ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ハンガリー

オルバン氏はロシア情報工作の手先?

 先ず、ブタペスト発の2つの外電を紹介する。

 .魯鵐リーのオルバン首相は25日、ブタペストの国会演説でロシアと戦争中のウクライナを酷評し、「キーウ政府はウクライナ最西端ザカルパッチャ州に住むハンガリー系少数民族約15万人の母国語の権利を制限している。その権利が回復されるまで、わが国はウクライナを国際政治の舞台では支援しない」と述べた。オルバン首相が批判しているのは、ウクライナ政府が2017年、学校での少数言語の使用を制限する法律を可決したことだ。

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▲ハンガリーのオルバン首相(「フィデス」の公式サイトから)

 ▲ルバン首相は25日、「スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟の批准を迅速には実施しない。スウェーデンのNATO加盟の批准を急ぐ事情はないからだ。スウェーデンの安全は決して脅かされていない」と主張する一方、「スウェーデンはこれまでわが国に対して法の支配が損なわれているという中傷を繰り返してきた。ストックホルムには先ずわが国への敬意を求めたい」と述べている。

 ,魯Εライナのハンガリー系住民(マジャール人)政策への批判だ。ところで、オルバン首相はなぜ突然、2017年の少数民族の言語の権利に関する法律を持ち出して、ロシアと戦争中のウクライナを批判し出したのだろうか。そして「ハンガリーは今後、ウクライナ側が政策を変えない限り、国際政治上、ウクライナを支援しない」と脅迫しているのだ。

 オルバン首相がハンガリー・ファーストを標榜する政治家であることは良く知られているが、米国、欧州連合(EU)加盟国が結束してウクライナへの支援を実施している最中に、2017年の法律を持ち出してウクライナを批判するだけではなく、支援しないと警告を発しているのだ。

 △両豺隋▲ルバン首相がスウェーデンのNATO加盟の批准を迅速に取り扱わないという声明だが、理由が希薄だ。トルコがスウェーデンのNATO加盟を急がないのは、クルド労働者党(PKK)活動家へのストックホルムの対応が甘いことへの反発があるが、ハンガリーの場合、理由が明確ではない。ただ、オルバン政権へのEU加盟国の批判を理由に挙げているが、スウェーデンを名指しで批判する特別の理由は見当たらない。

 以上、上記の2つの外電の背景を考える時、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロの手助けは無用だろう。上記の2つのニュースで最も喜ぶ国、人間はロシアのプーチン大統領だ、という結論が容易に生まれてくるからだ。

 EU加盟国のハンガリーがウクライナを批判することで、EUの結束を揺るがすことになる。また、北欧スウェーデンのNATO加盟が遅れることはプーチン氏にとって朗報だろう。要するに、オルバン氏の25日の発言はプーチン氏を喜ばすニュースであったことは疑いないのだ。オルバン首相が事前にプーチン大統領と連携して今回の発言をしたとは思わないが、プーチン氏の意向に沿った発言だといえる。

 それでは、オルバン氏にはプーチン氏を喜ばせたい事情があるのだろうか。ハンガリーはウクライナ戦争後も安価のロシア産ガスの輸入を続けている。同国はまた、昨年4月7日、首都ブダペスト南方にあるパクシュ(Paks)原発への核燃料をロシアから空輸している。要するに、ハンガリーは石油、天然ガスばかりか、原発とその核燃料もロシアに依存しているのだ。

 ハンガリー・ファーストのオルバン首相はウクライナ避難民の救助など人道的な支援は行うが、それ以外のEUの軍事支援、武器供給を拒否し、EUの対ロシア制裁を拒んでいるわけだ。換言すれば、プーチン氏を怒らせたくはないのだ。

 だから、オルバン首相は、「EUの対ロシア制裁はロシアよりEU加盟国の国民経済を一層損なうだけだ」として反対の立場を取ってきた。ちなみに、ゼレンスキー大統領は、「オルバン首相はEUの結束を崩すロシアの共犯者だ」と批判している。

 オルバン首相は、EUの本部ブリュッセルからは「民主主義と法の遵守」を求められ、「言論の自由に反する」として制裁を科せられているが、プーチン大統領とは友好関係を維持し、中国とは経済関係を深めている(「ハンガリーの中国傾斜は危険水域に」2020年4月30日参考)。

 EUは現在、ハンガリー向けに割り当てられた約300億ユーロのEU資金をブロックしているが、これには新型コロナウイルス復興基金からの援助と優先融資の120億ユーロが含まれる。EUは「ハンガリーの司法機関と監督機関はEU資金を正しく運営することを保証する十分な独立性を持っていない」と受け取っているからだ。

 ハンガリーは2024年7月1日、EUの議長国に就任する。任期は半年間だ。欧州議会は6月1日、ハンガリーのEU議長国に反対する決議案(全619票)を賛成442票、反対144票、棄権33票の賛成多数で採択した。同決議案は法的拘束力はないが、「象徴的な意味合いがある」という。EU加盟国ではハンガリーに対して不信感が強いわけだ。口の悪い人は「ハンガリーがまだEU加盟国に留まっていること自体、不思議だ」という。

 いずれにしても、オルバン首相の25日の発言を聞けば、「ハンガリーがロシアの情報工作の手先となっている」といった憶測さえ生まれてくるのだ。

ハンガリーの「ゼロ移民」政策の行方

 オーストリアのネハンマー首相の主催でウィーンの連邦首相府でハンガリーのオルバン首相、セルビアのヴチッチ大統領を招き、3カ国の「難民対策首脳会談」が開催された。この種の会談は今回が3回目でオーストリアのホストは初めて。

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▲首脳会談後の共同記者会見(右オルバン首相、中央ネハンマー首相、左ヴチッチ大統領)2023年7月7日、ウィーンで、セルビア大統領府公式サイトから

 3首脳会談のテーマは如何に殺到する難民、不法移民を抑え、国境警備を強化するかだ。北アフリカ・中東からバルカン・ルートを通じて欧州に入る不法難民が急増してきている。会談には3国の外相、内相、警察署長も参加した。

 会議では、各内相による警察業務の分野における4ページにわたる協力覚書の署名が行われた。合同国境警備タスクフォースの設立、密航業者との戦いにおけるより集中的な協力などが合意された。オーストリアはハンガリーとセルビアの国境に警察官を現在の20人から70人に増員することを表明した。

