ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

イタリア

ナポリの奇跡「聖人の血の液状化現象」

 ローマ教皇レオ14世は8日、教皇就任1年を迎え、イタリア南部ナポリの大聖堂を訪問し、そこで、「血の奇跡」で知られる聖ヤヌアリウスの聖遺物を拝謁した。聖ヤヌアリウス(イタリア語でサン・ジェンナーロ)は、イタリア・ナポリで絶大な信頼を集める守護聖人であり、3世紀末から4世紀初頭に実在したベネヴェントの司教だ。

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▲ナポリの大聖堂を訪れたレオ14世、バチカンニュースから、2026年5月8日

 伝承によると、ヤヌアリウスは西暦272年にイタリアのナポリまたはベネヴェントで生まれたとされ、若くしてベネヴェントの司教となった。ローマ皇帝ディオクレティアヌスによるキリスト教迫害の時代(305年頃)、捕らえられた仲間の信者を励まそうとして自らも逮捕された。当初は円形闘技場で猛獣の餌食にされる刑を宣告されたが、獣たちが彼を襲わなかった(あるいは火炉に投げ込まれても無傷だった)ため、最終的にナポリ近郊のポッツォーリで斬首された。

 聖ヤヌアリウスが有名な理由は、ナポリ大聖堂に保管されている「聖ヤヌアリウスの血液」にまつわる不思議な現象があるからだ。普段はガラス瓶の中で黒く固まっている乾燥した血液が、特定の祝祭日に液状化する現象だ。

 伝統的に、ナポリの守護聖人の血は年に3回液状化する。5月の第1日曜日の前の土曜日(聖遺物がナポリに移送された祝日)、9月19日(聖人の祝日)、そして12月16日だ。その日は1631年のベスビオ山の噴火からナポリが守られたことを記念する日だ。

 それらの特定の日に液状化現象が起こらない場合、多くのナポリ市民はそれを不吉な前兆と考える。地震や噴火などの災厄の前触れと受け取るわけだ。ナポリは歴史的にヴェスヴィオ火山の噴火や地震、ペストの流行といった災厄に見舞われてきた。、1980年(イルピニア大地震)にナポリ近郊で約3,000人が亡くなる壊滅的な大地震が発生した。2020年(新型コロナウイルス)の パンデミックが猛威を振るい始めた時、12月の儀式で液状化が起こらなかった。
 
 ちなみに、1631年の大噴火で、ヴェスヴィオ火山の溶岩がナポリ市街に迫った際、信者たちが聖人の遺物(血液)を掲げて行進し祈りを捧げたところ、溶岩の流れがピタリと止まり、街は壊滅を免れた。このことから、12月16日は「奇跡の日」として現在も祝祭が行われているわけだ。聖ヤヌアリウスは単なる歴史上の聖人ではなく、ナポリの運命を共にする「街の守護者」だ。

 聖ヤヌアリウスの血が液化すれば、ナポリの人々にとって吉兆を意味する。レオ14世が8日、大聖堂に入る直前、この奇跡が起きたのだ。わずか数日の間に2度目の奇跡だ。レオ14世は、「聖ジェンナーロに敬意を表したい。彼はとても大切な存在だ」と述べ、大聖堂に集まった人々の歓声の中、液化した血の入った小瓶を掲げ、キスをしている。

 なお、「血の奇跡」は、過去の教皇訪問時にも記録されている。1848年のピウス9世の訪問時には、血の液化現象が記録された。1979年のヨハネ・パウロ2世と2007年のベネディクト16世の訪問時には、この奇跡は起こらなかった。

 「血の奇跡」は1389年以来、数世紀にわたり記録されているが、科学的に完全な説明はついていない。科学者たちは、この現象をチキソトロピー(特定の物質が刺激を受けると液化する性質)などに起因するものと考えている。

 カトリック教会はナポリの「血の奇跡」を公式に「奇跡」とは断定せず、「驚異的な現象(prodigy)」と呼んで慎重な姿勢を保っているが、信仰の対象として尊重している。「血の奇跡」はナポリの文化やアイデンティティと深く結びついた民間信仰と呼ぶべきかもしれない。

「天使メローニ」がローマに出現した

 聖書の世界では3大天使が知られている。ミカエル、ガブリエル、ラファエルの3天使だ。それぞれが特定の使命を担っている。ところが、その3大天使の他に、「天使メローニ」が出現し、ローマっ子たちは驚いている、という話を紹介したい。

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▲「天使メローニ」の壁画、メローニ首相公式サイトから

 「天使メローニ」が出現したのは、ローマ歴史地区にあるサン・ロレンツォ・イン・ルチーナ大聖堂だ。同大聖堂は、1946年の第2次世界大戦終結後に亡命した最後のイタリア国王ウンベルト2世の大理石の胸像を所蔵していることでも知られている。胸像の上部には2体の天使が描かれているが、修復された絵画の一つの天使の顔があのイタリアの首相ジョルジャ・メローニ氏に酷似していることから、「天使メローニ」の出現としてローマっ子を驚かしているのだ。

 この異例の絵画は、サン・ロレンツォ・イン・ルチーナ教会の脇礼拝堂に飾られている。日刊紙「ラ・レプッブリカ」が31日に報じたところによると、翼を持つ「天使メローニ」は、イタリアのブーツを描いた巻物を手にしている。その顔は右派政党「イタリアの同胞」のメローニ首相に驚くほど酷似しているのだ。

 教区によると、教会は現在修復工事中で、工事は「変更や追加は一切なし」で行われる予定だった。そのため、天使の顔の変更は装飾家の独断によるもので、関係当局には報告されていなかったというのだ。

 聖堂を管理する教区によると、今回の改修作業は教会の他の部分で作業を行っていた専門の修復業者ではなく、聖具室管理兼装飾家のブルーノ・ヴァレンティネッティ氏によって行われたという。同氏は教会で定期的に働くボランティアだという。

