ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

チェコ

「世界的に最も世俗国家」チェコ人の哲学

 オーストリアのカトリック通信(KAP)を読んでいると、「プラハ、懐疑的な社会に新しい大司教が誕生」という見出しの記事が目に入った。それによると、スタニスラフ・プリビル大司教が「欧州で最も世俗的な国の一つ、チェコのカトリック教会の舵取りを担う」というのだ。興味深い点は、KAPの記者が「チェコを欧州で最も世俗的な国」と断言し、「新大司教には社会における教会の発言権を回復することが期待されている」というのだ。ローマ教皇レオ14世は2日、ヤン・グラウブナー大司教の後継者にプリビル司教を選んだ。

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▲冷戦時代のチェコのカトリック教会の最高指導者トマーシェック枢機卿との会見(1988年8月、プラハの枢機卿公邸で)

 3日付のKAPは「プリビル大司教は、社会問題に強い関心を持つ実践的な聖職者であり、カリタスとの緊密な関係と社会的弱者への献身的な姿勢は、伝統的な教会組織以外からも高い評価を得ている」とそのプロフィールを紹介している。そして「プリビル大司教はチェコ共和国におけるカトリック教会の進路における潜在的な転換を象徴している。それは、組織的な自己主張から、市民社会におけるより奉仕的な役割を重視する転換だ。新大司教は、権力者というよりは、社会における教会の意義に向き合う教会の代表として認識されている」というのだ。新大司教に対するカトリック教会側の期待度が分かる。

 中欧のチェコではローマ・カトリック教会の信者数は少なく、教会への社会的受容が低いことは周知の事実だ。チェコ国民の約 60〜70% が「無宗教」または「特定の宗教を信仰していない」と回答しており、正式な宗教団体に属している人は非常に少ない。カトリック教徒は約 10〜15% にとどまり、プロテスタントやその他のキリスト教宗派の信者もさらに少ない。そのことから、「チェコは世界的に最も世俗化した国」と言われるゆえんだ。

 先ず、チェコが世界で最も世俗国家と言われる歴史的背景を復習する。
1. フス戦争(1419〜1434年)
 チェコの宗教改革者ヤン・フスがカトリック教会の腐敗を批判して火刑に処された。これに抗議するチェコ人が起こしたフス戦争により、カトリック教会に対する根強い不信感が生まれた。
2. ハプスブルク家による「強制改宗」への反感(17世紀以降)
 カトリックを奉ずるハプスブルク家がチェコを支配し、プロテスタント信者を武力で弾圧してカトリックへの改宗を強制した。この結果、チェコ人にとってカトリックは「信仰」ではなく「他国から押し付けられた支配の道具」とみなされるようになった。
3. 共産主義時代による徹底した宗教排除 (1948〜1989年)
 チェコスロバキアは1948年、ソ連の影響下で共産主義政権となった。共産党政府は宗教を「反動的な思想」とみなし、教会を国家の管理下に置き、宗教活動を厳しく制限 した。カトリック教会の財産は没収 され、聖職者たちは投獄された。共産党政権の無神論教育の結果もあって、多くの国民は教会から去った。

 ここでは2についてもう少し詳細に説明したい。ハプスブルク家による強制改宗政策は、チェコが「世界で最も世俗的な国」になる決定的な引き金となったといわれているからだ。

 1620年のビーラー・ホラ(白山の戦い)でチェコのプロテスタント貴族連合がハプスブルク家に大敗した。これによりチェコの独立性は失われ、ハプスブルク家による徹底的な弾圧が始まった。皇帝フェルディナント2世は、カトリック以外の信仰を一切禁止した。言語はチェコ語ではなく、ドイツ語となった。 改宗を拒んだ約3万人もの知識層が国外追放され、逃げ場のない農民たちは、無理やりカトリックに改宗させられた。

 ちなみに、チェコの少数民族ユダヤ人たちは当時、ハプスブルク家の支配を歓迎していた。18世紀後半、皇帝ヨーゼフ2世が発布した寛容令(1781年-1782年)は、ユダヤ人にとって画期的だった。ユダヤ人に対する居住制限(ゲットー)や特定の職業からの排除が緩和された。大学教育への道が開かれ、キリスト教徒の学校への入学も許可された。少数民族のユダヤ人にとって、地方の熱狂的なナショナリズムや偏見から守ってくれる唯一の存在が、超国家的な権威である「ハプスブルク家の皇帝」だったからだ。しかし、帝国の崩壊後、チェコの民族主義が勢いを得て、ナチス・ドイツの台頭で激しい反ユダヤ主義が広がっていった経緯がある。

 ところで、チェコ国民が生来、無宗教者、無神論者だというわけではない。人間の理性を超えた精神的世界への関心は他民族と同様、強い。例えば、チェコの民主化後の初代大統領ヴァ―ツラフ・ハベルは生涯、無宗教者だった。トマーシェック枢機卿(当時)は「私は彼を信者にしようとしたが出来なかった」と述懐していた。そのハベルは「組織化された宗教には属さないが、極めて精神的(スピリチュアル)な人間だった」といわれていた。現代チェコ人の気質を体現した存在だったわけだ。

 カトリック教国のポーランド人が「信仰」を盾に共産党政権と戦ったのに対し、チェコ人のハベルらは「個人の良心と理性」を武器に戦った。スイスのダボス会議で演説したカナダのマーク・カーニー首相は先月20日、ハベルの思想,「力なき者たちのパワー」(The Power of the Powerless)を紹介していたが、「宗教を介さずに、個人の内面的な正義感で行動する生き方こそ、チェコの知識人が最も誇りとする哲学」といわれる。

チェコでトランプ支持者バビシュ氏首相に

 中欧のチェコで9日、ペトル・パヴェル大統領はポピュリスト政党ANOの党首で富豪のアンドレイ・バビシュ氏(71)を新政権の首相に任命した。議会選挙(下院)から2か月が経過し、バビシュ氏率いるANO党、極右政党であるモトリスト党と「自由と直接民主主義」(SPD)の3党から成る連立政権がようやく発足する運びとなった。

