ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ポーランド

ポーランド、他国での同性婚を承認せず

 ワルシャワからの情報によると、ポーランド最高裁判所は28日、「ポーランド国外で成立した同性婚を承認しない」とする判断を下した。同裁判所は今年3月、他の欧州連合(EU)加盟国で成立した同性婚をポーランドも承認すべき義務があるとの昨年11月の欧州司法裁判所(ECJ)の判決を受け、今年8月末からECJの判断をポーランド国内法に反映させる予定だった。それをここにきて、「憲法違反」として、ECJの判決内容の施行をストップさせた。

1460x616 (4)
▲トゥスク首相とキエルヴィンスキ内相(右)、ポーランド内務省公式サイトから、2026年7月27日

 ECJが昨年11月、EU加盟国は他の加盟国で成立した同性婚を承認しなければならないと判断した背景には、EU市民がEU域内の異なる国々をまたいで家族生活を継続できるという保証が必要と判断したからだ。この権利は、EU域内における「移動の自由」の一環と見なされた。これは2018年にベルリンで結婚した男性2人がECJに提起した訴訟への判決だ。

 ポーランドではECJの判決を受け、キエルヴィンスキ内相が発令し、すべての戸籍登録機関に遵守が義務付けられた。同通達は、8月末に施行される予定だった。それを今回、最高裁判所がキエルヴィンスキ内相の発令した通達を「憲法違反である」と決定したわけだ。最高裁判所が土壇場に立場を変えた背後には、右派保守の野党「法と正義(PiS)」の議員らが憲法裁判所に異議申し出を行うなど、政治的圧力を強めてきたからだ。同裁判所は主に、PiS政権下で任命され、同党に近い判事らによって構成されている。ちなみに、ポーランド憲法では、「結婚を男女間の結合」と定義している。

 ところで、EU27カ国で同性婚を認めていない国は11カ国。西ヨーロッパの大部分で同性婚が合法化されている一方、東欧や中欧の国々を中心に、現在も認められていない。

 同性婚を認めていない11カ国の中で、同性婚は認めないものの「登録パートナーシップ(シビル・ユニオン)」などの代替制度を認めている国(5カ国)と、一切認めていない国に分かれる。

 パートナーシップ制度も同性婚も、どちらも認めていない国は6カ国、スロバキア、ポーランド、ブルガリア、ルーマニア、リトアニア、ラトビアだ。ポーランド以外は憲法で「婚姻を男女間に限る」と明記している。なお、エストニアは2024年、ギリシャも2024年に同性婚を合法化した。

 これら11カ国の国内では同性婚の挙式や登録はできないが、ECJの判決により、別のEU加盟国で合法的に成立した同性婚カップルが、同性婚を認めていない国に移住した場合、滞在権や居住権などの目的において、その婚姻関係を「配偶者」として承認しなければならない。

 ちなみに、欧州ではポーランドやスロバキア、ハンガリーなどの民族主義的政権が強い国では依然、同性婚拒否の傾向が強い。例えば、スロバキアは2014年に婚姻を男性と女性の独自の結合と明記した憲法改正案を可決しているが、2025年9月、婚姻の定義をさらに補強し、LGBTQ+コミュニティの権利を制限する新たな憲法改正を実施している。

 具体的には、性別の厳格化だ。憲法に「スロバキアは、生物学的に決定された男性と女性の二つの性別のみを認める」という条文(第52条a)が追加され、出生時の性別が基準となり、「法律で定められた重大な理由がない限り、性別を変更することはできない」と規定された。また、養子を受け入れられるのは「法律上の婚姻関係にある夫婦(異性間の夫婦)」に事実上限定された。あわせて代理母出産(サロガシー)も禁止された。家族のあり方や教育などの「文化的・倫理的な問題」においては、EU法よりもスロバキアの国内法・主権を優先することが明記された。

 オルバン政権が16年間続いたハンガリーでは2025年4月14日、「人は男か女のいずれかである」という生物学的性別の二元論を憲法に明記し、トランスジェンダーやノンバイナリーの法的承認を完全に排除した。また、2021年に制定されていた「反LGBTQ+法(子供の保護を名目に同性愛の描写を制限する法律)」をベースに、プライド・パレードなどのLGBTQ+関連の公的な集会を憲法レベルで永久に禁止・制限できるようにした。

 しかし、オルバーン長期政権が今年4月の選挙で敗北し、新首相に就任したペーテル・マジャル氏が対話姿勢を見せているため、同性婚問題で動きが出てくるかもしれない。ただし、新首相はプライド・パレード開催禁止を撤廃したが、同性婚禁止を見直しする意向は現時点ではない。マジャル新首相もオルバン政権下で要職を務めた政治家で、その政治信条は中道保守派だ。

 いずれにしても、EUの「他国での同性婚の承認義務」について、ポーランドだけではなく、国内法やキリスト教的伝統を守りたい東欧諸国(ポーランドやルーマニアなど)の最高裁判所が「国内の憲法に反する」として拒絶の姿勢を示すことが予想される。換言すれば、「EU法」を優先するか、「国内法」を重視するかのホットな争いだ。

 

ポーランド、独に巨額の戦争賠償金要求

 第2次世界大戦が終戦して80年が経過したが、戦争の痛みや被害が既に癒されたか否かは犠牲者の個々の事情によって異なってくるだろう。これは国にとっても当てはまることかもしれない。

2025-09-16-nawrocki
▲ナブロツキ大統領(左)を迎えるドイツのメルツ首相、2025年9月16日、独連邦首相府公式サイトから

 今年8月に大統領に就任したポーランドのナブロツキ大統領は16日、ドイツを初訪問し、シュタインマイヤー独大統領と会談したほか、メルツ首相とも会合した。初顔合わせだったが、42歳の若いポーランド新大統領はシュタインマイヤー大統領との会談ばかりか、メルツ首相との話し合いの中でもドイツ・ナチス政権による戦争賠償金を要求したという。1兆3000億ユーロの賠償金請求だ。

