ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

イラン

イランでNPT離脱を求める声高まる

 イラン原子力庁のモハマド・エスラミ長官は、14日に始まった国際原子力機関(IAEA)加盟国の年次総会に出席し、演説を行う予定だったが、米国が「スナップバック」発動による国連制裁からの免除措置に反対したため、IAEA総会に出席できなかった。イラン政府はこれに反発し,同国のIAEA担当大使は総会で「この取り消し、およびそれに対して示された法的根拠は、政治的行為であり、IAEAの政治化が進んでいることを明白に示すものだ」と批判した。

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▲国家防衛のための大規模な官民一体の社会的動員運動ヤン・ファダヤンの演習、2026年9月18日、IRNA通信

 IAEAがイランを国連安全保障理事会に付託し、イランの原子力庁長官がウィーンで開催された同機関の年次会議への出席を禁じられたことを受けて、イラン指導部内で核拡散防止条約(NPT)からの離脱を求める声が強硬派の間で高まっている。イランの政治体制内には、「NPT加盟がほとんど保護をもたらさない」と主張する声と、「離脱すればテヘランの残された外交的・法的優位の一つを放棄することになる」と警告する意見とに2分している。

 海外のイランメディア「イラン・インターナショナル」 マリヤム・シナイー記者は17日、「イランではNPT離脱を求める声が高まる一方、批判者たちは戦略的罠を警告している」という見出しで、イラン指導部内のNPT離脱論争を報じている。以下、「イラン・インターナショナル」の記事内容を紹介する。

 イラン最高国家安全保障会議の書記官モフセン・レザエイ氏は13日、「IAEAによる政治的かつ破壊的な行動はNPTからの離脱へと押しやる」と述べている。その一方、インド訪問中のマスード・ペゼシュキアン大統領は同日、イランが核兵器を求めているわけではないことを改めて強調し、「もし核兵器を求めていたなら、NPTのメンバーにはならなかっただろう」と主張し、欧米諸国の「イランの核保有疑惑」を一蹴している。

 NPT離脱支持者は、「NPT加盟がイランを国際的な圧力や核施設への攻撃から守ることに失敗している」と指摘し、「加盟国の継続は、加盟国の核権利が義務と同等に重視される場合にのみ意味がある」と強調する。

 ライシ元大統領の下で政府情報評議会の議長を務めたセペール・ハラジ氏は、「なぜイランが条約に残っているのか」と疑問を呈し、「彼らは核施設を爆撃し、科学者を殉教させ、核技術を承認し、残りの核施設も攻撃すると脅迫している。彼らはイランの件を安全保障理事会に付託し、原子力機関の長官がIAEAに入ることを許さない。では、なぜ私たちはまだIAEAにいるのか?」とXに書き込んでいる。

 この議論は議会にもまで及び、議員たちはイランのNPT離脱案を準備中という。国会議員のハッサン・アリ・アフラギ氏は16日、ファールス通信に対し、議員たちは議会指導部の承認を得れば投票にかけられる法案を準備したと語った。そしてアフラギ氏は「イランはできるだけ早く条約を離脱すべきだ」と述べた。しかし、この提案はまだ正式に議会の国家安全保障・外交政策委員会に届いておらず、議会の議題にも挙がっていない。

 保守系「ホラーサーン紙」は16日、「NPT条約離脱が革命的かつ抑止力のある対応のように見えるかもしれないが、別の憂慮すべき状況が浮かび上がる」と書き、「アメリカとイスラエルはイランの政治的議論を核実験、核ドクトリンの変更、NPTからの即時離脱など、より過激な立場へと意図的に誘導してきている」と、警戒を呼び掛けている。

 同紙によると、「イランが抑止力を達成する前に条約を離脱することは、強さを示すどころかテヘランの意図を露呈させ、敵対勢力に行動の機会を与える可能性がある。イランは公式かつ高額な脱退を行わずに実質的な成果の重要な部分を獲得した。IAEAは以前のアクセス権を失い、テヘランはNPT加盟の法的保護とロシア・中国の政治的支援の恩恵を受け続けている。公式な撤退は、新たな戦略的優位を生み出すことなく、この有用なグレーゾーンを破壊することになる」というわけだ。要するに、NPT撤退はイランに利益をもたらさない。イスラエルの目的に沿ったものになるという深読みだ。

 ちなみに、ワシントンの核監視機関が分析した新しい衛星画像によると、イランは2024年以降2度攻撃を受けているパルチン軍事複合施設の強固な施設「タレガン2」を急速に再建している。9月13日のヴァントル・テクノロジーズの映像には、テヘラン南東部の「タレガン2」で大規模な工事が行われており、イランが破壊された地下構造物の上に大きなタープを張り上げている様子が映っている。画像にはダンプトラック、ブルドーザー、コンクリートポンプトラック、ミキサー、クレーンが敷地内で稼働している様子が映っています。

 同施設は2024年10月のイスラエルの攻撃で破壊されたが、イランは2025年5月に再建を開始し、最終的にコンクリートで覆われ土で覆われた鉄筋構造物を建設した。2026年初頭までに、このサイトは実質的に強化されたバンカーとなり、コンクリートのバリアやドローンからの防御などの追加の防御施設が設けられた。空爆を受けた後もイランは「タレガン2」の再建を諦めておらず、近年は攻撃を耐え抜くための「要塞化」を急速に進めているという。

 「タレガン2」(Taleghan 2)は、イランの首都テヘランの南東約30キロメートルに位置するパルチン(Parchin)軍事複合施設内にあって、イランの核兵器開発計画と深く結びついた極秘施設。 かつてイランが組織的に進めていたとされる秘密核開発計画「アマド計画(AMAD計画)」において、核兵器のデザインや研究・テストに使用されていたとされています。 米国やイスラエルの情報機関、および軍事専門家から「核兵器開発の核心拠点」とみなされてきた。

 「イラン・インターナショナル」のよれば、「タレガン2」にはかつて特別に設計された高性能爆薬チャンバーと爆発圧縮の研究に使われたフラッシュX線装置が収容されていた。2003年にインプロージョン型核兵器の起爆に関連する多点起爆システムの縮小試験が行われた。米国やイスラエルは、「タレガン2」の再建と防衛力強化をイランの「核野望の継続」として厳重に警戒している。

  なお、IAEAのグロッシ事務局長は、「IAEAは6月のブシェール原子力発電所の査察を除いて、イランの核関連施設への査察は行っていない」と述べ、イランが最大60%の純度に濃縮されたウランを440.9キログラム保有していると推定されているが、「現在の保管場所を確認できず、イランの4番目の濃縮施設であるイスファハーンの状況も依然として特定できない」と述べている。

トランプ政権の対イラン「三段跳戦略」

 陸上競技の三段跳(トリプル・ジャンプ)競技をご存知だろう。助走をつけてからホップ、ステップ、ジャンプと三回連続飛躍して水平距離を競う競技だ。そしてトランプ米政権は対イラン政策でその三段跳戦略を実行しているのだ。

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▲イランのガリバフ国会議長、ベセント財務長官の発言を嘲笑し、「ピエロの日だった」と述べた。IRNA通信、2026年8月26日

