ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

イスラエル

なぜ「左翼」はイスラエルを憎悪するか

 パレスチナ自治区ガザを実効支配しているイスラム過激テロ組織「ハマス」が昨年10月7日、イスラエル領に侵入し、1200人余りのイスラエル人を虐殺し、250人以上を人質にした奇襲テロ事件が起きて今月7日で8カ月目を迎える。イスラエル側はハマスに報復攻撃を即実施、ネタニヤフ首相は「ハマスの壊滅」を掲げて激しい攻撃を開始した。パレスチナ保健当局の発表では、イスラエル軍の攻撃で3万5000人以上のパレスチナ人が犠牲となった。イスラエル側の激しい軍事攻勢に対して、国際社会からはイスラエル批判の声が高まっている。

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▲ガザ北部のジャバリアで瓦礫の中に座る少年、2024年6月4日(国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の公式サイトから)

 欧米諸国ではガザ紛争勃発直後、エリート大学内や路上でイスラエル批判の抗議デモや集会が開催されてきた。抗議デモ集会は当初、主にパレスチナ人、アラブ人が中心となって行われたが、その主役がここにきて左翼勢力に移ってきている。

 ドイツ民間ニュース専門局ntvのウェブサイトでヴォルフラーム・ヴァイマ―記者は「なぜ多くの左翼がイスラエルを憎むのか」をテーマに興味深い記事を掲載していた。同記者は「カール・マルクスからグレタ・トゥーンベリに至るまで、150年間驚くべきことに、ユダヤ人に対する激しい憎悪が左翼運動のDNAの一部として存在している」と書いているのだ。

 ヴァイマ―記者は「イスラエルに対する抗議はエスカレートしている。世界中のパレスチナ支持活動家や抗議する学生たちは、大声でイスラエルの存在権を否定し、文化人は舞台でガザにおけるイスラエル軍のジェノサイドを訴えている。イスラエル批判は初めはイスラム教徒が熱心だったが、今では左翼の支持者たちがその主導権を奪い、イスラエルを非難するケースが増えている。グレタ・トゥーンベリからジュディス・バトラーまでイスラエルを批判し、ますます露骨な反ユダヤ主義の様相を帯びてきた」と指摘している。

 「左翼と反ユダヤ主義の関係について」考えなければならない。同記者によると、「反ユダヤ主義の根は深い。一見、反射的なポストコロニアリズムから来ているように見える。イスラエルは帝国主義的、人種差別的、植民地的な拡張政策を行ってきたと受け取られ、パレスチナ人は一種の先住民と再定義されているからだ。典型的な階級闘争の世界観だ。そこではパレスチナ人、アラブ人、イスラム教徒は被害者であり、イスラエル、ヨーロッパ、アメリカは加害者だ」というのだ(「『加害者』と『被害者』の逆転現象」2023年11月4日参考)。

 キリスト教社会ではユダヤ民族はイエス・キリストを十字架で処刑した「メシア殺害民族」と呼ばれてきた。フランスの初期社会主義でも反ユダヤ主義が広まっていた。ロスチャイルド家と共に「ユダヤ金融封建主義」が全ての悪の根源だと考えられ、左翼は長い間、「ロスチャイルド家」、「ロックフェラー家」、「アメリカの東海岸」をユダヤ人の隠喩として囁き続けてきた。

 そしてカール・マルクスの登場だ。「ユダヤ人問題によせて」(1843年)で露骨な反ユダヤ主義的な憎悪を主張し、「ユダヤ教の世俗的な根源は何か?実用的な欲望、利己主義だ。ユダヤ人の世俗的な礼拝は何か?それは商売だ。彼らの世俗的な神は何か?それは金だ」と描写している。ヴァイマ―記者は「マルクスの主張はナチス・ドイツのその原文のように感じる」と述べている。マルクスの反ユダヤ主義はソ連共産主義政権に継承され、スターリンの下では「ユダヤ人の陰謀」に対する粛清キャンペーンが行われた(「ユダヤ民族とその『不愉快な事実』」2014年4月19日参考)。

 左翼の反ユダヤ主義は反資本主義と関連している。「労働者の天国」を掲げてきた左翼共産主義者は結局、世界の資本世界を牛耳っているユダヤ人資本家への戦闘を呼び掛けているわけだ。左翼にとって、パレスチナ紛争は自身の革命を推進するうえで不可欠な戦いであり、ユダヤ社会に支配されたパレスチナ人の解放運動(共産革命)ということになる。

 そのうえ、共産主義の革命論がヘーゲルの弁証法を逆転して構築(唯物弁証法)されているように、左翼の世界では常に被害者と加害者は逆転される。左翼は「ハマスが昨年10月7日、イスラエル領に侵入し、約1200人のイスラエル人を虐殺し、250人余りを人質にした奇襲テロ事件から現在のガザ戦争が始まった」というファクトを完全に無視し、パレスチナ側を被害者、イスラエルを加害者として、イスラエル打倒を叫んでいる。例えば、1972年9月5日、パレスチナ武装組織「黒い9月」の8人のテロリストは警備の手薄いミュンヘンの五輪選手村に侵入し、イスラエル選手団を襲撃。2人を殺害し、9人を人質にするテロ事件が起きた。その時もパレスチナのテログループは民族解放戦士のように扱われた、といった具合だ(「『ミュンヘン五輪テロ事件』の教訓」2022年9月3日参考)。

 いずれにしても、左翼共産主義者は「宗教をアヘン」と蔑視するが、その思想は非常に宗教的だ。真偽、上下を恣意的に逆転し、世界革命(地上天国)を標榜する似非宗教だ。
 
<参考資料>
 「『反ユダヤ主義』のルーツの深さ」2013年11月6日
 「反ユダヤ主義は耐性化ウイルスか」2013年11月20日
 「なぜ反ユダヤ主義が生まれたのか」2015年1月28日
 「『輸入された反ユダヤ主義』の脅威」2019年3月26日
 「なぜ反ユダヤ主義が消滅しないのか」2020年12月6日 
 「ユダヤ人『DNAに刻み込まれた恐怖』」2023年11月3日
 「パレスチナ人はアラブの危険な番犬?」2023年11月6日

ネタニヤフ首相「アマレクを忘れるな」

 イスラエルのネタニヤフ首相は昨年10月28日、パレスチナ自治区ガザを2007年以来実効支配してきたイスラム過激テロ組織「ハマス」がイスラエル領に侵入し、奇襲テロを実行した直後、「アマレクが私たちに何をしたかを覚えなさい」と述べたという。

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▲ジェイク・サリバン米国家安全保障問題担当補佐官と会談するネタニヤフ首相(2024年5月19日、エルサレムで、イスラエル首相府公式サイドから)

