ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

イラン

イランが自国の外交を自負する時

 パレスチナ自治区のガザ地区を2007年以来実効支配しているイスラム過激派テロ組織「ハマス」が10月7日、イスラエルとの境界網を破壊し、イスラエルに侵入、1300人余りのイスラエル人を殺害し、人質200人以上を拉致したテロ奇襲事件以来、報復に乗り出したイスラエル軍とハマスの間で戦闘が続いている。イスラエルのネタニヤフ首相は13日、「ハマスはもはやガザ地区の支配を失った」と表明し、人質解放に向け新たな交渉が進められていることを示唆したばかりだ。

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▲イラン外交の成功を自負するイラン外務省のカナ二報道官の記者会見(2023年11月13日、イランIRNA通信サイトから)

 ハマスのテロ襲撃直後、ブリンケン米国務長官はイスラエルを複数回、訪問し、エジプト、レバノン、ヨルダンなど周辺国家を訪問し、ガザ紛争が拡散しないように説得外交を展開させ、イスラエル側には自衛権を擁護する一方、パレスチナ人への犠牲が増えないように要請してきた。それに対し、イラン側は、シオニスト政権(イスラエル)への対抗という大義を掲げ、アラブ・イスラム国首脳と会談を重ね、ハマスへの連帯、パレスチナ人への支援を求めてきた。中東を舞台とした米国とイランの外交戦が展開中だ。

 イランが中東の紛争に積極的に関与するのは、ガザ地区のハマスを軍事的、経済的に支援、レバノンのテロ組織「ヒズボラ」にも軍事支援を実施するなど、宿敵イスラエル打倒に向け久しく直接的、間接的に関わってきたからだ。無敵のイスラエルがハマスの奇襲テロを受けて、困惑し動揺している時だけに、「イスラエルを倒すチャンス」としてアラブ・イスラム諸国にシオニスト政権打倒を呼び掛ける外交を積極的に推し進めているわけだ。

 イラン国営IRNA通信は13日、「アラブ諸国とイスラム諸国を動員し、シオニスト政権の犯罪に対する国際社会の関心を集めるイランの外交努力は成功している」という長文の記事を掲載している。ナセル・カナニ外務省報道官(Nasser Kanaani)は13日の記者会見で、「イスラエル・ガザ戦争の開始以来、イランは戦争を止め、封鎖を解除し、沿岸地域に人道支援の回廊を直ちに開くことなどを重点に外交努力を重ねてきた」と説明している。

 サウジアラビアの首都リヤドで11日、アラブ連盟(21カ国1機構)とイスラム協力機構(OIC、56カ国、1機構)合同の臨時首脳会談が開催されたばかりだ。同会議は、パレスチナ人への連帯と支援、パレスチナ民族の大義とエルサレム問題への立場を再度確認する一方、イスラエル軍のガザ攻撃の即時停戦、パレスチナ住民への人道的援助を支持している。

 ちなみに、同会議はサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が議長を務め、アラブ連盟のアブルゲイト事務総長、OICのターハ事務総長、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のラザリーニ事務局長、トルコのエルドアン大統領、イランのライシ大統領、エジプトのエルシーシ大統領らの要人が参加した。イラン外務省によると、サウジのリヤドで開催されたOICではエジプトとイラン両国の大統領会談が実現した。両国首脳会談ではラファ検問所の開通問題が重要な議題の一つであったという。

 同報道官は「OIC首脳会議の開催は成功だった。この会議はイランの外交努力とサウジの建設的な協力の結果として実現された」と強調。そして「パレスチナ国民は、イスラム諸国政府が会議の開催や確固たる声明の発表に加え、現実的な措置を講じることを期待している。シオニスト政権との政治的・経済的関係の断絶と同政権の外交官の追放は急務だ」と付け加えている。