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▲任命式後、記者会見に応じるバビシュ氏、2025年12月9日、ANO公式サイトから

 バビシュ氏はプラハ城で行われた任命式後、「国内だけでなく世界中のあらゆる場所で国民の利益のために戦うことを国民に誓う。チェコ共和国を地球上で最も住みやすい場所にするために、私はあらゆる努力を尽くす決意だ」と述べた。ANO党首のバビシュ氏は、トランプ米大統領の政策への支持を公言している「トランプ支持者」として知られている。バビシュ氏は2017年12月から2021年12月の間首相を務めた。

 バビシュ氏はEU内では難民割当制の強硬な批判者だ。選挙運動中、同氏はEU移民協定を拒否し、「チェコ共和国に誰が居住するかを誰にも決めさせない」と主張している。同氏はまた、ユーロ導入とEUの「グリーンディール」を強く批判してきた。

 連立パートナーのモトリスト党はEUの気候変動政策への反対を主張しており、実業家トミオ・オカムラ党首が率いるSPDは反EU、反移民、親ロシアを掲げている。3党連立政権は、下院200議席のうち108議席を占めている。新しい閣僚が全員任命されるまで、現政権下の閣僚が暫定的に職務にとどまる。同国の憲法によると、バビシュ新首相は30日以内に信任投票を実施しなければならない。

 バビシュ氏はウクライナ政策ではハンガリーのオルバン政権やスロバキアのフィツォ政権と同様、ウクライナへの軍事援助には消極的だ。同氏は、保守派のペトル・フィアラ首相率いる現政権が推進してきたチェコ主導のウクライナ向け軍需品調達イニシアチブの終了を検討している。バビシュ氏は「このプログラムは透明性に欠け、費用が高すぎる」と批判してきた。

 ちなみに、2011年に抗議運動として設立されたANOは、元々はリベラル志向だった。昨年から、ANOはEU議会の極右グループ「欧州の愛国者」(Patriotsf or Europe)に加盟している。このグループには、オーストリア自由党(FPO)とハンガリーのフィデス党も所属している。バビシュ氏は、FPO党首のヘルベルト・キックル氏とハンガリーのヴィクトル・オルバン首相と共に、ウィーンで2024年6月30日にこのEU会派「欧州の愛国者」の結成を発表している(「欧州右派3党、新しい会派を創設へ」2024年7月2日参照)。

 バビシュ氏の任命に先立ち、選挙で勝利したバビシュ氏とパヴェル大統領の間で数週間にわたる権力闘争が繰り広げられた。パヴェル大統領は、実業家でありEU補助金の受給者であるバビシュ氏と、政治家であるバビシュ氏の間に生じる利益相反を解決するよう要求した。プラハからの情報によると、バビシュ氏は、自身の持株会社「アグロフェルト」を信託会社に移管することを約束することで譲歩したという(オーストリア国営放送ORFヴェブサイト)。

 なお、ハンガリーのオルバン首相はバビシュ氏を祝福し、「かつての盟友が戻ってきた」と述べた。オーストリアの極右政党「自由党」(FPO)のキックル党首もバビシュ氏を讃え、「民主主義と有権者の意思の決定的な勝利」と評している。

 ハンガリーのオルバン政権、スロバキアのフィツォ政権、そして今回、チェコでバビシュ政権が発足するなど、欧州ではEUのブリュッセル主導政治に反対する右派政党の政権奪回が続いている。反EU政策を標榜し、親ロシア傾向の右派政党の拡散は、EUから武器支援を受けてきたウクライナにとって逆風だ。

「チェコ」と「スロバキア」で同日抗議デモ

 チェコで10月実施された下院選挙の結果を受け、アンドレイ・バビシュ前首相率いる右派ポピュリスト政党「ANO」、実業家トミオ・オカムラ氏が率いる右派ポピュリスト政党「自由と直接民主主義」(SPD)、そして、新党の右派「モトリスト」による3党連立政権が年内に発足する予定だが、首都プラハで17日、バビシュ氏を首相とした新政権の誕生に反対し、「チェコ共和国は売り物ではない」というスローガンを掲げ、数千人がデモを行った。参加者たちは欧州連合(EU)懐疑派政権の発足に対し、「法の支配が失われ、権力の乱用が生じる」と懸念している。

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▲チェコのパヴェル大統領、天皇陛下と会見、2025年7月25日、チェコ大統領府公式サイトから

 チェコのペトル・パヴェル大統領は17日、EUに批判的な億万長者であるバビシュ氏を首相に任命する義務を負わないと警告した。首相の任命権を有する大統領は、71歳のバビシュ氏が実業家であり補助金の受給者である一方、政治家でもあることから利益相反が生じていると指摘し、「もしバビシュ氏が利益相反を解決できないのであれば、私はバビシュ氏を首相に任命することを拒否する」と説明し、「バビシュ氏は首相に別の候補者を指名する方が賢明だ」と述べている。

 バビシュ氏は自身の企業を売却するつもりはない。2007年から施行されている利益相反防止法に基づき、バビシュ氏は2017年から2021年までの首相在任中、自身の企業を信託基金に委託したが、その後解散している。パヴェル大統領とバビシュ氏の話し合いが難航も予想される。

 報道によると、アンドレイ・バビシュ前首相率いる新政権は、16人の閣僚で構成される。ANOは首相とその他8つのポストに就く見込みだ。モトリス党は4つの閣僚ポスト、SPDは3つの閣僚ポストに就く予定だ。下院は5日、日系SPD党首のトミオ・オカムラ氏を国会議長に選出している。なお、ANOは10月初旬の議会選挙で圧倒的な差で勝利した。モトリス党とSPDを合わせると、議会200議席のうち108議席を占める。