 ネハンマー首相は会合後の共同記者会見で、「EU(欧州連合)の難民・移民対策は壊れており、機能していないことを認識する必要がある。3カ国が協力すれば難民・移民の殺到にブレーキをかけることができる」と強調した。

 一方、ブタペストからウィーン入りしたオルバン首相は、「ハンガリーとセルビアがなければオーストリアとEUにはさらに数十万人の移民が増えるだろう」と述べ、「ハンガリーはゼロ移民政策を実行している。ゼロ移民だ」と繰り返し強調し、「不法な移民や難民の申請を認めていない」と豪語した。

 傍に立っていたネハンマー首相は 「不法移民がハンガリーにいないのは事実だが、彼らの80%はハンガリー経由でオーストリアに入ってきているのだ。その難民申請件数は10万9000件になる。ハンガリーは同期間で45件だ」と指摘し、オルバン政権から収容を拒否された難民・移民がオーストリアに殺到していると語調を強めて主張した(公平を期すために説明すると、ハンガリーからオーストリアに入国した難民・移民の80%以上が隣国の経済大国ドイツを目指して行く。オーストリアに留まる移民・難民の数は少数だ)。

 それに対し、オルバン首相は笑みを漏らしながら、「われわれはヨーロッパで唯一(不法)移民のいない国だ」と指摘、EUが推進している移民の「強制分配」政策について改めて批判した。 

 EUは6月8日の内相理事会で、移民・難民受け入れの負担を分担することで合意した。イタリアやギリシャなど地中海沿岸国は海から渡ってくる難民への対応で他の国々の支援を求めてきた。具体的には、各国が受け入れる移民・難民の人数枠を設けるが、受け入れを拒否する国はその代わりに、受け入れ国に1人当たり約2万ユーロの現金や資材、人材を提供すると定めている。EUの「移民・難民受け入れ枠」について、オルバン首相は当時、「受け入れられない」といち早く拒否した(「地中海で2万人以上の難民が犠牲」2023年6月17日参考)。

 オーストリア政府関係者によると、1月から5月までの申請件数は昨年同時期と比べて20.5%減少し、5月はマイナス30%だったが、EU域内の残りの地域での亡命申請件数は30%増加しているという。ネハンマー首相は、「EUが移民政策を完全に改革しないのなら、私たちは自助努力をしなければならない」と述べている。

 難民・移民対策ではハンガリーに対する批判が強い。例えば、オルバン首相は国内で拘留中の外国人の不法移民密入国業者を早期釈放して、国外に追放している。この措置は密入国業者への恩赦ではない。外国人の移民密入国業者を刑務所に長期間収容し続けるためには経費がかかるからだ。もう少しシンプルにいえば、経費削減策だ。

 ブタペスト発のニュースが届くと、ウィーンとブダペストの間で外交的緊張を引き起こしたほどだ。オーストリアのシャレンベルク外相は5月21日、ハンガリーのシ―ヤールトー外相と会談して、ブダペスト側の意図について話し合っている。

 公式情報によると、ハンガリーでは現在、73カ国から約2600人の外国人が刑務所に収監されており、その大半が密入国で有罪判決を受けた犯罪者だ。ハンガリーのメディアによると、セルビア、ルーマニア、ウクライナからの密航者700人が既に釈放された。ただし、釈放から72時間以内にハンガリーを出国しなければ、直ちに再逮捕される(「ハンガリー政府の経費削減の『奇策』」2023年5月24日参考)。

 なお、今回のウィーンの首脳会談について、オーストリア野党第一党「社会民主党」(SPO)の安全保障担当広報担当、ラインホルト・アインワルナー氏は、「会談はオルバン氏にとって虚偽を広め、オーストリアを脅迫する舞台となっただけだ」と述べた。一方、極右政党「自由党」(FPO)のキックル党首はハンガリー首相の「ゼロ移民」政策をオーストリアの模範とみなしている。同党首は 「ネハンマー首相はオルバン氏と話し合うだけでなく、不法大量移民に対してオルバン氏のように行動すべきだ」と発破をかけている、といった具合だ。

 中国の習近平国家主席は新型コロナウイルスのパンデミックに対し、「ゼロコロナ」(Zero-Covid)政策を実施し、感染が終息に向かった時にも「ゼロコロナ」に拘った。その結果、中国の国民経済に大きなダメージを与えたことはまだ記憶に新しい。同じように、オルバン首相は「ゼロ移民」(Zero-Migration)政策を実施し、ブリュッセルの「移民受け入れ枠」を拒否する一方、人身売買業者を刑務所から追い払うなど、「ゼロ移民」政策のために徹底した“ハンガリー・ファースト”を実行している。オルバン首相の「ゼロ移民」政策は共同移民政策を目指すブリュッセルにとって大きな障害となってきている。

ハンガリーは「EU議長国」資格なし?

 ハンガリーは2024年7月1日、欧州連合(EU)の議長国に就任する。任期は半年間だ。欧州議会は1日、ハンガリーのEU議長国に反対する決議案(全619票)を賛成442票、反対144票、棄権33票の賛成多数で採択した。同決議案は法的拘束力はないが、「象徴的な意味合いがある」というのだ。

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▲欧州議会での全体会合の採決風景(欧州議会公式サイトから)

 EUは27カ国加盟国から構成されている。半年ごとに議長国が変わる。2023年上半期はスウェーデン、同年下半期はスペイン、そして来年上半期はベルギーで、その次の半年はハンガリーが議長国となるが、欧州議会は「ハンガリーはEUの基本法第7条、法の遵守に違反している」として、同国の議長国就任の適正に疑いを提示したわけだ。ちなみに、EU加盟国がEUの基本原則としての基本権保護に対する重大な違反を犯す時、EU理事会は同国に対し、制裁を発動することができる(EU条約第7条)。

 議長国の資格論争の話を聞くと、ロシアが今年4月1日、国連安全保障理事会議長国に就任した時をどうしても思い出してしまう。安保理議長国は15カ国メンバーの輪番制で、アルファベット順に毎月交代する。安保理事会は5カ国(米英仏露中)の常任理事国と10カ国の非常任理事国から構成されている。4月の議長国はロシアだった。議長国として、ロシアは理事会の決定にほとんど影響を与えることはできないが、議題を設定し、会合の進行役を務める。ウクライナを軍事侵略しているロシアが国連最高意思決定機関の安保理の議長国に就任し、ウクライナ戦争などの国際問題を主導することに対し、ウクライナのクレバ外相は「悪い冗談だろう」と語ったほどだ(「露の安保理議長国就任は『冗談』か」2023年4月5日参考)。

