ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ハンガリー

オルバン首相「今年は危険な年だ」

 ロシア軍がウクライナに侵攻して今月24日で1年目を迎えるが、プーチン大統領は侵攻1年目を前に軍事的成果を上げるために再度、ウクライナ東部・南部で大攻勢をかけるのではないかと予測されている。一方、ドイツのミュンヘンで17日から3日間の日程で開催された第59回「ミュンヘン安全保障会議」(MSC)では欧米諸国を中心に200人以上の政府首脳、閣僚、有識者らが集まり、ウクライナ戦争の対応について話し合われた。今年もMSC会議にはロシア代表は招待されなかった。

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▲G7外相会議(中央は議長国・日本の林芳正外相)2023年2月18日、ミュンヘンで、日本外務省公式サイトから

 ミュンヘン会議の共通トーンは、ロシアの軍事活動への批判とウクライナへの軍事支援の強化を求める声だ。ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオで参加し、欧米諸国に武器の供与を改めて要請している。ミュンヘンでは同時期、主要先進7カ国首脳会議(G7)の外相会議が開催され、ロシアのウクライナ戦争を批判、「ウクライナからすべての軍隊と装備を即時かつ無条件に撤収し、国際的に認められた国境内での独立、主権、領土保全を尊重するように」と求める一方、ロシアの不法な戦争を軍事的、物質的に支援したり、対ロシア制裁に違反する国、団体に対して制裁を実施すると警告を明記した声明文が発表された。

 なお、G7外相会議議長国の日本の林芳正外相は、クレムリンの核の脅威に対して、「ロシアの無責任な核レトリックは容認できず、化学兵器、生物兵器、核兵器、または類似の兵器の使用は深刻な結果をもたらすだろう」と警告を発した。

 MSC関連の首脳陣たちの発言は多くは既に報道されているので、メディアでは余り取り上げられなかったハンガリーのオルバン首相の演説を今回紹介する。

 ハンガリーの首都ブタペストでオルバン首相は18日「国家の現状について」の演説を行い、「2023年はわが国にとって政変以来、最も危険な年となる」と、国民に向かって警告を発している。具体的には、ロシアのウクライナ戦争、欧州連合(EU)の制裁、エネルギー危機などの課題に直面していることだ。

 オルバン首相は、EUの本部ブリュッセルからは「民主主義と法の遵守」を求められ、「言論の自由に反する」として制裁を科せられているが、欧州首脳の中でロシアのプーチン大統領と依然、友好関係を有し、外交辞令を無視して単刀直入に発言する政治家として有名だ。

 ハンガリーでは昨年4月3日、ウクライナ戦争の最中、国民議会選挙が実施されたが、オルバン首相の与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」は議席の3分の2を獲得し、国民の支持を得、オルバン首相は4選を果たした。オルバン首相は国内のメディアを完全に掌握し、対外政策では親ロ、親中路線を走る一方、EUからは「異端児」と呼ばれてきた。

 ロシアのウクライナ侵攻について、「主権国家への軍事侵攻は絶対に容認できないが、ウクライナの国益をハンガリーの国益より重視する政策は道徳的にも間違っている」と強調し、「2022年の大きな成果は、わが国が可能な限り、ウクライナ戦争の影響に飲み込まれないようにしたことだ」と言い切る。

 ハンガリーはウクライナから殺到する戦争避難民を受け入れる一方、軍事支援、武器供給に対しては拒否してきた。オルバン首相によると、ウクライナへ武器供給した場合、同国最西端ザカルパッチャ州に住むハンガリー系少数民族に危険が及ぶからだ。EUの対ロシア制裁には「制裁はロシアよりEU加盟国の国民経済を一層損なっている」として反対の立場を取ってきた。オルバン首相の政策について、ゼレンスキー大統領は「EUの結束を崩すロシアの共犯者」と批判している。

 ハンガリーはロシアとの経済関係、特にロシア産天然ガスの確保ではこれまで通りの量がロシアから輸入されている。EU加盟国の中でウクライナ戦争後もロシア産天然ガスが止まらず、供給されている国はハンガリーだけだろう。

 興味深い発言は、オルバン首相は「ウクライナ戦争は、ロシアが北大西洋条約機構(NATO)との戦いでは勝利のチャンスがないことを明らかにした」と、ロシア軍の力を冷静に判断していることだ。そして「ロシアはハンガリーの安全保障にとって真の脅威を与えていない」と主張している。

 ウクライナ戦争は現時点では、停戦の可能性が少ない。戦争の長期化を覚悟しなければならないだろう。ロシアの場合、国内で反プーチン勢力の動き、ウクライナでは国民の戦争疲れ、ウクライナを全面的に支援してきた欧米諸国では、支援疲れと共に、オルバン首相のような実利を最優先する政治家の台頭による結束の緩み、等々が予想される。「2023年は危険な年」となることは避けられない雲行きだ。

 なお、ハンガリー国営通信MTIによると、ミュンヘンのMSCに参加した中国の外交トップ、前外相の王毅・共産党政治局員は20日、ブタペストを訪問し、シーヤールトー外相らと会談する予定だ。

“鉄のカーテン”が落ちた本当の理由?

 冷戦時代の幕が閉じようとしていた1989年、ハンガリー社会主義労働者党(共産党)政権がオーストリアへの国境を開放し、多数の旧東独国民がこの国境を通過して西側の自由世界に殺到、その結果、旧東独社会主義統一党(共産党)政権が崩壊する契機となった、と知られている。ところが、ドイツ公共放送が4日、「ハンガリー政府が旧東独国民のため鉄のカーテンをオープンしたのは当時の旧西独政府(コール政権)がハンガリーの債務を救済したことが原因だった可能性がある」と報じた。これまでドイツもハンガリー政府もこの情報を否定してきたが、旧チェコスロバキア政府が旧東独秘密警察(シュタージ)に送った報告書にはそのことが明記されていたというのだ。

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▲ハンガリーの共産党政権時代の最後の首相、ミクローシュ・ネーメト首相(写真は当方とのインタビューに応じるハンガリーのネーメト首相、1989年10月2日、首相執務室で、ハンガリー国営MTI通信)

 多くの旧東独国民は1989年5月以降、ハンガリー国境を越えて西側に逃亡していった。8月には、最初の大規模な脱出があった。それを受け、ハンガリー政府は1989年9月10〜11日の夜、国境を開放。次の数日で、何万人もの東ドイツ市民が西側に逃げた。ハンガリー政府は当時、「鉄のカーテン」を切断することで東西両ドイツ分断時代に終焉を告げる歴史的役割を果たした、と評価されてきた。

