ウィーン発 『コンフィデンシャル』

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ドイツ

AfDの絶対過半数阻止は「郵便投票」次第

 ドイツで6日、同国東部のザクセン=アンハルト州議会の投開票が実施される。複数の世論調査では、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が第1党となることはほぼ確実視されている。関心は、同州AfD党首ウルリヒ・ジークムント氏(35)が州首相ポストを獲得できる絶対過半数を得るかに注がれている。ZDF(ドイツ第2テレビ)による最新の世論調査では、AfDの得票率は40%にとどまり、絶対過半数には届かないという結果が出ている。

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▲ザクセン=アンハルト州の次期首相候補と見られているジークムント氏、同州AfD公式サイトから

 世論調査では、AfDは支持率40%以上で他党を大きく引き離している。一方、CDU(キリスト教民主同盟)は、スヴェン・シュルツェ氏を州首相に擁しているにもかかわらず、支持率はその半分程度にとどまっている。

 ところで、AfDが絶対過半数を獲得できるか否かの要因は、�〕絞愿衂爾侶覯漫↓△匹寮�党が「5%条項(得票率5%未満の政党は議席を得られないとする規定)」をクリアできないか、の2点に大きく依存していると見られている。

 �△両豺隋⇔磴┐弌�FDP(自由民主党)は州議会入りする見込みがなく、緑の党やザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)の状況も不透明であり、SPD(社会民主党)でさえ議席確保が確実とは言えない状況だ。得票率5%の壁をクリアできなかった政党の得票率がAfDなどに振り分けられることになっている。

 問題は�,澄�AfDは郵便投票の動向に神経を尖らせてきた。その郵便投票が有権者の間で人気が高まっているのだ。州統計局が1日に発表したところによると、8月25日までに約33万5000通の郵便投票用セットが発行された。これはザクセン=アンハルト州の全有権者の約20パーセントに相当する。2021年の選挙で実際に郵便投票を行った総数を既に上回っている。

 州議会選挙を前に、AfDは郵便投票が公正ではないという疑念を組織的に煽っている。ジークムント氏によれば、特に介護施設においてそうしたリスクが存在するといい、監視を強めるよう呼びかけている。

 AfDは伝統的に、郵便投票を行う層からの支持率が他の政党に比べて低い傾向にある。AfDは不正の源泉となるとして郵便投票の廃止を訴えてきた。この状況は米国の共和党の立場と酷似している。トランプ大統領は長年にわたり郵便投票に反対するキャンペーンを展開しており、郵便投票が選挙結果を歪める可能性があると主張してきた。AfDの郵便投票へのスタンスは同じだ。

 連邦AfDの共同党首ティノ・クルパラ氏は最近、ドイツ公共放送ARDに対し、介護施設において「いわばペンを(他人に)動かしてもらうような事例を知っている」と語った。同氏によると、不正の可能性は介護施設だけでなく、市町村庁舎での郵便投票関連資料の保管場所にもあるという。そこでは「市長だけが投票紙が保管されている場所の鍵を管理している」からだ。クルパラ氏は、郵便投票制度そのものを廃止すべきだと主張している。

 ちなみに、ザクセン=アンハルト州では、2014年に実施された地方選挙でシュテンダールという町で、郵便投票の書類が偽造され、規定数を超える投票用紙が発行され、再実施された郵便投票の際にも書類の改ざんが行われたことがあった。この件に関与したCDU(キリスト教民主同盟)の市議会議員は、後に懲役2年半の判決を受けている(オーストリア国営放送のヴェブサイトから引用)。

 参考までに、欧州では郵便投票は20世紀半ばから「投票率の向上」と「投票のアクセシビリティ(利便性)」を目的に段階的に導入されてきた。スイスなどは現在、有権者の90%以上が郵便投票を利用している。ドイツでは1957年に不在者向けとして始まり、徐々に普及。2008年の法改正で完全に理由が不要となり、コロナ禍を経て現在では投票者全体の3割〜4割以上が郵便投票を利用している。一方、フランスではかつて郵便投票が認められていたが、1970年代の地方選挙で大規模な投票偽造や不正が発覚したため、1975年に郵便投票を法律で禁止した。その後、コロナ禍や在外投票向けに一部緩和の議論はあるが、国内の通常選挙では依然として非常に慎重だ。

 いずれにしても、ジークムント氏の州首相の座は、苦手の郵便投票でAfDがどれだけ有権者の票を獲得できるかにかかっている、ともいえるだろう(「『ドイツで最も危険な男』は誰?」2026年8月19日を参考)。

独空港の爆弾搭載無人機はロシアの関与

 ドイツ東部ライプツィヒ・ハレ空港で先月5日未明、空港職員が正体不明の爆弾搭載ドローン(UAV)を発見した事件について、メルツ独首相は1日、ロシアの関与を初めて名指しに言及し、対ロシアに対して制裁を実施する意向を明らかにした。ドイツはこれまで今回の事件の特徴は「ハイブリッド戦」にあると受け取り、「我々はこの問題を極めて深刻に受け止めている」と警戒を強めていたが、誰の犯行かにはこれまで沈黙してきた。

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▲無人機対策で防衛強化に乗り出すドイツ、ドイツ政府公式サイトから、写真はドイツ通信(DPA)

 ドブリント内相は先月5日午後、ライプツィヒ・ハレ空港内でザクセン州内相とともに共同記者会見に臨み、「今回のドローン騒動はこれまでも偵察目的や威嚇目的とみられるものではない。今回の事案は新たなレベルの危険を意味する」と指摘、使用された技術や状況から「素人によるものではない。プロレベルのハイブリッドな脅威のシナリオにわれわれは直面している」とし、外国勢力が関与している可能性を強く示唆したが、ロシアの関与には言及しなかった。

 連邦政府は「具体的な証拠が欠けていた。連邦政府は憶測に基づく対応は行わない。重要なのは、すべての捜査結果を精査した上で、連邦政府が独自の判断に基づき公式に責任の所在を認定することだ」と述べてきた。ドイツ政府は今回、ライプツィヒ空港で発生した爆発物を搭載したドローンによる攻撃未遂事件の背後にロシアがいると判明したわけだ。

 8月4日の夕方、ライプツィヒ空港で爆発物を積んだドローンが発見された。現場の近くには、ウクライナの貨物機が数機駐機していた。ライプツィヒ空港は、対ロシア防衛戦を戦うウクライナへの軍事支援物資の輸送拠点だ。報道によると、ライプツィヒには複数のドローンが投入されていたことが明らかになった。米メディアは事件発覚直後、「背後にはロシアの関与がある。具体的には、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)だ」と断言している。駐独ウクライナ大使のオレクシー・マケイエフ氏は、独メディアに対し「ロシア以外に誰がいるというのか?」と述べていた。

