ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

時事問題

マムダニ氏の「民主社会主義」の実験

 米国で4日実施されたニューヨーク市長選、ニュージャージー、バージニアの両州知事選の選挙結果について、アメリカ・カトリック大学の政治学名誉教授、ジョン・ホワイト氏は「「3つの選挙に共通するのは有権者の最大の関心は生活費を含む経済問題だったことだ」(バチカンニュース6日)と指摘した。

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▲イスラム教徒で初のニューヨーク市長に選出されたゾーラン・マムダニ氏、ウィキぺディアから

 ニューヨーク市長選で当選したゾーラン・マムダム氏は選挙戦では「家賃の値上げ凍結、バス・保育の無料化、公営スーパーの運営、生活必需品・生鮮食品の価格抑制などを公約に掲げ、財源の一部は富裕層課税で賄う」と表明してきた。トランプ大統領にとって、マムダム氏の公約は「共産主義者の証」ということになるが、生活費の高騰に悩むNY市民の多くは同氏の公約を支持したわけだ。マムダム氏に対する「共産主義者」、「民主党極左の政治家」といった懸念に対して、多くの有権者は余り関心を示さなかった。

 米大統領選で共和党に大敗した民主党は2つの州知事選、そしてニューヨーク市長選を制したことから、民主党のカムバックといった声も出ている。ホワイト教授は「トランプ大統領はこの3つの選挙地では元々不人気だった、今回の選挙結果はそれを反映しただけだ」と冷静に受け取る一方、「トランプ氏の反移民政策は多くのアフリカ系アメリカ人やラテン系アメリカ人から敬遠された。大多数の有権者は、トランプ氏の移民政策は行き過ぎたと考えている」と説明。さらに、「経済政策、特にインフレ政策の失敗は民主党候補者に有利となった」と指摘した。

 興味深い点は、トランプ氏は昨年11月の大統領選でインフレ対策など労働者の不満を吸収する選挙作戦を展開して勝利したように、マムダニ氏も家賃の値上げ凍結、公共運輸機関の無料化など有権者に密着した生活問題をアピールして勝利した。その意味で、両者の選挙作戦は酷似しているのだ。

 ちなみに、ニューヨーク市長選で初めてイスラム系のマムダニ氏(34)が誕生したことについて、同じイスラム系のロンドンのサディク・カーン市長は「希望が勝利した」と評価している。一方、イスラエルの右派アミハイ・シクリ・ディアスポラ・反ユダヤ主義闘争相(リクード)は5日、ニューヨーク在住のユダヤ人に対しイスラエルへの移住を促し、マムダニ氏をパレスチナのイスラム組織ハマスの支持者だと糾弾した。

 ニューヨーク市はイスラエル以外では最も多くのユダヤ人(約160万人)が住んでいる都市だ。その都市のトップにイスラム系市長が選出されたわけで、ユダヤ人が警戒するのは理解できる。特に、パレスチナ自治区ガザのイスラム過激派テロ組織「ハマス」とイスラエル軍との戦闘が発生して以来、ニューヨークを含む米国各地で反イスラエル、反ユダヤ主義の言動が広がっている。トランプ氏は「マムダニ氏を支持するユダヤ人はバカ者だ」という一方、「マムダニ市長が運営するニューヨーク市に対して連邦資金を凍結する」と脅迫している。

 ところで、マムダニ氏は共産主義者だろうか。本人は「民主社会主義者」と主張している。そこで両者の違いについて、Chat AIに聞いた。それによると、「民主社会主義」とは、「民主主義の枠組みの中で、社会主義的な政策を実現しようとする政治思想で、共産主義のような革命やプロレタリア独裁を否定し、議会制民主主義を通じて平等や福祉の向上を目指す。具体的な内容としては、混合経済(公有と私有の共存)、市場経済の維持、充実した社会保障制度の構築、および市民的民主主義の徹底が特徴」という。

 第2次世界大戦後、冷戦下でファシズムや共産主義に反対する人々によって「民主社会主義」という言葉が普及した。かつては「社会民主主義」と同義で使われたが、現在は「社会民主主義の左派」を指すものと受け取られている。すなわち、「民主社会主義」は 社会民主主義よりも左派的、あるいはより急進的な社会変革を目指す立場といえる。米国では、バーニー・サンダース上院議員のように、社会民主主義的な政策を支持する人々が自らを「民主社会主義者」と称している、といった具合だ。

 民主党の問題は、サンダース氏、マムダニ氏のような民主党左派と2州知事選で勝利した候補者を含む民主党内穏健派に党内が分かれ、党として路線のコンセンサスがないことだ。

 ちなみに、トランプ米大統領は9日、政権の看板政策である高関税措置の収入を財源に、高所得者を除く全ての国民に1人当たり2000ドルを配布する考えを示した。トランプ氏の2000ドル支給案は決して驚きに値しない。、低下した支持率を回復するために一種のバラマキ政策ともいえるからだ。いずれにしても、選挙の行方を左右するのは、DEI(多様性、公平性、包括性)やジェンダー思想の是非を問う文化的、哲学的論争ではなく、ホワイト教授が指摘したように、「生活費を含む経済問題」だからだ。

 マムダニ氏が自身の政治信条を重視し、連邦政府との対立も辞さない強硬政策を行けば、富裕層やユダヤ人たちがニューヨークから去っていくだろう。そうなれば、市の財政も苦しくなる。来年1月に就任するマムダニ氏がどのような政治運営をするか、注目される。