 一方、1989年11月に共産主義政権に対する「ビロード革命」が起こってから36年目を迎えた17日、スロバキアでは数万人が左派民族主義者ロベルト・フィツォ首相率いる政府に抗議するデモを行った。

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▲当方とのインタビューに応じるスロバキア初代首相ウラジミール・メチアル氏(1993年3月13日、ブラチスラバの首相官邸で撮影)

 主催者によると、雨天にもかかわらず、首都ブラチスラバの政府庁舎向かいの自由広場で最大5万人が参加した。人々は共産主義独裁政権の崩壊を記念する一方、フィツォ首相率いる三党連立政権の終焉を要求し、「もうフィツォにはうんざりだ」と声を揃えて叫んだ。

 スロバキアでは、学生たちによる抗議活動がメディアの注目を集めている。フィツォ氏がスロバキア北部の町ポプラドにある高校を訪問する予定だった際、ある生徒が入り口前の地面にチョークで厳しい批判を書き込んだ。それが発端となり、インターネット上はチョークで書かれた反政府スローガンの画像で溢れかえっている。

 フィツォ政権は隣国ハンガリーのオルバン首相に倣い、対ウクライナ政策では武器支援拒否、親ロシア政策を推進する一方、公共放送RTVSの解散など司法・メディアの改革に乗り出してきた。EU)のブリュッセルからは「スロバキアが第2のハンガリーとなる」といった懸念の声すら聞かれる。

 ちなみに、フィツォ首相は昨年5月15日、同国中部ハンドロバで政治集会を終えて退出し、会場前に集まった市民と交流しようとした時、男性から5発の銃弾を受け、一発は腹部に命中し、重体となって近くの病院にヘリコプターで搬送され、緊急手術を受けるという暗殺未遂事件に遭遇した。スロバキアの政情はここにきて不安定さを増している。

 いずれにしても、チェコとスロバキアで同日、偶然にも抗議デモが行われたわけだ。 チェコの場合、EU懐疑派政権の誕生を恐れ、スロバキアの場合、フィツオ政権の反EU路線、ロシア接近などの外交路線に、それぞれ抗議したわけだ。

 チェコとスロバキアは共産党政権時代、「チェコスロバキア連邦」を構成していた同胞だった。それが民主改革(1989年)後、分裂し、1993年1月から独立国家となった。両国ともEUと北大西洋条約機構(NATO)に加盟している。

チェコ下院選でバビシュ氏のカムバック

 3,4日の両日実施されたチェコ議会選挙(下院)の開票が行われ、アンドレイ・バビシュ前首相率いる右派ポピュリスト政党「ANO」が約35%の得票率を獲得し、圧勝した。一方、ペトル・フィアラ首相の保守派「市民民主党」(ODS)、「キリスト教民主人民党」(KDU-CSL)、そして中道リベラル派の「TOP 09」で構成された与党「選挙連盟」(シュポル)は約23%に留まった。
 また、右派リベラル派の「STAN」は11%、実業家トミオ・オカムラ氏が率いる右派ポピュリスト政党「自由と直接民主主義」(SPD)は8%、「海賊党」は9%の得票率を獲得した。そのほか、新党の右派「モトリスト」は7%を獲得し、議席獲得に必要な得票率5%をクリアした。

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▲アンドレイ・バビシュ氏、ウィキぺディアから

 将来の下院(定数200)は、ANOが80議席、ODS27議席、STAN22、海賊党18議席、KDU-CS16議席、SPD15議席、「モトリスト」13議席、TOP9は9議席となる予定だ。
 
 「ANO」の勝利は投票前から予想されていた。2017年から2021年までチェコ首相を務めた億万長者のバビシュ氏は「欧州連合」(EU)には懐疑的だ。EUのブリュッセルの官僚支配を嫌う。親EU路線を走ってきたフィアラ現政権とは明らかに異なる。

 ウクライナ支援政策の見直しも避けられなくなるだろう。チェコはウクライナ支援の「有志連合」のメンバーであり、ウクライナへの武器供与、兵士の訓練などをしてきた。ウクライナ戦争が始まって以降、ウクライナに2000点以上の重装備、火砲、戦車、ミサイル発射装置などを供与してきた。また、多数のウクライナ難民を受け入れ、キーウの防衛を支援するための「軍需品イニシアチブ」を立ち上げた。しかし、現政府のウクライナ支援に対して、「自国への配慮が不足している」と批判されてきた。国民の間にも支援疲れが出てきている。

 それに対し、バビシュ氏はウクライナでの停戦と軍事援助の停止を訴え、「チェコの政治家はこの問題に影響力を持たない。戦争が終わるまで待とう」と主張するなど、ウクライナ政策では、スロバキアとハンガリーの政策に近い。バビシュ氏はスロバキアのロベルト・フィツォ首相とハンガリーのヴィクトル・オルバン首相と良好な関係にある。バビシュ氏は彼らとブリュッセル批判の連合を形成する意向といわれている。

 経済の面でも国民の間には現政府に不満の声がある。特に、物価の高騰だ。2023年にはインフレ率が10%を超えた。現在は3%を下回ってきたが、国民は購買力の低下に悩んでいる。

 ちなみに、バビシュ氏は熱心なトランプ氏ファンだ。バビシュ氏の支持者たちは、トランプ氏の「アメリカを再び偉大に」に倣い、「強いチェコを」と印刷された赤い帽子を被っているほどだ。

 いずれにしても、バビシュ氏は新政権を発足させるためには連立相手を必要とする。ANOのパートナー候補としては、SPDが挙げられている。ただ、SPDは政権外に留まり、ANOの少数与党内閣を容認する可能性も考えられる。問題は、ANOとSPDの両党で過半数を獲得できなかった時だ。その場合、初めて議会選挙に参加した右派政党「モトリスト」が挙げられる。選挙戦終盤に入り支持率を伸ばした「モトリスト」は、「バビシュ氏を支援する」と公言してきた。