 ハンガリーのミクローシュ・ネ―メト首相は当時、「ハンガリーは何の見返りも求めていない。ハンガリーは人を売らない」と説明してきたが、ドイツ公共放送文化局が入手した文書は、この主張に疑問を投げかけている。当時のチェコスロバキアのシークレットサービスが1989年秋、旧東独シュタージに送った文書の中で、「当時の西独政府はハンガリーに経済的支援を提供し、その代わりに東ドイツから逃れたい人々のために鉄のカーテンを開かせた」ことを示唆していたという。

 独連邦公文書館のシュタージ記録局からの文書には、「チェコスロバキア(CSSR)の治安機関の情報。東ドイツ難民の問題におけるUVR(ハンガリー人民共和国)と旧西独の協調について」と明記され、チェコ語からの翻訳というメモの下に大文字で「Topsecret!」と書かれていた。

 チェコスロバキア情報機関の文書は「東ドイツ難民に対するハンガリー側の行動には、経済的、財政的、および外交政策上の理由があることは明らかだ」と述べ、その理由として「ハンガリーは西ドイツの銀行、連邦共和国に多額の借金を抱えていた。ハンガリーは債権者に25億ドル以上を支払わなければならない。ハンガリー政府は当時、銀行との立場を失わないために、国際金融市場で必要な資金を得ようとしていた」と説明している。

 当方はこのコラム欄で鉄のカーテン切断30周年の2019年8月19日、「ハンガリーとオーストリア両国間の国境が一時解放され、約600人の旧東独国民がオーストリアに入国し、そこから旧西独に亡命していった。同出来事は『ベルリンの壁』崩壊をもたらす契機となった歴史的出来事となった。あれから30年目を迎えた19日、ハンガリー北西部のショプロン市でメルケル独首相とハンガリーのオルバン首相が会見し、国境解放30年を祝った」と書いたが、鉄のカーテンが落ちたのはハンガリー政府とオーストリア政府の英断もあったが、ハンガリー側には経済的な理由があったことになる(「30年前に東西間の国境が開かれた」2019年8月20日参考)。

 ちなみに、国境解放の直接の契機は、汎ヨーロピアン・ピクニックが両国国境近くでベルリンの壁崩壊を訴える集会を開催したが、その時、ハンガリー入りしていた多くの旧東独国民はハンガリー・オーストリア間の国境が一時解放されると聞き、国境に殺到していった。それに先立ち、ハンガリーとオーストリア両国は1989年6月27日、両国国境線に張り巡らせられていた鉄条網(鉄のカーテン)を切断している。

 旧東西両ドイツ間では、東ドイツからの政治犯の身代金は何十年にもわたって確立された慣行だった。西ドイツ政府は当初、1人あたり約3万マルクを支払った。最初は現金で、後に食品、工業製品、さらには石油、銅、銀の形で支払われた。チェコスロバキアの諜報機関からの情報が正しければ、ブダペストとボンの間の取引でもこの慣行が実行されたものと受け取られている。

 1989年10月5日付けのチェコスロバキアのシークレットサービスからの2番目の文書は、ワルシャワの旧西独大使館で230人の東ドイツ難民の救済のために「ハンガリーのモデルに基づいた解決策がとられた」と記述している。この文書も「トップシークレット!」とマークされていたという。

 チェコスロバキアの情報機関の文書は、ベルリンの壁崩壊の歴史に新たな光を当てることになるかもしれない。明確な点は、ハンガリーが国境開放の見返りを期待しなかったという主張は、2つのチェコスロバキアのシークレットサービスのレポートの内容とは一致しないことだ。

オルバン首相は「ロシアの共犯者」?

 27カ国から構成された欧州連合(EU)の加盟国間で国益の利害もあって統一した政策が難しいケースが増えてきた。ロシア軍が2月24日、ウクライナに侵攻後、EUが米国らと連携して対ロシア制裁に乗り出したが、制裁を実施する段階で加盟国間の不協和音が高まってきた。特に、ロシア産天然ガス、石油などのエネルギーに大きく依存しているハンガリーは、EU委員会が発表する対ロシア制裁に対し、「制裁はロシアよりEU加盟国の国民経済を一層損なっている」(ハンガリーのオルバン首相)として批判を強めてきた。

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▲プーチン大統領と会談後、記者会見に応じるオルバン首相(2022年2月1日、ロシア大統領府公式サイトから)

 EU欧州員会のフォンデアライエン欧州委員長は20日の記者会見で、「ロシアは天然ガスの欧州供給を武器に、欧州の対ロシア政策に揺さぶりをかけてきた。ロシアの天然ガス供給が完全に途絶えた時を想定して、われわれは準備しなければならない」と指摘し、冬場のガス供給を確保するために「天然ガス消費量の15%節約」を加盟国に呼びかけた。

 ロシアはこれまでEUの制裁を実施する12カ国への天然ガス供給を停止、削減するなど圧力を既に行使してきた。ブリュッセルによると、ロシアからの供給量は現在、3分の軌焚爾僕遒噌んでいる。現在の域内在庫量は貯蔵能力の約65%という(時事通信)。

 天然ガス消費の4割をロシア産に依存してきたEUは、ロシア産に代わり、米国やアゼルバイジャンなど別の供給先を探す一方、EU域内の消費量の節約、長期的視点から代替エネルギー源の拡大に乗り出してきている。

 フォンデアライエン委員長が記者会見で天然ガス消費量の節約をアピールした翌日(21日)、ハンガリーのペーテル外務貿易相はロシアの首都モスクワを訪問し、ロシア産天然ガスの輸入拡大について協議している。ハンガリーの与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が明らかにした。ブリュッセルの「天然ガス消費量の節約」アピールをあざ笑うかのように、ハンガリーはロシア産天然ガスの供給量を増やすためにロシア側と交渉し、長期契約で定められた量に加え、7億立方メートルの天然ガスの追加購入を決めたというのだ。

 ちなみに、ハンガリーは4月7日、首都ブダペスト南方にあるパクシュ(Paks)原発への核燃料をロシアから空輸している。同原発はハンガリーの国内電力の半分を供給している。ハンガリーは石油、天然ガスばかりか、原発とその核燃料もロシアに依存しているわけだ。

 ハンガリーとEUの本部ブリュッセルとの関係は良好からは程遠いことは周知の事実だ。EU欧州員会は15日、オルバン首相が率いるハンガリー政府に対し、「民主主義と法の遵守」、「メディアの自由」などを要求し、その是正を求めてきたが、ハンガリー政府が応じなかったとして、ハンガリーを相手に欧州司法裁判所(EuGH)に3件、提訴したばかりだ(「ハンガリーの主張が『正論』の時」2022年7月17日参考)。