 メルツ氏は先月27日、RTLのインタビューに対し、政府がまもなく今回の事件の実行犯を特定するだろうと述べ、「我々はそれ相応の対応をとらなければならない」と強調していた。ただし、政府がどのような対応を検討しているかについては言及しなかった。

なお、ヴァーデフール外相は「ドイツ側としては過剰な反応をする必要はないが、必要な対応をとることには躊躇しない」と述べている。具体的には、駐独のロシア外交官の国外追放や駐独のロシア大使を外務省に呼び出して抗議の意思表明を伝達することなどが考えられるという。

 一方、クレムリン(ロシア大統領府)のドミトリー・ペスコフ報道官は、EUとの関係改善の見込みはないとの認識を示し、「欧州側がロシアを敵対者、さらには敵とみなしている」と指摘。さらに「現在のEUの政治家たちはロシアに対して言葉だけでなく行動においても対決的な姿勢をとっている」と付け加えた。

 参考までに、2026年上半期、ドイツの空港におけるドローンの目撃件数が大幅に増加した。ドイツ航空管制(DFS)の統計によると、同期間中に国内の国際民間空港15カ所で、こうした飛行物体が計166件報告された。2025年上半期の報告件数は101件だった。今年、最も多くの事案が発生したのは、ベルリンの首都空港であるBER(28件)と、ドイツ最大の空港であるフランクフルト・アム・マイン空港(27件)だ。また、ライプツィヒ・ハレ空港では18件の無許可飛行が目撃された。

 いずれにしても、メルツ独政権は事件発生からほぼ1か月が経過した1日、爆弾搭載無人機の独空港侵入事件の犯人を名指しで批判したわけだ。ドイツの対応が余りにも慎重すぎるというべきか、冷静な対応と評価すべきかは、立場によって異なってくるだろう。
 

ベルリン市議会「台北友好グループ」設立

 大紀元時報(エポック・タイムズ)が報じたところによると、ドイツのベルリン市議会は27日、「ベルリン・台北友好グループ」を正式に設立した。同グループには18名の超党派市議員が参加している。同市議会では初の公式に登録された外国友好グループとなる。共同議長のジャン・オマール氏は同日の設立大会で、「中国共産党の台湾に対する軍事的・政治的脅威に直面し、民主派は台湾と共に立つべきだ」と述べた。

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▲台湾外交部の林佳龍部長(外相)はドイツ連邦議会における親台湾議員グループ代表を務めるティル・シュテフェン議員率いる超党派議員訪問団を歓迎、2026年5月26日、写真は台湾外交部提供

 同友好グループは2022年に親台湾派の議員たちによって自発的に結成されたもので、州議会の3党の党派で承認され、ベルリン市議会に今回、正式に登録された。「ベルリン・台北友好グループ」設立を支持する議会グループには、「キリスト教民主同盟」(CDU)、社会民主党(SPD)、「緑の党」が含まれ、18人のベルリン州議員が参加し、元党団議長のタマラ・リュドケ氏とジャン・オマール氏が共同議長を務める。

 ドイツと台湾(中華民国)の間には正式な国交はないが、近年、両国の議員交流(議会外交)は「過去最高水準」と呼ばれるほど活発化している。今回創設された超党派議員による「ベルリン・台北友好議員グループ」はドイツ国内における親台派の動きの強まりを象徴している、と受け取られている。

 ドイツ連邦議会には、公式の対外友好団体として「ベルリン・台北友好議員連盟(Parlamentarischer Freundeskreis Berlin-Taipei)」がある。2026年5月にもティル・シュテフェン議長率いる超党派の連邦議員団が台湾を親善訪問し、台湾の頼清徳総統や閣僚(外交部長など)、立法院(国会)議員らと直接会談し、経済・文化や防衛分野での協力強化を話し合ったばかりだ。同議連は、台湾の世界保健機関(WHO)などの国際機関へのオブザーバー参加を後押しする決議や声明を繰り返し発表している。

 台湾との議員交流は、ここにきて連邦(国会)だけでなく地方(州)レベルにも急速に波及してきたわけだ。台北駐ドイツ代表処(大使館に相当)によると、ベルリン市(特別州)だけでなく、ハンブルク州、ニーダーザクセン州、ヘッセン州、バイエルン州の各議会でもすでに同様の「台湾友好議員グループ」が結成されている。

 中国側からの強い反発にもかかわらず、ドイツと台湾の交流が活発化してきた背景には、共通の価値観、安全保障問題があるからだ。ドイツ側には「台湾はアジアにおける民主主義の灯台」という認識が強い。

 ドイツ議会側の動きは、「1つの中国」政策を維持しつつも、実質的なパートナーとしての台湾の重要性を認め、国会から地方議会に至るまで組織的な交流ネットワークを強固に構築してきたわけだ。

 中国からの反発や抵抗は強まっている。ドイツと台湾の議員交流が活発化するにつれ、中国政府は激しい反発と抵抗(外交的圧力や抗議行為)を示している。中国は台湾を「自国領土の不可分の一部」と主張しているため、ドイツの政治家が台湾と接触することに対して極めて敏感に反応している。ドイツの国会議員や地方議員が訪台するたびに、中国外務省や在ベルリン中国大使館は公式声明を出し、猛烈に批判している。 中国外務省の報道官は、ドイツ議員の訪台に対し「台湾問題というレッドラインを越える者は、必ず代償を払わねばならない」と強い言葉で警告している。

 2025年後半、ドイツのヴァーデフール外相が台湾海峡での中国の武力現状変更を批判した際、中国側の反発によって同外相の訪中が一時延期される事態が起きた。その後行われた北京での会談でも、中国の韓正国家副主席は「台湾問題は核心的利益の中の核心である」と述べ、内政干渉を絶対にしないよう強く要求した。中国政府は、台湾を訪問する外国の議員に対して「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として入国禁止などの制裁を科す方針(新しいレッドライン)を強めている。

 中国からの強い反発に対し、ドイツの議員らは「屈しない」姿勢を明確にしている。ドイツ連邦議会の「ベルリン・台北友好議員連盟」を率いるティル・シュテフェン(Till Steffen)議長(「緑の党」所属)は、ドイツと台湾という民主主義社会同士の交流は当然のものであり、「第三者(中国)からの干渉は受け入れない」と明言している。中国政府からの訪台抗議や圧力に対し、台湾との関係は中国によって左右されるべきではないという強硬な姿勢を貫いている。また、台湾とドイツがともに権威主義(主に中国の軍事的・政治的拡張)の脅威に直面しているとして、台湾海峡の平和と安全を極めて重視し、自由と民主主義という共通の価値観を持つパートナーとして強固に団結し、互いに学び合いながら民主主義の強靭性を高めるべきだと主張している。

