ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

新型コロナウイルス

コロナ感染者もマスク着用で仕事?

 ドイツのロベルト・ハーベック副首相経済相は先日、隣国オーストリアを訪問し、ロシア産天然ガスの供給不足に伴うエネルギー危機対策でホスト国のレオノーレ・ゲウェッスラー環境相と会談、ドイツ・オーストリア両国間でエネルギー不足の際には連帯して援助することで合意した。

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▲ドナウ運河の風景(オーストリア政府観光局サイトから)

 そこまでは良かったが、ハーベック経済相はベルリンに帰国後、新型コロナウイルス(新型コロナ)に感染したことが分かった。同相はウィーンからザッヒャー・トルテ(オーストリアの名産チェコレート・ケーキ)を土産に帰国したのではなく、新型コロナのウイルスを持ち帰ったことになる。

 ハーベック経済相がオーストリアの誰から感染したのかはここでは問わないが、オーストリア滞在中に感染したことはほぼ間違いないだろう。実際、オーストリアでもヴェルナー・コグラー副首相やアルマ・ザディッチ法務相が感染したばかりだ。

 そうだ、オーストリアではオミクロン株の新しい亜系統(BA.4及びBA.5)が猛威を振るっている。14日の新規感染者数は1万2512人で7月に入って以来、1万人台が続いている。ウイルス学者は、この夏、最高7万人にも急増するのではないか、と予測している。

 オーストリア国民は夏季休暇期間の新型コロナの猛威でパニックに陥っているか、というとそうではない。ウィーン・シュヴェヒャート国際空港(VIE)には連日、夏季休暇を海外で楽しもうとする国民で溢れているのだ。

 オーストリアでは6月に入って新型コロナの新規感染者が徐々に増え、6月末にはとうとう1万人の大台に入った。入院患者数や集中治療患者数にはまだ大きな増加は見られないことから、重症リスクが高くないとして、国民の間には今年1月、2月のような緊迫感は見られない。多くの国民は2年ぶりの夏季休暇をいかに楽しむかに関心がいき、新規感染者数が1万台に突入したというニュースを聞いても、危機感が感じられない。

 そのような状況下でオーストリアでは目下、自己隔離などの検疫義務の撤回か否かで議論が沸いている。検疫義務撤廃の最前線には「緑の党」出身のヨハネス・ラウフ保健相が立ち、コロナ対策諮問委員会(GECKO)のチーフメディカルオフィサーのカタリーナ・ライヒ氏も見解が同じだ。特に撤廃を支持しているのは経済界、郵便局、スーパー関係者などだ。

 一方、撤廃反対には、社会民主党が主導するウィーン市議会の厚生問題責任者ペーター・ハッカー氏やテレビでコロナ問題について常に解説してきたウイルス学者のレドルベルガー・フィリッツ氏らがいる。

 撤廃支持者は、「症状もないのに5日間も休まなけれならないとすれば、労働者不足で他の社社員大きな負担をかけてしまう。そのうえ、症状がない人は検査も受けないから、実際の感染状況を掌握することは難しい」と指摘する。具体的には、「症状がなければ、自己隔離ではなく、マスクを着用して職場や工場で仕事ができるようにすべきだ」というのだ。

 それに対し、反対者は、「新規感染者が急増しているのに、対策もなく、自己検疫義務も撤廃するとはあまりにも危険だ」と批判。ウイルス学者の多くは「感染が猛威を振るっている時、対策を緩めるべきではない」と考えている。ハッカー氏は、「実験するわけにはいかない。感染が広がれば、病院入院患者や集中治療患者が増えてくる。病院関係者に一層負担をかけることになる」と指摘する。

 オーストリアでは6月1日よりマスクは病院、介護施設以外は着用義務がなくなったが、新規感染者の急増を受け、ラウフ保健相は夏季休暇後はマスクの着用義務の再導入を考えている一方、65歳以上の高齢者には4回目のワクチン接種を呼び掛け、国民には自己責任でコロナ規制を実施すべきだとアピールしている。

 問題は、オミクロンBA.1に感染し、免疫を得た回復者もオミクロンの新しい亜系統(BA.4およびBA.5)によって引き起こされる症候性疾患に対しては限定的にしか防御できない、というデータが出てきていることだ。ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(ベルリンのシャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は独週刊誌シュピーゲル(6月25日号)の中で、「新系統のウイルスは肺器官まで入っての感染拡大はせず、呼吸器官上部に留まっている。だから重症化はしないが、免疫が出来ないから何度も同じウイルスに感染する」と説明している。

 すなわち、感染回復者もその後何度も感染する危険性があるわけだ。その度に症状がない人が5日間の自己検疫義務のため仕事ができないとなれば、職場や工場で労働者不足が出てくることは必至だ。コロナ禍で苦しんできた国民経済の回復も望めなくなる。その一方、現在の感染状況が続けば、夏季休暇明けの9月以降、コロナの感染拡大は避けられない。

 いずれにしても、自己隔離など自己検閲義務を撤廃した場合、その結果がプラスとなるか、マイナスか、残念ながら誰も100%自信もって予測できる人はいない。

夏季休暇のパンデミックと「その後」

 「われわれが夏季休暇を取っても、ウイルスは休まず働いている」

 当地のウイルス学者はオーストリア国営放送とのインタビューの中で笑顔をみせながらこのように語っていた。

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▲オミクロン変異株(独日刊紙ビルド2021年12月15日電子版から)

その発言を裏付けるように、オーストリアでは6月に入って新型コロナウイルス(Covid-19)の新規感染者が徐々に増え、6月末にはとうとう1万人の大台に入った。同国保健相省によれば、7月1日の新規感染者数は1万0424人だ。入院患者数(870人)と集中治療患者数(49人)にはまだ大きな増加は見られないことから、重症リスクが高くないとして、国民の間には今年1月、2月のような緊迫感は見られない。多くの国民は2年ぶりの夏季休暇をいかに楽しむかに関心がいき、新規感染者数が1万台に突入したというニュースを聞いても、危機感が感じられない。

 世界保健機関(WHO)によれば、隣国ドイツでは6月下旬に入り、新規感染者が10万人を超える日が続いた。英国でも1万6000人を超えており、増加傾向にあることから、新規感染者の増加傾向は欧州全域でみられる現象だ。