 独のメディアによると、シュタインマイヤー大統領もメルツ首相も隣国の新大統領に対してやんわりと拒否したという。ベルリンの大統領府の報道官によると、シュタインマイヤー大統領は「戦争時の賠償金問題はドイツの観点では法的に解決されている」と述べる一方、「しかし、戦争被害者に対する追悼や記念行事の促進は依然として共通の懸念事項である」と答えたという。

 ナブロツキ大統領は訪独直前、ドイツの大衆紙「ビルト」とのインタビューの中で、「賠償問題はまだ法的に解決されていない」と述べ、「ドイツが戦争賠償金として1兆3000億ユーロを支払うことを願っている。この額は非常に綿密で確固たる科学的研究に基づいてはじき出された数字だ」と説明している。

 ちなみに、大統領選でナブロツキ氏を支援した愛国主義的右派政党「法と正義」(PiS)は、政権時代にこの問題に関する議会委員会を設置し、同委員会は3年前、報告書の中で、賠償額を1兆3000億ユーロと概算している。

 ポーランドへのドイツの侵攻は1939年9月1日に始まり、ダンツィヒ(現在のグダニスク)近郊のヴェスタープラッテへの砲撃に先立ち、当時のドイツ・ポーランド国境付近に位置するヴィエルンはドイツ空軍によって爆撃された。この攻撃だけで約1200人の民間人が犠牲になった。戦争全体でポーランドでは約600万人が命を落とした。

 会談に関する政府副報道官の声明では、ナブロツキ氏の賠償要求については言及されていないが、「第二次世界大戦とドイツ占領の惨禍を経て、ポーランドとの和解を促進することは、ドイツ政府にとって歴史的な責務であり続ける」と述べられている。

 メルツ首相はナブロツキ大統領との会談では、ロシア軍の無人機がポーランドの領空侵犯した件に言及し、「ドイツは常にポーランド側に立っている。隣国の領空監視強化のため、ドイツ軍のユーロファイター戦闘機を2機から4機に増やした」と述べている。

 両国関係では、メルツ政権が不法難民対策の一環として対ポーランド国境の監視強化したことから、ポーランド側は「ドイツは不法移民をポーランドに押し返している」と非難、同じように対独国境管理を導入するなど、一時期、両国関係は険悪化した。ただ、ウクライナ戦争では両国とも緊密な関係を維持している。メルツ首相は5月の首相就任直後、まずフランスを訪問した後、ポーランドを訪問し、ドイツ・ポーランド両国関係が重要であることを示したばかりだ。


 【参考】ドイツの戦争賠償金問題
 ドイツ政府は「賠償問題は戦後直後、解決済み」という立場を堅持してきた。日本は戦後、サンフランシスコ平和条約(1951年)に基づいて戦後賠償問題は2国間の国家補償を実施して完了済みだが、第1次、第2次の2つの世界大戦の敗戦国となったドイツの場合、国家補償ではなく、ナチス軍の被害者に対する個別補償が中心だ。ナチスによるホロコーストなどの被害者への補償は、国家や企業が設立した基金などを通じて行われ、これは戦時賠償とは別の問題として扱われた。ポーランドの賠償請求に対しては、ドイツ政府は1953年のポーランドによる賠償放棄宣言を理由に、「既に解決済みだ」としている。

 ドイツにとって過去問題は政治的にはフランスとの関係だが、損害賠償問題はバルカン諸国や旧東独諸国で常にくずぶってきた厄介なテーマだ。例を挙げる。シュタインマイヤー大統領は2024年10月末、アテネを公式訪問した時、ホストのサケラロプル大統領(当時)から第2次世界大戦でギリシャが受けた損害と、当時のナチス・ドイツに支払わされた強制貸付について賠償を請求された。サケラロプル大統領は「戦争賠償と強制貸付の問題は、ギリシャ国民にとって今なお非常に重要な意味を持っている」として、「同問題は依然として宙に浮いたままだ。ナチス・ドイツ軍のギリシャ占領時代(1941〜44年)の蛮行、ユダヤ系住民のアウシュビッツ収容所送還、経済的略奪などに対し、賠償金を支払うべきだ」と語った。

ポーランド、NATO条約第4条の協議要請

ワルシャワからの情報によると、ロシアから複数の無人機がポーランド領空を侵犯し、北大西洋条約機構(NATO)戦闘機が無人機を打ち落とす、といった事態が生じた。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は10日、「ロシアの大規模な挑発だ」とし、NATO条約第4条に基づき協議を要請した。同条項は、NATO加盟国が外的脅威にさらされていると判断した場合、同盟国と協議することを規定している。

1460x616
▲トゥスク首相、議会でロシア軍の領空侵犯を報告、ポーランド政府公式サイトから、2025年9月10日

 トゥスク首相は同日、議会で「今回の事件は、ポーランド領空における過去の無人機攻撃とは比較にならない。ロシアのミスや軽微な挑発によるものでなかった。ベラルーシから直接、相当数の無人機が飛来したのは初めてだ」と述べた。

 ロシア軍のウクライナ侵攻以来、ロシア側の領空侵犯はポーランドやバルト3国で過去、何度が生じたが、今回のように大規模な無人機の領空侵犯は初めてであり、NATO軍がロシアの無人機を打ち落とすことも初めてだ。

 同国のシコルスキ外相は、「ロシアの行動は意図的なものだ。ポーランド領土だけでなく、NATOとEUの領土に対する前例のない攻撃だ。19件もの領空侵犯が一晩で偶然に起こるはずがない」と述べた。

 9日の夕方(現地時間)、ロシアがドローンとミサイルを使ったウクライナへの大規模な空爆を行ったという最初の情報を受け、NATOの早期警戒管制空中システム(AWACS)などが警戒態勢に入っていた。NATO報道官は10日、「NATOの航空機が同盟国の領空で潜在的な脅威に遭遇したのは初めてだ」と述べた。この領空侵犯の際、ポーランドのドイツのパトリオット防空システムも警戒態勢に入り、イタリアの早期警戒機も出動したという。