 トランプ米政権はイラン問題の解決のために今年2月28日、イスラエル軍と連携してイランへの軍事攻撃を開始した。そしてイラン最高指導者アリ・ハメネイ師を含む多くの軍事指導者を殺害した(ホップ)。その後、パキスタンやオーマンの調停を受けてテヘランとの外交交渉を開始した。ワシントンとテヘランは6月14日、パキスタンの仲介により枠組み合意に達し、その後60日以内に平和条約を締結する予定だったが、ホルムズ海峡の支配権をめぐる対立から、7月中旬には戦闘が再燃した。米軍はイランの港湾に対する封鎖を再開した(ステップ)。そして今、トランプ氏はイランに対して「これまでになった経済制裁を行う」と表明し、イランの国民経済の完全な停滞を予告している(ジャンプ)。

 ベセント財務長官が24日、イランおよび同国との貿易相手国に対する新たな制裁措置を発表した。発表前までは「経済的D-デイ(決戦の日)」、「経済的のけ者(Economic Outcast)」作戦という名所が付けられるほど、米国側には軍事的雰囲気が漂っていたが、発表時にはそれらの表現は姿を消し、現在、メディアでは「経済的追放作戦」と呼ばれている。

 ベセント氏の発表によると、イランの軍事活動や核・ミサイル開発、石油取引などを支援したとして、約60の個人や団体、船舶を新たに制裁対象に指定した。同時に、イランとの取引を続ける第三国の企業や金融機関などに二次制裁を科す方針を表明。デジタル資産や海運など5分野に二次制裁の適用対象を拡大し、イランを国際的な金融・貿易網から孤立させる「経済的追放作戦」を開始した。
 
 制裁対象には、イランの核・ミサイル開発に必要な物資の調達や、米国の重要インフラを狙ったサイバー攻撃、石油・石油化学製品の輸出による資金獲得などに関与した個人や企業が含まれる。国務省も、米軍などへの攻撃を指揮したイラン軍幹部や、攻撃目標の選定に必要な情報収集に関与した組織などを制裁対象とした。
 
 ベセント氏によると、トランプ大統領は各国首脳に電話し、イランとの取引を停止するよう直接要請している。財務省や国務省なども各国政府と協議し、問題視する取引を停止するまでの期限を示しているという。期限内に対応しなければ「財務省の権限でわれわれが行動する」と述べ、応じない国の企業や金融機関に二次制裁を発動する考えを示した。ベセント氏は「イラン政権を支えるあらゆる経済的生命線を断ち、テヘランを孤立させることが目的だ」と繰り返し強調。イランとの経済関係を続ける企業などに対し、「米国の力が及ぶことになる」と警告した。ベセント氏とトランプ大統領は以前、各国に対し、米国側につくか、さもなくば主要企業がドル建て金融システムから締め出されるリスクを負うかの選択を迫っていた。ベセント氏は先週、この動きを「史上最も厳しい制裁」と表現した。

 ワシントンの発表に対し、イラン経済省は「米国にとっての新たな敗北」を予測し、制裁に対抗するための「2カ年計画」が策定されていると述べた。アリ・マダニザデ経済相は国営テレビで、「米国はイラン国民と指導部の決意を試すためにあらゆることを行ってきたが、そのたびに失敗してきた」と語った。

 米国は過去、主に石油収入やイラン革命防衛隊の管理下にある企業を標的として制裁を科してきた。ここ数カ月間、財務省はイラン産原油を購入した中国の独立系精製業者に対しても制裁を科している。さらに抜本的な措置としては、イラン関連の取引を処理する中国やその他の国の銀行に制裁を科すことが考えられる。しかし、米国政府はこれまで、北京の指導部との貿易摩擦が激化するのを避けるため、この措置に踏み切ることは控えてきた。9月末には、ワシントンでトランプ大統領と中国の習近平国家主席の会談が予定されている。
 
 ちなみに、ベセント財務長官の対イラン制裁での日本企業への影響について、欧米メディアは「日本企業に対してもドル決済網からの排除リスクやサプライチェーンおよび海運ルートの混乱という大きな影響を与える可能性がある」と指摘している。

 ところで、イランのメディア報道によると、パキスタンは新たな仲裁外交を始めている。パキスタン軍のアシム・ムニール司令官が日にテヘランに到着した。トランプ米大統領と個人的な関係を築いているムニール氏は、地域の平和と安定を促進するため、イランの最高指導者ハメネイ師の側近らと会談する予定だと報じられた。

 テヘランの政府は、米国の新たな発表に先立ち、経済戦争が続けば湾岸地域からの石油輸出をすべて停止すると表明した。イランはまた、テヘランに対する米国の経済的圧力に同調する国々に対し、「報いを受けることになる」と警告した。イラン外務省のエスマイル・バガエイ報道官は、「イランに対する米国の攻撃的な措置の実行に加担すれば、間違いなく報いを受けることになるだろう」と述べている。

  「軍事・外交・経済」の三段跳戦略の最後のジャンプに入っている。11月に中間選挙を控えているトランプ政権は失敗は許されない。トランプ氏としては三段跳の最後のジャンプでテヘランを参ったといわせるほど、遠くまで飛んで着地したいところだろう。そのためには、米国の経済制裁に対し国際社会の支持、特に、ロシア、中国、インドといったイラン周辺国家との連携が不可欠となる。また、イランの「物流の聖域」と呼ばれている「カスピ海ルート」の監視強化が重要だ(「イランの『物流の聖域』カスピ海ルート」2026年8月11日参考)。

「私はアリ・ハメネイ、サタンの息子」

 今回のコラムの見出しは少々グロテスクな面があるが、イランで大きな反響を呼んだ出来事だから、その話を紹介する。

 イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は2月28日、米イスラエル軍の空爆を受けて他の幹部たちと共に殺害された。話はその出来事の数日前、ハメネイ師は詩を書き、側近にペルシャ語の詩をアラブ語に翻訳してほしいと要請した。その直後、ハメネイ師は爆死した。国営メディアはハメネイ師の死を神格化し、「ハメネイ師は自身の殉教を予め知っていた」という神話を作り、流した。ここまでは独裁国家ではよくあることで取り立てて言うことではない。

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▲自身の死を予言する「詩」を書いたといわれるイラン最高指導者アリ・ハメネイ師、IRNA通信

 イランのメディアはハメネイ師の詩を「奇跡の詩」と讃える報道を繰り返したが、問題はその後だ。一般の読者やネットユーザーがその詩を精査したところ、恐るべき仕掛けが発覚したのだ。ペルシア語で書かれたその詩の各行の最初の文字(頭文字)を上から順番に繋げて読むと、22文字からなる以下の文章が浮かび上がってきたのだ。man Ali Khamenei zadeh-ye Sheytanam、「私はアリ・ハメネイ、サタンの息子」という文だ。

 偶然では絶対にあり得ない文章が浮かび上がってきたのだ。、最高指導者を蔑視、冒涜した内容だ。イラン現政権をあざ笑う反体制派の活動家か、内部の反乱分子がハメネイ師の作品を偽装してメディアのチェックをすり抜けさせて、自爆させたのか。