 ネタニヤ首相はなぜ、突然「アマレクの蛮行を忘れるな」と言い出したのだろうか。ネタニヤフ首相の発言は旧約聖書「申命記」第25章17〜18節に記述されている。アマレクは古代パレスチナの遊牧民族で、旧約聖書によると、イサクの長男エサウの孫エリファズの子だ。

 「あなたがエジプトから出てきた時、道でアマレクびとがあなたにしたことを記憶しなければならない。すなわち、彼らは道であなたに出会い、あなたがうみ疲れている時、うしろについてきていたすべての弱っている者を攻め撃った。このように彼らは神を恐れなかった」。

 モーセがエジプトから60万人のイスラエルの民を引き連れて神の約束の地に歩み出していた時、アマレク人がイスラエルの民を襲撃した。ネタニヤフ首相は「アマレク人の蛮行」と「ハマスのテロ」を重ね合わせて語ったはずだ。約1200人のユダヤ人が殺害されたハマスのテロ奇襲のことをイスラエル国民は忘れず、記憶しておくべきだというわけだ。

 イスラエルでは「アマレク」は悪のシンボルのように受け取られている。ネタニヤフ首相はハマスの奇襲テロの直後ということもあって、申命記に登場するアマレクに言及したのだろう。イスラエル人はどの世代にも背後からイスラエルを殺そうとする敵が存在すると考えてきた。ナチスもアマレクだった。

 ところが、南アフリカは2023年12月末、申命記第25章17節から引用したネタニヤフ首相の演説内容を、「パレスチナ人に対するジェノサイドへの呼びかけ」と解釈し、国際司法裁判所(ICJ)に訴訟を起こす根拠に挙げている。それに対し、ウィーン大学のユダヤ学研究所のゲアハルト・ランガー所長はオーストリア国営放送(ORF)とのインタビューの中で「アマレク人は歴史的にはほとんど知られていない民族だ。アマレクは象徴的な悪を表している。アマレクは決してこの世から消えることのない悪のメタファーだ。その意味で、2023年10月7日のハマスの奇襲テロの際、アマレクが活動していたと言うこともできるが、ネタニヤフ首相がパレスチナ人に対してジェノサイドを呼び掛けたとは受け取れない」と説明している。

 ここで聖書的背景を少し説明する。アマレク人がイサクの長男エサウの後孫である一方、イスラエル人はイサクの次男ヤコブの後孫という事実だ。イサクの家庭にはエサウ(兄)とヤコブ(弟)の2人の息子がいた。神はヤコブを愛し、エサウは神からの祝福を得なかった。その結果、エサウはカインと同じように弟を殺害しようとした。そこでヤコブは母親の助けを受け、母親の兄ラバンが住んでいる地に避難する。そこで21年間苦役し、妻、牛、羊などの財産を持って帰国する途上、天使が現れ、天使と組討して勝利した結果、神はヤコブに「イスラエル」という名前を与えた。そしてヤコブはエサウと再会し、和解した。

 ヤコブから始まったイスラエル民族はエジプトで約400年間の奴隷生活後、モーセに率いられ出エジプトし、その後カナンに入り、士師たちの時代を経て、サウル、ダビデ、ソロモンの3王時代を迎えたが、神の教えに従わなかったユダヤ民族は南北朝に分裂し、捕虜生活を余儀なくされる。北イスラエルはBC721年、アッシリア帝国の捕虜となり、南ユダ王国はバビロニアの王ネブカデネザルの捕虜となったが、バビロニアがペルシャとの戦いに敗北した結果、ペルシャ帝国下に入った。そしてペルシャ王朝のクロス王はBC538年、ユダヤ民族を解放し、エルサレムに帰還させた(「ユダヤ教を発展させたペルシャ王」2017年11月18日参考)。

 イスラエルは1948年に国家を建設する一方、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3唯一神教の「信仰の祖」アブラハムの妾ハガルから生れたイシマエルの後孫のアラブ民族は当時、パレスチナ地域に住み着いていった。イスラエルは現在、そのパレスチナ地域に住むアラブ系のハマスと戦いを繰り広げている。

 イスラエルとハマスの戦いは宗教戦争でなく、政治的な対立だが、その背後には宗教的な要因が深く絡んでいることが分かる。イスラエル側には、超正統派のハレディムや宗教的シオニストなどの正統派運動があり、彼らはヨルダン川西岸地区やガザ地区がユダヤ人によって再び入植されることで、ユダヤの救済者(メシア)が来ると信じている。一方、パレスチナ側には、パレスチナ・イスラム聖戦やハマスのようなテロ組織が存在するが、ハマスは「ムスリム同胞団」の一派であり、そのイスラム主義は国家主義的であり、宗教的文脈に基づいている。ナショナルリズムは容易に宗教的に変質し、時に宗教的狂信となるわけだ。

 例えば、ハマスは1987年末に設立された。ハマスは政治部門と軍事部門であるアル=カッサム旅団、そして支援組織で構成されている。1988年8月に発表された「ハマス憲章」にはイスラエルの破壊を目標とする旨が設立文書に明記されている。同憲章の冒頭には、イスラム教がユダヤ教やキリスト教に対して優越していることを記述したコーランの第3章が記されている。「ハマス憲章」はユダヤ人に対する戦争が宗教戦争であることを明示しているわけだ。

 以上、オーストリア国営放送(ORF)のスザンネ・クリシュケ記者の「ガザ戦争での宗教的要因」(2024年5月19日)の記事を参考にまとめた。

 エサウとヤコブは兄弟であり、イスラエルとアラブ民族もアブラハムを共通の祖としている。要するに、中東で現在展開されているガザ紛争は聖書的に表現するならば、アブラハム家庭のドラマといえるわけだ。だから、結局はアブラハムに戻る以外に解決の道がないのだ(「『アブラハム家』3代の物語」2021年2月11日参考)。

「国家主義」の克服は反シオニズムか

 イスラエル系のドイツ人哲学者オムリ・ベーム氏(現ニューヨーク社会調査ニュー・スクール准教授)は7日、ウィーンのユダヤ広場のホロコースト記念碑の前でスピーチし、「人間の尊厳を守りたい者は、そのことを国家主義の枠組みで行うことができない」と語り、イスラエルに「国家主義の克服」を訴えた。それに対し、ウィーンのイスラエル共同体(IKG)は「ホロコースト記念碑の前で反シオニズム、ひいては反ユダヤ主義を標榜することは許せない」と非難し、主催者側にベーム氏を招いたことを批判した。

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▲オムリ・ベーム教授(ウィキぺディアから、2024年2月、撮影Amrei Marie氏)