 感染の主流ウイルスはオミクロン株の新系統「BA.4」と「BA.5」。ちなみに、オミクロンBA.1に感染し、免疫を得た回復者もオミクロンの新しい亜系統(BA.4およびBA.5)によって引き起こされる症候性疾患に対しては限定的にしか防御できない、というデータが出てきている。

 オーストリアでは政府が6月1日を期してコロナ規制(マスクの着用義務など)を大幅に緩和したこともあって、コロナ検査を受ける国民の数は急減した。3−G(接種証明か治癒証明かコロナ検査による陰性証明のいずれか)は必要なく、国民は病院に行くため、といった特別の場合を除いて、PCR検査を受けなくなった。月5回まではコロナ検査は無料、それ以上は自費で検査を受けなければならない。症状が出ない場合、人々は検査を受けない。にもかかわらず、新規感染者数が既に1万人台を突破したということは、感染者の実数はもっと多いと予想されるわけだ。

 ウイルスは気温の高い夏季には感染力を落とすこともあって、多くの国民はマスクなしで様々なイベントにも参加、その結果、新規感染者数は増加してきた。メディアもロシア軍のウクライナ侵攻関連に注意が注がれ、コロナの感染者数の上下に余り反応しなくなった。

 オーストリアでは6月1日よりマスクは病院、介護施設以外は着用義務はなくなったが、新規感染者の急増を受け、ヨハネス・ラウフ保健相は夏季休暇後はマスクの着用義務の再導入を考えている一方、65歳以上の高齢者には4回目のワクチン接種を呼び掛け、国民には自己責任でコロナ規制を実施すべきだとアピールしている。

 オーストリアのコロナ対策諮問委員会(GECKO)のチーフメディカルオフィサーのカタリーナ・ライヒ氏は、「夏のパンデミック波のピーク時は、1日あたり最大7万人の新規感染者が予想される」と指摘する一方、コロナウイルスに対する薬の入手を容易にすることを提案している。

 GECKOによれば、ワクチン接種と投薬の組み合わせが、厳しい経過に対する最適な保護パッケージという。ちなみに、既存の48万7465件の治療件数の中で、投薬されたのはわずか4.1%に過ぎない。そこで電子処方箋と一般開業医への直接発行を通じてCoV薬の利用の簡素化を支持している。

 同氏によると、現在の波がいつピークに達するかについては、バケーションの季節、学校の閉鎖など多くの不確実な要因があるから正確には予測できないという。ただ、特定の感染数(1日あたり約2万人の新規感染者)を超えると、国民のリスク意識が高まり、その行動にも変化が出てくると期待している。

  参考までに、ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(ベルリンのシャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は独週刊誌シュピーゲル(6月25日号)とのインタビューの中で、「Covid-19は人間の免疫システムから逃れる道を学んできている」と説明、9月以降の秋になれば感染が拡大する危険性が排除できないと指摘。オミクロン株の新系統の感染力については、「従来のコロナウイルスとは違い、ドイツで今、最も感染している同新系統のウイルスは肺器官まで入っての感染拡大はせず、呼吸器官上部に留まっている。だから重症化はしないが、免疫が出来ないから何度も同じウイルスに感染する」と説明している。

 夏季休暇シーズンが過ぎた後、欧州では感染力だけではなく、致死力も備えたオミクロン株の新系統ウイルスが台頭してくるかもしれない。そうなれば、欧州の国民はウクライナ危機とそれに伴う物価・エネルギー価格の高騰に加え、スーパー・コロナの感染拡大というダブル・パンチの状況に遭遇するかもしれない。

国が非ワクチン接種者を見捨てる時

 ケガしないように注意するのよ、食べすぎは良くないよ、等々、母親は小さな我が子がケガや病気をせずにスクスクと成長するのを願う。もちろん、「好きなようにしなさい、お母さんはもう知りません」と、言うことを聞かない子を突き放す母親も出てくるだろう。

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▲コロナ時代3代目のオーストリア保健相、ヨハネス・ラウフ氏(オーストリア連邦保健省公式サイトから)

 オーストリア政府は9日、議会で可決され、施行中の新型コロナウイルス用のワクチン接種義務化法を一時的に停止すると発表した。ワクチン接種義務化法(18歳以上の成人を対象)を積極的に推進してきたエットシュタドラー憲法問題担当相は9日の記者会見で、ワクチン接種義務化を施行しなければならない法的な理由がなくなってきた」と言葉少なに説明していた。

 ワクチン接種義務化法によると、今月15日、未接種者に対して最初の罰金(600ユーロ)を通告する予定だった。その施行日の前に中止し、3カ月後、国内のコロナ状況を分析して「その後」の対応を検討するという。職業別ではなく全国民を対象に欧州最初の「ワクチン義務化法」として欧州でも大きな反響を呼んできたが、施行されて1カ月余りでストップがかかったわけだ。

 ワクチン接種義務化法案は昨年末に草案が作成され、今年1月20日に国民議会(下院)で、その後連邦議会(上院)での審議を経て可決され、ファン・デア・ベレン大統領が署名した。ミュックシュタイン保健相(当時、「緑の党」所属)は、同法の施行以後、見直しを要求する声に対し、「義務化法の見直しは考えられない」と突っぱねてきた経緯がある。ワクチン接種義務化法の死守を主張するウィーン市のペーター・ハッカー保険担当官は、「可決したのだ。いまさらその有効性を問い返すことは間違っている」と述べ、決定したことに直ぐ疑問を投げかけるオーストリア人のメンタリテイを批判したほどだ。

 ワクチン専門家は同法施行停止の理由として、.灰蹈淵Εぅ襯拘鏡者の入院率が低く、病院への負担は少ない、▲ミクロン変種株が欧州全土を席巻している時、ワクチン接種の義務化は遅すぎた、今秋のコロナ感染時期までにはまだ時間がある、等の3点を挙げている。

 政府はワクチン接種義務化法の施行で未接種者が接種に向かうだろうと期待してきたが、ワクチン接種率はほとんど変わらなかった。義務化しても効果が薄いという現実が浮かびあがってきた。そこで、‘泳,魎袷瓦貿亡する、¬だ楴鐚圓悗糧涯發鮖澆瓩襦↓0貉的に停止する、の3つのシナリオが挙げられ、最終的にはが選ばれたわけだ。