 慌てたのは、ハメネイ師の詩を「奇跡の詩」として報じたイラン国営メディアだ。この出来事はあっという間に拡散され、大騒ぎとなった。国営メディアは該当する詩の記事を削除したことはいうまでもない。

 ハメネイ師の「詩」に隠されたメッセージがあることを最初に気が付いたのは、海外のイランメディア「イラン・インターナショナル」だ。アラシュ・ソフラビ記者は20日、「ハメネイの予言と称賛される詩はアクロスティック詩:『サタンの誕生』という見出しで、「殺害の数日前、アリ・ハメネイ師は翻訳者に詩を渡したと、ある高官の聖職者は語る。イランのメディアはこれを、彼自身の殉教の予言として報じた」というのだ。

 ところで、「イラン・インターナショナル」によると、「この話は、アフヴァーズの元金曜礼拝指導者であり、専門家会議の元メンバーであるモハンマド・アリ・ムサヴィ・ジャザエリ氏によるもので、今週ペルシャのソーシャルメディアで拡散された動画だ」という。ジャザエリ氏は、この話をフーゼスターン出身のアラビア語詩人アッバース・ハズバヴィ氏から聞いたという。

 先ず、アクロスティックについて説明する。文学の世界で「アクロスティック(折句 / おりく)」と呼ばれる技法で、きわめて知的な情報戦、言葉遊びだ。日本語の「縦読み」は、文字を上から下に並べるため比較的容易に気づくが、ペルシア語は「右から左」に横書きする言語だ。詩を普通に読む(右から左へ視線を動かす)と、各行が美しい宗教的な韻律や表現で満ちていた。しかし、各行の「右端(=行の始まりの文字)」だけを上から下に縦につなぎ合わせると、全く別の文章が現れる仕組みになっている。

 この仕掛けは古典的だ。ペルシアの詩人たちは、伝統的な韻律でモヴァシュシャー(movashshah)と呼ばれるアクロスティックを何世紀にもわたり使い、連続する行の冒頭文字に名前や献辞を隠した。22文字が文法文を形成するのは偶然ではありえない。誰かが意図的に作った、という結論になる。

 ハメネイ師の詩が辿った経路を振り返ると、最高指導者の執務室を通り、翻訳者の手に渡り、ハメネイの名のもとに印刷された。そして彼の崇拝者によって公表された。ここまでは「ハメネイ師の敵」の関与の痕跡はまったくない。

 ハメネイ詩を神聖化したいイランの国営メディアはさまざまなとこころで、その詩を掲載した。具体的には、ILNA(イラン労働新聞)、日刊紙「ハムシャフリー」、ハバール・オンラインなどで掲載され、イランのメディアはハメネイ師が自身の死を予言していたと解釈していった。例えば、ILNAのバージョンは「殉教までの瞬間を数えた指導者」と題された。もちろん、その記事はその後削除された。

 ソフラビ記者は「誰だったのかは未解決のままだ。イラン・インターナショナルはジャザエリの証言、ハズバヴィの証言、詩の作者を検証できず、ハメネイが詩を書いたという証拠もない」と述べ、正直に報告している。「指導者の家の中の誰かがこれをやったのか」、「ハメネイ師の周囲の誰かがこれを手配したのかもしれない」と憶測する声も聞かれる。

 ある読者は事件の核心にある逆転劇を重視する。曰く「彼ら(ハメネイ師の崇拝者)は奇跡を見せたかった。彼(ハメネイ師)は実際に自分の殉教を予見したのだ。ただし、彼らが証拠として使っている詩自体が逆を言っていたのだ。彼(ハメネイ師)はサタンから生まれたという」と解釈している。

 ちなみに、ハメネイ師を「悪魔の息子」と表現したのは以前にもあった。最近では、今年1月、駐イスラエルのマイク・ハッカビー米大使はXの投稿でハメネイ師を「真のサタンの息子」と呼んでいた。

 ハメネイ師の支持者たちが「奇跡の聖句」として賞賛して拡散していた詩の正体が、実は指導者を「悪魔の申し子」と罵る強烈な反体制メッセージだったという、イラン情報戦における最大級の皮肉なスキャンダルとなったわけだ。

米軍の攻撃が続く限り、ムラ―政権は安泰

 米イスラエル軍の空爆(2月28日)で殺害されたイランの最高指導者アリ・ハメネイ師の国葬の告別式典が9日、終わったが、それを待っていたといわんばかりに、米軍とイラン間で本格的な戦闘が再開し、双方に多くの死傷者が出ている。ワシントンとテヘランは6月14日、パキスタンの仲介により枠組み合意に達し、その後60日以内に平和条約を締結する予定だったが、ホルムズ海峡の支配権をめぐる対立から、7月中旬には戦闘が再燃した。米軍はイランの港湾に対する封鎖を再開した。

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▲テヘランではアリ・ハメネイ師の葬儀行列で「トランプを殺せ」と書かれた横断幕を掲げている、イラン・インターナショナル2026年7月10日から

 米中央軍によると、イラク北部で撃墜したイラン無人機の爆発物を処理していた米兵1人が18日に死亡したほか、ヨルダンではイランの攻撃で行方不明になった米兵の捜索中に身元不明の遺体を発見した。17日にもイランが弾道ミサイルと無人機でヨルダンを攻撃した際に米兵2人が死亡し、1人が行方不明になった。米軍側の死者数が増えてきた。トランプ米大統領は「非常に残念だ」と述べ、橋や発電所など民間インフラを破壊する報復攻撃を行うとイラン側を脅している。

 両国間の停戦交渉の見通しは立っていない。イラン外務省は「第3国を通じて間接協議を続けている」と述べているが、その進展具合は不確かだ。双方が報復攻撃を繰り返すだけで、戦闘の出口戦略が見られない。

 ちなみに、新最高指導者のモジタバ・ハメネイ師は18日の声明で、米国との戦闘終結に関する覚書について「完全に無価値で信用に値しない」と述べ、米国側への更なる攻撃を呼び掛けている。

 海外のイラン・メディア「イラン・インターナショナル」は10日、「イラン当局はアリ・ハメネイ師の死後、国民に統一を呼びかけているが、そのメッセージは復讐の要求、妥協を疑われる当局者への攻撃、内部分裂が敵に利益をもたらすという警告だ。イランの深刻化する経済、安全保障、外交危機の解決に関する団結ではなく、復讐、抵抗、そして新しい指導部への服従をめぐる団結だけだ」と指摘している。イスラム革命防衛隊(IRGC)は、ハメネイ師や他の犠牲者への「血の復讐」は「確実で正当かつ忘れがたい要求である」と述べている。

 同紙はまた、「トランプ大統領を脅す横断幕やポスター、殺害の呼びかけや賞金に関する言及は、ハメネイ師の葬儀行列で繰り返し見られた。復讐の言葉が式典の最も目立つメッセージの一つだった」と、イラン国内の状況を伝えている。