 ただ、問題はある。SPDも「モトリスト」もEU離脱を主張していることだ。EUに批判的だが、離脱には反対のバビシュ氏にとって2党との連立は容易ではない。

チェコ議会選で右派ポピュリスト政党リード

 チェコで3日と4日の両日、議会選挙(下院200議席,任期4年)が実施される。複数の世論調査によると、実業家で資産家のアンドレイ・バビシュ前首相が率いる右派ポピュリスト政党「ANO2011」が支持率で大きくリードし、同党の政権復帰が現実味を帯びてきている。

 チェコでは投票は、3日午後2時から同日午後10時まで、翌日4日午前8時から再開され、同日午後2時まで行われる。投票の大勢は4日夜には判明する予定だ。選挙には26政党、選挙連合、グループが参加しているが、議会で議席獲得に必要な得票率5%をクリアする政党は7政党に留まるものと予想されている。

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▲日本を訪問して石破茂首相と会談するチェコのペトル・パヴェル大統領、2025年7月25日、首相官邸公式サイトから

 同国からの情報によると、ANOは支持率30%から33%とトップを走り、ペトル・フィアラ首相が率いる現政権の連立同盟を10%以上リードしている。ただし、バビシュ氏のANOが勝利したたとしても、1党で過半数を獲得するのは難しく、他政党との連立が不可欠となる。

 ANOの連立相手としては、実業家トミオ・オカムラ氏が率いる右派ポピュリスト政党「自由と直接民主主義」(SPD)が挙げられている。SPDは政権外に留まり、ANOの少数与党内閣を容認する可能性も考えられる。問題は、ANOとSPDの両党で過半数を獲得できなかった時だ。その場合、初めて議会選挙に立候補する右派政党「モトリスト」が挙げられる。選挙戦終盤に入り支持率を伸ばしてきた「モトリスト」は、「バビシュ氏を支援する」と公言している。

 前回の総選挙(2021年10月)では、バビシュ首相が率いる「ANO2011」は反バビシュで結束したリベラル・保守政党の野党連合(Spolu)と左翼のリベラルの政党「海賊党」と「無所属および首長連合」(STAN)の選挙同盟に僅差ながら敗北し、野党連合のフィアラ首相を中心とした5党から成る連立政権が発足した。

 いずれにしても、欧州連合(EU)懐疑派のバビシュ氏が政権を握った場合、フィアラ現政権の親EU路線に修正が出てくるだろう。また、ウクライナ支援政策の見直しも避けられなくなると受け取られている。

 ウクライナ支援問題は選挙では争点の一つだ。チェコは「有志連合」のメンバーであり、ウクライナへの武器供与、兵士の訓練などをしてきた。ウクライナ戦争が始まって以降、チェコはウクライナに2000点以上の重装備、火砲、戦車、ミサイル発射装置などを供与してきた。その一方、国民の間に支援疲れが出てきている。

 一方、チェコの国民経済は新型コロナウイルス危機からようやく回復してきた。旧ソ連・東欧諸国の経済分析で有名な「ウィーン比較経済研究所」(WIIW)によると、「チェコ経済は2025年第1四半期も回復を続け、GDPは前期比0.8%増、前年比2.2%増となった。実質所得の向上と低インフレが支出を支え、成長は主に家計消費によって牽引された。労働市場の状況は引き続き良好。雇用は、サービス業と建設業の雇用増加に支えられ、前四半期比0.7%増、前年比1.1%増となった。平均粗賃金は名目ベースで前年比6.7%増、実質ベースで3.9%増となり、家計購買力の回復を後押しした。インフレは2025年初頭も引き続き緩和し、国内外のコスト圧力の好ましい傾向を反映している。。第1四半期の実績と国内需要の基調的な動向を踏まえ、2025年のGDP成長率は2.0%」という。

「無宗教の国」されど「無神論の国」に非ず

 欧州で最も「無宗教国」と言われるチェコの宗教事情について紹介したい。チェコ国民の約 60〜70% が「無宗教」または「特定の宗教を信仰していない」と回答しており、正式な宗教団体に属している人は非常に少ない。例えば、カトリック教徒は約 10〜15% にとどまり、プロテスタントやその他のキリスト教宗派の信者もさらに少ない。そのことから、「チェコは世界的に最も世俗化した国」と言われている。

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▲キリスト教徒になることを拒み続けたハバル氏、1988年8月、プラハのハベル氏宅で撮影

 当方が冷戦時代、チェコののローマ・カトリック教会の最高指導者トーマシェク枢機卿と会見した時、同枢機卿は「自分はハベル氏を信者にしたいのだが、難しくてね」と笑いながら語ったことがある。バーツラフ・ハベル氏はチェコの民主化の立役者であり、民主化後の初代大統領に選出された人物だ。トーマシェク枢機卿はハベル氏をキリスト者としたかったが、最後まで出来なかったというのだ。

 ハベル氏が特別な無神論者だったわけではない。チェコ国民はローマ・カトリック教会に対して歴史的な不信感がある。チェコの宗教事情を語る上で、フス戦争(1419〜1434年) の影響は大きい。チェコの宗教改革者 ヤン・フス は、カトリック教会の腐敗を批判し、教会の改革を訴えたが、異端とされ、1415年に処刑された。フスの死後、チェコではカトリック教会とフス派(プロテスタントの一種)の対立が激化し、フス戦争が勃発。この戦争を通じて、チェコ人の間には 「カトリック教会=圧政的な存在」 という認識が広まり、宗教に対する不信感が根付くことになった。