 ワクチン接種義務化法の施行一時停止を聞いた時、このコラムの最初に書いた母親のことを考えたのだ。国を母親とすると、子どもは国民だ。母親のいうことを聞かない子供はワクチン未接種者だ。ワクチンを接種するように口うるさく叫んできた国は、「それでは好きなようにしなさい」とわがままな子供を見捨ててしまった母親のように未接種者を見捨てたのではないか。

 ワクチンを接種しなくてもいい、罰金を払わなくていい。好きなようにしなさい、というのだ。好意的に言えば、子供の自主的判断を尊重したことになるが、冷静にみると、いうことを聞かない子供を見捨てた母親のように、ワクチン未接種者を国(母親)は見捨てたのだ。未接種者は運が悪ければ、オミクロン変種株に感染し、更に運が悪ければICUに入る。ちなみに、同国の病院で集中治療室(ICU)に入っている患者はワクチン未接種者が圧倒的に多い。

 ネハンマー政府がワクチン接種義務化法の一時施行停止を新規感染者数が過去最多の4万7795人(過去24時間)となった日に発表したことで、当方のこの印象は一層強まっていった。人口比で比較すれば、新規感染者数はドイツの数倍多い。その過去最多記録を更新した日に、政府はほぼすべてのコロナ規制を解除する一方、ワクチン接種義務化法の施行を一時停止したからだ。

 オーストリア国民の約20%は未接種者だ。彼らは政府の必死のアピールにもかかわらず、接種を拒んできた。政府が接種せよ、接種せよという度に、抵抗し、連邦首相府前でコロナ規制反対、ワクチン接種義務化反対を叫んできた。彼らはもう反対する必要がなくなったのだ。換言すれば、見捨てられたわけだ。

 ワクチン接種義務化に強く反対してきた極右党「自由党」のキックル党首は、「われわれは勝利した」と述べていたが、勝利者らしい歓喜の姿は見られなかった。「見捨てられた」ことをキックル党首は感じていたのかもしれない。「好きなようにしなさい」という母親の声をひょっとしたらキックル党首は聞いたのかもしれない。反対は楽だが、見捨てられた以上、自身が責任をもって生きて行かなければならないからだ。

 新型コロナウイルスの感染初期、ウイルス学者の中には集団免疫論者が、「コロナ規制を廃止し、ウイルスに感染を委ねるべきだ。それによって時間の経過と共に社会に集団免疫ができるからだ」と主張してきた。当時はまだデルタ変異株など致死率の高いウイルスが席巻していたこともあって、集団免疫説は、「一定の犠牲者を甘受する政策だ。人道的にみても良くない」と反発するウイルス学者がいた。

 その学者間の論争はオミクロン変異株が登場したことで緩和されてきた。オミクロン株は感染力が強いが、致死率はデルタ株より少ないからだ。そこで集団免疫論が再び復活してきたわけだ。もちろん、国もワクチン学者も口には出さないが、「ワクチン接種を拒む国民がいる以上、一定の犠牲者(主に未接種者)を甘受しなければならない。ロックダウンを避け、国民経済を活性化していく」という方向に転換してきたわけだ。コロナ規制の全廃、ワクチン接種義務化法の空洞化は集団免疫論の内容となるからだ。

 ワクチン未接種者はコロナ感染の危険を恐れながら、市内を彷徨する。その姿は母親から見捨てられた子供のようではないか。両者の違いは、子供は見捨てられたことを肌で感じるだろうが、未接種者は感染するまで自身の立場を理解しないのだ。


<参考資料>
ワクチン接種義務に関する法案」2021年12月12日
『ワクチン接種義務化法案』の課題」2022年1月14日
欧州初のワクチン接種義務法案可決」2022年1月21日
『ワクチン接種義務化法』の見直し論」2022年2月11日

ドロステン氏「WIV起源説」語る

 ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は南ドイツ新聞(SZ)とのインタビュー(2月9日)で新型コロナウイルスの武漢ウイルス研究所(WIV)発生説について、「コロナウイルスSars Cov-2が武漢のウイルス研究所から発生した可能性を排除したくないが、それはありそうにはないと思っている」と語った。

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▲ドロステン教授(NDR公式サイトから)

 教授は、「これまで自分は動物界からウイルスの自然発生説と武漢研究所発生説の2通りの説を排除してこなかったが、動物界からのウイルスの自然起源がより妥当であると考えてきた。Sars-CoV-2と同じ種に属するSars-1ウイルスを知っている。Sars-1はコウモリに由来する。ウイルスは ジャコウネコとタヌキなど中間宿主を経過して変化し、人間にも感染するようになった可能性がある」と説明する。実験室起源説の仮説については「比較的質の高い科学的証拠はまだない」という。

 そのうえで、「武漢から公表されたプロジェクトから危険な実験が行われたことが分かるが、その実験でSars−2が生まれてはこない。科学者たちはコウモリに新しい特性を組み込んだだけで、それをSarsCov -2の前身とみなすことは出来ない。遺伝子工学を使用して新しいスパイクタンパク質がコウモリウイルスに組み込まれた『機能獲得実験】で、ウイルスはよりよく増殖する可能性があることを示している。コロナウイルスはスパイクタンパク質にフューリン切断部位(PRRAR)を持っている。フューリン切断部位を挿入することは理論的に考えられる実験室での実験だ」

 同教授は、「 コロナウイルスの発生源問題では自然起源がはるかに可能性が高いと考えている。(WIV起源説を)完全に除外したくはないが、それは現在時点では一つの可能性だ。いずれにせよ、中国が全面的に協力した場合にのみ、全容が明らかになるが、残念ながら、中国側は実験内容の全容を隠蔽している」と指摘、コロナウイルスの起源解明には中国側の協力が不可欠であると強調している(「WHO調査団長エンバレク氏の証言」2021年8月22日参考)。

 同時に、「武漢での実験について早い段階で発表しなかったことは大きな間違いだ。何よりも、米国の一部の人々はこれらの実験について知っていたが、その実験内容を積極的に伝えることを避けた。私を含む多くの科学者はプロジェクトについて知らされていないかった。それを知っていれば、少なくとも質問があった」と述べている。

