ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

イスラエル

イスラエルのイラン核施設爆破計画

 「タイムズ・オブ・イスラエル」紙が19日報じたところによると、イスラエル政府が対イラン戦闘に備え約50億シェケル(15億ドル)の予算を承認した。同国防予算には、対イラン戦闘で必要なさまざまな種類の航空機、情報収集ドローン、およびそのような攻撃に必要な独自の兵器の資金が含まれているという。

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▲イラン核関連施設への爆発計画を推進するコハヴィ参謀総長(「タイムズ・オブ・イスラエル」紙電子版から)

 興味深い点は、米空軍が7月23日、新しい「バンカーバスター」であるGBU-72 Advanced 5K Penetratorのテストを実施し、成功したことを発表していることだ。同バンカー・バスターは5000ポンド(約2・27トン)の爆弾でイランの地下核施設を破壊する威力を有している。

 同紙によると、GBU-72は戦闘機または重爆撃機によって運ばれるように設計されている。イスラエルは、巨大なバンカーバスターを運ぶことができる爆撃機を保有していない。イスラエルは2009年、米国から秘かに小型のバンカーバスター爆弾GBU-28を購入したが、山の奥深くに埋もれているイランのフォルドウ核施設を貫通する能力はないと受け取られてきた。米空軍のテストは、イスラエル軍が昨年5月、ガザでハマスの地下トンネルネットワークを爆撃した際に得た経験に基づいて実施されたという。

 すなわち、イスラエルの新たな軍事費は5000ポンドのバンカーバスターの購入と運送関連費に使用されるのではないか、という推測が生まれてくる。イスラエルは着実にイランの核関連施設の破壊工作を準備しているわけだ。

 実際、イスラエル国防軍(IDF)のアヴィヴ・コハヴィ参謀総長はニュースサイトで「イスラエルはイランの核開発計画に対する行動の準備を大幅に加速」したと語っている。コハビ参謀総長は、「国防予算の大幅な増加は、この目的のためだ。それは非常に複雑な仕事であり、はるかに多くのインテリジェンス、はるかに多くの運用能力、はるかに多くの兵器を備えている。私たちはこれらすべてに取り組んでいる」と指摘している。

 同参謀総長によると、イスラエル軍は1月、対イラン戦争の作戦計画を準備し、8月に入ってイランの核開発の進展を受け「作戦計画はスピードアップされた」というのだ。

 ナフタリ・ベネット首相は9月、国連総会での演説で、「イランの核開発計画は分水嶺の瞬間を迎えた。私たちの寛容もそうだ。言葉だけでは遠心分離機の回転を止めることができない。私たちはイランが核兵器を取得することを絶対に許さない」と述べているほどだ。

 イスラエルのベニー・ガンツ国防相は8月4日、「イランは2015年7月に核合意した包括的共同行動計画(JCPOA)の内容に全て違反している。同国は10週間以内に核兵器用の核物質を生産できる」と警告している(「イランが10週間以内に核兵器取得へ」2021年8月6日参考)。

 イスラエルは、イランと国連安保常任理事国5カ国(米英仏ロ中)にドイツを含む6カ国との間で締結したJCPOAを「イスラエルの安全を脅かすもの」と受け取ってきた。トランプ前米政権が2018年5月、イラン核合意から離脱を表明したのはイスラエルの意向を汲んだ結果だ。トランプ前米大統領は、「核合意はイランの核兵器製造を阻止できないばかりか、イランはイエメン、イラク、シリア、レバノンで武力テロ勢力を支援し、中東の安全を揺るがしている」と主張してきた。

 バイデン米政権はイランが2015年7月に核合意したJCPOAに復帰することを願い、イランとの間接的な交渉を行ってきたが、イランで保守強硬派のライシ大統領が誕生し、イラン指導部で反米・反イスラエル路線が台頭してきているだけに、交渉は更に難しくなってきた。

 イランはJCPOAの核合意を一つ一つ違反してきた。同国は19年5月以来、濃縮ウラン貯蔵量の上限を超え、ウラン濃縮度も4・5%を超えるなど、核合意に違反。19年11月に入り、ナタンツ以外でもフォルドウの地下施設で濃縮ウラン活動を開始。同年12月23日、アラク重水炉の再稼働体制に入った。昨年12月、ナタンツの地下核施設(FEP)でウラン濃縮用遠心分離機を従来の旧型「IR−1」に代わって、新型遠心分離機「IR−2m」に連結した3つのカスケードを設置する計画を明らかにした。そして、今年1月1日、同国中部のフォルドウのウラン濃縮関連活動で濃縮度を20%に上げると通達。2月6日、中部イスファハンの核施設で金属ウランの製造を開始している。4月に入り、同国中部ナタンツの濃縮関連施設でウラン濃縮度が60%を超えていたことがIAEA報告書で明らかになっている、といった具合だ。なお、イラン議会は昨年12月2日、核開発を加速することを政府に義務づけた新法を可決した。

 なお、イランの国営通信(IRNA)によると、イラン議会(マジュリス)の国家安全保障および外交政策委員会のスポークスマン、マフムード・アッバスザデ・メシュキニ氏は18日、「イランに課せられた制裁解除と米国とヨーロッパによる核コミットメントの履行が核交渉を再開するための第一歩である」と述べ、「米国が制裁を解除しない限り、イランは核交渉に参加する考えはない」と、これまでの主張を繰り返している。

イスラエルとポーランドの過去問題

 イスラエルとポーランドの間でナチス・ドイツ時代の賠償問題で再び対立が先鋭化してきた。直接の契機は、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領が14日、戦時中に押収された財産や資産の賠償などを含む行政手続き法の改正法案に署名したことだ。イスラエルのラピド外相は同日、「ホロコーストの犠牲者への賠償請求を不可能とするものだ」と指摘し、ポーランドの改正法を「非道徳であり、反ユダヤ主義だ」と批判、在ワルシャワの同国大使代理を帰国させた。それに対し、ポーランド外務省は16日、イスラエルの批判を根拠のないものとして一蹴し、駐イスラエルの同国大使に帰国命令を出すなど、両国間の外交関係はここにきて急速に険悪化してきた。

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▲行政手続き改正法案に署名するポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領(ポーランド大統領府公式サイトから、2021年8月14日)