 イランは米軍の攻撃に対して湾岸諸国の米軍関連施設に報復攻撃。一方、米兵士が死去し、米軍基地が破壊されたという理由で、米軍は今度は報復攻撃に乗り出す。両軍の間で「報復」と「攻撃」が何度も繰り返される。「これは攻撃か、それとも報復か」が分からなくなってくる。

 イラン問題の専門家ヴァルター・ポッシュ氏はオーストリア国営放送(ORF)とのインタビューで、「イランは攻撃を受けている限り、彼らは結束を保つことができる。事態が変化するとすれば、戦争が確実かつ説得力のある形で終結した場合に限られる」という。

 すなわち、米軍がトランプ氏の命令でイランに報復攻撃を繰り返している限り、イランのムラ―政権は反米、反イスラエルで結束できる。しかし、米イスラエル軍の攻撃は止み、外交交渉で何らかの停戦が実現した場合、「イランには国を結束できるものが無くなるから、変革の時を迎えることになる」というのだ。

 世論調査によると、米国民の多数は米軍のイラン軍事活動に反対している。一方、イラン国民の間で現体制がどの程度の支持を得ているかを見極めるのは難しい。
 
 なお、ポッシュ氏はイランの政治情勢において、過去40年にわたり権力を争ってきた3つの主要な派閥を挙げている。現在最も有力な勢力は「イラン・ヒズボラ」だという。同組織は 1990年代に結成された、イランの最高指導者や保守強硬派に忠誠を誓う民兵・自警団組織。イラン国内で「反体制的な動きの弾圧」や「イスラム的道徳の強制(西欧文化の排除)」を暴力的な手段で行ってきた。学生運動の弾圧や、女性の服装(ヒジャブ)の取り締まりなどで悪名高く、米国などから人権侵害の対象として制裁指定されている。イラン革命防衛隊(IRGC)の内部に組み込まれた正規の派閥ではなく、制度上は完全に別の組織(非公式の民間自警団)。

 二つ目の主要な政治勢力は、1980年代のイラン・イラク戦争の退役軍人たちで構成されている。ポッシュ氏によれば、このグループには、イランの現在の首席交渉官であり国会議長のモハンマド・バゲル・ガリバフ氏が含まれる。このグループは米国との交渉に対して前向きな姿勢を示しているが、外交政策に関する専門知識に欠けている。そして三つ目の勢力は、改革派運動の残存勢力や穏健派勢力で構成されており、現政権やマスード・ペゼシュキアン大統領らが含まれる。

 ポッシュ氏は現在、体制に対する内部からの脅威(大規模なデモや国内の少数民族による蜂起など)は存在しないと見ている。同氏によれば、「イラン国民の間には諦めの空気が漂っている。しかし、その諦めにも限界があり、ある時点で事態は爆発するだろう」という。「紛争が確実に終結すれば、すべてが変わる。そうなれば経済政策、失業問題、復興、蔓延する汚職、そして体制の疲弊した実態といった問題が前面に押し出されることになる」と予想している。少々皮肉なことだが、米軍のイラン攻撃が続く限り、ムラ―政権は安泰だというのだ。

モジタバ・ハメネイ師の新「選民」思想

 旧約聖書「創世記」第12章2節によると、神はハランにいたアブラムに対し、「私はあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大きくしよう。あなたは祝福の基となるだろう」と述べられた。アブラムは主が言われたようにハランからカナンに向かった。その後、アブラム(アブラハム)はユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3大の唯一神教の「信仰の祖」となった。アブラハム・ファミリーの総人口はピュー・リサーチ・センターなどの最新データによると、全世界の人口の56%から57%を占めている。主が約束されたように、アブラハムから派生した民族は「大いなる国民」となったわけだ。

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▲モジタバ・ハメネイ師、新年のメッセージで国民統一の重要性を強調、2026年3月20日、Tasnim通信から

 ところで、アブラハム・ファミリーの長男の立場にあるユダヤ教には「神から選ばれた」という選民思想があることは良く知られている。ヘブライ語で「アム・セグラ」といい、宝石の民という意味がある。ちなみに、イスラム教専門家でバチカンのグレゴリア大学で教鞭をとるフェリックス・ケルナー神父は神への祈りでも3宗派の間で相違があるという。同神父によると、「イスラム教徒が神に委ねるのは神が全能だからだ。キリスト教徒の場合、神がキリスト(救世主)を送って下さったからだ。そしてユダヤ教徒の場合、神がユダヤ人を選民に選ばれたからだ」という。

 選民意識でも3宗派間には相違がある。特に、ユダヤ教とイスラム教では異なる。ユダヤ教の場合、神ヤハウェと特別な契約を結んだのは、アブラハム、イサク、ヤコブの子孫である「イスラエルの民(ユダヤ民族)」だけであるという思想だ。基本的には「血のつながり」を重視する。

 一方、イスラム教では、アラビア語で「使命を受けた者たち」を総じてラスール(使徒)やナビー(預言者)と呼ぶ。クルアーン(コーラン)では、特定の民族ではなく、神からの教えを信じ、正しく伝える役割を担った人々を指す。イスラム教においては、「神(アッラー)に絶対服従(イスラーム)するすべての者(ムスリム)」が選ばれた民と受け取る。その意味で、血統重視の選民意識のユダヤ教と比べ、イスラム教は信仰を持てば誰もが神の教えを広める「使命を担う人々」の仲間入りができる。

 海外のイラン・メディア「イラン・インターナショナル」(7月1日付)は、興味深い記事を掲載していた。イランの新最高指導者モジタバ・ハメネイ師がイランの未来に求めるキーワードは「使命を与えられた人々」という。イラン革命以来、第3代最高指導者に就任して以来、モジタバ・ハメネイ師は繰り返し「バ・サット(ba'sat)」という言葉を用い、イラン人を単なる市民ではなく、イスラム共和国のプロジェクトを国内外で推進する使命を負う力として位置づけてきているという。

 モジタバ・ハメネイ師は3月8日、専門家会議で2月28日に米イスラエル軍の空爆で殺害された父親アリ・ハメネイ師の後継者に選出されて以来、公の場で演説やメッセージを語ってはいないが、約20件の書類や文書に自身の署名をしている。その中には、お悔やみ、正式な挨拶、公式な場での挨拶など、日常的なものもあるが、少なくとも半数には同師の政治的・イデオロギー的な洞察が垣間見えるという。

 イスラムの伝統において、「バ・サット」は選ばれ、神聖な使命に送られることを意味する。この言葉の本来の意味や、ハメネイ師がこれをどのような意図で使い、イラン人を「神から使命を受けた人々」と位置づけているのかが問題だ。

 イスラム教において「ba'sat」とは、本来「預言者が神から特別な使命(啓示)を与えられ、民衆を導くために遣わされること(遣使・目覚め)」を指す神聖な宗教用語だ。具体的には、預言者ムハンマドが洞窟で天使ジブリール(ガブリエル)から最初の啓示を受け、イスラムの伝道という「使命」を帯びた歴史的出来事を指す。モジタバ・ハメネイ師は、この「神聖な使命を帯びて立ち上がる」という概念を、預言者個人の歴史的出来事から「現代のイランの民衆(国家)」へと拡大して適用している。