 ちなみに、ドイツと台湾の二国間貿易額は、2025年に約217億米ドル(前年比6.0%増)に達し、5年連続で200億ドル以上の高水準を維持している。両国の経済関係は極めて緊密で、世界的なAI(人工知能)ブームを背景とした半導体などのハイテク部品や、自動車・産業用機械の分野で相互補完的な強い結びつきを持っている。ドイツの半導体大手やサプライヤーによる台湾投資、および台湾のTSMCによるドイツ・ドレスデンへの巨大半導体工場建設を背景に、2025年のドイツから台湾への認可投資額は2億900万米ドル(前年比264%増)と驚異的な伸びを記録した 。ドイツは台湾を、経済安全保障におけるアジア太平洋地域の最も重要な戦略的ハブと位置づけている。

 メルツ独政権はメルケル前政権時代の「経済最優先(経済交流を通じて中国の民主化を促す『貿易による変化』)」路線を修正し、安全保障とリスク管理を重視する新たな方針へと舵を切っている。アメリカが進める「デカップリング(経済の完全な切り離し)」とは異なり、ドイツは中国市場とのつながりを維持しつつ、過度な依存度を下げる「デリスキング(De-risking)」を基本戦略に据えている。重要な原材料や先端技術、エネルギー分野では、中国に生殺与奪の権を握られないようサプライチェーンを多角化(リバランス)することを目指している。

 特筆すべき点は、台湾海峡の「力による現状変更」に強く反対し、ドイツ政府の公式文書や首脳発言において、「台湾海峡の平和と安定」への関与を明確に打ち出していることだ。

独情報機関の「実力」侮ってはならない

 ドイツのメルツ政権は12日、スパイやテロ、サイバー攻撃など治安上の脅威に対処する情報機関の能力を大幅に引き上げるための法案を閣議決定した。ロシア軍のウクライナ侵攻以来、ドイツを含む欧州の安全保障は大きな挑戦に直面している。ロシアの脅威が高まる中、ドイツは戦後から安全保障に関連する情報を米国に依存してきたが、独自の情報機関の強化を求める声が高まってきていた。

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▲中国武漢ウイルス研究所(WIV)ウィキぺディアから

 ドイツはナチス政権や東ドイツ秘密警察(シュタージ)の負の歴史もあって、情報機関の権限を制限し、「情報の収集・分析」に徹してきたが、ウクライナ侵攻以降のロシアによるサイバー攻撃や破壊工作の増加、さらに同盟国(特に米国)への過度な依存に対する危機感から、ドイツの情報機関の強化を求める声が高まってきた。それを受け今回、米国型情報機関に質的大転換を実施していく意向を明らかにしたわけだ。具体的には、「情報収集・分析」から「情報工作(オペレーション)」を積極的に実施する本格的な情報機関への変貌だ。

 ドイツには3つの情報機関が存在し、それぞれ特定の領域で活動したきた。今回の情報機関の権限強化の対象は�,鉢△澄�
 �]∨�情報局(BND): 連邦首相府に属する対外情報機関。国外の政治・軍事・経済情報の収集やサイバー防衛を担当する。
 �∀∨�憲法擁護庁(BfV): 連邦内務省に属する国内情報機関(カウンターインテリジェンス)。国内のスパイ活動、テロ、極右・極左過激主義の監視を行う。
 �O∨�軍軍事保安局(MAD): 国防省に属し、軍内部のスパイ対策や過激派排除を担当する軍事情報機関 。

 直近の実例を挙げる。
 ベルリンの治安当局は21日、武器の隠し場所を発見した。ドイツのメディアによれば、ドイツの国内治安機関である連邦憲法擁護庁は、この隠し場所がロシアの諜報機関のために設けられたものと見ている。保管場所はブランデンブルク州の森の中にあったという。ドブリント内相(CSU)によると、「発見された武器や弾薬は、明らかに計画的な攻撃を実行するために用意されたものだ」という。外国勢力の関与も排除していないという。

 今回の情報機関の強化に基づいて、差し迫ったサイバー攻撃の兆候がある場合、BNDは敵対勢力のITシステムや国外のサーバーに侵入し、無力化・停止させる活動(ハッキング)を実施する能動的な防護措置が可能となる。また、監視制限の大幅な緩和、通信データの保存期間が延長され、通信内容は最長6カ月、IPアドレスや接続データは最長12カ月保存できる。具体的な脅威の兆候があれば、海外での秘密作戦や介入、武器の運搬手続きの簡素化を認め、実質的な「独自の防諜能力」を持たせるという。

 ところで、BNDの情報機関としての「実力」はどうか。BNDは高度な暗号解読や、世界中の通信インフラから情報を集めるシギント(通信情報収集)で高い技術を有する一方、これまでは法的な制約(プライバシー保護やナチス時代の反省)から「攻撃を事前に検知しても、自らサーバーをハッキングして止める」ことができなかった。そのため、米国のCIA(米中央情報局)やNSA(米国家安全保障局)、英のMI6(対外秘密情報局)などに比べ「実戦力」で劣ると見なされてきた。

 今回の法改正により、他国に頼らず自国で脅威を察知し、自らサイバー空間や海外で工作を阻止できる「本物の諜報機関」としての実力を持つことになる。この大改革は、市民のプライバシーや基本的権利を脅かすとして国内で物議も醸していますが、メルツ政権は「外国からのハイブリッド攻撃は極めて差し迫った危険である」として、強力にこの情報機関の武装化を推進していく決意だ。

 参考までに、BNDが情報機関としてその実力を発揮した実例を紹介する。このコラム欄でも報告したが、ドイツの情報機関がパンデミック初期(2020年)の段階で、欧米に先駆けて「新型コロナウイルスは武漢研究所から流出した可能性が極めて高い」とする極秘報告書をまとめていた。この事実は長年伏せられていたが、2025年3月にドイツの有力紙「ツァイト」や「南ドイツ新聞」などのスクープによって暴露された。

 ドイツの情報機関BNDは2020年初めにコロナパンデミックの起源に関する機密資料を入手していた。それらの情報に基づいて、BNDは中国・武漢ウイルス研究所(WIV)での事故が世界的なコロナパンデミックの原因である可能性が高いと結論を下した。BNDによると、武漢ウイルスの起源は「80%から95%」、WIV発生説が正しいという。

 根拠となったのは、公的なデータの分析に加え、「サーレマー」(saaremaa)というコードネームで行われた情報機関の極秘作戦で入手した資料に基づくものだった。資料の中には、中国の研究機関、特にウイルス研究の最先端機関である「武漢ウイルス研究所」からの科学データが含まれていた。また、自然界のウイルスを人為的に改変する「機能獲得(Gain-of-Function)」実験のリスクに関する証拠や、研究所の安全基準違反を示す多数の資料も含まれていたという。

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の起源を調査するように指示を出したのは、当時のドイツの首相府だった。メルケル政権下で、BNDは首相府に対し、この機密作戦の結果とBNDの評価を報告した。しかし、首相府はこの極めて重大な情報を非公開とする決定を下した。メルケル首相は中国側の反発を恐れて、機密情報を封印したのだ(「ドイツは武漢ウイルスの機密資料入手していた」2025年3月14日参考)。