 欧州議会には7会派が存在するが、そのうち欧州人民党(EPP)、社会民主党(S&D)、自由党(再生欧州)、緑の党、左派の過半数は決議案に賛成票を投じた。彼らは、ハンガリーの「法の支配」に関する問題が十分に進展していないと判断し、基本権利の侵害に対する現在進行中の第7条の手続きを継続することを要求している。

 EUは現在、ハンガリー向けに割り当てられた約300億ユーロのEU資金をブロックしているが、これには新型コロナウイルス復興基金からの援助と優先融資の120億ユーロが含まれる。EUは「ハンガリーの司法機関と監督機関はEU資金を正しく運営することを保証する十分な独立性を持っていない」と受け取っている。

 EUのヨハネス・ハーン欧州委員(予算・総務担当)は、「ハンガリーへの支払いは同国の法の原則の確立にかかっている。ハンガリーはまた、ここ数カ月間、ウクライナ支援などEUの主要な決定を繰り返し阻止してきた」と指摘した。欧州議会の今回の決議は、ハンガリーのEU議長国就任は適正に欠けているというわけだ。議長国は本来、「EU立法に関する理事会の取り組みを前進させ、EUの議題の継続性を確保し、他のEU機関との関係において理事会を代表しなければならない」からだ。

 欧州議会(定数705議席)では来年6月6日から9日、議会選挙が加盟国で実施される。選挙結果を受け、新しい欧州議会が構成されるが、その重要な選挙終了直後にハンガリーが議長国に就任する。欧州議会は選挙後、次期委員会の選挙で重要な役割を果たすから、24年下半期の議長国は政治的な影響力を行使できる可能性が他の時期の議長国より大きいこともあって、加盟国では懸念の声が出ているわけだ。

 問題は、EU条約には、議長国の資格はく奪について何も記述していないことだ。ちなみに、来年上半期はベルギーが続き、その後にハンガリーが議長国となるが、ハンガリーの後には、ポーランドが議長国に就任する。ポーランドは EUのブリュッセル(本部)にとってハンガリーと同様、問題国と見なされているのだ。

 EU条約には「理事会議長職が均等な交代制に従って交代する」ことが明確に規定されている。そのため、加盟国の議長国の資格をはく奪することは条約上難しいうえ、EUの結束を破壊する恐れが出てくる。

 インスブルック大学の欧州法、国際法、国際関係学のウォルター・オブウェクサー教授(Walter Obwexer)はオーストリア国営放送(ORF)のインタビューの中で、「欧州議会の決議案は政治的には重要かもしれないが、法的には価値が小さい。欧州議会は基本的に理事会の議長職問題に介入できない。欧州理事会はハンガリーやポーランドによるEUの価値観の深刻かつ持続的な違反を認定する決定を採択していないから、現時点では理事会議長の職を停止することはできない」という。

 欧州議会が来年下半期の議長国の適正問題を現時点で議論する背後には、EUのウクライナ支援問題が絡んでくるからだ。ハンガリーはEUのウクライナへの財政支援に度々反対してきた。EUでは重要案件の採決では加盟国の全会一致が原則だ。ハンガリーが反対する限り、EUはウクライナに財政支援が出来なくなる。ハンガリーの議長国の資格有無論争はEUの政治メカニズムの見直しを強いる問題に発展する可能性がある。

 以上、ORFの関連記事を参考にまとめた。

ハンガリー政府の経費削減の「奇策」

 日本の広島で開催された先進7カ国首脳会談(G7広島サミット)は無事終わった。これからは欧州の動向に再び焦点を合わせていこうと考えていた矢先、ビックリするようなニュースがブダペストから入ってきた。ニュースバリューはあるが、日本のメディアでは余り報じられていないので、これまた驚くと共に、「日本にとって欧州はやはり遠い世界なのだ」という現実を改めて実感した次第だ。

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▲欧州の移民対策でドイツのフェーザー内相(左)と会談するオーストリアのカーナー内相(2023年5月25日、オーストリア内務省公式サイトから)

 本題。ブダペスト発のニュースは欧州が今、直面している移民問題と関連する。欧州連合(EU)の異端児と呼ばれ、欧州の統合の破壊者と受け取られているハンガリーのオルバン首相は国内で拘留中の外国人の不法移民密入国業者を早期釈放して、国外に追放しているという。この措置は密入国業者への恩赦ではない。外国人の移民密入国業者を刑務所に長期間収容し続けるためには経費がかかるからだ。もう少しシンプルにいえば、経費削減策だ。

 ハンガリー政府が先月末に発布した規制によると、投獄された人身売買業者は72時間以内にハンガリーを出国すれば釈放される。ハンガリーの刑法は、密航者に対して通常2年から20年の長期懲役刑を規定している。

 公式情報によると、ハンガリーでは現在、73カ国から約2600人の外国人が刑務所に収監されており、その大半が密入国で有罪判決を受けた犯罪者だ。ハンガリーのメディアによると、セルビア、ルーマニア、ウクライナから密航者700人が既に釈放された。ただし、釈放から72時間以内にハンガリーを出国しなければ、直ちに再逮捕される。

 最近では、どの国でも麻薬関連法違反者が多く拘留されている。例えば、大麻を初めて消費した人間を全て逮捕して、刑務所に送れば、どの国の刑務所も囚人で溢れる。だから、重犯罪者を収容するために、軽犯罪者を刑務所に収容しなくてもいいように、刑法の改正を進めている国が多い。

 具体的には、大麻消費者の非犯罪化が欧州のトレンドだ。ドイツのショルツ政権は現在、大麻の合法化法案を進めている。特定の施設や消費ルートを政府側が設置することで、大麻の部分的合法化を進めているのだ(「独政府『大麻の合法化法』を発表」2023年4月15日参考)。

 ここまで書いてくると、オルバン政権の「有罪判決を受けた密入国業者を長い間、刑務所に拘留することは経済的負担が大きい」という理由もけっして飛び抜けて驚くべきことではないのかもしれない。「大麻消費者」の非犯罪化を外国人の「密入国業者」の非犯罪化に拡大適応しただけだといえるからだ。ただ、「大麻消費」と「不法移民の密入国業者」ではその犯罪の重さは違う。