 彼はイラン国民を単なる一国の「市民」としてではなく、イスラム共和国の理念(反欧米、イスラム正義の実現)を国内外へ推し進めるという「神聖な政治的・宗教的使命(ba'sat)を託された軍勢」と描写している。モジタバ・ハメネイ師の「ba'sat」の使い方は、まさにこのイスラム的選民思想を現代のナショナリズム・政治思想に転用したものと言える。

 ユダヤ教の選民(アム・セグラ)が「血統による生まれながらの選び」であるのに対し、ハメネイ師の語る選びは「イスラム革命の精神を信じ、抑圧に対して神の正義のために立ち上がる(ba'satを行う)という行動と信仰」に基づいている。「神から使命を受けた民」というニュアンスを持たせることで、イランが直面している国際的な孤立や経済的苦境、軍事的な緊張を、単なる政治闘争ではなく「神から与えられた試練と、それを果たすべき聖なる使命」へと昇華させ、国民の結束を促す強力なレトリック(言葉の武器)として機能させようとしている。宗教的ナショナリズムだ。

 「イラン・インターナショナル」紙のメフディ・ベイギ記者は「バ・サットは単なる宗教的な装飾以上の意味を持つ。この言葉は、イスラム共和国の第2指導者と第3指導者を結ぶ言葉かもしれない。アリ・ハメネイ師の新たなイスラム文明の計画を守りつつ、モジタバ・ハメネイ師に独自の言語を提供している。その結果、イデオロギー的な決別はなく、同じプロジェクトを継続しつつ、人々の役割をより明確に定義しようとする。単にイスラム共和国の支持者としてではなく、使命を与えられた人々として」と報じている。

 第3代最高指導者に選出されてから4か月以上が経過した。モジタバ・ハメネイ師は‘隠れイマーム‘のような存在だったが、イラン国民に新しい選民思想を掲げて公の場に登場する日が近いかもしれない。

イランで本格的な権力争いが始まった

 イランで今月4日から始まった最高指導者アリ・ハメネイ師の告別式は9日、同師の遺体がイラン北東部にあるハメネイ師の故郷マシュハドで埋葬されたことで、6日間の国葬行事を全て終えた。

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▲マシュハドでハメネイ師の埋葬が行われ、国葬の全ての式典が終わった。2026年7月9日、IRNA通信

 興味深い点は、イラン革命防衛隊(IRGC)がハメネイ師の葬儀の全日程がまだ終了していない6日から7日にかけ、ホルムズ海峡航行中のサウジアラビアやカタールなどのタンカー計3隻を無人機(ドローン)などで攻撃したことだ。7日の朝にも攻撃が確認された。それに対し、米中央軍は7日夜、「商船への攻撃は絶対に容認できない」としてイラン内の約80か所の軍事拠点に報復攻撃した。それに反発したイラン軍はクウェートとバーレーンの米軍拠点を攻撃。米中央軍は8日に入ると、約90か所のイラン側の軍事拠点などに再度報復攻撃。イラン軍は9日にもクウェートとバーレーン、カタールにある米軍基地への攻撃を実施した。米イラン間で攻撃、報復の戦闘が繰り返された。

 トランプ米大統領は8日、トルコの首都アンカラで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会談で記者団の質問に答え、「米イラン間の合意覚書の戦闘停戦は終わった」と指摘し、イランとの戦争の再開を示唆した。ただし、同大統領はその直後、「戦闘は短期間で終わるだろう」と述べ、本格的な戦闘再開ではないとの考えを明らかにした。同時に、トランプ氏は「イラン側から連絡があり、彼らは交渉を願っている」と述べ、米イラン間の交渉は継続されるだろう、との見通しを明らかにしている。

 イラン指導部に米国との対応で混乱が見られる。ホルムズ海峡で商船を攻撃したこと、その直後の「米国との交渉を願っている」というトランプ氏の証言はそのことを強く示唆している。

 具体的には、米国との交渉を願うモハンマド・バゲル・ガリバフ国会議長やマスード・ペゼシュキアン大統領ら現政権メンバーと、IRGCのトップ、アフマド・ヴァヒディ最高司令官らIRGC指導部との間の権力闘争だ。

 米イランが6月、戦闘終結の合意覚書に合意し、最終的合意の実現を目指して動き出したことを快く思わないIRGC内の強硬派からは、ガリバフ議長やぺゼシュキアン大統領らを「クーデターを企てている」と批判する声すら聞かれる。

 海外のイラン・メディア「イラン・インターナショナル」はペゼシュキアン大統領とIRGCのアフマド・ヴァヒディ(Ahmad Vahidi)司令官の間で、戦争への対応と、それが国民生活や経済に及ぼす影響を巡り、深刻な意見の相違が生じていると報じていた。

 IRGCはハメネイ師が2月28日、米イスラエル軍の空爆で殺害されるといち早く後継者にハメネイ師の息子モジタバ・ハメネイ師を担ぎ出して、既成の権力の維持に乗り出した。モジタバ・ハメネイ師が3月、イラン専門家会議から第3代の最高指導者に選出されて以来、新指導者はこれまで公の場に姿を現したことがない。パゼシュキアン大統領は新最高指導者に選出されたモジタバ・ハメネイ師と接触し、今後の国家運営について協議しようとしたが、ヴァヒデイ司令官に阻止されたという情報が流れた。

 イラン専門家の政治学者で国際危機グループ(ICG)のイラン・プロジェクト・ディレクターのアリ・バエズ(Ali Vaez)氏は、「米イスラエル軍との戦争を経験したイランは戦争前より危険なイランだ」と指摘する。同氏は「テヘランの強硬派は新たな武器を手に入れた。ホルムズ海峡を封鎖することで、世界経済を人質に取ることができるからだ。さらに、戦争への恐怖は薄れてしまった。世界最強の軍事大国の米国と、世界最高の情報機関であるイスラエルの支援を受けた攻撃に耐えることができたことで自信を深めている」というのだ。バエズ氏によれば、「革命防衛隊内部の強硬派による新たな指導部が権力を掌握した。以前にも増して危険なイランが誕生した」と分析している。

 ちなみに、イランの企業は80%が国有企業だ。経済の大部分は、政府、宗教団体、軍事コングロマリット(複合企業)によって支配されており、純粋な民間企業はほとんど存在しない。イラン革命防衛隊も石油とガス産業、建設と銀行だけでなく、農業と重工業にも組み込んでいるコングロマリットを所有している。IRGCが世襲批判のリスクを冒してまでモジタバ・ハメネイ師を後継者に担ぎ出した背景には、「利権の保護」という切実な理由があったはずだ。

 ところで、イラン内ではIRGCを解体して国軍に統合すべきだという議論が改革派から出てきている。保守派の日刊紙「ジョムフーリ・エ・エスラミ」は、イランの安全保障と経済状況のために軍事構造の見直しが必要だと主張し、IRGCを正規軍に統合することを提案して注目された。それに対し、超保守系の新聞「カイハン」は「IRGCを排除するプロジェクトだ。専門家の議論ではなく、イスラム共和国の防衛部隊を弱体化させるための外国プロジェクトの継続だ」と一蹴。「IRGCを解散することはイスラム革命の武装解除と正当性の剥奪を意味する」と付け加えている。