 ポーランド大統領が署名した行政手続き改正法(amendment to the Code of Administrative Proceedings)は「時効30年が経過した要件について、如何なる法的決定も下さない」というもので、ナチス時代に押収された財産、資産などの返済請求権が30年後、時効となるというものだ。イスラエル側は「ホロコーストによって犠牲となったユダヤ人の賠償請求権を失効させる狙いがある」として、ワルシャワ政府の決定を厳しく批判しているわけだ。

 ラピド外相は、「ホロコーストがイスラエル国民にとってどれだけの痛みを残しているかをポーランド側も考えるべきだ」と述べ、ポーランドの今回の決定に対し米国らと協議して対応を決めたいと強調、ポーランド側に政治的圧力をかける意向を示唆している。

 ポーランド政府は、「わが国は過去、イスラエルの政治家たちにナチス政権の責任を押し付けられ、ホロコーストの悲劇に対しても、わが国の責任を追及されてきた」と指摘し、イスラエルは間違った歴史観を持っていると反論してきた。

 ちなみに、ワルシャワ控訴院は16日、2人の著名なホロコースト研究家に対してワルシャワ地方裁判所が今年2月に下した判決を無効とした。2人の研究家は共同の著書の中でポーランドのナチス政権時代の戦争責任を指摘したが、「不正確な情報に基づく」として有罪判決を受けていた。ナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺の犠牲者を追悼するヤド・ヴァシェム(イスラエル国立記念館)関係者は、「ホロコーストを研究する者に対し、学術的、政治的圧力を行使することは受け入れられない」と厳しく批判している。

 ポーランド上院は2018年1月31日、物議を醸した「ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)に関する法案」(通称「ホロコースト法案」)を賛成57、反対23、棄権2の賛成多数で可決した。そしてアンジェイ・ドゥダ大統領の署名を受け、同改正法案は施行された。

 「ホロコースト関連法案」はユダヤ人強制収容所を「ポーランド収容所」といった呼称をつけたり、ポーランドとその国民に対し、「ナチス・ドイツ政権の戦争犯罪の共犯」と呼んだ場合、罰金刑か最高3年間の禁固刑に処す、という内容だ。

 ポーランド上院のスタニスワフ・カルチェフスキ議長は外国居住のポーランド国民宛てに書簡(3頁)を送り、その中で「反ポーランドの言動があったら、それを最寄りの大使館、領事館を通じてワルシャワに連絡してほしい」と訴えているほどだ。同議長は、「ポーランド国民はナチス・ドイツの戦争犯罪の犠牲国だ」という強い信念がある。だから、ユダヤ人強制収容所をポーランド強制収容所と呼ばれると、強い反発を覚えるわけだ。その傾向は中道右派「法と正義」(PiS)政権が発足以来、一層強まってきた。

 ちなみに、ナチス・ドイツの戦争犯罪問題について、ポーランドの立場はオーストリアに酷似している。オーストリアは戦後、一貫して「わが国はナチス政権の犠牲国だ」という立場をキープしてきたが、ワルトハイム大統領戦争犯罪容疑問題後、フラ二ツキ政権(在任1986〜96年)は、「わが国にも戦争犯罪の責任の一端がある」と修正した。そこに至るまで戦争後、半世紀余りの時間が必要だった(「ワルトハイムと民族の『苦悩』」2018年4月7日参考)。

 なお、2021年8月14日はアウシュビッツ収容所でポーランド出身のフランシスコ修道院のマクシミリアン・コルベ神父が殉教して80年目だ。収容所所長が「脱走しようとした囚人の刑罰だ」として囚人から10人を選び、餓死刑にすると言い伝えた。その時、コルベ神父は、「死ななければならない囚人の代わりに、私が死にます。私には妻も子供もいません」と申し出た。コルベ神父は餓死刑に処され、最後は毒注射で殺された。コルベ神父は47歳だった。

 同神父は1982年10月10日、故ヨハネ・パウロ2世によって聖人に列聖された。コルベ神父は「アウシュビッツの聖者」と呼ばれている(「地に落ちた一粒の麦『コルベ神父』の証」2020年8月16日参考)。コルベ神父はポーランド国民にとっても誇りだろう。

 そのコルベ神父殉教80年目の今年、ポーランドとイスラエル両国で再び過去問題が浮上し、いがみ合っている。人は忘れても、歴史は忘れることなく、当事者(国)の和解と解決を強いてくるのだろう。

イランが10週間以内に核兵器取得へ

 イスラエルのベニー・ガンツ国防相は4日、「イランは2015年7月に核合意した包括的共同行動計画(JCPOA)の内容に全て違反している。同国は10週間以内に核兵器用の核物質を生産できる」と警告した。同国防相は国連安保理事国大使たちとの会談で語った。

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▲「わが国は如何なるシナリオにも応じる用意がある」と語るイスラム革命防衛隊(IRGC)のホセイン・サラミ司令官(2021年8月4日、IRNA通信)

 イスラエルは、イランと国連安保常任理事国5カ国(米英仏ロ中)にドイツを含む6カ国との間で締結したJCPOAを「イスラエルの安全を脅かすもの」と受け取ってきた。トランプ前米政権が2018年5月、イラン核合意から離脱を表明したのはイスラエルの意向を汲んだ結果だ。トランプ前米大統領は、「核合意はイランの核兵器製造を阻止できないばかりか、イランはイエメン、イラク、シリア、レバノンで武力テロ勢力を支援し、中東の安全を揺るがしている」と主張してきた。

 実際、イランはシリア内戦では守勢だったアサド政権をロシアと共に支え、反体制派勢力やイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)を駆逐し、奪われた領土の奪還に成功。イエメンではシーア派系反政府武装組織「フーシ派」を支援し、親サウジ政権の打倒を図る一方、モザイク国家と呼ばれ、スンニ派、シーア派にキリスト教マロン派の3宗派が共存してきたレバノンでは、イランの軍事支援を受けたシーア派武装組織ヒズボラが躍進してきた。イラクではシーア派主導政府に大きな影響力を行使してきた。

