ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ベルギー

ベルギーで「安楽死」が急増

 ベルギー議会に今年6月提出された国家安楽死監視委員会の「最新安楽死報告」(2016〜17年)によると、2004年には349人だった安楽死数が16年には2028人に急増し、昨年は2309人に増えた。

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▲ベルギーの17歳の安楽死を報じるオーストリア国営放送のサイト(2016年9月25日)

 ベルギーでは2002年9月以来、一定の条件をクリアした場合、安楽死が合法的に認められるようになったが、その件数は年々増加してきた。ベルギーで2016年までに安楽死した総件数は1万2762件だ。

 バチカン日刊紙オッセルバトーレ・ロマーノ(8月11日付)は、「ベルギーでは毎日6人から7人が注射で安楽死していることになる。ベルギーの人口は約1100万人だ。ベルギーの安楽死者数をイタリアの人口比でいえば、1万4000人に相当する。すごい数だ」と報じる一方、「懸念される点は16年から17年の間で安楽死した約15%は近いうちに死が予想された患者ではなかったことだ。彼らは痛みを緩和する治療を受けるなど、多くのことができたはずだ」と指摘している。

 ところで、ベルギーでは過去3年間で3件の未成年者の安楽死が実施されている。3人は不治の病にあって、近い将来亡くなることが予想された。3人は9歳、11歳、そして17歳だった。

 未成年者の安楽死の3件のうち、2件は2016年、1件は17年に実施された。最初の患者は不治の代謝性疾患・嚢胞性線維症(Stoffwechselerkrankung Mukoviszidose)、2人目は悪性頭部腫瘍、そして3人目はデュシェンヌ筋ジストロフィー (Duchenne-Muskeldystrophie)だった(「ベルギーの安楽死法は悪魔の囁き?」2014年2月17日参考)。


 ベルギー議会(下院)では2014年2月13日、18歳未満の未成年者への安楽死を認める法案が賛成86票、反対44票、棄権12票で採択された。ベルギーは未成年者の安楽死を認めた最初の国となった。

 同法案は安楽死の年齢制限を撤廃し、医者と両親、そして未成年者の3者の合意があれば、18歳未満の未成年者の安楽死が合法化する。同国では2002年、安楽死法を採択済みで、安楽死は合法化されたが、年齢制限があった。ちなみに、オランダの安楽死法では安楽死は12歳以上と年齢制限がある。ベルギーの新法案は世界で最もリベラルな安楽死法といわれている。

 安楽死は、注射などで実施する「積極的な安楽死」と、延命措置の停止などで死に到らせる「消極的な安楽死」に分けられている。前者の安楽死を公認している国は欧州連合(EU)ではオランダ、ルクセンブルク、そしてベルギーの3国だ。一方、後者の安楽死を認める国は年々増えてきている。

 欧州連合(EU)以外の欧州では、スイスに医療による回復が期待できない患者の希望を受け入れて、安楽死を援助する組織「Dignitas」(チューリヒ市)が存在する。自殺幇助が容認されているスイスでは毎年、欧州全土から安楽死を願う患者やその家族が集まる。スイスでは自殺幇助グループ・エグジットが存在する。

 ベルギーの報告書は、「国民の高齢化で安楽死を求める国民が急激に増えることが予想できる」と指摘している。実際、同国の場合、安楽死の15%は死の病ではない患者、例えば、失明、聴覚不能、筋肉が動かない、そして最近ではデメンツ(認知症)の患者だったという。

 安楽死の場合、その法的条件は「患者が耐えられない痛みで苦しんでいる場合」となっているが、その定義は主観的であり、曖昧だ。


 安楽死問題は非常に難しい。個々のケースを慎重に考えなければならないからだ。無意味な延命措置は非人間的である一方、「生命の尊厳」という譲れない部分があるからだ。
 欧州の主要キリスト教会のローマ・カトリック教会は「人間の生命は神聖であり、死の床は人間の尊厳に関る瞬間である」と説明し、安楽死には反対している。

 人間は肉体的な存在だけではなく、霊的な存在でもあるから、「生命の尊厳」は、霊肉両面の尊厳を考慮しなければならない。同時に、安楽死も霊肉両面の観点から慎重に考えなければならないテーマだろう。

ベルギーの安楽死法は悪魔の囁き?

 ブリュッセルのベルギー議会(下院)で13日、18歳未満の未成年者への安楽死を認める法案が賛成86票、反対44票、棄権12票で採択された。同国上院は昨年11月、既に採択済みだ。フィリップ国王の署名を受けてから成立する。

 同法案は安楽死の年齢制限を撤廃し、医者と両親、そして未成年者の3者の合意があれば、18歳未満の未成年者の安楽死が合法化する。同国では2002年、安楽死法を採択済みで、安楽死は合法化されたが、年齢制限があった。
 オランダの安楽法では安楽死は12歳以上と年齢制限があるから、ベルギーの新法案は世界で最もリベラルな安楽死法となる。

 新安楽死法に対して、「未成年者は自身の病が治癒可能かどうか判断が難しいのではないか」「医者と両親が相談し、未成年者の生命を一方的に奪ってしまう危険性が排除できない」など指摘する声もある。その一方、治癒不能な病にある未成年者の中には「自分が家族の重荷となっている。死んだほうが家族のためになる」と判断するケースが出てくるかもしれない。

 同国の185人の小児科医が「未成年者への安楽死を合法化すれば、両親の苦しみを更に深めるだけだ」と疑問点を明記した公開書簡を発表している。

 安楽死法反対派にとって、フィリップ国宝が署名拒否することを期待しているが、ベルギーでは70%以上の国民が安楽死法案を支持しているという世論調査結果が報じられている。だから、国王の署名拒否は非現実的だろう。

 ベルギーでは2012年、1432人が安楽死を行った。その数は全死者数の2%に該当する。オランダでは2012年は前年度比で13%増で4188人が安楽死した。その数は年々増加している。

 ローマ・カトリック教会のベルギー司教会議議長レオナール大司教は、「新法は苦しむ人間への人々の連帯を葬るものだ」と主張、安楽死法案に強く反対しているが、聖職者の未成年者への性的虐待が多発した同国のカトリック教会は国民から久しく信頼を失い、その発言は影響力を失っている。

 同国では過去、治癒が可能な人が安楽死したり、安楽死と臓器献品が絡むケースも出るなど、安楽死の現場ではさまざまな問題が出てきている。

 なお、スイス、ドイツ、スウェーデン、エストニアでは医療による回復が期待できない患者の希望を受け入れて、安楽死を援助しても刑法には引っかからない。安楽死を禁止している国からスイスに安楽死ツーリストが殺到し、社会問題となっている。

 安楽死問題は非常に難しいテーマだ。個々のケースを慎重に考えなければならないからだ。無意味な延命措置は非人間的である一方、「生命の尊厳」という譲れない部分があるからだ。
 人間は肉体的な存在だけではなく、霊的な存在と信じる当方にとっては、「生命の尊厳」とは、霊肉両面の尊厳を意味する。霊的な世界がもう少し理解されるようになれば、安楽死問題も別の観点で考えられるようになるかもしれないと思っている。
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