 なお、故ハメネイ師はIRGCの主任務をイスラム革命とイスラム共和国の防衛と定義し、正規軍にイランの国境防衛の責任を割り当てることで議論を解決しようとしてきた経緯がある。

 結論を急ぐとすれば、ホルムズ海峡の商船への攻撃は、米イラン間で戦闘終結に関する基本合意覚書ができたことに衝撃を受けたIRGCが米軍を戦闘に引き込む狙いから実行されたのではないか。

 いずれにしても、イラン指導部の権力争いは目下、IRGC優位の状況だ。トランプ米政権がIRGCの誘いに乗って本格的な戦闘を再開すれば、米イラン間の戦闘は再度、激しくなるだろう。中間選挙を控えたトランプ政権にはイラン戦争に時間をかける余裕がない。IRGCはそのことを織り込み済みだろう。

イランはハマスの非武装化に責任

 パレスチナ自治区のイスラム過激派テロ組織「ハマス」は6日、ガザ地区における同組織の行政機関を解散すると発表した。それに対し、イスラエルのギデオン・サール外相はXに投稿し、「ハマスの宣言はトリック(策略)だ」と指摘、「ハマスはまず武装を解除すべきだ。ハマスが武器を保持している限り、いかなる文民政府であってもハマスの意向に従うだろう」と述べ、ハマスに非武装化を改めて要求した。

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▲テヘランにて、殉教したイスラム革命指導者の葬列に参列するアッバス・アラグチ外相(中央)。2026年7月6日、IRNA通信

 イスラエル側はテロ組織のハマスを信頼していない。だから、ハマスの非武装化が実現しない限り、ガザ区からイスラエル軍の段階的撤退は考えられないというわけだ。

 サール外相は「イスラエルはガザ地区の和平に向けた、いわゆる‘トランプ・プラン‘の実施を強く求めている。その核心となる原則は、ハマスおよびその他すべてのテロ組織の武装解除、ならびにガザ地区の完全な非軍事化だ」と明確に述べている。

 ハマスとその同盟勢力は、2023年10月7日にイスラエルを攻撃し、ガザ地区での戦争を引き起こした。一連の殺戮行為の中で、イスラム武装勢力は1,221人を殺害し、さらに251人を人質としてガザ地区へ連れ去った。これを受け、イスラエルはハマスへの報復攻撃を開始した。ハマスの発表によれば、この戦争で7万人以上のパレスチナ人が死亡した。

 ところで、ハマスの非武装化というテーマは、ハマスに武器や軍事資金を提供してきたイランの問題だ。イランがハマスに一切の武器、資金を供与しなければ、ハマスの非武装化は現実的になる。逆に、イランがハマスを軍事支援する限り、ハマスの非武装化は絵に描いた餅に過ぎない。

 それゆえに、米国はイランとの戦闘終結交渉ではイラン側に核開発の停止と共に、ハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派など親イラン派の代理組織(プロキシ)への軍事支援の停止を交渉テーマとしてきた。実際、米国が提示した「15項目の停戦」(2段階の和平案)には、「武装組織への支援停止: ヒズボラやフーシ派など、親イラン武装組織に対する軍事・財政的支援の全面停止」が含まれていた。

 しかし、イラン側がホルムズ海峡の封鎖というカードを駆使し、世界経済を人質にする非対称戦に乗り出したため、トランプ政権はホルムズ海峡の封鎖による世界的な経済ダメージ(原油高)を早期に打開するため、イランとの交渉では「現状復帰(戦争の終結とホルムズ海峡の再開)」と「核開発問題」に焦点を絞り、ハマスやヒズボラへの支援停止問題を議題から外してしまったのだ。

 イスラエル側が米イランの戦闘終結交渉の合意に不満があるのは、核問題は将来の交渉に委ね、イランの代理勢力への支援停止問題は議題から外すことを飲んだトランプ米政権への不信感があるからだ。

 ちなみに、レバノンのジョセフ・アウン大統領は6月5日、CNNとのインタビューの中で、イランが米国およびイスラエルとの紛争において、レバノンを交渉材料として利用していると非難した。同大統領は、「彼らは米国との交渉において、レバノンを駆け引きの道具として使っている。これは容認できない。レバノンへの内政干渉を止めるべきだ。レバノンの国益はイランの国益とは一致しない」と断言した。さらに、イラン革命防衛隊(IRGC)に対しは、「ここは君たちの国ではなく、我々の国だ」と宣言。そしてイランの支援を受けるヒズボラ民兵組織の指導者ナイム・カセム師を、「レバノン国民を代表する人物ではない」と述べている。中東地域での「イランの関与」を指摘したアウン大統領の警告は全くの正論だ。

 いずれにしても、トランプ政権にとって、イランとの戦闘終結交渉では要求を詰め込みすぎてディ―ルが決裂するよりも、まずは「停戦」という最低限の合意を形成することが、これ以上の犠牲を防ぐために必要不可欠だ、という現実主義的な判断があったのだろう。

 同時に、ガザ統治は別の枠組み(平和評議会)に委ね、国際社会やアラブ諸国の資金を投入してガザの非軍事化を進める方針をとってきている。そのため、「イランとの交渉理にハマス問題を扱う必要はない」という判断がトランプ政権内で主導権を握ったのだろう。

 トランプ政権の対イラン交渉を批判的にいえば、トランプ米政権は「世界経済の安定と即時停戦」という短期的な果実を得るために、「中東の根本的なテロ脅威の排除」という長期的な安全保障を先送りした。その結果、ハマスやヒズボラの脅威が温存されることにもなる。

 イスラエル政府は、自国の安全保障に直結するハマスやヒズボラの無力化が含まれていない米イラン合意に対して「我々を拘束するものではない」と受け取っているのは当然だろう。

 パレスチナ人=ハマスではない。同じように、ヒズボラ=レバノンではない。ハマスの非武装化で得をするのはパレスチナ人だ。同じようにヒズボラの非武装化で利益を得るのはレバノン国民だ。

 多くのパレスチナ人はガザ紛争でハマスの正体を知ったのではないか。イスラエル軍の攻撃を避けるために、ハマスは平気でパレスチナ人の子供たちを自身の盾に利用してきた。パレスチナ人を犠牲にしてもイスラエルを破壊したいイラン聖職者政権の指令のもとでテロを繰り返してきたのだ。

モジタバ・ハメネイ師は何処に

 イラン全土で最高指導者アリ・ハメネイ師らへの追悼告別式が挙行されている。イラン国営通信IRNAによれば、数百万人の国民が今年2月28日、米イスラエル軍の空爆で殺害された最高指導者ハメネイ師に最後の別れを告げたという。ただし、ハメネイ家の喪主ともいうべきハメネイ師の息子モジタバ・ハメネイ師の姿は公式の式典には見られなかった。

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▲イスラム革命の最高指導者アリ・ハメネイ師の遺体の前で祈りを捧げるイランの指導者たち、IRNA通信、2026年7月5日