 米国の核合意離脱を受けて、イランはJCPOAの核合意を一つ一つ違反してきた。同国は19年5月以来、濃縮ウラン貯蔵量の上限を超え、ウラン濃縮度も4・5%を超えるなど、核合意に違反。19年11月に入り、ナタンツ以外でもフォルドウの地下施設で濃縮ウラン活動を開始。同年12月23日、アラク重水炉の再稼働体制に入った。昨年12月、ナタンツの地下核施設(FEP)でウラン濃縮用遠心分離機を従来の旧型「IR−1」に代わって、新型遠心分離機「IR−2m」に連結した3つのカスケードを設置する計画を明らかにした。そして、今年1月1日、同国中部のフォルドゥのウラン濃縮関連活動で濃縮度を20%に上げると通達。2月6日、中部イスファハンの核施設で金属ウランの製造を開始している。4月に入り、同国中部ナタンツの濃縮関連施設でウラン濃縮度が60%を超えていたことがIAEA報告書で明らかになっている、といった具合だ。なお、イラン議会は昨年12月2日、核開発を加速することを政府に義務づけた新法を可決した

 核専門家によれば、核兵器用のウラン235のウラン濃縮度は90%以上という。イランは核兵器用の濃縮ウランを製造するのはもはや時間の問題とみて間違いないだろう。ガンツ国防相の「10週間で製造可能」という判断はかなり正確な予測といえるわけだ。

 イランの核兵器製造を目前にして、イランとイスラエル両国の争いは次第にエスカレートしてきている。中東オマーン湾を航行中のタンカー「マーサー・ストリート」号(日本企業所有、イスラエル系企業運航のタンカー)が7月29日、襲撃された事件(船員2人死亡)について、イスラエル側は「イラン武装勢力の仕業」と受け取っている。ブリンケン米国務長官は1日、「イランが爆発物を積んだ無人航空機(UAV)を使って攻撃した」とテヘランの関与を批判したばかりだ(英国の海事機関UKMTOは4日、中東オマーン湾を航行中に何者かに乗っ取られた可能性があるとされたタンカーが解放されたと明らかにしている)。なお、イラン外務省のハティブザデ報道官は2日、攻撃への関与を否定したうえで、「イランの国家安全保障に対するいかなる脅威にも迅速に対応する」と述べている。

 それに先立ち、イラン南部のブシェール原子力発電所で6月20日、「技術的な故障」が発生した。そして首都テヘラン郊外カラジにあるイラン原子力庁の核関連施設で同月23日、小型のドローン(無人機)による攻撃を受け、ウラン濃縮に必要な遠心分離機の製造施設に大きな被害が出たという。昨年11月27日にはイラン核計画の中心的人物、核物理学者モフセン・ファクリザデ氏が何者かに襲撃され、搬送された病院で死去する事件が起きている。いずれもその背後にはイスラエルのモサド(イスラエル諜報特務庁)の工作説が聞かれる。

 イランとイスラエルの軍事的なさや当ては既に始まっている。大規模な軍事衝突に発展するか否かは、今後の両国の出方次第だ。

 イランでは3日、穏健派のロウハニ大統領に代わって保守強硬派のライシ師が新大統領に就任した。同師はイラン最高指導者ハメネイ師の意向を忠実に実施する聖職者だ。ハメネイ師の後継者ともいわれる。ライシ新大統領は同日の演説で、「国民経済の立て直しに全力を投入していく、そのためにわが国への制裁を解除させなければならないが、そのために外国勢力の要求に屈する考えはない」と述べている。

 イランは、米国の支援を受けるイスラエルと軍事衝突することは避けたいところだ。問題はイスラエルの出方だ。イスラエルが単独でも軍事攻撃に乗り出す可能性が排除できないからだ。バイデン米政権はイスラエルのベネット政権を宥める一方、イラン側に核開発計画の断念を求めるといった非常に困難な課題をクリアしなければならないわけだ。明らかな点は、イランとイスラエルが軍事衝突した場合、中東全域で大きな犠牲が出る事は必至だ。イスラエルは2007年9月、シリアの完成間近だった原子炉を空爆して完全に破壊している。ベネット首相は、「必要ならば、単独でも行動する」と語っている。イスラエルは有言実行の国だ。ガンツ国防相の今回の発言を聞き流すわけにはいかない。

「ハマス」の罠にはまるな!

 イランのザリーフ外相は今月13日からスペインのマドリードを皮切りに欧州歴訪を開始した。同外相は16日、第2訪問国のイタリアのローマに到着したが、予定のウィーン訪問をキャンセルしている。理由は明確だ。オーストリア連邦首相府と外務省建物の屋上にイスラエル国旗が掲げられている時、イスラエルを最大の宿敵とするイランのザリーフ外相がその建物を訪問し、シャレンベルク外相と会談することは出来ないというわけだ。

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▲欧州歴訪で第2番目の訪問先のローマに到着したイランのザリーフ外相(イラン国営通信IRNA5月16日)

 同外相の言い分は理解できる。同外相がイスラエル国旗がたなびくウィーン外務省の建物に足を踏み入れるところをイラン国営通信IRNA記者が撮影し、テヘランに配送した場合を考えてほしい。イラン保守派聖職者、強硬派は「待ってました」といわんばかりに同外相を糾弾するだろう。外交力が高く評価されているザリーフ外相がそんな冒険を犯すことはないからだ。

 ザリーフ外相のウィーン訪問中止はウィーンで開催中のイラン核合意の復帰と米国の再加盟問題を協議中の交渉日程にも大きな影響が出てくることは避けられない。同外相がウィーン入りを拒否したことでイラン核合意の協議の行方にも不透明さが漂ってきたわけだ。

 オーストリアのクルツ首相は14日、自身の首相府の屋上にイスラエル国旗を掲げさせたことがどのような外交的影響を及ぼすかを事前に計算していただろうか。34歳のクルツ首相は「ハマスのミサイル攻撃でイスラエル国民に多くの犠牲が出ている」とし、イスラエル国民への連帯を表明するために、首相府官邸の屋上にイスラエル国旗を掲げさせた。問題はその行為がオーストリアがイスラエル支持を宣言したものと受け取られることだ。クルツ首相はイスラエル軍の反撃で多くの犠牲者が出ているガザ地区のパレスチナ人に対しては何も言及していないのだ。同首相の政策は、イスラエルを全面的に支援し、パレスチナ人の困窮に理解を示さなかったトランプ米前政権と似ている、と指摘する声が出ているほどだ。

 パレスチナを支援するトルコのイブラヒム・カリ―ン報道官は15日、ツイッターで、「ウィーンの首相府と外務省の建物の屋上にイスラエル国旗を掲げさせた行為は道徳的ではない」と批判しているほどだ。