「11月9日」に秘められた歴史的事実とは

 1938年11月09日は「11月のポグロム」の日だ。ドイツ、オーストリア、チェコスロバキア(当時)でユダヤ人が経営する7000軒以上の店舗や約250のシナゴーグ(ユダヤ教会堂)が燃やされ、ユダヤ人の墓や学校は破壊された。ナチス・ヒトラー政権のユダヤ民族へのホロコーストの始まりを告げた日だ。多数のユダヤ人は虐殺された。路上の飛び散ったガラスが夜の明かりを受けて水晶のように光っていたことから、「水晶の夜」(クリスタル・ナハト)と呼ばれた。

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▲「ベルリンの壁」の崩壊、1989年11月09日、ドイツ連邦首相府公式サイトから

 このことは前日のコラムで紹介したが、その51年後の1989年11月09日は東西両ドイツを分断してきた「バルリンの壁」が崩壊した日だ。ユダヤ民族を殺害した「クリスタル・ナハト」と、ドイツ民族を東西に分断してきた「ベルリンの壁」の崩壊の日が全く同じ日に起きている、という歴史的事実は非常に興味深い。

 1989年11月09日、旧東独政府の旅行自由化に関する発表が混乱を招き、ベルリン市民が壁に殺到、その結果、国境検問所が事実上開放された。夜には多くの市民が壁に集まり、ハンマーなどで壁を壊し始め、翌11日からは壁の撤去作業が始まった。51年前、ユダヤ人の商店街を襲撃し、ショーウインドーを破壊したハンマーは今度は「ベルリンの壁」の破壊に使用され、旧東独のベルリン市民の自由をもたらしたわけだ。

 「ベルリンの壁」崩壊は、ドイツ統一への大きな一歩となり、翌1990年10月3日に東西ドイツは統一された。ベルリンの壁の崩壊は、約40年続いた東西の冷戦終結を象徴する出来事だったわけだ。

 オーストリア最大紙「クローネン日曜版(11月09日)でオーストリアのシェーンブルン枢機卿は定例のコラム欄で、「クリスタルナハト」と「ベルリンの壁」崩壊が同じ日に生じたことについて言及し、「破壊され、苦悩を残した出来事(11月のポグロム)で歴史は終わらず、復活と生命をもたらす世界へと導く(人間を弾圧し、迫害してきた共産主義国旧東独を打ち破り、自由と民主主義の世界が生まれてくる)」と述べている。

 新約聖書「ヨハネによる福音書」第2章では、イエスは「この神殿をこわしたら、私は3日のうちに、それを起こすであろう」と述べている。律法学者たちや弟子たちは当時、イエスの言葉を理解できなかった。実際、エルサレム神殿は西暦70年、ローマ帝国軍によって完全に破壊され、多くのユダヤ人は殺害され、それ以外はディアスポラ(離散)となっていく(第一次ユダヤ戦争)。

 その後、キリスト教徒は復活したイエスの福音を世界に述べ伝えていく。そして西暦312年、コンスタンティヌス帝がミラノ勅令を発し、キリスト教を公認。西暦392年、テオドシウス帝がキリスト教をローマ帝国の国教とした。キリスト教の初期歴史は、迫害され、苦悩の道を歩まざるを得なかったが、それで終わらず、必ず復活し、生命を蘇らせてきたことを教えているわけだ。

 先述したように、「11月のポグロム」と「ベルリンの壁」崩壊は同じ日に起きている。それは単なる偶然ではなく、神が一定の数理性を持って人類を導いているのを強く感じさせるのだ。

「11月のポグロム」から87年目

 1938年11月9日夜、ドイツ、オーストリア、チェコスロバキア(当時)でユダヤ人が経営する7000軒以上の店舗や約250のシナゴーグ(ユダヤ教会堂)が燃やされ、ユダヤ人の墓や学校は破壊された。多数のユダヤ人は虐殺された。歴史家は「Novemberpogrome」(11月のポグロム)と呼び、路上の飛び散ったガラスが夜の明かりを受けて水晶のように光っていたことから、「水晶の夜」(クリスタルナハト)とも表現している。

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▲シオニズムの父、テオドール・ヘルツル、ウィキぺディアから

 オーストリアでは1938年の初めまで約21万人のユダヤ人が住んでいた。当時の国の人口の3%を占めていた。そのうち、約6万5000人はナチス・ドイツ軍が支配する欧州大陸から逃げることができず、多くはダッハウ収容所とブーヘンヴァルト収容所に送られ、そこで亡くなった。

 あれから今年で87年目が経過した。パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激派テロ組織「ハマス」が2023年10月7日、イスラエルとの境界線を破壊して侵入、音楽祭に参加中のゲストや集団農園(キブツ)を襲撃して1200人以上のユダヤ人らを射殺、251人を人質にした「奇襲テロ」と、それに報復するイスラエル軍の軍事攻勢が始まって以来、世界的に反ユダヤ主義、反イスラエル主義的言動が再び広がってきた。

 ウィーン・ユダヤ人コミュニティ(IKG)の反ユダヤ主義通報センターは5日、2025年1月1日から6月30日までの半年間でオーストリアで合計726件の反ユダヤ主義事件を記録した。前年同期は808件、イスラエルでハマスによるテロ攻撃が発生する前の2023年上半期は311件だった。IKGのオスカー・ドイチュ会長は「反ユダヤ主義の津波は、もはや止まらない洪水のようになってしまった」と述べた。また、IKG事務局長ベンヤミン・ネーゲレ氏は、「反ユダヤ主義的な攻撃が恒常的な負担となっていることを目の当たりにする。多くのコミュニティメンバーの日常生活は、潜在的な不安感を伴っている」と証言した。