 例えば、昨年6月15日に可決、7月1日に発効したハンガリーの新法「反小児性愛法」は、小児性愛者対策を目的とし、教材や宣伝で同性愛や性転換の描写や助長を禁じる内容だ。オルバン首相は、「子供の権利を守る法律だ」とその法案の目的を強調したが、EU各国から非難が続出。ハンガリー側が是正に応じなかったことから今回、EU委員会は提訴に踏み切った。

 オルバン首相は今月15日、ロシア産石油、天然ガスに対するEUの制裁に対し、「EUのトップは制裁によってロシアに打撃を与えられると考えていたが、実際はわれわれが受けた打撃の方が大きかった。自らの肺を撃ち抜き、欧州経済は息も絶え絶えだ」と述べているほどだ(AFP通信)。

 オルバン政権はプーチン大統領のウクライナ侵攻を批判し、ウクライナからの難民を受け入れる一方、軍事支援、武器供給に対しては拒否してきた。オルバン首相によると、ウクライナへ武器供給した場合、同国最西端ザカルパッチャ州に住むハンガリー系少数民族に危険が及ぶと説明している。

 ウクライナのゼレンスキー大統領はEUの対ロシア制裁に異議を唱えるハンガリーのオルバン首相を名指しに「EUの結束を崩すロシアの共犯者」と批判している。

ハンガリーの主張が「正論」の時

 欧州連合(EU)欧州員会は15日、オルバン首相が率いるハンガリー政府に対し、「民主主義と法の遵守」、「メディアの自由」などを要求し、その是正を求めてきたが、ハンガリー政府が応じなかったとして、ハンガリーを相手に欧州司法裁判所(EuGH)に提訴した。

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▲性的少数派関連法改正を弁護するオルバン首相(2021年7月23日、ハンガリー国営通信)

 最初の侵害訴訟は、性的少数派への差別に繋がる新法に対する提訴だ。昨年6月15日に可決、7月1日に発効したハンガリーの新法「反小児性愛法」は、小児性愛者対策を目的とし、教材や宣伝で同性愛や性転換の描写や助長を禁じる内容だ。オルバン首相は、「子供の権利を守る法律だ」とその法案の目的を強調したが、EU各国から非難が続出。ハンガリー側が是正に応じなかったことから今回、EU委員会は提訴に踏み切ったわけだ。

 2件目は、言論・メディアの自由問題だ。国内の最後の独立無線局「クラブラジオ」の放送ライセンスが取り消された問題だ。放送局は2021年2月にFM放送を停止することを余儀なくされた。オルバン首相が2010年に就任して以来、民間放送局は当局による弾圧に定期的にさらされてきた。それに対し、ブリュッセルは「メディアの自由」を遵守すべきだと訴えてきた経緯がある。ちなみに、オルバン政権が今年4月の総選挙で再度議会の3分の2の議席を獲得できた理由は、政府に批判的なメディアがないからだ。「クラブラジオ」は現在、インターネット経由で番組を放送している。

 3件目は、外国ナンバーの車両がガソリンスタンドで燃料を補給する場合、燃料に関する政府の補助金対象外となる問題だ。EU加盟国内では全てが等しく扱うべきとなっているにもかかわらず、ハンガリー政府は外国ナンバープレートの車両所有者を差別しているという理由だ。EU委員会によると、「ハンガリーの自動車所有者は、ガソリンスタンドで安くガソリンを補給できる一方、外国のプレートナンバー車両保有者は政府補助金の恩典から外される」というのだ。

 EU委員会はハンガリーに対し、「EU内での物品と人の自由な移動に関する規則を遵守すべきだ。特にウクライナ戦争の経済への影響を和らげるために、域内市場が機能することが重要だ。国レベルでの個別の措置や差別的な規則は解決策ではない」と指摘している。ハンガリー側はブリュッセルが国を超えて加盟国の主権問題や国内政策にまで口をはさみ、その是非を追及することにこれまで強く反発してきた。

 2番目と3番目の訴訟内容はEU委員会が正論だろう。ただ、問題は最初の通称「反LGBTQ法」だ。EU委員会は、「ハンガリーの新法は性的少数者への差別に通じる。未成年向けの教材などでのLGBTら性的少数者に関する描写を禁じるハンガリーの新法は基本的権利を侵害している」と主張。それに対し、オルバン首相は、「わが国は同性愛者の権利を擁護している。新法は性的少数派コミュニティを攻撃することを意図していない。学校の教材やメディア、本などでLGBTQ問題を取り扱うことには危険を感じるからだ」と指摘、「発育途上の子供たちに悪い影響を与えることを懸念する」と説明している。

 EU委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は新法が可決した直後、「人間をその性的指向に基づいて差別するもので、EUの基本的価値観に反する」と指摘し、「ハンガリーの法改正は欧州の恥だ」と批判。オランダのマルク・ルッテ首相は、「ブダペストの政府がこのように続ければ、EUにハンガリーの居場所はない」と明言し、ハンガリーをEUから追放すべきだとまで述べていた(ハンガリーがECJ=欧州司法裁判所の判決に従わない場合、高額の罰金が科せられる)。

 6月は「LGBT月間」だった。オーストリア国営放送では性的少数派のコマーシャルが流れていた。若い男性同士が接吻したり、女性同士が抱擁しているシーンが流れる。「LGBT月間」のピーク、路上パレード(レーゲンボーゲン・パレード)では半裸姿の男女が踊りながら行進する。なぜそのような行進がLGBTの啓蒙につながるのか、少々理解に苦しむ。「パレード行進の姿をみた子供たちはどう思うだろうか」と考える人が出てきても不思議ではない。

 ハンガリーの新法をフォン・デア・ライエン委員長は「欧州の恥」と述べたが、そうだろうか。同性愛問題でメディアなどの扇動に乗って「LGBT支持派」に走るほうがむしろ「欧州の恥」ではないか。LGBT関連の改正法の是非問題では、オルバン首相のほうが「正論」だ。

 ハンガリー政府がキリスト教の教えに基づき関連法案の改正を施行することが、なぜ欧州の価値観に反するのだろうか。欧州社会がキリスト教の教えを基本的価値観にしないというのならば理解できるが、そうではない。とすれば、ブリュッセルこそ婚姻、家庭問題について再考すべきだろう。

ハンガリーに新しい風が吹くか

 ハンガリーで初の女性大統領、それも44歳と若いカタリン・ノヴァク新大統領(Katalin Novak)の就任式が今月14日、ブタペストの議会広場前で行われた。16日にはフランスで30年ぶりに歴代2人目の女性首相にエリザベット・ボルヌ氏が任命されたというニュースが流れた。北大西洋条約機構(NATO)加盟問題を主導したフィンランドのサンナ・マリン首相やスウェーデンのマグダレナ・アンデション首相を含め、欧州政界はいよいよ本格的な女性指導者時代を迎えてきた、という感じだ。