 それだけではない。チェコは17世紀、ハプスブルク帝国(現在のオーストリア・ドイツ系)の支配下に入り、カトリックが国教として強制された。1620年の「白山の戦い」 でカトリック勢力が勝利し、プロテスタント系のフス派は弾圧された。カトリック化政策が進められ、多くのチェコ人が無理やりカトリックに改宗させられた。「強制的な宗教政策」 は逆に国民の反発を招き、チェコ人の宗教離れを加速させた。

 そして、 20世紀の共産主義政権による弾圧(1948〜1989年)だ。チェコスロバキアは1948年、ソ連の影響下で共産主義政権となった。共産党政府は宗教を「反動的な思想」とみなし、教会を国家の管理下に置き、宗教活動を厳しく制限 した。カトリック教会の財産は没収 され、司祭たちは投獄された。宗教教育は学校から排除され、無神論が推奨された。

 以上、�.侫浩鐐茵↓▲魯廛好屮襯�帝国下のカトリック化政策、�6�産化と宗教弾圧を経て、冷戦後、チェコ国民は「宗教を信じる=時代遅れ・保守的」という価値観が広まり、個人主義と共に、世俗化が進んだ。

 ただ、チェコ国民は「無宗教者」が多いが、「無神論者」とはいえない。多くは公式な宗教団体には属していないが、「スピリチュアルな存在を信じる」人も多く、精神的な思想には興味を持つ人が少なくない。チェコでは、宗教は 個人のプライベートな問題として扱われている。その一方、クリスマスやイースターといった伝統的な宗教行事は、宗教的な意味よりも文化的なイベント として楽しむ。多くの人が教会には行かず、家族と食事をしたり、プレゼントを交換したりする、といった具合いだ。

 日本もチェコと同じように「無宗教の国」と言われることが多いが、両国の間には宗教観で違いがある。日本の場合、神道・仏教が根付くが、明治以降の近代化と戦後の世俗化で信仰が形式化。伝統的に仏教・神道を信仰しているとされるが、日常では意識しない人が多い。「無宗教」と言いつつも、神社参拝や墓参りなど宗教的行為を行う。初詣、祭り、葬式などは宗教的要素を含みながらも伝統行事として行う。先祖崇拝、八百万の神など「ゆるやかな信仰」が根付いている。

 日本の「無宗教」は 「宗教を持たない」というより、「宗教を特に意識していない」 という意味合いが強い。例えば、「仏教徒」と言っても、お寺に頻繁に通う人は少なく、お葬式のときくらいしか仏教を意識しない というケースがほとんどだ。神社に初詣に行き、お寺で葬式をし、クリスマスを祝うといったように、宗教的行事を日常の習慣として受け入れる。すなわち、日本では 宗教は「信仰するもの」ではなく「文化や伝統の一部」 として存在しているわけだ。

 以上、チェコと日本はどちらも「無宗教の国」と言われることが多いが、その成り立ちや宗教観には大きな違いがあるわけだ。

 (上記の内容は、チャトGPTとのやり取りを通じてまとめた)。

「チェコ」と「スロバキア」の絆に亀裂?

 赤の他人同士だったら、些細な問題で関係が急に悪くなることは少ないかもしれない。逆に兄弟関係だったなら、事態は俄かに複雑な状況になることがある。ちょっとした誤解から関係が急速に険悪化し、最悪の場合、兄弟関係が途絶えてしまう事態も予想される。

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▲訪日したチェコのヤン・リパフスキー外相と会談する上川陽子外相(2024年2月29日、日本外務省公式サイトから)

 チェコとスロバキアは冷戦時代は「チェコ共和国」と「スロバキア共和国」から成るチェコスロバキア連邦国家であり、東欧共産圏の一国だった。それがビロード革命と呼ばれる民主改革で共産政権が崩壊した。その後、1918年から両共和国で構成されていた連邦国家は1993年に平和裏に分かれた。両国はその後、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、欧州の一員としてこれまでそれぞれの道を歩んできた。

 興味深い点は、チェコ連邦の国民の多数は当時、連邦解体を希望していなかったという事実だ。チェコ側もスロバキア側でも連邦の解体に関する国民投票は実施されず、政府と議会での討議後、連邦解体が決定された。連邦解体の背景について、スロバキアのウラジミール・メチアル元首相は、「チェコ政府側は経済力の脆弱なスロバキアから離れたいという意向が強かった。連邦解体はチェコ側が久しく願ってきたプランに基づいて遂行されていった。スロバキア側はそれに抵抗する手段はなかった」と、オーストリア日刊紙プレッセとのインタビューの中で述懐している「『チェコ連邦』の解体が決まった日」2017年8月28日参考)。

 その兄弟国だったチェコとスロバキア両国がここにきて険悪な関係となってきた。というより、ロシア軍のウクライナ侵攻後、EUのウクライナ支援に積極的に関わるチェコに対し、スロバキアはウクライナ支援に消極的で、ロシアのプーチン大統領の強権政治に傾斜してきたのだ。

 その両国間の政府間協議がチェコ側の申し出で無期延期されたことから、両国間の間に亀裂が生じてきた。ペトル・フィアラ首相率いるチェコ政府は6日、親ロシア派のロベルト・フィコ首相率いるスロバキア政府との間で予定されていた慣例の政府協議を中止すると決定した。フィアラ首相は、「スロバキア政府の活動の一部には問題がある。通常の政府間会合を開催することは現時点では適切ではないということで一致した」というのだ。チェコ側はこの措置についてスロバキア側に既に通知済みだという。

 チェコ側が反発している問題はスロバキア政府のウクライナ政策がロシアに融和的過ぎるという点だ。具体的には、スロバキアのジュラジ・ブラナール外相が今月2日、トルコのアンタリヤでロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談したことが報じられると、チェコ側はスロバキア政府の外交政策に危険を感じ出したわけだ。