 ドロステン教授はインタビューでは「米国の一部の人々」と述べ、名前を挙げていないが、少なくとも2、3人の科学者の名前がすぐに思い出される。調査ジャーナリストとして著名なシャリー・マークソン女史(Sharri Markson)は、「中国共産党政権は世界の覇権を握るために世界のグローバル化を巧みに利用し、最新の科学技術、情報を手に入れてきた。武漢ウイルスはそのグローバル化の恩恵を受けて誕生してきたのだ。それゆえに、というべきか、国際社会はそのグロバリゼーションの痕跡を辿ることで、武漢ウイルス発生の起源を解明できる道が開かれる」と述べている(「武漢ウイルス発生源解明は可能だ」2021年11月2日参考)。

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▲ピーター・ダザック氏(ダザック氏のツイッターから)

 ウイルスの機能獲得研究、遺伝子操作の痕跡排除技術は、米ノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授、そして英国人動物学者で米国の非営利組織(NPO)エコ・ヘルス・アライアンス会長のペーター・ダザック氏らとの共同研究で中国側が獲得していった内容だ。ダザック氏らは米国の税金でWIVのコウモリ研究を支援してきた。米国の感染症対策のトップと言われるアンソニー・ファウチ博士も、WIVと関係を有してきた。ちなみに、機能獲得研究とは、ウイルスの感染力、致死力をアップするための研究で、ウイルス学者からは「非常に危険な研究」といわれてきた。米国のオバマ政権はその研究を禁止したが、数年後、再び許可されたという。ファウチ博士はウイルスの機能獲得研究を支持していたという(「ダザック氏解任は何を意味するか」2021年7月1日参考)。

 中国共産党政権がWIVでの実験内容と関連文書を公表することは期待できない。ドロステン教授は武漢ウイルスの解明を阻止しているのが中国側の隠蔽姿勢にあることを明確に指摘したうえで、「実験を知っていた米国の科学者たちの責任」に言及している。共産党政権下の中国とは違い、米国は世界の民主国家のリーダーを自認する大国だ。バイデン米政権はコロナウイルスの発生起源問題を解決すべき責任がある。世界で12日現在、武漢ウイルスで580万人以上の死者が出ているのだ。

オミクロン感染爆発中での規制緩和

 オーストリア政府は29日、記者会見で2月からコロナ規制の一部を緩和すると表明した。オミクロン株が爆発的に感染を広めている時期だけに、「この時期になぜ緩和するのか」という声と、「緩和処置は遅すぎた」という意見で国内は分かれてきている。

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▲コロナ規制の緩和を発表するネハンマー首相(中央)オーストリア連邦首相府公式サイトから、2022年1月29日

 政府が29日に発表したコロナ規制緩和の具体策は、2月5日から22時以降の夜間外出禁止令は深夜0時以降になり、その1週間後の12日からは小売業での2G(※注)の義務を廃止、その1週間後(2月19日)からは飲食店、観光業界では3Gのルールが適応されることになっている。そのほか、イベント業界でも5日から観客数は25人から50人まで認められる。ちなみに、ワクチン未接種者へのロックダウンは1月31日で終わる。

 同国ではここ数日、新規感染者数は3万人台に突入している一方、入院患者数、集中治療患者数は微増に留まっていることから、ネハンマー首相はコロナ規制の一部の緩和を正当化している。ミュックシュタイン保健相(「緑の党」)は、「オミクロン株の感染では現時点で集中治療室への過負荷がかかるリスクはないことが今回の規制緩和となったが、警戒態勢は今後とも継続される」と説明している。

 同国では首都ウィーン市(特別州)を除いては8州の関係者が政府の規制緩和を歓迎しているが、ウィーン市だけは批判的だ。規制緩和派は主に与党・国民党が州知事を務めている地域だ。チロル州、ザルツブルク州、オーバー・エステライヒ州、ニーダーエステライヒ州の知事たちは異口同音に、「規制緩和は少し遅すぎたが、正しい方向だ」と歓迎する。例えば、ニーダーエスターライヒ州ヨハンナミクルライトナー知事は、「緩和を前向きなものと受け取っている。多くの市民に生きる喜びをもたらす」と高く評価している。

 それに対し、音楽の都ウィーン市のルドヴィック市長(社会民主党出身)はツイッターで、「我々は今、オミクロン株の感染爆発時にいる。毎日、新規感染者数の記録を更新している時だ。感染のピークはまだ来ていない時、コロナ規制を緩和することは間違っている。市としては専門家と協議をして対応をする考えだ」と述べている。

 一方、政党の反応では、極右「自由党」のキックル党首は、「政府の規制緩和はジョークに過ぎない。全ての規制処置を即撤廃すべきだ」と強調、「政府の2G政策は成功しないだろう。小売業、ケータリング、ホテル業界は経営の危機に直面している」と指摘。リベラル政党「ネオス」は政府の規制緩和を歓迎するが、小売業と夜間外出禁止令での2Gは即時廃止されるべきだ」と述べている。

 オミクロン株は現在、欧州で猛威を振るっている。欧州のウイルス学者は、「オミクロン株の感染のピークは2月上旬だろう」と予想しているが、欧州では英国やデンマークなどは早々とほぼ全てのコロナ規制を撤回してきた。オミクロン株は感染力が強いが重症化率が少なく、新規感染者が急増しても病院崩壊、ICU占有率が高まる恐れはない、という判断に基づいていることは明らかだ。

 アルファ、デルタ株、オミクロンとコロナ変異株が出現してきたが、コロナ禍で3年目を迎えた欧州ではコロナ疲れが見えだした。だから、「コロナ感染はまもなく終焉する」という希望が先行し、ポスト・オミクロンについて余り関心がないのが現実だろう。人は希望なくして生きていけないから、政府関係者も国民のこの願いになんとか応じようとするのは当然かもしれない。ただ、コロナウイルスは感染症だから警戒心を緩めることは出来ない。希望と現実のバランスを取りながら、オミクロン株のソフトランディング(軟着陸)を迎えたいというわけだ。

