ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

新型コロナウイルス

地下鉄でマスク着用すれば罰金?

 日本ではマスク着用問題は個々人の自主的判断に委ねるということで落ち着いたと聞く。日本の厚生労働省のサイトによると、「これまで屋外では、マスク着用は原則不要、屋内では原則着用としていましたが、令和5年3月13日以降、マスクの着用は、個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となりました。本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう、ご配慮をお願いします」と丁寧に説明している。

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▲コロナ時代にお世話になったFFP2マスク

 アルプスの小国オーストリアでも3月1日を期して市電や地下鉄など公共交通機関に乗るとき、FFP2マスクの着用義務がなくなった。中国武漢発の新型コロナウイルスの感染が流行した過去3年間、国民はコロナ対策のために余り馴染みがないマスクを着用しなければならなかった。4月30日を期して、病院や介護施設などでもマスク着用義務もなくなる。そして6月末までに全てのコロナウイルス危機対策は終了し、コロナ下で実施されてきた予防接種、検査、投薬は、通常の医療システムに統合され、その後はSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)は届出対象疾患から削除される。

 コロナ感染防止のためにFFP2の着用が義務付けられた時、国民の中にはかなり強い抵抗があった。日本人にとってマスク着用はとりたてて抵抗がないが、欧州ではマスク着用は顔を隠すもので、不自然なものといった考えが強く、「マスクはアジア文化だ」といった文化論すら一時期飛び出したほどだ。

 ただ、新規感染者が急増し、コロナ死者が増加するとマスク着用に反対してきた国民も感染防止のためにやむを得ず着用するようになった。マスクなしで市電に乗ったり、地下鉄に乗れば監視員から注意され、最悪の場合、罰金がとられる。ウイルス学者は「マスクは自分をウイルスから守る一方、他者にウイルスを感染させない目的がある」と説明し、マスクの利他的効用を強調してきた甲斐もあって、マスクは欧州社会で一定の認知を得てきた。

 その「マスク着用義務」から解放されたのだ。多くの国民は喜んでいるが、コロナが去ったと思いきや、今年に入りインフレエンザが流行中で、咳をしている国民が少なくない。風邪をうつされたら大変ということから、人ごみの多い公共交通機関ではマスクを着用し続ける人々が結構多い。

 しかし、問題が出てきたのだ。マスク着用義務の解放後、市電や地下鉄でマスクを着けていた場合、行政違反で起訴されるケースが出てくるのだ。厳密にいうと、健康上の理由でマスクを着用しなければならない場合、医師の診断書を提示しなればならないのだ。なぜならば、オーストリアでは公共の場で顔を隠したり、覆面を被ることは法的に禁止されているからだ。

 「公共の場で顔を覆うことの禁止に関する連邦法」 (Anti-Face-Covering Act – AGesVG)だ。この連邦法の目的は「社会への参加を強化し、オーストリアにおける平和的共存を確保することにより、統合を促進することにある。統合は社会全体に影響を与えるプロセスであり、その成功はオーストリアに住むすべての人の参加にかかっており、個人的な相互作用に基づいています」というのだ。そして「公共の場所や公共の建物で顔の特徴を衣服やその他の物で隠したり隠したりして、顔の特徴を認識できないようにする人は誰でも、行政違反を犯し、最高150ユーロ(約2万1000円)の罰金を科せられます」と明記されている。例外は、「芸術的、文化的、または伝統的なイベント、またはスポーツで顔を隠す場合、パラグラフ1に従って隠蔽することの禁止に違反することはない。もちろん、健康上または職業上の理由から顔を隠す場合は例外」という。同法は2017年10月1日に発効している。マスク着用義務に関連する行政法が失効したと喜んでいたら、顔を隠してはならない覆面禁止法が復活して有効となるわけだ。

 日本の場合、「個人の主体的な選択を尊重し、直用は個人の判断が基本となります」と明記されているから、風邪をひいたので用心のためにマスクを着用していても全く問題にならないが、オーストリアの場合、マスクを着用して地下鉄の乗っていた場合、医者の診断者が求められることが出てくるかもしれない。インフルエンザ予防のためにという理由があれば、問題がないが、そうではない場合、「あなたはなぜ顔を隠すのですか」と不審に思われ、マスク着用している合法的な理由がなければ違反として150ユーロの罰金を取られることになるわけだ。ただし、同国の憲法学者によると、公共交通機関でマスクを着用していたとして、即行政法違反として起訴されることは現時点では考えられないという。

 音楽の都ウィーンを訪問される日本人旅行者はくれぐれも安易にマスクを着用しないようにご注意を。 

米エネルギー省発「WIV流出説」

 米エネルギー省は中国武漢発「新型コロナウイルス」の発生起源が「武漢ウイルス研究所」(WIV)からの流出との結論に至ったという。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは26日、ホワイトハウスと議会関係者に最近提出された機密情報報告書の内容として伝えた。同省の結論は新たな情報に基づいて下されたというが、その詳細な情報は明らかになっていない。生物学研究で高度の研究機関、米国立研究所などを保有するエネルギー省の結論であるだけに、その内容が注目される。

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▲中国武漢ウイルス研究所(WIV)ウィキぺディアから 

 ただ、米政府当局は「最終的結論ではない」という姿勢を崩していない。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は27日の記者会見で、「新型コロナウイルスの起源問題では米政府内でまだコンセンサスはない。調査は継続中だ」と述べている。一方、予想されたことだが、中国外務省の毛寧副報道局長は27日の記者会見で、米エネルギー省のWIV流出説報道について、「中国を中傷し、発生源の問題を政治化するのはやめるべきだ」と反発している。

 中国武漢発の新型コロナウイルスの発生源問題では「自然発生説」( a natural zoonotic outbreak )と「武漢ウイルス研究所=WIV流出説」(a research-related incident)の2通りがある。前者を支持するウイルス学者が多いが、後者を主張する学者も少なくない。

 米上院厚生教育労働年金委員会(HELP)の少数派監視スタッフの共和党議員らが15カ月間にわたり調査、研究して作成した 「COVID-19パンデミックの起源の分析、中間報告」(An Analysis of the Origins of the COVID-19 Pandemic Interim Report)が昨年10月下旬、公表され、関心を呼んだばかりだ。

 同報告書は全35頁、4章から構成され、結論として、「公開されている情報の分析に基づいて、COVID-19 のパンデミックは、研究関連で生じた事件(事故)の結果である可能性が高い」と指摘、「WIV流出説」を支持している。その意味でも、米エネルギー省の今回のWIV流出説は決して突飛なものではない。

