ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

北欧

デンマーク「コーラン焼却禁止法案」

 間違いを一つもせず、ゴールまで走り切った人はほとんどいないだろう。1人間の人生だけではない。民族、国家も同様だろう。間違いや誤りがあれば、それを是正して前進していくことで、人生は豊かになり、民族、国家も発展していくはずだ。

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▲イスラム教の聖典「コーラン」(バチカンニュース2023年7月4日、写真はANSA通信)

 少々大げさな書き出しとなったが、デンマーク政府は25日、公共の場でのイスラム教の聖典「コーラン」の焼却を刑法で禁止する法案を作成した。同法案はコーランだけではなく、キリスト教の聖書やユダヤ教のトーラ、またキリスト教のシンボルである十字架などに対する冒涜行為にも適用される。法律に違反すると、罰金と最大2年の禁錮刑という。

 デンマークのペーター・ホメルゴー法相は、「政府が提出した法案は、宗教共同体にとって重要な宗教的な対象の不適切な取り扱いを禁止するものだ」と説明している。デンマークではここ数カ月の間で宗教的な文書や関連施設への冒涜行為が頻繁に行われたことから、イスラム教世界で抗議が高まってきた。

 同法相は、「公共の場での聖典の焼却行為だけではなく、踏みにじる行為や他の冒涜行為も法律の対象に含まれる。コーランの焼却は、基本的に軽蔑すべき行為であり、わが国の国益に害を及ぼす。外国および国内でのデンマーク人の安全を脅かす冒涜行為だ」と述べている。同時に、「言論の自由」問題にも言及し、「この法案は何を考え、言うことができるかを記述したものではない」と強調することを忘れなかった。すなわち、政府が作成した法案は「言論の自由」を規制するものではないというわけだ。

 北欧のデンマークやスウェーデンで最近、コーランを焼かれたり、イスラム教の聖典が冒涜されたりする出来事が多発していることをこのコラム欄でも報じてきた。北欧の両国はこれまで「言論の自由」という理由でコーランを焼く実行者に対して法的な規制を行わなかった。

 例えば、スウェーデンの首都ストックホルムの警察はユダヤ教とキリスト教の聖典を燃やすデモ申請を許可せざるを得なかった。カリナ・スカーゲリンド警察広報官は当時、「許可は公にトーラと聖書を焼くためのデモ申請に関するものではない。言論の自由に基づいて意見が表現される集会として許可しただけだ。両者には重要な違いがある」と説明した。ただし、デモ関係者の説明によると、「デモの申請書にはトーラと聖書の写しを焼くと報告してある。コーランの焼却は言論の自由の表現だ」と述べてきた(「ハイネの“予言”は当たった」2023年7月06日参考)。

 スウェーデンでは今年1月21日、右翼過激派のリーダー、ラスムス・パルダン氏がトルコ公館前で市民の面前でコーランを焼却し、国際的なスキャンダルとなった。スウェーデン政府関係者は当時、この行為を非難し、事件の直後、コーラン焼却を禁止した。その理由は、イスラム世界での反スウェーデン抗議行動や過激派のウェブサイトからの攻撃の呼びかけがあった故の安全上の懸念からだ。

 それに対して、ストックホルムの裁判所は「根拠は不十分だ」として禁止を取り消した。曰く、「抗議とデモの自由は憲法で保護されている権利だ。一般的な脅威状況だけでは介入の根拠にはならない」と説明している。要するに、「言論の自由」は宗教団体の聖典を燃やす行為を容認しているという立場だ。デンマークでもこれまでは同じだった。

 北欧のコーラン焚書と、それを取り締まらず容認する国に対し、イスラム世界では怒りの声が高まってきていた。「イスラム協力機構(OIC)」(56カ国・1機構)は2日、サウジアラビア西部ジッダで臨時会合を開き、対応を協議した。また、欧州連合(EU)カトリック司教協議会委員会(COMECE)は4日、スウェーデンにおけるコーランの焚書を非難した。

 フランシスコ教皇はアラブ首長国連邦の日刊紙とのインタビューで、「こうした行為に憤り、嫌悪感を抱く」と語った。「神聖とみなされた本は、信者への敬意から尊重されなければならない。表現の自由は、他者を軽蔑する言い訳として決して利用されてはならない」と述べている(バチカンニュース独語版)。

 コーラン焚書は国内のデンマーク国民とイスラム系住民との間に緊張をもたらしている。ホメルゴー法相は、「法案を作成した最大の理由は国内の治安対策とイスラム教国との間の国家安全保障の強化だ」と述べている。

 同法相は、「暴力的な反応を引き起こすためにあらゆる手段を講じる一部の人々を黙って見過ごすことはもはやできない」と指摘。デンマークでは、コーラン焼却以来、国内のテロの脅威が高まってきている。実際、テロ組織のアルカーイダは、スウェーデンおよびデンマークでのコーラン焼却に関して、EU加盟国へのテロ攻撃を示唆する声明を発表している。なお、スウェ―デン政府はデンマークと同様、コーラン焚書などの行為に対する規制強化を検討している。

 デンマーク政府は、「言論の自由」という名目でこれまで黙認してきたコーラン焚書などの行為に対し、「宗教団体にとって重要な意味のある文書や関連物への不適切な行為を禁止する」と明記したわけだ。その目的は第一に国内の治安対策だが、「言論の自由」にも制限が伴うケースがあることを認めたことは大きな前進だろう。政府は同法案を9月1日、議会に提出する予定だ。

コーラン焚書と「ロシアの攪乱工作」

 北欧の2カ国の中立国フィンランドとスウェーデンがロシア軍のウクライナ侵略を受けて北大西洋条約機構(NATO)に加盟を決定した直後、ロシアのプーチン大統領は、「わが国は必ず対抗措置を取る」と警告したが、この脅迫は流石に空言ではなかったようだ。

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▲岸田文雄首相とウルフ・クリステション・スウェーデン首相による日スウェーデン首脳会談(写真・内閣広報室、2023年7月12日)

 スウェーデンではここにきてイスラム教の聖典コーランが焚書される出来事が多発している。首都ストックホルムで先月、コーランが2度燃やされるという事件が起きた。実行者はイラクからの難民で自らを無神論者と称している。彼はフランスの新聞に、「法律によって許されている限り、コーランを焼き続ける」と述べ、イラク当局の少数派への迫害に抗議している。

 スウェーデンのコーラン焚書事件が報じられると、イラクで22日、数千人が抗議活動を行った。バグダッドでは群衆がスウェーデン大使館を襲撃し、放火した。これはストックホルムでイラク出身の亡命希望の難民がコーランを焼却したことへの抗議だった。この男性は既に6月に1度コーランを燃やしており、7月20日にもう1度燃やす予定だったが、足で踏みつけただけだった。同様にイラクの旗や、影響力のあるシーア派の説教師であるムクタダ・アッ=サドル、最高指導者であるアヤトラ・アリ・ハメネイの写真も踏みにじられた。