 毎年、多くの難民がバルカン半島経由で西ヨーロッパに入ろうとするが、その多くは密入国業者の助けを借りる。ハンガリー政府の決定を受け、現在、条件付きで数千人が釈放されている。隣国オーストリアは釈放された密入国者が入国するのではないかと警戒し、隣国との国境での取り締まりを強化中だ。オーストリア内務省によると、ハンガリー、ルーマニア、セルビアからの車両は集中的に検査されている。

 ハンガリーで有罪判決を受けた密入国者の早期釈放は、ウィーンとブダペストの間で外交的緊張を引き起こしている。オーストリアのシャレンベルク外相は21日、ハンガリーのシ―ヤールトー外相と会談して、ブダペスト側の意図などについて話し合っている。

 不法移民の密入国は重犯罪だ。重犯罪者を一方的に釈放させるということは周辺国家の安全にも大きな影響を与える。ハンガリーのメディアによれば、釈放された密入国業者のルーマニア人、ブルガリア人、セルビア人がハンガリーの刑務所を出た後、オーストリアや他の西側諸国に向かっているという。ハンガリーの厳格な移民政策を評価してきたオーストリアの極右政党「自由党」のヘルベルト・キックル党首も今回のハンガリー政府の決定に対しては「理解できない」と批判している。

 参考までに、2015年8月、ウィーンとブダペストを結ぶ高速道路に放置されたトラックから71人の遺体が発見されたことがある。トラック内で窒息死した遺体の多くはシリア難民だった。密入国業者が彼らを欧州まで運ぶ途上だった。

 移民を欧州に連れて行く密入国業者のビジネスは巨大だ。現在、数千人の移民がセルビアの森林で厳重に警備された国境フェンスを越えてハンガリーに入る機会を待っている。彼らの最終目的地はドイツだ。移民希望者は欧州入りするために数千ユーロをプロの業者に支払う。

 なお、ロシアのプーチン大統領は不法移民の西側殺到を欧州を混乱させる武器として利用しているといわれる。偶然にも、ハンガリーの不法移民の密入国業者早期釈放は、プーチン氏の画策を意識的か、無意識かは別として、支援することになる。ちなみに、ハンガリーはEUによる5億ユーロ相当のウクライナへのさらなる軍事援助を阻止している。資金は欧州平和ファシリティ(EPF)から出されるもので、加盟国の全会一致でのみ放出できる。親ロシア派と受け取られているオルバン首相のためにも、今回の密入国業者釈放はあくまでも経費削減を動機としたもであってほしいものだ。

ローマ教皇のアンビバレントな旅

 ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は28日から3日間の日程でハンガリーを訪問中だ。南米出身の同教皇にとっては教皇就任(2013年3月)以来、41回目の外遊(司牧訪問)である。教皇は2021年にブタペストで開催された聖体世界会議を訪問しているから、ハンガリー訪問は2度目となる。大多数のハンガリー国民はカトリック信者だ。なお、今回の訪問では、教皇の健康問題もあって首都ブタペスト市だけに留まり、他の都市を訪れる予定はない。

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▲フランシスコ教皇とオルバン首相(2023年4月28日、ブタペストで、バチカンニュースから)

 フランシスコ教皇はハンガリー初の女性大統領、カタリン・ノヴァク新大統領やヴィクトル・オルバン首相らの歓迎を受けた。同教皇は元修道院の建物でブタペスト最初のスピーチをし、欧州の統合を支援し、ポピュリズム(大衆迎合主義)に反対、移民の人道的な扱いを求める姿勢を明確に述べた。その一方、「ブダペストは自由の価値を知っている国の中心であり、ナチス・ドイツ政権、共産主義政権下で大きな代償を払って、民主主義の宝と平和の夢を守ってきた。ハンガリー動乱(1956年)をどうして忘れることが出来るだろうか。ブタペストは今日、ユダヤ人人口の割合が最も高い欧州の都市の一つだ」と強調した。

 フランシスコ教皇は、「首都ブダペストは今年で創建150年を迎える。1873年に、ドナウ川の西にあるブダとオブダ(旧ブダ)、対岸のペストの3つの都市が統合されて生まれた。ブタペストは今日、欧州大陸の中心に位置する大都市だ。ブタペストの誕生は、欧州がその後辿った共通の道を先駆けてきた」と説明している。

 ここまで聞いたならば、「フランシスコ教皇は欧州連合(EU)ではハンガリーが異端国と受け取られ、欧州委員会から『民主主義と法の遵守』、『メディアの自由』の分野で欧州司法裁判所(EuGH)に提訴されていることを知らないのだろうか」と首を傾げるかもしれない。知らないはずがない。ホスト国に対する外交辞令はあるだろうが、ハンガリーに対し、EUの本部ブリュッセルからの視点ではなく、カトリック教国ハンガリーという観点からの期待を込めたバチカンのメッセージだろう。

 実際、フランシスコ教皇は民族主義とポピュリズムに警告を発し、「ブダペストは橋の街だ。ドナウの真珠と呼ばれるブタペストは橋を通じて他を接続している」と述べ、欧州が現在直面している移民・難民の殺到について「画期的な挑戦だ」として受け入れることを暗に求めている。ハンガリーはウクライナやオーストリアなど7カ国と国境を接している内陸国だ。なお、フランシスコ教皇は29日、ブタペストの聖エリザベス教会で困窮者、難民、教会のソーシャル ワーカーと会合した。

 フランシスコ教皇は、ハンガリーの隣国ウクライナでの戦争のことが常に気になるのだろう。ブタペストにも戦争勃発以来、多くの難民がウクライナから殺到している。教皇には「ウクライナの国民の悲しみ、苦しみ、そして平和を求める祈りの声が聞こえる地理的に最も近い場所に自分は今、立っている」という思いが強まったとしても不思議ではない。

 ちなみに、オルバン首相は2月18日、ロシア軍のウクライナ侵攻1年目を控え、ブタペストで「国家の現状について」の演説を行い、ロシアのウクライナ侵攻については、「主権国家への軍事侵攻は絶対に容認できないが、ウクライナの国益をハンガリーの国益より重視する政策は道徳的にも間違っている」と強調し、「2022年の大きな成果は、わが国が可能な限り、ウクライナ戦争の影響に飲み込まれないようにしたことだ」と言い切る。ある意味でハンガリー・ファーストだ。欧州メディアでは“オルバン主義”と呼ばれる政治だ。