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▲大統領就任演説をするカタリン・ノヴァク新大統領(ハンガリー大統領府公式サイトから、2022年5月14日)

 マクロン大統領の1期目に環境相や労働相を歴任したボルヌ氏の首相ポストは政権運営の舵取りの立場だが、ハンガリーの大統領は国防軍の最高司令官であり、大臣や大使の任命権を持つが、実質的な権限は限られている。ただ、最年少で初の女性大統領の誕生は、2010年から政権に君臨するオルバン政権では稀となった“新鮮さ”を提供し、国内外で大きな話題を呼んでいる。

 ハンガリーでは大統領は議会で選出される。ハンガリー議会は3月10日、10年間の任期を満了したヤーノシュ・アーデル大統領の後任に与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」のノヴァク議員を新大統領に選出した。大統領選出には議会の3分の2の支持が必要だが、与党フィデスは3分の2の議席を有しているから、当選は確実視されていた。ノヴァク氏は選出直後の演説で、「女性であることに感謝し、良きハンガリー大統領になりたい」と抱負を語っている。任期は5年、再選は1度だけ可能だ。

 ノヴァク大統領は法律と経済の学位を有し、3人の子供の母親だ。オルバン政権下では家族政策担当相を務めてきた。女性の役割、家庭の重要性を主張する一方、女性の職場と家庭の両立を目指す。彼女は敬虔なカルヴァン主義者として知られている。ヴィクトル・オルバン首相の最も近い顧問の1人だ。

 オルバン首相が率いる与党フィデスは4月3日の総選挙で3分の2の議席を維持し、同政権は4期目に入ったばかりだ。オルバン首相は国内のメディアを完全に掌握し、対外政策では親ロ、親中路線を走る一方、欧州連合(EU)とは対立を繰り返し、EUの異端児と呼ばれている。

 ちなみに、中国の習近平国家主席は5月10日、新大統領に異例の長い祝電を送り、「私は中国・ハンガリー関係の発展を非常に重視しており、ノヴァク大統領と共に努力して、両国間の政治的相互信頼と伝統的友好を深め、二国間及び『一帯一路』(the Belt and Road)共同建設、中国・中東欧諸国協力などの枠組で協力を強化し、両国の包括的な戦略的パートナーシップを新たな段階へ押し上げ、両国及び両国民に幸福をもたらすことを望んでいる」と述べている(新華社)。

 EUはオルバン政権の「司法の独立」、「言論の自由」などEUの法の支配メカニズム違反を批判し、欧州司法裁判所(CJEU)は2月16日、「加盟国に対するEU予算の執行の一時停止を可能とする条約設定規則を適法」と判断、EUがハンガリーへの補助金支給停止などの制裁の道が開いたばかりだ。

 それだけではない。オルバン首相の親ロシア路線はよく知られ、2月1日にはモスクワでプーチン大統領と会談している。ウクライナ危機が始まって以来、EU加盟国首脳がモスクワを訪問し、プーチン氏と対面会談したのはオルバン首相が当時初めてだった。EUがロシア制裁第6弾としてロシア産原油禁輸を提示した時、オルバン首相は即、「絶対に受け入れない」と拒否権の行使を示唆するなど、EUとハンガリーの関係は益々険悪化している。

 そのような時期、ブダペストの国会議事堂前のコシュート広場で今月14日、新大統領の就任式が行われたが、それに先立ち、さまざまな教会の高位聖職者が参加したエキュメニカル礼拝が行われた。同礼拝には、アーデル前大統領、オルバン首相、クヴェール・ラースロー議会議長らも出席した。新大統領は「キリスト教に基づく価値体系」の重要さを強調し、「相互連帯し、弱者を助けあう社会を築きたい」と述べる一方、プーチン大統領のウクライナ戦争に対しては「如何なる点でも正当化できない」と厳しく批判している。

 いずれにしても、新大統領はフランス語、英語、ドイツ語も流暢にこなす国際派だ。ノヴァク新大統領にはハンガリー・ファーストの“オルバン主義”から脱し、新しいハンガリーのメッセージを発信してほしい。ハンガリーに新しい風が吹くことを期待する。

プーチン氏との距離が問われる選挙

 4月3日の日曜日、ハンガリーとセルビアの両国で選挙が実施される。ハンガリーは国会議員選挙で12年間政権を維持してきたオルバン政権が野党連合の挑戦を受ける一方、バルカンの盟主セルビアでは国民議会選と大統領選が同時に行われる

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▲プーチン大統領と会談後、記者会見に応じるオルバン首相(2022年2月1日、ロシア大統領府公式サイトから)

 両選挙の共通点はビクトル・オルバン首相(58)もアレクサンダル・ヴチッチ大統領(52)もロシアのプーチン大統領とこれまで良好関係を築いてきたことだ。普段ならば選挙で大きなマイナスとはならないが、ロシア軍が先月24日、ウクライナに侵攻し、多くの犠牲者を出している時だけに、ハンガリーとセルビアの両国指導者は親露カラーを抑えるなど神経質になっている。両国とも与党、「ハンガリー市民連盟」(フィデス)、セルビアの与党「進歩党」(SNS)の優位が伝えられているが、波乱も排除できない雲行だ。

 ここでは、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の加盟国ハンガリーの選挙の行方を紹介する。2010年から12年間、政権を取っているオルバン首相は2月1日、モスクワでプーチン大統領と会談している。ウクライナ危機が始まって以来、EU加盟国の首脳がモスクワを訪問し、プーチン氏と対面会談したのはオルバン首相が初めてだった。

 オルバン首相の与党「フィデス」は議会(定数199議席、任期4年)で3分の2の議席を有しているが、今回の総選挙は2018年のような大勝利は難しいと予想されている。その理由は6つの野党が打倒オルバン政権で結束し、野党連合を立ち上げたからだ。

 2019年のブタペスト市長選では野党が支持するカラーチョニ・ゲルゲイ氏が、連立与党が支持する現職を破って勝利した。野党連合は2019年の再現をモットーにオルバン政権打倒で結束し、同国南東部のホードメゼーヴァーシャールヘイ市のペーター・マルキザイ市長(49)を6党の統一首相候補に選出した。マルキザイ氏は保守派政治家であり、熱心なカトリック信者として知られている。選挙公約として、最低賃金の免税、ユーロ導入、司法の独立、病院の待機リストの削除などを掲げている。