 イラン外務省のカナニ報道官は記者会見で、イランがハマスを経済的、軍事的に支援していることに対し、「わが国の支援は秘密ではなく、それを隠してはいない。この地域の抵抗勢力(ハマス)はイランからの命令を受けておらず、我々もいかなる命令も出していない」と述べる一方、「米国こそシオニスト政権を支援する、容認できない行動を正すべきだ」と主張している。

 同報道官はまた、イランは当初から戦争の拡大に懸念を表明しており、シオニスト政権への米国の支持継続と停戦確立への反対は新たな戦線の開放につながると警告してきたとして、「米国が、直ちに殺害を停止し、全面封鎖を解除し、地域から軍を撤退させることによってのみ、戦争が他の地域に拡大する可能性を防ぐことができる。中東の紛争拡大防止は完全にシオニスト政権とそのスポンサーである米国政府の行動次第だ」と説明している。

 IRNA通信が報じた外務省報道官の発言を読む限りでは、イランはパレスチナ人問題での同国の関与に自信を深めているようだが、イラン国内の状況を振り返ると、停滞する国民経済、失業者の増加、女性のスカーフ着用問題で浮上してきた人権弾圧政策への国際社会の批判など、聖職者支配体制を取り巻く状況は不安定だ(「イランが直面する『3つの問題』」2023年1月31日参考)。

 イランの外交は徹底した反米、反イスラエル路線であり、ここにきてロシアと中国の2大独裁国家との関係を深めてきている。イランの核開発計画は単に中東地域だけではなく、世界の脅威と受け取られている(「イラン『濃縮ウラン83・7%』の波紋」2023年3月2日参考)

イランとサウジの「核レース」と中国

 世界の関心が中国武漢発の「新型コロナウイルス」の感染防止に注がれている時、中東で“きな臭い動き”が出てきた。不法な核開発の動きだ。イランの核問題だけではない。ひょっとしたら、テヘランの核開発に触発されたのかもしれないが、イランの宿敵、中東の盟主サウジアラビアが核開発に乗り出す動きを見せてきたのだ。

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▲Google Earthからサウジの核関連施設の全景(「テヘラン・タイムズ」電子版から)

 ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)担当のイランのKazem Gharibabadi 大使は8日、IAEAに対し、「サウジの隠された核関連活動に光を当てるべきだ」と警告した。テヘランとリヤド間の地域主導権争いという側面もあるが、サウジが核開発に強い関心を寄せてきたことは周知の事実だ。

 特に、イランが2015年7月、米英仏中露の国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国との間に包括的共同行動計画(JCPOA)で合意したが、トランプ米政権が18年5月、合意から離脱したことを受け、包括的核合意を破棄し、濃縮関連活動を再開してきたため、サウジがイランの核に対抗するため本格的な核開発に乗り出してきたと受け取られている。

 Gharibabadi 大使は、「サウジは核拡散防止条約(NPT)の加盟国だ。同時に、IAEAとは包括的核査察協定を締結している。にもかかわらず、IAEAの査察要求を拒否している。国際社会はサウジが原子力エネルギーの平和利用から逸脱することを絶対に容認してはならない」と指摘し、IAEAにサウジの核関連施設への査察を実行し、同国の核開発動向に関する完全な報告書を提出すべきだと要求した。

 具体的には、サウジの首都リヤド近郊の未申告施設で核兵器製造のためのウラン濃縮関連活動が見られるというのだ。米紙ニューヨーク・タイムズは5日、「米情報機関はサウジが潜在的に核兵器製造に繋がる核燃料生産能力の構築を試みているという内容の報告書をまとめた」と報じた。

 報告書によると、米政府関係者や核エキスパートはリヤド近郊のソーラーパネル生産地帯近くに新たに完成された建物は未申告の核関連施設の一つではないかと疑っている。そのサイトはリヤド北西30キロのアル・ウヤイナの街から少し離れた砂漠地帯に位置する。そこで中国と連携してウランからウランイエローケーキを抽出するプログラムが進められている疑いがあるというのだ。