 イラク政府は24日、欧州連合(EU)諸国に対し、「表現の自由」と「デモ」の権利を速やかに再考するように求めている。トルコやイランなど他のイスラム教国家もコーランの焚刑を非難する声が広がっている(「『言論の自由』は無制限か」2023年7月16日参考)。

 イラク外務省は24日、コペンハーゲンの大使館前の出来事を非難し、国際社会に対して、平和的な共存を脅かすような行動に立ち向かうよう呼びかけた。同時に、「スウェーデン大使館で起こったようなことが繰り返されることを許さない」と声明を出し、外国の大使館の保護を約束した。スウェーデンと米国の両国がバグダッドに対し、スウェーデン大使館の保護が不十分だと批判していたことへの返答だ。

 ところで、クレムリン宮殿のプーチン氏は北欧のコーラン焚書事件をどのように受け取っているだろうか。32番目のNATO加盟国入りが控えているスウェーデンの国際的評価を落とす一方、国内の治安を不安にさせる。それだけではない。イスラム教国を煽って、反欧米感情を高めている。プーチン氏の狙い通り、事は進行しているのだ。プーチン氏は北アフリカ・中東からの難民を欧州の国境に殺到するように画策したこともある。オペレーション(工作)はソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチン氏の得意分野だ。

 スウェーデン側もここにきてコーラン焚書事件を操る影の勢力に気がついてきている。スウェーデンの国内治安機関(Sakerhetspolisen=セーカーヘットスポリセン)は、「コーランの焚書やその反応によってわが国の内部治安は危険にさらされている。わが国の寛容な国としての評判や評価が損なわれてきた。スウェーデンはムスリムやイスラムに対して敵対的な国とみなされるようになっている」と指摘し、スウェーデンへの国際的な憤り報道は、「意図的なキャンペーン」と受け取っている。

 反スウェーデンキャンペーンでは、.好ΕА璽妊鵑砲けるムスリムへの攻撃が黙認されていること、当局がムスリムの子供たちを「誘拐」している、というフェイク情報が含まれている。スウェーデンの治安部門は、国民や海外のスウェーデンの利益代表関連施設が攻撃を受ける危険性が高まってきたと予想している。テロ警戒レベルは5段階のうち3段階目の状況が続いている。

 ボーリン民間防衛相は26日、「恣意的な反スウェーデンキャンペーンの背後にはロシアを含む国家や半国家の組織が暗躍しているとみている」と指摘し、ロシアを名指しで批判している。また、心理防衛機関のコミュニケーションチーフ、ミカエル・エストルンド氏は、「コーラン焚書の責任はスウェーデンにあるといった印象操作をしている。その目的はスウェーデン国内の緊張を高め、わが国のNATO加盟を妨げることだ」と、はっきり述べている(独ニュース番組「ターゲスシャウ」7月26日)。

 ちなみに、隣国デンマークでは極右グループ「Danske Patrioter」のデモ参加者が25日、コペンハーゲンのエジプト大使館前でコーランを燃やした。デンマークでは1週間以内にこのような事件が3件起きた。同グループは前日イラク大使館前でイスラム教の聖典を燃やしている。 

 コーランを燃やすことで、イスラム教徒を煽って欧州全土を混乱に陥れる、といったプーチン氏の工作は、ここでは成功してきているのだ。

「言論の自由」は無制限か

 スウェーデンの首都ストックホルムの警察はユダヤ教とキリスト教の聖典を燃やすデモ(7月15日)を許可した。デモ主催者は2週間前のイスラム教の聖典コーランを燃やした抗議デモに対抗する目的で、今度はイスラエル大使館の前でユダヤ人の聖なるトーラーとキリスト教の聖書を焼くというのだ。

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▲スウェ―デンの建国記念日、2023年6月6日はグスタフヴァーサが国王に選出され、スウェーデンが独立してから500年目(スウェーデン観光局公式サイトから)

 カリナ・スカーゲリンド警察広報官は、「許可は公にトーラーと聖書を焼くためのデモ申請に関するものではない。言論の自由に基づいて意見が表現される集会として許可しただけだ。両者には重要な違いがある」と説明した。ただし、デモ関係者の説明によると、「デモの申請書にはトーラーと聖書の写しを焼くと報告している。2週間前のコーランの焼却に抗議するための、言論の自由の表現だ」というのだ。

 警察当局がトーラーを焼くデモ集会を認可したことが報じられると、イスラエルと世界のユダヤ教団体から激しい批判が飛び出した。イスラエルのヘルツォグ大統領は、「聖典の焼却を厳しく非難する」と述べている。「シオニスト世界機構」のヤアコブ・ハゴエル議長は、「警察の許可は『言論の自由』ではなく、反ユダヤ主義だ」と非難している。

 このコラム欄でも紹介したが、警察は2週間前の6月28日、イスラム教の聖典コーランを燃やす抗議デモを認可した。スウェーデンに亡命したイラク人のサルワン・モミカ(37)はイスラム教の犠牲祭の最初の日、ストックホルムの主要モスクの前でコーランの写しを何度も踏みつけ、スウェーデンの旗を振るという抗議デモを行った。警察は、この行動を「言論の自由」として許可したのだ。ちなみに、警察当局は後日、モミカがモスクに近い場所で焼却を行ったため、「民族集団に対する扇動」容疑で捜査を開始した。

 モミカの抗議は世界のイスラム教国に大きな抗議を呼び起こし、イラク、アラブ首長国連邦、モロッコは、スウェーデン駐在大使を自国に呼び戻した。スウェーデン政府は抗議デモを「イスラム嫌悪的な行為」と非難したが、同時に、「わが国には集会の自由、言論の自由が憲法で保護されている」と説明している。

 スウェーデンでは今年1月21日、右翼過激派のリーダー、ラスムス・パルダン氏がトルコ公館前で市民の面前でコーランを焼却し、国際的なスキャンダルとなった。スウェーデン政府関係者は当時、この行為を非難し、事件の直後、コーラン焼却を禁止した。その理由は、安全上の懸念であり、イスラム世界での反スウェーデン抗議行動や過激派のウェブサイトからの攻撃の呼びかけがあったからだ。

 しかし、ストックホルムの裁判所は「根拠は不十分だ」として禁止を取り消したのだ。曰く、「抗議とデモの自由は憲法で保護されている権利だ。一般的な脅威状況だけでは介入の根拠にはならない」と説明している。要するに、「言論の自由」は宗教団体の聖典を燃やす行為を容認しているというわけだ。