 「WIV流出説」については、「武漢で急速に拡大した初期の疫学的状況、最初の救援要請が行われた場所がWIVに近かった」ことの説明がつくとしている。興味深い点は、WIVで過去、少なくとも6件のバイオセーフティで問題があったことを示唆していることだ。報告書によれば、2019年4月24日:補助排気特許(WIVの研究者はBSL3およびBSL4の高封じ込め実験室における負の気圧勾配維持のため補助排気ファンの特許を提出)、同年8月14日には環境空気消毒システムの調達、9月16日には中央空調を、11月19日には空気焼却炉を調達している。そして同年12月1日にはバイオコンテインメント・トランスファー・キャビネットのHEPAフィルターの不具合に関する特許を申請、2020年11月13日には消毒剤製剤特許を、といった具合だ。

 WIVはパンデミックが始まる前は安全性の低い条件下でコロナウイルスに取り組んでいた。口と鼻の保護は義務付けられていなかった。研究者がネズミに噛まれたり、何かが落ちたり、エアロゾルが発生したりする可能性があった。若い従業員が無意識のうちに感染し、症状がなく、他の人に感染させた可能性は十分考えられる。理論的には、無症候性のウイルス感染者が他に感染を広め、数カ月後に武漢の華南生鮮市場で初めてアウトブレイクが発生した可能性が考えられるわけだ。

 報告書は、「ヒューマンエラー、機械の故障、動物の咬傷、動物の脱走、不適切な訓練、不十分な資金と結果に対するプレッシャーは、病原体の流出につながる可能性がある。次に、動物や人間に感染し、実験室からのウイルスの放出につながるわけだ」と記述している。

 そのうえで、「SARS-CoV-2 の起源をより明確に結論付けるためには、重要な未解決問題が明かにならなければならない」として、SARS-CoV-2 の中間宿主種は何か、最初にヒトに感染したのはどこか?、SARS-CoV-2 のウイルス貯蔵庫はどこか?、SARS-CoV-2 は、フリン切断部位などの独自の遺伝的特徴をどのように獲得したか?等々を挙げている。

 報告書でリチャード・バー上院議員(Richard Burr)は、「中国政府および公衆衛生当局からの透明性と協力の欠如がSARS-CoV-2の起源に関してより決定的な結論に到達することを妨げている」と述べ、発生地の中国側の責任を指摘している。

 それだけではない。問題は、対中対策が米国内の問題に左右され、原則が欠如していることだ。だから、辛辣なメディアは「米国の中国政策は国内問題だ」と報じる有様だ。民主党と共和党間には対中国政策に相違がある。それだけではない。中国企業と利害関係のある米政治家、専門家、ロビイストが解決を妨げている。コロナ感染から3年が経過したが、最高の研究機関と人材を誇る米国がウイルス起源問題で今だ結論に至らないのは、中国側の情報隠蔽だけではなく、米国内の親中人脈、政治家、専門家、研究者、ロビイストがブレーキをかけているからだ。ちなみに、米国内でWIV流出説を支持する機関として、連邦捜査局(FBI)のほか、米エネルギー省が加わったことになるわけだ。

 当コラムで何度か指摘してきたが、新型コロナウイルス感染起源を知るうえで貴重な学者がいる。彼らは過去、WIVと接触があり、中国人ウイルス学者、「コウモリの女」と呼ばれている新型コロナウイルス研究の第一人者、WIVの石正麗氏と一緒に研究してきた専門家だ。調査ジャーナリストとして著名なシャリー・マークソン女史(Sharri Markson)は、「中国共産党政権は世界の覇権を握るために世界のグローバル化を巧みに利用し、最新の科学技術、情報を手に入れてきた。武漢ウイルスはそのグローバル化の恩恵を受けて誕生してきたのだ」と述べている(「武漢ウイルス発生源解明は可能だ」2021年11月2日参考)。

 ウイルスの機能獲得研究、遺伝子操作の痕跡排除技術は、米ノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授、そして英国人動物学者で米国の非営利組織(NPO)エコ・ヘルス・アライアンス会長のペーター・ダザック氏らとの共同研究を通じてWIVの石正麗氏が獲得していった内容だ。ダザック氏らは米国の税金でWIVのコウモリ研究を支援してきた。米国の感染症対策のトップと言われるアンソニー・ファウチ博士も、WIVと関係を有してきた。

 ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は南ドイツ新聞(SZ)とのインタビュー(2022年2月9日)で、武漢ウイルスの解明を阻止しているのは中国側の隠蔽姿勢にあると明確に指摘したうえで、「実験を知っていた米国の科学者たちの責任」にも言及している。

 世界で2月末現在、約680万人の犠牲者を出した新型コロナウイルスの起源解明は今後発生するウイルスとの戦いで人類が生き延びていくうえで非常に重要な教訓となる。それゆえに、ウイルス起源の全容解明は急務となるわけだ。武漢発ウイルスの起源解明は米国の「国内問題」ではなく、人類の問題となっているのだ。

コロナ規制は去り、ウイルスは留まる

 オーストリアのヨハネス・ラウフ保健相は1日、閣僚会議後の記者会見で「2020年以来施行してきた新型コロナウイルス規制は6月末をもって終了する。ただ、コロナウイルスは今後も私たちのところに留まるだろう」と述べた。

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▲コロナ規制の完全撤廃を発表するラウフ保健相とエドシュタドラ―憲法担当相(右) オーストリア連邦首相府公式サイトから、2023年2月1日

 閣僚会議で決定した内容は、6月末までに全てのコロナウイルス危機対策を終了すること、コロナ下で実施されてきた予防接種、検査、投薬は、通常の医療システムに統合され、その後はSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)は届出対象疾患から削除される。個々の州が特別なコロナ規制を実施することは認められない(ウィーン市はこれまで他の州のコロナ規制より厳しい対策を実施してきたが、今後は連邦政府の決定に従わなければならない)。

 同保健相は今回の決定の理由として、々駝韻隆屬砲魯灰蹈淵Εぅ襯垢悗旅發ぬ髪屬出来ていること、▲灰蹈兵N徒瑤入手可能となったことを挙げている。ラウフ保健相は、「ウイルスは依然、留まり続けるから、私たちはウイルスと長期的に共存していくことになるが、コロナ規制下の危機モードから抜け出し、通常の業務を開始することになる」と説明した。

 具体的には、4月30日を期して、病院や介護施設などでのマスク着用義務は終る。リスク・グループに対しても同様だ。そして6月30日をもって新型コロナは届出伝染病ではなくなり、陽性者に対して現在実施されている移動規制は終了する。全ての危機管理チームと委員会は解散される。7月1日から完全な正常化となる。

 一方、6月末以降も留まる措置としては、予防接種とコロナ 薬は今後も無料で提供し、コロナ検査は症状のある患者やリスクのある患者には無料で実施するが、予防接種センターは解体される。通常の医療システムに移行する。コロナ薬は社会保険によって支払われ、予防接種の費用は連邦政府、州、および社会保障基金の間で分担されることになっている。

 報告義務が終了した後もパンデミックの経過をフォローするために、全国48カ所の下水処理場の排水の評価とPCRサンプルの分析を実施していく。ラウフ保健相によると、「人口の半分以上がカバーされるように、廃水の監視を拡大する」という。