 チェコのペトル・パベル大統領は7日、ウクライナに対して数週間以内に80万発の砲弾を追加供給できると発表した。これはチェコ主導のプロジェクトであり、弾薬不足のウクライナを支援する狙いがある。チェコはウクライナ戦争勃発後、他のEU諸国と同様、対ロシア制裁を実施する一方、旧ワルシャワ条約機構時代の武器を提供してきた。同時に、ウクライナからの避難民を積極的に迎え入れてきた。

 チェコのフィアラ首相は、「チェコ社会とスロバキア社会の間に緊密なつながりがあることを認識しているし、私たちは協力を継続し、両国関係とプロジェクトの発展に興味を持っている。しかし、いくつかの外交政策問題については大きな意見の相違があるという事実を隠すことができない」と説明し、今回の政府決定への理解を求めている。

 一方、スロバキアのロバート・フィコ首相は6日、プラハからの発表に激怒し、「チェコとスロバキアの関係を危険にさらす決定だ。わが国はウクライナ戦争の平和的解決について語っているのに、チェコ政府は戦争の継続に関心がある。わが国のウクライナ政策には変更はない」と強調する一方、「わが国のチェコとの緊密な関係を危険にさらすようなことはしない」と述べ、両国関係の険悪化がエスカレートしないように注意を払っている。

 EUのブリュッセルでは、スロバキアがハンガリーのオルバン首相の親ロシア政策に倣い、フィコ首相が第2のオルバンになるのではないかと懸念している。フィコ首相は昨年10月、ウクライナへの軍事支援をやめるという公約を掲げて4度目の政権復帰をした左派指導者だ。

 チェコとスロバキア両民族は兄弟関係だったが、民族の気質は異なっている。1989年11月の民主化プロセス(ビロード革命)でもチェコでは民主化後初代大統領となったバーツラフ・ハベル(Vaclav Havel)氏ら知識人を中心とした政治運動が、スロバキアではキリスト信者たちの信教の自由運動がその民主化の核を形成していった。チェコ民族とスロバキア民族の気質の相違が民主化運動でも異なった展開となった(「『プラハの春』50周年を迎えて」2018年8月10日参考)。その違いがウクライナ問題でも表面化しているといえるかもしれない。物事を合理的に政治的に判断する傾向が強いチェコ民族と、情熱的、宗教的気質が強いスロバキア民族では、ウクライナ戦争に対する対応で相違が出てくるのはある意味で当然かもしれない。
https://wien2006.livedoor.blog/archives/52220971.html
 ちなみに、今年11月の米大統領選でトランプ氏が再選された場合、米国ファーストを標榜するトランプ政権のウクライナ政策が激変するかもしれない。プーチン大統領のロシアとの関係でも変化が予想される。同じように、ハンガリー・ファースト、スロバキア・ファーストを標榜してきたオルバン首相やフィコ首相の対ウクライナ政策やロシアへの融和政策に変化や修正が出てくることが考えられる。

クリスマス3日前の「銃乱射事件」

 クリスマスを3日前に控えた21日、プラハの大学内で発生した銃乱射事件は、チェコ国民に大きな衝撃を投げかけている。  

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▲記者会見するプラハのフォンドラセク警察長官(2023年12月21日、ドイツ民間ニュース専門局ntvのスクリーンショット)

 プラハからの情報によると、チェコの首都プラハにある名門カレル大学(1348年創設、学生数4万9500人)の哲学部の構内で21日午後3時(現地時間)、同大学芸術学部に所属する24歳の男子学生が銃を乱射し、少なくとも14人が死亡、25人が負傷(そのうち10人は重傷)するという事件が発生した。銃撃犯は現場近くで死んでいた。自殺の可能性が高いが、最終的結論は司法解剖まで待たなければならない。

 銃撃事件はプラハ旧市内のヤン・パラハ広場にあるカレル大学哲学部で発生した。多くの学生、教師、大学職員らは講堂やオフィスにバリケードなどを築いて身を隠したという。犯人は教室の窓からも路上の人間に向けて発射した。ヤン・パラフ広場は、ヴルタヴァ川沿いの観光名所カレル橋からわずか数百メートルの距離にある。警察当局は周囲を包囲して警戒態勢を敷く一方、周辺住民には家から出ないように呼び掛けた。

 マルティン・フォンドラセク警察長官( Martin Vondrasek)は、「事件の前、プラハ西部のホストン市で銃撃犯の父親(55)が遺体で発見された。警察当局は銃撃犯が父親を殺害したと疑い、捜査を始めていた。銃撃犯は自殺したいと漏らし、プラハに向かっているという情報を得たので、犯人が講義に出席する予定だった文学部の本館を捜索したが、銃撃犯は別の学部棟に行って銃を乱射した。そのため間に合わなかった」という。同長官によると、「犯人はプラハ近郊の森で15日、男性と生後2カ月の娘の遺体が発見された事件に関与した可能性もある」という。

 銃撃犯(David Kozak)の犯行動機については現時点では不明。問題は、銃撃犯がどこから武器を入手したかだ。犯人の自宅を捜査した警察官によると、「大量の銃器と弾薬が発見された」という。未確認情報だが、犯人は最近ロシアで起きた同じような銃撃事件に刺激を受け、「ロシアの事件以上に多くの人間を射殺したい」と述べていたという。SNSのテレグラムによると、犯人は「全ての人間は自分を憎んでいるが、自分も全ての人間を憎悪している」と語っていたという。BBCによると、犯人に前科はない。

 ラクシャン内相は公共テレビで、「銃撃犯とテロとの関わりを示す証拠はない」と述べ、犯人とテロとの関わりを否定している。ちなみに、警察は特殊部隊を含む大規模な部隊を出動させた。銃撃に関する最初の情報は午後3時頃に届き、対応部隊は12分以内に現場に到着した。銃乱射事件では警察側には負傷者はなかった。