 なお、オーストリアでは来月からワクチン接種義務化が施行されるが、18歳以上の成人の約17%はまだワクチン未接種だ。しかし、保健省によると、過去2週間で8万5000人の成人が初めてワクチン接種を受けている。その結果、18歳以上の成人の83%が少なくとも1回の予防接種を受け、80%が2回予防接種を受けている。

 ※注:「3G」とは、ワクチン接種証明書(Impfzertifikat)、過去6カ月以内にコロナウイルスに感染し回復したことを証明する医者からの診断書(Genesenenzertifikat)、そしてコロナ検査での陰性証明書(Testzertifikat)だ。ドイツ語で「Geimpft」 「Genessen」そして「Getestet」と呼ぶことから、その頭文字の「G」を取って「3G」と呼ばれている。2Gとは、ワクチン接種証明書か回復証明書を有する場合を意味し、陰性証明書ではレストラン等へ入れない。

病欠やトイレに走る議員たちの事情

 オーストリア国民議会(下院)で20日、ワクチン接種の義務化法案について意見の交換が行われた後、採決に入った。今回は各議員が賛成票(白紙)か反対票(赤紙)を持参して演壇前に備えられた投票箱に入れることになっていた。だからどの議員が賛成か反対かはその気になれば分かる。中継していたオーストリア民間放送のカメラマンが投票箱に行く議員の姿に強い関心を注いだのも当然だった。

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▲ワクチン接種義務化法案を議論した国民議会風景(2022年1月20日、オーストリア民間放送OE 24TVの中継から)

 まず、投票結果から報告する。国民議会の定数は183議席だ。採決に参加した議員は170人だった。ということは、20日の投票日に13人の議員が欠席したことになる。議会から中継していたアナウンサーは、「今日は多くの議員が病気になりました」と少し皮肉を込めて報じていた。投票結果は賛成票137票、反対33票だった。

 次に、ワクチン接種義務化法案の日の政党の立場を説明する。同国では議会に議席を有する政党はネハンマー政権の与党、保守政党「国民党」と「緑の党」の2党、野党には「社会民主党」、「ネオス」、そして極右政党「自由党」の5政党だ。

 ワクチン接種義務化法案は国民党とその連立パートナー環境保護政党「緑の党」が作成し、議会に提出した。それに対し、野党第1党「社民党」は党内に反対があったが、党としては支持に回った。同党のパメラ・レンディ=ワーグナー党首は熱帯医学の専門家で、新型コロナウイルスの実態を誰よりも知っている政治家だ。ケルン政権下で2017年、短い期間だったが保健相を務めた。 同党首は、「義務化は理想ではないが、ワクチン接種が現時点では唯一のコロナ対策」と表明し、ネハンマー政権のワクチン接種義務化法案を支持した。

 リベラル政党「ネオス」はワクチン接種の義務化に強く反対してきたが、同党のベアテ・マインル=ライジンガー党首は記者会見で、「自分はワクチン接種の義務化には反対だ。国民の自由な判断を尊重していたからだ。しかし、ワクチン接種の現状やコロナ感染の拡大などをみて、ワクチン接種の義務化を支持することにした。さもなければ、第5、第6のロックダウンが回避できなくなるからだ」と説明した。

 同法案に最後まで反対し、路上で国民を動員して抗議デモ集会を繰り広げたのが自由党だ。同党のキックル党首は昨年11月15日、コロナに感染したが、寄生虫用治療薬を飲みながら回復した。ワクチンは接種していない。キックル党首は、「ワクチン接種は個々が決める問題だ。しかし、接種の義務化は国民の自由を蹂躙する全体主義的なやり方で容認できない」という姿勢を崩さず、20日の議会でも激しく批判を繰り広げた。

 採決前から同法案が可決されることは分かっていたが、多くの政治専門家は、「国民党や緑の党からも反対する議員が出てくるだろう」と指摘し、投票箱にどの議員が赤紙を入れるかに注意を促していた。国民党(71議員)からは4人の議員が欠席し、反対票はなかった。「緑の党」(26議員)は政権政党でなければ、多くの議員が反対していただろうが、連立政権に参加している以上、支持せざるを得ない。自己の政治信条と与党としての責任、という狭間で悩む議員がいたはずだ。同党からは反対票はなしで3人が病欠だった。

 社民党(40議員)からは4議員が病欠、1議員が反対した。自由党は30議員中、2人が病欠で、そのほかは全て反対票を投じた。ネオスは15議員中、4人の議員が反対した。ちなみに、「緑の党」元党首マドレーン・ペトロビッチ氏がワクチン接種義務化を支持する党の政策を批判し、「緑の党」から脱会を表明したことがメディアで報じられたばかりだ。

 接種の義務化に反対しているが、党の方針には反対できない、と悩む多くの議員たちは、それゆえに、採決の日、病気になるわけだ。国民議会の定数から170人を差し引いた13人の議員全てがそうとは思わないが、多くは突然病気になったのだろう。新型コロナウイルスのオミクロン株の感染力が知られていることもあって、病気になっても疑われる心配は少ない、という判断も働いただろう。

 政界では重要な法案の採決の日、突然席を外す議員や政治家がいる。有名な話はオーストリア前大統領(在任2004〜16年)のハインツ・フィッシャー氏だ。同氏は社会党議員時代、重要な要件で採決しなければならない時になるといつも姿をくらました。だからブルーノ・クライスキー首相(在任1970〜83年)は、「彼はまたトイレにいったのか」と揶揄った、という噂が流れたほどだ。そのフィッシャー氏は後日、オーストリアの大統領を12年間勤めている。「重要な採決の時に政治家が病欠やトイレに行くのも立派な意思表示だ」という指摘は、案外、政治の世界の現実を言い当てているのかもしれない。

欧州初のワクチン接種義務法案可決

 オーストリア国民議会は20日午後7時(日本時間21日午前3時)、ネハンマー政権(保守党「国民党」と「緑の党」の連立)が提出した新型コロナウイルスへのワクチン接種を義務化する法案を賛成多数(賛成137票、反対33票)で可決した。医療関係者や教師など職種別のワクチン接種義務化を施行する国はあるが、18歳以上の全国民を対象とするワクチン接種義務化は欧州では初めて。ドイツなど他国もワクチン接種の義務化を施行する方向で検討しているだけに、オーストリアのワクチン接種義務化の動向に強い関心を寄せている。