 同時に、保健省は防疫法の抜本的な改正に取り組んでいる。 同保健相によると、「目標は新しいパンデミック法を作成することだ。関連団体や専門家たちを動員して、年末までに新しい伝染病法の草案をまとめ、審査を受けるようにすることだ」という。

 ラウフ保健相とともに記者会見に出たカロライン・エドシュタドラ―憲法担当相は、「政府のコロナ規制が全て完璧だったわけではない。将来のためにパンデミックから教訓を学ぶべきだ」と強調し、政府が過ちを犯したことを認めている。

 政府の間違いとして、ラウフ保健相は「学校の閉鎖は間違いだった」と述べている。また、「関係大臣、関係省、専門家たちとのコミュニケーションの面でも間違いがあった」と認めている。ただ、ワクチン接種に対する批判に対しては「ワクチン接種は今日まで、新型コロナによる死亡、集中治療室への入院、またはロングコビッドへの感染を防いできた」と指摘し、医療関係者に感謝している。

 参考までに、野党の社会民主党の保健スポークスマンであるフィリップ・クヒェー議員は、「措置を安全に段階的に廃止することは非常にいいことだ。ただ、パンデミックは依然進行中だ。残っているのは、隅々まで亀裂のある医療システムだ。私たちは緊急にパンデミックから教訓を学ぶ必要がある」と述べている。極右政党「自由党」のヘルバルト・キックル党首はコロナ規制の終わりを発表した保健相に対し、「コロナ規制の撤廃という列車は既に出発している。保健相だけが1人プラットフォームに立っていることに気が付いていない」と述べ、コロナ規制の撤廃決定が遅すぎたと批判している。

 なお、保健相がコロナ規制の終わりを発表した日(1日)、オーストリアの1月31日の新規感染者は5361人(死者7人)だった。クリスマス以来の高い数字だ。

 世界を席巻しているオミクロン株は感染力が強いが、致死力はないことから、欧米諸国ではコロナ規制を撤廃してきた。米国発の新しい変異株も感染力は強いが重症化しないという情報があるため、コロナ規制の撤廃は当然のステップだろう。ただ、世界保健機関 (WHO)のテドロス事務局長は先月30日、コロナウイルスのパンデミックにより、宣言された最高の警戒レベル、緊急事態を維持すると発表している。同事務局長によると、「コロナ感染状況は改善されてきたが、過去2カ月間で世界で約17万人がコロナ感染で死去している」という。WHOによると、世界で6億6500万人が感染し、670万人がコロナ感染が原因で死去している。

中国発のコロナ感染の再拡散を防げ

 中国が12月7日、「ゼロコロナ」政策を撤回して以来、従来のコロナ規制をほとんど解除し、海外からの帰国者に対しても検疫要件の終了を決めた。それ以来、中国で新規感染者が急増、死者は増え、火葬場はフル回転。同時に、中国国民にとって一年で最も重要な祝祭日の春節(旧正月)の前後(1月21日〜27日)を控え、海外で過ごす国民が増えることが予想されている。

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▲中国観光客が殺到するスイスの観光地ルツェルン(スイス・インフォから)

 一方、欧州では、コロナ・パンデミックから3年が過ぎ、「コロナ・ウイルスは収束した」という声がウイルス学者の間から出てきた。ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は「コロナ・パンデミックは終わり、通常の風土病となる」と語ったばかりだ。

 「これでコロナ感染前の日常生活を取り戻せる」と思った欧州国民が多かったはずだ。その矢先、多数の中国旅行者が欧州を目指して飛んでくるというニュースが入ってきた。新規感染者が急増し、死者も増えている、という北京からのニュースを受け、欧州諸国は戸惑った。3年前の状況に似ているのだ。

 欧州は2020年上旬、中国共産党政権がコロナウイルス感染の初期データを公表せず、ウイルスの発生源問題も隠ぺい、その結果、コロナ・パンデミックの最初の被害地域となった。欧州でも最初の犠牲地はイタリア北部ロンバルディア地域、特に、小都市ベルガモだった。病院には不気味な呼吸器系疾患を訴える市民が次々と運び込まれ、患者で溢れ、市の火葬場には霊柩車が列を作る。軍トラックが出動して遺体を他の地域に輸送する事態となった。市官製メディアは死者名リストで一杯となった。医者はどの患者を優先して治療し、どの患者を見捨てるかで、生死を決定しなければならないトリアージに追い込まれた。悪夢の日々だった。

 イタリア政府の反応は“それ故に”早かった。同国のメローニ政府は中国からの渡航者に対し、抗原検査の陰性証明書の提示義務を決定するとともに、ブリュッセルに対し「欧州連合(EU)の共通の規制措置を取るべきだ」と要求した。フランス、スぺイン、米国、カナダなどが昨年末、中国からの旅行者にコロナ・ウイルス検査を義務付ける予防措置を導入したのだ。

 北アフリカのモロッコの外務省は12月31日、新型コロナ・ウイルスの感染対策のため中国からの渡航者の入国を1月3日から禁止すると発表した。同国外務省は「国籍に関係なく中国から出発する旅行者はモロッコへの入国を許可されない」と指摘。入国禁止の理由として「Covid-19に関連した中国の健康状況の動向」を挙げている。

 2023年1月1日からEU理事会議長国に就任したスウェーデン政府は、「4日に統合政治危機対応(IPCR)メカニズムの会議を招集する」と発表した。同国政府によると「中国からの感染拡散を防ぐために欧州レベルで入国制限の可能性を視野に入れた統一戦略を検討する。 必要な措置を迅速に導入することが重要だ」という。

 中国からの渡航者への予備措置ではEU27カ国にはまだコンセンサスがない。国内の医療機関が新規感染者受け入れが厳しくなっているフランスやスペインは中国からの渡航者に対し、コロナ感染の陰性証明書の提示やワクチン接種証明を入国時に提示することを要求している。一方、ドイツやオーストリアは特定の国からの渡航者への規制強化には消極的だ。

 ドイツの場合、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党から構成されたショルツ連立政権内では発足当初からコロナ対策ではコンセンサスがない。幸い、ワクチン接種が広がり、国民の免疫が強化されたこともあって、オミクロン株による新規感染者は増加しているが、重症化は少ないことから、コロナ規制は段階的に撤去されてきた。FPDではここにきて「コロナ規制の完全な撤回」を要求する声が高まっている一方、SPDのラウターバッハ保険相は「現時点でコロナ規制の完全撤回は軽率だ」と消極的だ。

 隣国オーストリアは観光国だ。中国旅行者が落とす観光費用は重要だから、中国旅行者に対する検査義務には観光業界、ホテル業界から強い抵抗がある、といった具合だ。

 中国からの渡航者への検査義務などで共通の予防措置が取れない背景には、中国当局からの新規感染に関連するデータが入手できないことだ。中国では感染者は増加しているが、変異株が出てきたという情報はまだない。最悪のシナリオは、感染力があって、致死力のある新しい変異株の登場だ。