 ドローンは9日夜から10日未明にかけて飛来し、トゥスク氏によると19機がポーランド領空に侵入し、最大4機を撃墜した。大半はロシアの同盟国ベラルーシ側から侵入したという。ポーランドに駐留していたオランダ軍のF35戦闘機などが対応に当たった。この影響でポーランドの首都ワルシャワの国際空港への離着陸が一時停止された。

 ワルシャワの内務省からの予備情報によると、これまでに7機のドローンとロケット弾の残骸が押収された。警察と軍はドローンとドローン部品の捜索を続けている。

 現地からの情報によると、ロシア軍の無人機の領空侵犯で死傷者は出ていない。ただ、ドローンがポーランド東部の住宅に衝突し、建物の屋根が損傷したことが報じられた。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ロシアがポーランド上空にロシア製無人機を意図的に飛行させた。今回の無人機は事故と言えるようなものではない。欧州にとって極めて危険な前例だ」と述べ、共同防空システムの導入を改めて訴えた。

 トランプ米大統領は10日、ポーランドのナブロツキ大統領と電話会談し、、「ロシアがドローンでポーランド領空を侵犯した」と述べ、ポーランドへの支援を約束し、同国への米軍増派にも前向きな姿勢を示している。ナブロツキ大統領は9月3日、ホワイトハウスを訪問し、トランプ氏と会談したばかりだ。報道によると、ポーランドには約8,000人の米軍が駐留している。

 NATOのルッテ事務総長は10日、「意図的であったか否かに関わらず、全くの無謀であり、危険だ」と強調。また、EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長はストラスブールで行われた欧州議会での一般教書演説で、ポーランドに連帯を表明する一方、「ロシアに対する更なる制裁が必要だ」と述べた。

 一方、ロシア国防省は10日、ポーランドが,領空侵犯したロシアのドローンを撃墜したと発表したことを受け、「ウクライナの軍産複合体への大規模攻撃を実施中に生じた可能性があるが、ポーランド領内を目標とする計画はなかった」と弁明した。しかし、ロシア外務省はウェブサイト上で、「ポーランドがウクライナ紛争をエスカレートさせるために虚構を捏造しようとしている」と非難した。ロシアでは外務省と国防省で今回の出来事に対する反応が異なっている。

難民支援にも「善意の賞味期限」有り?

 ロシア軍がウクライナに軍事侵攻を開始して既に3年半が経過した。ロシア軍はウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク州、ルハンスク州)をほぼ占領、南部のヘルマン州、サボリーシャ州でも優利に戦争を展開している。ただ、ロシア軍だけではなく、ウクライナ軍にも戦闘疲れがみられる。同時に、ウクライナ避難民を積極的に受け入れた西側にも息切れが出てきた。

z32201852AMP,Karol-Nawrocki
▲ウクライナ避難民への社会保障給付の延長を拒否したナブロツキ大統領、2025年8月25日、ポーランドの日刊紙「ヴィボルチャ」ウェブサイトから

 ウクライナ戦争が勃発した直後、多くのウクライナの女性や子供たちが隣国のポーランドに避難した。ロシアに対して歴史的に警戒心が強いポーランド人は隣国から避難してきたウクライナ人が国境の駅に到着すると、食料や住居を提供するなど、ウクライナ避難民を温かく歓迎した。

 そのポーランドでナブロツキ新大統領は25日、ウクライナ難民への社会保障給付の延長に拒否権を発動した。「就職していないウクライナ人には無償で医療を受けさせるべきではない」と説明、ウクライナ難民への社会保障給付金の支給を就労状況に依存させる考えを明らかにした。

 同国では、保護ステータスを持つウクライナ国民は、子ども1人につき月額180ユーロ相当の児童手当を受け取る。2人目以降の子どもには、最初の2年間、月額117ユーロの育児手当が支給される。難民はまた、教育制度と医療サービスを無料で利用することができ、ポーランドの家族と同等の権利を有する。ポーランドの難民の就労率は65%で、保護ステータスを持つウクライナ国民の合計約98万9000人がポーランドに居住している。その大部分が女性と子供たちだ。トゥスク首相率いる中道左派連合の投票により可決されたこの法案は、難民が2026年3月までこれらの社会保障給付を受け続けることを規定していた。

 このニュースを聞いた時、「クリスマス・キャロル」の作者、英国作家チャールズ・ディケンズ(1812〜70年)とデンマークの童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805〜75年)の交流を思い出した。両作家は親交があった。アンデルセンは1857年、ディケンズ宅を訪問し、そこに宿泊した。ディケンズと家族は数日か1週間ぐらいの滞在と考えていたが、ディケンズ家の歓迎もあり、ロンドンが気に入ったアンデルセンは滞在し続けた。親切なディケンズの家族だったが、「デンマークの客はいつ出ていくだろうか」という当惑の声が飛び出してきた。ホストの家族の事情など知らないアンデルセンはその後も長期、ディケンズ宅に滞在した、というエピソードだ。

 ポーランドをディケンズの家族、アンデルセンをウクライナ難民とみると、最初は善意から歓迎した事項も時間の経過と共に、その善意が重荷になってくる。それは珍しいことではなく、多くの人が程度の差こそあれ人生で何度かは経験することだろう。これは国にも当てはまる。

 ポーランドではロシア軍の侵略を受けるウクライナを支援することで与野党の間には大きな相違はなかった。ただ、ロシアがウクライナ産穀物の黒海経由での輸出にストップをかけて以来、安価な  ウクライナ産穀物がポーランド市場に流れ、ポーランドの農民たちがウクライナ産穀物の流入に反対したため、政府はウクライナ産穀物の取引禁止策を取らざるを得なくなり、、ポーランドとウクライナ間で一時期不協和音が流れたことがあった。

