ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

中国

中国産レアアース依存を打破せよ

 トランプ米大統領を冷笑する意図や考えもないことを先ず断っておきたい。トランプ氏は1月20日、第47代大統領の就任式を終えた後、大量の大統領令に署名してきた。その署名の度に世界は喜んだり、悲しんだり、怒ったり、首を傾げたりしてきた。トランプ氏は自分の言動に関心がある世界の人々を飽きさせない才能の持ち主だ。

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▲ドイツ鉱物資源庁の公式サイト

 そのトランプ氏が目下関心ある不動産物件は3件だ。世界最大の島、デンマーク領土のグリーン島、ウクライナ、そしてパレスチナ自治区ガザの3件だ。グリーン島にはレアアース(希土類金属)など豊富な地下資源が埋蔵しているといわれる。ウクライナの場合も鉱物資源だ。トランプ氏はウクライナとの停戦交渉では埋蔵されているレアアースの採掘に関連した取引きをキーウ側に持ち掛けている。中東ではイスラエル軍の攻撃で破壊されたパレスチナ自治区ガザからパレスチナ人を隣国のヨルダンやエジプトに移住させ、その後、ガザ区を世界的なリゾート地域に開発する計画を有している、といった具合いだ。

 グリーン島、ウクライナ、ガザ区の3件を羅列すると、トランプ氏はやはり不動産業界出身者だと痛感せざるを得ない。その土地の価値を臭覚で判断できるのだ。それらの土地に埋蔵されている地下資源に熱い関心がある。ただそれだけならば、トランプ氏は政治家の仮面を被った利権を漁るビジネスマンに過ぎない。トランプ氏には別の政治的な計算が働いているのだ。グリーン島やウクライナの2件ではズバリ、レアアースの開発だ。中国が世界のレアアース市場を支配していることに、米国は国家安全への危機感を持っているのだ。

 ちなみに、レアアース金属とは、17種類の金属の総称であり、その中には9種類の重希土類金属と8種類の軽希土類金属が含まれる。これらは「戦略的資源」に分類されており、経済的に重要である一方、供給リスクも高い。金属そのものは必ずしも希少ではないが、大規模な埋蔵量を持つ鉱床は少ない。

 レアアースはスマートフォン、電気自動車、最新の兵器システムなどに欠かせられない。特に深刻なのは重希土類金属の供給だ。これらは自動車産業だけでなく、米国の防衛産業にも不可欠な素材だ。現状では、重希土類金属は100%中国から供給されており、中国で採掘されるか、少なくとも精製されている。

 オーストリア国営放送は13日、「レアアース、中国の支配は続く」というタイトルでドイツ鉱物資源庁(DERA)の研究結果を報告している。以下、その記事の概要を紹介する。

「DERAが13日に発表した研究によると、世界が中国に依存し続ける状況は当面変わらない。その理由は、現在のレアアース金属の世界市場価格が低迷していることだ。現在、レアアースを採掘・加工しているすべての企業が経済的な問題を抱えている。中国企業も例外ではない。そのため、他国での新たな採掘プロジェクトの実施が難しくなっている。さらに、中国以外の地域では、採掘や加工に必要なインフラが不足している。中国の場合、豊富なレアアース資源を持つだけでなく、長年にわたる大規模な政府投資によって原材料の精製ネットワークを築いてきた。さらに、この分野で必要な技術に関する特許を多数保有している。DERAの専門家によると、電気自動車のバッテリー、スマートフォン、風力発電機などに使われるレアアースの需要は今後大幅に増加する見込みだ。ちなみに、DERAの研究によると、2023年の世界のレアアース金属生産量の約60%が中国によるものだった。精製加工においては中国のシェアは93%に達している」

「デンマーク・グリーンランド地質調査所(GEUS)の推定によると、島内には3,610万トンのレアアース金属が埋蔵されている。しかし、米国地質調査所(USGS)によると、そのうち実際に採掘可能な量は約150万トンに過ぎない。これは、中国(4,400万トンの軽希土類・重希土類金属)やブラジル(2,100万トン)の埋蔵量と比べると、かなり控えめな数字だ。グリーンランドでは現在レアアースの採掘は行われていない。2021年にグリーンランド政府がウラン採掘を禁止したことで、中国が支援するレアアース開発プロジェクトも頓挫した。また、ウクライナにも複数のレアアース鉱床があるが、今のところ採掘はされていない。ウクライナでは、ザポリージャ、ドネツク、ドブラ周辺の地域には大量のレアアースが埋蔵されていると推定されているが、これらの地域はロシアが占領しているか、その周辺に位置している」

 なお、中国政府は2010年の尖閣諸島をめぐる対立の中で、日本へのレアアース輸出を一時的に停止した。これは、日本のハイテク産業に大きな影響を与え、中国がレアアースを政治的手段として利用した最初の実例となった。

「教皇の現実主義」は中国では通用しない

 ローマ・カトリック教会の総本山バチカンと中国共産党政権は22日、両国間の司教任命権に関する暫定合意を4年間延長すると発表した。バチカンと中国政府は2018年9月に司教任命の手続きに関する暫定合意を締結したが、同合意は2年間の有効期限が設定されており、2020年と2022年にこれまで2回延長されてきた。そして今回、両者はその有効期限を倍の4年間に延長することで合意した。なお、この合意の正確な内容は引き続き非公開となっている。

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▲2018年、中国河北省にある村の教会の写真(バチカンニュース独語版2024年10月22日から)

 バチカンは同日、「中国国内におけるカトリック教会の利益と、中国国民全体の幸福を見据えた二国間関係の発展を目的とし、中国側と尊重的で建設的な対話を継続していく」と強調している。バチカンは毛沢東が1951年、バチカンの最後の外交官を国外追放して以来、中国とは国交関係がない一方、台湾とは外交関係を維持している。なお、中国外務省は両国関係の正常化の主要条件として、�|羚馥眄�への不干渉��台湾との外交関係断絶―の2点を挙げてきた。

 中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ教皇ではなく、中国共産政権と一体化した「中国天主教愛国会」が行い、国家がそれを承認してきた。一方、ローマ教皇に信仰の拠点を置く地下教会の聖職者、信者たちは弾圧され、尋問を受け、拘束されてきた。その期間が長く続いた。

