ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ドイツ

「自然再生法」を巡る環境相の独走?

 21世紀に入って環境保護が重要課題であることはほぼ全ての政党が認めるところだろう。環境保護政党「緑の党」の専売特許ではなくなって久しい。中道右派・左派も環境保護政策をその政治目標に掲げていることもあって、「緑の党」は存在感をアピールする必要性を強いられてきた。その結果、その言動が過激化してきている。それを支えているのは洪水など自然災害、気候不順の世界的多発だ。

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▲「自然再生法」の署名を示唆したオーストリアのゲヴェスラー環境相(「緑の党」公式サイトから)

 環境保護活動家には「もはや時間がない。このままでは地球が危ない」といった危機感が強い。彼らから「終末への差し迫った焦燥感」といった宗教的使命感すら感じるほどだ。

 例えば、「ラースト・ジェネレーション」(最後の世代)と呼ばれるグループは路上を封鎖したり、美術館の絵画にペンキを浴びせかけるなどをして環境保護を訴えてきたが、一般社会からは批判的に受け取られ、活動家の一部は破壊行為、公共秩序の妨害などで逮捕されている。それでも彼らが活動を継続するのは「もはや時間がない」といった終末観的危機感が強いからだろう。社会から反対が強くなるほど、彼らの活動は過激化していく。間違った殉教精神だ(「環境保護活動が『殺人事件』になる時」2023年05月12日参考)。

 ところで、オーストリアのネハンマー政権は中道右派「国民党」と「緑の党」の連立政権だ。そして環境相は「緑の党」のレオノーレ・ゲヴェスラー女史だ。同環境相は16日、国民党との話し合いもなく一方的に、「ルクセンブルクで行われるEU環境相会議で自然再生法に賛成票を投じたい」と表明したのだ。

 「自然再生法」(Nature Restoration Law)は2050年までに気候中立を達成するためのEUの包括的な気候保護パッケージ「グリーンディール」の重要な部分だ。その上位目標は、生物多様性に富み、回復力のある生態系の長期的かつ持続可能な再生だ。これには、森林の再植林、湿地の再湿地化、より自然な河川流域の維持、そして結果としての生物多様性の保護が含まれる。自然再生法は、環境保護と経済成長を両立させるための重要な施策として位置付けられており、持続可能な未来を目指すEUの取り組みの一環だ。

 (同法案に対し、一部の農業団体や漁業関係者は、自然再生法案が厳しい規制を課すことで、農地や漁場の利用に制約がかかり、収益に悪影響を及ぼす可能性があると懸念している。特に、農地の転用や漁業活動の制限が経済的な打撃をもたらすと主張している。また、企業や地方自治体は、自然再生法案の実施に伴うコストが増加することを懸念している。特に、自然再生のためのインフラ整備や環境保護活動にかかる費用が大きな負担になるというのだ。一部の土地所有者や開発業者は、法案によって土地利用の自由が制限されることを問題視している。インフラ開発や都市計画において、自然再生法案が新しい建設プロジェクトやインフラ投資を妨げる恐れがあるというのだ)

 環境相の発言に対し、国民党のカロリン・エットシュタドラー憲法担当相は「環境相は連邦州の意見に法的に拘束されており、農業省との合意を図らなければならないとされている連邦省庁法にも従わなければならない。憲法や法律を無視すれば、当然法的な結果を招くことになる。環境相は意図的に憲法および法律違反を犯している。これは極めて無責任であり、異常だ」と述べ、「事案の内容に関わらず、法が法であり続けなければならない。イデオロギーが法を上回ることは決してあってはならない」と強調している。

 国民党のノーベルト・トーチニグ農業相も「イデオロギー的な理由から、わが国に過剰な規制と二重の重荷をもたらす法律に賛成しようとしている。連邦州や政府内での調整なしにこれほど広範な政治的決定を下すことは、無責任であり、民主主義的に危険だ。より多くの気候保護と生物多様性のための合理的なインセンティブを設定する代わりに、彼女は禁じ手を用いて国民の生活を制限しようとしている」と厳しく糾弾している。

 環境相の独走に対し、極右政党「自由党」は国民党側の主張を支持する一方、リベラル派のネオスは環境相の決意を評価している。州別にみると、フォアアールベルク州、チロル州、ニーダーエースライヒ州、ザルツブルク州など国民党が州知事を出している州では環境相を批判する声が強い一方、社会民主党が政権を握るウィ―ン市やケルンテン州では「自然再生法」に賛成する姿勢を見せてきている、といった具合だ。

 ゲヴェスラー環境相は16日の記者会見で「今ためらうことは私の良心に反する。決意と勇気のシグナルを送りたい」と述べる一方、国民党との連立決裂を恐れていないという。ちなみに、オーストリアでは今年9月29日、連邦議会選挙が実施される。ネハンマー現連立政権はあと数カ月で幕を閉じる。そのような事情もあってか、環境相の今回の発言は9月の総選挙を意識した政治的決断ではないか、という声が聞かれる。

 参考までに、ドイツの「緑の党」はショルツ政権下で脱原発を主導し、昨年4月、脱原発を実現したが、国民の80%は現在、エネルギーコストの高騰をもたらした脱原発に不満を持っているという世論調査結果が出ている。グリーン政策に伴うエネルギー価格の高騰、競争力の低下はドイツの国民経済に大きな負担となっているのが現状だ。

 環境保護という目標は正しいが、それを実行する場合、関係省、産業界、国民との密接なコミュニケーションと啓蒙が不可欠だ。ゲヴェスラー環境相の今回の「自然再生法」への署名意思表明にも当てはまることだ。「最後の世代」の活動を見ても分かるように、「自分たちは正しいことをしている」という信念に固まった「緑の党」関係者の言動は、環境保護という崇高な目標を台無しにする危険性がある。

ドイツで早期総選挙実施の声高まる

 先ず、6月9日に実施された欧州議会選挙(定数720、任期5年)のドイツでの結果を振り返ってみる。第1位は野党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)で得票率約30%、極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)が15.9%で2位、ショルツ首相の与党「社会民主党」(SPD)が13.9%で3位、「緑の党」が11.9%、そして左翼党から分かれた左派ポピュリスト政党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)6.2%、自由民主党(FDP)5.2%と続く。

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▲ドイツで開催された「ウクライナ復興国際会議」でゼレンスキー大統領を迎えるショルツ首相(2024年6月11日、ウクライナ大統領公式サイトから)