 今回のイスラエル軍と「ハマス」の武力衝突は、東エルサレムでのパレスチナ人の動きをイスラエル軍が制限し、それに住民が反発して小競り合いとなったことが契機で始まったと言われているが、間違いだ。イスラエル軍とパレスチナ住民間の小衝突はこれまでも頻繁に起きてきたことで初めてではない。直接の原因は、パレスチナ暫定自治政府が15年ぶりに5月下旬に予定していた自治評議会選挙を延期したこと、アラブ諸国に見られだしたパレスチナ人問題への無関心に対し、「ハマス」が怒りを暴発させたからだ。「ハマス」はガザ地区に漂う閉塞感を打ち破るために、対イスラエル武装闘争に出てきたのだ。

 イスラエル軍と「ハマス」の今回の衝突は明らかに「ハマス」側に責任がある。そこから、今回の紛争の解決の道を模索すべきだ。軍事力で有利なイスラエル軍の攻撃、それに伴うパレスチナ側の膨大な被害を取り上げて、イスラエルの軍事攻勢を批判することは間違いだ。それこそ「ハマス」の狙いに嵌ることになる。「ハマス」にとって強者イスラエル軍に勝利する道はイスラエル軍の攻撃でパレスチナ側に大きな被害が出ることであり、それを国際社会にアピールすることで、イスラエルへの批判を高めることだ。

 イスラエル軍の空爆でガザ地区の国際メディアが事務所を構える建物が破壊された。AP通信もそのビルに入っていた。イスラエル側は空爆前にメディア関係者に退避するように警告している。イスラエル軍が同ビルを空爆対象としたのは、「ハマス」が国際メディア関係者が入っている建物を利用してきたからだ。ちょうど、子供や女性たちをイスラエル軍の空爆防止の盾に利用するように、「ハマス」は国際メディア関係者がたむろする同建物をイスラエル軍の空爆回避に利用してきたのだ。

 オーストリアの野党関係者はクルツ首相の「イスラエル国旗」問題について、「わが国の中立主義を無視している」と批判しているが、シャーレンベルク外相は、「わが国は中立主義国だが、テロに対しては容認しないし、静観しない」と反論している。

 今回の中東紛争で糾弾すべきは「ハマス」のテロ活動であり、イスラエル軍の応戦ではない。国際社会は「ハマス」の戦略に乗せられて、イスラエル批判の合唱を再び始めてきた。欧州の都市で15日、パレスチナ人への連帯とイスラエル軍の攻撃中止を求めるデモがロンドン、マドリード、ベルリンなどで行われた。マドリードでは2500人のデモ参加者がイスラエルとの協調を停止すべきだと呼びかけ、パリではデモ集会開催中止令にもかかわらず、親パレスチナ・グループがデモ集会を開いている、といった具合だ。

 欧州連合(EU)はガザ地区を実効支配している「ハマス」をテログループと認定している。繰り返すが、「ハマス」がイスラエルへ数千発のミサイルを撃つ行為は明らかにテロ攻撃だ。イスラエル国民だけではなく、「ハマス」に利用されているパレスチナ人もノーというべきだ。「ハマス」はテロ組織であり、パレスチナ人の権利を守る代表ではない。彼らは自身の目的を貫徹するためにパレスチナ人の女性、子供を盾に利用しているのだ。

ウィーンに「イスラエル国旗」が出現

 アルプスの小国オーストリアは冷戦時代から東西両欧州の橋渡し、調停役を演じることでその外交は注目されてきた。そのオーストリア連邦首相府の屋上に14日、同国の国旗、欧州連合(EU)の旗と共に「イスラエル国旗」が掲げられた。クルツ首相は同日、ツイッターで「イスラエル国民への連帯表明だ」と強調し、「ハマス(パレスチナのガザ地区を拠点とするイスラム過激組織)からミサイル攻撃を受け、多くのイスラエル国民が犠牲となっている」と説明した。なお、外務省建物でも同日、イスラエル国旗が屋上に掲げられた。

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▲オーストリア連邦首相府の屋上でなびく「イスラエル国旗」(左)クルツ首相の公式ツイッターから、2021年5月14日

 イスラエル国旗がオーストリア連邦首相府屋上に掲げられた写真が配信されると、「オーストリアは過去、紛争勢力間の調停外交でその名を高めてきたが、イスラエルとハマス間の紛争でイスラエル側を100%支持することで、その役割を捨ててしまった」という批判と戸惑いの声が出てきた。

 冷戦時代、オーストリアには200万人以上の政治亡命者が旧ソ連・東欧諸国から流れてきた。彼らを収容することでオーストリアは「難民収容国」と評価される一方、ケネディ米大統領とフルシチョフ・ソ連共産党第一書記の米ソ首脳会談が1961年6月、ウィーンで開催されるなど、多くの国際会議を開催してきた実績がある。クライスキー政権(1970〜83年)が中東和平の調停役を演じ、同国出身のワルトハイム国連事務総長(在任1972〜81年12月)は積極的な中東和平外交を展開し、その調停役がパレスチナ寄りとして米国やユダヤ系団体から批判を受け、国連事務総長3選の道が閉ざされてしまったほどだ。

 そのオーストリアでクルツ首相は14日、首相府の屋上にイスラエル国旗を掲げさせ、イスラエ国民への連帯表明をしたわけだ。同首相はツイッターではガザ地区でイスラエルの軍事攻撃で亡くなったパレスチナ人については一度も言及していない。野党側からは、「クルツ首相はトランプ前米政権のイスラエル完全支持路線を継承している」と冷笑を受けている。ちなみに、オーストリア通信(APA)によると、チェコやスロバキアでもイスラエルへの連帯表明としてイスラエル国旗が掲げられているという。

 イスラエル軍とハマスとの紛争の直接きっかけは、ハマス側からのミサイル攻撃だ。ただし、軍事力で圧倒するイスラエル軍の反撃を受け、ガザ地区で多数のパレスチナ人が犠牲となっている。そのニュースが報じられると、いつものように、欧州各地でイスラエルの軍事攻勢を批判する声が高まった。抗議デモのエスカレートを恐れたフランスではパレスチナ系住民の抗議デモ集会開催を禁止。オーストリアやドイツはイスラエル大使館やシナゴーグ(ユダヤ教会堂)の警備を強化し、イスラム過激派テログループの襲撃を警戒している、といった有様だ。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、「ハマスの軍事拠点を徹底的に破壊する」と宣言、地上攻撃を開始する姿勢を崩していない。それに対し、イスラエル国内でもユダヤ系国民ばかりか、アラブ系国民の中に政府の軍事攻撃を批判する声が高まってきた。事態のエスカレートを恐れたエジプトや米国はイスラエルに紛争の調停を申し込んでいるが、イスラエル側は拒否したという。