 ベーム氏は著書「Radikaler Universalismus.Jenseits von Identitat」(急進的な普遍主義、アイデンティティーを越えて)の中で、アイデンティティーに代わって、カントが主張した道徳法則について‘自身の義務と考える自由を有し、それゆえにわれわれは責任を担っているという普遍主義”を主張している。同氏は「プライベートなアイデンティティーを最高の価値に置くのではなく、“わたしたちのアイデンティティー”の世界を越えたところにある法則、われわれは平等に創造された存在であるという絶対的な真理のもとで考えるべきだ。そうなれば、他国を支配したり、植民地化し、奴隷にするといったことはできない」という“急進的な普遍主義”を提唱してきた。

 ベーム氏の主張がなぜ一部のユダヤ人知識人、政治家には反シオニズムであり、反ユダヤ主義と受け取られるのだろうか。イスラエルの建国の話を思い出せば理解できるかもしれない。ユダヤ民族が神の約束の地パレスチナで民族独自の国家を建設する運動はシオニズム運動と呼ばれ、イスラエル建国の神話となってきた。それに対し、ベーム氏の主張はナショナル・ソブリンティの概念から離れなければならないというのだ。それはイスラエルの建国神話の否定を意味する。ベーム氏は「ヨーロッパへの演説」(「歴史の影、現在の幽霊:中東戦争とヨーロッパの課題」)の中で、「自分自身の神話から離れ、自分自身の普遍的な価値観を自らの歴史の重荷に対して擁護するように」と求めたのだ。

 ベーム氏はユダヤ民族のホロコーストの経験からイスラエルの建国への歴史に目を向け、「理想に自らを委ねるからには、歴史を尊重しなければならない。しかし、その理想は神話に堕ちることがあり、特に『国家の神話』となってしまう。現在、右派政権が国家の神話に取り組んでいるときに、歴史に結びつく理想を再び高く持ち上げなければならない。ヨーロッパが人間の尊厳は侵害されないと宣言するならば、それは自らの歴史とその歴史の過ちの背景を考えながら行わなければならない。なぜなら、人間の尊厳は侵害されないという言葉も、すぐに神話に変わる可能性があるからだ」という。

 ベーム氏によれば、欧州連合(EU)は、大帝国の終焉後の世界に何が可能かという問いに対する唯一の生産的な回答だったという。国家の主権ではなく、その克服が欧州の使命というのだ。

 重要な問題は、欧州の国家主権の克服の教訓が、欧州の歴史の犠牲者、具体的にはユダヤ人やホロコーストにも適用可能かどうかだ。なぜなら、犠牲者の教訓によれば、体系的な迫害や殺人から逃れることができたのは主権のある国家だけだというからだ。しかし歴史的経験からイスラエルの憲法が最初に考慮すべきは、ユダヤ民族の主権ではなく普遍的な人権であるべきだとベーム氏は主張しているわけだ。

 ベーム氏は5日、オーストリア国営放送とのインタビューで、「私はホロコーストの歴史とそれを克服してきたことに対する尊敬の念に深く関わっているが、私たちは時々それを誤った目的のために濫用する形式を開発してきたのではないか、と思っている」という。「イスラエルの文脈に後期植民地主義の考え方を導入している」という批判に対しては、「私はポスト植民地主義の考え方に対する熱心な反対者だ」と説明している。

 現実の中東問題の行方については、「現時点では想像するのが難しいかもしれないが、イスラエルとパレスチナの連邦国家によってのみ解決できる。二国家解決はさまざまな理由から現実的ではない」と主張し、同時に、「私は、私が支持する連邦の方向性に対する疑念を理解している。昨年10月7日以降、状況は耐えがたいものになっているからだ」と述べている。

 ベーム氏は2020年に発表したエッセイ集「イスラエル―ユートピア」の中で、ユダヤ国家と自由主義的民主主義との間に著しい矛盾を感じていると吐露している。ベーム氏は「民族的に中立的な国家」のビジョンを支持しており、それによってシオニズムの運動を克服することが出来ると信じているのだ。

 ベーム氏が指摘するように、昨年10月7日のハマスの奇襲テロ以来、イスラエルとパレスチナの2国家解決は益々非現実的となったが、同時に、同氏が提案するイスラエル連邦国家構想に対しても批判がある。7日のユダヤ広場でのベーム氏の演説に対するイスラエル共同体からの抵抗からもそれが伺える。

「激動の時代」を再び迎えた中東地域

 イスラエルとイランの間で報復攻撃が繰り返されている。今回の直接の切っ掛けは、イスラエルが4月1日、シリアの首都ダマスカスのイラン大使館を爆撃し、イランが誇る「イラン革命防衛隊」(IRGC)の准将2人と隊員5人を殺害したことだ。イランは同月13日夜から14日にかけイスラエルに向けて無人機、巡ミサイル、弾頭ミサイルなど300発以上を発射させた。

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▲親イラン派のレバノンの「ヒズボラ」がイスラエル兵士の拠点に発射したミサイル(2024年4月19日、イラン国営IRNA通信から)

 イラン側は同報復攻撃を「イスラム共和国とイスラエル政権との最初の直接対決だった。これは歴史問題を考える上で非常に重要な点だ。占領地の奥深くへの効果的な攻撃は、1967年以来イスラム諸国の果たせなかった夢だったが、この地域の抵抗運動の発祥地による努力のおかげで、それが実現した。史上初めて、イラン航空機がこの聖地の上空でアル・アクサ・モスクの敵を攻撃した」と指摘し、イラン側のイスラエルへの報復攻撃の歴史的意義を説明している。

 一方、イスラエルは19日、無人機やミサイルなどでイラン中部イスファハンを攻撃した。イスラエル側もイラン側も同報復攻撃については何も公式発表していない。興味深い点は、イランの13日の集中攻撃も、19日のイスラエル側の攻撃も相手側に大きな被害を与えないように抑制されていたことだ。その意味で、イランもイスラエルも今回の軍事衝突を契機に中東全域に戦争を拡散することは避けたいという暗黙の了解があったことが推測できるわけだ。

 特に、イスラエル側の報復攻撃は小規模で余りにも抑制されていたことから、イスラエル指導部内でも失望の声が聞かれたが、同国の軍事情報に通じる専門家は「重要な点はイスラエル側が大都市イスファハンを報復対象の場所に選び、そこに無人機の攻撃を実施したことだ。同市には無人機製造所やウラン濃縮関連施設など核関連施設が近郊にある。すなわち、『イスラエルはいつでもイランの重要都市に大きなダメージを与えることが出来る』というメッセージをテヘラン側に伝えたわけだ」と受け取っている。イラン側がイスラエルの報復攻撃について国内で公式には報じていないのは、イスラエル側の軍の優位性にイラン軍関係者は改めてショックを受けたからではないか。

 イスラエルは23日には「過越の祭」を迎える。イスラエル側がイランとの戦闘を抑えるか否かは不明だ。いずれにしても、パレスチナ自治区ガザでイスラム過激テロ組織「ハマス」との戦闘を抱えているネタニヤフ政権はガザ南部ラファへの地上攻撃をどうするか、ハマスとの休戦交渉、イランへの対応など重要な課題が山積している。