 スウェーデンの「言論の自由」を聞いていると、フランスのマクロン大統領が2020年9月、「フランス国民は冒涜する権利を有している」と表明して、トルコなどイスラム教国から激しいブーイングが飛び出したことを思い出す。

 フランスでは2015年1月7日午前11時半、パリの左派系風刺週刊紙「シャルリー・エブド」本社に武装した2人組の覆面男が侵入し、自動小銃を乱射し、建物2階で編集会議を開いていた編集長を含む10人のジャーナリスト、2人の警察官などを殺害するというテロ事件が発生して以来、イスラム過激派によるテロ事件が多発している。マクロン大統領は2020年10月24日、パリの風刺週刊誌「シャルリー・エブド」がイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載したことに対し「わが国には冒涜する自由がある」と弁明したのだ。

 世界のイスラム教国から激しい批判が出てきた。トルコのエルドアン大統領は、「マクロン氏は精神の治癒が必要だ」と侮辱しただけではなく、「フランス製品のボイコット」をイスラム教国に呼びかけたほどだ。

 マクロン大統領が風刺画の掲載を「言論の自由」として譲歩する姿勢を見せなかったのは、同国では「政教分離」(ライシテ)が施行されているからだという。ライシテは宗教への国家の中立性、世俗性、政教分離などを内包した概念であり、フランスで発展してきた思想だ。

 宗教の聖典を燃やす行為を「言論の自由」として容認するスウェーデンの世界観もフランスのライシテに通じる。神仏への極端な排他主義であり、人間中心主義だ。

 やはり再度書いておきたい。詩人ハインリヒ・ハイネ(1797年〜1856年)の言葉だ。「本を焼くところでは、やがて人を焼く」(「ハイネの“予言”は当たった」2023年7月6日参考)。聖典を含む書籍は人間の精神的営みの成果だ。その書籍の焚書行為は人間を燃やすことにも繋がる、というわけだ。

ハイネの“予言”は当たった

 北欧のスウェーデンでイスラム教の聖典「コーラン」(クルアーン)を燃やすという事件が起きた。

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▲イスラム教の聖典「コーラン」(バチカンニュース2023年7月4日、写真はANSA通信)

 事件はスウェーデンの首都ストックホルム、イスラム教の犠牲祭初日に当たる6月28日、同国在住のイラク人が市内のメインモスク(イスラム教寺院)の前でコーランの数ページを焼いた。外電によると、モスク外で行われた抗議活動は2人だけの小規模なもので、男がコーランに火をつけて燃やすと、周囲にいた人の中にはそれを喝采する者がいた一方、コーランを燃やした男に石を投げる人もいたという。ちなみに、治安部隊は問題のデモを事前に承認していた。スウェーデン憲法では言論の自由が優先されるからだ。

 この事件はイスラム世界で怒りを誘発している。事件を重視した「イスラム協力機構(OIC)」(56カ国・1機構)は2日、サウジアラビア西部ジッダで臨時会合を開き、対応を協議した。また、欧州連合(EU)カトリック司教協議会委員会(COMECE)は4日、スウェーデンにおけるコーランの焚書を非難した。

 フランシスコ教皇はアラブ首長国連邦の日刊紙とのインタビューで、「こうした行為に憤り、嫌悪感を抱く」と語った。「神聖とみなされた本は、信者への敬意から尊重されなければならない。表現の自由は、他者を軽蔑する言い訳として決して利用されてはならない」と述べている(バチカンニュース独語版)。

 スウェーデンでのコーラン焚書事件の背後には、同国の北大西洋条約機構(NATO)加盟問題があるものと推測される、同国はロシアのウクライナ侵攻を受け、NATO加盟を目指し、加盟申請したが、同国がクルド労働者党(PKK)のイスラム過激派の亡命を認め、支援しているとしてNATO加盟国トルコが強く反発し、スウェーデンのNATO加盟をブロックしてきた。

 トルコ政府の加盟妨害に不満を持つスウェーデン国民や同国に居住するPKK支持者たちの間でトルコ批判が高まっている。一方、コーランの焚書を受け、トルコは一層、スウェーデンの加盟を阻止することが予想される。実際、トルコのエルドアン大統領は、「イスラム教徒への侮辱は表現の自由ではない」とコーランの焚書事件を強く批判し、スウェーデン政府をけん制している。

 如何なる理由があろうが、宗教の聖典を燃やす行為は許されない。宗教関連の聖典・文書だけではない。世界では焚書事件は多く起きている。燃やされた文献、書物は歴史的な文献であったり、一定の思想、歴史を記述しているものが多いが、それを燃やすという行為は著者だけではなく、その国、社会への批判、攻撃を意味する。聖典の焚書が契機となって、大きな紛争が起きるといった事は過去、起きている。

 参考までに、世界の近代史での代表的な「焚書事件」を紹介する。

.淵船后Ε疋ぅ弔砲茲襯椒鵐侫.ぅ筺次複隠坑械廓): ナチス・ドイツ政権下の1933年5月10日、ドイツ全土でユダヤ人の所有する書物や作品を焚書するボンファイヤー(燃やすための大きな焚き火)が開催された。この出来事は、ナチスの反ユダヤ主義と知識統制政策の象徴と受け取られている。

∧顕渋膤很燭砲ける焚書(1966年〜1976年): 中華人民共和国の文化大革命時期には、知識人や文化的なシンボルを標的にした大規模な焚書が行われた。書物や芸術作品が焼かれ、伝統的な文化や知識が抑圧された。

イスラム主義勢力による図書焼却(2013年): マリ共和国の都市トンブクトゥで、イスラム主義勢力が歴史的な図書館や古文書を焼却した。彼らはイスラム過激主義の観点から、自分たちにとって異端とされる書物を破壊した。

ぃ稗咤稗咾砲茲訖渊饐撞僉複横娃隠鞠): イスラム過激派組織のISIS(イスラム国)が、シリアやイラクで占拠地域を設立した際に、図書館や文化施設を襲撃し、書物や文化遺産を破壊した。

ゥ愁咼┘範∨における反政府団体の書物破壊(1930年代〜1950年代): スターリン政権下のソビエト連邦では、反政府的な団体や思想に関連する書物が摘発され、焼却されるなどの破壊行為が行われた。

 例えば、精神分析学の創設者ジークムント・フロイト(1856年〜1939年)はウィーンの代表的ユダヤ人学者だった。彼はナチス・ヒトラーがユダヤ人虐殺を行っていることを知った後もウィーンに留まり続け、外国への亡命を避けてきたが、自身の著書がヒトラーユーゲントの学生たちによって燃やされていることを知って、ウィーンからロンドンへ亡命することを決意したという。