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▲コロナ・ワクチン接種(バチカンニュースから)

 オーストリアのシャレンベルク前首相が昨年11月19日、ワクチン接種の義務化を実施すると表明して以来、国内では与・野党間の協議、専門家を含めた議論を重ねてきた。ワクチン接種義務化法案の対象はオーストリアに住む18歳以上の全国民で、例外は妊婦や特別な疾患を有している国民のほか、コロナ感染から回復した国民は6カ月間、ワクチン接種は猶予される。ただし、妊婦の場合、出産後、翌月末からワクチン接種の義務対象に入る。

 初期の草案では14歳以上の国民が対象となっていたが、リベラル政党「ネオス」が18歳以上と主張し、最終的に義務化の年齢を引き上げることになった。同法案は連邦議会が承認した後、2月上旬から施行される。

 未接種者は保健省からワクチン接種のリクエストを受ける。必須の予防接種には、最初の予防接種、2回目の予防接種(最初の予防接種から14日以上42日以内)、および3回目の予防接種(事前予防接種後120日以上270日以内)が含まれる。未接種者に対しては3カ月(Inpfstichtage)ごとに600ユーロ(約7万8000円)の罰金が科せられる。最高の罰金は年間3600ユーロになる。18歳以上の国民で予防接種を受けていない国民は2月15日、保健当局からワクチン接種の要請を受ける。3月15日以降、ワクチンを受けていない国民は罰金が科せられる。罰則は、地区の行政当局によって発行される。

 国民議会に提出されるまでには、様々なハードルがあったが、野党の社会民主党(SPO)と「ネオス」がワクチン接種の義務化法案を支持したことが大きかった。野党では極右政党「自由党」だけがワクチン接種義務化に反対し、毎週、ウィーンなどで数万人を動員した抗議デモ集会を行ってきた。

 同党のキックル党首は20日、議会で「恐ろしく、唖然とし、ショックを受けている。ワクチン接種の義務化は国民への暗殺テロだ。国民を奴隷に格下げするものだ。全体主義への道を開くものだ」と批判した。議会の外ではワクチン接種義務化法案に反対する市民がデモを行った。

 同法がスムーズに実行されるかは不明だ。国民の健康保険証を管理する連邦・州の社会保険会社(ELGA会社)は、「技術的な問題があって2月1日からの施行は難しい。早くても4月初めからになる。国の予防接種登録簿を介した強制予防接種の技術的実施をカバーするためには時間がかかるからだ」と説明し、政府の「2月からの実施」に疑問を投げかけてきた。また、ワクチン接種義務化に伴う訴訟の増加が予想されることから、裁判所の人材と財源確保の必要性が指摘されている。

 ネハンマー首相は、「5度目のロックダウン(都市封鎖)を回避するためにはワクチン接種率を高める以外にない。ワクチン接種は自分の健康のためだけではなく、他者、社会の為に必要だ」と国民に連帯をアピールした。

 同国でもオミクロン株の新規感染者が急増、19日には2万7677人を超え、過去最多を更新した。20日時点のオーストリアのワクチン接種率は1回接種率75・5%、2回完了75・1%だ。

「パンデミック」から「風土病的状況」へ

 前日のコラムで中国の新型コロナ防疫「ゼロコロナ」について書いたが、ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は現在のコロナ感染状況について、「年末までにはパンデミックは終わりを迎え、風土病的な状況(endemischen Zustand )に近づくだろう」と語っている。同教授が複数の独紙メディアに語った内容の概要を報告する。

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▲オミクロン変異株(独日刊紙ビルド2021年12月15日電子版から)

 欧州では新型コロナへの対応は「ロックダウン」(都市封鎖)から「ウィズコロナ」政策へ移行してきているが、ドロステン教授は、「パンデミックの終わりが視野に入ってきたことは事実だが、それが風土病的な状態となるためにはまだ長い道のりがある」という。どのような道のりだろうか。

 ドロステン教授は、「われわれはコロナウイルスを防ぐために全国民に長期的にワクチン接種を持続的に行うことは出来ない。ウイルスは最終的には全ての国民に感染するだろう。それを回避することは出来ない。Sars-Cov-2(新型コロナウイルスの正式名称)を完全に制御下に置くことができると考える人はいたが、それは間違いだ。一方、Sars-Cov-2が無害であると考え、ウイルスの感染による集団免疫説が正しかったという意味ではない」という。

 オミクロン株が発生した南アフリカでは(感染を通じて)集団免疫的な状況が既に生まれてきている。ドイツではワクチン接種でそこまで到達していない。60歳以上の国民300万人が未接種者だ。オミクロン株の感染を防ぐためには3回目のワクチン接種が必要だ。それらを計算すると、ドイツにはワクチン接種を受けていない60歳以上の脆弱な年齢層が900万人いることになる。だから、ウイルスが遅かれ早かれ全ての国民を感染させるからといって、ウイルスに自由な動きを許すことはドイツのワクチン接種状況からはできないという話だ。

 だから、ワクチン接種を進めながら、コロナ感染の爆発をコントロールしていき、ワクチン接種率がある段階に到達すれば、ウイルスに感染の自由ハンドを与え、人間は免疫力を更新していく。そしてウイルスと人間が共存できる段階に入っていくというシナリオだろうか。その段階になれば、コロナウイルスはパンデミックではなく、風土病的な状態に置かれるというわけだ。

 同教授は、「ワクチン接種を受けた人の中にも感染している人が少なくないが、ワクチン接種が無意味というわけではない。ワクチン接種を受けることでウイルスの変異株にブレーキをかけるからだ。オミクロン株は、エンジンは大きくなく、タイヤが広いため、地形をうまくドライブできる車のようだ(感染力が強い)。しかし、予防接種を受けると、ゆっくりとしか動けなくなり、多くの泥や未舗装の道路では走るのが難しくなる」と説明し、ブースター接種の意義を述べている。

 ドロステン教授は、「今年の夏はオープンな社会で過ごすことができるだろう。しかし、オミクロンは存在し続ける。重要な問題は、来年の冬までに十分な免疫が達成されるかどうかだ。遅くとも秋までにリスクのある高齢者に追加接種を勧めるべきだ」と強調する。

