ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ニュージーランド

NZのタバコ追放政策は成功するか

 ニュージランド(NZ)と聞けば、当方は同国のクライストチャーチで2019年3月15日、極右過激派テロリストが2カ所のイスラム寺院(モスク)を襲撃し、51人が死亡、49人の重軽傷者を出した銃乱射テロ事件を思い出す。そしてコロナ対策ではNZは中国の「ゼロ・コロナ」に先駆けて厳格な「コロナ根絶」を掲げ、ロックダウン(家庭隔離政策)を実施した。コロナ対策の初期、NZはコロナ対策で模範と評価された。2017年10月から労働党政権を率いるジャシンダ・アーダーン首相(42)は有言実行タイプで、その行動力はよく知られている。その同首相の次のターゲットはタバコ喫煙の追放というのだ(「NZ銃乱射容疑者が欧州極右に寄付」2019年3月28日参考)。

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▲訪日したアーダーン首相と会見する岸田文雄首相(首相官邸公式サイト、2022年4月21日)

 独週刊誌シュピーゲル(2022年8月13日号)はNZのタバコ喫煙根絶政策に関する記事(Kalter Entzug)を掲載している。それによると、2025年までに同国の若い世代はタバコ喫煙が禁止され、タバコのニコチン含有率はゼロ近くまで抑えるなどラジカルな内容だ。「ゼロ喫煙」(Smokefree 2025)を掲げるNZの野心的な政策を紹介する。

 NZではタバコ税が高い。例えばマールボロ1箱は20ユーロ(約2760円)と高い。成人のタバコ喫煙者は10人に1人だ。アーダーン首相はNZを2025年までに「喫煙ゼロ」を目指し、今後の3年間で少なくとも喫煙者の国民を半減させる、という計画だ。それに関連した法案は今年7月、議会の第一読会を通過し、現在は厚生委員会で審議中で、今年12月には法案は採択される予定という。

 法案が採択されるチャンスは高い。なぜならば、アーダーン政権は議会で絶対多数を占めているからだ。シュピーゲル誌によると、NZの厳格なタバコ政策の行方に興味を示す国が既に出てきている。例えば、シンガポールやマレーシアだ。タバコ喫煙が原因で世界で毎年、800万人が亡くなっている。特に、開発途上国の貧困国で死亡者が増えている。NZの「喫煙ゼロ」が成功すれば、世界にとって大きな福音だ。

 アーダーン首相のタバコ根絶計画によると、

。横娃横廓からは、2009年以降生まれた国民はタバコを合法的に購入できなくなる。その結果、15歳から24歳の年齢の国民は「ノータバコの第一世代」となる。

■横娃横看からはタバコの販売所を制限し、キオスク、ガソリンスタンド、スーパーではタバコの販売を禁止する。NZでは路上の自動販売機ではタバコを購入できない、タバコ販売は合法的に認可された専門店に限られる。同国では現在、約8000カ所の販売所があるが、その数を約500カ所に制限する。

2025年には、タバコ産業界にとって最も痛い政策が施行される。タバコのニコチン含有量を95%減らすのだ。ニコチン含有量をタバコ1グラムにつき0・7ミリグラムに激減させる。これまでは15ミリグラムだった。その結果、タバコ喫煙の依存性(中毒性)はほぼなくなる。タバコ産業界が最も恐れている政策だ。

 この政府の3カ年「ゼロタバコ」計画が実行されたならば、NZ国民の喫煙率は現在の10%から5%以下に抑えられるという。ちなみに、欧州では4人に1人が喫煙している。欧州連合(EU)は2040年までにタバコ・フリーを実現する目標を掲げているが、残念ながら掛け声だけで、具体的な政策はこれまで行われていない。

 タバコ業界のロビイストは、「自由を愛する人間は自由に主体的に選択できる」と主張、政府による禁煙措置に反対するが、タバコを早い段階で喫煙させ、中毒にならすことが販売売上のカギ、ということをタバコ業界は誰よりも知っているはずだ。