 EUの欧州員会は昨年7月15日、オルバン首相が率いるハンガリー政府に対し、「民主主義と法の遵守」、「メディアの自由」などを要求し、その是正を求めてきたが、その中には、ハンガリーが小児性愛者対策を目的とし、教材や宣伝で同性愛や性転換の描写や助長を禁じる新法「反小児性愛法」を施行した問題も含まれ、EUからは「反LGBT法」として批判されてきた。それに対し、オルバン首相は「結婚は男性と女性の異性婚しかない」と主張し、同性婚をはっきりと拒否している。

 参考までに、バチカンは同性愛問題では「同性愛者への差別は是正すべきだが、同性婚は認めない」というスタンスを取っている。また、中絶問題でも女性の権利を認める一方、生命の尊重という観点で中絶を認めない。同性愛問題、中絶問題ではハンガリーは欧州でバチカンのカテキズムに最も忠実な国といえる。

 フランシスコ教皇はハンガリーに対して民主主義の欠如や移民への排他主義を間接的に非難する一方、カトリック教国ハンガリーを「自由の価値を知る国」という表現で期待を吐露するなど、ハンガリー批判一辺倒の他の欧州諸国の姿勢とは距離を置いている。フランシスコ教皇のハンガリーへのスタンスは典型的なアンビヴァレンツ(独語Ambivalenz)だ。

オルバン首相「今年は危険な年だ」

 ロシア軍がウクライナに侵攻して今月24日で1年目を迎えるが、プーチン大統領は侵攻1年目を前に軍事的成果を上げるために再度、ウクライナ東部・南部で大攻勢をかけるのではないかと予測されている。一方、ドイツのミュンヘンで17日から3日間の日程で開催された第59回「ミュンヘン安全保障会議」(MSC)では欧米諸国を中心に200人以上の政府首脳、閣僚、有識者らが集まり、ウクライナ戦争の対応について話し合われた。今年もMSC会議にはロシア代表は招待されなかった。

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▲G7外相会議(中央は議長国・日本の林芳正外相)2023年2月18日、ミュンヘンで、日本外務省公式サイトから

 ミュンヘン会議の共通トーンは、ロシアの軍事活動への批判とウクライナへの軍事支援の強化を求める声だ。ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオで参加し、欧米諸国に武器の供与を改めて要請している。ミュンヘンでは同時期、主要先進7カ国首脳会議(G7)の外相会議が開催され、ロシアのウクライナ戦争を批判、「ウクライナからすべての軍隊と装備を即時かつ無条件に撤収し、国際的に認められた国境内での独立、主権、領土保全を尊重するように」と求める一方、ロシアの不法な戦争を軍事的、物質的に支援したり、対ロシア制裁に違反する国、団体に対して制裁を実施すると警告を明記した声明文が発表された。

 なお、G7外相会議議長国の日本の林芳正外相は、クレムリンの核の脅威に対して、「ロシアの無責任な核レトリックは容認できず、化学兵器、生物兵器、核兵器、または類似の兵器の使用は深刻な結果をもたらすだろう」と警告を発した。

 MSC関連の首脳陣たちの発言は多くは既に報道されているので、メディアでは余り取り上げられなかったハンガリーのオルバン首相の演説を今回紹介する。

 ハンガリーの首都ブタペストでオルバン首相は18日「国家の現状について」の演説を行い、「2023年はわが国にとって政変以来、最も危険な年となる」と、国民に向かって警告を発している。具体的には、ロシアのウクライナ戦争、欧州連合(EU)の制裁、エネルギー危機などの課題に直面していることだ。

 オルバン首相は、EUの本部ブリュッセルからは「民主主義と法の遵守」を求められ、「言論の自由に反する」として制裁を科せられているが、欧州首脳の中でロシアのプーチン大統領と依然、友好関係を有し、外交辞令を無視して単刀直入に発言する政治家として有名だ。

 ハンガリーでは昨年4月3日、ウクライナ戦争の最中、国民議会選挙が実施されたが、オルバン首相の与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」は議席の3分の2を獲得し、国民の支持を得、オルバン首相は4選を果たした。オルバン首相は国内のメディアを完全に掌握し、対外政策では親ロ、親中路線を走る一方、EUからは「異端児」と呼ばれてきた。

 ロシアのウクライナ侵攻について、「主権国家への軍事侵攻は絶対に容認できないが、ウクライナの国益をハンガリーの国益より重視する政策は道徳的にも間違っている」と強調し、「2022年の大きな成果は、わが国が可能な限り、ウクライナ戦争の影響に飲み込まれないようにしたことだ」と言い切る。

 ハンガリーはウクライナから殺到する戦争避難民を受け入れる一方、軍事支援、武器供給に対しては拒否してきた。オルバン首相によると、ウクライナへ武器供給した場合、同国最西端ザカルパッチャ州に住むハンガリー系少数民族に危険が及ぶからだ。EUの対ロシア制裁には「制裁はロシアよりEU加盟国の国民経済を一層損なっている」として反対の立場を取ってきた。オルバン首相の政策について、ゼレンスキー大統領は「EUの結束を崩すロシアの共犯者」と批判している。

 ハンガリーはロシアとの経済関係、特にロシア産天然ガスの確保ではこれまで通りの量がロシアから輸入されている。EU加盟国の中でウクライナ戦争後もロシア産天然ガスが止まらず、供給されている国はハンガリーだけだろう。

 興味深い発言は、オルバン首相は「ウクライナ戦争は、ロシアが北大西洋条約機構(NATO)との戦いでは勝利のチャンスがないことを明らかにした」と、ロシア軍の力を冷静に判断していることだ。そして「ロシアはハンガリーの安全保障にとって真の脅威を与えていない」と主張している。

 ウクライナ戦争は現時点では、停戦の可能性が少ない。戦争の長期化を覚悟しなければならないだろう。ロシアの場合、国内で反プーチン勢力の動き、ウクライナでは国民の戦争疲れ、ウクライナを全面的に支援してきた欧米諸国では、支援疲れと共に、オルバン首相のような実利を最優先する政治家の台頭による結束の緩み、等々が予想される。「2023年は危険な年」となることは避けられない雲行きだ。

 なお、ハンガリー国営通信MTIによると、ミュンヘンのMSCに参加した中国の外交トップ、前外相の王毅・共産党政治局員は20日、ブタペストを訪問し、シーヤールトー外相らと会談する予定だ。

“鉄のカーテン”が落ちた本当の理由?