 ちなみに、新聞の報道によると、ヴァレンティネッティ氏は政治的には右翼支持者だ。故シルヴィオ・ベルルスコーニ首相(右翼ポピュリスト)の別荘の改修作業にも雇われていたという。

 大聖堂の教区長ダニエレ・ミケレッティ神父は「今朝新聞を読み、修復された作品を見ました。確かに似ている部分はありますが、なぜそのような形にしたのかは修復者に聞いてみないと分からない」と、ANSA通信に語っている。

 ローマ教区公式サイトには31日、「サン・ロレンツォ・イン・ルチーナ教会の絵画修復に関する声明」が掲載されている。曰く「ローマのサン・ロレンツォ・イン・ルチーナ教会の十字架礼拝堂の絵画装飾の修復に関して、1) ローマ管区長と所有者(FEC)、そしてローマ管区宗教建築局は、問題のフレスコ画(2000年)に対して、「一切の修正や追加を行わない」ことで一致していた、2) 天使の顔の修正は装飾家の主導によるものであり、管轄当局には報告されていない。3) 管区長は、教区のダニエーレ・ミケレッティ神父と共にこの件を調査し、可能な対策を検討することを約束する」。

 また、バルド・レイナ枢機卿は今回の出来事に遺憾の意を表している。「関係者の責任を明らかにするために必要な調査を直ちに開始する。ローマ教区は、芸術的・精神的遺産の保護に対する決意を新たにし、聖なる芸術とキリスト教の伝統の画像は、典礼生活と個人および共同体の祈りを支えるためにのみ意図されているため、悪用または搾取されてはならないことを改めて強く表明する」と述べている。

 政治家の反応も早かった。下院文化委員会の野党民主党(PD)イレーネ・マンツィ党首は、アレッサンドロ・ジュリ文相に対し、ローマ建造物管理局を直ちに介入させるよう要請している。曰く「恣意的な改変、個人化、科学的根拠に基づかない介入を禁じるイタリア文化遺産及び景観保護法典の重大な違反に該当する可能性がある」と指摘している(オーストリア国営放送のヴェブサイト)。

 一方、天使に格上げされた?メローニ首相の反応はどうか。メローニさんはインスタグラムに絵画の写真を投稿し、「私は決して天使には見えません」と述べているが、「私に許可を取らずに・・」といって怒ってはいない。案外、喜んでいるのかもしれない。

 いずれにしても、教会側が「天使メローニ」の絵画を撤去しない限り、その絵画を一目見ようと、サン・ロレンツォ・イン・ルチーナ教会に多くの観光客が殺到するのは間違いないだろう。ローマ市内に新しい観光地が生まれるのだ。

武漢ウイルスと‘ベルガモ哀歌‘

 イタリア北部ロンバルディア州は中国武漢発の新型コロナウイルスの最大感染地となった。その州の中でも人口12万人の小都市ベルガモ市(Bergamo)の感染者数が最も多い。世界のメディアはベルガモを「イタリアの武漢」と呼んだほどだ。

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▲「イタリアの新型コロナ感染者をケアする医者と集中治療室」(イタリアの「ANSA通信」から、2020年3月19日)
 
 感染者が殺到する同州の病院は患者で溢れ、医療は崩壊し、重症者を収容するベッドはない。感染者がまだ少ない南部州に転送するなど、イタリア保健当局は対応に苦しんだ。2020年3月18日、コロナ患者の遺体を運ぶ軍用トラックの写真が世界に発信された。遺体の数は多すぎて埋葬する場所がなくなったために、軍用トラックがコロナ患者の死体を他の州に運ぶ写真だ。この写真を見た人々は中国武漢発の新型コロナウイルスの恐ろしさを肌で感じたはずだ。

 イタリア当局は2020年3月19日、コロナ患者の死者数を初めて公表した。当時、3405人がコロナ感染で亡くなった。死亡者の平均年齢は79・5歳だった。新型肺炎の死者数では欧州のイタリアは中国のそれを大きく上回り、世界最大の感染地となった。

 ベルガモ市の病院に勤務する医師がソーシャルネットワーク(SNS)を通じて緊急支援のアピールを発信し、イタリア全土ばかりか、欧州でも大きな反響を呼んだ。医師は「患者の急増で病院では医師が使える防御服は限られ、重症患者用の人工呼吸器が不足している」と訴えた。イタリアでは医師不足を補うために、大学で勉強を終えたばかりの医学生を病院の現場に送った。

 集中治療室のベットは限られ、人工呼吸器は不足している中、医者はどの患者を優先して治癒し、どの患者を後回しにせざるを得ないかの選択(トリアージ)を強いられていた。すなわち、患者の生死を自分が決定しなればならない現場の重い選択に悩み、多くの医者たちは体力的にも精神的にも疲れ切ってしまった。

 独週刊誌シュピーゲル誌(2025年03月15日)はコロナのパンデミックの欧州のホットストップとなったベルガモを現地取材したルポを掲載していた。コロナ感染で亡くなった家族関係者にインタビューしていた。家族は埋葬の場には立ち会えず、葬儀も15分から20分で終わり、直ぐに埋葬された。突然の親族の死に「準備もしていなかったトラウマに今なお苦しむ人が多い」(シュピーゲル誌)という。

 ベルガモ市内で会社を経営するカルロ・ツォナト氏は「新型コロナウイルスは我々のライフスタイルを激変させるだろう」と述べていた。ベルガモにはローカル新聞があるが、新型肺炎で亡くなった市民の訃報欄が10頁にもなった(「‘欧州の武漢‘ベルガモを救え!!」2020年03月21日)。

 ローマ教皇フランシスコは3月27日、誰もいないサンピエトロ広場で「主よ目を覚ましてください」という聖句を引用しながら新型コロナウイルスの感染の終息を祈った。イタリアで同日、969人が新型コロナで死去した。死者数では最も多い日だった。

 国境、民族の壁を越えて広がり、世界で700万人以上が犠牲となったコロナパンデミックで人類は何を学んだろうか。世界の関心はその後、ウクライナ戦争、中東戦争に注がれていったが、コロナウイルスの発生源について今なお解明されていない。

 ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は南ドイツ新聞(SZ)とのインタビュー(2022年2月9日)で、「残念ながら、中国側は実験内容の全容を隠蔽している。また、米国の一部のウイルス研究者は武漢ウイルス研究所(WIV)の実験について知っていたが、その内容を積極的に明らかにすることを避けた」と指摘している。

イタリア家族相の主張は「正論」だ

 欧州連合(EU)上半期の議長国ベルギーがEU加盟国(27カ国)に提示した、LGBT+コミュニティの支援を促進するためのEU宣言に対し、イタリアのエウジェニア・ロッチェッラ家族・出生・機会均等相はローマの日刊紙「イル・メッサッジェーロ」(日曜版)のインタビューの中で「私たちはこの宣言文は非常に偏っていると感じる」と批判している。

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▲「ウィーン・プライド」のフェイスブックから「パレードに参加する性的少数派の人々」

 EU宣言は、5月17日の「国際反ホモフォビア、トランスフォビア、バイフォビアの日」(IDAHOBIT)、通称「多様な性にyesの日」に合わせて作成されたもので、署名国はLGBT+の人々のための国家戦略の実施と、EU議会選挙から生まれる新しい欧州委員会で新しい平等担当EU委員の任命を約束している。

 それに対し、イタリアの家族相は「親権」を引き合いに出し、「誰もが愛する人や性的関係を持つ人を選ぶことができる。しかし、文書で支持されている『自分がなりたいものになる自由』は、イデオロギー的な強制であり、現実の否定だ。身体と性的所属の現実は最終的には変えられないからだ」と主張し、「私は、いわゆる性の二元性が依然として有効であるべきだと考えている。すなわち、女性と男性が存在する。私たちは、人類の継続性と親権に基づく人類学を維持したい。男性と女性を廃止すると、親権も変わり、子供が生まれなくなることは当然で驚くべきことではない」と述べている。同相は、ポストファシスト政党であるイタリアの同胞(Fratelli d’Italia - FdI)に属する。

 EU宣言に署名しなかったのは、イタリアのほか、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、クロアチア、リトアニア、ラトビア、チェコ、スロバキアだ。

 6月は「LGBT月間」(プライド月間)と言われ、欧州全土で性的少数派の権利擁護に関するイベントが挙行される。性的少数派コミュニティは社会の多数派と同様の法的権利と保護を求めている。彼らの最終目標は同性婚の認知だ。バイデン米大統領は昨年、「全ての人間は誰を愛していようと、どのように(性を)自認していようと、尊厳と平等をもって扱われる権利がある」とのメッセージを発している。

 社会はこれまで婚姻は男性と女性の異性婚を前提にしている。しかし、ここにきて先進国を中心に同性婚を異性婚と同様に認知する国が増えてきた。寛容と多様性という魔法の言葉が闊歩し、性的少数派に理解を示さない人は逆に差別される、といった風潮が支配的となってきている(「『LGBT月間』に思う」2022年6月20日参考)。

 オランダが2001年4月1日、同性婚を最初に合法化して以来、欧州を中心に同性婚を認知する国が増え、2024年現在で36カ国が同性婚を認めている。

 欧米社会では生物学的性と性自認が一致しないことで悩む人が出てきた。男性、女性のどの性にも属さない性自認(ノンバイナリー)を主張する人も出てきている。人間は男性、女性の2性ではなく、その混合性を含んで3性が存在すると主張する知識人がいる。「女性は女性として生まれたのではなく、女性となるのだ」といったジェンダー問題での社会的条件を強調する学者もいる。
 
 ドイツでは17日、自己決定法案(Das deutsche Selbstbestimmungsgesetz)が発効することになった。連邦参議院が調停委員会にこれを付託しないことを決定し、法案を通過させた。この法律により、今後は性別登録と名前の変更が官庁で大幅に容易になる。これまで必要とされていた裁判所の決定と2つの専門家の鑑定書は、今後は必要ではない。これまで性別登録を変更するために高いハードルと費用のかかる手続きを経なければならなかったトランスジェンダー、インターセックス、ノンバイナリーの人々にとって朗報となる。

 ちなみに 欧州国別対抗の音楽祭「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」の決勝が11日、スウェーデンのマルメで行われ、スイス代表のNemo(24)が優勝したが、彼はノンバイナリーだ。スイス公共放送(SRF)のスイス・インフォによると、ラッパーで歌手のNemoは、ドラムンベース、オペラ、ラップ、ロックを織り交ぜた楽曲「The Code」で、性自認を男女の枠に当てはめない「ノンバイナリー」としての自分を受け入れるまでの道のりを歌い上げたという。

 日本でも2023年6月16日、「LGBT理解増進法」を国会で可決、成立した。 この法律の目的は、LGBTへの理解を広めつつ、不当な差別を抑止することだ。今後は基本計画の策定や啓発活動などを実施し、性的少数派への理解を促進し、差別などをなくしていくという。

 欧米諸国を中心に同性婚が次第に市民権を得てきている。リベラルなメディアや世論がそれを後押ししている。LGBT+運動を批判すれば、メディアからバッシングを受ける世の中となってきた。それだけに、イタリア家族相の勇気ある主張を評価したい。

 特定のテーマでメディアが大合唱して応援し、批判する時、私たちは用心深くならなければならないことを学んできた。同性婚の公認は、国家の土台にも大きな影響を与える問題だ、それだけに、時流や世論に流されることなく、冷静に慎重に対応すべきだ。

メローニ伊首相の“華麗な変身”

 選挙戦では各政党は選挙プログラムを発表する。有権者はその公約をみて投票する。ドイツのショルツ政権は2021年12月8日、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党から成る連立政権を発足させたが、それに先立ち、3党は同年11月24日に合意した連立協定(178頁)を公表し、任期の4年間で優先して取り組む政治課題をまとめた。

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▲日伊首脳会談の臨むメローニ首相(2023年5月18日、G7広島サミットで、首相官邸公式サイトから)