 1993年のチェコ独立後、銃器による最大の犯罪となった今回の事件について、パベル大統領は「ショックを受けた」と述べ、犠牲者の遺族に対し「深い遺憾の意と心からのお悔やみ」を表明した。また、フィアラ首相はモラヴィアへの実務訪問をキャンセルし、「悲劇的な出来事のため、私はオロモウツでの仕事プログラムをキャンセルし、プラハに戻る」と語った。同首相はX(旧ツイッター)に「われわれは皆、恐ろしい行為に衝撃を受けている」と投稿。犠牲者の遺族らに哀悼の意を表した上で、23日を追悼の日にすると宣言した。

 .プラハのボフスラフ・スヴォボダ市長は公共テレビCTで、「これは悲劇だ。この種の事件は防ぐことが出来ない。多くの人は、このような銃乱射事件は米国でしか起こり得ないと考えてきた。なぜなら、米国では多くの人が武器を所有しているからだ。しかし、今回、そうではないことが判明した」と語った。

ロシア「EU議長国チェコを狙え」

 そのような事態が起きるだろうとは予想していたが、夏季休暇が過ぎ、9月が始まるとすぐに起きた。チェコの首都プラハで3日、約7万人が参加した大規模なデモが行われた。ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻させて以来、欧州各地でロシアのウクライナ侵攻に抗議するデモは開かれたが、今回のデモはロシア批判というより、「政府はウクライナ支援ではなく、国民生活の改善に努力を」というものだ。要するに、ウクライナではなく、チェコ・ファーストを叫ぶデモだった。

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▲今年下半期のEU議長国チェコのフィアラ首相(右)とEUのフォンデアライエン委員長(中央)2022年7月1日、チェコ政府公式サイトから

 ロシア軍が2月24日、ウクライナに侵攻した直後、欧州連合(EU)は「ウクライナを救え」ということで結束し、米国らと共に対ロシア制裁を一斉に実施する一方、北大西洋条約機構(NATO)はウクライナへの軍事支援を実施、ウクライナへの連帯の輪は急速に広がっていった。欧米指導者たちはロシア軍と戦うウクライナに連帯を示すためにキーウ詣をし、ゼレンスキー大統領を鼓舞してきた。

 それが8月に入った頃から、祖国防衛で士気が高かったウクライナ兵士にも戦い疲れが目立ち始めた。一方、ウクライナ支援で結束してきた欧州では、プーチン大統領が天然ガス、原油などのエネルギーを武器に供給制限に乗り出してきたこともあって、エネルギー価格は高くなり、物価高騰がみられてきた。月のインフレ率は10%を超えるなど、国民の生活は圧迫されてきた。

 チェコはウクライナ戦争勃発後、他のEU諸国と同様、対ロシア制裁を実施する一方、旧ワルシャワ条約機構時代の武器を提供してきた。同時に、ウクライナからの避難民を積極的に迎え入れてきた。チェコが他の欧州諸国より飛びぬけてウクライナ支援を実施してきたわけではない。

 チェコでは昨年10月8、9日の両日、議会選挙(下院、定数200)が実施され、リベラル・保守政党の野党連合(Spolu)と左翼のリベラルの政党「海賊党」と「無所属および首長連合」(STAN)の選挙同盟が勝利し、野党連合のペトル・フィアラ首相を中心とした連立政権が昨年12月17日、発足したばかりだ。

 そのチェコは7月1日から今年下半期のEU議長国だ。新政権は議長国として5点から成る政策課題の優先事項を発表している。第1の課題は長期化の様相を深めているウクライナ戦争への対応だ。具体的には、ウクライナへの武器供給、難民収容、経済支援を含む人道支援だ。ウクライナのゼレンスキー大統領が、「ロシアとの戦争は単なるロシア・ウクライナ戦争ではなく、独裁国家ロシアと欧州の民主国家との戦いだ」と強調してきた。フィアラ首相は当時、「ウクライナの復興とEU加盟支援は大きな課題だ」と述べている。

 EU議長国は27カ国から成る加盟国の協調を促進する役割を担っている。その議長国でウクライナ戦争勃発後初めて「ウクライナよりも自国民優先を」というデモが行われたのだ。EU全体に大きな影響を与えることは必至だ。

 チェコの隣国ハンガリーのオルバン政権はプーチン大統領と個別で交渉し、ロシア産天然ガスの供給増しでモスクワと合意している。オルバン首相は、「私はハンガリー国民の生活に責任を有する立場だ」と説明、厳冬で国民が暖房できないような状況を避けなければならないから、ブリュッセルの方針よりハンガリー優先の政策を実施してきたわけだ。チェコ国民はオルバン政府の政策を知っているから、「わが国もウクライナ支援ばかりではなく、国民の生活改善に力を入れるべきだ」といった声が出てくるわけだ。

 ロシアのプーチン大統領はニヤニヤしながら喜んでいることだろう。ロシア国営のエネルギー大手ガスプロムは8月31日、ロシアからドイツに続くパイプライン「ノルド・ストリーム1」を経由するの欧州へのガス供給を完全に止めている。9月が始まった、学校も再開した。新型コロナウイルスの感染対策もある。そのような情況下で、チェコ国民がデモをする気持ちは理解できるが、他の国でも同じようなデモが行われれば、対ロシア制裁は効果を失っていく一方、軍事大国ロシアと戦うウクライナは苦しくなる。

 セレンスキー大統領はロシア側に占領された領土を奪い返し、クリミア半島の奪回をも視野に入れている。米国からの軍事支援は続いているが、戦いの長期化は避けられない。戦争が続けば、家計が苦しくなる国民は増える。そうなれば、プラハ市民のようなデモが欧州各地で行われ、ウクライナ戦争はロシア側に有利となっていく、という懸念が出てくる。