 この結果(暫定)から、CDU/CSUが断トツに強かった一方、ショルツ首相が率いる3連立政権、SPD、「緑の党」、そしてFDPはいずれも得票率が減少したことが分かる。特に、ドイツの脱原発路線(昨年4月15日を期して脱原発時代は始まった)、再生エネルギーへの転換などを推進してきた「緑の党」は前回(2019年)比で大幅に得票率を失い、獲得した議席は12議席(マイナス9議席)に留まった。「緑の党」のベアボック外相はロシアのウクライナ侵攻を厳しく批判し、キーウ政府を積極的に支援してきたが、その外交ポイントは今回の欧州議会選では反映されずに終わった。

 ただし、ドイツの「緑の党」だけではない。隣国のオーストリアでも「緑の党」は得票率、議席数で減少している。党筆頭候補者の不祥事もあったが、環境保護政党の「緑の党」への批判が高まっている。ロシア産天然ガスの輸入に依存してきた欧州諸国、その中でも70%以上がロシア産エネルギーに依存してきたドイツの産業界は脱原発、再生可能なエネルギーへの転換を強いられるなど大きな試練に直面してきた。ショルツ政権が推進するグリーン政策に伴うコストアップと競争力の低下は無視できない。「緑の党」は国内の産業界からはエネルギーコストの高騰、メイド・イン・ジャーマニー製品の競争力の低下をもたらした主犯者と受け取られ、欧州議会選で懲罰を受けた、といった感じかもしれない。

 欧州議会選でショルツ連立政権の3党が獲得した得票率は約31%だ。CDU/CSU1党の30%とほとんど変わらない。選挙結果が判明した直後、CDUのメルツ党首は「ショルツ政権がドイツ国民の支持を得ていないことが改めて明らかになった」と表明、CSUのゼーダー党首(バイエルン州首相)は「国民の30%の支持しかないショルツ連立政権は早期退陣し、総選挙を実施すべきだ」と主張している。

 ドイツの隣国フランスでは、大統領候補のマリーヌ・ルペン氏の国家主義、ポピュリズムを標榜する極右「国民連合」(ジョルダン・バルデラ党首=RN)が得票率約31.4%(30議席)で、マクロン大統領の与党連合の倍以上の票を獲得した。その直後、マクロン大統領は「欧州議会選の結果を何もなかったようには扱えない」として下院を解散し、今月30日と7月7日に議会選挙を実施すると声明した。メディアの中には、マクロン大統領の決断をリスクと受け取る向きがある。

 ちなみに、フランスの下院選(全てが小選挙区)では第1回投票で当選者が出ない場合、1週間後、決選投票が実施される。第1回投票でRN候補者が1位となったとしても、決選投票で国民の反極右運動を盛り上げて結束すれば逆転できる。こんな計算がマクロン氏の早期総選挙の実施の背後にあるのかもしれない。ただ、議会解散決定が冒険であることには変わらない。

 ドイツでも早期総選挙を実施すべきだという声が高まってきている。ショルツ政権は任期があと1年半余りあるが、早期解散して国民の信を問うべきだというわけだ。欧州議会選挙の結果を見る限り、3党から成るショルツ政権が早期総選挙で過半数の得票率を獲得することは現時点では考えられない。欧州議会選で断トツの強さを発揮したCDU/CSUも単独政権は難しいので他党との連立となる。

 参考までに、ドイツでは過去3回、早期解散、総選挙が実施されたことがある。最初は1972年のブラント政権で、FDPが連立から離脱し、議会での過半数を失った結果、議会での信任投票が行われた。その結果、議会は早期解散され、総選挙となった。選挙ではブラント首相のSPDが大勝し、ブラント政権は安定を取り戻した。2回目は1982年、CDUのコール首相がFDPと連立を樹立したが、信任投票で敗北し、早期解散、総選挙となったが、コール首相のCDU/CSUが大勝した。そして2005年、SPD主導政権でシュレーダー首相は北ライン=ヴェストファーレン州議会選挙でのSPDの敗北を受け、連邦議会で信任投票を経て、ケーラー大統領が連邦議会を解散し、総選挙が行われた。その結果、メルケル党首が率いるCDUが僅差で勝利し、メルケル氏が連邦首相となった。

 ドイツでは早期総選挙では解散前の与党側が2勝1敗だ。ショルツ首相には、早期選挙を決断するか、来年秋までの任期を満了後、総選挙を実施するか、決断を迫る圧力が高まってきた。

マクロン氏の3日間のドイツ国賓訪問

 フランスのマクロン大統領は26日から3日間の日程でドイツを公式訪問した。国賓としては2000年のシラク大統領以来24年ぶりのドイツ訪問となった。ウクライナ戦争が勃発して以来、独仏間にはウクライナ支援で政策や方向性の違いが浮き彫りとなったり、首脳間のコミュニケーションがスムーズにいかない場面が目立っていた。それだけに、マクロン大統領のドイツ訪問で両国間の意見調整、リセットが進められるものと期待された。その狙いは成功しただろうか。

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▲ドイツを国賓訪問したマクロン大統領(左)と歓迎するシュタインマイヤー大統領(2024年5月26日、ドイツ連邦大統領府公式サイトから)

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▲マクロン大統領のドレスデンでの演説(2024年5月27日、ドイツ連邦大統領府公式サイトから)

 初日の26日はベルリンでシュタインマイヤー大統領との首脳会談が行われた。その後の記者会見で、シュタインマイヤー大統領はフランスからのゲストを歓迎し、「独仏両国の団結」と強調し、マクロン大統領は「独仏友好の重要性」を改めて指摘した。

 マクロン氏はフランスとドイツ間で不協和音があるという報道について、「それは事実ではない。私たちは前進している」と述べ、シュタインマイヤー大統領は、「独仏協力は一部のコメントで批判されるような状況だとは思わない。両国が常に同じ意見を持つ必要はない。我々は二つの異なる国であり、異なる利益を持つこともある」と述べ、共同防衛プロジェクトなどの最近の進展に言及した。マクロン氏はまた、「当然、我々は同じではなく、常に同じことを考えるわけではないが、ヨーロッパの進展は共に前進し、共に決定を下すことによってのみ達成される」と説明している(「独仏の間に隙間風が吹く」2024年3月18日参考)。