 ただし、野党連合は社会民主党から極右党「ヨッビク」まで政治信条、政策が180度異なる政党の寄せ集めだ。オルバン政権打倒で結束していると言っても、選挙戦での公約や政策論争は難しい面がある。そのうえ、国内のメディアを完全に掌握しているオルバン首相は野党側との選挙討論を回避しているから、野党側はメディアに登場するチャンスがほとんどない。

 独週刊誌シュピーゲル(3月26日号)に掲載された世論調査によると、オルバン首相の与党フィデスが33ポイント、それを追って統一のための同盟(野党連合)は31ポイントで拮抗している。どの党に投票するか決めていない有権者は32ポイントというから、浮動票の動向が勝敗を決める構図だ。明確な点は12年間続いたオルバン政権に飽きた有権者はチェンジを求めていることだ。

 オルバン首相は国民経済の回復を重点政策に挙げ、インフレ抑制や税還付などの政策を表明、2月12日のブタペストの選挙集会では「ハンガリー・ファースト」を掲げ、国民の利益重視を最優先にする姿勢を改めて強調している。

 野党側は、「オルバン政権はEUからの補助金を活用し政権支持の企業を優先して支援し、その影響力を拡大してきた」と指摘、「ポスト共産主義マフィア」と呼んでいる。

 オルバン首相はEUから異端児と受け取られてきた。ブリュッセルは「言論の自由」「司法の独立」といった法の支配を無視するオルバン政権をこれまで厳しく批判してきた。

 欧州司法裁判所(CJEU)は2月16日、「加盟国に対するEU予算の執行の一時停止を可能とする条約設定規則を適法」と判断し、EUが法の支配原則を無視する加盟国に制裁ができることになったばかりだ。ただ、オルバン首相にラッキーだったことは、ロシア軍がウクライナに侵攻したため、EUはその対策に奔走せざるを得なくなり、ハンガリー問題は後回しになったことだ。

 問題は、ロシア軍がウクライナ侵攻して以来、オルバン首相のロシア寄り政策は修正を余儀なくされてきたこと。同首相はロシアの侵略を公式に非難し、EUの制裁を支持し、ウクライナから避難民がハンガリー国境に殺到すると現場を視察、避難民を歓迎している。

 一方、ウクライナへの武器供給は拒否、EUのロシア産ガス輸入禁止には反対している。ハンガリーはエネルギーをロシア産の天然ガスに依存しているからだ。オルバン政権は昨年、ロシアとガス供給で15年間の供給契約を締結した。また、ロシアの財政支援を受けて、100億ユーロ相当の2基の新しい原子炉を建設する、といった具合でロシアとの経済関係は深い。今回の総選挙はオルバン首相にとって「プーチン氏との距離が問われる選挙」となっている面は否定できない。

EUの基本的価値観とは何?

 ハンガリー国民はマジャール民族と呼ばれ、日本人と同様で蒙古斑を有する民族といわれる。そのため、というわけではないが、マジャール人には日本人に親しみを感じる人が多く、親日派が少なくない。冷戦時代、当方はハンガリー取材の際はブタペストのペスト地区のマルタさんという母子家族の宿をよく利用させてもらった。大学教授だった夫を当時の共産党政権下の迫害で失った夫人が娘のマルタさんと共に家計を助けるために民宿を経営していた。マルタさんの家はブタペスト一の繁華街バーツィー通りにあったから、記者にとっても便利だった。その民宿の窓から見えるブタ地区の朝の風景の美しさは今でも思い出す。ハンガリーは当方にとって最も心が行く東欧の国だ(「マルタさんの宿」2006年8月30日参考)。

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▲児童保護関連の法改正を弁護するオルバン首相(2021年7月23日、ハンガリー国営通信)

 そのハンガリーでオルバン中道右派政権が発足して以来、欧州連合(EU)との間で衝突を繰り返している。今回の直接の騒動はハンガリー国民議会が先月15日、未成年者に対して、同性愛を助長し、挑発する情報宣伝活動を禁止する法改正を賛成多数で可決したことだ。予想されたことだが、性的少数者(LGBTQ)やその支持者は、「性少数派の権利を蹂躙し、表現の自由を抹殺、ひいては未成年者の権利を制限する」として抗議デモを行っている。批判の声は国内だけではなく、欧州全土に広がってきた。

 ハンガリーの首都ブタペストで24日、約3万人の国民がレインボーの旗を掲げてオルバン政権の性的少数派関連の法改正に反対するデモ集会を行った。同集会は第26回ハンガリー・プライド・フェスティバルで行われたもの。参加者たちは、「オルバン政権は性的少数者を威嚇するのではなく、本当の児童の保護に力を入れるべきだ」と呼び掛けている。デモ集会では参加者と治安警察官との間で大きな衝突は報じられていない。なお、同デモ集会にはブタペストのカラーチョニ市長や野党も参加した。それに先立ち、約40の外国の文化関連機関や外国の大使館は性的少数者支援の共同声明を発表している。

 フォン・デア・ライエン欧州委員長は6月23日、ハンガリー議会の今回の法改正に対して、「人間をその性的指向に基づいて差別するもので、EUの基本的価値観に反する」と指摘し、「ハンガリーの法改正は欧州の恥だ」と批判。それに対し、ハンガリー政府は同日、「法改正の詳細な内容への独立した調査も実施せず、一方的に批判することこそ恥だ」と反論。ハンガリー与党関係者からは、「西欧のデカダンス文化(退廃)への挑戦だ」といった勇ましい声も聞かれるなど、ハンガリーとEU間の対立はここにきてエスカレートしてきた。

 EUはオルバン政権が同改正法を撤回しない限り、ブリュッセルからのハンガリーへの補助金、支援金の支払いを遅らせると警告している。同時に、欧州委員会は15日、ハンガリーとポーランドに対し、性的少数者への差別的措置が行われたとして、EUの基本的価値観に違反しているとして、法的措置の手続きを始めている。最終的には欧州司法裁判所への提訴と経済制裁につながる可能性がある。

 オルバン政権は性的少数派に対して厳しい姿勢であることは良く知られている。ポーランドやスロバキアなどでも同様だ。オルバン政権は今回、法改正を通じて未成年者への同性愛を挑発する書物の発行や映画の上演時間制限、宣伝活動の停止などを決めた。オルバン政権が批判を恐れず、性的少数派の問題に対して、はっきりと反対を表明した点は評価できる。ただし、今回のように検閲を強化し、情報宣伝活動を規制した法改正を施行しても、実際の効果は期待できない面もあるだろう。

 ブリュッセルからの政治的圧力、制裁に対応するためにオルバン首相は性的少数派関連の法改正の是非を問う国民投票(正式には「児童保護に関する国民投票)を実施すると発表した。同首相は24日、国営ラジオ放送で、「ブリュッセルがわが国に対し根拠なき批判を繰り返さなければ国民投票を実施する必要はなかった」と説明、国内の混乱はEU側がもたらしたものだと反論している。同国政府報道官によると、国民投票は今年末か、来年初めには実施する予定という。