 ちなみに、オミクロンは「異なる血清型」、つまり特別な抗体を必要とする異なる抗原特性を持つ変異体である可能性が非常に高いため、現在のワクチンを適応させる必要があるという。同教授によれば、われわれは第2四半期には最新のオミクロンワクチン接種を受けることが出来るだろうという。アルファとデルタは人間の免疫システムにうまく適応してきたが、オミクロンは免疫回避型だ(「独ターゲスシュピーゲル紙1月16日)。

 Sars-Cov-2からの変化の可能性は限られている。ウイルスはスパイクタンパク質の構造をあまり変更できないが、ウイルスが使用できる特定の限られた突然変異スペースがある。インフルエンザの場合、5〜8年ごとに変異するが、そのような飛躍はオミクロンでも起きている。これは、将来、数年ごと、おそらくもっと頻繁に起こり続けるという。

 ちなみに、ウイルス学者のクラウス・シュテール氏もパンデミックの終結を予想している。同氏は、「コロナ感染症は、許容範囲内の病気であり、インフルエンザなどの他の呼吸器疾患と同じになる。人口の大部分が軽度かつ無症候性に感染し、抗体を持っている場合、いわゆるコンタクトトレーシング検疫はもはや無意味だ。パンデミックから抜け出すための最良の方法は、ワクチン接種とその後の感染だ。このパッケージには長期的な免疫保護がある」と主張している。

「ゼロコロナ」から「ウィズコロナ」へ

 海外中国メディア「大紀元」を読んでいると、中国共産党政権の新型コロナウイルスへの戦いの凄さには驚くというより、ちょっと怖くなる。中国当局が推進しているコロナ対策は通称「ゼロコロナ」と呼ばれている。数百万人の都市で数人のコロナ感染者が見つかっただけで市当局は即ロックダウン(都市封鎖)を行う。ロックダウンをするか否かで国民と与野党間で激しい議論が飛び出す欧州とは違う。当局の鶴の一声で都市封鎖が素早く実施される。それも中途半端ではない。

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▲ウィズコロナ時代の夜明けを告げた今年のウィ―ン楽友協会の「ニューイヤーコンサート」風景。無観客だった昨年とは違い、今年は観客が許可された(2022年1月1日、オーストリア国営放送の中継から)

「大紀元」によると、都市封鎖を実施する市当局関係者は、「息をしている者は外出するな」と市民に呼びかけているという。まだ生きている人間が外をうろつけば、空気感染でウイルスが広がる危険性が出てくるからだ。「まだ生きているならば、家に留まれ」という究極の封鎖だ。外出できる人間はもはや息をしていない人間(死んだ人間)だけということになる。

 オーストリアでは過去、4回、ロックダウン(都市封鎖)が行われたが、その場合でも例外事項があった。食糧の買い出し、会社に通う場合、病院看護関連のため、そして「犬と散歩したり、心身の健康を維持するための散歩」は外出できた。24時間外出制限下でもスーパー、薬局、公共の運輸機関、医療関係者は普段通りに働く。オーストリアのロックダウンの例外事項を聞けば、中国国民ならばきっと「それはロックダウンとは呼ばないよ」というだろう。

 新型コロナの感染初期の2020年1月31日、ウィーンの国連で在ウィーン国際機関中国政府代表部らの主催で中国武漢の新型コロナウイルスに関するブリーフィングが開かれたことがある。ブリーフィングでは在ウィーン国際機関中国政府代表部の王群(Wang Qun)全権大使が1時間余り、武漢の新型コロナウイルスに関する中国政府の取り組み状況などを説明した。

 王群大使は、「中国は国際社会の責任あるパートナーだ。武漢肺炎の対策でも責任を持って取り組んでいる」と強調し、中国の武漢肺炎対策の3点のメリットとして、―転謬淦呼吸器症候群(SARS)などの過去の経験、中国は科学大国、わが国は社会主義国だから、決定はトップダウンのため、武漢肺炎の対策では迅速に対応できる、と自信あふれる表情で語った。3点目のメリットは換言すれば、中国が共産党政権だから政策を国民に強制できるという意味になる。そのコロナ政策は現在、「ゼロコロナ」政策と呼ばれ、今日まで続けられてきた。

 蛇足だが、世界保健機関(WHO)のトップ、テドロス事務局長は2020年1月28日、北京を訪問し、習近平国家主席と会談、そこで中国のトップダウンの決定を称賛し、「中国政府は感染拡大阻止に並外れた措置を取った」「中国は感染封じ込めで新たな基準を作った。他国も見習うべきだ」と賛辞を繰り返したことで、同事務局長は後日、国際社会の笑いものになった(「武漢肺炎対策で中国が誇る『強み』」2020年2月2日参考)。

 中国共産党政権の「ゼロコロナ」政策はパンデミックの初期はそれなりの説得力があったが、コロナ感染3年目を迎えた今日、中国のゼロコロナ政策の限界を指摘する声が高まっきた。2月4日から第24回冬季五輪大会が北京で開催されることもあって、習近平国家元首を筆頭に中国共産党政権はコロナの感染が北京周辺まで接近してきたことで非常に神経質となっている。そのうえデルタ株に代わって、感染力の強いオミクロン株が北京に迫ってきたからだ。

 人口1300万人の陝西省西安市では昨年12月23日から都市封鎖が続いている。「大半の市民は食糧不足に苦しんでいる。持病のある市民、妊婦らが相次いで市の医療機関に診療を拒否され、市民の不満が高まっている」(大紀元)という。天津市は12日、市民全員を対象にPCR検査を実施した。同市で8日、オミクロン株の感染者が確認されたことを受けた措置だ。

 習近平主席は「ゼロコロナ」政策こそコロナ壊滅の最良の手段と信じているが、欧米諸国ではオミクロン株が席巻して以来、ウィズコロナ政策に対策を変えてきた。国民経済に多大なダメージを与えるロックダウンを実施してもコロナ感染を完全には封鎖できない、という過去の経験に基づいている。幸い、ワクチン接種が広がってきたこともあって、重症化する感染者は減少してきていることも追い風だ。

 オミクロン株の蔓延により、中国政府の「ゼロコロナ」政策は経済と社会に深刻なダメージをもたらすだけで、解決にならないという声が高まってきた。「大紀元」によると、米政治リスクの調査会社ユーラシア・グループは3日、今年の「10大リスク」のトップに中国が推進する「ゼロコロナ政策」の失敗を上げている。