 会談では欧州の現状、ウクライナ支援、極右ポピュリズムへの対応などで意見の交換が行われた。マクロン大統領は国内で支持率30%を獲得してきた右翼政党「国民連合」に言及し、「国民が民族主義、極右運動に魅力を感じてきている」と警告を発し、「欧州が消滅する危険性が出てきた」と述べている。シュタインマイヤー大統領は「ドイツ人とフランス人は特に、自由、平和、民主主義が天から降ってくるものではなく、闘い、交渉し、防衛し、強化されるべきものであることを知っている」と語った。

 2日目の27日はマクロン大統領は東独のドレスデンを訪問し、ドレスデンのフラウエン教会前で挙行されたヨーロッパ青年祭でスピーチした。同大統領はヨーロッパの重要性を強調し、ヨーロッパの積極的な関与を呼びかけ、「我々が誤った決断をすれば、我々のヨーロッパは滅びるかもしれない。それを防がねばならない」と語り、「ヨーロッパの歴史は民主主義の歴史だが、現在、民主主義、平和、そして繁栄が危機に瀕している」と述べた。

 ドレスデンでの演説はマクロン氏のドイツ訪問のハイライトだ。マクロン大統領は「ヨーロッパは現在、3つの大きな課題に直面している。『平和』、『繁栄』、『民主主義』の課題だ」というのだ。

 .茵璽蹈奪僂歪垢ご屐∧刃造諒歉攷佑任△辰燭、ロシアのウクライナ侵攻以来、ヨーロッパには再び戦争が起きている。ロシアは大陸全体を攻撃している。ヨーロッパ人は共同防衛と安全保障の構造を築くべきだ。その際、ナショナリズムに陥ることなく、ヨーロッパ人として断固として行動すべきだ。ヨーロッパは独自の技術、軍事技術、イノベーションを構築する必要がある。
 
 ▲茵璽蹈奪僂枠鳳鼻∪長の夢の場であり、また寛大な社会制度の場だが、ヨーロッパは現在自らの成長を達成できない危険に直面している。人口動態も課題だ。新しい成長モデルを構築する必要がある。それは成長と気候保護の間で選択しなければならないということではない。我々は欧州の予算を倍増させるべきだ。投資市場への資金調達だ。

 8什澆量閏膽腟舛蓮独裁的な傾向が強まってきている。我々は目を覚まさねばならない。ヨーロッパと民主主義への取り組みを強めるべきだ。我々はこれらの課題を共に克服することができる。ドイツはフランスを頼りにできる。フランスはドイツを頼りにしている。ヨーロッパは我々を頼りにできる。我々はヨーロッパを頼りにしている。

 最終日の28日午前、マクロン大統領はミュンスターでヨーロッパへの貢献が評価され、ウェストファリア国際平和賞を受賞した。同日午後からは訪問最後の行事として、ベルリン近郊のメーゼベルク城でショルツ独政府関係者と会合し、今後の政治課題について意見の交換を行う。なお、フランスとドイツ両国政府はロシアに対抗するためにウクライナへの軍事支援を継続する必要性があること、欧州理事会の全会一致原則を破棄し、一部の決定には27カ国の政府のうち3分の2の加盟国の賛成で十分とするなど、EU理事会の刷新の必要性などで既に合意しているという。

 ドイツのメディア報道を見る限り、マクロン大統領のドイツ訪問は一般的に好意的に受け取られている。若く、ビジョンに溢れるマクロン大統領の演説を聞いていたドイツのジャーナリストは「オバマ米大統領のような雰囲気がある」と報じていた。派手なパフォーマンスからはほど遠いショルツ首相の地味で実務的な演説を聞き慣れてきたドイツ国民にとって、マクロン氏の演説は刺激的であり、表現力も豊かであることは間違いない。ただし、マクロン氏は教会の説教者ではないから、マクロン氏の政治指導者としての評価はやはりその政策の実行力で決まると言わざるを得ない。

独「緑の党」、脱原発を情報操作で誘導?

 ドイツの歴史の中では、「2023年4月15日」は脱原発時代の開幕の日として記されている。今月15日、その1周年目を迎えたが、脱原発を主導したショルツ政権のハベック経済相(副首相兼任)が原子力発電所(原発)の廃止を決定するために恣意的に情報操作していた疑いが浮上し、ハベック経済相自身は26日午前、連邦議会の「気候保護とエネルギー問題に関する特別委員会」の会合に呼ばれ、野党側の質疑に答えなければならなくなった。

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▲操業37年後、2021年末にオフラインとなったグローンデ原子力発電所(ウィキぺディアから)


 疑いは深刻だ。原子力安全保障を担当するロベルト・ハベック連邦経済相とシュテフィ・レムケ連邦環境相は、2022年春に内部専門家の意見を無視し、国民を欺いたというのだ。「緑の党」出身の両相は、計画された原子力の段階的な廃止をどんな状況でも推進することだったというのだ。この非難は、月刊誌「Cicero」(ベルリン)が内部文書にアクセスして報じたものだ。

 それに対し、ドイツ連邦経済省は、同報道内容を「事実に反する」と否定し、「過程の説明は短縮され、文脈がない」と述べた。しかし、野党第一党の「キリスト教民主同盟」(CDU)の要請により、ハベック経済相は26日、連邦議会の特別会合に呼び出されたわけだ。

 社会民主党(SPD)、「緑の党」、「自由民主党」(FDP)の3党から成るショルツ連立政権は2021年12月、政権発足直後、「再生可能なエネルギーからより多くのエネルギーを生成する国になる」と表明し、その課題を「巨大な使命」と呼んできた。

 そして昨年4月15日を期して脱原発時代は始まったが、「Cicero」誌の調査によると、2022年にロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機が迫っているにもかかわらず、「緑の党」主導の経済省と環境省は操業中の最後の3基の原子力発電所の運転延長を妨害したというのだ。省内のエネルギー専門家たちは当時、まだ操業中の3基の原発の操業延長を「検討すべきオプション」として助言していたというのだ。

 ハベック経済相は「私にとって、供給保証は絶対的な優先事項であり、常に事実、データ、および法規に基づいて働いてきた」と強調し、イデオロギーに基づく政策ではないと説明した。なお、議論の余地のある文書(2023年3月3日付)、運転期間延長の検討を支持する文書については、ハベック氏は「25日に初めて目にした。それは私が直接指示したものではない。省内で異なる意見があるのは普通だ」と語った。

