アルプスの小国オーストリアを訪問する旅行者は同国の伝統的な食事を食べようとするだろう。同国の代表的な料理はやはりヴィーナー・シュニッツェルだろう。日本のトンカツに似ているが、それよりも肉は薄く、食べやすい。それに野菜サラダがついてくる。飲み物代も含めて10ユーロもあればおつりが戻ってくる。子供も大人も大好き料理だ。イスラム系移住者が増えたこともあって、最近は豚肉ではなく、鶏肉をシュニッツェルに利用するところが増えた。

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▲ウィーンっ子が愛するケーゼ・クライナー(2012年4月14日、撮影)

 ところで、ウィーンっ子が仕事帰りに空腹を覚えたなら口に入れるものはソーセージだ。もちろん、ソーセージといっても、多種多様だ。しかし、ソーセージの王様といえば、ケーゼ・クライナーだろう。カラシと酢漬キューリを付けて焼き立てのクライナーを食べる姿はどこでも見られ、ウィーン市の風景に溶け込んでいる。リュックサック旅行者にとっても値段が安い上、ソーセージスタンドで手軽に食べられるから便利だ。
 ところが、ウィーンっ子が大好きなケーゼクライナー(Kasekrainer)を隣国スロベニアが先月、「製造発祥地はわが国だ」として、その商品名の専売特許を欧州連合(EU)の特許庁に申請したことが伝わると、オーストリアのファーストフード界やガストロノミー (Gastronomie) は大ショック。スロベニアの申請が承諾されれば、ケーゼクライナーと今後呼べなくなるからだ。ちなみに、クライナーはスロベニアのクライン(Krain)から由来するという。
 オーストリア日刊紙クリアは「ケーゼクライナーがなくなれば、売り上げにも大きな影響を及ぼす」というスタンド店主の声を紹介している。ウィーンの経済商工会議所では「スロベニアの申請を葬るべきだ」としてEU特許局に圧力を行使すべきだという声も聞かれる(EUは13日、スロベニアから先月申請があったことを認めた。ブリュッセルは通常、加盟国のこの種の申請に対しては半年以内にその是非を決定する)。
 「たかがソーセージではないか」といった声も一部にはあるが、ケーゼ・クライナーを愛するウィーンっ子は冷静ではいられない。スロベニアとオーストリア間でソーセージ戦争の様相を深めてきている。
 ところで、食文化や名産物では時たま、本家・老舗争いが生じるものだ。ウィーンでも有名なザッハトルテ(一種のチェコレートケーキ)の本家争いがあった。ザッハ・ホテル側と王宮専属洋菓子メーカー、デメル社がトルテの“知的所有権”で法的争いを展開した(「175年を迎えたザッハトルテ」2007年4月13日)。しかし、ケーキはあくまでデザートに過ぎないが、ケーゼ・クライナーは主食の一つだ。その国の食文化にも少なからず影響が出てくる。
 ケーゼ・クライナーを愛する一人として、ソーセージ戦争の平和的解決を願う。