 欧州のメディアはテヘランに現地特派員を派遣し、ハメネイ師の告別式の様子を報道しているが、オーストリア国営放送(ORF)は5日、「ハメネイ師の葬儀、息子の姿はなし」という見出しを付けて大きく報じていた。モジタバ・ハメネイ師が3月、イラン専門家会議から第3代の最高指導者に選出されて以来、新指導者はこれまで公の場に姿を現したことがない。ただ、数回、イスラム革命防衛隊(IRGC)を通じてメッセ―ジを発表したが、生の声ではなかった。

 ハメネイ師の告別式が4日から9日までの日程で挙行されているが、米紙の報道によると、モジタバ・ハメネイ師は公式の式典に出席する意向を明らかにしていたが、イスラム革命防衛隊(IRGC)が「安全に問題がある」として出席を諦めさせたという。真偽は不明だ。

 ハメネイ師を含むイランの指導者が米イスラエル軍の空爆で殺害されただけに、米国とイラン間で現在、戦争終結に向けて交渉が継続中だとはいえ、イランの現指導者が一堂に集結する公式追悼式典が再び攻撃される危険性は排除できない。その意味でIRGC側の「安全問題」という説明は理解できる。

 ただし、ハメネイ師の追悼式典には外国からの要人が参加している。そのうえ、戦争終結を誰よりも願うトランプ米大統領が果たしてイランの指導者への攻撃を容認するとは思えない。なぜならば、モジタバ・ハメネイ師を殺害したとしても、イランの聖職者支配体制がそれで崩壊することはないことを米国側も理解したはずだからだ。

 モジタバ・ハメネイ師は2月28日の攻撃で負傷したとみられているが、その後の容体は不明だ。父親や他の家族の葬儀に姿を見せなかったことから、同師を巡る様々な憶測を呼んでいる。なぜ、モジタバ・ハメネイ師は姿を現さないのだろうか。

 国営メディアによると、5日の礼拝は、イラン・イスラム共和国で最も影響力のある聖職者の一人である、97歳のアヤトラ・ジャファル・ソブハニ師が主導した。ハメネイ師の息子であるマスード、モスタファ、マイサムの各氏も父親や他の家族の遺体の前で祈りを捧げた。米イスラエル戦争以来、ハメネイ師の息子たちが公の場で登場したのは初めてだ。なお、ハメネイ師にはモジタバ・ハメネイ師を含み4人の息子がいる。モジタバ・ハメネイ師以外はビジネスなどの他の分野で活躍している。

 国営テレビの映像によると、三権の長であるマスード・ペゼシュキアン大統領、ゴラム・ホセイン・モフセニ・エジェイ司法長官、モハンマド・バゲル・ガリバフ国会議長も最前列におり、IRGCの海外作戦を担う「コッズ部隊」のイスマイル・ガーアニー司令官の姿もあった。IRGCのトップ、アフマド・ヴァヒディ最高司令官も出席していた。一方、ハメネイ師と緊張関係にあったモハンマド・ハータミー元大統領(任期1997年〜2005年)やハッサン・ローハニ元大統領(2013年から2021年)は、葬儀の式典に出席していないようだ。

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▲テヘランで行われたハメネイ師の遺体を運ぶ葬列、2026年7月6日、IRNA通信

 なお、テヘランにあるモサッラー・モスク(礼拝所)の演壇には、イラン国旗に包まれた5つの棺が安置されていた。そこには、ハメネイ師本人に加え、義理の息子、娘、息子モジタバ氏の妻、そして生後14か月の孫娘の遺体が収められていた。

 ハメネイ師の遺体は6日までテヘランのモサッラー施設に安置され、その後、首都での葬列(10時間から12時間)が行われる。7日には棺がシーア派の学術都市コムへ、8日には隣国イラクにあるシーア派の聖地へと運ばれ、埋葬は9日、イラン北東部にあるハメネイ師の故郷マシュハドで行われる予定だ。同師はそこで、共に亡くなった家族の隣に埋葬されることになっている。

 以上、イランのハメネイ師の追悼式典をフォローしたが、国営メディアは米イスラエル軍の空爆で亡くなった指導者たちをいずれも「殉教者」というタイトルで呼んでいる。米国とイスラエルを最大の敵とするイランのムラ―政権にとって、その戦いでの犠牲者は「殉教者」という名誉を受ける資格があるわけだ。それではムラ―政権によって今年1月、非人道的に殺害された数千、数万人のイラン国民はどう呼ばれるべきか。

 イスラム教シーハ派は昔から多数派スン二派に対し少数派意識、被害者意識が常に燻っている。そして「殉教の美学」に溺れてしまう傾向がある。殉教の安売りだ。繰り返すが、シーア派の「殉教の信仰」の最大の犠牲者はイラン国民だ。

戦争で最大の敗北者はイラン国民

 米イスラエル軍は2月28日、テヘランに空爆を実施して、イラン戦争が始まった。4月8日に暫定停戦が決まり、米国とイラン間の交渉がスタート。そして6月17日、トランプ米大統領とイランのぺゼシュキアン大統領が14項目から成る米イラン合意に署名した。イラン戦争勃発から109日目、交渉開始から70日目に米国とイランは基本合意書(覚書)に署名したことになる。長いプロセスだったと見るか、想定より早い戦闘終結と評価するかは、立場によって異なるだろう。

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▲「イスラエルは人類の脅威」と語るアラグチ外相、2026年6月19日、IRNA通信

 イランのアッバス・アラグチ外相は今月13日、イランの国営テレビとのインタビューで「イランと米国の覚書(MoU)は2か月にわたる交渉の結果だ」と指摘。そして「最良の合意は双方が一定の満足度を得られるものでなければならない。成果が必ずしも五分五分である必要はなく、相互の相対的満足こそが理解に至るための重要な条件だ。一方が100%成功し、もう一方が何も得られない合意や取引など存在しない。これは外交の基本原則だ。交渉と対話の道を選ぶとき、両者の満足が極めて重要だ」と述べている。

 アラグチ外相はまた、「もし脅迫や圧力が効果的なら、イランはとっくに引き下がっていただろう。私たちの明確なメッセージは、脅威は逆効果であるということだ。理解を求めるなら、言葉を変えなければならない。しかし、もし脅威、圧力、戦争の道を選ぶなら、イランは対応する準備ができており、対応する能力がある」と強調した。ベテランの外交官らしい発言だ。

 いずれにしても、今回の米イスラエル軍のイラン戦争は、「戦争は望む時に始められるが、望む時に終わらせることはできない」といったニッコロ・マキアヴェリ(『君主論』の著者)の言葉を改めて実証した。マキャヴェリのこの言葉をトランプ大統領も実感していたかもしれない。イスラエルのネタニヤフ首相に押されてイラン攻撃を開始したが、出口戦略がなかったのだ。

 米イスラエル軍は今年2月28日、イランの核開発ストップを掲げてテヘランに空爆した。その結果、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師、イラン革命防衛隊(IRGC)のモハメド・パクプール司令官、国家防衛会議議長のアリー・シャムハーニー氏、ムーサヴィ軍参謀総長らイランの聖職者支配体制のほぼすべての要人が殺害された。チェスならば、チェックメイトだ。しかし、ムッラー政権は崩壊せず、弾道ミサイル、ドローン、革命防衛隊の非対称戦力を駆使し、ホルムズ海峡の封鎖という奥の手を出し、世界の原油市場を人質にして対抗してきたわけだ。