 そのような状況下で、クルツ首相が早々とイスラエル支持を表明し、イスラエル国民への連帯を明らかにしたことから、ウィーンを中心に居住するパレスチナ系住民のコミュニティで不満と反発が高まっている。内務省は抗議デモの過激化、暴発事件を警戒している。オーストリア国営放送(ORF)の著名な外交問題専門家、ファイファー記者は、「イスラエル国旗の掲揚はわが国の中東外交での橋渡し役を失うことになる」と警告している。また「オーストリアの中立主義に反する」と指摘する意見も出ている。

 普段は冷静なクルツ首相がなぜ突然イスラエル国旗を首相府や外務省の屋上に掲げさせたのか、という疑問が出てくる。考えられる点は、.ルツ首相がイビザ問題調査委員会で偽証容疑で追及されている。そこでメディアの関心を逸らせるため、イスラエルの国旗掲揚といったパフォーマンスを演じた、▲丱ぅ妊麒涜臈領とロシアのプーチン大統領との首脳会談の開催地争いで米国側の支持を得るため、クルツ首相は3月4日、デンマークのフレデリクセン首相と共にイスラエルを訪問し、新型コロナウイルスへのワクチン接種を進めるネタ二ヤフ首相と会談したばかりだ。ちなみに、ネタニヤフ首相は国旗の件でクルツ首相に感謝を伝えている。両首相はうまがあうのだ。

 いずれにしても、「パレスチナ人問題」でクルツ首相が今回、イスラエル側支持を明確にしたことから、オーストリアの中東外交はその歴史を閉じることになるかもしれない。

「ビビ王」のイスラエル王国の行方

 イスラエル議会(クネセト)選挙の投開票が9日実施された。現地からの情報によれば、ネタニヤフ首相が率いる与党右派「リクード」とガンツ元軍参謀総長の中道政党連合「青と白」が熾烈なトップ争いを展開し、集計がほぼ終了した段階で両党とも定数120議席中、35議席を獲得した。安定政権を樹立するためには61議席が必要だが、リクードを中心とした右派政党の連立政権発足が有利とみられている。そのため、ネタニヤフ首相は10日未明、テルアビブのリクード集会で勝利宣言をしている。リクードは占領地ヨルダン川西岸の入植者らが結集している極右派の「統一右派」などとの連立を視野に入れている。

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▲ドキュメンタリーフィルム「キング・ビビ」のポスター

 ネタニヤフ首相は1996年から99年、そして2009年から現在まで10年間、通算13年間、政権を維持している。次期政権(任期4年)が発足できれば、文字通りイスラエル最長政権となる。

 ネタニヤフ首相主導の右派政権の継続が濃厚となったので、独週刊誌シュピーゲル(3月9日号)が掲載した同首相の人物像を報告する。タイトルは「国王の頭の中で」(Im Kopf des Koenigs)だ。シュピーゲル記者はネタニヤフ首相を「インターネット時代が生み出した最初の大衆迎合政治家」と呼び、首相は自身の歩みを英雄物語のように演出してきたという。

 イスラエルの映画監督ダン・シャドゥア(Dan Shadur)氏がネタニヤフ首相の歩みを「King Bibi」というタイトルでドキュメンタリー映画を製作した。映画は同国の民間放送で既に放映され、選挙戦中ということもあって大きな反響をもたらした。ネタニヤフ首相は汚職と腐敗の容疑を受け、検察当局から捜査の手が伸びてきているが、国民ばかりか政敵からも「Bibi」という愛称で呼ばれてきた。

 ネタニヤフ首相はイスラエル建国後に生まれて政権を担当した最初の首相だ。そのカリスマ性とポピュリズムは国民を惹きつけてきた。1950、60年代のイスラエルの政界では左翼が支配していたこともあって、急進的な思考の持ち主だった父親ベンシオンのネタニヤフ家は米国に移住し、そこで3人の息子を育てた。米国の大学で教鞭をとっていた父親は次男のベンヤミンを見るたびに、「息子Benのヘブライ語は英語のようには流ちょうでなく、アクセントがある」と不満を吐露していたという。それでも英語を流ちょうに話すネタニヤフ首相は世俗派のユダヤ人だけではなく、伝統的なオーソドックスのユダヤ人社会でも人気があった。兄のヨナタンはイスラエルのエリート部隊に所属し、1976年のエンテべ空港奇襲作戦に参加し、そこで戦死したことはベンヤミンのその後の生き方に大きな影響を与えたといわれている。


 ダン・シャドゥア監督によれば、ネタニヤフ首相は、祖国の未来を含め全ての出来事は自身のドラマの題材と受け取っているという。彼は左翼、テロリスト、ジャーナリストから常に狙われ、批判されている一方、「自分だけがイスラエルを砂漠から導くことができる唯一の指導者だ」という思いが強いという。フィルムの中で「あなたは孤独ではないか」と聞かれた時、ネタニヤフ首相は「20世紀の偉大な指導者の中で孤独でなかった者はいない」と答えている。ひょっとしたら、ネタニヤフ首相は自身を60万人のイスラエル民族をエジプトから神の福地カナンへと導いたモーセのように受け取っているのかもしれない。

 トランプ米大統領が就任して以来、オバマ政権時代に疎遠となっていた米・イスラエル関係は急速に接近してきた。トランプ氏はエルサレムを首都とし、テルアビブから米国大使館を移転する一方、イスラエルの懸念を受け入れ、13年間の外交交渉で締結されたイランの核合意から脱退を表明。それだけではない。イスラエル議会選挙中にネタニヤフ首相を支援する狙いもあって、イスラエルが1967年の第3次中東戦争で占領したゴラン高原のイスラエル主権を認知する宣言に署名したばかりだ。トランプ大統領から全面支援を受けるネタニヤフ首相が敗北した場合、イスラエルの行方に懸念が出てくるといった声すら有権者から聞かれたほどだ。