 ところで、ポーランドで6月1日、大統領選挙の決選投票が実施され、愛国主義的右派の野党「法と正義」(PiS)の候補者カロル・ナブロツキ氏が親欧州派の与党リベラル派「市民プラットフォーム」(PO)が支持するラファウ・チャスコフスキ氏を破り、当選した。ナブロツキ氏が当選したことで、大統領府をPiS、政府が与党POが主導するというねじれ関係が今日まで継続されている。ナブロツキ氏は選挙戦中でも`ポーランド・ファースト`を掲げ、ウクライナ支援の見直しを主張してきた。

 ウクライナへの支援は単なる善意ではなく、欧州全土の安全保障を守るか否かの問題だ。それにしても、戦争が長期化し、その停戦の見通しが立たない現状では、避難民を収容するという善意の政策もその時々の政治、経済事情に影響される。ちなみに、ナブロツキ大統領の拒否権をひっくり返すには、議会の3分の2の支持が必要だが、トゥスク現政権はそれを有していない。

 なお、2015年夏、中東・北アフリカから多くの難民が欧州に殺到、ドイツには100万人の難民が殺到した。当時のメルケル首相は人道的視点から難民のウエルカム政策を実施し、難民を受け入れていった。あれから10年が経過したが、政治家や国民の間には難民ウエルカムの痕跡はもはや見られない。同時に、ポーランドと同様、シリア難民やウクライナ避難民への支援カットが囁かれている。欧州各地で‘自国ファースト‘を主張する政治勢力が台頭するなど、難民、避難民に注がれてきた「善意」は次第に限界を迎えている。

大統領に野党右派ナブロツキ氏が当選

 ポーランドで6月1日、大統領選挙の決選投票が実施され、愛国主義的右派の野党「法と正義」(PiS)の候補者カロル・ナブロツキ氏(42)がワルシャワ市長で親欧州派の与党リベラル派「市民プラットフォーム」(PO)が支持するラファウ・チャスコフスキ氏(53)を僅差で破り、当選した。

62709_big
▲当選したナブロツキ氏、ワルシャワ・ボイス紙から,2025年6月2日

 中央選管当局によると、ナブロツキ氏は得票率50・89%、チャスコフスキ氏は49.11%で、両者の差は1・78 %という歴史的な僅差だった。大統領の任期は5年。外交・国防で一定の権限を有し、議会で採決した法律に拒否権を行使できる。

 大統領選の行方は欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドにとって重要な選挙と受け取られてきた。トゥスク政府は2023年12月、政権発足後、PiSの前政権下で導入された司法制度の改革、中絶禁止令の撤廃、メディアへの規制緩和などを行おうとしたが、PiSのドゥダ現大統領は拒否権を行使して阻止してきた。

 ナブロツキ氏が当選したことで、大統領府をPiS、政府が与党POが主導するというねじれ関係が続き、政府と大統領府が対立することで政治的膠着状態が生まれ、、最終的には早期の議会選挙につながる可能性が出てくる。

 なお、新大統領はウクライナへの継続的な支援では変わらないが、選挙期間にトランプ米大統領を訪問するなど、熱狂的なトランプ支持者だ。ナブロツキ氏はメディアの質問に答え、「我々は、旧ソ連のロシアを倒そうとするウクライナの努力を支持する。ロシアの新帝国主義的脅威に対抗することは、ポーランドの戦略的利益にかなう」と述べる一方、その外交・国防の核は‘ポーランド・ファースト‘にあることを明らかにしている。

 
【短信】    ナワリヌイ夫人、TV放送「ロシアの未来」を開設

 ロシアのプーチン大統領の最強の反体制派活動家と見られてきたアレクセイ・ナワリヌイ氏の夫人、ユリア・ナワリナヤさんは夫の49歳目の誕生日の6月4日にロシアの「報道の自由」を訴えるテレビチャンネルを開設する。            

 同チャンネルは「ロシアの未来」と呼ばれ、非政府組織「国境なき記者団(RSF)」と共同でパリから衛星システムを通じて放送される。

 ナワリヌイ氏は昨年2月16日、収監先の刑務所で死去した。47歳だった。同氏は昨年末、新たに禁錮19年を言い渡され、過酷な極北の刑務所に移され、厳しい環境の中、睡眠も十分与えられず、食事、医療品も不十分な中、独房生活を強いられてきた。死亡診断書には「自然死」と記載されていた。

 ナワリヌイ氏は2020年8月、シベリア西部のトムスクを訪問し、そこで支持者たちにモスクワの政情や地方選挙の戦い方などについて会談。そして同月20日、モスクワに帰る途上、機内で突然気分が悪化し意識不明となった。飛行機はオムスクに緊急着陸後、同氏は地元の病院に運ばれた。症状からは毒を盛られた疑いがあった。交渉の末、同年8月22日、ベルリンのシャリティ大学病院に運ばれ、そこで治療を受けた。ベルリンのシャリティ病院はナワリヌイ氏の体内からノビチョク(ロシアが開発した神経剤の一種)を検出し、何者かが同氏を毒殺しようとしていたことを裏付けた。

 ナワリヌイ氏は2021年1月17日、治療が終わると、ドイツのベルリンからモスクワ郊外の空港に帰国した。その直後、逮捕された。同氏の死後、ユリア・ナワリナヤさんが夫の遺志を継ぎ、海外でロシア反体制派の結束のために努力している。

ポーランド大統領選の決選投票の行方

 ポーランドで6月1日、大統領選挙の決選投票が実施される。決選投票は、今月18日に実施された第1回投票で上位2人、親欧州派のラファウ・トシャスコフスキ氏と右翼民族派のカロル・ナヴロツキ氏の間で争われるが、現地の世論調査によると、両者の支持率は拮抗している。欧州連合(EU)の有力国ポーランドの大統領選の行方にブリュッセルは関心をもって注目している。

Rafał_Trzaskowski_17_May_2020_(cropped)
▲与党「市民プラットフォーム」が大統領選に擁立したトシャスコフスキ氏、ウィキぺディアから