 バチカンは司教任命権を主張し、「天主教愛国会」任命聖職者の公認を久しく拒否したが、2018年9月22日、中国側の強い要請を受けて、愛国会出身の司教をバチカン側が追認する形で合意した。暫定合意(ad experimentum)はバチカン側の譲歩を意味し、中国国内の地下教会の聖職者から大きな失望の声が飛び出した経緯がある(「バチカンが共産主義に甘い理由」2020年10月3日参考)。

 バチカンと中国共産党政権間の暫定合意の延長は今夏頃から囁かれていたが、これまでの2年間の延長ではなく、4年間と延長期限を倍にしたわけだ。すなわち、4年間が終わる2028年には暫定合意が10年目を迎えることから、バチカンと中国側は暫定合意から「暫定」を削除して、正式合意とする交渉が既に出来上がっているのではないか。

 フランシスコ教皇は9月13日、中国側との対話について、「私は中国との対話に満足しており、その結果は良い。特に司教の任命についても、私たちは善意を持って協力している」と満足を表している。それに対し、欧米諸国では中国の人権蹂躙、民主運動の弾圧などを挙げ、中国批判が高まっている時だけに、バチカンの中国共産党政権への対応の甘さを指摘する声が絶えない。

 それを意識してか、バチカンの情報サービス「フィデス」は「事実に基づいてみると、教皇の判断はキリスト教的な現実主義の結果だ」と分析している。なぜならば、フランシスコ教皇の言葉を正しく評価するためには、いくつかの最近の事実を把握する必要があるというのだ。

 既に、9月のコラムで記述した内容だが、2018年9月22日、暫定合意が署名されて以来、中国側の全てのカトリック司教は教皇と完全で公然とした階層的な交わりがあり、1950年代後半から中国のカトリック教徒の間で深刻な亀裂を生じさせてきた不法な司教叙階はない。過去6年間で、中国では9人の新しいカトリック司教が叙階された。同期間、中国の政府機関の手続き外で叙階された8人の「非公式」司教も北京の政治当局からその承認を得た。

 2018年と2023年には、中国から2人の司教がローマで行われた司教会議に参加した。これまで数十年にわたり、中国本土の司教が第二バチカン公会議や司教会議の総会に参加することはできなかった。また、中国本土のカトリック教徒のグループがリスボンで行われた世界青年の日に参加した。中国の巡礼者たちは、タイ、モンゴル、シンガポールでの使徒的訪問中に、ローマで教皇と会った。数名の中国司教はヨーロッパやアメリカでの会合や会議、教会の交わりの場にも参加した。要するに、何十年もの間、分裂していた教会共同体内で和解のプロセスが見られ出したというのだ。

 過去2年間で問題が生じなかったわけではない。2023年4月にジョセフ・シェン・ビン司教が政府当局の命令で上海に移されたことがあった。しかし、3カ月後、フランシスコ教皇はシェン・ビンを上海司教に任命し、海門司教区から転任させることでこの問題を解決した。5月21日、シェン・ビン司教は、教皇庁立ウルバニアナ大学で行われた「最初の中国会議(1924−2024)」100周年記念会議で、教皇庁国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿とともに講演者の一人を務めた。これは、中国人司教がバチカン主催のイベントで講演者として参加した初めての機会だった。最近では、周村教区の司教であるジョセフ・ヤン・ヨンチャン司教の杭州教区への移動は問題なく行われた。これは、司教の転任についても聖座と北京の間で確立された対話のプロセスが機能していることを示す(以上、バチカンニュース独語版から)。

 ちなみに、バチカンのナンバー2、国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は2018年2月、イタリア代表紙ラ・スタンパとのインタビューの中で、「バチカンは中国の国家機関の改革を要求する考えはない。大切な点は信仰だ。バチカンは中国共産党政権といつまでも対立関係を続けていくことはできない」と述べたことがある。バチカン側は中国共産党政権に対するフランシスコ教皇の現実主義を擁護しているが、暫定合意で問題が生じた場合、バチカン側が最初に譲歩し、中国側の決定を受け入れることで問題を解決してきたパターンがほとんどだ。逆ではない。中国の地下教会の聖職者たちが心配する点はそこだ。

 中国共産党政権の習近平国家主席は2012年に権力を掌握した後、「宗教の中国化推進5カ年計画」(2018〜2022年)を実施した。「宗教の中国化」とは、宗教を中国共産党の指導の下、中国化すること(同化政策)だ。それは新疆ウイグル自治区(イスラム教)で実行されている。100万人以上のイスラム教徒が強制収容所に送られ、そこで同化教育を受けている。キリスト教会に対しては官製聖職者組織「天主教愛国会」を通じて、キリスト教会の中国化を進めている。中国共産党政権との対話では、‘キリスト教的な現実主義’がいつまでも通用することはないのだ。

中国人の児童殺傷事件スイスでも発生

 中国南部の深センで先月18日、日本人学校に通う10歳の男子児童が刃物で襲われ死亡した事件が起き、中国在住の日本人家庭に大きな衝撃を投じているが、欧州のアルプスの小国スイスでも1日正午ごろ、スイス最大の都市チューリッヒ市北部エリコン地区の住宅街があるベルニナ通りで中国人男性による児童刺傷事件が起きた。

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▲上川陽子外相(当時)は中国の王毅外相とニューヨークで会談し、日本人児童殺傷事件の事実解明を要請(2024年9月23日、日本外務省公式サイトから)

 まず、スイス公共放送の2日発のニュースレターから事件の概要を紹介する。

 「チューリヒ市北部で1日午後、路上を歩いていた幼稚園児の集団に男がナイフのようなもので切りつけ、子供3人が負傷した。チューリヒ市警察は中国人の男(23)を逮捕した。チューリヒ市警察によると、けがをしたのはいずれも5歳児。1人は重傷で、残り2人は中程度のけがを負い、病院に搬送された。園児は学童施設のスタッフに連れられて、現場近くの幼稚園から学童施設に徒歩で移動途中だった。学童施設のスタッフが別の男性の助けを借りて男を取り押さえた。逮捕された男が園児や学童施設と関係があるかは不明。警察が詳しい動機を調べている」

 「サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙」は同日、「スイスで刺傷事件が起きるのは極めてまれで、子供が巻き込まれる場合はさらに珍しい。襲撃は外国人の居住許可を扱う入国管理局に近い、並木のある静かな住宅街で起きた」と報じている。

 上記のチューリッヒの刺傷事件は先月の日本人児童殺傷事件と似ている。容疑者が中国人男性、狙われたのは幼稚園児、容疑者はナイフで児童を襲ったという点だ。異なるのはチューリッヒの場合、容疑者は23歳、中国の殺傷事件の場合、容疑者は44歳だったことだ。