 スウェーデンのコーラン焚書事件は1人のイラク人の抗議行為だったのかもしれないが、「焚書」は、思想統制や文化抑圧の一環として行われることが多い。中国では言論・学問・思想などを弾圧した「焚書坑儒」という表現がある。欧州では「本を焼くところでは、やがて人を焼く」というドイツの詩人ハインリヒ・ハイネ(1797年〜1856年)の言葉が思い出される。ナチス・ヒトラー政権が出現する前の言葉だ。残念ながら、詩人ハイネの“予言”は当たっていたのだ。

プーチン氏の「呪い」を如何に解くか

 昔ならば嫌なことや不吉な出来事が連続して起き、その原因が分からない時、王様や君主は「われわれは呪われている」と感じ、家来たちにその呪いを解くためにまじない師や祈祷師を探すように命令した(日本では昔、呪いや災難除けのために寺や神社を建立した)。21世紀の今日、そのような命令を下す指導者はさすがにいないだろう。今ならば「どこかの国がわが国にサイバー攻撃を仕掛けている」とか、「影の国(ディープステート)が背後で暗躍し、情報工作をしている」と疑い、自国の情報機関にその対策に乗り出すように指令する。

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▲総選挙の結果、野党陣営に敗北し、辞意を表明したスウェーデンのアンデション首相(スウェーデン政府公式サイトから)

 当方は今、一つの考えというか、疑惑を感じている。具体的には、ロシアのプーチン大統領の「呪い」といったほうがいいかもしれない。ロシアを批判するコラムを大量生産している当方に対するプーチン氏の「呪い」がかかってきたのではない。ロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、ロシアに反抗した国々への「呪い」だ。通常の言葉を使うならば、「ロシア側の報復工作」といえるだろう。以下、それを少し説明する。

 当方の一方的な推測だが、ロシア正教徒のプーチン大統領の「呪い」の対象となっている国は3カ国だ。チェコ、フィンランド、そしてスウェーデンだ。チェコは現在、欧州連合(EU)の下半期の議長国だ。フィンランドとスウェーデンは北欧の中立国だが、ロシアのウクライナ侵攻後、北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した。ロシアからみたら、それらの3国は反ロシア陣営に加担する国であり、許すことが出来ない国ということになる。

 もちろん、ロシア側の「報復工作」は上記の3国だけに限られているわけではない。ただ3国ではロシア側の報復工作の成果が既に見られだした国、といったほうが妥当だろう。他の反ロシアの国々でも今後、ロシアの報復工作の成果が出てくるかもしれない。

 まず、チェコの場合だ。このコラム欄でも報告したが、首都プラハで3日、約7万人が参加した大規模なデモが行われた。ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻させて以来、欧州各地でロシアのウクライナ侵攻に抗議するデモは開かれたが、今回のデモはロシア批判というより、「政府はウクライナ支援ではなく、国民生活の改善に努力を」というものだった。要するに、ウクライナではなく、チェコ・ファーストを叫ぶデモだった。

 チェコはウクライナ戦争勃発後、他のEU諸国と同様、対ロシア制裁を実施する一方、旧ワルシャワ条約機構時代の武器を提供してきた。同時に、ウクライナからの避難民を積極的に迎え入れてきた。同国は今年下半期のEU議長国だ。ロシア軍の侵攻に対抗するウクライナを支援するEUの結束と連帯を調停する立場だが、ウクライナ戦争の影響もあって、物価高騰、エネルギー危機が深刻となってきている。そこで「ウクライナ支援もいいが、国民の生活を優先すべきだ」という声がデモ集会では聞かれた。昨年12月に発足したペトル・フィアラ首相を中心とした新連立政権は大きな試練に直面している(「ロシア『EU議長国チェコを狙え』」2022年9月6日参考)。

 フィンランドの場合。ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻して以来、ロシアと1300キロ余りの国境を接する同国には、「わが国も第2のウクライナになるのではないか」という国防上の危機感が政治家、国民の間で急速に高まっていった。そして最終的には中立を放棄してNATOに加盟申請する決定が下された。

 それを主導したのは36歳の若いマリン首相だ。同首相は紅潮した表情で同国のNATO加盟を表明していたのを思い出す。マリン首相にとっても忘れることができない檜舞台だったはずだ。ここまでは良かったが、公務の合間で開かれたプライベートなパーティーで首相が興じる姿を撮影したビデオが次々と外部に流れ、メディアで報道されたのだ。最初のビデオを観た人から「首相はハイになっている」という疑いを持たれ、薬物検査を受けざるを得なくなった(「フィンランド首相『私も人間』」2022年8月28日参考)。

 2番目はマリン首相が1人の男性と抱擁するところが映っていた。「既婚者の女性が別の男性と…」といった批判の声が聞かれたが、ここまではまだ許容範囲だったかもしれない。しかし、3番目の写真はそう簡単ではなかった。首相官邸で開かれたパーティーに招待されていた2人の女性が上半身裸でキスをしているシーンがメディアで報じられ、マリン首相も謝罪せざるを得なくなった。

 最後はスウェーデンの場合だ。プーチン氏の「呪い」を受ける理由はフィンランドと同様だ。NATO加盟だ。中立国だが、近代的な軍隊を誇るスウェーデンのNATO加盟はNATOにとって大きな支援となる一方、ロシアにとっては脅威だ。そこで同国のNATO加盟を指導したアンデション首相への報復工作が進められたというわけだ。同国では11日、総選挙が実施され、政権を担当してきたアンデション首相の与党社会民主労働党が野党の右派中道陣営に過半数を許してしまった。その結果、同首相は辞意を表明せざるを得なくなったのだ。

 上記の3件はいずれもロシア軍のウクライナ侵攻に対してロシア批判してきた国での出来事だ。短期間で異変が続けて起きた場合、それを「偶然」と取るか、「背後に何かある」と考えるかは人によって違うだろう。ただ、松本清張の推理小説ではないが、別々なところで生じた出来事も、その「点」を繋ぎ「線」とすると、予想外のことが浮かび上がってくるのだ。

 チェコの場合、7万人に膨れ上がった大規模な反政府デモの背後には、ウクライナ支援で結束するEUの連帯を崩そうとするロシアの工作が見え隠れする。フィンランドの場合、NATO加盟を推進したマリン首相のイメージダウン工作だ。そしてスウェーデンの場合、NATO加盟を申請したアンデション首相を選挙で政権から追いやることだ。ロシアが欧米諸国の選挙では様々な工作を展開することはよく知られている。前回の米大統領選でもロシアの選挙工作が囁かれたほどだ。

 最後に、上記の3点がプーチン氏の「呪い」から生じた出来事であるとすれば、どうすればその「呪い」を解くことができるかだ。答えは案外、シンプルだ。対ロシア制裁を解除すればいいのだが、それはできない相談だ。とすれば、ウクライナ戦争が終わるか停戦合意するまではプーチン氏の「呪い」は続くと考え諦観するか、昔の王様のようにまじない師か祈祷師を探し出すしかないだろう。