 そのショルツ連立政権は発足から中間点に差し迫ってきた。ショルツ首相は8月末、「3党連立政権は政権発足以来、既に公約の半分以上を実施した」と豪語し、メディアの世論調査では支持率が低迷な連立政権だが、実際は「実行する政権だ」とアピールした。例えば、ショルツ政権は脱原発政策を今年4月に成就し、大麻の部分的解除を実施したばかりだ。

 イタリアではジョルジャ・メローニ首相の率いる極右政党「イタリアの同胞」を中心とした右派連立政権が発足して9月22日で1年目を迎えた。ところで、メローニ首相の与党「イタリアの同胞」は選挙戦では反欧州連合(EU)政策、難民殺到防止に海上封鎖を主張、外交ではロシア寄りの姿勢をみせ、多文化主義には反対し、左翼的文化価値観に対して厳しく批判してきたが、政権発足後、親EU政策を展開させる一方、難民対策でもEUと連携してチュニジアと難民対策で協調するなど、選挙前の強硬な政治路線は巧みに修正されてきている(「チュニジアは“第2のトルコ”に」2023年7月18日参考)。

 対EU政策でも、「わが国はこれまでドイツやフランスの利益を支持するだけで終わり、わが国のアイデンティティを擁護する姿勢が乏しかった。巨大な債務、低賃金、難民問題、これらの問題に対してわが国の指導者は欧州が悪いからだと説明してきた。しかしイタリアに必要なものは本当の愛国心だ。わが国を守る精神だ」と主張してきた。そのメローニ首相はここにきてEUとの協調政策を模索し出している。

 メローニ女史は2012年にネオファシズム政党と呼ばれる「同胞」(Fratelli d'Italia)を結成し、14年に党首に就任。10年前の選挙では得票率1・96%に過ぎなかったが、昨年9月の総選挙で26%を獲得した。

 メローニ首相は1996年、「イタリアの独裁者ベニート・ムッソリーニはいい指導者だった」と堂々と語るなど、ネオファシストと受け取られた。メローニ氏が首相になった時、バイデン米大統領は「イタリアの民主主義が後退する」と懸念を表明していたほどだ。そのバイデン大統領は7月末、ホワイトハウスでメローニ首相と会談し、「われわれは友達になった」と言っている。

 ロシア寄りだったメローニ首相はウクライナ戦争勃発後、ウクライナを支援するなど欧米諸国と歩調を合わせ、北大西洋条約機構(NATO)加盟国からも人気を呼んでいる。また、対中政策では、イタリアは2019年に中国の習近平国家主席が提唱した新シルクロード「一帯一路」にG7メンバーとして初めて参加したが、米国などから非難を受けてきた。しかし、クロセット国防相は7月30日、「同プロジェクトには失望した」と表明するなど、メローニ政権は「一帯一路」からの離脱を検討中といわれる。メディア情報によると、「12月までに決断する」という。

 政権発足後、メローニ首相の口からはムッソリーニといった名前が飛び出すことはないばかりか、自身が結党した政党メンバーに対して、過激な発言を慎むように要請、現在は「国民的保守運動を推進していきたい」と述べ出している。「メローニ女史にとって極右政治という衣服はもはや着心地が悪いのだ。世界の政治舞台で華やかに動き回りたくなったのではないか」と冷静に受け取る声も聞かれる。

 選挙公約を破棄すれば、有権者には激怒され、メディアからも言語不一致として叩かれるものだが、メローニ首相に対する国民の評価はむしろ改善し、「イタリア初の女性首相のメローニ氏は長期政権を目指している」など好意的な論調が聞かれ出している。

 イタリアでは、終戦後に誕生した共和国を第1共和国とすれば、1994年シルビオ・ベルルスコーニ氏が率いる中道右派「フォルツァ・イタリア(FI)」政権を第2共和国、そして第3共和国はメローニ首相の「同胞」主導のもとに始まる、といった予測すら聞こえるほどだ。

 メローニ首相は公約を無視してというより、捉われない新しい政治スタイルを目指しているのだ。独週刊誌シュピーゲル9月16日号は、5ページに渡ってメローニ政権発足1年目を特集していたが、その特集の見出しは「メローニ・モデル」(Das MeloniーModell)だ。シュピーゲル記者は、「メローニ首相は以前はハンガリーのオルバン首相を模範としてきたが、現在はオルバン主義から離れ、新しい欧州右派の独自のメローニ・モデルを目指している」と述べている。

イタリア警察の捜査力と執念は凄い

 イタリア警察の捜査力、犯人をどこまでも追跡するその執念は並大抵ではない。2014年以来、逃走中のマフィアがユーチューブ(You Tube)の有名な料理番組の動画に登場していたところ、警察官に逮捕された話はこの欄でも紹介したが、今回は2002年以来、同じく逃走中で行方不明のシチリアのマフィアをグーグル(Google)のストリートビューで見たイタリア捜査官が「彼だ!」と分かって2年間余りの慎重な調査後、昨年12月、スペイン警察と連携して逮捕したのだ。

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▲イタリア国家警察(ウィキぺディアから)

 前者はユーチューブの動画、後者はグーグルのインターネット地図で偶然、捜査官が長い間、行方を追っていたマフィアを見つけ出したのだ。前者は行方不明になって7年が経過している。両者ともラッキーだったともいえるが、捜査官が行方不明になったマフィアを必ず逮捕するという執念がなければ、幸運を引き寄せることはできない。後者の場合、行方不明から13年以上の年月を経ている。逃亡中のマフィアもをその間、外貌を変えているだろう。にもかかわらず、イタリア捜査官が「彼だ」と識別した眼力は驚くべきものだ。

 まず2件の事件を簡単に紹介する。2014年、オランダにコカインを密輸していた容疑で警察官に追及されていたイタリア・マフィアのンドランゲタ(Ndrangheta)メンバー、ビアルト容疑者(Marc Feren Claude Biart)はその直後、姿を消した。インターポール(国際刑事警察機構)が懸命にその行方を追ったが、捜査は迷宮入りの様相を深めていた。ところが、ひょんなことからマフィアの潜伏先が判明したのだ。その貴重な情報を提供したのは、なんとユーチューブの料理番組だった。