 CDUやFDPの議員に中にはハベック氏の説明を納得できず、辞任を求める声や、議会の調査委員会の設立を求める声が出ている。もし経済省や環境省に国民を欺いた文書、証拠が見つかれば、ショルツ政権の脱原発路線の信頼性が大きく揺らぐことになる。

 ドイツの脱原発路線は2000年代初頭の社会民主党(SPD)と「緑の党」の最初の連合政権下で始まり、CDU/CSU主導のメルケル政権に引き継がれていった。SPDと「緑の党」は原発操業の延長には強く反対する一方、産業界を支持基盤とする自由民主党(FDP)は3基の原発の23年以降の操業を主張し、3党の間で熾烈な議論が続けられてきた。最終的には、ショルツ首相は「緑の党」とFDPと交渉を重ね、2022年10月17日夜、首相の権限を行使し、2基ではなく、3基を今年4月15日まで操業延長することで合意した。具体的には、バイエルン州のイザール2、バーデン=ヴュルテムベルク州のネッカーヴェストハイム2、およびニーダーザクセン州のエムスランド原子力発電所だ。

 ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、ロシア産の原油、天然ガスに大きく依存してきたドイツは環境にやさしい再生可能なエネルギー源の利用に本腰を入れてきた。ロシア産天然ガス・原油依存脱却を第1弾目とすれば、脱原発という第2弾目のエネルギー政策の大転換が実質的に始まったわけだ。

 原子力エネルギーの将来の問題では欧州連合(EU)内でも意見が分かれている。経済大国ドイツは脱原発の道を歩みだしたが、フランスでは小型原発の開発などが活発化し、チェコ政府は原子力発電の拡大を加速するなど、原子力エネルギーのルネッサンスという声すら一部で聞かれる。EUの欧州委員会は2022年、「ガスおよび原発への投資を特定の条件下で気候に優しいものとして分類する」という通称「EUタクソノミー(グリーンな投資を促すEU独自の分類法規制)」を発表し、原発の利用の道を開いている。

 ロシア産天然ガスの輸入に依存してきた欧州諸国、その中でも70%以上がロシア産エネルギーに依存してきたドイツの産業界は脱原発、再生可能なエネルギーへの転換を強いられるなど大きな試練に直面している。ショルツ政権が推進するグリーン政策に伴うコストアップと競争力の低下は無視できない。ドイツの国民経済はリセッションに陥っている。脱原発政策に対して、国民の過半数が不安を感じているという世論調査が出ている(「ドイツ国民の過半数『脱原発』に懸念」2023年4月14日参考)。

ドイツで中国のスパイ活動が発覚

 ショルツ独首相が今月14日から3日間、中国を訪問した。同首相にとって首相就任後2回目の訪中だった。いつものように大規模なドイツ経済使節団を引き連れての訪中だった。目的は低迷するドイツ経済を回復するために、同国最大の貿易相手国・中国との経済関係の強化だ。同時に、ドイツ企業の中国市場へのフェアなアクセスを獲得することにあった。例えば、電気自動車(EV)では安価な中国製EVの欧州市場への進出を受け、ドイツの自動車メーカーは苦戦を余儀なくされている。EU側は特別関税をちらつかせながら、北京側の対応を要求している。

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▲中国とロシア両国の情報機関関係者と接触するAfDのマクシミリアン・クラー欧州議員(AfD公式サイトから)

 そしてショルツ首相が訪中からベルリンに帰国すると、立て続けに中国が絡んだスパイ問題が発覚した。ショルツ首相の訪中前にスパイ問題が発覚すれば、中国での経済協力協議がスムーズにいかなくなる恐れがあったはずだ。スパイ問題が訪中後に発覚したのは、ショルツ首相の政治的な判断があったはずだ。決して偶然のことではないだろう。

 ドイツ連邦検察庁は22日、中国の情報機関のためにスパイ活動をした容疑で、ドイツ人の男女3人を逮捕したと発表した。彼らは軍事利用可能な技術に関する情報を入手したとされており、デュッセルドルフとバート・ホンブルクで逮捕された。中国外務省はこれらの疑惑を否定し、「中国のスパイ活動によるいわゆる脅威論だ。新しいものではない。その背後には中国を中傷し、『中国とヨーロッパの協力の雰囲気を破壊する』意図がある」と強く反論している。なお、中国側に伝えられたとされる情報には、強力な船舶用エンジンに使用可能な機械部品に関するものなどが含まれていたという。

 その翌日の23日、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の欧州議会マクシミリアン・クラー議員(47)のスタッフの一人、中国系ドイツ人ジャン・Gが中国のためにスパイ活動をしていたという理由で逮捕されたことが明らかになった。ドイツメディアは極右政党AfD議員と中国系ドイツ人のスパイ活動の関連について大きく報道している。

 ドイツのナンシー・フェーザー内相(社会民主党=SPD)は、「スパイ活動の疑惑は極めて重大だ。もし欧州議会から中国の情報機関に情報が流れるなどのスパイ活動が確認されれば、それは欧州の民主主義への内部からの攻撃だ」と述べた。また、「中国の反体制派を監視する疑いも同様に重い。そのような職員を雇用する者は、その責任を負わなければならない」と強調した。

 ドイツ週刊誌シュピーゲル電子版によると、ドイツ連邦検察庁は22日、ドレスデンでGを逮捕した。Gは中国の情報機関の職員であり、2019年以来、欧州議会のドイツ人メンバー、クラー議員の職員として働いてきた。クラー議員自身は「Gの逮捕は23日午前中に知らされた。他国のためのスパイ活動は重大な問題だ。事実と判明したら、直ちに雇用関係を打ち切る」と述べている。欧州議会側は22日正午には、「事の重大性を考慮して、議会は該当者を即時に停職処分とした」と説明した。

 一方、ロビー組織のLobbycontrolは、クラー議員に対してこの問題での対応の不手際を非難した。「Gに対するスパイ活動の疑いは、すでに2023年に知られていたが、クラー議員は何の措置も取らなかった」と指摘してる。

 ドイツメディアによると、Gは43歳、中国生まれだ。現在はドイツ国籍を持ち、ドイツでの学業修了後は一時事業家として活動していたが、クラー議員が欧州議会に就任すると、Gはブリュッセルのチームでアシスタントとして雇われた。GはAfD政治家の中国旅行にも同行した。少なくともこの時点から、北京当局のために働いていたとされる。
 また、捜査当局は、Gがドイツで中国の亡命中国人組織をスパイ活動していたと非難している。彼は様々な役割で反体制派グループに関与し、中国の反体制派に関する情報を収集し、情報を中国の国家安全部(MSS)に提供していた疑いが持たれている。