 報告期間中、身体的暴行5件、脅迫8件、器物損壊78件、反ユダヤ主義的メールなどを大量郵送203件、そして不快行為432件が記録された。最も多かったのはイスラエル関連の反ユダヤ主義であり、次いで反ユダヤ主義的他者化とホロコースト相対化が続いた。さらに、77件がユダヤ人に対するテロの扇動または賛美に関与していたことが明らかになった。これらの件数は氷山の一角で、未報告の事例が多数存在するものと想定されている。

 報告された反ユダヤ主義事件のうち202件は左翼的な政治的動機によるもの、195件はイスラム教を背景とした事件であり、147件は右翼的な政治的背景があった。182件については、思想的背景を明確に特定できなかった。

 ところで、独週刊誌「シュピーゲル」最新号(10月2日号)は「ハマスの奇襲テロ」2年目の特集の中で、イスラエルの著名な社会学者、エヴァ・イルーズ女史とのインタビュー記事を掲載している。同女史は2年前の出来事について、「事件を伝える報道を見て、我々(ユダヤ民族)は何と傷つきやすい民族だろうか、と改めて思い知らされた」と述懐。国際社会のイスラエル批判については、「イスラエルへの憎悪が美徳とみなされてきた」と指摘し、「反ユダヤ主義と反シオニズムを区別しなければならない、という考えが左派の新たなライトモチーフとなっている。彼らの政治的な反シオニズムは偽装された反ユダヤ主義だ」と主張している。

 ちなみに、オーストリア=ハンガリー帝国出身のユダヤ人新聞記者・作家のテオドール・ヘルツル(1860〜1904年)はユダヤ人が迫害から逃れ、安全に暮らすためには、彼ら自身の独立した国民国家をパレスチナ地域に建設するしかないと考え、1896年に著書「ユダヤ人国家」を出版し、ユダヤ人国家建設の構想(シオニズム)を具体的に示した。ヘルツルの夢だったユダヤ人国家は1948年5月14日に実現した。イスラエルではヘルツルは「シオニズム運動の父」と呼ばれている。

 一方、反ユダヤ主義を掲げ、600万人のユダヤ人を虐殺したアドルフ・ヒトラー(1889〜1945年)はオーバーエスターライヒ州西北部のブラウナウ・アム・インで生まれている。すなわち、「シオニズム運動」創始者ヘルツルとナチス政権下でユダヤ人虐殺を実行したヒトラーは、いずれもオーストリアと深い関係があるわけだ。

 欧州に居住していたユダヤ人にとって、少数民族にも同等の権利を付与したハプスブルク帝国時代の首都ウィーンは憧れる都市だったが、第一次世界大戦で敗北し、ハプスブルク帝国が崩壊したことから、ユダヤ人は民族のアイデンティティと存続の危機に対峙していった。そして多くのユダヤ人はウィーンからロンドン、パリ、米国などに移住せざるを得なくなったのだ。

ハマスの欧州の武器庫、ウィーンで発見

 オーストリア国家保安情報局(DSN)は6日、イスラム過激派テロ組織「ハマス」が欧州でイスラエルの拠点やユダヤ人を標的としたテロ襲撃に使用する武器をウィーン市内に備蓄していた疑いがもたれていると発表した。同容疑で39歳の英国の国籍を有する男性が3日、ロンドンで逮捕された。英国のテレビ局ITVニュースの報道によると、英国で逮捕された男はドイツに引き渡される予定だ。逮捕された英国人はハマスの幹部の息子だという。

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▲オーストリア内務省の建物、内務省公式サイトから

 DSNによると、今回の逮捕は国際協力捜査の一環として行われたもので、ウィーン市内のレンタル倉庫にあったスーツケースから拳銃5丁と弾倉10個が押収された。この武器庫は、テロ組織ハマスの海外作戦組織の所有物とされている。

オーストリア内務省はその公式サイトで「DSNは、ハマスとつながりを持つ世界的に活動するテロ組織に対し、数週間にわたり、国際的に協調された広範な捜査を実施してきた。この捜査の結果、ある組織がヨーロッパでの潜在的なテロ攻撃に備えて武器を備蓄するため、オーストリアに武器を持ち込んでいた疑いが浮上した。捜査の現状によると、これらの攻撃の主な標的は、ヨーロッパにあるイスラエルまたはユダヤ系の施設だ」と説明している。

 なお、カーナー内相は、「今回の事件はDSNが国際的に優れたネットワークを構築し、あらゆる形態の過激主義に対して一貫した行動をとっていることを示した。その使命は明確だ。テロリストに対しては、一切の寛容を示さないことだ」と述べた。

 ちなみに、ドイツ連邦検察庁は10月1日、イスラム組織ハマスのメンバーとみられる3人を、ドイツ国内のイスラエルやユダヤ人関連施設への攻撃を計画した疑いで逮捕したと発表している。逮捕されたのは、ドイツ国籍の男性2人と、レバノン生まれの男性1人。3人はハマスのために攻撃用の武器と弾薬を調達したという。ドイツでは今年2月にも、欧州のユダヤ系施設への攻撃を計画した罪で、ハマス構成員4人が起訴されている。