 ところで、当コラム欄でも何度か書いたが、イスラエルとイランは常に宿敵関係だったわけではない。モハンマド・レザ・シャー・パフラヴィ(パーレビ国王)は1941年に即位すると、西側寄りの国創りに乗り出し、1948年に建国したイスラエルを同盟国と見なしていた。しかし、1979年の「イラン革命」後、フランスの亡命から帰国したホメイニ師がイスラム共和国を設立すると、イスラエルとの関係は険悪化していった。両国は過去、正面衝突することはなかったが、レバノンの親イラン寄りのヒズボラ(神の党)などがイスラエルと代理戦争を繰り返してきた。

 イランのマフムード・アフマディネジャド元大統領は「イスラエルを地上の地図から抹殺してしまえ」と暴言を発し国際社会の反感を買ったことがあったし、ライシ現大統領は2月11日、首都テヘランのアザディ広場で開かれたイラン革命45周年の記念集会で、宿敵イスラエルのシオニスト政権の打倒を訴えた。イランの最高指導者、アリ・ハメネイ師は2009年、イスラエルを「危険で致命的ながん」と呼んでいる。

 しかし、歴史をもう少し振り返ると、イスラエル(ユダヤ民族)はペルシャ民族(イラン)の助けを受けている。イスラエルではサウル、ダビデ、ソロモンの3王時代後、神の教えに従わなかったユダヤ民族は南北朝に分裂し、捕虜生活を余儀なくされた。北イスラエルはBC721年、アッシリア帝國の捕虜となり、南ユダ王国はバビロニアの王ネブカデネザルの捕虜となった。バビロニアがペルシャとの戦いに敗北した結果、ユダヤ民族はペルシャ王の支配下に落ちた。そのペルシャのクロス王はBC538年、ユダヤ民族を解放し、エルサレムに帰還することを助けた。そしてユダヤ民族はユダヤ教を確立していく。イラン革命が生じ、イランで聖職者支配政権が確立するまでは紆余曲折があったものの、ユダヤ民族とペルシャ民族は結構良好な関係を維持してきたのだ。

 ここ数年、イスラエルはイスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアに接近する一方、イスラム教シーア派の代表、イランもサウジに接近するなど、これまで考えられなかった動きが中東地域で見られ出している。イランの13日のイスラエルへの無人機攻撃では、サウジやヨルダンなどアラブ諸国が無人機撃墜などで間接的にイスラエル側を助けている。

 中東では現在、単に、ユダヤ教徒とイスラム教、スンニ派とシーア派といった宗派間争いだけではなく、アラブとイランの民族間の覇権争いといった側面も出てきている。それに経済的利害も絡んできて、状況は一層複雑であり、流動的だ。

イスラエルの「過越の祭」と報復攻撃

 英語ではパスオーバーと呼ばれるユダヤ人の祝日「過越の祭」(ヘブライ語でペサハ)が今月23日から29日まで1週間続く。米メディアでは、イスラエルは「過越の祭」が終わる今月末まではイランへの報復攻撃を控えるのではないかという観測報道が流れていたが、イラン国営メディアによると、19日早朝(現地時間)、イスラエルからイラン中部イスファハンにミサイルの攻撃があったという。イスファハン州の軍事施設近くで3回の爆発音が聞こえたほか、複数のドローンが撃墜されたという。被害状況や攻撃の規模については報じられていない。

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▲ネタニヤフ首相はモサド(諜報特務庁)とISA(総保安庁)の高官と会談し、「国内の不和は今すぐ解消される必要がある」と強調(2024年4月18日、イスラエル首相府公式サイトから)

 イスファハン州には軍事基地や無人機製造施設のほかウラン濃縮活動を行うナタンツの核施設があるが、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は19日、「核関連施設は攻撃を受けていない」と述べた。

 「過越の祭」は、ユダヤ人の指導者モーセがエジプトで奴隷生活をしてきたイスラエルの民を率いて神の約束の地カナンに向かって出エジプトをする話の中で登場する。モーセがエジプト王ファラオにイスラエルの民を出国させよと求めるが、ファラオはそれを拒否。神は裁きとして長子を全て殺すと警告。同時に、イスラエルの民には家の戸口に羊の血で印をつけるようにと命じた。その結果、エジプトの家庭の長子は悉く殺されるが、戸口に子羊の血が塗られている家は無事だった。イスラエルの民はその後、神に感謝し、家族が揃ってゼーダーと呼ばれる特別な食事を楽しむ祝日となった。パン種を用いずに焼かれたマツォットと呼ばれるパンを食べる(「モーセと『神の娘(バト・ヤー)』の話」2024年4月3日参考)。

 一方、イスラム教徒はイスラムの5行の一つ、ラマダン(断食月)を終えたばかりだ。聖なるラマダンの期間、パレスチナでイスラエル軍とガザ地区のイスラム過激テロ組織「ハマス」間の戦闘が休戦するのではないか、と一部で期待された。同じように、ユダヤ民族の主要祝日「過越の祭」が始まる今月23日を控え、イスラエル側はイランへの報復攻撃を控えるのではないかという憶測情報が一部で流れた。 

 シリアの首都ダマスカスのイラン大使館が今月1日、イスラエル側の攻撃によって破壊され、イラン革命防衛隊(IRGC)の准将2人と隊員5人が犠牲となったことを受け、テヘランは13日から14日にかけ、300発以上のロケット弾、巡航ミサイル、無人機でイスラエルを攻撃した。イラン国営メディアによると、「エマド」や「ケイバルシェカン」などの中距離ミサイルや巡航ミサイル「パヴェ」が発射された。そしてシャヘド136と呼ばれる「神風無人機」が攻撃に加わった。同無人機はロシア軍がウクライナとの戦いでも使用している。

 イラン当局の説明によると、イラン革命防衛隊(IRGC)はイスラエルに対する大規模な攻撃では最新鋭のミサイルを使用しなかった。タスニム通信は、IRGC航空宇宙軍司令官アミール・アリ・ハジザデ准将の発言として、「われわれは最小限の強度の旧式兵器を用いてシオニストの敵に対して行動した」と伝えた。イラン当局がイスラエルとの正面衝突を回避するため報復攻撃を抑制したものと受け取られている。

 イスラエルのイラン核関連施設への攻撃を恐れ、イランはナタンツのウラン濃縮関連施設を地下深い場所に移動し、今日まで活動を継続している。イランは2015年7月、国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国と核合意を締結し、イランの核開発計画は核エネルギーの平和利用と主張してきた。しかし、トランプ米前政権が2018年5月、イランが核合意の背後で核開発を続行しているとして核合意から離脱後、イランは順次に核合意の内容を破棄し、IAEAの査察活動を制限する一方、ウラン濃縮活動を加速し、高濃度ウランの増産を進めている。イランの核開発計画を外交交渉で解決する道はもはや難しくなってきている。イランは近い将来、核兵器を製造し、世界で10番目の核兵器保有国に入るのは時間の問題だ(「イラン核関連施設破壊の『Xデー』」2024年4月18日参考)。