 世界保健機関(WHO)は12月30日、中国当局に、国内の新型コロナウイルス感染状況に関するリアルタイムかつ具体的な情報を定期的に共有するよう再度要請した。WHOは中国当局に、入院、死亡、ワクチン接種に関するデータに加え、遺伝子配列データもさらに提供するよう求めている。

 未確認の内部推計によると、中国での大規模な感染で先月最初の3週間に2億4800万人がコロナに感染した。それは人口の18%に当たる。中国南西部の四川省の8100万人の住民、首都北京の2100万人の住民の半分以上が感染しているという。専門家の予測によると、数十万人の死者が予想されている。中国当局は感染者数、死者数の公表を中止したため、感染爆発の全容把握が益々難しくなってきた。

コロナ・パンデミックは収束した

 ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)によると、Covid・19のパンデミックは収束したという。ウイルス学者の教授は26日、独日刊紙「ターゲスシュピーゲル」とのインタビューで、「ドイツで現在、多くの病原体が流行しているが、コロナ・ウイルスはマイナーな役割しか果たしていない。この冬は最初の風土病のCovidの波が来るだろう」と指摘している。

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▲ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(独日刊紙ターゲスシュピーゲル電子版12月26日から)

 同教授は、「今の冬が過ぎると、国民の集団的免疫は非常に広範で弾力性があり、ウイルスは来夏までその感染力を維持できない。唯一の制限はコロナ・ウイルスの変異だが、現時点ではそれも非現実的だ」というのだ。要するに、中国武漢発の新型コロナウイルスは3年後、その牙をを収め、通常の風土病になったというわけだ。ドロステン教授の警告解除表明といえるわけだ。

 コロナのパンデミック終了宣言はドロステン教授だけではない。編集ネットワークドイツ(RND)とのインタビューで、連邦政府のコロナ専門家評議会のメンバーで集中治療医のクリスチャン・カラギアニディス博士は、「小さな波はまだ来るだろうが、コロナのパンデミックは段階的に収束するだろう」と予測している。

 ドイツでは国民の免疫状況は堅調であり、集中治療室にいるCovid患者は大幅に減少している。常設ワクチン接種委員会(STIKO)のトーマス・メルテンス委員長は10月末に、「現在、コロナは風土病だ。パンデミックは主に、人々が免疫学的経験のない世界的に未知の病原体が集団に侵入するという事実によって定義されるが、それはもはや当てはまらない」と語っていた。

 ドロステン教授は今年1月初めに、「年末までにはパンデミックは収束を迎え、風土病的な状況(endemischen Zustand )に近づくだろう」と予測していたから、状況はその通りになってきたわけだ。教授は、「われわれはコロナウイルスを防ぐために全国民に長期的にワクチン接種を持続的に行うことは出来ない。ウイルスは最終的には全ての国民に感染するだろう。それを回避することは出来ない。Sars-Cov-2(新型コロナウイルスの正式名称)を完全に制御下に置くことができると考える人はいたが、それは間違いだ。一方、Sars-Cov-2が無害であると考え、ウイルスの感染による集団免疫説が正しかったという意味ではない」という。(「『パンデミック』から『風土病的状況』へ」2022年1月18日参考)。

 教授の説明によると、ワクチン接種を進めながら、コロナ感染の爆発をコントロールしていき、ワクチン接種率がある段階に到達すれば、ウイルスに感染の自由ハンドを与え、人間は免疫力を更新していく。そしてウイルスと人間が共存できる段階に入っていくというシナリオだろう。その段階になれば、コロナウイルスはパンデミックではなく、風土病的な状態に置かれるわけだ。

 ドロステン教授のコロナウイルスのパンデミック収束宣言を受け、ブッシュマン法相は、「コロナ規制の完全撤廃を実施すべきだ」と要求している。

 懸念材料は中国のコロナ感染状況だろう。12月7日、中国は習近平国家主席の「ゼロコロナ」政策から規制緩和に乗り出してきたが、ここで新規感染者が爆発的に急増してきていることだ。中国製ワクチンの効果を疑う声すら聞かれる。米国からワクチン提供の申し出もあったが、中国側はこれまでそれを断っている。

未確認の内部推計によると、中国での大規模な感染で今月最初の3週間に2億4800万人がコロナに感染した。それは人口の18%に当たる。中国南西部の四川省の8100万人の住民、首都北京の2100万人の住民の半分以上が感染しているという。病院は過密状態にあり、多くの火葬場では死体を十分に迅速に火葬することができなくなっているというのだ。専門家の予測によると、数十万人の死者が予想されている。中国当局は感染者数、死者数の公表を中止している。感染の爆発で全容を掌握することが難しくなってきたからだ。中国で数億人の感染者が出てくれば、ウイルスの変異株が生まれる可能性も完全には排除できないから、要注意だ。

 新型コロナウイルスの感染起源問題は感染から3年が過ぎた現在もまだ全容解明されていない。中国側が感染初期段階のウイルス・データを公表拒否していることが最大の理由だ。パンデミック3年目に入って、欧米ではパンデミック収束宣言が飛び出してきた一方、中国共産党政権はこれまで「ゼロコロナ」でコロナ根絶で成果を上げたと自負してきたが、感染者が爆発的に増加し、対応に苦慮している。

 ちなみに、ドロステン教授は中国の感染状況について、「中国の大きな過ちは、国民、特に高齢者の間でワクチン接種に対する意識がなかったことだ。一方、ドイツやヨーロッパでのワクチン接種キャンペーンは、パンデミックと戦うための決定的なステップだった」(ターゲスシュピーゲル紙)と述べている。

 コロナウイルス発生起源問題の全容解明には中国の協力が不可欠だ。ウイルス感染症の戦いは人類の戦いであり、国や体制の壁を越えて連帯しなければならない。これが、世界で27日現在、累計感染者数約6億5990万人、死者数668万8524人を出した中国発のコロナ・パンデミックの教訓だったはずだ。

米上院委報告書「武漢流出説」を支持

 中国武漢発の新型コロナウイルスの発生源問題では「自然発生説」( a natural zoonotic outbreak )と「武漢ウイルス研究所=WIV流出説」(a research-related incident)の2通りがある。前者を支持するウイルス学者が多いが、後者を主張する学者も少なくない。このほど米上院厚生教育労働年金委員会(HELP)の少数派監視スタッフの共和党議員らが15カ月間に渡り調査、研究して作成した 「COVID-19パンデミックの起源の分析、中間報告」(An Analysis of the Origins of the COVID-19 Pandemic Interim Report)が10月下旬、公表された。

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▲報告書 「COVID-19パンデミックの起源の分析、中間報告」

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▲初期の感染状況、華南海鮮市場と武漢中心部にある武漢ウイルス学研究所(報告書9頁から)