 トランプ米政権がスタートした直後の1月25日、CIAは中国の研究室から流出した可能性が高いとする新たな評価を示した。CIAは「入手可能な情報によれば、研究所起源説が、自然発生説よりも可能性が高い」と指摘。立場を転換した具体的な理由については説明しなかった。BNDが提出した資料に基づいて、研究所流出説を支持する立場に急遽、転換したものと推測されている。

 独週刊誌シュピーゲル誌によると、「世界保健機関(WHO)のウイルス専門家はBNDの情報をメディアを通じて知り、武漢ウイルスの起源問題で理解を深めた」という。BNDの世界的な功績は表立っては称賛されなかったが、それ以後、BNDの情報収集力への外国情報機関の評価は大きく変わったといわれている。

AfDに投票を呼びかけるCDU市長

 ドイツ東部に位置するザクセン=アンハルト州で来月6日、州議会選挙が実施される。複数の世論調査によると、極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が支持率42%で独走し、他の政党を大きく引き離している。一方、前回(2021年)の州議会選では得票率37・1%で大勝した「キリスト教民主同盟」(CDU)は党内のドタバタが表面化するなど、厳しい選挙戦を強いられている。今回は同州CDUの状況を報告する。

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▲AfDに投票を呼びかけ、寄付したCDUのプランゲ市長、

 同州のCDUは世論調査では支持率が約22%に留まり、前回比で大きく支持率を落としている。投票日まで3週間を切った中、同州CDUの市長が有権者にAfDに投票するように呼び掛けると共に、AfDに数千ユーロを寄付していたことが判明し、CDUに大きな衝撃を与えているのだ。

 シュテンダル郡に属し、10以上の小さな村々から構成される人口約1700人の自治体「アルトメルキッシェ・ヘーエ」の市長、ベルント・プランゲ氏は、公開書簡の中で、「9月6日の選挙でAfDに投票する」意向を明らかにした。同氏は、「業績、秩序、安全、国家主権、経済的常識、そして我々の文化的アイデンティティの保護といった私の保守的な価値観が、CDU内ではますます反映されなくなっている」と述べている。

 プランゲ氏の目には保守政党のCDUがここにきて急速に左傾化してきたというのだ。そして、極右政党AfDに対しては、「AfDとの協調・連立はいっさい行わない」という方針(通称:防波堤 / Brandmauer)を構築し、AfDとの連携を阻止していると訴えている。

 プランゲ氏はまた、AfDに2回、計1万ユーロを既に寄付したことも明らかにした。同氏は、「これは衝動的な決断ではなく、ましてや無謀な行動ではない。それは慎重な検討を経て踏み出された意図的な一歩であり、わが国に対する深い懸念から生まれたものだ」と説明。同時に、郡議会におけるAfDとの連携を評価し、「AfD議員団との協力関係は良好かつ建設的なものだ。私たちはAfDの同僚たちと協力し、左派の提案がもたらす具体的な弊害を、これまでに幾度となく回避することに成功している」というのだ。

 プランゲ市長は1967年生まれ(59歳)で、本職は運送会社(Fuhrunternehmen)を経営する実業家。長年にわたりCDUの熱心な党員として活動し、10年以上にわたってアルトメルキッシェ・ヘーエの名誉市長を務めるほか、シュテンダール郡の郡議会議員も務めている。同市長の今回の言動は、左傾化するCDUに警告を発し、本来の保守派政党に戻ってほしいという願いから出たものだという。

 同市長の言動に対し、ザクセン=アンハルト州CDUの幹事長であるマリオ・カルシュンケ氏は「我々は極めて深刻に受け止めている。もし事実であれば、党法上、極めて重大な問題だ」と指摘、同市長の党除名処分を示唆している。同幹事長は、「もはや党の基本的な政治的信念を共有していないのであれば、誰であれ党員であり続けることを強制されることはない」と述べている。

 ちなみに、CDU党首のメルツ首相と、ザクセン=アンハルト州における同党の筆頭候補であるスヴェン・シュルツェ氏は、これまでAfDとの協力の可能性を繰り返し否定している。

 独週刊誌シュピーゲル誌によると、連邦議会の連立与党である社会民主党(SPD)からは、「地方の小さな事件ではなく、民主主義の根幹に関わる裏切り行為だ」として、CDUに対し迅速かつ厳格な処分を下すよう強い圧力がかかっているという。同市長は地方政治家の一人に過ぎないが、公開書簡の内容に共感を有するCDU党員、支持者も少なくないといわれる。

 同州CDU内の混乱をよそに、AfDは単独で議席の過半数の獲得する勢いだ。シュピーゲルは最新号で同州AfD党首で筆頭候補者ウルリヒ・ジークムント氏を「ドイツで最も危険な男」と呼んでいるが、ジークムント氏が「AfD最初の州首相」になる可能性は日増しに高まってきた。同党はすでにテューリンゲン州議会で最大勢力となって久しく、ここにきてザクセン=アンハルト州やメクレンブルク=フォアポンメルン州でも同様の地位を占める公算が大きいわけだ。

 いずれにしても、ザクセン=アンハルト州で「AfDの州首相」が誕生した場合、その波紋は東部の州だけではなく、ドイツ全土に広がることが予想される、そうなれば、CDU内でメルツ党首の退陣を要求する声が高まることは必至だ。

 注・・ドイツ通信(DPA)とドイツ民間放送ニュース専門局ntvのヴェブサイトの記事を参考にした。

「ドイツで最も危険な男」は誰?

 ドイツの16ある連邦州の一つ、東部に位置するザクセン=アンハルト州で来月6日、州議会選挙が実施される。複数の世論調査によると、極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が支持率42%で独走し、他の政党を大きく引き離している。同州は旧東ドイツ地域に位置し、中央政治への反発や経済的格差への不満が根強い地域だ。AfDが単独過半数を獲得し、ドイツ史上初となる「AfD所属の州首相(ウルリヒ・ジークムント氏など)」が誕生する可能性が現実味を帯びてきた。

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▲独週刊誌シュピーゲ最新号の表紙を飾るAfDのジークムント氏

 5年前の2021年の州選挙(任期5年間)では、「キリスト教民主同盟」(CDU)が37.1%の得票率で大勝し、社会民主党(SPD)および自由民主党(FDP)との連立政権を組んで執政してきた。AfDは第2党で20・9%だった。そのAfDが5年後、世論調査の結果だが支持率を倍加させているのだ。驚異的な飛躍と言わざるを得ない。連立を組める相手はいないが、同党は、議席の絶対過半数を獲得し、単独で政権を担うことを目指している。