 第1回投票では、ドナルド・トゥスク首相が率いる与党リベラル保守派「市民プラットフォーム」(PO)に所属するトシャスコフスキ氏が31・36%の得票率でトップ、それを追って、元与党「法と正義」(PiS)の支持を受けるナヴロツキ氏は29・54%だった。両者の差は1・82%と僅差だった。

 大統領選の行方は欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドにとって重要な選挙だ。ワルシャワ市長のトシャスコウスキ氏(53)が勝利すれば、トゥスク首相は自身が推進する政府の改革の道を開くことができる。一方、42歳のナヴロツキ氏が決選投票で当選すれば、退任するアンジェイ・ドゥダ大統領(PiS)の封鎖政策が継続されることが予想される。

 大統領府をPiS、政府が与党POが主導する場合、政府と大統領府が対立することで、政治的膠着状態、ねじれ関係が続き、最終的には早期の議会選挙につながる可能性が出てくる。

 外電によると、選挙集会ではナヴロツキ氏の支持者たちは愛国歌や宗教歌を歌い、移民の終結を求めるプラカードを掲げる一方、トシャスコフスキ氏の集会では、多くのデモ参加者がEU旗やレインボーフラッグを振っている。

 決選投票では、第1回投票で躍進した極右候補のスラヴォミル・メンツェン氏と反ユダヤ主義の欧州議会議員グジェゴシュ・ブラウン氏の票の行方が注目される。両者で20%以上の得票率を上げている。ちなみに、ナヴロツキ氏はメンツェン氏と政策的統一戦線を構築する考えはないという。

 トゥスク政府は2023年12月、政権発足後、PiSの前政権下で導入された司法制度の改革、中絶禁止令の撤廃などを行おうとしたが、PiSのドゥダ大統領は拒否権を行使して阻止した。したがって、トゥスク氏にとって、トシャスコフスキ氏の勝利は今後の政権運営を楽にするためには不可欠だ。

 なお、ウクライナへの継続的な支援では両候補者には大きな差はない。ナヴロツキ氏はメディアの質問に答え、「我々は、旧ソ連のロシアを倒そうとするウクライナの努力を支持する。ロシアの新帝国主義的脅威に対抗することは、ポーランドの戦略的利益にかなう」と述べている。

 ワルシャワのシンクタンク、欧州外交評議会のマルタ・プロフヴィチ・ヤゾフスキ氏によると、「政府陣営はナヴロツキ氏の勝利を恐れている一方、PiSにとっても大統領選は非常に重要な意味を持つ。大統領選の敗北は党内に深刻な混乱を招き、極右派メンツェン氏との連携を加速させる動きが出てくる」(オーストリア国営放送=ORF)という。

ポーランドで宗教授業削減に批判の声

 旧ソ連・東欧諸国がまだ共産政権時代の話だ。レフ・ワレサ氏が主導した独立自治労組「連帯」が民主化運動を促進するなか、ポーランド統一労働者党(共産党)の最高指導者ウォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領は当時、「わが国は共産国(ポーランド統一労働者党)だが、その精神はカトリック教国に入る」と述べ、ポーランドがカトリック教国だと認めざるを得なかった。そのポーランドでクラクフ出身のカロル・ボイチワ大司教(故ヨハネ・パウロ2世)が1978年、455年ぶりに非イタリア人法王として第264代法王に選出された時、多くのポーランド国民は「神のみ手」を感じたといわれた。

303631fa-s
▲ポーランドで大ヒットした映画「Kler」のポスター

 ポーランドで民主化後、1990年以降、学校で宗教という選択科目が導入されたが、同国教育省は今月17日、宗教授業を削減することを決定したのだ。それに対し、同国カトリック教会司教会議は「違法行為だ」として激しく批判している。「バチカンニュース」が23日報じたところによると、カトリック教会司教会議のスポークスマン、レシェク・ゲシアク氏は「法的措置」を行う可能性を示唆した。ヴォイチェフ・ポラック大司教はインタビューで、憲法裁判所に提訴することについて、世界評議会加盟7宗派と協議すると発表している。

 バルバラ・ノバツカ教育相は17日、宗教教育が週2時間ではなく、週1時間のみ行われることを定めた政令に署名した。さらに、公立学校は小学校を除き、宗教教育を選択科目として1日の最初または最後の授業時間にのみ提供することになる。これにより、宗教教育に参加しない生徒たちは授業に遅れて来たり、早く帰宅したりできるようになる。

 ノバツカ教育相はビデオメッセージで、「この措置は常識的な判断に基づくものだ。これまで若者たちは、生物学、化学、物理、社会学、安全教育を合わせたよりも多くの宗教教育を受けてきた。これが変わり、学校は可能な限り良い教育を提供し、将来、特に職業面での準備を整える場所となるだろう」と述べている。

 欧州の代表的カトリック教国ポーランドで宗教授業削減問題が飛び出したのは決して偶然でも、突発的な決定でもないこと明らかだ、愛国主義的な右派与党「法と正義」(PiS)が政権を統治していた時、政府と教会は密接な関係を維持してきたが、前回の議会選挙(2023年10月15日)で野党第1党の中道リベラル政党「市民プラットフォーム」(PO)主導の野党連合が過半数を獲得し、8年間続いたPiS政権に代わって新政権が発足されて以来、政府と教会の関係は依然のような緊密なものでなくなった。

 ポーランドは久しく“欧州のカトリック主義の牙城”とみなされ、同国出身のヨハネ・パウロ2世(在位1978年10月〜2005年4月)の名誉を傷つけたり、批判や中傷をすることは最大のタブーだった。同国の国家統計局のデータによれば、国民のほぼ90%はカトリック信者だ。そのカトリック教国のポーランドでカトリック教会への信頼が急速に低下している。