 問題は犯行動機だが、深センの場合、中国側の発表では「事件は偶発的で、容疑者が単独で行なった」というが、詳細な内容は不明だ。チューリッヒの場合、目下調査中だ。NHKによると、深センの場合、亡くなった児童の両親は父親が日本人、母親は日本に帰化した中国人女性だ。

 「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」によれば、「中国では最近、人が多く集まる場所などでの刃物による事件が相次いでいる」という。NHKは先月20日、「ことし6月には東部の江蘇省蘇州で日本人学校のスクールバスが、刃物を持った男に襲われ、日本人の親子がけがをし、男を止めようとした中国人女性が死亡する事件が起きていることから、現地で生活する日本人の間で安全への不安が高まっている」という。

 犯行の容疑者が中国人男性、襲われたのが児童、という共通点を持つ事件が短期間に相次いで発生したことから、何らかの推測や結論を付けることは危険であるが、その衝撃は無視できない。なぜ中国人男性が異国の児童を狙ったのかだ。

 さまざまなメディアが既に様々な分析をしているが、以下、これまで報じられた情報をまとめてみる。

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 多くの場合、こうした事件の加害者は精神的な問題を抱えていたり、社会から孤立していることがある。中国の急速な経済発展は大きな社会的変化をもたらし、一部の人々にとってはストレスや疎外感が増している。過去のケースでは、こうした暴力的なナイフ襲撃を行った人物は、個人的な不満、失業、あるいは精神的不安定さが原因で事件を引き起こしている。

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 これらの事件が直接的に政治的な動機に関連しているという明確な証拠はないが、中国国内で高まるナショナリズムや、他国(特に日本)との緊張関係が間接的にこうした暴力を助長している可能性がある。

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 中国では厳しい銃規制があるため、ナイフが暴力行為を行おうとする人にとって最も手に入りやすい武器となっている。そのため、銃が手に入りやすい国と比較して、ナイフによる殺傷事件が多発していることが一因だ。

 「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」紙は、「中国国内でナショナリズムが高まっていることに対する懸念はあるが、中国政府は、殺傷事件が外国人に対する広範な反感を反映したものではないと強調している」と報じている。ちなみに、スイス最大の政党である極右「国民党」はソーシャルメディアでこの事件に言及し、「輸入犯罪にうんざりしているなら、国境を守るための嘆願書に署名してください」と、ナイフを持った両手の写真も添えた記事を投稿している。スイスの極右政党はチーリッヒの児童刺傷事件を移民問題と関連して受け取っていることが分かる。

中国とバチカン「暫定合意」3度目の延長

 バチカン教皇庁は年内にも中国共産党政権との間で締結した司教任命権に関する暫定合意をさらに2年間延長する予定だ。フランシスコ教皇は13日、中国との対話について、「満足している。結果は良好で、司教の任命に関しても、善意をもって協力している」と述べている。

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▲中国のイエズス会とのインタビューの中で、訪中の希望を吐露したフランシスコ教皇(バチカンニュース2024年8月9日から) 

 中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ教皇ではなく、中国共産政権と一体化した「中国天主教愛国会」が行い、国家がそれを承認してきた。一方、ローマ教皇に信仰の拠点を置く地下教会の聖職者、信者たちは弾圧され、尋問を受け、拘束されてきた。その期間が長く続いた。

 バチカンは司教任命権を主張し、「天主教愛国会」任命聖職者の公認を久しく拒否したが、2018年9月22日、中国側の強い要請を受けて、愛国会出身の司教をバチカン側が追認する形で合意した。暫定合意(ad experimentum)はバチカン側の譲歩を意味し、中国国内の地下教会の聖職者から大きな失望の声が飛び出した(「バチカンが共産主義に甘い理由」2020年10月3日参考)。

 その後、バチカンと中国共産党政権は2020年9月に暫定合意の延長を決定し、22年に再度延長した。欧米諸国では中国の人権蹂躙、民主運動の弾圧などを挙げ、中国批判が高まっている時だけに、バチカンの中国共産党政権への対応の甘さを批判する声が聞かれた。

 バチカンは中国共産党政権とは国交を樹立していない。中国外務省は両国関係の正常化の主要条件として、�|羚馥眄�への不干渉、��台湾との外交関係断絶、の2点を挙げてきた。ちなみに、バチカンは台湾と1942年以来、 外交関係を樹立している数少ない国だ。

 バチカンは過去、中国のカトリック教会が「愛国会」所属と地下教会に分裂していることを憂慮し、その克服のために腐心してきた。バチカンのナンバー2、国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は2018年2月、イタリア代表紙ラ・スタンパとのインタビューの中で、「バチカンは中国の国家機関の改革を要求する考えはない。大切な点は信仰だ。地下教会信者たちを犠牲にする考えはない。ただし、バチカンは中国共産党政権といつまでも対立関係を続けていくことはできない」と述べ、中国との間でなんらかの解決を模索していることを示唆していた。ちなみに、愛国会に所属する信者、聖職者は約600万人と推定されている一方、ローマに忠実な地下教会の信者、聖職者数も600万人ぐらいと見られている。

 ところで、バチカンニュース(独語版)は15日、フランシスコ教皇の「中国との対話に満足している」という発言に対し、「キリスト教的現実主義の表れ」と解釈し、バチカンと中国共産党政権間の暫定合意への批判に反論を呈し、暫定合意後のバチカンと中国共産党政権との歩みを紹介している。

 暫定合意以降、�|羚颪離�トリック教会の全ての司教はローマ教皇と完全に一体化し、教皇の合意なしでの司教叙階はなくなり、1950年以降、愛国会系とバチカン系の教会信者間の分裂も解除されてきた、��過去6年間で中国では9人の新しいカトリック司教が叙階された。同期間中に、過去に中国当局が定めた手続き外で叙階された「非公式」の司教8人も北京の政治当局から承認された、�C羚颪�ら2018年と2023年に2人の司教がローマで行われた司教会議に参加した。そのほか、中国本土からカトリック信徒のグループがリスボンでの世界青年の日に参加し、教皇と直接対面した。また、複数の中国の司教がヨーロッパやアメリカでの会議や教会の共同体の集いに参加する機会も得た、等々だ。