 ところで、独週刊誌シュピーゲル誌(8月14日号)は、ザクセン=アンハルト州議会選で支持率首位のAfD州党首ジークムント氏を「ドイツで最も危険な男」として表紙と特集で報じ、警鐘を鳴らしている。ただし、その最新号の表紙に州AfD党首のジークムント氏の顔写真が掲載されたことに対し、その是非が議論を呼んでいる。

 シュピーゲル誌の編集長のディルク・クルブュヴァイト氏はジークムント氏を最新号の表紙に飾ったことに対し自らの立場を擁護する一方、「ドイツで最も危険な男」と呼ばれたジークムント氏は「これは非常に良い宣伝だ」と歓迎し、自身のInstagramでシュピーゲル誌の表紙にサインをする動画を公開し、同誌の表紙にサインして有権者に配っている、といった具合だ。

 他のメディアから説明責任を追及されたクルブュヴァイト編集長は「表紙記事が誰の利益や不利益になるかではなく、その重要性こそが判断の主要な基準だ。ジークムント氏は親しみやすい態度で振る舞い、極右思想は持たないものの大きな政治的変革を望む市民に対しても、魅力的な人物として映る。しかし、ジークムント氏が掲げるザクセン=アンハルト州向けの計画はリベラル・デモクラシーへの攻撃であり、その影響はまずマイノリティ(少数派)に及ぶだろう。こうした『愛想の良い態度』と『極端な思想』の組み合わせこそがジークムント氏を危険な人物にしており、リベラル・デモクラシーを支持する人々の視点からは、現在ドイツで最も危険な人物と言わざるをえない。なぜなら、もしザクセン=アンハルト州でAfDから州首相が誕生すれば、同州だけでなくドイツ連邦共和国全体をも変えることになるからだ」と説明している。

 それに対し、左翼党(Die Linke)の連邦議会議員バルチュ氏は、シュピーゲル誌の編集を「無責任だ」と批判し、結局のところAfDの選挙運動を助けることになると反論している。シュピーゲル誌のライバル誌「シュテルン」は 「AfDの州党首を表紙に掲載したことは同誌のオウンゴールではないか?結局のところ、この政治家は見出しを自分に有利に利用する方法を知っているのだから」とクールに受け取っている。

 シュピーゲル誌から「ドイツで最も危険な男」と烙印されたジークムント氏はいかなる人物だろうか。ジークムント氏は、移民の「再移住」(レミグレーション)計画への関与や、外国人に対する排外的な発言により、民主主義体制の脅威として監視対象となっている。2024年初頭、ポツダムで開催された右翼過激派の秘密会合に参加していたことが報じられ、ドイツ全土で物議を醸した。さらに、司法の独立性への攻撃や、歴史教育におけるナチス時代の相対化といった政策を推し進める一方、TikTok等のSNSで温和なイメージを演出している。

 ジークムント(Ulrich Siegmund)は、1990年10月25日生まれ、35歳、旧東ドイツのハーフェルベルク出身。ザクセン・アンハルト州議会議員(2016年〜)、同州議会AfD会派共同委員長(2022年8月〜)を務めている。2016年にザクセン・アンハルト州議会選挙に初当選。2022年からは共同委員長(院内総務)を務め、州議会における実質的な野党トップ(野党党首)として活動してきた。 若きリーダーとしてSNS戦略に長けており、TikTokをはじめとするSNSのフォロワー数は70万人を超え、特に若い世代や現状への不満を抱く層から熱狂的な支持を集めている。

 選挙戦では、旧東ドイツ製の原付きバイク(シムソン社製)を駆って各地を巡るなど、親しみやすさと愛国心・懐古主義をアピールする独自のスタイルで支持を広げている。ドイツの公安当局(連邦憲法保全庁)から「右翼過激派」と認定されている州組織を率いながらも、既成政治への不満を背景に、「ドイツ初のAfD所属の州首相」の座を狙う有力な政治人物として注目されてきたわけだ。

  なお、連邦レベルでの世論調査の結果を見ると、メルツ首相が率いる与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)は支持率約21%でAfDの28%に大きく差を付けられている。CDU/CSUと連立を組む社会民主党(SPD)は13%だから、両党の支持率は34%に過ぎず、過半数を占める安定政権どころの話ではない。メルツ政権は完全な少数派政権だ。7月25日にベルリンで発生したイスラム過激テロ事件は、外国人排斥を訴えるAfDにとって絶好の機会と受け取られている。

 国民に不人気なメルツ政権、停滞する国民経済・・ドイツ政界に吹き荒れる風は、AfDに追い風であることは間違いない。

爆弾搭載無人機が独空港で発見された日 

 荷物を送る際には受取人の住所と氏名だけではなく、送り人の名前ぐらいは通常書くが、ドイツ東部ライプツィヒ・ハレ空港で5日未明、ライプツィヒ・ハレ空港の「南滑走路」で、空港職員が正体不明のドローン(UAV)を発見した。そのドローンには爆弾が搭載されていたが、起爆装置が故障していたため幸い爆破せずに大惨事を免れた。連邦警察の爆発物処理班が爆弾を処理したが、ドイツ国民に大きなショックを与えている。連邦検察が重要インフラに対する「重大な攻撃」としてテロ容疑で捜査を開始した。

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▲ドブリント内相(右)の記者会見、2026年8月5日、ライプツィヒ・ハレ空港で、独週刊紙「ディー・ツァイト」から

 ドイツのドブリント内相は5日午後、ライプツィヒ・ハレ空港内でザクセン州内相とともに共同記者会見に臨み、「今回のドローン騒動はこれまでも偵察目的や威嚇目的とみられるものではない。今回の事案は新たなレベルの危険を意味する」と指摘、使用された技術や状況から「素人によるものではない。プロレベルのハイブリッドな脅威のシナリオにわれわれは直面している」とし、外国勢力が関与している可能性を強く示唆した。

 ドイツの主要メディアや当局は、今回の事件を単なる不法侵入や素人の悪戯ではなく、国家的な背景を持つ「ハイブリッド攻撃(灰色事態の攻撃)」の新たな段階と捉えて強く警戒している。独メディアは「ドイツ国内のインフラが事実上の戦場(灰色地帯)と化している実態を浮き彫りにした」と大きく報じている。

 ところで、最初の問題は「爆弾を搭載した無人機の送り人は誰か」だ。犯人探しだ。まず、浮かぶのはロシアの仕業だ。実際、駐独ウクライナ大使のオレクシー・マケイエフ氏は、独メディアに対し「ロシア以外に誰がいるというのか?」と述べていた。当然の推測だ。

 ロシアとウクライナは戦争中だ。そしてライプツィヒ・ハレ空港はドイツ軍や北大西洋条約機構(NATO)同盟国による軍需品の輸送の重要拠点であり、ウクライナのアントノフAn-124「コンドル」輸送機の拠点でもある。ある意味で、NATO物流網(ミリタリーモビリティ)への攻撃ともいえる。また、ドイツを標的とした世論の分断やウクライナ支援妨害を狙う、ロシアの巨大なハイブリッド情報・工作と見てもいいかもしれない。