 冷戦時代の幕が閉じようとしていた1989年、ハンガリー社会主義労働者党(共産党)政権がオーストリアへの国境を開放し、多数の旧東独国民がこの国境を通過して西側の自由世界に殺到、その結果、旧東独社会主義統一党(共産党)政権が崩壊する契機となった、と知られている。ところが、ドイツ公共放送が4日、「ハンガリー政府が旧東独国民のため鉄のカーテンをオープンしたのは当時の旧西独政府(コール政権)がハンガリーの債務を救済したことが原因だった可能性がある」と報じた。これまでドイツもハンガリー政府もこの情報を否定してきたが、旧チェコスロバキア政府が旧東独秘密警察(シュタージ)に送った報告書にはそのことが明記されていたというのだ。

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▲ハンガリーの共産党政権時代の最後の首相、ミクローシュ・ネーメト首相(写真は当方とのインタビューに応じるハンガリーのネーメト首相、1989年10月2日、首相執務室で、ハンガリー国営MTI通信)

 多くの旧東独国民は1989年5月以降、ハンガリー国境を越えて西側に逃亡していった。8月には、最初の大規模な脱出があった。それを受け、ハンガリー政府は1989年9月10〜11日の夜、国境を開放。次の数日で、何万人もの東ドイツ市民が西側に逃げた。ハンガリー政府は当時、「鉄のカーテン」を切断することで東西両ドイツ分断時代に終焉を告げる歴史的役割を果たした、と評価されてきた。

 ハンガリーのミクローシュ・ネ―メト首相は当時、「ハンガリーは何の見返りも求めていない。ハンガリーは人を売らない」と説明してきたが、ドイツ公共放送文化局が入手した文書は、この主張に疑問を投げかけている。当時のチェコスロバキアのシークレットサービスが1989年秋、旧東独シュタージに送った文書の中で、「当時の西独政府はハンガリーに経済的支援を提供し、その代わりに東ドイツから逃れたい人々のために鉄のカーテンを開かせた」ことを示唆していたという。

 独連邦公文書館のシュタージ記録局からの文書には、「チェコスロバキア(CSSR)の治安機関の情報。東ドイツ難民の問題におけるUVR(ハンガリー人民共和国)と旧西独の協調について」と明記され、チェコ語からの翻訳というメモの下に大文字で「Topsecret!」と書かれていた。

 チェコスロバキア情報機関の文書は「東ドイツ難民に対するハンガリー側の行動には、経済的、財政的、および外交政策上の理由があることは明らかだ」と述べ、その理由として「ハンガリーは西ドイツの銀行、連邦共和国に多額の借金を抱えていた。ハンガリーは債権者に25億ドル以上を支払わなければならない。ハンガリー政府は当時、銀行との立場を失わないために、国際金融市場で必要な資金を得ようとしていた」と説明している。

 当方はこのコラム欄で鉄のカーテン切断30周年の2019年8月19日、「ハンガリーとオーストリア両国間の国境が一時解放され、約600人の旧東独国民がオーストリアに入国し、そこから旧西独に亡命していった。同出来事は『ベルリンの壁』崩壊をもたらす契機となった歴史的出来事となった。あれから30年目を迎えた19日、ハンガリー北西部のショプロン市でメルケル独首相とハンガリーのオルバン首相が会見し、国境解放30年を祝った」と書いたが、鉄のカーテンが落ちたのはハンガリー政府とオーストリア政府の英断もあったが、ハンガリー側には経済的な理由があったことになる(「30年前に東西間の国境が開かれた」2019年8月20日参考)。

 ちなみに、国境解放の直接の契機は、汎ヨーロピアン・ピクニックが両国国境近くでベルリンの壁崩壊を訴える集会を開催したが、その時、ハンガリー入りしていた多くの旧東独国民はハンガリー・オーストリア間の国境が一時解放されると聞き、国境に殺到していった。それに先立ち、ハンガリーとオーストリア両国は1989年6月27日、両国国境線に張り巡らせられていた鉄条網(鉄のカーテン)を切断している。

 旧東西両ドイツ間では、東ドイツからの政治犯の身代金は何十年にもわたって確立された慣行だった。西ドイツ政府は当初、1人あたり約3万マルクを支払った。最初は現金で、後に食品、工業製品、さらには石油、銅、銀の形で支払われた。チェコスロバキアの諜報機関からの情報が正しければ、ブダペストとボンの間の取引でもこの慣行が実行されたものと受け取られている。

 1989年10月5日付けのチェコスロバキアのシークレットサービスからの2番目の文書は、ワルシャワの旧西独大使館で230人の東ドイツ難民の救済のために「ハンガリーのモデルに基づいた解決策がとられた」と記述している。この文書も「トップシークレット!」とマークされていたという。

 チェコスロバキアの情報機関の文書は、ベルリンの壁崩壊の歴史に新たな光を当てることになるかもしれない。明確な点は、ハンガリーが国境開放の見返りを期待しなかったという主張は、2つのチェコスロバキアのシークレットサービスのレポートの内容とは一致しないことだ。

オルバン首相は「ロシアの共犯者」?

 27カ国から構成された欧州連合(EU)の加盟国間で国益の利害もあって統一した政策が難しいケースが増えてきた。ロシア軍が2月24日、ウクライナに侵攻後、EUが米国らと連携して対ロシア制裁に乗り出したが、制裁を実施する段階で加盟国間の不協和音が高まってきた。特に、ロシア産天然ガス、石油などのエネルギーに大きく依存しているハンガリーは、EU委員会が発表する対ロシア制裁に対し、「制裁はロシアよりEU加盟国の国民経済を一層損なっている」(ハンガリーのオルバン首相)として批判を強めてきた。

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▲プーチン大統領と会談後、記者会見に応じるオルバン首相(2022年2月1日、ロシア大統領府公式サイトから)

 EU欧州員会のフォンデアライエン欧州委員長は20日の記者会見で、「ロシアは天然ガスの欧州供給を武器に、欧州の対ロシア政策に揺さぶりをかけてきた。ロシアの天然ガス供給が完全に途絶えた時を想定して、われわれは準備しなければならない」と指摘し、冬場のガス供給を確保するために「天然ガス消費量の15%節約」を加盟国に呼びかけた。