 バチカンニュースは最後に、「政治的および社会的にさまざまな制約があるにもかかわらず、中国の教会生活は通常通り続いている。長年の不確実性と分裂の後、安定を取り戻した教区もあり、その変化は聖座と政府当局との対話によってもたらされた」と総括し、暫定合意の意義を強調している。

 フランシスコ教皇は、中国のイエズス会士とのインタビューで、中国を訪問したい意向を表明し、中国で司教や神の民に会いたいとも述べ、「彼らは多くの困難を乗り越え、忠実であり続けている。中国の全ての人々は忍耐の名人であり、彼らは希望のウイルスを持っており、それはとても美しいことだ」と語っている(バチカンニュース2024年8月9日)。

 なお、パロリン枢機卿は「教皇は確かに中国を訪問する準備ができているし、訪問を望んでいるが、今のところ、教皇の願いを実現する条件が整っているとは思えない」と指摘、近い将来のフランシスコ教皇の北京訪問はないと述べている。

 バチカンが忘れてはならない点は、中国共産党政権の習近平国家主席は2012年に権力を掌握した後、「宗教の中国化推進5カ年計画」(2018〜2022年)を実施してきたことだ。「宗教の中国化」とは、宗教を完全に撲滅することは難しいと判断し、宗教を中国共産党の指導の下、中国化すること(同化政策)が狙いだ。それは新疆ウイグル自治区(イスラム教)で実行されている。100万人以上のイスラム教徒が強制収容所に送られ、そこで同化教育を受けている。キリスト教会に対しては官製聖職者組織「天主教愛国会」を通じて、キリスト教会の中国化を進めている。フランシスコ教皇は中国共産党政権の正体を見誤ってはならない。中国の為政者たちは時が満ちればその本性を現すからだ。

紛争地域で活発化する中国「調停外交」

 バイデン米政権は、2021年8月末、アフガンから米軍を撤退させたのを皮切りに海外での米国の外交プレゼンスを弱体させてきた。その隙間をついて中国共産党政権は紛争地域での調停外交を活発化し、特に、中東での存在感を高めてきた。

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▲王毅外相とパレスチナの14グループ代表との記念写真(2024年7月23日、中国政府外交部公式サイトから)

 ロシアが2022年2月、ウクライナに侵攻して以来、欧米諸国はロシアに対して経済制裁などを実施し、プーチン大統領の野望阻止に全力を投入してきたが、戦争は2年半が経過した今も停戦の見通しは見えない。ロシアと同盟関係の中国はウクライナ戦争の調停役を演じ、キーウとモスクワ間の停戦を呼び掛けている(「中国発『ウクライナ和平案』12項目」2023年2月25日参考)。

 ウクライナ側は中国がロシアに先端軍事技術を供与するなどモスクワを軍事支援していることは知っているが、ロシアの軍事侵略を阻止するためには中国の関与が不可欠となってきた。そこでウクライナのクレバ外相は24日、訪中し玉毅外相と初めて対面会談したばかりだ。

 クレバ外相の訪中は中国の調停外交の成果として、北京では報じられた。中国側の報道によると、王外相はウクライナ側にロシアとの政治的解決を助言したという。中国はウクライナ側の厳しい状況を利用し、ウクライナ戦争での調停役を演じているわけだ。

 それだけではない。中国は23日、イスラエルとパレスチナ自治区ガザで戦闘中のハマス(イスラム過激派テロ組織)を含む14のパレスチナグループの代表を北京に招待し、イスラエルとハマスとの戦争の早期停戦を協議すると共に、パレスチナ民族の分裂を回避し、統合を促進させる内容を明記した「北京宣言」の署名式を行っている。特に、ガザを実効支配してきた「ハマス」とヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府を主導するPLO主流派「ファタハ」が中国の後押しを受け、 パレスチナの統合政府を樹立することで一致した。これは中国の中東外交の勝利として受け取られている。

 ちなみに、ハマスとファタハがパレスチナで統合政府の設置で一致したというニュースに対し、「ハマスの壊滅」を掲げるイスラエル側は「ハマスが参画した如何なるパレスチナ政府も容認しない」と強い反発の声が聞かれる。

 なお、中国はイスラエルとの関係を損なわないために、イスラエルの軍事攻勢に対して直接の批判を避けている。中国はハマスの昨年10月7日のイスラエル奇襲テロに対してハマスを批判することは同じように避けてきた。中国は、ハマスをイスラエルや米国が主張するような「テロ組織」ではなく、民族解放運動と受け取っている。

 ところで、中国の中東外交で世界を驚かせたのは、イスラム教のライバル、スンニ派の盟主サウジアラビアとシーア派の代表イランの宿敵関係を接近させ、関係正常化の路線を開いたことだ。

 サウジにはイランが中東の覇権を奪い、ペルシャ湾から紅海までその勢力圏に入れるのではないか、という不安が強かった。サウジのムハンマド皇太子は米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューの中でイランへの融和政策の危険性を警告し、イランの精神的指導者ハメネイ師を「中東の新しいヒトラー」と酷評した。そのサウジは当時、イスラエルに急接近していった。両国の“共通の敵”イランの存在があったからだ(「サウジとイスラエルが急接近」2017年11月26日参考)。

 しかし、サウジとイスラエル両国の関係改善が遅々として進まない中、サウジは中国の仲介を受けて宿敵イランとの関係正常化に乗り出してきた。両国は2023年3月、両国関係の正常化で合意したが、その背後には中国の仲介が大きく関与している。サウジとイランの関係改善は中東地域における地政学上の大きな変化をもたらした。同時に、中国は中東地域での存在感を急速に高める契機となった。

 サウジ・イラン両国合意は、一般的にはイスラム世界にとってグッドニュースだが、イスラエルは「深刻で危険な動き」と受け取られている。イランの核開発計画を阻止するためにサウジやエジプトなどスンニ派諸国と「反イラン包囲網」を構築してきたイスラエルにとっては大きな外交的後退となったからだ。

 以上、中国は米国が世界の警察国家の役割から降りて以降、「一帯一路」構想で大経済・貿易網を構築する一方、中東外交、ウクライナ戦争の調停役など、外交では着実にその覇権主義を広げている。次期米大統領が誰になるとしても、米国は民主国家の代表として中国共産党独裁国家の調停外交にフリーハンドを与えてはならない。

 参考までに、訪米中のネタニヤフ首相は24日、米議会で演説し、「ガザの戦争はイスラエルの戦争だけではなく、米国の戦争でもある」と主張し、米国の中東での役割を喚起させた。なお、議会演説ではハリス副大統領は選挙集会のため欠席したほか、約50人の民主党議員はイスラエルのガザへの軍事攻勢への批判から、ネタニヤフ首相の演説をボイコットした。米政界はイスラエル政策で分裂していることが改めて明らかになった。