 ドイツ連邦検察庁が6日に発表したプレスリリースによると、ロンドンで逮捕された英国人の容疑者は2025年夏にベルリンで3人のうちの1人と会い、武器と弾薬を受け取った。その後、これらの品々をオーストリアへ輸送し、ウィーンに保管した。容疑者はドイツへの身柄引き渡し後、連邦最高裁判所の捜査判事に召喚されるという。

 オーストリア駐在のイスラエル大使館は6日、「今回の武器押収はハマスがイスラエルとユダヤ人だけでなく、欧州に住む全ての人間にとって脅威となっていることを示している。ハマスは地域的な脅威にとどまらず、自由と民主主義が支配するあらゆる場所を攻撃しようとする世界的なテロネットワークの不可欠な一部だ」という声明を発表した。ダヴィド・ロート大使は「テロリスト集団の武装解除を恒久的に実現し、能力の再構築を阻止することによってのみ、中東、ヨーロッパ、そしてそれ以外の地域における安全と安定を確保できる」と述べている。

クリスマスシーズンの幕開け

 人の居住地に出没する熊との戦いに忙しい日本の国民にとって、クリスマスシーズンの幕開けといっても別世界のことのように感じられるかもしれないが、キリスト教文化圏の欧州に住む人々は11月の声を聞けば、クリスマスシーズンの到来といった雰囲気に包まれる。そして欧州各地でクリスマス市場がオープンされる。

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▲ウィーン市庁舎前広場のクリスマス市場を訪ねる人々(2024年11月16日、ウィーンで撮影)

 音楽の都ウィーンで6日、シェーンブルン宮殿前の「名誉の中庭」のクリスマス市場が開幕される。宮殿中庭のクリスマスツリー前で「インペリアル・ライツ」と呼ばれる光の庭園がオープンし、宮殿庭園を巡る60〜90分のツアーでは、バロック様式の芸術的な光のインスタレーションを鑑賞できる。

 欧州最大のクリスマス市場と呼ばれるウィーン市庁舎前広場市場では14日、ルドヴィック市長を迎えオープンされる。市庁舎前広場には10月28日、チロル州のホープガルテンから重さ4・6トン、高さ28メートルのエゾ松の木が運ばれた。クリスマスの木には約2000個の照明が飾られることになっている。11月21日までにはウィーン市のクリスマス市場14ヶ所(合計911の屋台)すべてが一般公開されることになっている。

 クリスマス市場では子供連れの夫婦や若いカップルが店のスタンド(屋台)を覗きながら、シナモンの香りを放つクーヘン(焼き菓子)やツリーの飾物を買ったり、クリスマス市場で欠かせない飲物プンシュ(ワインやラム酒に砂糖やシナモンを混ぜて暖かくした飲み物)を飲む。クリスマスシーズンの雰囲気は否が応でも盛り上がる。やはり、ウィーン市民はプンシュを飲まないではクリスマスを迎えられないのだ。

 ところで、クリスマス市場に出店する屋台の数が数年前に比べ、減少する一方、クリスマス市場を今年は開かないところも出てきた。オーストリア日刊紙「OE24」は5日、「ショック、物価高がクリスマス市場を打撃」という派手な見出しで、「オーストリアや隣国ドイツでもクリスマス市場を開かなくなったところが出てきた」という。その原因は経済的な理由だ。物価高、屋台の場所代、電気代から諸経費、全てが高くなったからだ。

 それだけではない。クリスマス市場の安全問題がある。欧州のテロ専門家は「クリスマス市場はイスラム過激テロ組織にとって格好の襲撃対象となる」と警告を発している。例えば、ドイツ東部のザクセン=アンハルト州の州都マクデブルク市(人口約24万人)で昨年12月20日、市の中心部で開かれているクリスマス市場に一台の車が突っ込み、多くの訪問客がひかれ、少なくとも4人(一人の子供を含む)が死亡、205人以上が負傷した。多くの市民たちが家族連れで市場を訪問していた。市場内はパニック状況となった。

 また、2016年12月19日、首都ベルリン市中央部にある記念教会前のクリスマス市場に1台の大型トラックがライトを消して乱入し、市場にいた人々の中に突入しながら暴走し、13人が死亡、70人以上が重軽傷を負うという「トラック乱入テロ事件」が起きた。

 オーストリアでは幸い、クリスマス市場を襲撃したテロ事件はこれまで発生していないが、市場に入る前に警備員が訪問者をチェックするなど、警備が厳しくなっている。また、ウィーン市庁舎前広場のクリスマス市場では路上から市場に大型トラックが侵入できないようにコンクリート製のポラードが設置されている、といった具合だ。

 ドイツやオーストリアの国民経済はリセッション(景気後退)で、企業の倒産、失業者の増加が報じられる。新年への明るい見通しはなかなか視野に入らない。そのような中、多くの人々はクリスマスシーズンを懸命に享受しようと走り出す。

独外相がシリアで見た「不都合な現実」

 ドイツのメルツ政権の重要な課題は停滞する国民経済の回復と共に不法な移民、難民問題の解決だ。メルツ政権は発足後、国境監視を強化する一方、国内の不法な移民、難民を強制送還してきた。メルツ政権の強硬な難民・移民政策はメルケル政権(在任2005年11月〜2021年12月)の難民ウエルカム政策からの完全な決別を意味すると受け取られている。