 イランが核兵器を所持すれば、イランが軍事支援するパレスチナ自治区ガザの「ハマス」、レバノンのイスラム根本主義組織「ヒズボラ」、イエメンの反体制派民兵組織フーシ派などに核拡散する危険が高まる。イスラエルは国の安全を脅かすイランの核兵器開発の阻止を最重要課題としている(イスラエルは2007年9月、シリア北東部の核関連施設「ダイール・アルゾル施設」を爆破)。

 西側の軍事専門家は「イスラエルの無人機がイスファハンまで飛行してきたことにイラン側はショックを受けている。イスラエル側が大量の無人機を動員すれば、イランの防空システムではイスラエルの無人機を全て撃ち落とすことはできない」と予想している。

 イスラエルは今日、民族の存続を脅かす宿敵イランと直接対峙している。ネタニヤフ政権がどのような戦略を下すかは「過越の祭」が終わる今月末までには明らかになっているだろう。

イラン核関連施設破壊の「Xデー」

 イスラエル戦時内閣は16日、同国を無人機やミサイルなどで集中攻撃したイランへの対応について協議し、「強硬な報復攻撃をする」ことでほぼ一致、その時期、規模などについては明らかにしなった。協議は17日も継続される。

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▲ロシアのプーチン大統領(左)と電話会談するイランのライシ大統領(2024年4月16日、IRNA通信)

 イランの13日夜から14日にかけての攻撃に対し、イスラエル側の被害はほとんどなかった。イスラエルが世界に誇る防空システムのおかげで約300機の無人機、ミサイルをほぼ全て撃墜、1人の少女が負傷しただけに留まったことから、イスラエル側が大規模な報復攻撃は控え、軍事基地や石油生産拠点への限定攻撃に留まるのではないか、という憶測がある一方、「イランの13日の攻撃を受け、イラン国内の核関連施設への攻撃を実施する可能性がある」という情報も聞かれる。

 ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は16日、「イランの核関連施設への如何なる破壊行動も危険だ」と警告を発している。ちなみに、イランは2015年7月、国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国と核合意を締結し、イランの核開発計画はあくまでも核エネルギーの平和利用と主張してきた。しかし、トランプ米前政権が2018年5月、イランが核合意の背後で核開発を続行しているとして核合意から離脱後、イランは順次に核合意の合意内容を破棄し、IAEAの査察活動を制限する一方、ウラン濃縮活動を加速し、高濃度ウランの増産を進めている。例えば、2023年1月、濃縮ウラン83.7%の痕跡がイラン中部フォルドーの地下ウラン濃縮施設の検査中に発見されている。イラン当局は当時、IAEAに対し、「非常に高いレベルの濃縮は意図しない変動で生じたもの」と弁明してきた(「イラン『濃縮ウラン83・7%』の波紋」2023年3月2日参考)

 イランの核兵器製造を最も恐れているのはイスラエルだ。2002年、イランの秘密核開発計画が暴露されて以来、イスラエルは核関連施設へのサイバー攻撃を実施する一方、核開発計画に関与する核物理学者を暗殺してきた。
 例えば、2010年、「スタックスネット」と呼ばれる、米国とイスラエルが共同開発したコンピュータウイルスが、イランのナタンズのウラン濃縮施設を攻撃した。同サイバー攻撃でイランのウラン濃縮活動は数年間遅れたといわれた。また、2012年にはイランの核科学者、モスタファ・アフマディ=ロシャン氏が、テヘランで車に取り付けられた爆弾で殺害された。また、イラン核計画の中心的人物、核物理学者モフセン・ファクリザデ氏が同じように暗殺された。イラン当局はイスラエル側の仕業と受け取っている(「『イラン核物理学者暗殺事件』の背景」2020年11月29日参考)。

 イスラエルのイラン核関連施設への攻撃を恐れ、イランはナタンツのウラン濃縮関連施設を地下深い場所に移動し、今日まで活動を継続している。イランの核開発計画を外交交渉で解決する道はもはや難しくなってきている。このままいくとイランは近い将来、核兵器を製造し、世界で10番目の核兵器保有国に入るのは時間の問題だ。

 イランが核兵器を所持すれば、イランが軍事支援するパレスチナ自治区ガザのイスラム過激テロ組織「ハマス」、レバノンのイスラム根本主義組織「ヒズボラ」、イエメンの反体制派民兵組織フーシ派などに核拡散する危険が高まる。イスラエルは国の安全を脅かすイランの核兵器の開発を阻止しなければならないわけだ(イスラエルは2007年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破した)。

 ちなみに、米空軍は2021年7月23日、新しい「バンカーバスター」のGBU-72 Advanced 5K Penetratorのテストを実施し、成功した。同バンカー・バスターは5000ポンド(約2.27トン)の爆弾でイランの地下核施設を破壊する威力を有している。GBU-72は戦闘機または重爆撃機によって運ばれるように設計されている。

 イスラエルは2009年、米国から小型のバンカーバスター爆弾GBU-28を密かに購入したが、山の奥深くに埋もれているイランのフォルドウ核施設を貫通する能力はないと受け取られてきた。そこでイスラエル側は米国から「バンカーバスター(GBU-72)」を購入したのではないか(「イスラエルのイラン核施設爆破計画」2021年10月23日参考)。

 すなわち、イスラエル側はイランの核関連施設爆破計画を作成済みとみて間違いないだろう。イスラエルがイラン本土を空爆し、核関連施設を爆破した場合、イラン側の報復テロ、国際社会の批判が高まることは必至だ。しかし、イランがイスラエル領土に無人機、ミサイルなどを発射したばかりだ。イスラエル側は自衛権の行使としてイランへ報復攻撃できるチャンスでもある。イスラエルの「イラン核関連施設破壊Xデー」は非常に現実的なシナリオだ。

「イラン報復攻撃」に関する7ポイント

 21世紀の戦争は単に戦場(正規戦)だけではなく、情報工作など(非正規戦)が大きな役割を果たす。通称「ハイブリッド戦略」だ。軍部広報担当者の仕事はその意味で非常に重要だ。イランが13日夜から14日にかけ300機を超える無人機やミサイルをイスラエルに向けて発射した直後、イスラエル国防軍(IDF)のハガリ報道官はカメラの前に立って、「わが軍の防空システムがイランからの無人機などをほぼ全て撃ち落とした。その的中率は99%だ」と笑顔を見せながら説明、IDFが世界に誇る防空システムが如何に優秀であるかを誇示。イランの報復攻撃による被害については、一か所の軍関連施設に被害が出たほか、南部アラドで1人の少女が負傷したと発表し、「負傷した子供の回復を祈る」と述べた。イスラエル側の余裕すら感じさせるブリーフィングだった。