習近平国家主席「サッカー王国」目指す

 ドイツで開催中のサッカーの欧州選手権(ユーロ2024)は9日からいよいよ準決勝に入る。スペイン対フランス戦、そして10日は英国対オランダ戦だ。4チームのどの国が勝利してもおかしくはない。欧州のサッカーの強豪国チームがグループ戦と本戦のKO戦を乗り越えて準決勝戦までたどり着いたわけだ。

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▲熱烈なサッカーファンの習近平国家主席(2022年3月7日、中国人民共和国国務院公式サイトから、写真は新華社)

 ホスト国ドイツはスペイン戦で1対2で惜敗したが、ドイツ国内のサッカー熱は燃え続けている。ドイツチームはユリアン・ナーゲルスマン監督のもと若手を中心に次第に結束し、実力をつけてきた。次期のサッカー・ワールドカップ(W杯)を目指していく。ドイツが往年のサッカー王国に復活する日もそう遠くはないだろう。

 独週刊誌シュピーゲル(2024年6月29日号)には「ユーロ2024」関連の記事が多いが、その中に興味深いニュースがあった。「ユーロ2024」の主要スポンサーは13社だが、そのうち5社は中国企業だというのだ。中国大手企業「阿里巴巴集団(アリババグループ)」が運営する海外向けの通販サイトAliExpressとその金融関連企業が提供する決算サービスのAlipay、 IT部品や自動車事業を扱うBYD、総合家電メーカーのハイセンス(Hisense)、そしてスマートフォンメーカーのVivoの5社だ。ホスト国ドイツの企業は3社しか主要スポンサーとなっていない。なお、中国企業がどれくらいのスポンサー契約金を支払っているかは不明だ。ホスト国ドイツもUEFA(欧州サッカー連盟)も公開していないが、スポンサーからの総収入は推定5億6800万ユーロといわれている。

 ところで、「ユーロ2024年」は欧州のサッカー選手権であり、中国チームはもちろん参加していない。にもかかわらず、中国企業がスポンサーとして顔見せしているのだ。それも5社も主要スポンサーとなっている。その理由の一つは、中国の最高指導者習近平国家主席がサッカー好きだからだという。同主席が2012年に中国共産党政権のトップに就任して以来、卓球王国の中国でサッカーが広がっていった。

 中国には一応サッカーリーグが存在する。スーパー・リーグだ。UEFAの国別ラインキングでは中国のサッカーは世界88位だ。中国のナショナルチームがW杯に参加できるまでにはまだ多くの年数がかかるだろう。

 習近平主席は2050年までに中国でW杯大会を開催し、優勝することを目標に置いている。それゆえ、中国人選手のサッカーのレベルアップのため、欧州各地から多くのサッカー選手を高額の契約金でスカウトしている。

 シュピーゲル誌には2017年に訪独中の習近平主席夫妻がドイツのメルケル首相(当時)と一緒に子供たちのサッカーチームと撮影した写真が掲載されている。メルケル首相は現職時代11回も中国を訪問している。輸出国ドイツ企業の中国市場進出を後押しするためだが、ドイツ企業の製品を紹介するだけではなく、ドイツのナショナルスポーツともいうべきサッカーを中国に輸出していたのかもしれない。その意味で、中国のサッカー熱の影の功労者はメルケル氏ともいえる。

 シュピーゲル誌にはドイツのナショナルチームのキャップテン、イルカイ・ギュンドアン(FCバルセロナ所属)の実兄がドイツで中国語学科に学び、現在、中国とサッカーに関連した博士論文をまとめているという話を紹介していた。ギュンドアン主将はトルコ人の親を持つドイツ生まれの選手であり、兄は中国語学科を学ぶ学者の道を歩みだしている。ドイツと中国の間にはサッカーを通じてさまざまな繋がりがあるわけだ。

 中国共産党政権はサッカーをスポーツというより、政治、ビジネスのための手段と見ている。中国国内のサッカー人口は少数派だが、中国企業が「ユーロ2024」のスポンサーになる背景には、サッカーの持つ潜在的な人気をビジネスに利用したいという狙いがあるのだろう。UEFAによると、「ユーロ2024」のイベントの波及効果は世界50億人を超えるという。中国企業が世界的な企業に成長するためのイメージ作戦にとってサッカー欧州選手権は絶好のチャンスというわけだ。

 考えてみてほしい。中国大手の決算サービス社Alipayが欧州で開催される「ユーロ2024」のスポンサーになるメリットは何だろうか。欧州国民がAlipayのAPPを通じてを支払いをするだろうか。

 中国の経済体制は需要と供給の関係で動く市場経済システムではなく、国家がまず目標を立案し、作成された計画(例5か年計画)に基づいて運営される経済社会だ。欧米諸国の市場経済は短期戦ではその強みを発揮するが、長期戦となれば計画経済システムが地力を表すこともある。ひょっとしたら、2050年までには習近平主席の進軍ラッパのもと中国サッカー界は黄金期を迎えるかもしれない。

中国政府は難民条約第33条を守れ

 中国国内には北朝鮮から脱北した人々が安全な地への亡命のために潜伏しているが、中国当局は脱北者を摘発すると北朝鮮に強制送還している。韓国統一省の具炳杉報道官は昨年10月、「韓国政府は、いかなる状況においても、在外北朝鮮人を本人の意思に反して強制送還してはならないという立場を取っている。意思に反する強制送還は、国際規範のノン・ルフールマン原則に反する」と述べ、中国政府の違法な強制送還に対し、遺憾の意を表明している。

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▲朝鮮人民軍空軍司令部を視察 した金正恩総書記と娘のジュエ氏(北朝鮮の月刊画報「朝鮮」から)

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の難民条約によれば、「締結国は迫害の危険がある国へ難民を送還してはならない」というノン・ルフ―ルマン原則(ルフ―ルマンは仏語で送還を意味)がある。このノン・ルフ―ルマンは難民保護の土台だ。ノン・ルフールマン原則は、難民申請者にも適応される。難民申請者(庇護希望者)は難民認知の不可が明確になるまで送還されてはならない。

 UNHCRの難民の地位に関する1951年の条約、難民条約33条(1)によると、「締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない」と明記している。

