル教授は「正義とは何か」を主要テーマに、ジェレミー・ベンサムの功利主義を紹介し、ベンサムの「最大多数の最大幸福」を討議の遡上に載せる。そしてベンサムの功利主義を修正・追加したジョン・スチュアートの「個人の権利と少数派の権利擁護」にも言及していく、といった具合だ。功利主義は米国社会に流れる思潮だ。

 そしてリバタリアニズム(市場原理主義者、自由原理主義)が登場する。小さな政府、政府の干渉を最小限度に抑えることを主張し、富の分配に反対し「所有財産を政府が侵害することは許されない」という立場だ。米共和党の基本的政治信条にも繋がる考えだろう。「人間のもつ権利は不可譲」という点は理解できるが、人間は関係存在だという観点からみると、リバタリアニズムは余りにも個人レベルの権利に固守し、社会、国家という公共世界への責任が乏しいように感じる。

 当方が最も考えさせられたことはジョン・ロックの「同意」という考えだ。社会契約論だが、われわれは個人としての権利を特定の政府、機関に委ねることで「同意」している、という考えだ。

 ここまで読んでくると、「反ウォール街デモ」を思い出した。彼らは現政府との間で締結した「同意」に強く反対しているのだ。ウォール街反格差デモだけではない。世界の金融危機、財政危機の今日、「われわれの権限を制限する如何なる同意も政府とは結んでいない」と叫び出しているように感じる。同時に、リバタリアニズムへの挑戦だ。

 欧州政界では新党「海賊党」が結成され、政界に新風をもたらしているが、「海賊」とは、もともと相手の私有財産を奪い取る行為を意味する。財政危機が吹き上げ、私有財産の問題、富の分配が問われている時、海賊党が結成され、支持を得ているということは非常に象徴的な現象ではないか。その意味でもサンデル教授のテーマは非常にタイムリーだ。

 フランスでオランド新大統領が選出されたが、彼は富者への課税強化を打ち出している。明らかにリバタリアニズムへの挑戦だろう。「個人の権利」と関係存在としての人間の「公共への責任」の調和は、わたしたちの前に突きつけられた大きな課題だろう。

 ところで、サンデル教授、人はどれだけの私有財産なら保持できるのですか。例えば、イエスは伝道に出かける弟子たちに下着を1枚以上持って行くなと諭し、「金持ちが天国に入るのは、駱駝が針の穴を通るより難しい」と述べている。

(以上、当方の読書感想だ。残念なことだが、友人は「上」しか買わなかった。「上」を読み、面白くなかったら、「下」を買う必要がないからだ。友人はその意味で功利主義者だが、大きな間違いを犯した。友人は上下2冊を買って帰ってくるべきだったのだ)