 一方、AfDの連邦本部は23日、「クラー氏の職員がスパイ活動の疑いで逮捕されたという報道は非常に心配だ。現時点でこの件に関する追加情報がないため、引き続き連邦検事のさらなる捜査を待たなければならない」という。クラー氏は2022年以来、AfDの連邦執行委員会のメンバーであり、6月の欧州議会選挙で党の筆頭候補者となっている。

 なお、クラー議員はクレムリンとの接触があることが知られている。米連邦捜査局FBIは昨年末、訪米中のクラー議員に対して、クレムリンの関係者からの支払い問題について尋問している。ウクライナ人の親ロシア派活動家オレグ・ヴォロシン氏(Oleg Woloschyn)がクラー議員とのチャットメッセージの中で、クラー議員に協力の見返りとして適切な補償を約束したとされる。

 AfDは移民・難民問題で徹底した外国人排斥、移民・難民反対で有権者の支持を得て、世論調査では野党第1党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)に次いで第2の支持率を挙げてきたが、6月の欧州議会選を控え、ロシア寄りが指摘され、支持率を少し落としてきた。そこにクラー議員のスタッフが中国のスパイだった疑いが発覚して、国民のAfDを見る目が厳しくなってきている。AfDには説明責任が出てきた。

(クラー議員は24日、AfD連邦幹部会で今回の件を説明、スパイ容疑をかけられたGを即解雇すると発表する一方、6月9日に実施される欧州議会選には党筆頭候補者として出馬する意向を明らかにした)

犯罪統計が示すドイツ社会の実相

 先ず、ドイツの昨年の犯罪統計(PKS)を紹介したい。犯罪総件数は約594万件で前年比で5.5%増加した。そのうち、暴力犯罪件数は約21万5000件で前年比で8.6%増で15年ぶりの最高値を記録した。警察当局は暴力犯罪の増加を「争いを言葉で解決するのではなく、拳で解決する傾向が強まっている」と表現している。実際、暴力犯罪の中でも「危険で重い身体的損傷」が6.8%増の15万4541件に上昇した。また、「故意の軽度な身体的損傷」も42万9157件に増加し、7.4%増加した。これまでの最高値は2016年の40万6038件だった。

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▲「ルイーゼ殺人事件」に関する記者会見風景(中央=コブレンツのユルゲン・ズース警察副長官)=2023年3月14日、ドイツ民間ニュース専門局NTVのビデオからスクリーンショット

 暴力件数の内訳をみると、強盗事件が約17%増の4万4857件に、ナイフによる攻撃が約10%増の8951件に増加した。一方、殺人、殺人未遂、依頼による殺人の件数は2%増の2282件で、微増に留まった。強姦、性的強要、特に重大な性的侵害の件数は2.4%増の1万2186件に増加した。

 容疑者数は前年比7.3%増の224万6000人。そのうち92万3269人はドイツのパスポートを持っておらず、全体の約41%を占める。報告書によると、ドイツのパスポートを持たない容疑者(外国人)の増加はほぼ18%だった。犯罪検挙率は58.4%だった。移民・難民の増加は社会の治安を悪化させるといわれているが、犯罪統計はそれを裏付けている。

 2023年、ドイツの犯罪の中で忘れることが出来ない事件は「ルイーゼ殺人事件」(児童による殺人事件)だろう。独ノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)の人口1万8000人の町フロイデンベルクで3月11日夜、12歳と13歳の児童(女子)がナイフで12歳の同級生ルイーゼを殺害した事件だ。警察もメディアも殺人が12歳と13歳の少女によって行われたことにショックを受けた。コブレンツのユルゲン・ズース警察副長官は記者会見で、「40年以上、犯罪取り締まりの仕事をしてきたが、今回の事件(児童による殺人事件)には言葉を失う」と述べたほどだ。事件後、刑事責任を問う年齢を現行の14歳から下げるべきだという意見が出た。英国では10歳、オランダは12歳、ポルトガルでは16歳といった具合で、刑事責任が問われる年齢は欧州でも違いがある。いずれにしても、犯罪は年々,若年層まで拡散してきている(「独国民が衝撃受けた2件の犯罪」2023年3月16日参考)。

 暴力犯罪の増加について、2020年から3年余り続いたコロナ・パンデミック後の‘追い風効果’が良く指摘される。活動を制限されてきたパンデミックで溜まった不燃焼のエネルギーがパンデミックの終結後、暴発したというわけだ。報告書によると、パンデミック前の2019年と比較すると、2023年の犯罪総件数は9.3%増加している。

 しかし、それだけではないだろう。ロシア軍のウクライナ侵攻(2022年2月)、それに伴うエネルギーコストの上昇、物価高などで国民経済は活気を失い、ドイツの国民経済はリセッション(景気後退)に陥った。そして10月7日にはパレスチナ自治区ガザを実効支配しているイスラム過激テロ組織「ハマス」のイスラエルへの奇襲テロ、ユダヤ人の虐殺事件が発生した。NRW州のヘルベルト・ロイル内相は「戦争や危機が国民の気分をさらに煽った」と指摘しているのは頷ける。戦場の破壊の嵐は戦争当事国だけではなく、周辺国にも様々な形で吹き荒れるものだ。英国の週刊誌エコノミストは昨年、ドイツの国民経済の現状を分析し、「ドイツは欧州の病人だ」と診断を下した。

 ドイツ民間ニュース専門局ntvによると、ドイツの2023年度の言葉は「Krisenmodus」だった。直訳すると「危機モード」だ。ドイツを含む2023年の世界情勢を振り返るならば、納得できる選出だ(「ドイツの2023年の言葉『危機モード』」2023年12月26日参考)。

 ちなみに、2024年2月12日に発表された「ミュンヘン安全保障指数2024」(Munich Security Index 2024)によると、ドイツ国民は「ロシアの脅威」より、移民問題を最大のリスクと受け取っている。移民問題と言えば、移民の増加による犯罪の増加、治安の悪化が関連してくる。外国人排斥、移民・難民反対を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」が国民の支持を得るのはある意味で当然の流れともいえるわけだ。