 ところで、興味深いニュースが日本から入ってきた。日本の国税庁が主催し、日本の酒類業界が後押しする「サケビバ」というビジネスコンテストのニュースだ。酒類業界は、「少子高齢化等の人口動態の変化、新型コロナウイルス感染症の影響によるライフスタイルの変化等により、国内の酒類市場は縮小傾向にある。本事業では、若年層自身にビジネスプランを提案してもらうことで、若年層へ日本産酒類の発展・振興に向けた訴求をするとともに、優秀なプランの公表により、業界の活性化を図ることを目的としている」という。

 要するに、若い世代にこれまで以上にアルコール類の消費を勧め、酒類業界を活気づけるとともに、酒税を多く払ってほしいというわけだ。このニュースはBBCや欧州のメディアで大きく報道された。若い世代のアルコール中毒問題を抱える欧州では若い世代にアルコール類をもっと飲むように、といった発想は出てこないから、日本のニュースに多くは驚いている。

 喫煙、アルコール類の消費、そして麻薬の摂取は人を中毒にさせる危険性がある。それだけに、その合法的な管理が大きな社会問題となる。アーダーン首相の野心的なプロジェクトの動向を注視したい。

極右過激派に漂う焦燥と「終末感」

 旧東独ザクセン=アンハルト州のハレ(Halle)で9日正午ごろ、27歳のドイツ人、シュテファン・Bが機関銃や爆弾で武装し、ユダヤ教のシナゴーク(会堂)を襲撃したが、シナゴークの戸を壊すことが出来ず、会堂内に侵入できなかったために、シナゴーク内の銃乱射事件は未然に防げた。ただし、犯行計画を遂行できなかったBは怒りから路上を歩いていた女性とインビス店で食事中の男性を殺害した。

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▲ハレのシナゴークを訪ねたゼーホーファー独内相(2019年10月10日、独連邦内務省公式サイトから)

 ハレのシナゴーク襲撃事件は、今年3月15日、ニュージランド(NZ)のクライストチャーチで発生したイスラム教寺院襲撃事件を想起させる。NZの事件では犯人ブレントン・タラントは半自動小銃などで金曜礼拝中のイスラム教徒に向かって乱射し、50人のイスラム教徒を殺害し、多数に重軽傷を負わせた。

 NZ事件とハレの事件には酷似している点が多い。。裡攣件ではイスラム教徒にとって1週間で最も大切な「金曜礼拝」中だった。ハレのシナゴークではユダヤ人の最も重要な祝日「贖罪の日」が行われ、70人以上のユダヤ人が集まっていた(両者とも宗教的行事が行われていた時)、∩絢圓糧反佑錬横減个杷鮨夕腟措圈ハレの容疑者は27歳で反ユダヤ主義者、N昭圓箸蘯身の犯行をビデオで録音し、マニフェストを表明、す臻‥に武器を入手している。

 もう一点、看過できない共通点がある。両者とも「今、何かしなければ大変だ」といった焦燥感と強迫感にとらわれていたことだ。ハレの事件を中継していたドイツ民間放送で1人の犯罪専門家が「彼らは一種の終末感に動かされている」と指摘していた。

 ハレのB容疑者は「最も悪いのはユダヤ人だ」と口走り、ユダヤ人の抹殺を画策。NZの犯人は「このままではイスラム教徒に世界を牛耳られる」といった強迫感があった。NZのタラントはフランスの作家ルノー・カミュの著書「大置換」の影響を受け、オスマン・トルコの北上に抵抗したキリスト教圏の英雄たちに強い関心をもち、2、3の騎士たちの名前をクライストチャーチの銃乱射事件で使用した半自動小銃に書き込んでいたほどだ(「NZ銃乱射容疑者が欧州極右に寄付」2019年3月28日参考)。