 以下、蛇足かもしれないが、性的少数者の権利擁護と同性婚の認知について、当方の考えを少し説明する。EUは機会ある度に「欧州はキリスト教的価値観に基づいた社会」というが、キリスト教の教えは基本的には男性と女性の2性の異性間で築く家庭、社会の建設にある。しかし、欧州のキリスト教社会では今日、同性婚を認める国が増えている。欧州で2001年、オランダが世界で初めて同性婚を認めた。その後、ベルギー、スペイン、ノルウェー、スウェ―デン、ポルトガル、アイスランド、デンマーク、フランス、英国、ルクセンブルク、アイルランド、フィンランド、マルタ、ドイツ、オーストリアがこれまで同性婚を認めている。オランダ、デンマーク、英国、ドイツなどは養子権も認めている。

 ハンガリー政府がキリスト教の教えに基づき同性婚の社会的拡大を抑制するため関連法案の改正を施行することが、なぜ欧州の価値観に反するのだろうか。欧州社会がキリスト教の教えを基本的価値観としないというのならば理解できるが、そうではない。とすれば、ブリュッセルこそ婚姻、家庭問題について再考が求められることになる。

 同性婚に反対するハンガリーが未成年者に同性愛を助長する書籍、フィルムなどを制限する法改正を施行することは少なくとも首尾一貫している。矛盾しているのは、異性婚を求めるキリスト教の教えに反する同性婚を承認する欧州諸国だ。性的少数者への差別は撤回されなければならないが、同性婚はキリスト教社会の価値観に反するから承認しないし、それを助長する言動に対しては支持しない、というのが本来、「キリスト教の価値観」ではないか。その点、ハンガリーは間違いを犯してはいない。

ブタペストに「自由な香港通り」出現

 ハンガリーの首都ブタペストは「ドナウの真珠」と呼ばれ、東欧有数の観光都市だが、同市に「自由な香港通り」という呼称の通り名が出現した。それだけではない「ダライ・ラマ通り」、そして遂には「ウイグル人殉教者通り」まで出てきたのだ。ハンガリーのオルバン右派政権は欧州連合(EU)27カ国の中ではもっとも中国寄りと受け取られ、首都ブタペストは習近平国家主席が推進する新マルコポーロ構想「一帯一路」プロジェクトにも深くかかわってきている。そのブタペストに習近平主席が聞いたら腰を抜かすようなストリート名が出てきたのだ。それも1つ、2つではない。現時点では3カ所のストリート名だが、今後、増えていくかもしれないという。東欧一の観光都市ブタペストに何が起きているのか。以下、説明したい。

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▲ハンガリーの首都ブタペストを流れるドナウ川とそこに架かる鎖橋

 まず、読者はハンガリーの首都ブタペストで中国の名門大学、復旦大学の姉妹校が開校されるという話を思い出してほしい。ハンガリー国家イノベーション庁は4月27日、中国上海の復旦大学とオンライン会合で協議し、同大学の姉妹校をブタペスト市に開校することで合意した。ハンガリーのメディアによれば、新校は6000人から8000人の学生を収容し、教授陣は500人。同校は早くて2024年に開校し、人文、社会学、自然科学、技術・医科関連の授業が行われる予定だ(「ハンガリーで中国復旦大学の姉妹校」2021年4月30日参考)。

 その中国が誇る復旦大学の姉妹校建設予定地に通じるストリート名が、先の道路名「自由な香港通り」、「ダライ・ラマ通り」、そして「ウイグル殉教者通り」といった名称に改称されたわけだ。オルバン政権が中国共産党政権との間で合意した復旦大学姉妹校の建設反対のデモンストレーションだ。

 その中心的人物は、ブタペストのカラーチョニ・ゲルゲイ(Gergely Karacsony)市長(45)だ。同市長は2日、上記のストリート名の改称をツイッターで明らかにした。その狙いは、中国共産党政権の人権弾圧の実態を国民に知らせることだという。

 同市長は野党「ハンガリーのための対話」に所属し、2022年の国民議会選ではオルバン現首相に対抗する政治家として注目されているホープだ。19年の市長選でオルバン政党「フィデス」が独占してきた市長ポストを奪い返した政治家でもある。22年の総選挙では6野党を結集させ、反オルバン首相の統一候補者となる考えだという。

 中国の大学姉妹校の開校について、ハンガリーのアカデミーや学校関係者からは、「復旦大学は名門エリート大学だが、同時に、中国共産党の管理下にある。学校キャンパスで中国共産党がその無神論的世界観を広げるのではないか」といった不安の声が聞かれる。

 学校では中国の少数民族ウイグル人の再教育収容所の実態や香港の民主化運動など中国の人権状況についてはタブーとなり、学校の自治権が蹂躙される、といった懸念がある。今月2日に発表された世論調査によると、ハンガリー人の3分の2は復旦大学キャンパス建設に反対している。中国の情報機関と受け取られている「孔子学院」はハンガリーではELTE大学(エトヴェシュ・ロラーンド大学)を初めとして5つの大学内に既に開校されている。復旦大学姉妹校の開校は中国の情報工作にとっては大きな成果といえるわけだ。

 オルバン首相はハンガリー国民議会で過半数を占める与党「フィデス・ハンガリー市民同盟」を土台に、野党を骨抜きにし、批判的なメディアを撲滅し、司法、言論を支配下に置いてきた。ブリュッセル(EU本部)からの批判をものともせず、難民対策ではハンガリー・ファーストを実行。その一方、習主席が提唱した「一帯一路」には積極的に参加し、ロシアにも急接近、EUの対ロシア制裁の解除を要求するなど、独自の外交路線を走ってきた。

 ハンガリーは首都ブタペストとセルビアのベオグラード間を結ぶ高速鉄道の建設を進めているが、中国から21億ドル(約2300億円)の融資を受けている。中国側が建設資金の85%を融資し、残りの15%をハンガリー側が出すといった内容だ。

 新校の建設費、設備費などは不明だ。オルバン首相は中国共産党指導部との間で、キャンパス建設費は推計15億ユーロ(約2000億円)とされ、中国はそのうち13億ユーロ(約1700億円)を拠出するという。オルバン政権は新型コロナウイルスのワクチンではいち早くロシアと中国からワクチンの供給を受けている、といった具合だ(「ハンガリーの中国傾斜は危険水域」2020年4月30日参考)。