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▲イランのライシ大統領は「イスラム革命防衛隊(IRGC)の戦士たちがドローンとミサイルの運用でシオニスト政権に『忘れられない教訓』を与えた」と表明した(2024年4月14日、IRNA通信から)

 一方、イラン国営IRNA通信によると、「イラン革命防衛隊」(IRGC)のホセイン・サラミ少将は「報復攻撃は予想以上に成功した」と発表した。イランのアミール・アブドラヒアン外相は「イスラエルが攻撃をしたならば、わが国は更に厳しく対応する用意がある」と強硬姿勢を見せた。いずれにしても、14日のIRNA通信はイラン側の報復攻撃の成果を誇示する内容で溢れていた。

 イラン側の政府・外交担当者の発言の中で、「本音が出ているな」と思ったのは在ニューヨーク国連機関のイラン代表部の「イランの軍事攻撃は国連憲章が明記している自衛権に基づくものだ。今回の攻撃でわが国の報復攻撃は終結する」と表明したコメントだ。イスラエルが今月1日、シリアの首都ダマスカスのイラン大使館を空爆したことを受け、イスラエルに報復攻撃をすると内外に宣言してきた。そのため、報復攻撃は必ず実行されなければならなかった。一種の必修科目だった。ただし、中東の軍事強国イスラエルとの正面衝突は可能な限り避けたいのがイラン側の偽りのない事情だろう。

 今回は、イラン側の報復攻撃に対する捉え方とその評価についてIRNA通信の報道から紹介したい。「イランは、4月初めのシリアのイラン総領事館に対するイスラエル政権による攻撃に対抗し、13日にイスラエルの標的へ報復攻撃を開始した。イスラエル政権を懲罰するイランの軍事行動に関しては7つのポイントがあり、大規模作戦のさまざまな側面を浮き彫りにしている」と指摘、イラン側のイスラエルへの報復攻撃の意義とその評価について解説している。

 .ぅ薀鵑旅況發魯ぅ好薀犇ο孫颪肇ぅ好薀┘訐権との最初の直接対決だった。これは歴史問題を考える上で非常に重要な点だ。占領地の奥深くへの効果的な攻撃は、1967年以来イスラム諸国の果たせなかった夢だったが、この地域の抵抗運動の発祥地による努力のおかげで、それが実現した。史上初めて、イラン航空機がこの聖地の上空でアル・アクサ・モスクの敵を攻撃した。

 ▲瀬泪好スにあるわが国(イラン)の外交施設へのイスラエルの侵略に対するイランの軍事行動は、侵略者を処罰するというイスラム共和国の約束の履行を示したことにある。イラン攻撃は、イスラエルのネタニヤフ首相がイラン外交使節団への攻撃を通じて、ガザでの政権の大敗による圧力から逃れ、勝利を偽装するために断片化したシオニスト世論の注目を集めようと腐心してきた時期に起きた。

 イスラム共和国によるイスラエル陣地への攻撃は、10月7日のパレスチナの「アル・アクサの嵐」作戦に続く、イスラエル政権に対する2度目の戦略的攻撃だ。「アル・アクサの嵐」作戦は、パレスチナ抵抗勢力の人気を高めた。イスラム共和国の約束履行を示す軍事行動も、地域におけるイランに対する国民の支持を高めるのに大きく役立つだろう。

 ぅぅ薀鵑侶鎧作戦はイスラエル政権とその同盟国の防衛システムによって鎮圧されるだろうという憶測があった。しかし、イランの無人機とミサイルは所定の軍事目標に命中し、米国と英国の防衛システムが機能しなかったことを多数の画像が証明した。作戦の規模、正確さ、戦略的計画は、シオニストに衝撃と驚きを与えた。
 
 ゥぅ薀鵑ら占領地への懲罰作戦は、広大な地理的地域(出発点と目的地)を網羅して実施され、イランがいかなる状況にも完全に対応できる準備が整っていることを明確に示した。

 Ε潺汽ぅ襪般疑裕,占領地に到達する数時間前に、イスラエルに対するハイブリッド作戦の開始に関する革命防衛隊の早期発表は、イランの準備、自信、確信のレベルを示した。シオニストへの処罰とイスラム国家の内部強化に成功した。

 Э百発のミサイルや無人機の集中的攻撃は、イスラエル側が反撃を開始したとしても壊滅的な打撃を受ける結果となることを認識させただろう。

 戦争時の広報は多くはプロパガンダだ。だから、それを聞き、読む者は流れてくる情報の真偽を慎重に分析しなればならない。IRNA通信の「報復攻撃の7つのポイント」の内容は、イスラエル側の広報とは違い、余裕はなく、一方的な思い込みや願いを事実のごとく解釈する傾向がみられる。それでも、イラン側の事情を知る上で役立つ。特に、,魯ぅ薀鵑魎泙爛ぅ好薀狃国の潜在的な願いを理解させる。

イスラエル「イラン核施設」へ空爆も 

 イランが13日夜(現地時間)、イスラエルに向けて数百機の無人機、ミサイルを発射した。イスラエル側からの報道によると、防空システム「アロー」がほぼ全ての無人機を撃ち落としたという(イスラエル軍の発表では的中率は99%)。軍事施設の一部が破壊されたほか、一人の子供が負傷したという。

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▲テルノフ空軍基地を視察したネタニヤフ首相(2024年4月11日、イスラエル首相府公式サイトから)

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▲イラン革命防衛隊のホセイン・サラミ少将「報復攻撃は予想以上に成功した」(2024年4月14日、IRNA通信から)

 「真の約束」と呼ばれるイランの今回の軍事攻撃は、今月1日、イスラエル空軍の在シリアのイラン大使館への爆発攻撃に対する報復という。同攻撃で「イラン革命防衛隊」(IRG)の准将2人と隊員5人が犠牲となった。イラン国連代表部13日、「イランの軍事攻撃は国連憲章が明記している自衛権に基づくものだ。今回の攻撃でわが国の報復攻撃は終結する」と表明している。

 一方、イスラエルのガラント国防相は「イランが本土からわが国を攻撃した場合、わが国は必ず報復する」とイラン側に警告を発している。バイデン米大統領はイスラエルの防衛に責任を持つと表明する一方、イスラエル側にイランへの報復攻撃には慎重を呼び掛けている。グテレス国連事務総長は「世界は新たに戦争する余裕はない」と指摘し、イランとイスラエル両国に対して戦争のエスカレートを避けるように求めている。

 以上、外電から14日午前までのイスラエルとイラン間の戦闘状況を整理した。イランが報復攻撃を継続するのか、イスラエル側がイラン本土への報復攻撃に乗り出すのか現時点では不明だが、一つ懸念事項がある。イスラエルがイランの核関連施設の攻撃に乗り出すのではないかということだ。