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▲シリアの首都ダマスカスを訪問したドイツのワーデフール外相、2025年10月31日、シリアSANA通信から

 ところで、ワーデフール外相が先月31日、訪問先のダマスカスでの記者会見で「多くのインフラが破壊されているため、シリア人の帰国は現時点では非常に限定的な範囲でしか考えられない。短期的には、多くのシリア人が自発的に帰国しようと動かされることはないだろう」と述べた。

 外相のダマスカスでの発言が報じられると、メルツ首相の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)や姉妹政党「キリスト教社会同盟」(CSU)から「外相の発言は政府の難民政策に反している」といった批判の声が出てきた。ベルリンでシリア人の男性がテロ攻撃を計画した疑いで逮捕されたばかりだったこともあって、外相の「シリア人の帰還は難しい」発言は与党関係者に強い反発を引き起こした。

 ザクセン=アンハルト州のCDU党首スヴェン・シュルツェ氏は「帰還先の国が部分的に破壊され、生活環境がドイツよりも劣悪だからといって、シリア難民の送還を控える理由にはならない」と反論している。また、テューリンゲン州のマリオ・フォークト首相(CDU)は「内戦終結後、人々が家を再建できるよう支援することが重要だ。送還はこれを実現するための正しい方法だ」と語った。

 ドイツの場合、シリアからの難民の送還が大きな課題となってきた。強制送還の対象は犯罪歴のあるシリア人のほか、失業者も含まれる。CDU/CSUと社会民主党(SPD)間で締結された連立協定は「ドイツはシリアへの強制送還を最終的に再開すべきである」と規定している。内戦が終焉し、半世紀以上続いたアサド独裁政権が昨年12月崩壊した現在、、スンニ派アラブ人がシリアに帰国しない理由はもはやないというわけだ。

 ちなみに、欧州連合難民庇護機関(EUAA)が9月8日発表したところによると、EU内の今年上半期(1月〜6月)の難民申請件数が、前年同期比で大きく減少した。難民申請件数が急減した最大の理由は、シリアのアサド政権の崩壊だ。内戦から逃れたシリア人が一時期、欧州に殺到したが、アサド政権の崩壊で欧州に逃避するシリア人は減少した。シリア人は過去10年間、難民申請者の中で最大グループだったが、シリア人の難民申請者はここにきて3分の2減少し、2万5000人となったという。

 ドブリント内相(CSU)は3日、マンハイムで開催された市町村会議の開会式で、「連立協定を厳格に遵守し、シリアへの送還準備を進めている。ドイツでは既にアフガニスタンへの犯罪者の送還を開始した。また、定期便による定期的な送還の実施にも取り組んでいる」という。

 なお、ドブリント内相は、(移民・難民を受け入れる)地方自治体への負担を挙げ、「私たちは限界に達した。公共広場や駅だけでなく、特に保育所や学校、住宅市場、医療制度の状況を見れば明らかだ」と付け加えた

 メルツ首相はキールでの記者会見で、「ワーデフール外相は国外追放に反対するとは言っていない。外相はダマスカスの一部地域を訪問し、そこは甚大な被害を受けただけでなく、一部に地雷が埋まっていた、と説明しただけだ。それを『シリアへの強制送還は事実上不可能だ』と発言したと誤解されている」と指摘している。

 ここで明確に区別しなければならない点は、「帰還」と「送還」の違いだろう。「帰還」はあくまでも自発的に行われるものであり、「送還」は法に基づく義務を意味するからだ。戦火で荒廃したダマスカス郊外を視察したワーデフール外相は、「シリアでは人々が尊厳を持って暮らすことはほとんど不可能だ。だから、シリアの現状ではドイツからの自発的な帰還件数は少なくなる」という現実を指摘しただけで、「強制送還を止めろ」とは言っていない。犯罪者や危険人物の送還では完全に一致しているからだ。

 ドイツには約95万人のシリア人が滞在している。同外相の発言が誤解された背景には、移民・難民政策がドイツではデリケートな問題だからだ。ドイツでは登録住所に住み、仕事を持ち、子供を学校に通わせている人々、つまり社会にうまく溶け込み、規則を守っているシリア人が国外追放されるケースも出てきているからだ。

 メルツ首相は「シリア内戦は終結した。ドイツには難民を受け入れる根拠は全くない」と述べ、シリアのアハメド・アル=シャラア大統領をベルリンに招き、この問題について協議する予定だという。シャラア大統領は欧州に避難したシリア人の帰還を歓迎している。

オオカミの生息保護と人や家畜の安全問題

 日本では熊が人が住んでいる居住地に出現し、これまでに12人が熊の襲撃で犠牲となったという。当方が住むオーストリアではオオカミが家畜を襲撃するケースが報告されている。オオカミをめぐる議論は、しばしば激しい議論を巻き起こす。オオカミの生息地の保護を求める声がある一方、人や家畜の安全を懸念する声がある。例えば、欧州連合(EU)はオオカミを絶滅危惧種として守る法律を施行している、といった具合だ。

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▲オオカミの出現、オーストリア国営放送(ORF)のニュース番組からスクリーンショット、2025年10月29日。