 ちなみに、ノン・ルフールマン原則が適応できない例外もある。難民の滞在国の安全に非常に深刻な危険が伴う場合と殺人、強姦、武装強盗など特に重大な犯罪について有罪が確定している場合だ。ただし、そのような例外であっても「適正な手続きがなされる必要があり、送還により拷問などの相当な危険につながる状況があってはならない」と記述されている。

 それに対し、中国政府は「中国には脱北者と呼ばれる人間は存在しない。北からの大多数の入国者は経済難民だ」として、難民条約33条(1)には該当しないと弁明している。すなわち、中国から強制送還された脱北者には帰国しても命の危険や迫害はないというわけだ。

 中国共産党政権は北朝鮮が金正恩総書記下の独裁国家であることを知らないはずがない。北朝鮮を「地上の天国」と考えていることはないだろう。中国は北朝鮮当局との合意に基づき脱北者を送還しているだけだ。実際、人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)」は「脱北者の多くは女性で、送還後に投獄されたり、性暴力を受けたり、殺される可能性がある」と指摘している。

 国連の北朝鮮の人権特別報告者であるエリザベス・サーモン氏は昨年、2014年の国連人権理事会の勧告を再確認し、北朝鮮政府とその指導者を人権犯罪で国際刑事裁判所(ICC)に引き渡すべきだと主張している。金正恩氏の罪状といえば、数十万人の政治犯の収容、海外派遣労働者の搾取、不法麻薬取引、「信教の自由」の蹂躙、女性の権利はく奪など多方面に及ぶ。北朝鮮は国自体が大きな刑務所だといわれているほどだ。その国から脱出して自由を求める北朝鮮国民が増えてきているのだ(「金正恩総書記をICCに引き渡しを」2024年5月5日参考)。

 中国当局から北朝鮮に強制送還された脱北者の数は不明だが、BBCは昨年10月14日、「中国の情報筋は、夜に数百人がトラックに乗せられ、収容施設から北朝鮮に送られたと報じた」と報告している。また、HRWは、「北朝鮮が昨年8月に国境を解放して以降、脱北者の強制送還への懸念が高まっている。2021年7月以来、170人近くが強制送還されたことが確認されている」という。また、「強制送還された人々が、強制労働キャンプに収容される深刻な危険性がある。拷問や処刑の可能性もある」と述べている。

 当方は2015年8月14日、中国・上海経由で2008年、韓国に亡命した脱北者の朴正玉女史(Jongok Park)とインタビューする機会があった。同女史は現在、韓国の「北朝鮮のための正義」(JFNK)という非政府機関(NGO)に所属し、北朝鮮の人権弾圧などを訴える活動を行っている。朴正玉女史は1954年、北朝鮮・咸興市生まれ。当時の亡命動機について、「1999年はわが国は飢餓カタストロフィーの状況下にあった。路上には多数の死体が転がっていた。彼らは飢えで亡くなったのだ。夫は既に亡くなっていたので、飢餓から逃れるため一人娘を連れて中国の親戚を頼って亡命した」という。中国での生活は「いつ中国の治安部隊に摘発され、北側に送還されるかといった恐怖から解放されることがなかった」という。しかし、2002年、中国治安部員によって発見され、北に即強制送還された。北では治安関係者から激しい拷問を受けた。長時間、同じ姿勢で立つように強いられるなど、拷問を受けたという(「中国は脱北者の強制送還中止せよ」2015年8月16日参考)。

 朴正玉女史の話は9年前のことだ。中国政府は今年に入っても脱北者を強制送還し続けている。どれほどの多くの脱北者が犠牲となったかを中国政府は考えるべきだ。国際法上の「ノン・ルフ―ルマン原則」の堅持は締結国の義務だ。

中露首脳会談で保留された3つの問題

 ロシアのプーチン大統領は16日から2日間の日程で中国を訪問し、習近平国家主席と首脳会談をし、中露両国の関係強化などをうたった共同声明に署名するなど、それなりの成果を挙げてモスクワに帰国した。プーチン氏にとって通算5期目の最初の外遊地に中国を選んだのは、中国との関係がロシアにとって不可欠の関係となってきたからだ。

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▲会談後、共同声明に署名したプーチン大統領と習近平国家主席(2024年5月16日、北京で、クレムリン公式サイトから)

 ところで、モスクワから流れてくる情報によると、プーチン大統領と習近平国家主席との首脳会談では未解決問題として残された3つのテーマがあるという。以下、その3点を紹介しながら、「永遠の兄弟」と謳った両国関係の舞台裏をちょっと覗いてみた。

 �|羚颪肇蹈轡⇔捷餞屬遼念廚漏菷�な動きを見せている。その主因はロシアが2022年2月、ウクライナに軍事侵攻して以来、欧米諸国からの経済制裁を受け、必要な先端機材を欧州から輸入できなくなったため、中国から密かに輸入する一方、天然ガスや原油の地下資源を欧州諸国から中国に移動して、輸出してきたからだ。ロイター通信は今年1月、「 中国税関総署が公表した統計によると、2023年の中国とロシアの貿易総額は過去最高の2400億ドルだった」と報じている。

 問題は中国側から出てきた。貿易決算をどのようにするか、どの銀行が両国貿易の決算の窓口となるかだ。中国の大手銀行はロシアとの貿易決算が明らかになると、米国や欧州諸国から制裁され、国際取引から追放される危険性が出てくることから、躊躇しているといわれているのだ。

 中国側の不安はロシアと北朝鮮との貿易取引でも表面化している問題だ。米国情報当局者らによると、ロシアは、ロシアの金融機関に預けられている北朝鮮の凍結資産3000万ドルのうち900万ドルの放出を許可しただけではなく、北朝鮮がロシアの地方銀行に口座を開くことを承認するなど、金融分野でも北側を支援している。その結果、北側はロシア国内で開いた銀行口座を利用して貿易取引が可能となる道が開かれた、というのだ。果たして、中国の大手銀行が欧米の制裁の危険を冒してまで、中露貿易の取引に関与するかは不明だ(「中国『金正恩氏のロシアへの傾斜』懸念」2024年3月26日参考)。

 �▲好ぅ垢罵莊遑隠菊�〜16日、ウクライナ戦争の平和的解決を目指す「ウクライナ和平サミット」が開催される予定だ。スイスの和平サミット会議の開催案は、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で、ウクライナのゼレンスキー大統領が要請したことがきっかけで、スイスとウクライナが共同発表した。