 イランは核開発を継続し、核兵器製造用の濃縮ウラン製造を進めている。国際原子力機関(IAEA)の最新報告書によれば、イランは核兵器用濃縮ウランを増産している。IAEAとイラン間の核合意はほぼ失効している。すなわち、イランは近い将来、核兵器を製造し、世界で10番目の核兵器保有国に入るのはもはや時間の問題と見られている。

 イスラエルはイランの核開発を警戒してきたから、イランが核兵器を製造するのを黙認しないだろう。核交渉ではイランの核計画をストップできないことは明らかになった。イスラエルは過去、イラン核計画の中心的人物、核物理学者モフセン・ファクリザデ氏など核開発に従事していた核物理学者を次々と暗殺する一方、核関連施設へのサイバー攻撃などを行ってきたが、十分ではなかった。そこで考えられるシナリオは、イラン中部ナタンツ、フォルドウなどの核濃縮ウラン施設やイスファハンの核施設を攻撃することだ。イスラエルは2007年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破したことがある(「『イラン核物理学者暗殺事件』」の背景」2020年11月29日参考)。

 イスラエルは絶好のチャンスを得た。イランがイスラエル本土に向けて軍事攻撃を行ったことから、イスラエル側は自衛権の行使という理由でイランの核関連施設に軍事攻撃ができるからだ。放射能が外部に漏れる危険性は排除できないが、イランの核開発をストップできる機会だ。一方、イラン側はこれまで核兵器を製造する考えはないと世界に向かって表明してきた。それだけに、イスラエル側のイラン核関連施設への攻撃の被害状況を公表しにくいだろう。

 イランの報復攻撃「真の約束」は国民や同盟国に向かって表明してきただけに必ず実行しなければならなかったが、イスラエルとの正面衝突は避けたいというのが本音だろう。換言すれば、イランはイスラエルの戦略にまんまと嵌ってしまったわけだ。

 イスラエル側は在シリアのイラン大使館内でイスラム革命部隊の幹部たちがガザ攻撃について作戦を練っていたことをキャッチし、そこで空爆した。イスラエル側にとってイラン大使館破壊は自衛権の行使ということになる。そしてイラン側が今回、自国大使館への攻撃に激怒し、本土からイスラエルへ攻撃するだろうと読んでいたのではないか。バイデン米政権もイスラエル側の意図を知っているはずだ。米国にとってもイランの核開発をストップすることは大きな課題だ。

 イスラエル側の計算通りに事が進むか、予想外の出来事が起きて、中東全域に戦争が拡散するかもしれない。世界は大きな分岐点に対峙している。

IRNA通信の「イスラエル経済解説」

 イスラエル空軍は1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館を空爆し、そこにいた「イラン革命防衛隊」(IRG)の准将2人と隊員5人を殺害した。これを受け、イラン最高指導者ハメネイ師は2日、イスラエルに対して報復を表明、軍は厳戒体制を敷いている。それ以来、イラン国営IRNA通信は激しいイスラエル批判を展開し、明日でもイスラエルとの戦闘が始まるような緊迫感が漂っている。

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▲IRNA通信が作成したイスラエル通貨シェケルの下落動向(同通信2024年04月07日から)

 もちろん、イスラエルを「宿敵」とするイラン当局の反イスラエル路線は今始まったわけではない。冷静な読者ならば、IRG司令官の英雄、カセム・ソレイマニ将軍が2020年1月、バクダッド国際空港近くで米無人機の攻撃で殺害された時、イラン全土で追悼集会が開催され、イラン当局が米国に対して報復を宣言した時を思い出すかもしれない。

 イラン当局は当時、米国批判を高め、直ぐにも対米戦争を始めるのではないかといった雰囲気があったが、さすがに世界最強国米国と一戦を交えるほどの軍事力がないことを知っていたから、対米戦争宣言は避けた。今回もイスラエルを批判するが、イラクかシリアからミサイルをイスラエルに向けて数発撃ちこんでメンツを保つのではないか。イラン聖職者政権は今年2月、イラン革命45周年を祝ったが、中東の軍事強国イスラエルとの正面衝突は躊躇せざるを得ないからだ。

 そのように考えていた時、イランIRNA国営通信が7日、「ガザ紛争でイスラエル経済が危機に陥っている」という経済記事をグラフを付けて報じたのだ。記事のタイトルはIsraeli-economy-continues-to-suffer-as-Gaza-war-drags-onだ。

 IRNA通信は「公式統計と報告書によると、イスラエルの国民経済は巨額の損失を被り、通貨シェケルの対米ドルレートが過去8年間で最低水準に達している。パレスチナのハマス抵抗運動がイスラエル占領地南部で前例のないアル・アクサ嵐作戦を開始した10月7日、シェケルは3%以上下落して3.96ドルに達し、イスラエル中央銀行は通貨変動に対処するために最大450億シェケル(114億ドル)の支出を余儀なくされた」と報じている。IRNA通信は「これはブルームバーグに語った元イスラエル中央銀行総裁カーニット・フルーグ氏の発言だ」とわざわざ断っている。イラン側のイスラエル経済への批判的解説記事だ。

 もう少し、IRNA通信のイスラエル経済記事を紹介する。

 「イスラエル中央統計局の公式統計によると、2023年第4四半期の国内総生産(GDP)が19.4%減少した。そして今年2月初旬、ムーディーズ機関はイスラエルの信用格付けをA1からA2に引き下げ、ガザ戦争による政権への重大な政治的・財政的リスクを理由に、信用見通しはマイナスとなっている。政府がガザ戦争のためにタマル・ガス田の操業を一時停止したため、エネルギー、観光、雇用、テクノロジーもすべて打撃を受けた。また、ガザからの報復ロケット弾とミサイル攻撃を受けて、ベングリオン空港の便が80%減少するなど、イスラエルを発着する外国航空便が大幅に減少している。これは観光客の減少によるもので、公式統計では昨年10月以降、観光収入が76%減少したことが記録されている。イスラエルのハポアリム銀行は、ガザ戦争の費用を見積もるのは時期尚早だと考えている。しかし、観測筋や経済アナリストらは、その代償は大きく、経済への影響は過去のどの戦争よりもはるかに苦痛であり、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響よりもさらに深刻だと考えている」

 当方はIRNA通信(英語版)を定期的に読んでいるが、イスラエル経済について上記のような解説記事に過去、読んだことがない。敵国イスラエルの国民経済の通貨危機を報じれば、「それではイラン経済はどうか」といったごく当然の質問が飛び出す懸念もあったからだろう。そしてイランの経済は残念ながらイスラエルの国民経済より厳しい。イスラエル経済はガザ戦争で大きな負担を背負っていることは間違いないが、聖職者支配政権のイランの国民経済は構造的な欠陥を抱えているのだ。