 ロシアはこれまでEUの制裁を実施する12カ国への天然ガス供給を停止、削減するなど圧力を既に行使してきた。ブリュッセルによると、ロシアからの供給量は現在、3分の軌焚爾僕遒噌んでいる。現在の域内在庫量は貯蔵能力の約65%という(時事通信)。

 天然ガス消費の4割をロシア産に依存してきたEUは、ロシア産に代わり、米国やアゼルバイジャンなど別の供給先を探す一方、EU域内の消費量の節約、長期的視点から代替エネルギー源の拡大に乗り出してきている。

 フォンデアライエン委員長が記者会見で天然ガス消費量の節約をアピールした翌日(21日)、ハンガリーのペーテル外務貿易相はロシアの首都モスクワを訪問し、ロシア産天然ガスの輸入拡大について協議している。ハンガリーの与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が明らかにした。ブリュッセルの「天然ガス消費量の節約」アピールをあざ笑うかのように、ハンガリーはロシア産天然ガスの供給量を増やすためにロシア側と交渉し、長期契約で定められた量に加え、7億立方メートルの天然ガスの追加購入を決めたというのだ。

 ちなみに、ハンガリーは4月7日、首都ブダペスト南方にあるパクシュ(Paks)原発への核燃料をロシアから空輸している。同原発はハンガリーの国内電力の半分を供給している。ハンガリーは石油、天然ガスばかりか、原発とその核燃料もロシアに依存しているわけだ。

 ハンガリーとEUの本部ブリュッセルとの関係は良好からは程遠いことは周知の事実だ。EU欧州員会は15日、オルバン首相が率いるハンガリー政府に対し、「民主主義と法の遵守」、「メディアの自由」などを要求し、その是正を求めてきたが、ハンガリー政府が応じなかったとして、ハンガリーを相手に欧州司法裁判所(EuGH)に3件、提訴したばかりだ(「ハンガリーの主張が『正論』の時」2022年7月17日参考)。

 例えば、昨年6月15日に可決、7月1日に発効したハンガリーの新法「反小児性愛法」は、小児性愛者対策を目的とし、教材や宣伝で同性愛や性転換の描写や助長を禁じる内容だ。オルバン首相は、「子供の権利を守る法律だ」とその法案の目的を強調したが、EU各国から非難が続出。ハンガリー側が是正に応じなかったことから今回、EU委員会は提訴に踏み切った。

 オルバン首相は今月15日、ロシア産石油、天然ガスに対するEUの制裁に対し、「EUのトップは制裁によってロシアに打撃を与えられると考えていたが、実際はわれわれが受けた打撃の方が大きかった。自らの肺を撃ち抜き、欧州経済は息も絶え絶えだ」と述べているほどだ(AFP通信)。

 オルバン政権はプーチン大統領のウクライナ侵攻を批判し、ウクライナからの難民を受け入れる一方、軍事支援、武器供給に対しては拒否してきた。オルバン首相によると、ウクライナへ武器供給した場合、同国最西端ザカルパッチャ州に住むハンガリー系少数民族に危険が及ぶと説明している。

 ウクライナのゼレンスキー大統領はEUの対ロシア制裁に異議を唱えるハンガリーのオルバン首相を名指しに「EUの結束を崩すロシアの共犯者」と批判している。

ハンガリーの主張が「正論」の時

 欧州連合(EU)欧州員会は15日、オルバン首相が率いるハンガリー政府に対し、「民主主義と法の遵守」、「メディアの自由」などを要求し、その是正を求めてきたが、ハンガリー政府が応じなかったとして、ハンガリーを相手に欧州司法裁判所(EuGH)に提訴した。

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▲性的少数派関連法改正を弁護するオルバン首相(2021年7月23日、ハンガリー国営通信)

 最初の侵害訴訟は、性的少数派への差別に繋がる新法に対する提訴だ。昨年6月15日に可決、7月1日に発効したハンガリーの新法「反小児性愛法」は、小児性愛者対策を目的とし、教材や宣伝で同性愛や性転換の描写や助長を禁じる内容だ。オルバン首相は、「子供の権利を守る法律だ」とその法案の目的を強調したが、EU各国から非難が続出。ハンガリー側が是正に応じなかったことから今回、EU委員会は提訴に踏み切ったわけだ。

 2件目は、言論・メディアの自由問題だ。国内の最後の独立無線局「クラブラジオ」の放送ライセンスが取り消された問題だ。放送局は2021年2月にFM放送を停止することを余儀なくされた。オルバン首相が2010年に就任して以来、民間放送局は当局による弾圧に定期的にさらされてきた。それに対し、ブリュッセルは「メディアの自由」を遵守すべきだと訴えてきた経緯がある。ちなみに、オルバン政権が今年4月の総選挙で再度議会の3分の2の議席を獲得できた理由は、政府に批判的なメディアがないからだ。「クラブラジオ」は現在、インターネット経由で番組を放送している。

 3件目は、外国ナンバーの車両がガソリンスタンドで燃料を補給する場合、燃料に関する政府の補助金対象外となる問題だ。EU加盟国内では全てが等しく扱うべきとなっているにもかかわらず、ハンガリー政府は外国ナンバープレートの車両所有者を差別しているという理由だ。EU委員会によると、「ハンガリーの自動車所有者は、ガソリンスタンドで安くガソリンを補給できる一方、外国のプレートナンバー車両保有者は政府補助金の恩典から外される」というのだ。

 EU委員会はハンガリーに対し、「EU内での物品と人の自由な移動に関する規則を遵守すべきだ。特にウクライナ戦争の経済への影響を和らげるために、域内市場が機能することが重要だ。国レベルでの個別の措置や差別的な規則は解決策ではない」と指摘している。ハンガリー側はブリュッセルが国を超えて加盟国の主権問題や国内政策にまで口をはさみ、その是非を追及することにこれまで強く反発してきた。

 2番目と3番目の訴訟内容はEU委員会が正論だろう。ただ、問題は最初の通称「反LGBTQ法」だ。EU委員会は、「ハンガリーの新法は性的少数者への差別に通じる。未成年向けの教材などでのLGBTら性的少数者に関する描写を禁じるハンガリーの新法は基本的権利を侵害している」と主張。それに対し、オルバン首相は、「わが国は同性愛者の権利を擁護している。新法は性的少数派コミュニティを攻撃することを意図していない。学校の教材やメディア、本などでLGBTQ問題を取り扱うことには危険を感じるからだ」と指摘、「発育途上の子供たちに悪い影響を与えることを懸念する」と説明している。