 問題は参加国だ。特に、ロシアのウクライナ侵攻で中立的な立場を取っている有力国をサミット会議に引っ張りだすことだ。第一は中国だ。そしてインド、南アフリカ、サウジアラビア、ブラジルなど「グローバル・サウス」が続く。ロシアが参加するのは非現実的だが、中国の参加は現時点ではまだ流動的だ。

 中国はこれまで正式には欠席も参加も表明していない。プーチン氏としては訪中で習近平主席から「スイスのサミット会議には参加しない」という言質を取りたかったはずだが、ロシアと中国のメディアから判断すると、成功しなかったようだ。

 ��プーチン大統領は中国に天然ガスや原油をもっと輸入してほしい。そのために「第2のパイプライン建設」を北京側に打診してきたが、これまでのところ北京からはいい返事が来ない。中国側は「ロシアの地下資源をこれ以上輸入すれば、エネルギーをロシアに依存することになる」と警戒しているという。ロシアは昨年、サウジアラビアを抜き、中国にとって最大の原油輸入元になった。

 北京の懸念は欧州のドイツを思い出せば理解できる。ロシアからバルト海峡を経由してドイツに天然ガスを送るパイプライン「ノルド・ストリーム2」は2021年秋に完成したが、ウクライナ戦争が起きたことから、ロシアからのエネルギー依存はドイツばかりか欧州の安全保障にもマイナスだという判断から、米国はショルツ独政府に「ノルド・ストリーム2」の操業開始を断念するように圧力を行使。ショルツ首相は「ノルド・ストリーム2の操業開始を停止する」と公表している。

 北京側はドイツのエネルギー政策を学習し、ロシアからの安価なガスをどんどん輸入していけば、第2のドイツのようになってしまう、という判断が働いているのだろう。今回、プーチン大統領の訪中団にはロシア国営エネルギー「ガスプロム」(Gazprom)関係者は入っていなかった。ということは、中露間の「第2のパイプライン建設」案は現時点では保留されているとみて間違いないだろう。

 以上、中露首脳会談の舞台裏を振り返ると、「永遠の兄弟」の中露間はけっして良好な関係とはいえないわけだ。中国側はウクライナ戦争で経済的にも窮地のロシアとの交渉では巧みに相手の譲歩を得る作戦に出てきている。西側では、ロシアは中国の「ジュニアパートナー」といった表現さえ聞かれるが、それだけではない。口の悪いジャーナリストは「中国にとってロシアは安価なガスや原油が手に入る給油所(ガスステーション)に過ぎない」と揶揄しているのだ。

ロシアは中国のジュニアパートナーに

 ロシアのプーチン大統領は7日、通算5期目の就任式を終え、最初の外遊先を中国と決め、16日から17日の2日間の日程で訪中した。初日の16日、プーチン氏は中国の習近平国家主席と北京人民大会堂で首脳会談を行い、両国間の関係深化を明記した合意文書に署名した。両首脳間の詳細な会談内容については公表されていないが、3年目に入ったウクライナ戦争の対応、中東問題などのトピックスの他、両国間の経済関係、軍事関係の強化が主要議題だっただろう。ロシアは中国から西側の制裁で入手できない半導体などの機材や武器を、中国側はロシアから天然ガス、原油などの地下資源のほか、ロシアの軍事、武器システムに強い関心を有していることは知られている。

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▲プーチン大統領を迎える中国の習近平国家主席(2024年5月16日、クレムリン公式サイトから)


 北京からの時事通信電によると、プーチン大統領は16日、北京で大規模交流行事「中露文化年」開幕を記念するコンサートで演説し、中国と国交を樹立した1949年当時にソ連で作られた歌の一節を引用し、「中露は永遠の兄弟」と述べたという。ソ連時代を含み、ロシアと中国は共産主義国として通称「兄弟国」と呼ばれてきた。兄はロシア、弟は中国といった兄弟関係が久しく続いた。

 両国関係は時代と共に少しづつ変わってきた。ロシアが発展途上の中国を軍事・経済両面で支援する関係が続いたが、中国の国民経済が世界第2の経済大国となってからは中露関係にも変化が出てきた。ロシアが軍事大国、中国が経済大国としてそれぞれ自国の得意とする分野で相互支援する関係となった。

 その関係が激変したのはやはりウクライナ戦争の勃発後だ。ロシアは国際社会からの制裁下、戦争経済体制を敷き、不足する武器や先端科学器材を中国経由で入手するようになってから、力関係で中国が上位となってきた。欧州の政治学者は「ロシアは中国のジュニアパートナーになってしまった」と指摘するほどだ。ロシアが中国を凌ぐ分野は核関連技術や軍事開発分野だけだというのだ。「永遠の兄弟」の中露パートナーシップも質的変化を遂げたわけだ。

 ロシアと中国両国は独裁専制主義、反民主主義国という点で共通している。そして両国関係を強固にしている要因はアンチ西側だ。ただ、中国の場合、国民経済の発展のためには欧米諸国との経済関係が不可欠だ。だから、欧米世界からの制裁を懸念して、ウクライナ戦争ではロシアを全面的支援することを巧みに避けてきた。

 中国共産党政権は「世界の平和実現のために国際貢献をする用意がある」と、中国外交を吹聴するが、紛争国とは常に一定の距離を置いている。ウクライナ戦争では独自の和平案を作成して仲介に乗り出す姿勢を示し、中東紛争では等距離外交に腐心している。中国外交が具体的な成果が乏しいのは、北京政府の軸が国益重視にあるから、掛け声とは異なり、中途半端な外交になってしまうからだ。

 米国、オーストラリア、日韓は中国が台湾に軍事攻勢を仕掛けるのではないかと懸念している。3期目の任期に突入した習近平主席としては歴史に残る「台湾再統合」という夢を実現したいところだろが、世界最大の軍事大国米国を敵に回す結果となる軍事的冒険に乗り出す決意はまだ固まっていない。換言すれば、今年11月の大統領選挙の結果待ちだろう。

 バイデン政権の継続かトランプ氏のホワイトハウスカムバックかでは中国側の対応もやはり変わらざるを得ないからだ。バイデン民主党政権の場合、次の一手が予測可能だが、トランプ第2次政権の場合、数年先どころか明日も分からないといった不安が一蹴できない。米国と貿易問題で対立している中国は、制裁を恐れ、どうしても外交では慎重にならざるを得ないわけだ。