 同国の政治学者アントニ・デュデク氏は、「教会の危機は今始まったものではなく、長い年月をかけて深刻化してきた。原因として、�ゝ豢�産党政権との癒着、�∪賛�者の未成年者への性的虐待と聖職者の贅沢な生活スタイル、��聖職者とPiSの結びつきなどが挙げられる」と述べている(バチカンニュース2020年11月4日)。

 ポーランド教会では聖職者の性犯罪があったという報告はこれまで1度も正式には公表されなかった。聖職者の性犯罪が生じなかったのではなく、教会側がその事実を隠蔽してきたからだ。沈黙の壁を破ったのは 聖職者の性犯罪を描いた映画「聖職者」(Kler)だ。同国の著名な映画監督ヴォイチェフ・スマジョフスキ氏の最新映画だ。小児性愛(ペドフィリア)の神父が侵す性犯罪を描いた映画は2018年9月に上演されて以来、500万人以上を動員した大ヒットとなった。国内で教会の聖職者の性犯罪隠ぺいに批判の声が高まっていった。

 同時に、民主化後、同国社会は急速に世俗化していった。カトリック教会の中絶絶対禁止という教義に多くの国民は抵抗と失望を覚えている。ワルシャワでは10万人を超える抗議デモが行われた。教会の壁に落書きが書かれ、礼拝が妨害されるという事態が生じたことはまだ記憶に新しい。

 同国のカトリック教会司教会議は憲法裁判所に今回の教育相の決定を提訴する意向と言われるが、それ以上に聖職者の未成年者への性的虐待問題を調査し、国民の前にその全容を報告、謝罪することが先決だろう。一旦信頼を失うと、それを取り戻すことは至難だ。

苦難から生まれる「善」のために祈ろう

 ポーランドのローマ・カトリック教会のイェジ・ポピェウシュコ神父の名前をご存じだろうか。同神父は1984年10月19日、共産主義政権の秘密警察によって拉致され、殺害された。あれから今月で40年が過ぎた。

cq5dam.thumbnail.cropped.750.422 (46)
▲40年前に殉教したポーランド教会のポピェウシュコ神父(バチカンニュース独語版2024年10月20日から)

 ポーランドでは先週末、国民的英雄のポピェウシュコ神父の追悼が行われた。アンジェイ・ドゥダ大統領とヴワディスワフ・コシニャク=カミシュ副首相は、ワルシャワにあるポピェウシュコ神父の墓に花輪を捧げた。ポピェウシュコ神父が務めていたゾリボジュ地区の教区教会で行われたミサで、ドゥダ大統領は「ポピェウシュコ神父や彼の世代の他の人々の努力のおかげで、今日のポーランドは自由な国となった」と述べ、共産主義時代に自由のために勇敢かつ決然と立ち向かった神父に感謝した。

 バチカンニュースは「19日には数千人が、ポピェウシュコ神父が働いていた教会までの追悼行進に参加した。その教会の庭には彼の墓がある。行進には、国民保守派の野党である『法と正義(PiS)』党の指導者ヤロスワフ・カチンスキ氏も加わり、参加者の多くは白と赤のポーランド国旗を掲げていた」と報じた。

 ワルシャワのカジミェシュ・ニッチ枢機卿は、説教の中でポピェウシュコ神父を「愛の福音の証人であり、人間の尊厳の擁護者」と呼び、かつて労働組合および自由運動「連帯」の教区司祭だった同神父の早期の聖人認定を祈るよう信徒に促している。

 なお、国会下院(セイム)でも、ポピェウシュコ神父を追悼した。18日に採択された決議では、「神父は共産主義占領者の嘘を暴露し、その人権侵害を非難した」と述べられている。

 ポピェウシュコ神父は説教で、当時禁止されていた「連帯」を支援し、ワルシャワの共産主義政権に対抗する運動を展開した。彼の「祖国のためのミサ」は月ごとに非常に注目を集め、1982年から亡くなるまでそれが続いた。

 1984年10月19日、37歳の司祭がビドゴシュチ(ブロムベルク)でのミサからワルシャワへ車で戻ろうとしていたところ、ポーランド秘密警察のエージェントに拘束され、拉致された。数日後、彼の縛られた遺体がヴウォツワヴェク(レスラウ)近くのダム湖から発見された。彼の殺害は、全国で政権に対するポーランド国民の抵抗を強め、5年後の共産主義崩壊の一因となった。ポピェウシュコの葬儀には50万人以上が参加した。政権は国民の不満を抑えるため、1985年にこの殺人に関与した秘密警察の3人の職員に重刑を課したが、首謀者は処罰されることはなかった(バチカンニュース)。

 1989年にポーランドが自由を取り戻すと、ヨハネ・パウロ2世はこの「連帯」運動の神父を、ポーランドのヨーロッパの守護聖人に任命した。2010年6月6日には、ベネディクト16世がワルシャワでポピェウシュコ神父を列福した。

 ヨハネ・パウロ2世は1984年10月31日の一般謁見で、「キリスト者は、キリストにあって勝利するように召されている。この勝利は苦難と結びついており、キリストの復活が十字架と不可分であるように、彼の死もまた勝利を意味する。私はポピェウシュコ神父のために、そしてこの死から生まれる善のために祈ります。それは、十字架から復活が生まれるのと同じです」と述べている。同2世はまた、1990年の一般謁見の場で、「精神的に自由であり続けるためには、真理に生きる必要がある。真理に生きることは、それを証しし、常に記憶し続けることだ」と語っている。

 世界が民主諸国と共産圏に分断されていた冷戦時代、ポーランドのポピェウシュコ神父の他に、1960年代から80年代にかけてルーマニア全土を掌握したいたチャウシェスク大統領の独裁政権崩壊へ最初の一撃を加えたトランシルバニア地方の改革派キリスト教会のラスロ・テケシュ牧師、そして ソ連・東欧共産圏で世界初の「無神論国家宣言」を表明したアルバニアのホッジャ政権下で25年間、収容所に監禁されていたローマ・カトリック教会のゼフ・プルミー神父の名前がどうしても思い出される。共産主義社会で「信教の自由」のために献身的に歩んだ聖職者だ。