 ネタニヤフ首相(69)とトランプ大統領(72)は共に3度結婚している。前者はモスクワを訪問してプーチン大統領と会談し、トランプ氏はハノイで北朝鮮の指導者・金正恩氏と会談。帰国すれば、両者は国内のメディアから批判にさらされるなど、両者には酷似している世界が少なくない。

 エルサレムでネタニヤフ首相はトランプ大統領の家族を招いて交流しているが、「まるでネタニヤフ・トランプ両家の集い」(シュピーゲル誌)のような雰囲気があったという。両者は家族ぐるみの付き合いをしている。ちなみに、米国居住のリベラルなユダヤ人はネタニヤフ首相が大好きだが、首相がトランプ大統領と親密な関係であることには不満があるという。

 ネタニヤフ首相はマサチューセッツ工科大学(MIT)でメディアのコンピューター化に関するマスター論文を書いている。彼は早い時期からインターネットを政治に利用してきた。彼はその点でイスラエルの政界の中で最も先見の明があったといわれている。

 シャドゥア監督は、「ネタニヤフには敵が必要だ。明らかなことは彼が首相になって以来、イスラエルが戦争に巻き込まれる回数は他の政権時代より、少なくなったことだ。彼は実際の戦争を避けるために戦闘的なレトリックを駆使する。ネタニヤフ政権のこれまでの実績は、イスラエルを経済的に豊かにし、安全にしたことだ」と評価している。

 イスラエル史を振り返ると、サウル、ダビデ、ソロモンの3王の統一王国時代があった。イスラエルが栄えた時代だったが、その後、南北に分かれた王国は消滅し、民族は放浪の民となる。「キング・ビビ」と呼ばれるネタニヤフ首相は次期政権を発足し、さらに繁栄したイスラエルの国家建設を成し遂げるだろうか。それとも、ソロモン王後のイスラエルの歴史のように、苦難の道を行くだろうか。ビビ王(ネタニヤフ首相)の前にはパレスチナ民族との和平共存という未解決の課題が控えている。

「赤の商人」中国がイスラエルに接近

 「われわれは5000年の歴史を誇る。あなたがたイスラエルは3500年の歴史を持っている。それに比べると米国は200年余りの歴史しかない」

 中国のビジネスマンがイスラエルを訪問し、商談する時、必ずと言っていいほど上記のセリフを吐くという。自国を誇り、商売相手のイスラエルを称賛する一方、米国を軽蔑する時の常套セリフという。海外中国反体制派メディア「大紀元」(11月23日)が報じていた。

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▲中国の通貨紙幣「人民元」(深セン・香港の観光旅行生活情報局の公式サイトから)

 大紀元によると、中国はイスラエルにも進出し、その先端科学技術を修得しようと虎視眈々と狙っている。それを読んで「商売上手なユダヤ人が中国のビジネスマンの甘い言葉に騙されるわけがないだろう」と思ったが、中国の上海国際湾務がイスラル最大の港湾ハイファ湾の一部運営権を25年契約で締結したという。そして別の中国企業がイスラエル南部アシュドッドに新たな港の建設契約を計画しているという。

 中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」(One Belt, One Road)構想に積極的に参加するギリシャ政府が2016年4月、同国最大の湾岸都市ピレウスのコンテナ権益を中国の国営海運会社コスコ(中国遠洋運輸公司)に売却したように、イスラエル側も中国側が提供する巨額な商談に屈服したのだろうか。世界の金融界に君臨するユダヤ人商魂が中国企業の不透明な商談攻勢にやられたのだろうか。

 大紀元によると、世界の第2のシリコンバレーといわれるイスラエルに中国が接近し、イスラエル企業が保有している先端技術の企業機密を盗み取っているという。具体的には、医療用レーザー技術で知られるアルマレーザー社、医療技術ルメニス社、画像認識開発コルティカ社を含め、多くの技術企業の株式を取得している。中国側の対イスラエル投資総額は2016年は1615憶米ドルにもなるという。「中国のファーウェイ(華為)、レノボ(聯想)、シャオミ(小米)はイスラエルに研究開発センターを設置し、電子商取引大手アリババも大規模な投資を行っている」(大紀元)という。

 米経済誌フォーブス(電子版)は3月1日、「イスラエルのスタートアップへの中国企業の出資額は年々、上昇を遂げている」と報告し「アリババはイスラエルのデータ分析企業『SQream Technologies』に2000万ドルを出資した。また、中国のヘルスケア企業は1000万ドルの投資ファンドを組成し、イスラエルの医療関連企業への出資を行おうとしている」という。中国企業がイスラエル市場で活発な動きを見せているわけだ。

 米トランプ政権は中国の不公平な貿易取引、強制的な技術移転、知的財産盗用に対し対中経済制裁に乗り出して対抗中だ。そこで中国側は親米国のイスラエルに接近し、先端科学技術関連企業を買収し、その知的所有権を奪おうと画策しているわけだ。

 中国側の札束攻勢にイスラエル側が安易に屈服するとは思えない。2000年の亡命の歴史を経ながらも生き延びてきたユダヤ人の商魂は「赤の商人」の中国実業家にも負けない知恵と体験を持っているはずだ。

 もちろん、「商いの世界」では多くの資金を持っている側が基本的には有利だ。「赤の商人」の攻勢に対し、「ユダヤ商人」はどのように対応するだろうか、とても興味深い。

 米国ばかりか、ドイツなど欧州でも中国企業の買収や知的所有権の乱用に対し厳しい監視の目が注がれ出した。ドイツ政府は欧州連合(EU)域外の企業がドイツ企業に投資する場合、これまでは出資比率が25%に達した場合、政府が介入できる規制を実施してきたが、その出資比率を15%を超える場合に政府が介入できるように、規制を更に強化する方向で乗り出している。ズバリ、中国企業のドイツ企業買収を阻止する対策だ。イスラエル企業でも次第に中国マネーに警戒心が生まれてきている。いずれにしても、中国のイスラエル接近には目を離せられない。

新法「ユダヤ人国家宣言」の波紋

 イスラエル国会(クネセト)は19日、長時間の審議後、「わが国はユダヤ人国家であり、ユダヤ人に唯一の民族自決権がある」と宣言した「国民国家法」を賛成62、反対55の僅差で可決した。同国には一般の憲法はなく、基本法がその役割を果たしている。新法は基本法と見なされる。なお、新法に批判的なレウベン・リブリン大統領は、「新法は世界とイスラエルでユダヤ民族を傷つけることになる」と警告を発している。