 ところで、犯罪を犯す人間には通常、明確な目的がある。その意味で犯罪は非常に人間的な業だ。名探偵は犯行の動機、目的を解明しようとするが、「犯罪を追跡する上で最も困難なのは、目的や動機がない犯罪だ」とシャーロック・ホームズの生みの親コナン・ドイルは述べている。当方は「今後、目的・動機なき犯罪(殺人事件)が増えてくるのではないか」と予感している。

ドイツの過半数が徴兵制再導入を支持

 ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍を侵攻させて以来、北大西洋条約機構(NATO)加盟国はウクライナに武器を支援する一方、NATOの国境警備を強化。北欧の中立国、フィンランドとスウェ―デンを加盟国に迎え、NATOは32カ国体制となった。

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▲指揮交代のために整列する新しい黒と赤のベレー帽をかぶった偵察大隊10と補給大隊8の兵士たち(ドイツ連邦軍公式サイトから)

 NATO加盟国の中でも米国に次いでウクライナへ軍事支援をするドイツで徴兵制の再導入の声が高まっていることはこのコラム欄で報告済みだ(「ドイツで徴兵制の再導入議論が浮上」2024年3月7日参考)。

 ところで、ドイツ民間放送RTLとニュース専門局ntv共同の要請を受けて世論調査研究所「フォルサ」が徴兵制の再導入に対する国民の是非を聞いた。それによると、ドイツ国民の52%は徴兵制の再導入を支持、反対は44%だった。

徴兵制の再導入に反対しているのは、ショルツ連立政権の与党「緑の党」や自由民主党(FDP)の支持者のほか、兵役の対象となる30歳以下の国民が多い。兵役義務の再導入を最も強く支持しているのは、野党第1党中道右派「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)、極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)、そして左派ポピュリスト政党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)の支持者に多い。ショルツ首相の与党第1党「社会民主党」(SPD)の支持者は意見が分かれている。

 世論調査結果で興味を引く点は、「プーチン大統領はウクライナ戦争に勝利すれば、NATO加盟国に侵攻すると思うか」という質問に対し、54%は「ロシアはNATO加盟国を侵略する」と答え、「NATO加盟国への攻撃は考えられない」は39%に過ぎなかったことだ。

 党支持別の動向を見ると、SPD、緑の党、FDP、CDU/CSUの支持者の大多数は、「プーチン大統領はウクライナに勝利すれば、NATO諸国に侵攻する」と信じている。一方、AfDとBSWの支持者の大多数は、「ロシアの攻撃は問題外だ」と考えている。ショルツ連立政権の3与党と野党第1党のCDU/CSUの支持者はロシアのNATO諸国への攻撃を現実的なシナリオと感じる一方、AfDとBSWの支持者は「侵攻はあり得る」と答えたのは25%に過ぎなかった(データは、RTL Deutschlandの要請を受け、市場世論調査機関ForsaがRTL/ntvトレンドバロメーターのために4月5日と8日に収集したもの。回答者1009人)。

 ドイツでは第2次世界大戦終了後、連邦軍は職業軍人と志願兵で構成されたが、兵士が集まらないこと、旧ソ連・東欧共産ブロックとの対立もあって1956年から徴兵制を施行、18歳以上の男子に9カ月間の兵役の義務を課してきた。兵役拒否は可能で、その場合、病院や介護施設での社会福祉活動が義務付けられた。

 その徴兵制は2011年、廃止された。徴兵の代行だった社会奉仕活動制度もなくなった。冷戦時代が終了し、旧東独と旧西独の再統一もあって、連邦軍は職業軍人と志願兵に戻り、連邦軍の総兵力は約25万人から約18万5000人に縮小された。旧ソ連・東欧共産政権が崩壊していく中、ドイツを含む欧州諸国は軍事費を縮小する一方、社会福祉関連予算を広げていった。

 その流れが大きく変わったのはやはりロシア軍のウクライナ侵攻だ。ショルツ独首相は2022年2月、「時代の転換」(Zeitenwende)を宣言し、軍事費を大幅に増額する方向に乗り出した。連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達などの計画が発表された。そして国防予算は国内総生産(GDP)比2%に増額する一方、軍事大国ロシアと対峙するウクライナに武器を供与してきた。

 参考までに、ピストリウス独国防相は未来の徴兵制として「スウェーデン・モデル」を考えているといわれている。スウェーデンでは2010年に徴兵制が停止されたが、 ロシアのクリミア併合を契機として、2018年1月から徴兵制が再導入された。スウェーデンの徴兵制は、 兵役、一般役務、民間代替役務から構成され、18歳以上の男女を対象としている。

 ちなみに、世論調査機関フォルサは今年2月、「戦争が発生したら武器を持って戦う用意があるか」という質問を聞いた。その結果、59%の国民は「武器を持って戦う考えはない」と答えている。「戦う」19%と「おそらく戦う」19%を合わせても38%の国民しか「武器をもって戦う」と答えていない。

 世論調査の結果はその時のトレンドを理解する上で役立つが、矛盾する結果が出てくることもあるし、出てきた数字をどのように解釈するかによって全く異なった受け取り方も可能だろう。ドイツ国民は地理的に近いこともあってロシア軍のウクライナ侵攻をシリアスに受け取っている。徴兵制の重要さは次第に国民に理解されてきていることが分かる。

バイエルン州首相の訪中と「現実政治」

 ドイツ南部バイエルン州のマルクス・ゼーダー首相(57)の訪中は予想通りメディアの注目を浴びた。ゼーダー首相にとっては、 屮リスト教社会同盟」(CSU)党首として次期連邦首相の座を狙う布石としての外交面の実績作り▲丱ぅ┘襯鷭の対中貿易の拡大――という2点の目標があったのだろう。中国ではナンバー2の李強首相との会談も実現し、中国成都のパンダ繁殖基地を訪問し、パンダにも挨拶、「とてもかわいい動物たちだ」と興奮が止まらなかったという。ゼーダー首相とパンダとの出会いはソーシャルネットワークでも大きく報道されて人気を呼んだ。

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▲李強首相と会談するバイエルン州のゼーダー州首相
(2024年03月27日、中国通信社から)