 EU委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は新法が可決した直後、「人間をその性的指向に基づいて差別するもので、EUの基本的価値観に反する」と指摘し、「ハンガリーの法改正は欧州の恥だ」と批判。オランダのマルク・ルッテ首相は、「ブダペストの政府がこのように続ければ、EUにハンガリーの居場所はない」と明言し、ハンガリーをEUから追放すべきだとまで述べていた(ハンガリーがECJ=欧州司法裁判所の判決に従わない場合、高額の罰金が科せられる)。

 6月は「LGBT月間」だった。オーストリア国営放送では性的少数派のコマーシャルが流れていた。若い男性同士が接吻したり、女性同士が抱擁しているシーンが流れる。「LGBT月間」のピーク、路上パレード(レーゲンボーゲン・パレード)では半裸姿の男女が踊りながら行進する。なぜそのような行進がLGBTの啓蒙につながるのか、少々理解に苦しむ。「パレード行進の姿をみた子供たちはどう思うだろうか」と考える人が出てきても不思議ではない。

 ハンガリーの新法をフォン・デア・ライエン委員長は「欧州の恥」と述べたが、そうだろうか。同性愛問題でメディアなどの扇動に乗って「LGBT支持派」に走るほうがむしろ「欧州の恥」ではないか。LGBT関連の改正法の是非問題では、オルバン首相のほうが「正論」だ。

 ハンガリー政府がキリスト教の教えに基づき関連法案の改正を施行することが、なぜ欧州の価値観に反するのだろうか。欧州社会がキリスト教の教えを基本的価値観にしないというのならば理解できるが、そうではない。とすれば、ブリュッセルこそ婚姻、家庭問題について再考すべきだろう。

ハンガリーに新しい風が吹くか

 ハンガリーで初の女性大統領、それも44歳と若いカタリン・ノヴァク新大統領(Katalin Novak)の就任式が今月14日、ブタペストの議会広場前で行われた。16日にはフランスで30年ぶりに歴代2人目の女性首相にエリザベット・ボルヌ氏が任命されたというニュースが流れた。北大西洋条約機構(NATO)加盟問題を主導したフィンランドのサンナ・マリン首相やスウェーデンのマグダレナ・アンデション首相を含め、欧州政界はいよいよ本格的な女性指導者時代を迎えてきた、という感じだ。

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▲大統領就任演説をするカタリン・ノヴァク新大統領(ハンガリー大統領府公式サイトから、2022年5月14日)

 マクロン大統領の1期目に環境相や労働相を歴任したボルヌ氏の首相ポストは政権運営の舵取りの立場だが、ハンガリーの大統領は国防軍の最高司令官であり、大臣や大使の任命権を持つが、実質的な権限は限られている。ただ、最年少で初の女性大統領の誕生は、2010年から政権に君臨するオルバン政権では稀となった“新鮮さ”を提供し、国内外で大きな話題を呼んでいる。

 ハンガリーでは大統領は議会で選出される。ハンガリー議会は3月10日、10年間の任期を満了したヤーノシュ・アーデル大統領の後任に与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」のノヴァク議員を新大統領に選出した。大統領選出には議会の3分の2の支持が必要だが、与党フィデスは3分の2の議席を有しているから、当選は確実視されていた。ノヴァク氏は選出直後の演説で、「女性であることに感謝し、良きハンガリー大統領になりたい」と抱負を語っている。任期は5年、再選は1度だけ可能だ。

 ノヴァク大統領は法律と経済の学位を有し、3人の子供の母親だ。オルバン政権下では家族政策担当相を務めてきた。女性の役割、家庭の重要性を主張する一方、女性の職場と家庭の両立を目指す。彼女は敬虔なカルヴァン主義者として知られている。ヴィクトル・オルバン首相の最も近い顧問の1人だ。

 オルバン首相が率いる与党フィデスは4月3日の総選挙で3分の2の議席を維持し、同政権は4期目に入ったばかりだ。オルバン首相は国内のメディアを完全に掌握し、対外政策では親ロ、親中路線を走る一方、欧州連合(EU)とは対立を繰り返し、EUの異端児と呼ばれている。

 ちなみに、中国の習近平国家主席は5月10日、新大統領に異例の長い祝電を送り、「私は中国・ハンガリー関係の発展を非常に重視しており、ノヴァク大統領と共に努力して、両国間の政治的相互信頼と伝統的友好を深め、二国間及び『一帯一路』(the Belt and Road)共同建設、中国・中東欧諸国協力などの枠組で協力を強化し、両国の包括的な戦略的パートナーシップを新たな段階へ押し上げ、両国及び両国民に幸福をもたらすことを望んでいる」と述べている(新華社)。

 EUはオルバン政権の「司法の独立」、「言論の自由」などEUの法の支配メカニズム違反を批判し、欧州司法裁判所(CJEU)は2月16日、「加盟国に対するEU予算の執行の一時停止を可能とする条約設定規則を適法」と判断、EUがハンガリーへの補助金支給停止などの制裁の道が開いたばかりだ。

 それだけではない。オルバン首相の親ロシア路線はよく知られ、2月1日にはモスクワでプーチン大統領と会談している。ウクライナ危機が始まって以来、EU加盟国首脳がモスクワを訪問し、プーチン氏と対面会談したのはオルバン首相が当時初めてだった。EUがロシア制裁第6弾としてロシア産原油禁輸を提示した時、オルバン首相は即、「絶対に受け入れない」と拒否権の行使を示唆するなど、EUとハンガリーの関係は益々険悪化している。

 そのような時期、ブダペストの国会議事堂前のコシュート広場で今月14日、新大統領の就任式が行われたが、それに先立ち、さまざまな教会の高位聖職者が参加したエキュメニカル礼拝が行われた。同礼拝には、アーデル前大統領、オルバン首相、クヴェール・ラースロー議会議長らも出席した。新大統領は「キリスト教に基づく価値体系」の重要さを強調し、「相互連帯し、弱者を助けあう社会を築きたい」と述べる一方、プーチン大統領のウクライナ戦争に対しては「如何なる点でも正当化できない」と厳しく批判している。

 いずれにしても、新大統領はフランス語、英語、ドイツ語も流暢にこなす国際派だ。ノヴァク新大統領にはハンガリー・ファーストの“オルバン主義”から脱し、新しいハンガリーのメッセージを発信してほしい。ハンガリーに新しい風が吹くことを期待する。
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