 同報告書は全35頁、4章から構成され、第1章は「自然人畜共通起源仮説の分析」、第2章は「研究関連のインシデント仮説の分析」、第3章は「中国の初期のCOVID-19ワクチン開発と米国の作戦ワープ速度」、第4章は「研究関連のインシデントが SARS-CoV-2 の起源である可能性が高いという評価の根拠」だ。結論として、「公開されている情報の分析に基づいて、COVID-19 のパンデミックは、研究関連で生じた事件(事故)の結果である可能性が高い」と指摘、「WIV流出説」を支持している。

 「人畜共通起源説」の支持者は、自然界の2002年から04年のSARS発生で実証されたように、人獣共通感染症のスピルオーバーがパンデミックの原因と主張する。報告書は、「新型コロナが、動物を宿主として自然発生したものなら、ウイルスが人から人へと感染する前に、動物の間で感染した痕跡がなければならないが、最初の人への感染前に動物が新型コロナに感染した証拠はない」と指摘、「中国南部、東南アジアに生息するキクガシラコウモリから発生した可能性はあるが、どのようにして1000キロ以上も離れた武漢に移動し、感染していったかの説明はない」と、自然発生説に否定的な見方を示している(6頁)。中国の当局者と科学者も、「COVID-19以前にSARS-CoV-2に感染した動物は1例も発見されていない」と世界保健機関(WHO)に報告している(10頁)。

 「WIV流出説」については、「武漢で急速に拡大した初期の疫学的状況、最初の救援要請が行われた場所がWIVに近かった」ことの説明がつくとしている。興味深い点は、WIVで過去、少なくとも6件のバイオセーフティで問題があったことを示唆していることだ。報告書によれば、2019年4月24日: 補助排気特許(WIV の研究者はBSL3およびBSL4の高封じ込め実験室における負の気圧勾配維持のため補助排気ファンの特許を提出)、同年8月14日には環境空気消毒システムの調達、9月16日には中央空調を、11月19日には空気焼却炉の調達している。そして同年12月1日にはバイオコンテインメント・トランスファー・キャビネットのHEPAフィルターの不具合に関する特許を申請、2020年11月13日には消毒剤製剤特許を、といった具合だ。

 WIVはパンデミックが始まる前は安全性の低い条件下でコロナウイルスに取り組んでいた。口と鼻の保護は義務付けられていなかった。研究者がネズミに噛まれたり、何かが落ちたり、エアロゾルが発生したりする可能性があった。若い従業員が無意識のうちに感染し、症状がなく、他の人に感染させた可能性は十分考えられる。理論的には、無症候性のウイルス感染者が他に感染を広め、数カ月後に武漢の華南生鮮市場で初めてアウトブレイクが発生した可能性が考えられるわけだ。

 報告書は、「ヒューマンエラー、機械の故障、動物の咬傷、動物の脱走、不適切な訓練、不十分な資金と結果に対するプレッシャーは、病原体の流出につながる可能性がある。次に、動物や人間に感染し、実験室からのウイルスの放出につながるわけだ」と記述している(13頁)。例えば、1977年のインフルエンザA(H1N1)パンデミックは研究関連の事件の結果と言われている。武漢のWIVはコロナウイルス研究の世界的なハブだ。

 報告書は結論として、「新規病原体の起源に関するWHO科学諮問グループ、COVID 19 ランセット委員会、および米国国家情報長官の90日評価に関する米国事務局が指摘したように、COVID-19の起源に、決定的ではないにしても、より正確に到達するにはより多くの情報が必要だ。COVID-19 パンデミックへの対処と作業に携わるリーダー、公衆衛生当局、科学者は将来のパンデミックを防ぐために、より高い透明性、関与、および責任にコミットする必要がある」と記述。そのうえで「公開されている情報の分析に基づいて、COVID-19 のパンデミックは、研究関連の事件の結果である可能性が高い。新しく公開され、独立して検証可能な情報は、この評価を変更する可能性はある。しかし、自然人獣共通感染症の起源の仮説はもはや説得力を失っている」と強調している(26頁)。

 そのうえで、「SARS-CoV-2 の起源をより明確に結論付けるためには、重要な未解決問題が明かにならなければならない」として、SARS-CoV-2 の中間宿主種は何か、最初にヒトに感染したのはどこか?、SARS-CoV-2 のウイルス貯蔵庫はどこか?、SARS-CoV-2 は、フリン切断部位などの独自の遺伝的特徴をどのように獲得したか?

 参考までに、3人の独学者チームがSars-CoV-2のゲノムに一種の「指紋」を発見している。ウイルスのゲノムで定期的に繰り返されるパターンだ。Sars-CoV-2 などのRNAウイルスを遺伝子操作する研究所は、最初に個々のDNAビルディングブロックからゲノムを組み立てる。目に見える「認識部位」が構成要素の接合部近くのゲノムに残る。独特の規則的なパターンだ。すなわち、人工的に作成されたウイルスとそれらの自然な「モデルウイルス」のゲノムを比較した。「自然界のウイルスでは、認識部位は完全にランダムに分布している。しかし、遺伝子操作で構成されたウイルスの場合、生産に関連した特定のパターンで現れる。このパターンはSars-CoV-2にも見られる。自然の進化が偶然にこのパターンを生み出す確率は、せいぜい100分の1であり、おそらくそれよりはるかに少ないといわれていることから、新型コロナウイルスが人工的ウイルスだというわけだ(「独学者『武漢研究所が起因』」2022年10月25日参考)。

 なお、報告書でリチャード・バー上院議員(Richard Burr)は、「中国政府および公衆衛生当局からの透明性と協力の欠如がSARS-CoV-2の起源に関するより決定的な結論に到達することを妨げている」と述べ、発生地の中国側の責任を指摘している。

独学者「武漢研究所が起因」

Sars-CoV-2 に遺伝子操作の痕跡

 ドイツ民間ニュース専門局「ntv」を視ていた時、「ドイツの学者が新型コロナウイルスの武漢ウイルス研究所(WIV)発生説を確認」といったテロップが流れてきた。中国武漢発の新型コロナウイルスの発生源問題では「自然発生説」と「WIV流出説」の2通りがある。前者を支持するウイルス学者が多いが、後者を主張する学者も少なくない。それだけに、3人の独学者チームの今回の発表に驚いた。何を見つけたのだろうか。

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▲中国武漢ウイルス研究所(WIV)ウィキぺディアから 

 そこで早速、ntvのウエブ・サイトから上記の報道関連記事(10月23日付)を探して読んだ。記事の見出しは「Deutscher Forscher: Sars-CoV-2 kommt zu 99.9 Prozent aus Labor」(ドイツの学者、Sars−CoV2(新型コロナウイルス)は99・9%研究所から起因」とかなりセンセーショナルだ。