 ロシアはウクライナに侵攻する一方、旧ソ連共和国だった地域への軍事介入を密かに進めている。中国共産党政権は長期の視点から世界制覇を夢見ている。だから、中国は必要ならば欧米諸国に譲歩したり、妥協もする。一方、プーチン大統領は西側諸国への譲歩は基本的にできない。頑固だからではない。プーチン帝国のナラティブの舞台は旧ソ連世界どまりだからだ。

 いずれにしても、ロシアでは遅くとも2036年にはポスト・プーチン時代に入る。中国の場合、習近平主席は終身制を狙っているかもしれないが、大国中国を完全に掌握し続けることは困難だ。実際、習近平主席暗殺未遂事件が多発している。その意味で、ロシアでも中国でも時がくれば、新し政治体制が出てくるかもしれない。ひょっとしたら、そう遠くないかもしれない。

 一方、自由・民主主義諸国はどうだろうか。自由・民主主義という「共通の価値観」を有すると自負するが、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国の現状をみると、「共通の価値観」で結び付いた関係とはどうしても言えないのだ。「永遠の兄弟」をスローガンとするロシア・中国に対して、米国を中心とした自由民主陣営にはどのような標語が相応しいだろうか。

中国が恐れる北の核実験による大惨事

 北朝鮮はこれまで6回の核実験を実施し、核爆発を重ねる度にその核能力を発展させてきた。2006年10月に1回目の核実験を実施した。その爆発規模は1キロトン以下、マグニチュード4・1だった。6回目の17年9月3日には爆発規模160キロトン、マグニチュード4.4だった。北側の発表では「水爆」だという。

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▲韓国との経済関係を断絶すると表明する北朝鮮の金正恩総書記(2024年2月8日、朝鮮中央通信から)

 興味深い点は、北朝鮮の6回の核実験で放射性物質が検出されたのは1回目と3回目のだけで、残りの4回の核実験後、キセノン131、キセノン133など放射性物質が検出されていないことだ。北の核実験で放射性物質が検出されにくい理由として、北朝鮮の山脈は強固な岩から成り立っているため、放射性物質が外部に流出するのに時間がかかるからだといわれている。3回目の核実験の55日後に放射性物質が検出されたのは、北当局が核実験用トンネルをオープンしたのでキセノンが放出されたという。なお、核実験が行われた日の前後の天候も希ガス検出に影響を与える。気流の流れにも左右される。

 北朝鮮の核実験の影響について、韓国の核物理学者らから、「北朝鮮の豊渓里核実験場では、2017年9月の6回目の核実験の際にすでに大地震が発生しており、トンネルや地盤の崩壊や陥没への懸念が続いている。核実験の爆発により実験場の地盤が崩壊した可能性がある」と警告する声が出てきている。

 韓国気象庁の『2023年の地震年報』によると、北朝鮮の豊渓里付近での地震の数が2022年の3倍以上に増加した。専門家らは「マグニチュード3.0以上の地震の数は増加し続けており、今年はその可能性が高い。マグニチュード4.0以上の大地震が発生する可能性がある」というのだ。

 例えば、北の最大規模の核実験では核実験場から南東約7キロ付近で地盤が陥没し、それに伴う揺れが発生したという。水爆の爆発によって周辺の地盤が揺れ、地震が発生したという説明だ。実際、アメリカの北朝鮮分析サイト「38ノース」は2017年9月5日、核実験場周辺の地形が崩れ、地形の変動が見られると報告している。

 韓国の聯合ニュースは2017年9月5日、「北の核実験場がある北東部の咸鏡北道吉州郡で被爆した疑いが持たれる症状を訴える人が出ている」と報じた。核実験場周辺の住民への被曝は考えられるが、恐ろしいシナリオは、中国と北朝鮮の国境に位置する白頭山(標高約2744m)の噴火だ(「白頭山の噴火と第3回核実験」2011年3月11日参考)。

 東アジア最大の地震観測所を持つ韓国地質鉱物資源研究院のイ・ピョング所長は、「北朝鮮が将来追加核実験を実施すれば、大地震が発生する可能性がある」と予測している。

 北朝鮮の核実験を懸念しているのは隣国中国だ。特に、中朝国境都市周辺の住民は不安を高めている。地理的に隣接する中国の東北3省は、空気や地下水を介して広がる放射線の影響を免れないだろう。北朝鮮が7回目の核実験を実施した場合、過去6回の核実験で蓄積された核物質が急速に表面化し、北朝鮮と国境を接する中国の広範囲を放射線で覆う可能性がある。「豊渓里での北朝鮮の核実験は、近くの活火山である長白山にも影響を与えている。最近、長白山から鳥や動物が大量に移動しているのが目撃されており、中国東北三省の住民の間で不安が広がっている」というのだ。
 
 韓国の著名な火山学者、ユン・ソンヒョ教授によると、「核爆発による強力な衝撃波は、120キロメートルも離れた長白山(白頭山)地下のマグマだまりをかき乱し、噴火を引き起こす可能性がある」という。火山を扱う中国地震局研究所のシミュレーションでは、「長白山が噴火し、灰が空を覆い工場が麻痺すれば、中国経済に大きな打撃を与える可能性がある」と予測されており、中国東北部3省の2000万人が避難を余儀なくされる。

 韓国統一部が最近、北朝鮮の核実験場の近くに住んでいた亡命者を対象に放射線被爆調査を実施したところ、対象者の20%に染色体異常が見つかった。脱北者らによると、吉州郡の住民は核実験場の川水を飲料水として利用しており、核実験以降、結核患者が急増し、多くの死者が出ているという。

 中国東北3省の住民の多くは、6回目の核実験以来、地震を何度も感じたと報告している。中朝国境都市にとって放射能だけではない。北には少なくとも5カ所、化学兵器を製造する施設がある。中国が恐れているのは両国国境近くにある北の化学工場だ。2008年11月と09年2月の2度、中国の国境都市、丹東市でサリン(神経ガス)が検出されたという。中国側の調査の結果、中朝国境近くにある北の新義州化学繊維複合体(工場)から放出された可能性が高いというのだ。北の化学兵器管理が不十分だったり、事故が発生した場合、中国の国境都市が先ず大きな被害を受けるという(「中朝国境都市にサリンの雨が降る」2013年5月31日参考)。

 中国東北3省の住民にとっては時限爆弾を抱えているような状況だ。北側が7回目の核実験を実施した場合、放射能、地震、地形崩壊などの大惨事が発生する危険性が排除できないからだ。
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