 ウィーン天然資源応用生命科学大学(BOKU)は、農業省の委託を受け、オーストリアにおけるオオカミの紛争リスクに関する初の調査を実施した。その目的は、オーストリアにおけるオオカミの生息域ポテンシャルと軋轢ポテンシャルを示す、科学的に健全なモデルの開発だ。これらのモデルは、動植物生息地指令(92/43/EEC、附属書V)に基づくオオカミの保護状況と、影響を受ける地域社会の利益の両方を考慮し、効果的なオオカミ管理のためのデータに基づく基盤を提供することにある。

 以下、BOKUの調査研究とその内容を報告したオーストリア国営放送(ORF)のウェブサイト10月29日の記事の概要を紹介する。

 ヨーロッパには2万1000頭のオオカミが生息している。一時期絶滅の危機に瀕していたオオカミだが近年、個体数は大幅に増加し、それに伴い家畜への襲撃が繰り返され、人口密集地域へのオオカミの再出現が相次ぎ、紛争のリスクが高まっている。オーストリアでは特に西部と南部の地域でオオカミの被害件数が多い。オーストリア南部で10月初旬、オオカミが家畜を襲撃し、射殺されたという出来事が起きたばかりだ。

 ノルベルト・トチュニック農業相は29日、ウィーンで行われた記者会見で「住民はオオカミの出現を安全保障上のリスクと認識している。我々にとって、自然と文化の景観のバランスを維持する一方、本来オオカミが人間に対して持つ警戒心を保持する必要があることが明らかになった」と述べた。

 BOKUの調査研究「オーストリアにおけるオオカミ(Canis lupus、タイリクオオカミ)の生息地と紛争潜在モデル」(123頁)は昨年4月に開始された。この研究は、「生態学的観点から、オーストリアのどの生息地がオオカミにとって潜在的に適しているか?」「社会経済的観点から、オーストリアにおいてオオカミとの潜在的な紛争はどこで発生するか?」「生息地と紛争潜在性によって特に影響を受ける地域はどこか?」といった疑問に答えることを目的としている。

 具体的には、オオカミの潜在的な生息地と潜在的な衝突エリア、そして両エリアが重なる地域の正確な地図を作製することで、衝突の可能性が高い地域と低い地域を特定することだ。

 同調査研究によれば、、オオカミはあらゆる方向からオーストリアに移動する可能性があり、たとえ今日すべてのオオカミが姿を消したとしても、明日にはさらに多くのオオカミがやってくる可能性があるという。その理由は、近隣諸国におけるオオカミの個体数増加と、この種の分散生態にあるという。「若いオオカミは、交尾相手を探すために長距離を移動するからだ」という。

 19世紀半ばにオーストリアでオオカミが絶滅した後、2016年に再び現れ、2024年までにはすでに9つの群れにまで増えている。2025年時点で、オーストリアでは8つの群れが確認されているという。オオカミの生息地、捕食、衝突の可能性に関するデータから、オーストリア西部と南部のホットスポット(主に西アルプス地方、特にフォアアールベルク州、チロル州、ザルツブルク州、ケルンテン州)が判明できるわけだ。

 「家畜捕食ポテンシャルモデルは、特定の地域がオオカミによる家畜捕食の影響を受けやすい程度を分析している。放牧地が広範囲に及ぶアルプス地方は、特に高い捕食ポテンシャルを示す。家畜(特にヒツジ、そして程度は低いがウシ)の存在は、高い捕食ポテンシャルを予測する最も強力な因子であり、次いでオオカミの避難所となり得る森林への近接性が続く」(調査報告書から)。

 トチュニック農業相は「私たちは現在、科学的な基盤を築いているところだ」という。チロル州のヨーゼフ・ガイスラー副知事は記者会見で、「オオカミ問題は感情に大きく左右される。都市部に住む人々は、農村部や山岳地帯に住む人々よりも影響を受けにくい。大型捕食動物との衝突が50キロメートル以内で発生すると、住民の警戒心は著しく高まる。したがって、イデオロギーを減らし、実利主義を高め、科学にも発言権を与えることが重要だ」と主張している。

 トチュニック氏は「家畜保護のためには、最終的には、オオカミの個体数を管理しなければ、実際には効果がないことを認識する必要がある」と述べ、ガイスラー副知事はまた、「過去とは異なり、家畜保護には非常に高度な組織的努力が不可欠だ」と強調した。

 ちなみに、世界自然保護基金(WWF)は、プレスリリースでこの調査研究発表の機会に、包括的な家畜保護イニシアティブを呼びかけた。WWFは「オオカミの駆除は持続可能な解決策ではない。例えば、スイスではオオカミ1頭あたりの家畜の殺処分数が87%減少した。オーストリアでは駆除がオオカミの最も頻繁な死因となっている。2024年だけで、オーストリアでは13頭のオオカミが殺された。一方、ドイツにはオーストリアの約30倍の縄張りを持つオオカミ(209の群れ、46つがい)がいるにもかかわらず、2024年に射殺されたオオカミは2頭にとどまった」と指摘している。

トランプ大統領の核実験再開指示の波紋 

 トランプ米大統領は30日、核実験の即再開を米国務総省に指示した。同大統領は自身のプラットフォーム「Truth Social」に投稿し、「他国の核実験計画を踏まえ、私は国防総省に対し、公平な条件で我が国の核兵器実験を開始するよう指示した。このプロセスは直ちに開始される」と述べた。実験対象となる核兵器や核実験の種類(大気圏内、地下、大気圏外、水中)については言及されていない。

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▲中国の最初の核実験(1964年10月16日、CTBTO公式サイトから)