 記事は、「ウイルスのゲノムにおける遺伝子操作の『指紋』を発見した。ウイルスは中国のWIVからきた可能性が高い」というのだ。オンラインに公表された研究内容のプレプリント(査読前論文)によると、3人の学者はSars-CoV-2が特別に遺伝子組み換えされて出てきたウイルスであるという。すなわち、自然のウイルスではなく、人工ウイルスというわけだ。

 独チームの3人のうち、中心的学者、ヴュルツブルク大学病院に勤めるヴァレンティン・ブルッテル博士は同僚と共に、ドイツのバイオテクノロジーの日で今年のイノベーション賞を受賞した学者だ。同博士は昨年の夏にはSars-CoV-2 のゲノムの異常に気づいたという。

 ブルッテル氏は、「他の分子的手がかりと組み合わせると、このウイルスが 99・9%人工的で、おそらく操作された天然ウイルスのコピーであることを示している」と、「ntv」局とのインタビューの中で語った。ウイルスのコピー方法は、個々のウイルス研究所が合成ウイルスを作成するために使用するものと類似している。これらの技術は日常の業務でも使用されているやりかただ。同博士自身、自己免疫疾患のための「完全に無害な」タンパク質ベースの薬を開発するためにこの技術を利用しているという。

 研究者チームは、Sars-CoV-2のゲノムに一種の「指紋」を発見した。 ブルッテル氏 によると、これはウイルスのゲノムで定期的に繰り返されるパターンだ。Sars-CoV-2 などのRNAウイルスを遺伝子操作する研究所は、最初に個々のDNAビルディングブロックからゲノムを組み立てる。目に見える「認識部位」が構成要素の接合部近くのゲノムに残る。独特の規則的なパターンだ。

 研究者チームは、人工的に作成されたウイルスとそれらの自然な「モデルウイルス」のゲノムを比較した。「自然界のウイルスでは、認識部位は完全にランダムに分布している。しかし、遺伝子操作で構成されたウイルスの場合、生産に関連した特定のパターンで現れる。このパターンはSars-CoV-2にも見られる。自然の進化が偶然にこのパターンを生み出す確率は、せいぜい100分の1であり、おそらくそれよりはるかに少ない」という。

 ブルッテル氏によると、「研究結果からSars-CoV-2 が実験室での事故によって放出された可能性があり、それが最終的に世界的なパンデミックを引き起こした可能性が考えられるわけだ。米国でも高セキュリティの研究所で危険な事故がほぼ毎週発生している。WIVはパンデミックが始まる前は安全性の低い条件下でコロナウイルスに取り組んでいた。口と鼻の保護は義務付けられていなかった。研究者がネズミに噛まれたり、何かが落ちたり、エアロゾルが発生したりする可能性があった。 若い従業員が無意識のうちに感染し、症状がなく、他の人に感染させた可能性は十分考えられる。理論的には、無症候性のウイルス感染者が他に感染を広め、数カ月後に武漢の華南生鮮市場で初めてアウトブレイクが発生した可能性がある」というのだ。

 同研究内容が報じられると、世界のウイルス学者たちから批判にさらされている。WIV流出説に対して最も批判的な学者の1人、カリフォルニア州ラ・ホーヤにあるスクリプス研究所の有名な免疫学者クリスチャン・アンダーセン氏はドイツの免疫学者の研究を「ばかげている」と一蹴し、「分子生物学の幼稚園を通過することさえできないほど欠陥がある。 Sars-CoV-2ゲノムにはランダムノイズのみが見られるのだ」と指摘している。

 また、ドイツのウイルス学者、ギーセン大学ウイルス研究所を率いているフリーデマン・ウェーバー氏は(ブルッテル氏らが言及した)痕跡を残さずにウイルスを遺伝子操作することは「可能だ」と強調している。ちなみに、遺伝子操作の痕跡排除技術は米ノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授らが開発し、それを「コウモリの女」と呼ばれている新型コロナウイルス研究の第一人者、WIVの石正麗氏が取得した経緯がある。

 ブルッテル氏は、「人工ウイルスによって偶発的に引き起こされたパンデミックのリスクは過小評価されている。人工的に生成された多くのウイルスは、Sars-CoV-2 よりも何倍も致命的だ」と指摘し、一部のウイルス学者たちが研究している「機能獲得研究」の危険性について警告している。

中国「ゼロコロナ」は何を意味するか

 10月に入り、本格的な秋となった。季節感が乏しくなったといわれるこの頃だが、秋はやはり到来している。早朝の駅周辺は仕事に行く労働者の姿が薄闇の中でよく見えなくなった。1カ月前だったら彼らの姿は朝の光で浮かび上がったが、10月に入ると暗闇に早足で歩く音しか聞こえない。もう1カ月もすれば、朝5時頃は真っ暗だろう。気温も下がってきた。

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▲新型コロナウイルス(covid-19)オーストリア保健・食品安全局(AGES)公式サイトから

 テレビのニュース番組を観ていると、よく知られるウイルス学者が登場し、新型コロナウイルスの新規感染者が増加してきていると指摘、FFP2マスクの着用を推奨していたが、コロナ元年の2020年や昨年のように強いアピールではなく、自己責任でマスクを着用することを勧める、といった少々腰が引けたメッセージだ。

 もちろん、それなりの理由はある。欧州を席巻しているオミクロン株は感染力はあるが、致死力は低く、感染しても重症化しないといったデータがあるからだ。気の早い学者は「コロナ感染はインフルエンザと同じ」と主張している。ロックダウン(都市封鎖)の日々を体験した国民はそれを聞いて安堵する。

 ところで、新型コロナウイルスの発祥地ともいうべき中国では習近平国家主席が「ゼロコロナ」政策を依然実施している。世界第2の経済大国に発展した中国共産党政権にとって国民経済の発展は不可欠だ。「ゼロコロナ」政策はその経済発展にはマイナスとなることは明らかだ。欧州諸国がここにきてコロナ規制の全面撤回を決定したのは、コロナ規制が国民経済の発展を阻害するからだ。経済界、ビジネス界からコロナ規制の撤回の声は久しく聞かれた。

 中国でもオミクロン株が主流と思うが、なぜ習近平主席は「ゼロコロナ」に拘るのだろうか。習近平主席はコロナ元年から2年間あまり外遊を控えてきた。ここにきてようやく必要最小限の海外訪問をこなしだしたが、主流は依然オンライン会議、ビデオ演説だ。対面会議を避けているのだ(「外遊できない国家元首の様々な理由」2021年10月17日参考)。

 ロイター通信が上海発で13日報じたところによると、「中国では新型コロナウイルスの新規感染者が9月の2倍に増加しており、ゼロコロナ政策は当面続くとみられている」という。国家衛生健康委員会によると、12日の新規感染者(無症状感染者を含む)は1624人。前日は1890人で、9月後半の平均900人から倍増している。欧州の新規感染者数と比較すると、中国の数字は限りなくゼロに近い。