 イタリア人のビアルト容疑者の趣味は料理で、イタリア料理を作る事が大好きだった。彼はドミニカ共和国に逃げ、そこで5年余り静かな潜伏生活を過ごしてきたが、時間があるので相棒の女性と共にユーチューブで料理の動画を流すことにした。もちろん、その動画で顔を見せるわけにはいかないから、料理する手だけを撮影して放映した。

 ビアルト容疑者はユーチューブの評判がいいこともあって、料理番組に夢中になっていた。その矢先、イタリア警察は料理人となって潜伏中の彼を逮捕したのだ。動画ではマフィアは顔を見せていない。どうして警察側は身元を確認できたのかだ。その疑問を解くのはマフィアが手に彫っていた入れ墨だった。料理番組の動画では料理人の顔は映らないが、手は見える。その手に彫っていた入れ墨が映っていたのだ。そして、それに見覚えのある関係者がイタリア警察に連絡したことから、2014年から姿を消してきたビアルト容疑者の在処が分かり逮捕されたわけだ。入れ墨が事件の解決に大きな役割を果たしたのだ(「伊マフィアと入れ墨と料理の動画」2021年4月2日参考)。

 次の事件では、イタリア捜査官はグーグルマップのストリートビュー画像を見て、行方不明のマフィアだと判断した。スペインのガラパガールの町で果物と野菜の屋台の前で食材を探している男がその行方を追っていたマフィアだと直感し、スペイン警察と連携をとって調査を進め、マフィアがマドリードに潜伏していることを掴んで、昨年12月17日、スペイン警察と連携して犯人を逮捕したのだ。

 地元のローカル紙「ラ・レプッブリカ」によると、町にはシチリア料理を提供するレストランがあり、そのレストランはソーシャルネットワークにシェフの写真を投稿していた。あごの傷跡から、捜査官はそれが指名手配者であるとすぐに分かったという。マフィアは過去、殺人や麻薬密売などを行い、有名なコーザノストラ(Cosa Nostra)のカウンター組織であるシチリア・マフィア「スティッダ」(Stidda)に所属していた。彼は一時、逮捕されたが、2002年、ローマの悪名高い刑務所レビビアから逃走した。イタリアのメディアによれば、犯人は終身刑だったという。

 犯人捜査で大きな役割を果たしたのはグーグルのストリートビューだ。当方にはこんな経験がある。ある時、息子が「パパがこんなところに写ってるよ」と言ってスクリーンショットを送ってきた。理髪店を探すためにグーグルのストリートビューを見ていたという。すると、緑色のリュックサックを背負ったアジア系男性が歩いている。「すぐパパだと分かったけど、偶然にしても余りにもおかしくて笑ったよ」という。当方はきっと近くの店で何かを買って帰るところだったのだろうが、写されているとは我知らず、だ。リュックサックの男はまさに当方だった。

 だからイタリア警察が20年前に逃走したマフィアをグーグルのストリートビューで見つけたという話を読んだとき、今やどこにいても、いつ誰に見られているか分からない時代なのだと感じた次第だ。

 奇しくも、2人のマフィアにとって、好きな「料理」が命とりとなった。イタリア人の人生哲学は「ドルチェ・ヴィータ」と呼ばれ、人生を楽しむことを大切にする。ビアルト容疑者の趣味は料理で、イタリア料理を作る事が大好きだった。別のマフィアはシチリア料理店を経営していた、といった具合だ。逃走中のマフィアたちは、捜査官の追及とともに、動画をアップしたり、ストリートビューに映り込むことを警戒し始めたことだろう。

「母の日」と奇跡のテノール歌手の話

 9日は「母の日」だ。世界各地で子供たちからお祝いの言葉やカーネーションなどの花を受け取る母親が多いことだろう。母親を早く亡くした人にとっては生前の母親の思い出に浸る日となるだろう。

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▲「母の日」にプレゼントされるカーネーション(ウィキぺディアから)

 「母の日」といえば、当方は直ぐにユダヤ人の名言を思い出す。「神は常に貴方の傍にいれないので母を貴方のもとに遣わした」という言葉だ。正直言って驚いた。旧約聖書の神は厳格な父親のような存在だが、その旧約の神を信望するユダヤ人が神に母親のような役割があることを指摘しているからだ。旧約時代の神は戒めに従わない人間を罰し、他民族によって滅ぼさせてきた。モーセの「出エジプト」時代を思い出しても、神は異教の教えを許さなかった。先のユダヤ人の名言は、ユダヤ民族の心の中に母性的神、愛し、許す神を求めていく信仰が芽生えていったことを示唆しているのだ。日本のカトリック教作家・遠藤周作は生涯、母親のような神を求めていたように、ユダヤ人はキリスト教が生まれる前から神の中に母性的神性を模索してきたのかもしれない。

 「母の日」の2日前、アマゾン・プライムのビデオで世界的テノール歌手アンドレア・ボチェッリの自伝小説の映画「ミュージック・オブ・サイレンス」(監督マイケル・ラドフォード)を観た。2017年に公開された映画だ。

 当方は音楽の都ウィ―ンに久しく住みながらクラシックには疎いが、イタリア人の盲目のテノール歌手ボチェッリの名前は知っていた。奇跡のテノール歌手と呼ばれるボチェッリのアルバムは1億枚以上売られているという。新型コロナウイルスの感染で自宅にいる時間が多くなった当方はひょんなことからCarly Paoliが出演する「Music for Mercy」のライブコンサートのビデオでボチェッリが歌っているのを聞いて、凄い歌手だと改めて感じた。