 一方、中国側としては、ドイツの次期連邦首相候補者として「キリスト教民主同盟」(CDU)のメルツ首相と共に名前が挙がっている政治家だけに、将来のドイツとの関係強化へ一種の‘保険’を掛けるという意味もあって、ゼーダー首相をもてなした。
 ドイツの国民経済は現在、深刻なリセッション(景気後退)だ。インフレは落ち着いてきたが、エネルギーコスト高やウクライナ戦争の影響もあって産業界は青息吐息だ。ドイツ政府は2月21日、2024年の実質成長率を0・2%と下方修正したばかりだ。輸出国のドイツにとって最大の貿易相手国中国経済の低迷は大きい。

 そのような中、バイエルン州からゼーダー首相が訪中した。ウイグル系民族への弾圧など人権問題を抱える中国を訪問することに対して批判の声があった。例えば、連邦議会外務委員会のミヒャエル・ロート委員長(社会民主党=SPD)は「ターゲスシュピーゲル紙」とのインタビューで、.次璽澄室鸛蠅話羚颪龍産主義指導部に対する対応が甘い▲疋ぅ弔伐その外交政策に損害を与えた、と非難、「ゼーダー氏は、第2の外交政策を追求しようとした最初の州政治家ではないが、失敗した。ゼーダー氏はバイエルン州と中国共産党政権との間には対等のパートナーシップがあると述べたが、全くの誇大妄想に過ぎない」と厳しく批判している。

 それに対し、ゼーダー首相はビルト日曜版で、「対立や批判より交流の方が長期的な結果を生む」と強調し、「他国が撤退する一方、我々は国際的な接触を強化する。国際危機の際には、信頼性の高いコミュニケーションが特に必要だ」と持論を展開し、「私たちは道徳政治ではなく現実政治を行っている。私たちは海外におけるバイエルン州の利益を代表し、経済への扉を開いている」と反論している。

 ゼーダー氏の訪中は、昨年ミュンヘンを訪問した李強首相がゼーダー氏を招待したのを受けたものだ。同氏はバイエルン州経済にとっての中国の重要性を知っている。中国はバイエルン州にとって最も重要な貿易相手国だ。BMWやシーメンスなど、数多くの企業が中国で活動している。バイエルン州は中国との緊密な政治的接触を維持しており、現在では四川省を含む3つの省とパートナーを締結している(ドイツ民間ニュース専門局ntvのウェブサイト2024年03月25日)。

 ドイツのここ数年の対中政策を少し振り返る。

 ジグマ―ル・ガブリエル独外相(当時)は2018年2月17日、独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」(One Belt, One Road)構想に言及し、「民主主義、自由の精神とは一致しない。西側諸国はそれに代わる選択肢を構築する必要がある。中国はロシアと並び欧州の統合を崩そうと腐心し、欧州の個々の国の指導者を勧誘している。新シルクロードはマルコポーロの感傷的な思いではなく、中国の国益に奉仕する包括的なシステム開発に寄与するものだ。もはや、単なる経済的エリアの問題ではない。欧米の価値体系、社会モデルと対抗する包括的システムを構築してきている。そのシステムは自由、民主主義、人権を土台とはしていない」とはっきりと警告を発している(「独外相、中国の『一帯一路』を批判」2018年03月04日参考)。

 また、アンナレーナ・ベアボック外相(「緑の党」出身)は昨年9月14日、テキサスを訪問中に米国のFOXニュースとのインタビューに応じ、「ロシアのプーチン大統領が戦争に勝った場合、中国の習近平国家主席のような他国の独裁者たちにとってどのようなシグナルを送ることになるだろうか。だからこそウクライナはこの戦争に勝たなければならないのだ」と述べ、習近平国家主席をはっきりと独裁者と呼んでいる。

 その一方、ショルツ連立政権は2022年10月26日、ドイツ最大の港、ハンブルク湾港の4つあるターミナルの一つの株式を中国国有海運大手「中国遠洋運輸(COSCO)」が取得することを承認する閣議決定を行った。同決定に対し、「中国国有企業による買収は欧州の経済安全保障への脅威だ」という警戒論がショルツ政権内ばかりか、EU内でも聞かれた(「独『首相府と外務省』対中政策で対立」2023年4月21日参考)。

ちなみに、16年間の長期政権を維持したアンゲラ・メルケル前首相は16年間の任期中、12回訪中し、中国共産党政権に対し融和政策を展開、経済関係を深めた。その意味で、バイエルン州のゼーダー州首相の訪中とその現実政治はメルケル前政権の延長ともいえる(「輸出大国ドイツの『対中政策』の行方」2021年11月11日参考)。

サッカー界「商業主義と愛国心」の狭間

 ドイツのメディアは22日、独サッカー連盟(DFB)の話がウクライナ戦争とパレスチナのガザ戦闘を凌ぐほどのビックニュースとして報じた。DFBの突然の決定は単にサッカー・ファンだけではなく、ドイツの政治家も巻き込む波紋を投じたのだ。

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▲ドイツで今年6月14日から7月14日まで欧州サッカー連盟(UEFA)主催の欧州選手権が開催(DFB公式サイトから)

 具体的には、DFBが21日、長年のパートナーであるアディダスとのサプライヤー契約が満了した後、2027年から米国のライバルであるナイキに変更すると発表したのだ。DFBのこの決定は予期しないものだったので、関係者は驚いた。

 DFBの決定はスポーツジャーナリストだけではなく、政治家をも巻き込む大きな出来事となった。DFBがサプライヤーの変更の第一の理由がナイキがアディダスより倍の契約金を払う事で、これが分かると、サッカー界の「コマーシャリズムと愛国心」の関係といった哲学的なテーマまで飛び出してきた。

 米国のスポーツ用品メーカー「ナイキ」との提携は2027年1月に始まり、2034年まで続く予定だ。ナイキはこの期間中、すべてのドイツ代表サッカーチームに装備を提供することになる。 DFBのベルント・ノイエンドルフ会長は「ナイキと協力し、我々に寄せられる信頼を楽しみにしている」と語った。

 DFBの決定がドイツで6月に開幕される欧州サッカー連盟(UEFA)主催の欧州サッカー選手権の直前に下されたことから、スポーツ記者の中には「タイミングが悪い」という声が聞かれる。ホストのドイツチームは依然アディダスのユニフォームを着用して試合に臨むことになる上、宿舎など関連施設はアデイダスが準備したものを利用することになるからだ。