 「世界から信頼され、愛される中国共産党」(国営新華社通信)を目指す習主席はオルバン首相に電話して、「復旦大学周辺のストリート名をもとに戻すように」と圧力を行使しているだろう。中国から多額の経済支援を受けてきた手前、習近平氏の願いを拒否できないから、オルバン首相は「公共の安全と秩序の維持」といった名目でストリート名の改称を撤回させることは目に見えている。強権を振るうことは避けたいところだ。国民議会選挙も近づいてきたからだ。ゲルゲイ市長とオルバン首相の一騎打ちは今後、益々エスカレートしていくだろう。

ハンガリーで中国復旦大学の姉妹校

ハンガリー国家イノベーション庁は27日、中国上海の復旦大学とオンライン会合で協議し、同大学の姉妹校をブタペスト市に開校することで合意したという。ハンガリーのメディアによれば、新校は6000人から8000人の学生を収容し、教授陣は500人。同校は早くて2024年に開校し、人文、社会学、自然科学、技術・医科関連の授業が行われる予定だ。

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▲中国に傾斜するハンガリーのオルバン首相(フィデス公式サイトから、2021年3月26日)

 ただし、中国の大学姉妹校の開校について、ハンガリーのアカデミーや学校関係者からは、「復旦大学は名門エリート大学だが、同時に、中国共産党の管理下にある。学校キャンパスで中国共産党がその無神論的世界観を広げるのではないか」といった不安の声が聞かれる。

 学校では中国の少数民族ウイグル人の再教育収容所の実態や香港の民主化運動など中国の人権状況についてはタブーとなり、人工知能の国民監視プログラムなどについても同様の扱いになると受け取られているからだ。学校の自治権が蹂躙される、といった懸念だ。

 新校の建設費、設備費などは不明だ。ハンガリーのオルバン首相は中国共産党指導部との間で、ハンガリー側が15億ユーロの建設費を支払うことで合意しているという。そのために、中国国家開発銀行から資金を受けるというのだ。

 オルバン政権は4年前、国民議会で採択した高等学校法の改正案に基づきブタペストに拠点があった著名な米国のエリート大学、中央ヨーロッパ大学(CEU)を閉鎖に追い込んでいる。CEUは、ハンガリーのブタペスト出身のユダヤ系の世界的な米投資家、ジョージ・ソロス氏が1991年、冷戦終焉直後、故郷のブタペストに創設した大学だ(CEUは現在ウィーンに移転)。その数年後、今度は中国の復旦大学の姉妹学校を開設させようとしているわけだ(「米投資家ソロス氏対オルバン首相」2017年4月6日参考)。

 ちなみに、国民議会で採決された改正案によれば、外国人が開校した学校はハンガリー国内の学校と共に出身国にも同様の学校を開校していなければならなくなる。その条件を満たさない外国大学は学生を受け入れることはできなくなる。ソロス氏は当時、「オルバン政権の政策は欧州連合(EU)の価値観に反する」と批判している。ソロス氏自身、ハンガリー出身だ。

 ここまで紹介すると、ハンガリーの中国傾斜が尋常ではないことに気が付く。オルバン首相はハンガリー国民議会で過半数を占める与党「フィデス・ハンガリー市民同盟」を土台に、野党を骨抜きにし、批判的なメディアを撲滅し、司法、言論を支配下に置いてきた。ブリュッセル(EU本部)からの批判をものともせず、難民対策ではハンガリー・ファーストを実行。その一方、習近平中国国家主席が提唱した「一帯一路」には積極的に参加し、ロシアにも急接近、EUの対ロシア制裁の解除を要求するなど、独自の外交路線を走ってきた。

 例えば、ハンガリーは首都ブタペストとセルビアのベオグラード間を結ぶ高速鉄道の建設を進めているが、ここでも中国側の経済支援を受けている。中国側が建設資金の85%を融資し、残りの15%をハンガリー側が出すといった内容だ。

 中国は、習主席が提唱した新マルコポーロ「一帯一路」構想に基づき、アジアやアフリカで積極的にインフラ整備事業を進めているが、中国から巨額の融資を受けたアフリカ諸国が中国側の政治的影響の拡大に困惑する一方、一部では債務返済が難しくなった国が出ている。国際通貨基金(IMF)は国の経済規模を超えた融資により、デフォルトになる危険が高まると警鐘を鳴らしているほどだ。オルバン政権は新型コロナウイルスのワクチンではいち早くロシアと中国からワクチンの供給を受けている、といった具合だ(「ハンガリーの中国傾斜は危険水域」2020年4月30日参考)。

 中国の復旦大学の姉妹校の開校を聞くと、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関「孔子学院」のことを思い出す。2004年に設立された「孔子学院」は中国政府教育部(文部科学省)の下部組織・国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)が管轄し、海外の大学や教育機関と提携して、中国語や中国文化の普及、中国との友好関係醸成を目的としているというが、実際は中国共産党政権の情報機関の役割を果たしてきた。「孔子学院」は昨年6月の時点で世界154カ国と地域に支部を持ち、トータル5448の「孔子学院」(大学やカレッジ向け)と1193の「孔子課堂」(初中高等教育向け)を有している。世界の大学を網羅するネットワークだ。欧米では「孔子学院」は儒教思想の普及や研究とは関係なく、中国共産党のソフトパワーを広める道具と受け取られ出し、「孔子学院」は「トロイの木馬」であり、欧州人の「中国脅威論」を払しょくするための狙いがあるという声が高まってきている(「『孔子学院』は中国の対外宣伝機関」2013年9月26日参考)。

 「孔子学院」について調査報告を発表した全米学識者協会のディレクター、レイチェル・ピーターソン氏によると、「孔子学院」の教材には、中国共産党が敏感話題と位置付ける事件や事案については取り上げない。1989年の天安門事件や、迫害政策に置かれる法輪功などは明記がない。また、台湾や香港の主権的問題やチベット、新疆ウイグル地域における抑圧についても、共産党政権の政策を正当化する記述となっている。 ハンガリーの学校関係者の懸念は当然なわけだ。

 トランプ前米政権が「孔子学院」が中国共産党の情報機関であると暴露したこともあって、欧米に開かれていた孔子学院は次々と閉鎖された。中国共産党政権は欧米の「孔子学院」が閉鎖に追い込まれてきたことを受け、「孔子学院」の名称の変更などを画策する一方、欧州の親中国家ハンガリーで復旦大学の姉妹校を建設することで、宣言活動を拡散する道を模索してきているわけだ。ハンガリーはその意味でパイオニア的役割を果たしているわけだ(「米大学で『孔子学院』閉鎖の動き」2018年4月13日参考)。