 また、ブルームバークのニュースによると、今年3月と5月の人工衛星の写真分析から、サウジが原子炉をカバーする屋根を建設したことが明らかになった。サウジは原子炉の監視と設計の査察のためIAEA関係者を招くべきだったが、していない。

 以上、イランの「テヘラン・タイムズ紙」の8月9日電子版の記事の内容をまとめた。

 欧米諸国から核疑惑をかけられてきたイランにとって、サウジの核関連動向は無視できない。イスラム教スンニ派の盟主サウジとシーア派代表のイランの間で「どちらが本当のイスラム教か」といった争いが1300年間、中東・アラブ諸国で展開されてきたが、ここにきて両国は「核レース」を展開させてきたわけだ。

 なお、IAEA定例理事会は6月19日、イランの核問題で「テヘランは未申告の核開発の疑いがある2カ所の核関連施設への査察を拒否している」として、イランに全面的、適時にIAEAの査察を受け入れるように求めた決議を賛成多数(賛成25票、反対2票、棄権7票)で採択したばかりだ。IAEA理事会がイランを批判する決議を採択したのは2012年8年以来のことだ。

 参考までに、イランとサウジ両国の核開発に中国が深く関与してきている点を少し説明する。中国はイランとの間で25年間の「戦略パートナー協定」を締結し、経済活動に必要なエネルギーを確保する一方、安保でも両国の協力関係を強めてきた。同時に、中国はイランのライバル、サウジにも接近し、サウジの野望、核開発を支援する一方、サウジから原油を輸入している。サウジは今日、中国の最大原油供給国だ。今年5月には、サウジは日量216万バレルの原油を中国に輸出している。

 それだけではない。中国はイランの宿敵、イスラエルにも接近している。中国は世界の第2のシリコンバレーといわれるイスラエルに接近し、イスラエル企業が保有している先端技術の企業機密を盗み取っている。具体的には、医療用レーザー技術で知られるアルマレーザー社、医療技術ルメニス社、画像認識開発コルティカ社を含め、多くの技術企業の株式を取得している(「『赤の商人』中国がイスラエルに接近」2018年11月26日参考)。

 米国は2003年のイラク戦争後、中東から次第に軍を撤退させてきた一方、中国はその空白を利用してイランを水先案内人にしながら、サウジ、イスラエルまでその影響を広めてきた。トランプ米政権はイラン核合意から離脱する一方、イランに経済制裁の圧力を強めてきたが、テヘランの核への野望を止めるまでにはなっていない。そればかりか、イランを中国へ傾斜させる結果となっている。トランプ米政権が親米派サウジの核開発問題に対しどのようなスタンスで対応するか、大いに注目される。 

イランで不審な爆発火災事故続く

 イランの首都テヘラン西部で10日未明、現地のメディア報道によると数カ所で爆発事故が起きた。ソーシャルメディアによれば、テヘラン西部地域で複数回の爆発音が聞かれ、1件の爆発は「非常に大きく、一部停電が発生した」という。イラン当局は同爆発事故についてこれまで何も発表していない。

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▲ナタンツ火災などについて語るイラン外務省のアッバス・ムサビ 報道官(2020年7月9日、IRNA通信サイトから)

 イランでは先週もテヘラン東部の軍事関連施設パルチンでガス貯蔵タンクが爆発、北部の医療クリニックでも同様のガス漏れが起きた。そして中部ナタンツの原子力関連施設では2日、火災が発生した。同施設はウラン濃縮用の遠心分離機を製造する核開発の重要拠点だ。火災直後、「イスラエル側のサイバー攻撃だ」というニュースが流れた。