フィンランド首相「私も人間」

 スウェーデンのマグダレナ・アンデション首相らと共に並ぶフィンランドのサンナ・マリン首相の姿を憶えている。両国が北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した時だ。マリン首相は歴史的な瞬間を緊張しながらも静かに迎えていた。

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▲パーティー騒動で説明責任が問われるフィンランドのマリン首相(フィンランド首相府公式サイトから、2022年8月24日)

 ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻されて以来、ロシアと1300キロ余りの国境を接するフィンランドには、「わが国も第2のウクライナになるのではないか」という国防上の危機感が政治家、国民の間で急速に高まっていった。そして最終的には中立を放棄してNATOに加盟申請する決定が下された。

 ロシアのウクライナ侵攻以来、36歳の若いマリン首相は、眠れない日々を送ってきたと想像する。そのマリン首相は今、窮地に陥っている。ロシア軍の軍事的脅威が差し迫ってきたからではない。公務の合間で開かれたプライベートなパーティーで首相が興じる姿を撮影したビデオが外部に流れ、メディアで報道されたからだ。ビデオを観た人は、「首相はハイになっている」という疑いを持った。そこでマリン首相は直ぐに薬物検査を受けて身の潔白を証明したわけだ(テストの結果は22日、陰性だった)。

 最初のビデオはまだ無難だったが、2番目は少し羽目を外すマリン首相が1人の男性と抱擁するところが映っていた。「既婚者の女性が別の男性と…」といった批判の声が聞かれたが、ここまではまだ許容範囲だったかもしれない。しかし、3番目の写真はそう簡単ではなかった。首相官邸で開かれたパーティーに招待されていた2人の女性が上半身裸でキスをしているシーンがメディアで報じられたのだ。さすがにマリン首相も「これはまずい」と謝罪せざる得なくなったわけだ。

 欧州は2022年2月24日以降、戦時下にある、ロシア軍がウクライナで軍事攻撃をしている時だ。平和時だったら、公務を終えた後、リラックスするためにプライベートなパーティーに参加することなど問題にならないが、今は戦争中だ。緊急時に即対応が必要となる。だから、「国家の安全に支障も」と批判が出てきたわけだ。

 もちろん、パーティーが問題となって窮地に陥る政治家はマリン首相が初めてではない。最近では、ジョンソン英首相はコロナ規制中に官邸内でパーティーに参加していたことが知られ、辞任に追い込まれたばかりだ。国民がコロナ規制でパーティーなど開けないときに、首相がその規制を破ってパーティーに参加するとは何事かという批判だ。ジョンソン首相は常識を逸脱した言動で結構人気もあった。窮地を乗り越えることでは天才的と言われた彼も、パーティー騒動を乗り越えることはできなかった。

 日本では政治家の資金集めのパーティーや政党主催のパーティーがよく開かれると聞く。誰それが、どの議員のパーティーに参加したとか、何枚のパーティー券を購入した、といったゴシップのテーマが結構記事となる。

 ところで、「政治家とパーティーの歴史」は結構古い。19世紀の政治家も公務を終えると私的な集いを開いたり、舞踏会を開く伝統があった。欧州では楽聖ベートーヴェンの音楽よりワルツの王ヨハンシュトラウスが愛された。舞踏会にはワルツが欠かせられなかったからだ。

 例えば、ナポレオンの失脚後の欧州の秩序を話し合うために1814年からオーストリアの首都ウィーンで国際会議が開催された。会議のホスト国オーストリアは、参加国の親睦を深めるために舞踏会や宴会を頻繁に開いた。会議自体は参加国の思惑もあって進展しなかった。そこで「会議は踊る、されど進まず」と揶揄されたというエピソートはよく知られている。

 人間は政治家でなくても時にはリラックスして羽目を外すものだ。マリン首相は24日、自身の社会民主党の集会で、「私も人間です。暗雲の中、時には喜びや楽しみを求めることがある」(時事通信)と理解を求めたという。

  蛇足だが、当方は「誰がマリン首相のパーティーの様子を撮影し、それをメディアなど外部に流したか」という点に関心がいくが、フィンランドからはそれに関連したニュースが流れてこない。穿った見方だが、ひょっとしたらロシア情報機関が今回のマリン首相パーティー騒動の件で暗躍していたのではないか。なぜならば、フィンランドがNATOに加盟申請した時、プーチン氏は「わが国は必ず報復する」と声明していた。NATO加盟を表明したマリン首相が今回、そのターゲットとなったのではないか。旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチン氏は、「人は私的なイベントでは脱線しやすい」ことを誰よりも知っているからだ。

ラトビア、徴兵制を再導入へ

 ロシア軍のウクライナ侵攻以来、欧州の安全保障問題への取り組み方が大きく変わってきた。最大の変化は、北欧の中立国スウェーデンとフィンランド2カ国の北大西洋条約機構(NATO)加盟だろう。北欧2カ国の加盟議定書にNATO30カ国が5日、ブリュッセルの本部で署名したことを受け、加盟国の批准手続きが完了すれば、両国の加盟は年内にも実現する見通しとなった。フィンランドのNATO加盟で対ロシア国境線は約1300キロ長くなる。NATOはマドリードの首脳会談で軍の強化を決め、緊急部隊を4万人規模から30万人規模に拡大する計画だ。

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▲スイス南部のルガーノで開かれたウクライナ復興会議でビデオ演説をするウクライナのゼレンスキー大統領(2022年7月4日、ウクライナ大統領府公式サイトから)

 外電によると、バルト3国(リトアニア、エストニア、ラトビア)の一国、ラトビアは5日、徴兵制を再導入すると発表した。ラトビアのアルティス・パブリクス国防相は、「ロシア軍のウクライナ侵略に対応するためには、わが国の軍事システムは限界に達している。ロシアが近い将来、その侵略性を放棄する保証はない」と説明し、兵力の増加が不可欠となったことを明らかにしている。

 同国防相によると、兵役は来年に導入され、男性にだけ適用される予定だ。また、新しい軍事基地を建設する計画という。どこに、どのような軍事基地かは明らかにしていない。ロシアのプーチン大統領は、「わが国に近い場所でNATOが新たな軍事基地を建設すれば、それは明かにロシアへの脅威と受け取られる」と警告するなど、バルト3国の軍事活動に対しては神経を尖らせている。ちなみに、ラトビアの総兵力は7500人、NATO軍兵士1500人が駐留している。

 なお、バルト三国は2004年3月、NATOに加盟してから数年で徴兵制を廃止した。 ラトビアは2007年以来、軍は職業軍人で構成されて、ボランティアで構成された志願兵が存在するだけだ。