 トランプ氏の核実験再開宣言は、韓国で中国の習近平国家主席と会談する直前に出された。核実験の主な目的は、核兵器の開発・性能確認と性能維持だ。また、核爆発を伴わない臨界前核実験という形では、核兵器の近代化や維持管理に必要なデータを収集する目的がある。

 西側の核専門家は「トランプ氏の核実験再開宣言はロシアや中国へのプレゼントとなる」という。米国が核実験を実施すれば、両国は国際社会から大きな批判を受けずに堂々と核実験できるからだ。特に、中国にとって核実験の回数が米国やロシアと比較して圧倒的に少ない。核実験を増やすことで核兵器の性能を向上したいはずだ。

 ちなみに、米国の核実験回数は約1030回、ロシア(旧ソ連時代を含む)715回、中国45回、フランス210回、英国45回だ。中国の回数が少ないことは明らかだ。トランプ氏は「4、5年も経過すれば、中国は我々と同じ水準になるはずだ」と警戒している。

 米国が実施した最後の核実験は1992年9月23日だ。同年、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領は地下核実験のモラトリアムを発表した。米国が核実験を再開すれば33年ぶりとなる。国際社会からの批判は必至だ。また、ウイーンに拠点を置く包括的核実験禁止条約(CTBT)は決定的なダメージを受けるだろう。従来の核保有国5か国(米露中英仏)は核実験のモラトリアムを堅持してきたが、そのモラトリアムが消滅した場合、核の拡散にストップをかけることが一段と難しくなるからだ。

 ところで、トランプ大統領が核実験の再開に踏み切った背景については、ロシアによる最近の核兵力の強化があると受け取られている。プーチン大統領は29日、ロシアが原子力ポセイドン型超大型魚雷の実験に成功したと宣言した。この魚雷の性能は大陸間弾道ミサイル「サルマート」を凌駕するという。米ロの専門家は、ポセイドンを海中に爆発させれば、放射能波を発生させ、沿岸都市を居住不能に陥れる可能性のある新たなタイプの報復兵器と位置付けている。

 それに先立ち、ロシアは10月21日に新型のブレヴェスニク・ミサイルの試験を実施し、10月22日には核兵器演習を実施している。「ブレヴェスニク」(9M730)は、ロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイルだ。原子力エンジンによるほぼ無限の長距離飛行が可能で、アメリカのミサイル防衛網を突破することを目的としている。核弾頭を搭載できる。クレムリンは核ミサイルの配備準備に入ったという。北大西洋条約機構(NATO)では、9M730は「SSC-X-9スカイフォール」というコードネームで呼ばれている。

 ロシアと中国の核戦力の強化に対し、米国は33年ぶりに核実験再開に踏み切らざるを得なくなったわけだ。ドイツ連邦情報機関関係者は「寛容、自制、そして寛大さは、ロシアのような敵対国にとっては弱さとして解釈される」と警告を発していた。トランプ氏は露中に米国の「力」を見せつけたくなったのだろう。ただし、それは危険が伴う冒険だ。

日本の熊はもはやテディベアではない

 日本からの記事をフォローしていると、秋田県や山形県などで熊が人間が住んでいるエリアに降りてきて人的被害が出ている、というニュースがあった。オーストリア国営放送(ORF)のウェブサイトでも日本の熊の話が掲載されていたぐらいだから、かなりの数の熊が人家近くにきて食べ物を物色しているのだろう。

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▲子供たちに愛されるテデイベア、2025年8月23日、「日本テデイベア協会」公式サイトから

 読売新聞オンラインには「秋田県の鈴木知事は28日、防衛省を訪れ、小泉防衛相に熊捕獲の支援を求め、自衛隊の派遣を要請した。小泉防衛相は『深刻な状況と受け止めている』と発言し、陸上自衛隊の自衛官らを秋田県庁に向かわせた。同日夕、今後の支援内容を話し合う初めての協議が県庁で行われた」という記事が掲載されていた。

 「アゴラ言論プラットフォーム」で軍事ジャーナリストの清谷信一氏が「ぶっちゃけた話、中国やロシアや北朝鮮よりクマの方が現実的な脅威です。実際に国民が死傷し、農作物が荒らされる被害が無視できないレベルです。国はこの事態を軽く見てきました」と書いている。

 アルプスの小国オーストリアではオオカミが農家を襲い、羊や鶏などを襲撃する事件が多発し、オオカミをいかに退治するかでメディアで一時期議論が沸いた。狩猟家に射殺を要請すべきだというと、動物愛護グループから批判の声が飛び出した。また、牧草地の横の散歩道を犬と散歩していた女性が牧草地で草を食べる牛の群れの傍にきた時、母親牛が突然女性を襲撃したことがあった。母親牛は子牛を守るために攻撃したのではないかといわれた。

 新型コロナウイルスのパンデミックの時、英国でヤギが群れをなして街に出てきたことがあった。コロナ時代、ロックダウンが実施され街の路上から人の姿が消えた。いつも餌をくれる人がいなくなったので鳩もお腹を空かして苦しんだ。また、ロシア軍のウクライナ戦争では、大砲やミサイルの音が日常茶飯事となったウクライナの街のカラスは、大砲の音を聞いてももはや驚かなくなった、といった様々な鳥や動物界の異変が報じられた。