 ロシアのプーチン大統領はメルツ政権がウクライナ支援を積極的に実施していることに日頃から強い不満と怒りを吐露してきた。だから、今回のような無人機騒動を裏で画策したとしても不思議ではない。ただし、現時点では何も証拠はないし、ロシア側も何のコメントも配信していない。

 ドイツで現在議論されているテーマは、誰が送り人不明の無人機問題を担当するかだ。、連邦議会防衛委員会の委員長を務めるトーマス・レーヴェカンプ氏(「キリスト教民主同盟」CDU)は、ドローン防衛の責任を連邦内務省の下で一元化するよう求めている。

 現在、ドイツの空港におけるドローン防衛の責任は連邦警察が担っている。しかし、昨年末には連邦政府と各州政府によって「ドローン防衛合同センター」も設置された。また、他のすべての機関が技術的に対応しきれない場合には、連邦軍が介入する任務を負うことになっている。

 注目すべき点は、5日未明にライプツィヒ・ハレ空港で発見された爆発物搭載ドローンには、5Gアンテナが取り付けられていたことだ。。治安当局筋の話として「ZDF frontal」や「Die Zeit」が報じたところによれば、これは市販の「ホームセンターで買えるようなドローン」ではなく、モバイルネットワーク経由で専門的に操縦されるタイプのものという。ドローン専門家のクリスチャン・カイザー氏はZDFに対し、「5Gアンテナを使って操縦されるドローンには、理論上、操縦者はライプツィヒ市内のカフェにいても、あるいは海外にいても構わない。必要なのは、デバイスがインターネットに接続されていることだけだ」と説明していた。

 また、使用された爆発物が軍用・産業用の高級プラスチック爆薬「セムテックス(Semtex)」や「PETN」の可能性が高いこと、起爆装置が非常に精巧であることから、「プロの国家アクター(ロシア)」による犯行説がますます強まるのだ。

 ちなみに、滑走路上で爆発物を搭載したドローンを発見したライプツィヒ・ハレ空港の職員は、ドイツ通信(DPA)が入手した治安当局筋の情報によると、「飛行中のドローンを蹴って地上に落とした」という。ドローンが爆発していたら命取りとなったところだ。

 ドイツの軍事産業の大手企業ラインメタルのアルミン・パッパーガーCEOは、ドイツ政府に対し、ドローン防衛への取り組みを強化するよう求めている。「こうしたドローン攻撃を極めて迅速に探知し、必要であれば撃墜するための措置を講じることが絶対に必要だ」と述べた。

 また、英国の「キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)」で教鞭を取るテロ問題専門家のペーター・ノイマン教授は5日、ドイツ民間ニュース専門局ntvやZDFとのインタビューに応じ、「ドイツのドローン防衛体制は不十分だ。ドローンの防衛・探知システム、責任の所在をめぐる現状の混乱、そして統一された法的枠組みの策定など、取り組むべき課題は山積している」と語っている。

 なお、独代表紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」(FAZ)は今回の出来事を「目覚まし時計(Weckruf)」と受け取り、事件を、ドイツ全体の重要インフラ防衛が機能していないことへの深刻な警告であると捉えている。国内空港へのドローン防衛システムの導入が遅れている現状を批判し、「特に、連邦警察、州警察、軍、航空局など42もの航空安全当局が絡む、複雑で拡散した権限のせいで迅速な防衛や意思決定が阻害されている」と官僚主義の弊害を指摘している。

 独週刊誌シュピーゲルは「ドイツの航空保安について誰が責任を負うのかをはっきりさせる必要があるだろう。州警察、連邦警察、航空当局、そして連邦軍は、それぞれがいつ介入を許可され、介入が可能であり、また介入を義務付けられているのかを把握しておく必要がある」と強調している。

 参考までに、2026年上半期、ドイツの空港におけるドローンの目撃件数が大幅に増加した。ドイツ航空管制(DFS)の統計によると、同期間中に国内の国際民間空港15カ所で、こうした飛行物体が計166件報告された。2025年上半期の報告件数は101件だった。今年、最も多くの事案が発生したのは、ベルリンの首都空港であるBER(28件)と、ドイツ最大の空港であるフランクフルト・アム・マイン空港(27件)だ。また、ライプツィヒ・ハレ空港では18件の無許可飛行が目撃された。

メルツ氏、CDU内で求心力を失ってきた

 ドイツ民間放送ニュース専門局ntvは29日、「メルツ氏、求心力を喪失、同盟(ユニオン)」は辛うじて夏期休暇入りへ――だが、その先にあるものは?」という見出しでメルツ首相の内閣改造に疑問を呈する記事を掲載している。

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▲シュタインマイヤー大統領(左)は、首相府長官、保健相、運輸相の新閣僚3人を任命した。2026年7月29日、ドイツ連邦首相府公式サイトから

 メルツ氏は首相就任以来の14ヶ月間、妥協を導く熟練の交渉人として、多数派を形成するまとめ役として、あるいは人々を惹きつけるカリスマ的指導者として、際立った手腕を発揮してきた、といいたいところだが、現実は全くその逆だ。メルツ氏の首相としての指導力に疑問が呈される機会が増えてきた。

 世論調査の結果を見ると、メルツ首相が率いる与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)は支持率約21%で野党の極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)の27%に大きく差を付けられた。
 CDU/CSUと連立を組む社会民主党(SPD)は13%だから、両党の支持率は34%に過ぎず、過半数を占める安定政権どころの話ではない。完全な少数派政権に陥っているわけだ。

 全てメルツ氏の責任とは言えない。世界経済はウクライナ戦争、イラン戦争の勃発で厳しい環境圏にある。どの国の、誰が政権を運営したとしても国民経済を引率することは容易ではない時だ。

 メルツ政権は7月2日、低迷する経済の活性化と低所得者層への支援を目的とした包括的な改革パッケージについて合意したばかりだ。ドイツは輸出立国だ。その象徴は自動車産業だが、そのメイド・イン・ジャーマニーの自動車産業が瀕死の状況にある。BMWは約8,000人の人員削減を計画している。フォルクスワーゲン(VW)に至っては会社の存続の危機に陥っている。その大きな原因の一つはドイツ製自動車の最大顧客だった中国経済の停滞だ。同時に、中国製自動車が電気自動車(EV)の分野で市場を先行し、ドイツ製自動車への需要が急減しているのだ。

 メルツ首相は内閣改造に乗り出した。その直接の契機は、CDU連邦会議議員団の院内総務イェンス・シュパーン氏(46)が7月18日、代理出産問題で辞任に追い込まれたからだ。その詳細な事情についてはコラム欄で報告済みだ(「『代理出産』の対応で苦悩する独CDU」2026年7月20日参考)。