 1時間55分の映画はボチェッリの自伝小説に基づいたもので、イタリアの美しいトスカーナ地方の風景を背景に、アモス(映画の中ではアンドレアではなく、アモスと呼ばれている。ボチェッリ自身、最もトスカニー的な名前と述べている)は1958年9月に生まれた。母親は赤ん坊のアモスが激しく泣くのをみて「何かおかしい」と気が付き、「赤ん坊は泣くものだ」という夫の言葉を振り切って病院に行く。そこで視力が脆弱だと分かる。しかし、アモスはまだ光は見え、両親のシルエットは見えた。その数年後、アモスは12歳の時、光が見えなくなったことに気が付き、両親に告げる。母親はアモスの傍に駆け寄って嗚咽する場面は映画の中で最も心が動かされるシーンだ。

 叔父がアモスにはオペラ歌手の才能があると気が付き、地元のコンサートに参加させた。アモスは優勝したが、オペラ批評家から「貴方にはオペラの才能はない」と指摘され、失望。その後、弁護士になる為に法学を学び出す。さまざまなハンディがあったが、友人や叔父の助けを受け、無事卒業することができた。

 アモスは当時、学費を稼ぐためにミュージック・バーでピアノを弾き、歌っていたが、オペラ批評家から言われた「オペラ歌手として才能がない」という言葉を忘れることができず、少々自暴自棄になっていた。両親からの自立を願っていたアモスはある日、ピアノの調律師から近くにスペイン人の歌の先生がいることを聞く。アモスはそこで生涯最良のマエストロ(伊巨匠、師)に出会い、歌の指導を受けることになる。師(映画「怪傑ゾロ」役のアント二オ・バンデラスが演じている)はアモスに「テノール歌手となれるためには規律ある生活をしなければならない」と諭す。紆余曲折があったが、イタリアの有名ポップ歌手ズッケロと一緒に共演できるチャンスを得て、世界的なテノール歌手となっていく。

 ボチェッリの話を聞くと、日本の盲目の天才ピアニスト辻本伸行氏を思い出す。彼はボチェッリとは違い、生まれた時から全盲だった。もし見えたら何を見たいですかと質問された時、同氏は「お母さんを見たい」と答えたという。ボチェッリは目が見えなくなって失望していた時、母親が慰めに来る。母親は「お前は何も見えないのか」と寂しく聞くと、アモスは「お母さんが傍に立っているのを知っているよ」と答える。

 叔父はアモスに「音楽は人を幸せにする」と述べ、音楽の道に行くように説得する場面は印象的だ。マエストロはアモスに「君は(目が見えないから)周囲の動きに左右されない。だから喋らず、心の声に集中し、そこから生まれる声で歌え」と述べている。同映画は英語では「ザ・ミュージック・オブ・サイレンス」と呼ばれているのも頷ける。アンドレア・ボチェッリの歌声は心の中のサイレンスから生まれてきたものだろう。放浪の民、ユダヤ人には神が遣わした母親が傍にいるように、ボチェッリは視力を失った後も母親のシルエットをみていたのだろうか。

 今日は、世界の母親に感謝を贈る日としたいものだ。

伊地方検察がWHOを告発した内容

 イタリア北部ベルガム検察当局は、スイスのジュネーブに本部を置く世界保健機関(WHO)とラニエリ・ゲラ前事務局長補(現テドロス事務局長特別顧問)を中国武漢発の新型コロナウイルスの初期対応でイタリア政府に虚偽の情報を提供した疑いで告発している。 スイス放送協会のウエブサイト「スイス・インフォ」のニュースレター(4月22日)が同国日刊紙ル・タン(4月13日)の情報として報じた。

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▲世界保健総会風景(WHO公式サイトから)

 スイスインフォによると、「日刊紙ル・タンが入手したベルガモ検察局の国際司法共助の要請書によると、イタリアが(新型コロナの流行に対して)どれほど準備不足だったかを隠ぺいするために伊政府とWHOが共謀していたことが明らかになっている」というのだ。

 全ての感染症の対応には初期の対応が最も重要だ。それを間違えれば、多くの死者、感染者が増える一方、迅速に対応すれば「イタリアにパンデミックへのより良い備えがあれば、新型コロナ第1波で少なくとも1万人の命を救うことができたはずだ」(イタリア軍ピエル・パオロ・ルネリ元司令官)ということになる。米ジョンズホプキンス大の集計によると、4月30日現在、世界で1億5000万人が感染している。

 中国共産党政権が武漢発の新型コロナウイルスの初期の感染状況、患者のデータを迅速に公表していたならば、現在のような多くの人々が犠牲になることなく終わったかもしれない。中国共産党政権の初期の対応は「感染症によるジェノサイド」といわれても仕方がない。

 スイス日刊紙ル・タンの報道によれば、昨年5月13日、伊ベネチアのWHO事務所に所属するイタリア人研究者フランチェスコ・ザンボン氏を筆頭に欧州の科学者11人が「前例のない挑戦、新型コロナウイルス感染症へのイタリアの初期対応」と題した報告書を発表したが、WHOは24時間後にその報告書を撤回したというのだ。

 102頁に及ぶ報告書が撤回された理由として、「WHO欧州地域事務局が早まって発表した地域的な文書だ。報告書に記載されたデータや情報には、確認されていなかったため、不正確な点や矛盾点がある。発表するべきではなかった」と弁明しているが、実際は、報告書がイタリア政府の初期対応の遅れを指摘する一方、WHOとイタリア政府がその報告書の内容を隠蔽するため連携していたのだ。ゲラ氏は2014年から17年の間、伊保健省予防局の局長を務めた人物だ。ゲラ氏の局長時代の責任も問われることになりかねないはずだ。

 ゲラ氏は今も、WHOのテドロス事務局長の特別顧問を務めている。テドロス事務局長の関与は現時点では不明だが、5月に開催予定の世界保健総会で加盟国から動議が出てくるかもしれない。

 報告書の作成者の1人、伊ベネチアのWHO事務所に所属するイタリア人研究者フランチェスコ・ザンボン氏は、「問題となっているのは世界が必要としているWHOという組織だ。加盟国に対するWHOの独立性の問題だ。なぜなら、我々の報告書のように、ある政府(この事件ではイタリア)の気分を損ねるという理由で報告書が修正されなければならないとしたら、中国についてはどうかを想像してほしい」と述べている。