 イランの国民経済は厳しい。イランの通貨イラン・リアルの対ドル為替レートの下落に歯止めがかからない。インフレ率も久しく50%を上回ってきた。その一方イラン当局はパレスチナ自治区ガザのハマス、レバノンのイスラム根本主義組織ヒズボラ、イエメンの反体制派民兵組織フーシ派へ武器、軍事支援をし、シリアの内戦時にはロシアと共にアサド政権を擁護するなど、多くの財源を軍事活動に投入している。

 イランでは若い青年層の失業率が高く、多くの国民は「明日はよくなる」という思いが持てない。特に、ソーシャルネットワークで育った若者は、イスラム革命のイデオロギーに共感することは少ない。聖職者統治政権と国民の間の溝は更に深まっている(「イランはクレプトクラシー(盗賊政治)」2022年10月23日参考)。

 汝の敵を知れ、という狙いからIRNA通信は今回、イスラエルの国民経済の現状に目を向けて、それを厳しく批判したわけだ。次回はイランの国民経済の現状に対して客観的に分析する記事を配信してほしいものだ。

「ハマス奇襲テロ」半年後のガザ情勢

 パレスチナ自治区ガザを2007年以来実効支配しているイスラム過激テロ組織「ハマス」は昨年10月7日、イスラエル領土に侵入し、開催中の音楽祭にいたイスラエル人を片っ端から射殺し、近くのキブツ(集団農場)を襲撃しておよそ1200人のユダヤ人を殺害した。

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▲AIPAC主催の共和党米国議会代表団と会談するネタニヤフ首相(2024年04月04日、イスラエル首相府公式サイドから。写真は Amos Ben-Gershom氏撮影)

 通称「10・7奇襲テロ事件」は今月7日で半年が経過した。懸念されていたことだが、イスラエル軍とハマス間の戦闘は長期化し、人質は依然解放されず、停戦の見通しは不透明だ。ここにきてイラン、レバノンなど近隣諸国を巻き込む大戦へとエスカレートする気配が出てきた。

 イスラエルのネタニヤフ首相はハマスのテロ直後、「ハマスの壊滅」と「人質の全員解放」を目標に掲げ、ガザ地区に向けて軍事攻撃を開始した。パレスチナ側の保健当局によると、これまで3万3000人以上のパレスチナ人、主に民間人がイスラエル軍の軍事攻勢の犠牲となった。米国を含む国際社会はイスラエル側に停戦を呼び掛けてきたが、カタール政府やエジプト当局の調停にもかかわらず、イスラエル側とハマス間の停戦交渉は合意に至っていない。なお、イスラエル首相府は5日未明、米国から強く要請されてきたパレスチナ自治区ガザの人道状況の改善のため、エレズ検問所を一時的に開放する緊急措置を決定したばかりだ。

 イスラエル軍がハマスの拠点、ガザ最南部ラファに軍事攻勢を準備している中、4月1日、ガザ地区で人道支援中の国際NGO「ワールド・セントラル・キッチン」(WCK)のメンバー7人がイスラエル軍の空爆の犠牲となるという惨事が発生し、国際社会のイスラエル批判は一層高まってきた。国連は「ガザ地区の人道状況は危機的だ」と警告。イスラエル側は軍の誤爆を認め、軍の関係者を処罰するなど事態の鎮静化に乗り出した。

 ただし、事態は急変してきた。イスラエル空軍は1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館を空爆し、そこにいた「イラン革命防衛隊」(IRG)の准将2人と隊員5人を殺害した。これを受け、イラン最高指導者ハメネイ師は2日、イスラエルに対して報復を表明、軍は厳戒体制を敷いている。

 イラン軍が本格的に戦闘に参戦する危険性が出てきた。米メディアによると、イランは無人機や巡航ミサイルによる攻撃を計画しているという。イスラエル側もイラン軍の報復攻撃を予想、ネタニヤフ首相は4日、「われわれは自分たちを守る方法を知っている。われわれに危害を加える者は誰であっても、われわれは彼らに攻撃を加える」と述べている。

 イラン革命防衛隊(IRG)司令官だったカセム・ソレイマニ将軍が2020年1月、バクダッド国際空港近くで米無人機の攻撃で殺害された時、イラン全土で追悼集会が開催され、イラン当局は米国に対して報復を宣言した。実際はイランと米国の対戦といった最悪の事態は生じなかった。同じように、イラン側はレバノンの親イラン武装勢力「ヒズボラ」によるイスラエルへのミサイル攻撃を強めるだけで、イスラエル軍と正面衝突は避けるのではないか、という見方がある(「ソレイマニ司令官は英雄だったか?」2020年01月14日参考)。

 エルサレムからの情報によると、イスラエル側は全戦闘部隊の休暇を一時的に停止し、ミサイル防衛予備役の動員を発表した。軍はまた、イスラエルの全地球測位システム(GPS)を遮断した。GPS信号の遮断はミサイルやドローンなどGPS情報を使って攻撃する兵器を無力化するための処置だ。

 参考までに、ガザ戦争の停止、人道状況の改善のためにカタールとエジプト両国が紛争当事国らと交渉を展開中だ。外電によると、6週間の停戦と人質40人の解放、イスラエル側からは投獄中の約700人のパレスチナ人を釈放するという調停案だ。イスラエル側の情報では、ハマスに拉致された人質のうち、約100人は生存しているという。

 なお、テルアビブやエルサレムなどイスラエル各地で6日、人質の解放、停戦の早期合意などを求める大規模な抗議デモが開かれた。参加者らはネタニヤフ首相の退陣、早期選挙の実施などを要求している。

 以上、ガザ紛争の半年間の経緯だ。ドイツのケルン大学政治学者のトーマス・イェーガー教授は6日、「イスラエルはパレスチナでの戦闘では情報戦で守勢に立っている」と指摘している。イスラエルはアラブ・イスラム圏だけではなく、欧米諸国、特に同盟国の米国からもガザ戦闘の即停止、人道支援の改善などを強く要求されてきた。その一方、イスラエル国内では人質解放が遅れているネタニヤフ首相の退陣要求が飛び出すなど、内外両面から強い圧力を受けている。

 ガザの戦闘は半年前、ハマスの「奇襲テロ」から始まった。イスラエル側には自衛権があり、ハマスへの軍事攻撃には正当性があった。しかし、ハマスはイスラエル軍との戦いではガザ住民を人間の盾に利用するためパレスチナ人、特に女性や子供たちに多大の犠牲者が出た。その結果、圧倒的な軍事力を誇るイスラエル軍は国連を含む国際社会から批判にさらされることになったわけだ。国際社会は本来、ハマスの奇襲テロ、人質拉致を糾弾すべきだ。パレスチナ人の現在の人道的危機はハマスがもたらしたものだ。
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