 問題はその後だ。メルツ氏はシュパーン氏の辞任を受け、院内総務の後継者探しだけではなく、CDU出身の閣僚の人事を実施し、連立政権に新鮮な風を送ろうとしたのだ。そこまでは良かったが、メルツ氏の閣僚人事に党内から厳しい批判の声が飛び出してきたのだ。

 メルツ氏は、シュテフェン・ビルガー議員を交通相、CDU幹事長のカーステン・リンネマン氏を保健相、ニーナ・ヴァルケン保健相を首相府担当相にそれぞれ任命した。メルツ氏はなぜパトリック・シュナイダー前交通相を解任したのか説明しなかった。その一方、医学には専門外のカーステン・リンネマン幹事長を保健相に任命した。また、保健政策の専門家であるティノ・ゾルゲ次官を解任したのだ。今秋には医療制度の大規模な構造改革が予定されている時だ。

 メルツ首相はまた、最側近トルステン・フライ首相府担当相をシュパーン氏の後継者に選んだ。幸い、CDU会派はフライ氏を92パーセント近い得票率で支持した。首相が任命した後継者をCDU議員たちが拒否した場合、CDUは文字通り分裂の危機に陥るところだった。多くのCDU議員たちにブレーキが働いたのだろう。党への忠誠心が強い、というのがCDUの特徴とこれまでいわれてきた。

 「会派の会合後、メルツ氏は落ち着いた様子を見せていたが、ここ数日でその権威は著しく失墜した。彼は公然たる反発に直面している。特に連邦各州――具体的にはラインラント=プファルツ州、ブレーメン州、ザクセン州――からの批判が強い。首相を公に擁護する者はほとんどいない。批判のパターンは一貫している。すなわち、メルツ氏のリーダーシップはトップダウン型であり、自身の決定について十分な説明を行わず、各州のニーズを軽視しているというのだ」(ニュース専門局ntv)、といった厳しい論評が見られる。

 ドイツでは州議会選挙が迫っている。9月6日に実施されるザクセン=アンハルト州ではAfDが最大政党となる可能性がある。また、メクレンブルク=フォアポンメルン州やベルリン(特別州)においても、CDUの情勢は厳しい。

 7月25日にベルリンで発生したイスラム過激テロ事件は、外国人排斥を訴えるAfDにとって追い風となる――そうした政治的思惑や憶測が、早くも囁かれ始めている。そして今、メルツ首相の内閣改造でのCDU内の不協和音が漏れ出してきた。夏休暇明けのドイツの政界から目が離せない。

ベルリン群衆テロ事件の容疑者Bの場合

 ベルリン市中心部にあるティ―アガルテン公園周辺で開催されていた性的少数派のイベント「クリストファ―・ストリート・デー」(CSD,プライド・パ―ティ)に参加していた群衆に向かって白色のバーンの車両が25日午後10時頃、猛スピードで突入し、警察側の発表では、1人の若い女性が死亡し、29人が負傷する事件が起きた。警察側はイスラム過激派に関連する21歳の男アブドゥル・B(Abdul B.)を容疑者として特定し、犯行後逃避した男の行方を追っていたが、26日午後、容疑者Bはシュパンダウ地区にある市民農園で警察官によって射殺された。ドイツのメディアによると、容疑者は刃物を持って警察官に襲いかかってきたところ、警察官に撃たれ、26日午後6時34分(日本時間27日午前1時34分)に死亡が確認された。

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▲ブランデンブルク門が虹色にライトアップされた、ベルリン市公式サイトから

 ドブリント連邦内相は26日午後2時過ぎ、現場で記者会見を開き、「事件は明らかにイスラム過激派によるテロ事件だ」と指摘した。警察側は21歳のドイツ国籍を有する男アブドゥル・Bを容疑者として特定し、犯行後逃げた男の行方を追っていた。容疑者Bが射殺されたことで、事件は一応解決したが、容疑者が危険な人物と見られていたが、今年5月に少年鑑別所から釈放されていたことが明らかになり、政治家やテロ専門家、メディアから疑問の声が上がっている。

 容疑者Bは2005年ドイツ生まれのドイツ国籍者で、レバノンにルーツを持ち、母親は2002年にドイツ国籍を取得している。アブドゥル・B.は、以前から警察にその名を知られた人物だった。2022年2月、ティーアガルテン地区裁判所は、Bに対し、身体傷害および強盗・恐喝の罪で有罪判決を下した。2019年9月には学校の校庭で相手を殴打した罪で有罪とされたほか、2020年10月には共犯者と共に、ある人物からヘッドホンを奪うなど、複数の犯罪を犯してきた。

 アブドゥル・Bの過激化が公に認識されるようになったのは2024年のことで、彼が自身のインスタグラムのアカウントで、テロ組織「イスラム国(IS)」の禁止されたプロパガンダを共有したのがきっかけだ。ベルリン検察当局によると、Bは2025年に数回にわたり、海外でイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)に合流しようと試みたことが発覚し、2025年7月にレバノンで逮捕され、同地で3ヶ月間拘束された。その後同年11月にベルリンへ戻ったところ再び逮捕された。

 容疑者Bは2026年5月、「国家を脅かす重大な暴力行為を準備した罪」で、懲役1年10ヶ月(執行猶予付き)の判決を言い渡された。この判決には少年刑法の特定の規定が適用された。釈放の条件として、Bには脱過激化プログラムへの参加が義務付けられた。アブドゥル・B.は、5月に拘束から解放された後、脱過激化プログラムの対象となる予定だったが、実際には実施されなかった。検察は3年弱の懲役刑を求刑しており、控訴しているため、判決はまだ確定していない。ちなみに、ドイツでは「少年裁判所法(JGG)」において、少年刑法の対象となるのは犯行時に21歳未満(20歳まで)までだ。容疑者Bは犯行当時、20歳だった。

 「暴力防止ネットワーク(VPN)」の共同創設者兼代表のトーマス・ミュッケ氏はドイツの週刊誌「シュピーゲル」に答え、脱過激化プログラムを実施するか否かの「見極め段階(クリアリング・フェーズ)」で6月15日と7月8日の計2回、容疑者Bと面接している。ミュッケ氏は公共放送ARDの特別番組『ブレンンプンクト(Brennpunkt)』の中で、VPNのソーシャルワーカーたちがアブドゥル・B.に対して抱いた印象について、「非常に落ち着いていて、極めて慎重、自己をよく制御しており、非常に友好的」であったと述べている。

 カウンセリングプログラムへの参加に関する最終決定は、来週予定されていたVPN専門家との3回目の会合後に行われる予定だった。しかし、その会合が行われる前に、Bはベルリンのティーアガルテンで襲撃を実行したわけだ。ミュッケ氏は、2回の予備会合では「具体的な脅威の兆候は全くなかった。もし脅威があれば、組織は直ちに当局に通報していた」と述べた(ドイツ民間放送ニュース専門局ntv)。