 ウクライナの首都キーウからの情報によると、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日、ビデオメッセージで、ウクライナでの徴兵制の登録要件に対する厳しい批判を受けて、「私は問題を明確にすることを国民に約束した。私を除いてそのような決定を下さないでほしい」と軍の指導部を非難し、次回の参謀総長会議では、国防相、参謀長、陸軍最高司令官が大統領に詳細に報告するように要請している。

 陸軍最高司令官のヴァレリー・ザルジニー総司令官は、「徴兵されたウクライナ人が自分の報告地点を離れるには許可が必要である」と発表したが、国民から厳しい批判と不満の声が出た。それを受け軍は、「政府地区を離れる場合にのみ必要」と付け加えた。

 ウクライナの男性は18歳から60歳の間に徴兵されるが、ロシア軍の侵攻後、戒厳令が敷かれ、徴兵年齢の男性が国を離れることは許可されていない。今年10月からは、特定の職業グループの女性も兵役に登録されることになるという。

 プーチン大統領がウクライナに軍を侵攻させて以来(2月24日)、ウクライナ軍と国民は軍事力で圧倒するロシア軍に対し果敢に抵抗し、ロシア軍のキーウ制圧作戦を破るなど、その国防意識、兵士の士気の高さに欧米諸国は驚き、感動してきた。

 ウクライナ側はこれまでロシア軍に対抗するために欧米側に先端武器、重火器の供給を強く要請。第2次世界大戦後、紛争地域への武器の輸出を禁止したドイツもウクライナに武器を供給することで支えてきた。

 しかし、戦争が長期化し、多くの民間人にも犠牲が増えてきたことを受け、ウクライナ国内でも戦争に不満の声が聞かれる。ウクライナ軍幹部が徴兵年齢の国民に対する国外出国を厳しく統制するとソーシャルネットワークなどで国民の批判の声が高まったのは実例だ。同時に、ロシア軍がその軍事力を強化し、東部、そして南部で攻勢を集中してきた一方、ウクライナ軍が守勢に回ることが多くなってきた。

 ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官は5日、ロシアによるウクライナ侵攻を「意味のない戦争」と呼んで非難した。同弁務官によると、2月の侵攻開始後、7月3日までに4889人の民間人が死亡、うち335人が子供だったという。実際の死者数はこれをはるかに上回るものと受け取られている。

 「意味のない戦争」に駆り出される若いロシア兵の士気が上がらないのはやむ得ないことだが、ウクライナ兵士にも戦闘疲れが見えだしてきた。ウクライナ戦争は長期化の様相を深め、ハード(武器)とソフト(兵士、国民の士気、祖国愛など)両面の消耗戦になってきた。

フィンランドの「ウクライナ化」とは

 ロシアのプーチン大統領はウクライナへの武力侵攻を断念し、外交・対話政策を進める姿勢を見せてきたが、欧米外交筋では「ウクライナ危機」から次は「フィンランド危機」になるのではないか、といった懸念の声が聞かれる。

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▲新年のスピーチをするフィンランドのサウリ・ニー二スト大統領(フィンランド大統領府公式サイトから、2022年1月1日)

 フィンランドは冷戦時代から中立主義を堅持し、地理的に隣接している大国ロシアとは友好関係を維持してきたが、そのフィンランドで北大西洋条約機構(NATO)への加盟を模索する動きが出てきたからだ。
 
 フィンランドは1995年に欧州連合(EU)に加盟したが、北欧ではスウェーデンと同様NATOには加盟していない。ヘルシンキでは今、「バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)が2004年3月、NATOに、同年5月にはEU加盟を実現したように、わが国もEUだけではなく、NATOにも加盟しておくべきだった」と嘆く声が聞かれる。当時、ウクライナ危機のような新たな東西紛争が起きるとは予想していなかったからだ。

 同国ではNATO加盟問題(2020年の時点で加盟国30カ国)は久しくタブーだったが、プーチン大統領がウクライナのNATO加盟を拒絶し、対ウクライナ国境沿いに10万人以上の兵力を結集させ、キエフに圧力をかけている状況を目撃したフィンランドではロシアに対する警戒心が再び高まってきた。それを受け、NATO加盟問題が再びホットなテーマとなってきたわけだ。

 ドイツ放送のギュナール・ケーネ記者は14日、フィンランドのNATO加盟の可能性について長文の記事を掲載している。同記者は、「フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領は新年のスピーチで自国の安全保障問題をテーマに語り、その中でNATOとのメンバーシップという言葉を発した。ほんの数年前には想像もできなかったことだ」と述べている

  フィンランドは1939年(冬戦争)と1941年の継続戦争の2回の対ソ連戦争で敗北し、カレリア地域の大部分を失い、モスクワによって命じられた友好条約に署名しなければならなかった。全ての重要な外交政策決定はその後、ソ連との間で暗黙のうちに調整しなければならなくなったことから、「フィンランド化」という表現が生まれたわけだ。

 ただ、冷戦の終結後、フィンランドは外交政策の自由を取り戻し1995年にEUに加盟したが、NATOには加盟しなかった。しかし、ロシアが2014年にクリミアを併合して以来、フィンランドはいわゆる「NATOオプション」を公式の政策としている。

 一方、プーチン氏はウクライナのNATO加盟を含む東方拡大に強い警戒を示しているが、北欧のフィンランドとスウェーデンに対しても警戒を緩めていない。ロシア外務省のスポークスマンは昨年12月、「フィンランドとスウェーデンのNATOへの加盟は深刻な軍事的および政治的結果をもたらす」と警告を発した。ロシアのラブロフ外相はスウェーデンとフィンランドに手紙を書き、「独自のセキュリティポリシーを追求しないことを書面で宣言するように」と要求し、同時に、「NATOの軍隊または武器は1997年まで同盟国ではなかった国には駐留すべきではない」と主張している。これはスウェーデンとフィンランド両国はNATOとの共同軍事演習を実施してはならない、ということを意味する。もちろん、両国はロシアの要求を即座に拒否した。

 フィンランドは加盟国ではないが、NATOとの協力関係を深めている。フィンランドはアフガニスタン、イラク、西バルカンでのNATO任務に参加している。バルト海地域や東欧に関する軍事情報の交換も進められているという。

 NATOのストルテンベルグ事務総長は1月末、スウェーデンとフィンランドの両国外相をブリュッセル本部に招き、「両国が願えばいつでも加盟できる」と伝えている。

 NATO加盟について、フィンランドでは今年初めての世論調査では45%が加盟に傾いている。同国では過去、その割合は最大30%だったから、国民の間でNATO加盟支持が増えてきているわけだ。その背後には、フィンランド人の潜在的な反ロシア感情があるうえ、ロシア人の不動産の買い占めなどに対する反発があるといわれる。 