 なお、ハンガリーでは、ELTE大学(エトヴェシュ・ロラーンド大学)を始めハンガリー全土5つの大学に「孔子学院」が設置されている。復旦大学や精華大学といった中国名門校との協力に力を入れている。直近では、復旦大学の姉妹校以外では、中国の出資により、センメルワイス医科大学に伝統中国医療学科を設立することが発表されている。

 蛇足だが、ハンガリーのオルバン政権の中国寄り路線をフォローしていると、1989年10月2日、ハンガリー社会主義労働者党(共産党)政権の最後の首相、ミクローシュ・ネーメト首相とブタペストの国民議会首相執務室で単独会見をした時を思い出す。ハンガリー共産党は当時、臨時党大会を控えていた。ネーメト首相は会見で、「党大会では保守派とは妥協しない。必要ならば新党を結成、わが国の民主化を前進させたい」と決意を表明し、「新生した党は共産主義イデオロギーから完全に決別し、議会民主主義に適応した真の政党づくりを目指す」と強調、旧東欧共産党政権で初めて共産主義からの決別を宣言した。そのハンガリーが32年後、中国共産党政権にすり寄っているのを見ると、ハンガリーの時計の針がいつから逆回りし出したのか、と当惑を覚えるのだ(「『ベルリンの壁』崩壊とハンガリー」2014年11月9日参考)。

ハンガリーの中国傾斜は危険水域に

 中国側が建設資金の85%を融資し、ハンガリーが残りの15%を出して同国首都ブタペストとセルビアの首都ベオグラードを結ぶ高速鉄道を建設することで合意した。ロイター通信が24日、ハンガリーのバルガ財務相の発言として報じた。

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▲ハンガリーのオルバン首相(右)、新型コロナ対策でセルビアのヴチッチ大統領と会見(2020年3月22日、ブタペストで、オルバン首相公式サイドから)

 両国間の融資条件が明らかにされていないので正確な点は不明だ。固定金利というが、総額21億ドルの鉄道建設プランの契約内容は両国間で機密扱いとなっている。ロイター通信によると、ハンガリーでは今月、鉄道建設事業を巡る契約に含まれるすべてのデータを10年間機密扱いとする法案が策定されている。

 バルガ財務相は「わが国に有利な内容だ」と語っている。総距離370キロに及ぶ高速鉄道建設計画は中国、ハンガリー、セルビアの3カ国が2014年に覚書を交わしていたが、これまで計画の実行が遅れていた。

 中国は、習近平国家主席が提唱した新マルコポーロ「一帯一路」構想に基づき、アジアやアフリカで積極的にインフラ整備事業を進めているが、中国から巨額の融資を受けたアフリカ諸国が中国側の政治的影響の拡大に困惑する一方、一部では債務返済が難しくなった国が出ている。国際通貨基金(IMF)は国の経済規模を超えた融資により、デフォルトになる危険が高まると警鐘を鳴らしているほどだ。

 ハンガリーとセルビア間の鉄道建設案を聞いた時、ケニアと中国間で締結された標準軌鉄道(SGR)のことを思い出した。2017年5月に開通したモンバサ〜ナイロビ間358キロの建設のため、ケニア政府は約36億ドルを中国から借りた。この時もケニアは契約内容の開示を禁止された。中国側には、契約内容、融資条件などが公表されればマズい、という判断が働いているわけだ。

 中国の「債務トラップ外交」を警戒して、中国からの提案を拒否している国も過去出てきた。

 .轡┘薀譽ネ政府は2018年10月10日、中国から4億ドルの融資を受けて空港を建設する予定だったが、空港プロジェクトを破棄している。現地紙シエラレオネ・テレグラフによると、空港建設の資金はすべて中国が融資し、中国企業が建設し、空港管理権限も中国側が担うことになっていた。まさに“中国の、中国人による、中国のための”空港建設といえるわけだ。中国の同空港建設が中国人民軍のアフリカの軍事拠点と受け取られても不思議ではない。

 ■横娃隠固8月、マレーシアのマハティール・モハマド首相は220億ドル相当の中国支援のインフラ計画を中止させている。

 欧州連合(EU)加盟国でもあるハンガリーや加盟候補国セルビアが中国の戦略に乗せられて同じような条件で契約を締結していることに驚きと懸念すら感じる。また、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス(covid-19)が欧州全土に拡大し、多数の感染者、死者が出ている時だけに、このタイミングにも首を傾げたくなる。

 欧州諸国の中で親中派のボリス・ジョンソン英首相は自身が新型コロナに感染し、重症化したこともあって、ここにきて中国との関係に懐疑的になっている。ちなみに、昨年1〜8月にかけて、中国企業に買収されたイギリス企業は15社、買収価格は83億ドルに上る。

 また、中国から人道的支援という名目で欧州諸国に送られてきたマスクの多くが不良品で、返品を余儀なくされている。新型コロナの影響もあって、欧州での「中国株」は大きく落ちている時だ(「なぜ中国製マスクに不良品が多いか」2020年4月15日参考)。

 新型コロナ対策では、他の欧州諸国とは異なり、封鎖政策は取らず、厳格な対策には距離を置いてきたスウェーデンでも、中国との関係見直しが見られる。例えば、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関「孔子学院」の閉鎖の動きと共に、中国の都市との姉妹関係を破棄する地方都市が出てきているのだ(海外中国メディア「大紀元」)。

 ハンガリーのオルバン政権は新型肺炎の感染を受け、非常事態宣言を発表したが、今後、議会での協議をせずに新しい法令を発令できる法案を採択したばかりだ。

 オルバン首相はハンガリー国民議会で過半数を占める与党「フィデス・ハンガリー市民同盟」を土台に、野党を骨抜きにし、批判的なメディアを撲滅し、司法、言論を支配下に置いてきた。ブリュッセル(EU本部)からの批判をものともせず、難民対策ではハンガリー・ファーストを実行。その一方、習近平中国国家主席が提唱した「一帯一路」には積極的に参加し、ロシアにも急接近、EUの対ロシア制裁の解除を要求するなど、独自の外交路線を走ってきた(「『新型コロナ』は独裁者を生み出す?」2020年3月25日参考)。

 新型コロナの感染で欧州の各地でロックダウンなどの封鎖措置を実施せざるを得ない中、欧州の中国観にも変化が生じてきた。歓迎ではなく警戒心が高まってきたのだ。その中で、EU加盟国のハンガリーのオルバン政権は中国共産党政権にとって砂漠のオアシスのような存在だろう。EUだけではなく、北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもあるハンガリーの中国傾斜は危険水域に入ってきた。

 ちなみに、ハンガリーのバルガ財務相は昨年4月、「中国の通信技術大手、華為技術「(ファーウェイ)はハンガリーのITの戦略的パートナーだ」と述べている。
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