 感染症の場合、その発生源の検証と共に、重要な問題は感染初期時期の検証だ。中国当局は昨年1月20日、ヒトからヒトへの感染を認め、同23日に武漢市でロックダウン(都市封鎖)を実施し、初の感染確認は2019年12月8日と主張してきたが、欧米側の情報によると、2019年秋に新型コロナが既に発生していたという報告が多数ある。

 もし「2019年秋説」が事実とすれば、武漢市が閉鎖される前に多くの感染者が国外に旅行していた可能性が考えられる。イタリア高等衛生研究所によると、同国北部の2都市に新型コロナウイルスが2019年12月に存在していたことが、同研究所が行った下水調査で判明した。ミラノやトリノの下水から2019年12月18日に採取されたサンプルに新型コロナウイルス「Sars-Cov-2」の遺伝子の痕跡が発見されたからだ。イタリア北部ロンバルディア州で新型コロナが爆発的に感染する数カ月前に同国で新型コロナが広がっていたことになる(「Covid-19の最初の感染時期を探れ」2021年1月31日参考)。

中国武漢発の新型コロナが感染拡散した直後、テドロス事務局長は昨年1月28日、中国北京を訪問し、習近平国家主席と会談、中国の新型コロナ感染の対応を評価し、称賛した。親中国寄りの事務局長の姿勢に批判の声が高まったことはまだ記憶に新しい。

 また、WHOは今年1月末から2月にかけ、中国武漢に現地視察団を派遣したが、視察後の記者会見では「武漢ウイルス研究所」からのコロナウイルス流出説をあっさり否定し、「動物から中間宿主を通じて人に感染した」可能性や、「冷凍食品を通じて外部から侵入した」という中国側の主張に理解を示すなど、調査結果は明らかに中国側寄りだった(「WHO『武漢現地調査』の成果は?」2021年2月13日参考)。

 スイス日刊紙の上記の内容はWHOの信頼性を一層揺るがす出来事だ。その張本人が依然、WHOの指導者の1人として勤務しているのだ。WHOの抜本的な刷新が急務だ。

 (同コラムはスイスインフォの記事に基づく。詳細な記事内容はスイスインフォ日本語版で入手可能)。

伊マフィアと入れ墨と料理の動画

 世の中にはちょっと考えられないような事件や出来事が生じるものだ。以下は、4月1日エイプリルフール用の話ではない。イタリアのマフィアの話だ。2014年、オランダにコカインを密輸していた容疑で警察官に追及されていたイタリア・マフィアのンドランゲタ(Ndrangheta)メンバー、ビアルト容疑者(Marc Feren Claude Biart)はその直後、姿を消した。インターポール(国際刑事警察機構)が懸命にその行方を追ったが、今月に入るまで分からなかった。事件は迷宮入りの様相を深めていた。

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▲「刺青」をしているところ(マシーン彫り)=ウィキぺディアから

 ところが、ひょんなことからマフィアの潜伏先が判明したのだ。その貴重な情報を提供したのは、なんとユーチューブ(You Tube)の料理番組だった。独の代表紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)電子版が先月末報じた実話だ。

 イタリア人の人生哲学は「ドルチェ・ヴィータ」と呼ばれ、人生を楽しむことを大切にする。イタリア人のビアルト容疑者の趣味は料理で、イタリア料理を作る事が大好きだった。彼はドミニカ共和国に逃げ、そこで5年余り静かな潜伏生活を過ごしてきたが、時間があるので相棒の女性と共にユーチューブで料理番組の動画を流すことにした。もちろん、その動画で顔を見せるわけにはいかないから、料理する手だけを撮影して放映した。

 ビアルト容疑者(53)がユーチューブの評判がいいこともあって料理番組に邁進していた。その矢先、イタリア警察は料理人となって潜伏中のマフィアを逮捕したのだ。

 動画ではマフィアは顔を見せていない。どうして警察側はマフィアの身元を確認できたのかだ。その疑問を解くのはマフィアが手に彫っていた入れ墨だ。料理番組の動画では料理人の彼の顔は映らないが、手は見える。その手に彫っていた入れ墨が動画の中に映り込んでいたのだ。そして、その入れ墨に覚えのある関係者がイタリア警察に連絡したことから、2014年から姿を消してきたビアルト容疑者は逮捕されたわけだ。入れ墨が事件の解決に大きな役割を果たしたのだ。

 入れ墨といえば、米FOX制作のサスペンスドラマ「プリズン・ブレイク」(ウェントワース・ミラー主演)を思い出す読者もいるだろう。覚えのない殺人で死刑囚になった兄を救う為に銀行泥棒を演じて兄が収監されているフォックスリバー刑務所に入り、兄を救い出すという話だ。その前に、主人公の弟は脱獄するために刑務所の構造やその逃亡先まで詳細に描いた入れ墨を背中にする。その入れ墨に秘められた情報をもとに脱獄する話だ。そこでも入れ墨が大きな役割を果たしている。

 このコラム欄でも欧州の入れ墨ブームについて書いたことがある(「ドイツの若い女性は『刺青』がお好き」2019年7月4日参考)。独週刊誌シュピーゲル(2019年6月22日号)によると、ドイツでは2017年の段階で、5人に1人が自分の体に刺青(タトゥー)を入れ、25歳から34歳の女性に限ると、その割合は2人に1人となるという。記事を読んで正直驚いた。刺青は欧州社会では市民権を完全に獲得しているわけだ。

 オーストリアでもドイツと同じ傾向がみられる。16歳から30歳までの若い世代では25%が刺青をしている。同国には600人以上のプロの刺青師がいる。そのほか、ハンガリーやチェコから不法な刺青師が入ってきている。