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▲イスラエルの「国旗」(ウィキぺディアから)

 同法の採択が伝わると、予想されたことだが、世界各地から批判の声が挙がっている。 アラブ系のアフマド・ティビ議員は、「新法はイスラエルの民主主義の死を意味する」と主張、「新法によってイスラエルに2グループの国民ができる。権利を有するユダヤ人と単に迎えられているゲストの2通りの国民だ」と述べている。

 以下、新法に対する批判点をまとめる。

 .ぅ好薀┘襪錬隠坑苅固の建国時、「宗教、人種、性別に関わらず全ての国民が平等な社会的、政治的権利を有する」という内容の独立宣言を表明したが、今回の法案は明らかにその独立精神と一致しない。イスラエルはもはや「全ての国民の国家」ではなくなった。
 同国人口の約20%(約180万人)を占めるアラブ系のアラブ語は公用語から外され、「特別な地位」という曖昧な立場に降格させられた。アラブ系少数派から「人種差別、アパルトヘイト(人種隔離政策)だ」といった強い批判が出ている。
 E譽┘襯汽譽爐魎泙燹崚一エルサレム」をイスラエルの首都と認定し、イスラエルを「ユダヤ人の歴史的な国土」と明記している。
 ぁ屮罐瀬篆容植の拡大」について、奨励すべき価値ある国家プロジェクトとして支持を表明している。

 バチカン・ニュースは20日、イスラエルの新法「国民国家法」について「議論を呼んでいる」と述べ、イスラエル国内ばかりか世界でも賛否両論が出ていると報じた。

 また、海外の有力なユダヤ人協会、約17万5000人の会員を有する「米国ユダヤ人協会」(AJC)は新法を批判し、「建国精神からかけ離れ、行き過ぎた内容」と深い失望を表明し、「イスラエルは建国精神を思い出せ」とアピールしている。特に、アラブ語を公用語から外した決定に対し、「イスラエル周辺の政情を考えると、国民の5分の1を占めるアラブ系住民のアラブ語は非常に重要だ」と述べている。

 イスラエルで5月14日、建国70年の記念式典や行事が挙行されたばかりだ。エルサレムでは米国大使館がテルアビブからエルサレムに移転した式典が約800人のゲストを迎え行われた。同時期、イスラエルのパレスチナ自治区で米大使館のエルサレム移転に抗議するパレスチナ人や市民のデモが行われ、それを取り締まる治安部隊と衝突し、ガザ地区だけでも2014年の紛争以来最大の犠牲者数を出している(「イスラエルの70年は成功したか」2018年5月16日参考)。


 イスラエルを取り巻く政治情勢は安定からは程遠い。そのような状況下でクネセトが「ユダヤ人国家の宣言」を可決したわけだ。火に油を注ぐような冒険だ。イスラエル国内で新法に反対する国民のデモ集会が行われ、参加者は「われわれユダヤ人とアラブ人は敵対することを拒否する」と書かれたプラカードを掲げていたという(オーストリア日刊紙プレッセ)。

オスマン・トルコのアルメニア人大虐殺

 イスラエル国会(クネセト)で、オスマン・トルコ帝国軍による大量アルメニア人殺害を民族大虐殺(ジェノサイド)と認知する法案が提出され、審議される予定だ。イスラエルのメディア報道によると、中道左派政党「シオニスト連合」のイッズィク・シュムリ(Itzik Shmuli )議員がアルメニア人虐殺問題について、「明らかにトルコ側の民族虐殺だ。その責任はトルコ側にある」と表明し、「民族虐殺の日」を設定して毎年追悼する内容の法案を提出する意向を明らかにしている。バチカン放送電子版が19日、報じた。

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▲オスマン帝国軍の武装兵により追い立てられるアルメニア人(1915年4月、ウィキぺディアから)

 50万人から150万人と推定される犠牲者が出た「アルメニア人ジェノサイド」と呼ばれる大量殺害事件は、19世紀末から20世紀初頭にかけオスマン帝国の少数民族だったアルメニア人が強制移住させられ、殺害された事件を指す。

 トルコ側はアルメニア人の虐殺はあったが、その数は少なく、ジェノサイドではなかったという立場だ。だから、他の国がアルメニア人問題を提出すれば、激しく反論してきた経緯がある。トルコ側は事件の計画性、組織性についてはこれまで一貫して否定してきた。
 シュムリ議員の提案は政権与党リクードばかりか野党からも賛同の声が聞かれ、少なくとも50人の議員が支持を表明している。シュムリ議員はイスラエルのメディアに対し、「わが国を中傷、誹謗するトルコに対し配慮する必要はない」と強気だ。ユーリ・ヨエール・エーデルシュタイン国会議長は同議員の提案する法案がスムーズに可決されるように努力することを約束している。

 ところで、なぜイスラエルはここにきてオスマン・トルコ帝国軍のアルメニア人虐殺事件を持ち出し、トルコに歴史攻勢を仕掛けてきたのだろうか。少し説明しなければならないだろう。

 イスラエル政府は先日、同国駐在のトルコ大使の国外退去を要請したばかりだ。すなわち、イスラエルとトルコ両国関係は今、険悪な状態にあるのだ。
 トランプ米大統領は昨年12月6日、イスラエルの同国大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると表明、今月14日、移転式典がエルサレムで挙行されたばかりだ。エルサレムを自身の「聖地」と宣言してきたパレスチナ人たちが米国大統領の決定に抵抗し、ヨルダン西岸地区やガザ地区で反イスラエル、反米抗議デモ集会を連日、開催。ガザ地区だけでも60人を超えるパレスチナ人が犠牲となり、数千人が負傷した。抗議デモは今も続けられている。

 それに対し、“イスラム教国の指導者”を任じるトルコのエルドアン大統領はイスラエルを「テロ国家」と断言し、米国とイスラエル両国に駐在する同国大使を帰国させる一方、トルコ駐在のイスラエル大使に退去を要請。その上で「イスラエル軍の大虐殺」を糾弾するためにイスラム協力機構(OIC)の緊急会議の招集を要求したばかりだ。エルドアン大統領の反イスラエル路線は、6月実施予定の大統領選、総選挙を見込んだ選挙運動の一環と受け取られている。