 イラン戦争では、テヘランは最低限の国としてメンツを維持できた。一方、トランプ政権はホルムズ海峡の封鎖解除が実現できれば、世界経済の正常化が期待できることから、米イラン合意にはそれなりのメリットがあった。逆に、米イランの合意で大きなダメージを受けたのは戦争終結交渉に参加しなかったイスラエルとイラン国民だ。

 イスラエルの目標はイランの核開発を壊滅、弾道ミサイル能力の破壊、親イラン系武装勢力の無力化などだったが、実現できなかった。それだけではない。レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラを弱体化させるどころか、政治的に強化させてしまったのだ。

 テヘランは外交的に二つの戦線を統合することに成功した。枠組み合意は全戦線での戦闘終結を謳っている。テヘランは今や、イランにとって最も重要な非国家同盟組織であるヒズボラに対するイスラエルの攻撃を、米国との枠組み合意違反と解釈できる。これは、国境に直接接する敵に対するイスラエルの行動の自由を制限することになる。

 イラン戦争で最もダメージを受けたのはイラン国民ではないか。米イスラエル軍の空爆でハメネイ師を始めムッラー政権のほぼすべての指導者が殺害された。イラン国民はこれでイランのムッラー政権は崩壊すると感じ、体制転換すら現実味を帯びていた。しかし、ムッラー政権は崩壊しなかったのだ。

 イラン専門家の政治学者で国際危機グループ(ICG)のイラン・プロジェクト・ディレクターのアリ・バエズ(Ali Vaez)氏は「この戦争は何の成果も上げていない。むしろ正反対で、状況を悪化させただけだ。より危険なイランを生み出した」と主張している。同氏がノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング紙(NZZ)とのインタビューの中で語った。バエズ氏によれば、「革命防衛隊内部の強硬派による新たな指導部が権力を掌握した。以前にも増して危険なイランが誕生した」というわけだ。

 ただし、イランは米国との交渉では有利に展開させたが、イラン国内の状況はカオス状況だ。産業エネルギー分野のインフラは壊滅的だ。イラン側は原油輸出で再び外貨を稼ぐ道が開かれたが、機能に乗るまでにはまだ多くの時間と資金が不可欠だ。

 一方、体制転換という希望を失った国民には一層厳しい日々が待っている。食料品価格は3桁に達する物価高騰に直面しており、日々の食事を確保することさえ困難な世帯が急増している。イランの通貨リアル(IRR)は過去1年間だけで価値の半分以上を失い、失業者は急増。物価高騰と経済崩壊に対する国民の不満は爆発寸前だ。ただし、政府による引き締めや弾圧への恐怖を抱えながらも、イラン国民には逃げる場所がないのだ。

「戦争でより危険なイランが生まれた」

 イランと米国間で戦争終結に向けた枠組み合意が実現し、19日にスイスのジュネ―ブで合意に関する覚書が米国とイランの両国代表によって署名されることになった。ホルムズ海峡の封鎖で世界の原油価格が急騰し、多くの国で経済的ダメージが生まれてきていただけに、日本を含む中東原油に依存する国にとってグットニュースだ。ただし、米国とイランの間で合意した内容はとみると、米国とイランが合意内容を全て公表していないこともあって、不確かさが払拭できない。

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▲モハンマド・バケル・ガリバフ国会議長「イランが米国との合意を通じて最終勝利に向けた大きな一歩を踏み出した」、2026年6月15日、IRNA通信

 これまでのメディア報道によれば、米国とイランは戦争終結とホルムズ海峡の封鎖解除で合意したという。覚書の署名後、60日間の交渉期間が設けられ、核問題、高濃縮済みウランの処分問題から、対イラン経済制裁の解除問題などについて本格的な交渉が始まるという。

 イランはイスラエルとレバノンのシーハ派武装勢力ヒズボラとの戦闘の停止を米イランの合意に含まれるべきだと主張してきたが、実際は含まれているか分からない。一方、イスラエルが強く求めてきたイランの弾道ミサイル問題や中東地域の反イスラエル武装勢力への軍事支援の停止問題はどうなっているか。

 米イスラエル軍は2月28日、イランの核開発計画を阻止するという名目でイランを空爆し、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師らイランの指導者を悉く殺害したが、その核問題については今後の交渉に先送りされた感じだ。

 エルサレム・ポスト紙は15日、「イスラエル国防軍(IDF)とモサド(イスラエル諜報機関)の大多数は、イラン核合意は当事者間の力関係、そしてイスラエルが直面する脅威を考慮すると不十分として反対している」という。ネタニヤフ首相は今後もヒズボラとの戦闘を継続する意向といわれているだけに、米イラン間の合意が破綻する危険性は十分ある。

 要するに、トランプ氏が14日、SNSで誇らしく報告したように、戦闘が終結し、ホルムズ海峡封鎖が解除されるというが、それらが実行されるかどうか依然、分からないというのが最も現実的な受け取り方かもしれない。ちなみに、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、トランプ米大統領の発言を引用し、合意内容にはイランが核兵器開発を行わないこと、そしてホルムズ海峡を直ちに再開することが明記されていると報じている

 ところで、「米イスラエル軍との戦争を経験したイランは戦争前より危険なイランを生み出している」と警告する声がある。イラン専門家の政治学者で国際危機グループ(ICG)のイラン・プロジェクト・ディレクターのアリ・バエズ(Ali Vaez)氏は「この戦争は何の成果も上げていない。むしろ正反対で、状況を悪化させただけだ。より危険なイランを生み出した」と主張している。同氏がノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング紙(NZZ)とのインタビューの中で語った。同氏によると、「イランは停戦(あるいは合意)を望んでいるが、政治的・戦略的にそれをより差し迫って必要としているのはアメリカ側である」という。

 バエズ氏は「テヘランの強硬派政権は新たな武器を手に入れたため、政権は勝利したと見ている。ホルムズ海峡を封鎖することで、世界経済を人質に取ることができるのだ。さらに、戦争への恐怖は薄れてしまった。世界最強の軍事大国の米国と、世界最高の情報機関であるイスラエルの支援を受けた攻撃に耐えることができたことで自信を深めている」というのだ。

 バエズ氏によれば、「革命防衛隊内部の強硬派による新たな指導部が権力を掌握した。以前にも増して危険なイランが誕生した」というわけだ。

 ハメネイ師死後、イランの実質的権力を掌握しているのはハメネイ師の息子モジタバ・ハメネイ師を後継者に担ぎ上げたイスラム革命防衛隊(IRGC)のアフマド・ヴァヒディ司令官だ。前任者が殺害された後、革命防衛隊のトップに上り詰めた。67歳の司令官は、イラン・イラク戦争で頭角を現し、後にイラン・イスラム共和国の軍事機構を形成した世代に属する。国防相と内相を歴任したヴァヒディ氏は、強硬路線を体現している。
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