 習近平主席が人並み外れて用心深いのかもしれないが、当方は「ひょっとしたら習近平主席は武漢発の新型コロナの正体を知っているのではないか」といった疑問をもっている。中国共産党政権は過去、武漢ウイルス研究所(WIV)のウイルス流出説に対しては必死に否定してきた。欧米諸国でオミクロン株は重症化リスクが少ないというデータに基づいてコロナ規制を緩和したが、中国側には別のデータがあるのではないか、といった憶測が流れている。

 人口14億人の中国では感染力のあるオミクロン株が急速に拡散する危険性は大きい。そして重症化リスクが少ないとはいえ、感染が広がることで新しいタイプのコロナウイルスが生まれてくる危険性は大きい。致死力のあるデルタ株に感染力のあるオミクロン株が合流し、ワクチン接種を無効化する新コロナウイルスが近い将来、登場してくるかもしれない、という声はウイルス学者の中には少数派だが聞かれる。

 習近平主席は黙っているが、コロナウイルスはこれからその牙を剥き出す段階に入ってきているのではないか。それゆえに、国民経済のブレーキと分かっていても「ゼロコロナ」政策を継続していかなければならないのではないか。

 欧米諸国のメディアはロシアのウクライナ侵攻問題に集中し、コロナウイルスの起源問題は忘れてしまった。中国側のプロパガンダと偽情報工作の効果もあって、もはやコロナウイルスの起源問題を真剣に調査している学者、メディアは少なくなった。それゆえに、中国共産党政権、習近平主席の「ゼロコロナ」政策が逆に不気味となってくるのだ。世界の覇権を狙う中国は本来、国民経済のさらなる発展に力を注ぐべきにもかかわらず、そして国民から「ゼロコロナ」政策への不満の声が高まっているにもかかわらず、「ゼロコロナ」政策に固執しているのだ。その頑固さに疑問をもつべきだろう。

 ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は、「武漢から公表されたプロジェクトから危険な実験が行われたことが分かるが、その実験でSars−2が生まれてはこない。科学者たちはコウモリに新しい特性を組み込んだだけで、それをSarsCov−2の前身とみなすことは出来ない。遺伝子工学を使用して新しいスパイクタンパク質がコウモリウイルスに組み込まれた機能獲得実験で、ウイルスはよりよく増殖する可能性があることを示している。コロナウイルスはスパイクタンパク質にフューリン切断部位(PRRAR)を持っている。コロナウイルスの発生源問題では自然起源がはるかに可能性は高い。WIV起源説を完全に除外したくはないが、それは現在時点では一つの可能性だ。いずれにせよ、中国が全面的に協力した場合にのみ、全容が明らかになるが、残念ながら、中国側は実験内容の全容を隠蔽している」と述べている(南ドイツ新聞とのインタビュー=2月9日の中で答えたもの)。

 コロナ感染3年目を迎えた今日、WHO(世界保健機関)は今こそ中国共産党政権にWIVでの実験データの全容開示を強く要求すべきだ。メディアもコロナウイルスの発生問題を解決済みとはせず、機会あるたびに追及すべきだ。コロナウイルスは14日の時点で世界で6億2400万人が感染し、657万人以上の犠牲者が出ている(「武漢ウイルス発生源解明は可能だ」2021年11月2日参考)。 

マスク着用義務論争がまた始まった

 中国武漢発の新型コロナウイルスが感染拡大し、欧州に飛来して以来、マスクは常に議論の対象となってきた。日本人にとってマスク着用はとりたてて抵抗がないが、欧州ではマスク着用は顔を隠すもので、不自然なものといった考えが強く、「マスクはアジア文化に属する」といった文化論すら一時期飛び出した。2022年に入り、コロナ禍は3年目に入った。ワクチン接種が進み、ウイルスの感染による重症化リスクが少ないオミクロン株が席巻して以来、欧州ではFFP2マスクの着用を含むコロナ規制はほぼ全面的に解除されていった。

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▲FFP2マスク

 ところが、夏季休暇を終え、10月に入って欧州ではコロナの新規感染者が急増し、今月末には感染のピークを迎えるだろうと予想するウイルス学者も出てきた。同時に、病院入院患者数も急増ではないが、次第に増えてきた。そこで欧州では再びマスク着用を義務付けるべきだという声が高まってきたわけだ。マスクのカムバックだ。

 コロナ予測コンソーシアムによると、オーストリアでは今後2週間で集中治療室患者(ICU)は130人から200人まで、通常の入院患者数は2360人から3900人に増えると予測している。今月12日現在、新規感染者数は1万8465人、ICU患者数は130人、通常入院患者数は2418人だ。病院スタッフ不足が見られだした一方、学校では10人に1人の教師が病気欠勤だという。ちなみに、ドイツでは、ロバート・コッホ研究所が約2週間前に「インフルエンザ感染症が今年、広がってきている」と報告している。コロナ感染とインフルエンザのダブる流行が予想される、というわけだ。

 ところで、マスクが欧州で定着してからまだ2年半余りしか経過していない。オーストリアのウイルス学者は過去、「マスクは自分をウイルスから守る一方、他者にウイルスを感染させないといったデユアル・ユースの目的がある」と説得し、マスクの利他的効用を強調してきた。その効果もあってマスクは欧州社会で一定の認知を得てきた経緯がある。

 オーストリアでマスク再導入に消極的なのはネハンマー首相を中心とした与党「国民党」と経済商工会議所やビジネス界だ。マスク再導入の義務化を支持しているのはウイルス学者や医療関係者のほか、野党第一党の社会民主党、国民党の政権パートナーの「緑の党」だ。ただし、同党出身のラウフ保健相はマスク再導入に対してまだ立場を明確にしていない。リベラル派政党のネオス、極右政党自由党はマスク着用義務化には強く反対している、といった具合だ。いずれにしても、今月23日までに公共交通機関や日常消費財を扱うスーパーでのマスク着用義務化を実施するかどうかを決定することになっている。

 今年1月20日、欧州初のワクチン摂取義務法案を可決し、その後、同法の施行を停止したオーストリアでは6月に入って新型コロナの新規感染者が徐々に増え、6月末には1万人の大台に入った。入院患者数や集中治療患者数にはまだ大きな増加は見られないことから、国民の間には今年1月、2月のような緊迫感は見られなかった。しかし夏季休暇後、9月末から10月に入り、新規感染者数は遂に1万8000人を超えたが、政府も国民も極めて冷静だ。“コロナ慣れ”というべきか、コロナ感染の危機感の希薄化というべきかもしれない。

 感染の主流ウイルスはオミクロン株の新系統「BA.4」と「BA.5」。オミクロンBA.1に感染し、免疫を得た回復者もオミクロンの新しい亜系統(BA.4およびBA.5)によって引き起こされる症候性疾患に対しては限定的にしか防御できない、というデータが出てきている。

 ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(ベルリンのシャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は独週刊誌シュピーゲル(6月25日号)の中で、「新系統のウイルスは肺器官まで入って感染拡大はせず、呼吸器官上部に留まっている。だから重症化はしないが、免疫が出来ないから何度も同じウイルスに感染する」と説明している。

 新型コロナウイルスの感染初期、ウイルス学者の中には集団免疫論者が、「コロナ規制を廃止し、ウイルスに感染を委ねるべきだ。それによって時間の経過と共に社会に集団免疫ができるからだ」と主張してきた。当時はまだデルタ変異株など致死率の高いウイルスが席巻していたこともあって、集団免疫説は、「一定の犠牲者を甘受する政策だ。人道的にみても良くない」と反発するウイルス学者が多かった。

 その学者間の論争はオミクロン変異株が登場して変わってきた。オミクロン株は感染力が強いが、致死率はデルタ株より少ないからだ。そこで集団免疫論が再び復活してきたわけだ。国もワクチン学者も口には出さないが、「ワクチン接種を拒む国民がいる以上、一定の犠牲者(主に未接種者)を甘受しなければならない。ロックダウンを避け、国民経済を活性化していく」という方向に転換してきているわけだ。

 コロナはここにきて「許容範囲内の病気であり、インフルエンザなどの他の呼吸器疾患と同じだ」といった声が強まってきている。「ゼロコロナ」から「ウイズコロナ」に移行し、ワクチン、薬も出てきたことからコロナウイルスは「パンデミック」から「風土病的状況」へ変わってきているわけだ。そのような中で、マスク着用義務化はハードルが2年前より高くなっていることは間違いない。

脅迫メールの「悲しき結末」

 オーストリアのオーバーエステライヒ州で1人の女性医師(リザ・マリア・K、診療医、36歳)が7月29日、診察室で亡くなっているのが発見された。遺書とみられるものが残されていたことから自殺と判断された。コロナ規制の実施とワクチン接種の重要性を訴えてきた医師は新型コロナウイルスの感染が広がって以来、コロナ規制、ワクチン接種に反対する一部の市民から激しく批判され、殺すぞといった脅迫メールを何度も受け取っていた。その女性診療医の突然の死が報じられると、国民に大きな驚きとショックを与えている。

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▲コロナ規制反対者の脅迫メールで自殺に追い込まれた女医師の悲劇を報じるオーストリアの「クローネ日曜版」(7月31日付)

 医師は生前、地元の警察に連絡し、身辺の安全を守ってほしいと要請。警察当局は医師の要請を受け取ったが、脅迫メールの発信先の調査などにはあまり真剣に取り組まなかった。そこで医師はボデーガードを雇ったが、経済的な理由から長くは雇用できず、最終的には治療活動の中断に追い込まれていった。

 医師はメディアに窮状を訴えたが、脅迫メール、憎悪メールはその後も何度も届き、医師は精神的にまいっていたという。医師の知り合いは、「脅迫メールを彼女は真剣に受け取り、かなり悩んでいたことは知っていたが、そこまで追い詰められていたとは理解していなかった」と述べている。

 オーバーエステラヒ州には「ワクチン接種反対」を党の公約に掲げる政党「MFG」が結成され、昨年9月26日の州議会選挙で議席を獲得するなど、ワクチン接種やコロナ規制に強く反対する国民が多いことで知られている。

 オーバーエステライヒ州だけではない。チロル州でも女性ウイルス学者が脅迫メールを受け取っている。テレビで著名なウイルス学者は病院の外に出ると嫌がらせやジュースをかけられるなど危険を感じることが多く、「外出する際はカツラをつけて変装する」という。同学者は、「自分は新規感染者が増加しているので、チロル州もロックダウンを早急に実施すべきだと発言したことがあった。それ以後、脅迫メールなどが送られてきた」という。「ウイルス学者という職業がテロリストの襲撃対象となるとは考えてもみなかった」と語っている。

 また、ウィーンの欧州最大の総合病院AKH病院関係者が昼休みにワクチン接種を国民に訴えるために病院前に集まっていたところ、コロナ規制とワクチン反対者が同集会に向かって暴言を吐き、唾をかける者も出た。注目すべき点は、コロナ規制やワクチン接種義務化に反対する人たちの攻撃対象が政府関係者だけではなく、コロナ感染者を昼夜ケアする医師や看護師たちに向けられていることだ。警察は病院を警備しなければならなくなった。

 ところで、オーバーエステライヒ州は国民党と極右政党「自由党」の連立政権だが、ハイムブーフナー同州自由党党首がコロナに感染し、集中治療室で治療を受けたことがあった。同州党首は生死の戦いを乗り越えてコロナから回復した。自由党は政府のコロナ規制に反対し、ワクチン接種も反対してきた。その自由党の幹部の1人の同州党首が自身の体験からワクチ接種やコロナ規制の重要性を公の場で表明していたならば、今回の女性診療医のような悲劇は起きなかったかもしれない。自由党は同州党首のコロナ感染からの回復後もワクチン接種、コロナ規制に強く反対するコロナ政策を変えていない。 

 コロナ規制反対者はオーストリアやドイツだけではない。欧州各地で見られる。彼らは単にコロナ規制に反対するだけではなく、脅迫メールなどを送り、政治家や医療関係者に身体的な暴力すら行う傾向がみられる。

 ちなみに、オーストリアではコロナ感染の3年間で3人の保健相が職務途中で辞任していった。ミュックシュタイン前保健相は最後の記者会見で、「これ以上保健相を務めることはできない。家族や個人への脅迫に耐えることができなくなった」と正直に述べている。辞任理由は連立政権内でのコロナ政策の対立ではなく、コロナ規制反対者たちからの脅迫だったというのだ。

 憎悪という感情は破壊的エネルギーをもち、感染しやすい。その憎悪メールや脅迫メールをもらった側は動揺するものだ。匿名で相手を脅迫したり、憎悪メールを送ることが相手を傷つけ、時には生命の危険をも引き起こすことが今回の女性診療医の死で改めて明らかになったわけだ。

 昨年12月19日、ウィーン市のリンク通りにはコロナウイルスの感染で亡くなった約1万3400人を追悼するとともに、コロナ患者の看護に従事する医師、看護師、奉仕活動家などに感謝を表明する「光の鎖」(Lichterkette)が行われた。同国ではコロナ規制で支持派と反対派で国民は2分されてきている。

 オミクロン株の新しい亜系統(BA.4及びBA.5)は感染力は強いが、重症化のリスクは少ないといわれている。だが、夏季休暇後の9月以降、コロナが再び猛威を振るうのではないかと懸念されている。

 なお、ウィーン市の中心地にあるシュテファン大聖堂前で1日午後8時半から亡くなった女性医師を慰霊するロウソク集会が行われる。亡くなった医師は、「私にとって患者を救済することが最大の願いだったが、今の状況ではその役割を果たすことが出来なくなった」と嘆いていたという。
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