 トルコ側のイスラエル批判に対し、ネタニヤフ首相やイスラエル政治家はトルコの歴史の汚点といわれる「アルメニア人ジェノサイド」を歴史書から引き出し、歴史攻撃に出てきたわけだ。

 興味深い点は、イスラエル国会は3カ月前、中道政党「イェシュ・アティッド」のヤイール・ラピッド(Yair Lapid)元財務相 が同じアルメニア虐殺を認知する内容の法案を提出したが、却下している。ツィピ・ホトベリ外務副大臣は当時、「イスラエルはアルメニア人大虐殺問題には公式の立場を表明しない。なぜならば、複雑な外交上の問題が表面化する危険性があるからだ」と説明していた。
 イスラエルのルーベン・リブリン大統領は2015年4月26日、アルメニア大虐殺100年の追悼会をゲストを招いて開いたことがあった。同大統領は、「アルメニア人は近代史で最初の大虐殺の犠牲者だった」と述べたが、ジェノサイドという言葉は避けている。イスラエルはつい最近までトルコのアルメニア人虐殺問題については自制する姿勢を貫いてきたわけだ。

 それが劇変したのだ。いい悪いは別にして、歴史評価はその時々の政情の影響を受け、どのようにも見直しができるという典型的な例だろう。蛇足だが、政権や政情が変わっても韓国は日本に対し「正しい歴史認識」を要求し続けてきた。日韓の歴史問題は世界史的にみてかなり特殊ケースといえるかもしれない。

 ちなみに、ドイツ連邦議会(下院)は2016年6月2日、1915年のアルメニア人虐殺事件を「ジェノサイド」と認定する非難決議を賛成多数で採択したが、その時もトルコ側から激しい反論が飛び出したことはまだ記憶に新しい。

ああ、パレスチナ、パレスチナよ

 イスラエルは今月、建国70年を迎えたが、パレスチナ自治区のガザ地区に拠点を置くハマス(イスラム根本主義組織)は3月30日以来、70年前のイスラエル建国で追放されたパレスチナ人難民の帰還を要求する抗議デモを呼び掛けてきた。デモ集会を取り締まるイスラエル側との衝突でガザ地区だけでも既に60人以上が死去、数千人が負傷している。犠牲者数では2014年のガザ紛争以来の規模だ。

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▲ウィーン国連で掲揚されたパレスチナ国旗(2015年10月12日、ウィーンの国連広場で撮影)

 ガザ地区でイスラエルの治安部隊に追われるパレスチナ人の姿が放映される。その場面を見ていて不思議に感じたことがあった。怪我した幼児を抱えて父親らしい男性が逃げ惑っている場面が映し出された時だ。抗議デモ集会にどうして幼児がいるのか。治安部隊との衝突で怪我する危険性がある場所に幼児をわざわざ連れ出してデモに参加する親がいるだろうか、という疑問だ。

 オーストリア代表紙「プレッセ」の記事(5月16日付)を読んで分かった。危険な場所に幼児を連れだし、逃げ惑う場面をメディアに流すことが狙いだったからだ。親はハマスから報酬を受け取っているというのだ。

 ハマスはイスラム側の壁を突破するために若者たちを集め、壁に設置された監視カメラを壊すよう、けしかける。もちろん、ここでも報酬を払う。一方、壁に近づいてきたパレスチナ人に対し、イスラエル側は警告を発する共に、必要な場合、襲撃する。壁が壊され、パレスチナのテロリストがイスラエル領内に侵入するのを防ぐための「防衛手段だ」(イスラエル側の主張)というのだ。

 トルコのエルドアン大統領はイスラエルを「テロ国家」と断言し、米国とイスラエル両国に駐在する同国大使を帰国させる一方、トルコ駐在のイスラエル大使に退去を要請。その上で「イスラエル軍の大虐殺」を糾弾するためにイスラム協力機構(OIC)の緊急会議の招集を要求したばかりだ。
 エルドアン大統領自身は国内のクルド人を弾圧するためにトルコ軍を出動させ、多くのクルド人を殺害してきたが、同大統領はそんなことは都合よく忘れて、パレスチナ人の保護者のように振舞う。
 トルコで6月24日、大統領選と国会総選挙が前倒しで実施されるが、エルドアン大統領の最近の言動は全て選挙向けだ。パレスチナ人の権利を擁護し、OIC緊急会議を招集することで、イスラム教諸国の指導者としてのイメージ作りというわけだ。

 アラブ諸国は過去、パレスチナ側に被害が出るとイスラエルを激しく批判してきた。アラブ連盟の大使級会合が16日、エジプトのカイロで開催された。そこでは米国大使館のエルサレム移転への批判と共に、パレスチナへの支援継続で一致したが、加盟国の対イスラエル政策には明らかに温度差がある。

 サウジのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子は米国のトランプ政権から支援を受けるイスラエルへの批判を避け出してきた。イスラエルがシリアのイラン軍基地を攻撃した時には密かに歓迎するなど、スンニ派の盟主サウジの第一の敵はもはやイスラエルではなく、シーア大国イランだからだ。また、エジプトとハマスとの関係もここにきて冷えてきている。

 中東・北アフリカ諸国で“アラブの春”(民主化運動)が勃発して以来、汎アラブ主義は後退し、アラブ諸国ではパレスチナ問題への関心が薄れてきた。外交的にはパレスチナ人の権利を擁護するが、パレスチナ人のために国益を無視しても支援するアラブ諸国は少なくなってきた。全ては“自国ファースト”だ。

 イスラエルとパレスチナは2国家共存で一致していたが、国家建設で不可欠な国境線の設定の見通しはない。エルサレムの地位問題、難民帰還問題、入植地問題、イスラエルの安全保障問題など主要課題は未解決だ。トランプ大統領が今月14日にエルサレムに米国大使館を移転させたことで、「米国は中東問題の中立的調停役の立場から離れた」(アッバス議長)と受け取られている。

 世界最大の収容所と呼ばれるガザ地区に住むパレスチナ人は未来への希望はなく、自由に移動する権利すら奪われている。多くのアラブ諸国はパレスチナ問題をイスラエル批判の武器として利用するだけだ。パレスチナの中でもハマスと自治政府のアッバス議長らファタハとの間で権力争いが絶えない。ああ、パレスチナ、パレスチナよ!
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