 その一方、フィンランドはロシアのガスと投資に依存し、ウランと石炭を購入している。ロシアの国営原子力企業ロシアトムは、フィンランド中部で原子力発電所建設に出資している。ロシアの第2の都市サンクトペテルブルクはフィンランドの首都ヘルシンキからわずか380キロしか離れていない、といった具合だ。

 ロシアはバルト海地域を戦力重要地域と受け取り、着実にその軍事的インフラを固めてきている。同時に、プーチン大統領は2018年、北極圏におけるロシアの軍事力増強を表明した。それを受け、モスクワは近年、多数の基地を拡張し、S−400中距離ミサイルを配備している。なお、ロシア軍は毎年、極北で大規模な軍事演習を行っている。

 以上、ドイツ放送のケーネ記者の記事を参考にフィンランドの近況を報告した。

 ウクライナ危機は米ロ間の外交対話で落ち着きを取り戻すかは現時点では不明だが、ウクライナ危機がフィンランドを一層、NATO加盟に傾斜させたことは間違いない。ウクライナの「フィンランド化」ではなく、フィンランドの「ウクライナ化」が大きな懸案として浮上してきているのだ。

コロナ規制解除「勝利宣言」か「冒険」か

 北欧デンマークは10日を期して全てのコロナ規制を解除する。デルタ株のコロナ感染が急増している他の欧州諸国を尻目に、同国は「Covid-19は歴史となった」と豪語するのだ。同国の「コロナ規制解除宣言」を支えているのは80%以上のウイルス・ワクチン接種率だ。コペンハーゲンの今回の決定はコロナ対策成功のパイオニア的勝利宣言か、それとも危険な冒険に終わるだろうか。以下、独週刊誌シュピーゲル9月1日電子版からその概要を紹介する。

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▲「パンデミック終息」宣言をしたホイニケ保健相(ウィキぺディアから)

 オーストリアのクルツ首相は8日、連邦首相府の記者会見で、デルタ株ウイルスの新規感染者が増加してきたことを受け、3点のコロナ規制に関する計画を公表したが、その際「わが国はまだデンマークのようにワクチンの高接種率に至っていない」と指摘し、「デンマークの接種率は86%だ。わが国もデンマークのような接種率を達成するならば、コロナ規制も解除できる」と説明していた。オーストリアを含む欧州諸国は今、デンマークのワクチン高接種率とコロナ規制解除宣言を羨ましく感じながら、デンマークの「パンデミック勝利宣言」の行方を固唾を飲んで見守っている。

 デンマークのパンデミック対策の中心的人物、マグナス・ホイニケ保健相は、「国民はマスクなしで電車に乗り、コロナ検査の陰性証明書などなくてもカフェに座ってコーヒーを飲める。10日を期してコロナ規制は完全に解除され、Covid-19はもはや危険な感染症とは見なされなくなる」と強調した。そして「多くの人が集まる集会やイベントもコロナ規制なく開催できるようになる。サッカー試合もファンに解放され、コロナパスと呼ばれるワクチン接種証明証を提示する必要はない、新規感染者が増加したとしても自動的に新しいコロナ規制を実施されることはない。デンマークではCovid-19は実際終焉した」と言い切っている。

 コロナ対策のサクセスストーリーについて、同保健相は自身のコロナ政策を掲げ、「パンデミックはコントロールされている。わが国のワクチン接種率は記録的に高い」と強調。実際、デンマークでは12歳以上の国民のワクチン接種率は他の欧州諸国を上回り、2回以上の接種率は「80%以上」という。他の国では新規感染者が増加しているが、デンマークはコロナ規制の緩和にもかかわらず増加せず、8日現在、集中治療室の患者は21人に留まっている。

 同国のロスキレ大学のウイルス学者ヴィゴ・アンドレアセン氏は、「現在の新規感染者は主に子供、若年成人が多く、彼らの大多数は重症化しない。だから、コロナ規制を実施する必要性がない」と説明、国民の間に「コロナ規制無用論」がコンセンサスとなっているという。

 同氏は、「今冬には約70万人の感染者が出るだろう。入院患者数は2万1000人、そのうち700人が亡くなると予測される。この数字自体、決して劇的ではない。最悪のシナリオでも病院入院患者率は前年比の3分の2に留まる」と予測している。

 デンマークのコロナ対策は最初から一貫したものではなかった。実際、昨年3月、他の欧州諸国に先駆けて厳格なロックダウンを実施し、学校、文化施設などを閉鎖し、労働者は自宅勤務を強いられた。6月に入り、マスク着用が解除されたが、その後、新規感染者数は増加傾向にあった。すなわち、デンマークのコロナ対策は、スウェーデンより厳格で、ドイツより緩やかといえるわけだ。ワクチンが登場し、接種の普及でコロナ規制への解除へとつながったわけだ。

 ワクチンの問題では、デンマークは血栓など副作用の多いアストラゼネカとジョンソン&ジョンソンのワクチンの接取を今春中止。同国では60歳以上の高齢者の接種率は96%だ。新学期が始まったが、「生徒の中に感染者が出たとしても、学校やクラスを閉鎖せずに授業を続行する」方針だ。

 ドイツのウイルス学者たちが所属する「ウイルス学協会」(GfV)は昨年10月19日、集団免疫(独Herdenimmunitat )説を支持し、ウイルスの感染を自然に委ねる対策を公表した。集団免疫説は、「ウイルスの感染者が増加すれば、社会全体の免疫力が高まる。その結果、感染の拡大を防ぎ、ひいては感染危険層をより守ることができる」という考えだ。スウェーデンが感染初期、集団免疫を目指して規制を緩和したことがあった。

 クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は当時、「ウイルスがコントロールを離れ、急増することで、死者が増加する危険がある。そのうえ、感染危険対象は、高齢者以外にも多くのグループがある。例えば、肥満体、糖尿病 ガン、腎臓病疾患、慢性肺疾患、肝臓病、移植後の心臓発作、妊婦期間などの国民も危険グループだ。さらに、免疫がいつまで続くのかは不明だ」として、「ワクチンのない状況で集団免疫政策を推進することは非倫理的であり、医学的、社会的、そして経済的にも危険が非常に高い」と反論していた。

 GfVの主張はワクチン接種が始まっていない時だっただけに、強い反対が持ち上がったが、デンマークの「コロナ規制の完全破棄」宣言はワクチン接種の普及を受け、コロナ規制を完全に破棄し、新規感染者が増加しても自然に委ねていくという考えだ。その意味で、米国と英国の3人の感染症疫学者、公衆衛生科学者が表明した「グレートバリントン」宣言の集団免疫論とは前提条件が異なっている。