 ドブリント連邦内相は26日、ntvとのインタビューで、容疑者Bに対し、執行猶予付きの判決が下されたことを厳しく批判した。同内相は「容疑者アブドゥル・Bの犯罪歴や過激化の度合いを考慮すれば、執行猶予付きの判決が下されたことは到底理解しがたい」と語り、「司法批判をするつもりはないが、今後の検証においては、なぜこのような事態が生じることを許してしまったのかという点を詳細に検討する必要がある」と付け加えた。そして「脱過激化の取り組みは一つの手段に過ぎず、他にも拘禁という手段や、外国人であれば国外追放という選択肢もある。脱過激化だけに頼るというのは、間違いなく甘い考えだ」と言い切った。

 連邦検察庁によると、裁判所は、Bが裁判手続きの過程でドイツ国内で6ヶ月近く未決勾留され、レバノンでも3ヶ月間拘束されていたという事実を判決の根拠としたという。さらに、Bが裁判中に概ね犯行を自白し、ISから距離を置く姿勢を示したことも考慮に入れた、という。

 なお、事件発生直後、もう一人の男(イラン国籍)が警察当局に逮捕されたが、独シュピーゲル誌によると、「男は26日夜、証拠不十分として釈放された」という。ドブリント内相は「容疑者Bの単独犯行が濃厚だ」と述べている。

 ちなみに、ドイツでは9月に入ると、ザクセン=アンハルト州が6日に、ベルリン(特別州)とメクレンブルク=フォアポンメルン州は20日、議会選挙がそれぞれ実施される。今回のベルリンにおけるテロ事件は、外国人排斥を訴える極右政党『ドイツのための選択肢(AfD)』にとって追い風となる――そうした政治的思惑や憶測が、早くも囁かれ始めている。
 

ベルリンのLGBTQ+イベントに車両が突入

 7月25日午後10時頃(現地時間、日本時間26日午前5時)、ベルリン市中心部にあるティ―アガルテン公園周辺で開催されていた性的少数派のイベント「クリストファ―・ストリート・デー」(CSD,プライド・パ―ティ)に参加していた群衆に向かって白色のバーンの車両が猛スピードで突入し、死傷者が出る事件が発生した。警察側の発表では、1人の若い女性が死亡し、29人が負傷、そのうち数人は重傷を負った。

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▲ベルリンのCSDイベントの風景、CSD公式サイトから

 ドブリント連邦内相は26日午後2時過ぎ、現場で記者会見を開き、「事件は明らかにイスラム過激派によるテロ事件だ」と指摘した。警察側は21歳のドイツ国籍を有する男アブドゥル・B(Abdul B.)を容疑者として特定し、犯行後逃げた男の行方を追っている。

 容疑者は2005年ドイツ生まれのドイツ国籍者で、レバノンにルーツを持ち、母親は2002年にドイツ国籍を取得している。ドイツのメディアによると、男はシリアでイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)に入ろうとしたことがあったという。容疑者は以前、懲役1年10ヶ月(執行猶予付き)の判決を受けたが、今年5月に保護観察付きで釈放されたばかりだ。

 警察の広報担当者は、「男は身長約190センチ、黒髪で、黒いパーカーと白いズボンを着用している。武器を携帯している恐れもある。警察の捜査対象として以前から知られており、男はベルリンのイスラム過激派のコミュニティと関わりがある」と述べた。

 警察の発表では、犯人はレネー通り(Lennestrase)と並行して走るアーホルンシュタイク(Ahornsteig)という通路をバンで走行した。そこで数人に衝突し(あるいは轢いた可能性もあり)、その後、車両は木に激突した。運転手は車から降り、行方不明のまま逃走したという。

 事件は、車が木に衝突して動かなくなった後、車外に出て刃物(刃物状の武器)で周囲の数人をさらに切りつけたという目撃証言が相次いでいる。目撃者の証言によると、数人が刺されて負傷しており、黒い服を着てマチェーテ(大型の刃物)を持った男を見かけたという。容疑者Bのほか、別の男がいた可能性も排除できない。

 ドイツ民間放送ニュース専門局ntvによると、車両にイラン国籍の男の同乗者がいたという。警察側は25日夜、その男を逮捕した。逮捕されたイラン人男性が今回のテロ計画にどの程度関与していたのか、あるいは単なる同乗者だったのかについては、警察が調査中という。

 同事件を受け、ベルリン市内には2,200人以上の警察官が動員され、重武装した部隊や私服警官も投入された。さらに、市内全域で数百人の警察官が警備にあたった。特殊部隊がシェーネベルク地区にある容疑者Bのアパートらの捜索を行った。

 ドイツ通信社(dpa)によると、容疑者はベルリンに家族がおり、実際に車両を運転していたのか、あるいはその白いバンの所有者が誰なのかは不明。警察の広報担当者は、その車両がレンタカーではなく自家用車であったという。

 約70万人がゲイやレズビアンの権利運動を記念する「クリストファー・ストリート・デー」に参加していたが、事件発生後、主催者はイベントの中止を決定した。

 事件直後、メルツ連邦首相は今回のテロ行為を強く非難し、「我々の社会への攻撃だ。この恐ろしい行為が徹底的に捜査され、犯人が厳罰に処されるよう強力に推進する」と声明を出した。また、カイ・ヴェグナー・ベルリン市長は26日の記者会見で、「自由で開かれた明るいベルリンが昨夜、暗闇の中に陥った」と憤りを表明した。

 ドイツの主要メディアは、事件の凄惨な状況や目撃者の証言を速報するとともに、「多様性と寛容さ」への標的リスク、数十万人が集まるヨーロッパ最大級のLGBTQ+イベントの終着点(ティーアガルテン公園付近)が狙われたことから、多様性を尊重する開かれた社会そのものがテロの標的にされたと重く受け止めている。

 今回の事件は、2016年に12人が死亡した「ベルリンのクリスマスマーケット襲撃事件」や、2025年に近くのホロコースト記念館付近で起きたシリア人男性による刺傷事件を想起させる、といった論調も聞かれる。

 なお、クリストファー・ストリート・デー(CSD)という名称は、1969年にニューヨークの「クリストファー通り」で起きた、LGBTQ+当事者による権利擁護を求めた反乱に由来している。
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ちなみに、容疑者Bはシュパンダウ地区にある市民農園で警察官によって射殺された。ドイツのメディアによると、ベルリン市(州)の内務当局および同市警察は容疑者Bの死亡を確認した。警察によると、容疑者は刃物を持って警察官に襲いかかってきたが、警察官に撃たれ、蘇生措置が講じられたものの、26日午後6時34分(日本時間27日午前1時34分)に死亡が確認された。
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