 当方がアルバニアの首都ティラナでプルミー神父と会見した時、同神父は、「わが国の民主化は宗教の自由を求めることから始まった。シュコダルで初めて正式に礼拝が行われた時、警察当局はもはや武力で礼拝を中止できなくなっていた。ティラナで学生たちの民主化運動が本格的に開始する前に、神について自由に語る権利を要求する運動が始まっていた。当時の共産政権指導者は恐れを感じていた」と話してくれた。

 ルーマニアではマジャール系(ハンガリー人)の牧師が主導する少数民族への弾圧政策に抗議する運動が改革の起爆剤となったが、その中心的人物はテケシュ牧師だった。国民から「12月革命の英雄」と称えられた。秘密警察が全土を支配する中、命の危険を顧みずに立ち上がり、民主化の起爆剤となった。ハンガリーのブタペストで会見した時、同牧師に「あなたの原動力は何か」と質問すると、「キリスト者としての信仰と、不義な者から逃避してはならないという確信があった。多くの国民も、人間として自由でありたいという願いは、生命を失うかもしれないという恐れより強かった」と語ってくれた。

 冷戦時代を生き、使命を担い、走りきった3人の聖職者は神の証人だ。彼らのことを想起する時、「(彼らの)苦難から生まれた『善』のために祈ろう」と述べたヨハネ・パウロ2世の言葉が生き生きと蘇ってくる。苦難、試練から生まれてきた「善」は私たちの本心に語り掛ける力を持っている。

与党PiSが過半数失った本当の理由

 ポーランドで15日、議会選挙(上・下院)の投開票が行われた。中間開票結果(開票率99・6%)によると、右派与党「法と正義」(PiS)は下院で第1党を堅持したが過半数には及ばす、野党第1党の中道リベラル政党「市民プラットフォーム」(PO)は第2位につき、同党主導の野党連合が過半数を獲得し、8年間続いたPiS政権に代わって、親欧州連合(EU)路線のPO主導の新政権が誕生する可能性が現実味を帯びてきた。

69d25dc587f52dd89c71690de60d78e2d5161b60
▲選挙戦で有権者に語り掛けるPiSのモラヴィエツキ首相(2023年10月12日、ポーランドのリブニクで、PiS公式サイトから)

 議会選では、下院(セイム)の460議席、上院(セナト)100議席がそれぞれ選出される。下院では与党PiSが得票率約35・54%でトップを維持したが、過半数を割った。PiSのカチンス党首は、「わが党は第1党となったが、新政権が発足できるかまだ不確かだ」と述べた。連立パートナーとしては極右政党「コンフェデラツィア」が有力候補だが、両党を合わせても下院で210議席に留まり、過半数には程遠い。他の政党はPiSとの連立を拒否している。一方、PO主導の野党連合は30・56%だが、キリスト教保守政党「第3の道」と左翼同盟「レウィカ」の野党3党を合わせると、下院250議席を獲得でき、50%を超える。

 2007年から7年間、首相を務め、その後、欧州理事会議長(EU大統領)も歴任したPO党首ドナルド・トゥスク氏は15日夜、「第2党であることがこれほどうれしかったことはない。野党連合による新政権の可能性が出てきた」と表明し、8年間のPiS政権に不満をもつ政党と連立政権を発足したい意欲を見せている。

 開票集計が進んでも上記の結果には変化がないだろうから、ここでは「なぜPiSは過半数を失ったか」をまとめてみたい。

 PiSは与党の特権を利用し、選挙戦では年金者や児童への手当ての大幅な増額を公約し、有権者に甘い言葉で訴えるなど、政権維持のためにあらゆる手段を駆使してきた。同国では主要メディアはほぼ全てPiSの影響下にあるから、PiS批判は選挙戦ではほどんど聞かれなかった。その点、ハンガリーのオルバン政権とほぼ同じ状況だ。国営放送ではPiSのライバル、POのトゥスク氏はほとんど登場できず、TV主催の選挙討論会にも招待されなかった。

 にもかかわらず、PiSは得票を失ったのだ。PiSは前回の総選挙(2019年10月13日実施)で得票率43・6%でセイム(下院)とセナト(上院)の両院を独占した。PiSは今回、得票率で約8%失ったことになる。

 投票率が73%と予想外に高く、有権者の選挙に対する関心が高かったことを物語っているが、高投票率がPiSにとってマイナスに働いたといえるかもしれない。すなわち、普段は投票場に行かない若い世代が現政権の交代を願って足を運んだことが考えられるからだ。

 PiSは過去8年間、EU主導の移民政策に強く反対し、「法の秩序と民主主義」の逸脱でEUから制裁を受けるなど、ハンガリーのオルバン政権と同様、反EU路線を推進してきた。また、女性の中絶問題でも同国憲法裁判所が2020年10月22日、「胎児が先天的疾患と診断されたとしても中絶は違憲」という判断を下すなど、女性だけではなく、多くの国民が「女性の権利を蹂躙する」として抗議デモを行った。

 欧米メディアで看過されている点は、欧州の代表的カトリック教国ポーランドで教会離れが急速に進んできていることだ。そして伝統的に保守派のカトリック信者がPiS離れしてきたことだ。

 アンジェイ・ドゥダ大統領が投票日を「10月15日」に決定したのは偶然ではない。ヨハネ・パウロ2世(在位1978年〜2005年)は1978年10月16日にローマ教皇に就任した。与党PiSは支持層のカトリック信者を投票に動員するために、同国の英雄ヨハネ・パウロ2世の就任日の前日を選挙日にしたというわけだ。