 米国テキサスで起きた銃乱射事件の犯人も同様だった。米南部テキサス州エルパソのショッピングモールで今年8月4日未明、21歳の白人、パトリック・クルシウス容疑者が半自動小銃を乱射し、20人が死亡、26人が負傷した。クルシウス容疑者は、犯行直前にヒスパニック系移民への憎悪を記した声明をインターネットに出し、「1人でも多くのヒスパニックを殺したい」と叫んでいた。

 彼らは「このままでは我々は追放されてしまう」という思いが深まり、自宅にあった武器を取り出し、自国に侵入してきた異邦人の殺害に乗り出したというわけだ。他の仲間やグループと緩やかなつながりはあったが、3者とも犯行は基本的には単独犯だった(「文在寅、米独の憎悪犯罪から学べ」2019年8月6日参考)。

 NZとテキサス、ハレの銃乱射事件の前には、アンネシュ・ブレイビクが2011年7月22日、ノルウェーの首都オスロの政府庁舎前の爆弾テロと郊外のウトヤ島の銃乱射事件で計77人を殺害した。当時32歳の容疑者の大量殺人事件はノルウェーばかりか、欧州の政界に大きな波紋を投じた。ブレイビクは犯行前、1516頁に及ぶ「欧州の独立宣言」マニフェストを公表し、欧州のキリスト教社会をイスラム教の北上から守る十字軍の騎士を気取っていた(「オスロの容疑者の『思考世界』」2011年7月26日参考)。http://blog.livedoor.jp/wien2006/archives/51878219.html
 ブレイビク、タラント、クルシウス、そしてシュテファン・Bはいずれも焦燥感に悩まされ、「今何かしなければならない」という強迫感から犯行に及んだが、「焦燥感」と「犯行」を結び付けたのが彼らが感じていた「終末感」だったのではないか。

 それでは、彼らを動かした「終末」とは本来何を意味するのか。「終末」といえば、新約聖書「ヨハネの黙示論」を読むと、人類を審判する日の到来、天地異変が起き、人類が滅ぶといったイメージ(アポカリプス)が直ぐに浮かんでくるが、「終末」は、悪が支配する世界が終わり、神が統治する時の到来を意味する。善と悪の交差する時だ。その意味で、「終末」は人類の終わりではなく、再出発の時を迎える、という“善き知らせ”を意味する。

 旧約聖書「創世記」で神はノアの時代、悪魔に支配された人類を大洪水で滅ぼして、ノアの家庭を中心に再創造する話が記述されている。その後、神は「私は2度と人類を滅ぼさない」と約束され、その印として虹を見せている。

 オスロ、NZ、米テキサス、そしてハレの犯行には外的には「拡大する異教徒の侵入からキリスト教徒を守る」といった宗教的な思いが込められ、本人たちもそれに言及しているが、彼らの「終末」には神も悪も大きな役割を演じず、現状を打開できない閉塞感を外的な暴力で破壊行為を繰り返すだけに終わった。彼らは自身の内から突き上げてくる閉塞感に抗することができなかっただけだ。

 彼らは結局、“似非終末”に操られただけではなかったか。ハレのシナゴークを襲撃したシュテファン・Bは会堂の戸を破壊できずに、当初の計画を遂行できないと分かると、「自分は敗北者だ」(Ich bin ein Loser)と叫んだという。

NZ銃乱射容疑者が欧州極右に寄付

 ニュージランド(NZ)中部のクライストチャーチにある2つのイスラム寺院(モスク)で15日、銃乱射事件が発生し、50人が死亡、子供を含む多数が重軽傷を負ったが、犯人の白人主義者でイスラム系移民を憎む極右思想を信奉する28歳のブレントン・タラント容疑者(Brenton Tarrant)が昨年12月、オーストリアを訪問しており、同国内の極右グループに1500ユーロを支援していた事実が明らかになり、オーストリア当局は国内の極右グループとNZ銃乱射事件の容疑者との関係などの捜査に乗り出している。オーストリア代表紙プレッセが27日付け1面トップで「テロリストのウィーン献金」(Die Wien Spende des Terroristen)という見出しで報じた。