 オーストリアではここ数日、コロナの新規感染者数が1万5000人を超えた。多くはオミクロン株の感染だ。入院患者や集中治療室のベット患者数は増えていない。多くは無症状の感染者だ。しかし、感染した以上、隔離しなければならない。感染者に接近した人も自宅で隔離される。その数は30万人を超えてきた。オーストリアの第2都市グラーツの人口より多くの国民が無症状だが、自宅で待機しなければならない。これは大きな経済的ロスだ。

 そこで隔離期間を10日から5日に減らす方向で対策が進められてきた。多くのウイルス学者はもはや「ゼロコロナ」「ロックダウン」とは叫ばない。FFP2マスクの着用などコロナ規制を順守しながらワクチンのブースター接種を加速する方向で動き出している(「ロックダウンの風景が変わってきた」2021年11月24日参考)。

 ちなみに、安倍晋三元首相はメディアとのインタビューで、「新型コロナを感染法上の分類で季節性インフルエンザと同等の5類として取り扱うべきだ」と提案したという。こらはウィズコロナ政策への具体案かもしれない。

 新型コロナウイルスの感染防疫の初期は中国の「ゼロコロナ」政策が先行したが、欧米諸国は「ロックダウン」政策から「ウィズコロナ」政策に軸を変えてきている。どちらの政策がコロナ対策で最終的成果を上げるかはまだ分からない。

コロナ抗議デモと極右過激派の関係

 欧州で目下、新型コロナウイルスの変異株オミクロンが猛威を振るい、新規感染者は急増し、重症化リスクは低いが多くの人々が感染することで社会のインフラが機能しない状況に追い込まれている。その一方、欧州各地でコロナ規制、ワクチン接種の義務化に抗議するデモが行われ、一部暴動化する傾向がみられる。その中で極右過激派はコロナ抗議デモの主導権を握ることで影響力を広めてきている。

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▲極右過激派に警告を発するナンシー・フェイザー内相(SPD公式サイトから)

 ドイツでは年末から年始にかけ各地でコロナ規制抗議デモが行われてきた。年末には、マンハイム、プフォルツハイムを含むいくつかの都市で集会が開かれた。シュヴァインフルトでのデモで暴動が発生した後、12月末に4人の参加者が有罪判決を受けた。ドイツ東部のザクセン州、ザクセンアンハルト州、テューリンゲン州、メクレンブルクフォアポンメルン州、ブランデンブルク州でも抗議行動が行われた。例えば、ザクセン州では過去1年半でコロナ関連の抗議デモは2800回を超えたという。

 ブランデンブルク州のシュチュブゲン内相(キリスト教民主同盟=CDU)はメディアとのインタビューの中で、「極右過激派はコロナ規制抗議デモを自身の政治目的のために利用している」と述べている。

 ナンシー・フェイザー内相(社会民主党=SPD)は連邦議会での演説の中で、「コロナ規制抗議デモに参加することは要注意だ。極右過激派グループが抗議デモを利用している。極右過激主義は民主主義の最大の脅威だ。過激派をストップし、彼らのネットワークを壊滅し、武装化を阻止しなければならない」と主張している。同相は、「復活祭までに極右過激派対策への行動計画を作成する」という。

 フェイザー内相は、極右過激派のメッセンジャーサービス、チャットアプリの「テレグラム」の閉鎖については、「ドイツの法を守らない場合、最後の手段として閉鎖しなければならない。同チャットは極右過激派に利用されている。他のニュースサービスとは異なり、陰謀説や人種差別的なコンテンツを含んでいる」と説明している。

 ドイツでは昨年12月15日、ワクチン接種反対派の活動家がザクセン州のミヒャエル・クレッチマー首相暗殺計画を練っていたことが発覚するなど、コロナ規制に抗議するグループの過激化が観察されてきた。特に、ドイツでワクチン接種の義務化が大きな問題となってきたことを受け、反対派の活動は過激化している。コロナ抗議デモと極右過激主義が結束するリスクが高まってきている。

 フェイザー内相は13日、ドイチェランドフンク(DLF)とのインタビューで、「極右過激派の目標はコロナ対策に反対することではなく、民主主義に反対することにある。コロナ規制に反対する抗議デモ参加者は、極右過激派のヘイトスピーチには気を付けなければならない」と語っている。

 ドイツでは目下、ワクチン接種の義務化について激しいやり取りが続けられている。ショルツ首相は昨年12月の新年演説の中で、オミクロン変異株の感染との戦いで国民に連帯を求め、「オミクロン変異体の急速な蔓延を阻止するためにワクチン接種を加速することが大切だ」と指摘、「私たちは(感染力のある)ウイルスより素早く動かなければならない」と強調。今月12日の首相就任初の議会答弁の中では、「ワクチン接種は自分のためだけではなく、社会全体のために行うものだ」と主張し、国民にワクチ接種の義務化を訴えている。ショルツ首相は義務化を来月には施行したい意向と言われるが、与党連立政権内でも反対意見が聞かれるなど、コンセンサスはまだない。

 欧州で先駆けてワクチン接種の義務化を進めるオーストリアでは、ワクチン接種の義務化に反対する国民のターゲットは政府、保健省だけでなく新聞社やメディア関係者、コロナ患者を治療する医療関係者、看護師までも攻撃されるケースが増えてきた。そのため、警察は病院周辺を警備するなどの対策を実行している。この傾向はオーストリアだけではなく、ドイツでも見られ出した。

 極右過激派は2015年、中東・北アフリカから大量の難民・移民が欧州に流入してきた時、反移民政策、外国人排斥を運動の中心に掲げて政治活動を展開し、極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は大躍進した。オーストリアでも極右政党「自由党」が選挙で得票率を増やし、一時は政権入りまでした。2020年に入り、新型コロナウイルスの感染が欧州を席巻し出すと、移民・難民政策ではなく、政府のコロナ規制に反対する運動に拡大し、長期化するコロナ規制とワクチン接種の義務化で不満が溜まる国民に連携の手を差し伸べながら、反体制運動を展開してきている。その結果、社会は一層分裂を深めてきているわけだ。
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