 冷戦時代、ポーランド統一労働者党(共産党)の最高指導者ウォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領は、「わが国は共産国(ポーランド統一労働者党)だが、その精神はカトリック教国に入る」と述べ、ポーランドがカトリック教国だと認めざるを得なかった。そのポーランドでクラクフ出身のカロル・ボイチワ大司教(故ヨハネ・パウロ2世)が1978年、455年ぶりに非イタリア人法王として第264代法王に選出された時、多くのポーランド国民は「神のみ手」を感じ、教会の信仰の火は国内で燃え上がったわけだ(「ヤルゼルスキ氏の『敗北宣言』」2014年5月27日参考)

 ポーランドは久しく“欧州のカトリック主義の牙城”とみなされたが、そのカトリック教国のポーランドでも「神の館」と見なされてきた教会の聖職者の未成年者への性的虐待問題が次々と発覚、小児性愛(ペドフィリア)の神父が侵す性犯罪を描いた映画「聖職者」(Kler)は2018年9月に上演されて以来、500万人以上の国民がその映画を観たといわれている。国内では教会の聖職者の性犯罪隠ぺいに批判の声が高まっていった。同国ではヨハネ・パウロ2世は絶対的な英雄だったが、その神話は崩れてきた。その結果、カトリック教会を支持基盤とするPiSは有権者を失っていったわけだ(「ポーランドのカトリック主義の『落日』」2020年11月7日参考)。

ポーランドで現政権批判の大規模集会

 ポーランドで15日、議会選挙(上・下院)が実施される。投票日を2週間前に控えた1日、首都ワルシャワで現保守派与党「法と正義」(PiS)政権打倒を訴える野党第一党「市民プラットフォーム」(PO)主導の10万人以上の大規模集会が開催された。

x
▲ワルシャワで反政権抗議デモ集会(2023年10月1日、野党「市民プラットフォーム」公式サイトから)

x2
▲野党「市民プラットフォーム」指導者トゥスク氏らがデモ集会に参加(同)

 選挙では、下院(セイム)の460議席、上院(セナト)100議席がそれぞれ選出される。複数の世論調査では、PiSがリードし、それを数ポイント差でPOが追っている。選挙の焦点は、2期8年間、政権を運営してきた保守系与党PiSが政権を維持するか、それとも中道リベラル派の最大野党PO主導の新政権が生まれるかだ。

 欧州理事会議長(EU大統領)を務めた元首相のPO党首ドナルド・トゥスク氏は現政権に不満をもつ国民に「100万人の心の行進」の参加を呼びかけた。外電によると、同デモには左翼同盟「レウィカ」も支援した。多くのデモ参加者がポーランドとEUの国旗を掲げて首都中心部でデモ行進。元大統領でノーベル賞受賞者のレフ・ワレサ氏も参加した。デモ参加者は「私たちはもうたくさんだ。変化を望んでいる」、「団結すれば力がでる」と書かれたプラカードを掲げて行進した。

 ちなみに、デモ主催者側は参加者数を100万人と主張し、ワルシャワ市長広報官は、「これは間違いなくワルシャワ史上最大規模の集会だ」と追認したが、警察側によるとデモ参加者数は約10万人だ。同国のメディアは参加者数を「10万人〜80万人」と報じている。

 トゥスク氏はデモ参加者に向かって、「この力を止めることはできない。この変化は避けられない」と述べ、国民にチェンジをアピールしている。同氏は先月28日、デモ開催に先立ち、「もう誰も現政権を恐れていない。右翼民族主義政党(PiS)はポーランドの民主制度、特に司法を弱体化させている。また、女性や少数派の権利はますます削減されている」と批判した。

 PiS政権は総選挙を有利に進めるために、ロシアの影響を受けている政治家を公職追放する新法を成立させたが、その新法に抗議する反政府デモが首都ワルシャワで6月4日起きるなど、PiS政権への不満は国民の間で充満している。

 例えば、最近、金銭と引き換えに移民にビザを不法に発給するというスキャンダルが発覚し、移民政策における強硬な姿勢で知られる政府は窮地に陥っている(オーストリア国営放送ヴェブサイト)。なお、PiSは1日、南部カトヴィツェで独自の集会を開いた。

 同国の世論調査によると、与党PiSが支持率38%でトップを走り、それを追ってPOが30%だ。そのほか、左翼同盟「レウィカ」が10%、極右党「コンフェデラツィア」は9%となっている。

 前回の総選挙(2019年10月13日実施)ではPiSは43・6%でセイム(下院)とセナト(上院)を独占したが、ここにきて民族主義的政策、女性の権利はく奪などで有権者の支持を失うとともに、ローマ・カトリック教会の聖職者の未成年者への性的虐待問題が次から次と暴露され、教会離れする国民が増えてきたこともあって、支持率が落ちてきている。

 参考までに、同国でほぼ全ての国民がカトリック信者だった時代は過ぎ去った。聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚し、教会への信頼は失われてきた。同国ではヨハネ・パウロ2世は絶対的な英雄だったが、その神話は崩れてきている。カトリック教会の敬虔な信者で、保守的な愛国主義者を支持基盤とするPiSにとって、教会の影響力の低下は、即、支持率の低下となって跳ね返ってきているわけだ。

 ロシア軍の侵略を受けるウクライナを支援することでは与野党の間には大きな相違はなかったが、ロシアがウクライナ産穀物の黒海経由での輸出にストップをかけて以来、安価なウクライナ産穀物がポーランド市場に流れ、ポーランドの農民たちがウクライナ産穀物の流入に反対した。そのため、政府は支持基盤の農民たちの苦情を配慮し、ウクライナ産穀物の取引禁止策を取らざるを得なくなってきたことから、ポーランドとウクライナ間で不協和音が流れている。

 ちなみに、ポーランドのPiS政権はハンガリーのオルバン政権と同様、EUとは対立を繰り返してきた。ブリュッセルとしては、親EU派のトゥスク氏が勝利して、政権交代が実現することを願っていることは間違いないだろう。いずれにしても、PiSは第1党をキープしても単独ではもはや政権を樹立できないため、連立パートナーが必要となる。その際、極右政党「コンフェデラツィア」が有力候補と見られている。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