 イラン当局はナタンツの火災事故について、火災事故調査専門家の他、治安関係者も加わって原因を調査中という。同国外務省のアッバス・ムサビ報道官は9日夜、「事故調査が進行中なので、現時点では何も言えない」と強調する一方、「事故が外部勢力の関与、サボタージュで発生したことが判明すれば、わが国もそれ相応の対応をする」と述べたが、イスラエルの関与説については言及を避けた。

 ナタンツで火災が発生した直後、イラン当局は「火災は小規模で被害は小さい」と述べていたが、ここにきて「火災は大きな被害をもたらした」と最初の報告を修正している。

 イランの核関連施設の火災が報じられると、イスラエルの関与が囁かれるのにはそれなりの理由がある。イランで過去、複数の核物理学者が殺された。このコラム欄でも「『イラン核物理学者連続殺人』の謎」2011年9月15日、「誰がイラン核学者を暗殺したか?」2011年9月22日で報告したが、イラン側の説明によると、2010年1月12日には、テヘラン大学の核物理学者マスード・アリモハンマディ教授がオートバイに仕掛けられた高性能爆弾で殺害された。2011年7月23日には、テヘランの自宅前で同国の物理学者ダリウシュ・レザイネジャド氏が何者かに暗殺されている。同国核物理学者のシャラム・アミリ教授はサウジアラビアへ巡礼に行って以来、行方不明となった、といった具合だ。そして、それらの殺人事件の背景として、イランの核開発を警戒するイスラエル情報機関モサドの関与説が当時、濃厚だった。

 イランの核問題は新型コロナウイルスの感染問題もあって、メディアの扱いはここにきて小さくなってきているが、状況は危機的な域に入っている。ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は先月19日、定例理事会を開き、イランの核問題で「テヘランは未申告の核開発の疑いがある2カ所の核関連施設への査察を拒否している」として、イランに全面的、タイムリーにIAEAの査察を受け入れるように求めた決議を賛成多数(賛成25票、反対2票、棄権7票)で採択したばかりだ。IAEA理事会がイランを批判する決議を採択したのは2012年8年以来のことだ。

 核協議はイランと米英仏中露の国連安保理常任理事国にドイツが参加してウィーンで協議が続けられ、2015年7月、イランと6カ国は包括的共同行動計画(JCPOA)で合意が実現した。イラン核合意は13年間の外交交渉の成果として評価されたが、トランプ大統領が2018年5月、「イラン核合意は不十分であり、イランの核開発を阻止できない上、テヘランは国際テロを支援している」として、核合意から離脱を宣言、同時に対イラン制裁を再開したことから、イラン側の対応が強硬になってきた。

 イランは、「欧州連合(EU)を含む欧州3国がイランの利益を守るならば、核合意を維持するが、それが難しい場合、わが国は核開発計画を再開する」と主張し、「核合意の履行義務を段階的に放棄し、ウラン濃縮を進める」と表明。先月5日に発表したIAEAの「最新イラン報告書」によれば、イランの低濃縮ウランの貯蔵量は5月には1571・6キロに達し、濃縮度も合意の上限3・67%を超えて4・5%だ。

 一方、イランの国民経済は一段と厳しくなってきた。米政府の制裁再発動を受け、通貨リアルは米ドルに対し、その価値を大きく失う一方、国内ではロウハニ政権への批判だけではなく、精神的指導者ハメネイ師への批判まで飛び出すなど、ホメイニ師主導のイラン革命(1979年)以来、同国は最大の危機に陥っている。そこに中国発の新型コロナウイルスの感染が広がり、国民は医療品を手に入れることも難しくなっている。

 そのような状況下で不審な爆発事件、原子力関連施設の火災が発生したわけだ。単なる事故か、何らかの政治的思惑がその背後にあるのか。考えられるシナリオをまとめる。

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 ▲ぅ薀鷙馥發糧紳寮派のサボタージュ
 G発や火災の背後に外部勢力の関与があるとして、国民の関心を外に向けさせ、国内問題をそらす国内強硬派の仕業

 当方は現時点では、,鉢△有力と考えている。
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