 デンマークの「コロナ規制完全解除宣言」が成果をもたらすか否かは現時点では即断できない。デルタ株などコロナ・ウイルスは無数の変異株に進化してきているだけに、既成のワクチンの有効性が問題となるからだ。デンマークの「パンデミック終息」宣言は他の欧州諸国に大きな希望を与えているが、コロナ・ウイルスの終焉宣言はまだ時期尚早だろう。

 シェイクスピアのデンマーク王子「ハムレット」の有名な台詞「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」に倣い、デンマークのコロナ対策は「勝利か、それとも冒険か、それが問題だ」という台詞が飛び出してくる。

「ノルウェー連続テロ」から10年目

 辛いテーマだが報告する。世界を震撼させたノルウェー連続テロ事件が起きて今月22日で10年目を迎えた。同連続テロ事件とは 当時32歳の青年アンネシュ・ブレイビクがオスロの政府庁舎前の爆弾テロと郊外のウトヤ島の銃乱射事件で計77人を殺害したテロ事件だ。1人のテロリストによって殺害された犠牲者の数としては最も多いテロ事件だった。あれから10年が経過したが、ノルウェー国民は今でも同テロ事件を忘れることができないでいる。

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▲ブレイビク受刑者の犯行舞台となったウトヤ島(ウィキぺディアから)

 ブレイビクは犯行直後、弁護士に対し、「行動は残虐だったが、必要だった」と述べ、その蛮行を冷静に説明し、後悔していないことを明らかにしている。彼は事件当初から、「信念がある1人の人間は自身の利益だけに動く10万人に匹敵する」と豪語し、自身を十字軍の戦士だと嘯いていた。

 ブレイビクが書き記した1516頁に及ぶ「欧州の独立宣言」がインターネット上に掲載されたが、そこで彼は犯行を2年前から計画(「殉教作戦」)し、爆弾原料となる農場用の化学肥料を密かに大量購入する一方、合法的に拳銃、ショットガンなどを購入し、戦争ビデオ・ゲームを愛し、ボディ・ビルで体を鍛えてきたことなどを明らかにしている。

 事件が計画的で冷静な計算のうえで行われていることから、事件当初から犯人の精神的側面、そのプロファイルに関心が注がれた。ブレイビクは極右民族主義者であり、反イスラム主義者だった。彼が尊敬する人物は、イマヌエル・カント(独哲学者)、ジョージ・オーウェン(英作家)、ウィンストン・チャーチル(英政治家)、フランツ・カフカ(チェコ作家)、ジョン・ロック(英哲学者)、プラトン(古代ギリシャ哲学者)たちだ。一方、嫌悪する人物はカール・マルクス(共産主義の提唱者)とイスラム教徒だった。特に、宣言表明の中でオスマン・トルコの欧州北上の再現に強い警戒心を示していた。

 ウトヤ島の乱射事件から逃れた少女は、「犯人は非常に落ち着いていた。そして撃った人間がまだ死んでいないと分ると、何度も撃って死を確認していた」という。乱射の時も容疑者はまるでその使命を果たすように冷静に蛮行を重ねていった。犯人は、「政府庁舎前の爆弾テロで時間を取り、計画が遅れてしまった。そうでなかったならば、もっと多くの人間を射殺できたはずだ」と語っている。

 当方はこのコラム欄で犯人のプロファイルについて、〕撞深圓涼療レベルは平均より高く、哲学・文学の世界に精通、多文化社会を嫌悪し、反イスラム主義を自身の使命と受け取る、(今回の蛮行のために2年間に及ぶ準備時間があったというから)その行動は一時的な感情に基づくものではなく、強い信念に基づく、ぁ覆海貭の蛮行を犯しながら、これまで一度も感情を吐露していないことから)情感世界の欠陥が見られる、と指摘した。

 ブレイビクの両親は離婚し、外交官だった父親はフランスに戻った。ブレイビクは少年時代、父親に会いたくてフランスに遊びに行ったが、父親と喧嘩して以来、両者は会っていない。彼はオスロの郊外で母親と共に住み、農場を経営する独り者だった。両親の離婚後、ブレイビクは哲学書を読み、社会の矛盾などに敏感に反応する青年として成長していった。

 ノルウェー連続テロ事件はその後、欧州で起きた極右過激派テロ事件に大きな影響を与えた。ニュージランド(NZ)中部のクライストチャーチで2019年3月15日、2つのイスラム寺院(モスク)で銃乱射事件が発生し、49人が死亡、子供を含む少なくとも20人が重傷を負った。主犯は白人主義者でイスラム系移民を憎む極右思想を信奉する28歳のブレントン・タラント容疑者(Brenton Tarrant)だ。彼はブレイビクを尊敬していた。また、独ミュンヘンのオリンピア・ショッピングセンター(OEZ)で2016年7月、銃乱射事件が発生したが、犯人は18歳の学生で、ブレイビクの大量殺人事件に強い関心を寄せていたことが明らかになっている、といった具合だ。

 同時に、ノルウェー国民にも心的外傷性ストレス障害(PTSD)のように深い傷跡を残している。ブレイビクの言動がメディアに報じられる度に、ノルウェー国民はやり切れなさを覚えるという。悲劇の幕を閉じることが出来ない苛立ちかもしれない。「どうして多くの若者が犠牲となってしまったのか、わが国の社会で、なぜブレイビクのような人間が出てきたのか」等の疑問に答えが見つからないからだ(「ノルウェー国民を苦しめる『なぜ?』」2017年7月25日参考)。

 独週刊誌シュピーゲル最新号(7月17日号)はオスロ大量殺人テロ事件の10年目の特集記事として、ウイヤ島でブレイビクの射撃から逃れるために海に飛び込んで死を逃れたカムジー・グナラトナム氏(Kamzy Gunaratnam)のインタビューを掲載している。彼女は現在、オスロ市の副市長だ。彼女(33歳)は当時、社会民主党青年部に属し、ウイヤ島での夏季キャンプに参加していた。会見の中で「あれから10年が経過したが、自分の中にウイヤ島の出来事は今も鮮明だ。知らない場所に入ると、直ぐに『誰かが武器を持っていたら、どこから逃げるのがもっともいいか』を考えてしまう」と述べている。数週間前、彼女の体験談の本が出版されたばかりだ。

 ブレイビクは現在、独房生活だ。独房は31平方メートル、3部屋があり、1台のテレビ、インターネットの接続がないコンピューター、そしてゲームコンソールがある。食事と洗濯は自分でやり、外部との接触が厳しく制限されている。郵便物は検閲される。

 ノルウェーでは終身刑も死刑も認められていない。最長刑期は21年だ。ただし、囚人が犯行を再び犯す危険があると判断されれば、さらに長い期間拘留できる。ブレイビクの場合、死を迎えるまで刑務所に拘留される可能性が高い。
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