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▲欧州のイスラム化ストップを要求する「イデンティテーレ運動」( Styria Digital One GmbH提供)

 プレッセ紙によると、タラント容疑者は一匹狼ではなく、同じ信条を持つ民族主義的なグループ、組織とコンタクトし、関係を深めていたという。そのネットはウィーンにも連結されていたという。タラント容疑者は昨年上半期、1500ユーロをオーストリアの極右グループ「イデンティテーレ運動」(Identitaeren Bewegung、本部グラーツ市)の指導者マーチン・セルナー(Martin Sellner)氏宛に送金している。セルナー氏(30)はタラント容疑者から寄付を受けたことを認めたが、タラント容疑者と会ったことはないという。

 セルナー氏は、「クライスチャーチの蛮行は許されない」と述べ、タラント容疑者の銃乱射事件を批判したが、治安関係者はセルナー氏とNZ銃乱射事件の容疑者の関係を捜査するため、25日夜、セルナー氏のウィーンの住居などを家宅捜査したばかりだ。

 タラント容疑者がマニフェストで「The Great Replacement」と呼び、移民の殺到で固有の国民、民族が追放される危険を警告しているが、同運動も同じように移民の殺到に警告を発し、それに対抗するように呼び掛けるビデオが見つかっている。

 クルツ首相はタラント容疑者が国内の極右グループに献金していたという情報を深刻に受け止め、「徹底的に調査して全容を解明する」と述べている。一方、同国の野党はキックル内相(自由党出身)に「国内の極右グループの全容を報告すべきだ」と要求している。

 同国日刊紙エステライヒ紙は27日の社説で「クルツ連合政権はイスラム系過激テロ問題で示したように、極右組織に対しても毅然とした態度で臨むべきだ」と主張している。同紙によると、クルツ連立政権の政権パートナー、極右政党「自由党」のシュトラーヒェ党首(副首相)やキックル内相は「イデンティテーレ運動」主催の会合などに顔を出したことがあるという。

 欧州の治安関係者は、「タラント容疑者はその74頁の長文のマニフェストの中で欧州の極右グループの結束を呼び掛けているから、オーストリア以外の他の極右グループにも資金を送っていた可能性が排除できない」とみて、タラント容疑者から資金援助を受けていたグループを探している。

 タラント容疑者はクライスチャーチの2つのモスクを襲撃する前に欧州などを旅している。フランスでは特に十字軍の騎士団の歴史に強い関心を示している。2016年にスペイン、ポルトガル、トルコ、ルーマニア、ブルガリア、ポーランド、チェコ、スロバキア、バルト三国(エストニア、リトアニア、ラトビア)、そして昨年12月、オーストリアを訪ねている。ウィーンでは、軍歴史博物館や国立図書館を訪ねている。ウィーンの他にはザルツブルク、インスブルック、クラーゲンフルトなどを見て回っている。

 同容疑者は旅先では、オスマン・トルコの北上に抵抗したキリスト教圏の英雄たちに強い関心をもち、2、3の騎士たちの名前をクライスチャーチの銃乱射事件で使用した半自動小銃に書き込んでいるほどだ。ちなみに、タラント容疑者の活動資金はフィットネスセンターのトレーナー時代の資金、ビットコイン取引の収益、そして2010年にがんで亡くなった父親の遺産などだ。

 クライスチャーチの銃乱射事件から間もなく2週間が経過する。NZのアーダーン首相は、「自分はクライスチャーチの容疑者の名前を言いたくないし、思い出したくもない」とタラント容疑者の犯罪に強い嫌悪感を吐露している。同首相の気持ちは理解できるが、タラント容疑者がなぜ銃乱射事件を犯したのか、その白人主義、極右主義がどこからくるのか等を解明していくことは、我々が生きている時代をより知るためにも必要だろう。同時代に生きている人間の責任ともいえる。
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