 その意味で、プラハ市民の4日のデモはウクライナ戦争の行方に大きな影響を与えることが予想されるわけだ。欧州はウクライナ支援を継続していくためにも、物価高騰などで苦しむ国民の救済が急務となってきた。容易ではないが、欧州はエネルギー価格高騰に対してはロシア産石油価格の上限設定など統合した政策を実施する一方、国民の経済的負担を軽減する対策を積極的に実施すべきだ。ショルツ独政権は4日、総額650億ユーロの第3家計負担軽減策を決めている。年金生活者や学生への一時金支給から電気代上限設定などが含まれている。

 参考までに、プラハで7万人の大規模なデモが行われた背後には、ロシア情報機関の工作があったのではないか。独週刊誌シュピーゲル(8月27日号)は「プーチンの陰の戦士」というタイトルの記事で、「ロシアが欧州全土でハッカー、スパイ工作、サボタージュなどを行っている」と警告を発している。ロシアはEU議長国チェコの国内世論を操作し、EUの対ロシア制裁の結束を崩す工作を仕掛けてきているのではないか。

EU議長国チェコの対中政策

 少し遅れたが報告する。中欧のチェコは7月1日、フランスから欧州連合(EU)の議長国を引き継き、下半期議長国(7月〜12月)の座に就任した。欧州がロシア軍のウクライナ侵攻、それに関連し、エネルギー問題・物価高騰、地球温暖化対策など難問に直面している時だけに、チェコのかじ取りが注目される。

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▲チェコ新政権が今年1月7日、台湾など民主主義諸国との協力を強化するとの外交政策を発表したことを受け、中華民国外交部は、歓迎の意を示した。(中央社)

 チェコでは昨年10月8、9日の両日、議会選挙(下院、定数200)が実施され、アンドレイ・バビシュ首相が率いるポピュリスト運動「ANO2011」が反バビシェで結束したリベラル・保守政党の野党連合(Spolu)と左翼のリベラルの政党「海賊党」と「無所属および首長連合」(STAN)の選挙同盟に僅差ながら敗北した。

 その結果、野党連合のペトル・フィアラ首相を中心とした連立政権が昨年12月17日、発足したばかりだ。EU懐疑派だったバビシュ前政権とは異なり、フィアラ新政権は親EU路線を推進していくものと予想されている(Spoluと「海賊・STAN」の2選挙同盟は政治路線が全く異なる。選挙戦ではバビシュ降ろしで結束できたが、連立政権の政策運営で相違が浮き彫りになる可能性は排除できない)。

 新政権にとってEU議長国就任はそのプレゼンスを欧州全土に知らしめるチャンスだ。それに先立ち、新政権は6月15日、議長国として5点から成る政策課題の優先事項を発表している。第1の課題は4カ月が過ぎ、長期化の様相を深めているウクライナ戦争への対応だ。具体的には、ウクライナへの武器供給、難民収容、経済支援を含む人道支援だ。ウクライナのゼレンスキー大統領が、「ロシアとの戦争は単なるロシア・ウクライナ戦争ではなく、独裁国家ロシアと欧州の民主国家との戦いだ」と強調しているように、ウクライナ戦争はEUの存続を賭けた戦争ともなってきている。フィアラ首相は、「ウクライナの復興とEU加盟支援は大きな課題だ」と述べている。

 第2はウクライナ戦争に関連して先鋭化してきたエネルギーの安全保障問題だ。ロシア産の石炭、石油、天然ガスに依存してきた欧州諸国にとっては、ロシアが地下資源を武器として脅迫してきただけに、EU加盟国にとって安全なエネルギー確保は急務となってきている。特に、再生可能エネルギーを掲げ、脱原発、脱石炭を掲げるEUの経済大国ドイツにとって大きな挑戦だ。

 EUはエネルギー安全保障については、「欧州グリーン・ディール」を推進する政策パッケージ「Fit for 55」を掲げ、温室効果ガス削減目標の達成に向けて、エネルギーのロシア産化石燃料依存から脱出、水素エネルギーへの転換を進めることを政策課題としている。

 そのほか、欧州の防衛力、軍事力の向上、サイバー・セキュリテイの強化問題だ。EU加盟国は同時に北大西洋条約機構(NATO)加盟国が大多数であることもあって、EUとNATOの連携強化が問われるわけだ。その意味で、マドリードで開催されたNATO首脳会談は米国を加え、NATOの拡大強化が明らかになったばかりだ。

 EU議長国となったチェコの外交で注目される点は、前政権下で進められてきた親台湾政策だ。チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長が2020年8月末から9月5日にかけ台湾を訪問し、中国から激しい批判を受け、経済制裁まで受けた。台湾から招請されたヤロスラフ・クベラ前上院議長が不審な急死を遂げ、事件の背景についてメディアでも大きく報道されたことはまだ記憶に新しい(「中欧チェコの毅然とした対中政策」2020年8月10日参考)。

 「Taiwan Today」(TT)によると、中華民国外交部(台湾)は1月、「台湾とチェコの関係は常に緊密で、友好的。フィアラ政権とは自由、民主主義、基本的人権の尊重などの価値観を共有し、理念を同じくするパートナーシップを構築している。2021年に行われたチェコ議会下院選挙で勝利した野党連合による新政権は、台湾との関係を強化する選挙公約を示した。政策方針でも台湾との関係強化を打ち出したことは、両国の関係がさらに発展することを重要視しているものだ」と述べ、両国間の関係深化を期待する声明を公表している。

 フィアラ新政権下で新台湾政策が継続されていくならば、中国から経済制裁を含む圧力がさらに強まってくることが予想される。中国側はチェコの親台湾路線の修正を図るためにさまざまな手段を行使するだろう。ただ、ロシアのウクライナ侵攻に直面した今日、ロシアと連携する中国共産党政権に対する警戒心がEU、NATO内で広がってきている。中国共産党政権がプーチン大統領のウクライナ侵攻に倣い、台湾海峡に軍を進出させるのではないか、といった懸念だ。チェコはEU議長国として対ロシア、対中国政策で毅然とした対応が期待される。
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