 最近、家人が家の近くを散歩していた時、一匹のキツネに出会った。キツネの目と家人の目が合った時、「キツネは大きくなかったが、その眼光は野生の目で、怖くなった」という。人間に飼われている犬や猫とは違い、野生の動物の場合、小さな動物でも野生的な眼光で相手を睨む。それが熊だったら、人間は恐怖に襲われるだろう。

 女性に「あなたが一人で森の中を歩いていた。その時、あなたは男性に会うのと、熊に会うのとではどちらを選びますか」という質問が出された。すると、大多数の女性は「熊です」と答えたという調査結果がある。女性にとって、人間の男性より動物の熊のほうが安全だと感じているのかもしれない。日本の熊の話を聞いていたならば、女性たちは果たして「熊」と答えただろうか。

 ところで、日本の熊の話を聞いた時、凶暴なイメージが広がって熊の人気が落ちるのではないか、と思った。縫いぐるみでは子熊の縫いぐるみが人気がある。当方も最初の子供が生まれた時、ミュンヘンの百貨店で子熊のぬいぐるみを買ったことを覚えている。その熊の縫いぐるが少なくとも日本では売れなくなるのではないか。

 ちなみに、縫いぐるみの中でテディベアは圧倒的に人気がある。1902年の秋、米国のセオドア・ルーズベルト大統領は熊狩りに出かけた。傷を負った子熊を見つけたので、かわいそうだから助けた。その美談が記事で報じられ、ルーズベルトの愛称「テディ」を付けた子熊の縫いぐるみが売り出されると大ヒットし、世界の子供たちに愛されてきた。なお、ルーズベルトの誕生日10月27日は「テディベアの日」だ。

「ゴールデンドーム」対「ブレヴェス二ク」

 トランプ米大統領は5月20日、次世代のミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」を発表した。同構想は、米本土をミサイル攻撃から守るために、宇宙空間に衛星や兵器を配備する次世代ミサイル防衛システムだ。約1750億ドルを投じ、3年以内の完成と運用開始を目指している。これまでのシステムでは対抗できなかった中国やロシアのミサイル戦力に対し、最先端技術を駆使して宇宙などから迎撃する野心的な構想だ。実現すれば、世界の戦略環境に広範囲の影響を及ぼすことは必至だ。

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▲プーチン大統領、軍服で統合軍司令部を訪問し、ゲラシモフ参謀総長らと会談、2025年10月26日、クレムリン公式サイトから

 ちなみに、ゴールデンドーム構想の先駆けはレーガン大統領(当時)が1983年3月に公表した「戦略防衛構想(SDI)」だ。同構想は当時「スターウォーズ計画」と呼ばれた。

 一方、プーチン大統領は今月26日、長距離核ミサイル「ブレヴェスニク」のテストに成功したと述べた。「ブレヴェスニク」(9M730)は、ロシアが開発中の原子力推進式巡航ミサイルだ。原子力エンジンによるほぼ無限の長距離飛行が可能で、アメリカのミサイル防衛網を突破することを目的としている。北大西洋条約機構(NATO)では、9M730は「SSC-X-9スカイフォール」というコードネームで呼ばれている。

 プーチン氏が2018年、核弾頭搭載可能な長距離ミサイルの開発を初めて発表した時、専門家はこのプロジェクトは実現不可能だと見なしていた。しかし、ゲラシモフ参謀総長によると、今月21日に「決定的なテスト」が完了したという。そして「クレムリンは核ミサイルの配備準備に入っている」というのだ。

 軍事大国の米国とロシアの軍事開発レースが激化してきた。トランプ氏の「ゴールデンドーム構想」では、敵国の核ミサイルを宇宙空間で撃ち落とせる全段階で迎撃する多層的システムだ。「ゴールデンドドーム」の目玉は、これまで技術的に困難だったブースト段階のミサイルを宇宙から迎撃することだ。

 ロシアが開発した9M730ミサイルはいかなる防衛システムも回避できるという。報道によると、10月21日、「ブレヴェスニク」のテストが行われた。ゲラシモフ参謀総長によると、ミサイルは15時間空中に留まり、1万4000キロメートルを飛行した。同参謀総長は「これが限界ではない。原子力推進のミサイルは無制限に飛行できる。そして核弾頭を搭載できる新ミサイルだ」というのだ。 

 ロシアが実験に成功した原子力推進の核ミサイルの射程距離は事実上無制限で、軌道が予測不可能なことから、現在および将来のミサイル防衛システムも探知して撃ち落とせないという。プーチン大統領は「これは世界で他に類を見ない兵器だ。重要な試験は完了した」と強調している。

 米国の「ゴールデンドーム構想」が実現できるまでにはまだ時間がかかる一方、ロシアの核ミサイルは実験段階で成功し、配備準備にあるという。ロシア側の発表が事実とすれば、ロシアが米国を先行していることになる(米国は核ミサイル開発を継続しているが、2022年、核巡航ミサイル開発を中止すると発表した)。

 SDIによる技術競争がソ連を追い込み、米国の冷戦勝利の原動力になったが、今回はロシアの核ミサイルの登場で米国は軍事的に初めて守勢に回ることになるかもしれない。プーチン大統領は「ブレヴェスニク・ミサイルの実験は西側諸国への警告だ」と豪語している。

 なお、トランプ大統領は27日、訪日途上のエアフォースワン機内で、ロシアの新型原子力巡航ミサイルの実験について「不適切だ」と指摘、「ミサイルのテストを止め、ウクライナの戦争を停止すべきだ」と述べている。


 
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