 考古学によると、刺青の歴史は人類歴史と同じように長い。刺青は自身が所属している社会、グループを表示する一方、それに対して忠誠を表明する手段のように受け取られていたという。現代の若者は愛する人の名前を腕や胸に刺青する場合が結構多い。刺青することで変わらない愛を自分の体に表現するわけだ。

 体中に刺青をしている元プロサッカー界の英雄デビッド・ベッカムを思い出してほしい。当方が好きな米CBS映画シリーズ「ハワイ・ファイブオー」の主演アレックス・オローリンも両腕に刺青をしている。有名人の刺青に刺激されて、体に刺青をする若者は増えてきた。

 欧州では多くの若い世代が一種のモードとして体に刺青を入れるが、その刺青を消すための方法もレーザー除去から皮膚移植など多種多様に出てきている、早まって刺青をしたが、その刺青が重荷となってきたので消したい、と刺青師に泣きつく若者もいるという。

 先のイタリアのマフィアの話に戻る。多分、彼は手の入れ墨で自分の居所が割れるとは考えていなかったはずだ。警察官が自分の潜伏地に現れた時、驚いただろう。貴重な情報を提供した入れ墨がどのようなものであったかについては、FAZの記事は何も説明していない。多分、プリズン・ブレイクの主人公のような奇抜なデザインだったはずだ。

ベルガモ市民「救急車のサイレン怖い」

 イタリア北部ロンバルディア州のベルガモ(Bergamo)市に住む親戚の子供が夏休みを利用して1週間ほどオーストリアのニーダーエステライヒ州にいる息子夫婦を訪ねてきた。10歳の男の子ダビデ君だ。来る時と帰りの迎えの時は母親が連れ添った。シングル・マザーの彼女は、息子に夏休みの楽しみを作ってあげたいと計画し、実妹が住むオーストリアの息子夫婦にお願いしたわけだ。大好きな息子夫婦に再会したダビデ君は大喜びだ。以前会った時はまだ暴れん坊の子供だったが、今回の写真を見れば、しっかりした少年に成長している。

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▲ベルガモ市の風景(2014年6月、イタリア北部ロンバルディア州ベルガモ市で撮影)

 息子夫婦は、来る前から子供の喜ぶプランを考えていたに違いない。息子が送ってきた写真を見れば、暑い日には広い屋外プールでじゅうぶん泳いで楽しみ、涼しいガーデンの夕食、3D体験ミュージアムで遊んだり、キャンプ場のロッジ風の所で宿泊したりと盛りだくさんのプランだったようだ。ダビデ君にとって、久しぶりの楽しい夏休みを過ごせたわけだ。昔のダビデ君のように大暴れしながら息子夫婦と楽しんだという。

 時間はあっというまに過ぎる。母親がベルガモから迎えに来たが、ダビデ君は息子夫婦と別れるのが悲しくて泣き、ダビデのおばさんである息子の嫁も泣いたという。ベルガモでは新型コロナウイルスの感染防止のためにダビデ君は友達と遊ぶこともできず、祖父母宅でテレビを見たり、ゲームをしながら過ごしてきたのかもしれない。

 中国武漢から発生した新型コロナウイルス(covid-19)は当初、欧州ではイタリアで大感染が発生し、同国北部のロンバルディア州のベルガモでは連日、感染者が出て、多くの死者が出た。今年3月19日、イタリアの新型コロナ感染者は4万1035人、死者は3450人となった。新型肺炎の発生地中国の3245人を上回り、死者数は世界で最多となったほどだ。イタリアの中でもベルガモは大変だった。この人口12万人の小都市の感染者数が増え、武漢のような大都市ではないが「イタリアの武漢」と呼ばれた。

 同市の医療は崩壊し、重症者を収容するベッドはなく、南部州に患者を転送するなど、対応に苦しんだ。ベルガモ病院の医者が、「ベルガモを助けてほしい」と緊急メッセージをソーシャルネットワーク(SNS)で発信した。防護服が限られ、医療器材が不足して、重症患者を治療できない医者の苦しさを訴えていた。

 死者を埋葬する墓地の場所もなくなり、軍隊が遺体を南部州に運ぶ一方、遺体をまとめて火葬せざるを得ない状況だった。ベルガモはローマ・カトリック教会の信者が多く、遺体は本来、埋葬することになっているが、その場所も時間もなくなってきたからだ。ベルガモにはローカル新聞があるが、新型肺炎で亡くなった市民の訃報欄が10頁にもなったほどだ。紙面には新型肺炎の犠牲者の写真が載せられ、それを読む市民の心を揺さぶった(「“欧州の武漢”ベルガモ市を救え!!」2020年3月21日参考)。

 あれから5カ月が過ぎた。新型コロナは依然、感染を広めているが、イタリアでは感染ピークは過ぎたと受け取られ、規制緩和と経済活動の再開のバランスを取りながら復興に乗り出してきた。

 ところで、ベルガモ市では救急車のサイレンを聞くと精神的に落ち着きを失い、パニック症状に陥る市民が少なくないという。そこで救急車はサイレンを鳴らさずに市内を走ることにした。サイレン音を聞くと今年3月の悪夢が蘇る市民の願いを受けた処置だ。死者を追悼する教会の鐘だけが響く。

 感染して病院に運ばれた市民が家族から引き離され、病院で1人で亡くなるケースが多かった。一旦別れれば、ひょとしたら再会できないかもしれないという思いが市民にはあった。ダビデ君の涙はそのような思いがあったのかもしれない。ベルガモの多くの市民がそのようにして家族、親族と永遠の別れをしてきたのをダビデ君は見てきたのだろう。

 イラク戦争やアフガニスタンから帰国した米軍兵士が帰国後、社会に再統合できず、大きな音を聞くと震え、どこかに身を隠そうとするといったパニック症状をおこすケースがある。心理学的には心的外傷後ストレス障害(PTSD)だ。新型コロナ感染でベルガモ市民も米軍兵士のように心に大きな痛みを受けたはずだ。

 新型コロナの感染第2波が到来したといわれる。ベルガモ市民が明るい笑顔と笑い声を取り戻す日が早く到来することを願う。
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