 ロベルト・ハベック副首相(経済相兼任)は、「3本線のないドイツのジャージを想像することはほとんどできません。私にとって、アディダスと黒、赤、金は常に一緒のものだった。ドイツ人のアイデンティティの一部だ」と述べ、「DFBには愛国心がもう少し欲しかった」と語ったというのだ。カール・ラウターバッハ保健相(SPD)は、「アディダスはもはやサッカーの代表ジャージであるべきだ。米国の会社?商業が伝統と家庭を破壊するのは間違った決断だと思う」とX(旧ツイッター)に書いている。

 独大衆紙ビルトによると、バイエルン州のマルクス・セーダー首相(CSU)は、「ドイツサッカーは純粋な祖国であり、国際的な企業闘争の駒ではない」と指摘。CDUのフリードリッヒ・メルツ党首は、「DFBの決定を理解できない。非愛国的だ」と酷評している、といった具合だ。

 アディダスとプーマは兄弟会社のスポーツ用品販売会社で世界的に有名だ。だから「ドイツの高品質のシンボルとして世界に宣伝してほしい」と考える政治家が多い。それをDFBが突然、ライバル会社の米会社ナイキに変更したというわけだ。ただし、契約金が年5000万ユーロだったアディダスの倍、年間1億ユーロ以上と推定されている。契約金の違いは大きい。DFBも最近は赤字経営だといわれている。愛国心だけではもはや十分ではないというわけだ。

 ちなみに、DFB とアディダスは長い付き合いだ。アディダスはDFBの決定に驚き、「DFBから21日、協会が2027年から新たなサプライヤーを迎えることになると知らされた」と述べている。アディダスは独南部バイエルン州のヘルツォーゲンアウラハに拠点を置いている。

 それでは一般国民、サッカーファンたちは今回のDFBの決定をどのように見ているだろうか。ドイツ民間ニュース専門局ntvによると、ファンの間ではDFBの決定に批判的なコメントがソーシャルネットワーク上で圧倒的に多い。「反逆罪だ」といったコメントもあった。スポーツ雑誌キッカーが22日午後に実施した継続的なオンライン調査では、参加者の90%が代表チームのユニフォームの変更は間違いだと回答している。

 DFBが直面している問題はサプライヤーの変更といった経済的な問題以上に、ドイツ代表チームがファンの期待に応えていないことだ。ドイツ代表は過去3大会で成績が振るわなかった。2018年のモスクワ大会と22年カタール大会年のワールドカップ、そして21年の欧州選手権では予選ラウンドで落ちた。日本チームはカタール大会ではドイツと同じ予選グループだった。そして2対1でドイツチームに勝利したことはまだ記憶に新しい。ビルドは「偉大で誇りあるサッカー王国の終わりを体験した」と嘆いたほどだ(「『サッカー王国』ドイツのW杯予選落ち」2022年12月4日参考)。

 ちなみに、カタールW杯大会ではドイツチームの試合は散々だったが、同性愛者への連帯を表示した腕章を付けたことでホットな「文化論争」を引き起こしている。

 もしドイツ代表が昔のように強いチームだったら、サプライヤーの変更問題でも批判に晒されなかっただろう。ドイツチームが本拠地ドイツで開催される欧州選手権で過去3大会のような成績に終わるようだと、DFBへの批判の声は更に高まることは必至だ。

 参考までに、ドイツ代表チームは23日、フランス代表チームと、26日はオランダ代表チームと試合する。ドイツにとって地元主催の欧州サッカー選手権前のテスト試合だ。

独仏の間に隙間風が吹く

 人と人の関係はスムーズにいく時とそうではなく刺々しくなることがある。同じように、国と国との関係でも良好な時もあれば、対立する状況も出てくる。欧州の代表国フランスとドイツの関係もそうだ。ミッテラン大統領とコール首相が政権を担当していた時代、両国の関係は良好だった。しかし、独仏関係がここにきてウクライナ戦争での対応で意見の相違が表面化し、両国間で刺々しい雰囲気すら出てきたのだ。

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▲独仏ポーランド3国のワイマール・トライアングル首脳会談(中央・ポーランドのトゥスク首相)ベルリン、2024年03月15日、ドイツ連邦政府公式サイトから

 華やかな国際会議を主催することを好み、大胆な政策を表明するマクロン大統領に対し、派手なパフォーマンスは少ないが、着実に政策を推進するタイプのショルツ首相とはその言動が好対照だ。英国がまだ欧州連合(EU)の一員であった時、フランスとドイツの関係に大きな波紋は立たなかったし、問題があれば英国が両国の間で仲介的な役割を果たせた。しかし、英国のEU離脱(ブレグジット)後、フランスとドイツ両国は迅速に決断を下せるメリットもあるが、両国が対立する状況では英国のような調停役がいないため、関係の険悪化に歯止めがつかなくなるといった状況に陥る。

 マクロン大統領がパリで開催されたウクライナ支援国際会議で演説し、北大西洋条約機構(NATO)の地上軍をウクライナに派遣する提案をした時、ショルツ首相は表情を曇らせ、「そのようなことは出来ない。戦闘をエスカレートさせるだけだ」と一蹴した。米国からの独立を模索するマクロン大統領はこれまでも欧州軍の創設を提案してきた。マクロン氏は、「フランスは地上軍をウクライナに派遣する用意がある」と指摘し、「ロシア側に戦略的曖昧さを与える」と説明する。 

 ロシア軍とNATO軍の衝突でウクライナ戦争が欧州全域に拡大することを懸念するショルツ首相にとってマクロン氏の提案は危険過ぎる。それ以上に、マクロン大統領がショルツ首相とそのテーマで事前協議することなく、国際会合の場で地上軍の派遣の用意があると公表したことに、ドイツ側は不快を感じているのだろう。

 一方、フランス側に不快感を与えたのは、ショルツ首相が、イギリスとフランスの両国軍関係者がウクライナで自国の巡航ミサイル「ストームシャドウ」と「スカルプ」の使用に関与していることを公に語ったことだ。この種の軍事情報はコンフィデンシャルだが、それを公の場で語ったショルツ首相に対し、マクロン大統領は「外交上の慣例を破る」として不快感を露わにした、といった具合だ。

 マクロン大統領はウクライナ支援の重要性を強調し、ウクライナ問題では先駆的な役割を果たしているといった思いが強いが、欧州諸国のウクライナ支援ではドイツが米国に次いで2番目の支援国だ。実質的な欧州最大の支援国はドイツだ。実際より大げさに語るマクロン大統領に対して、ドイツ側はイライラしているといわれる。

 インスブルック大学のロシア問題専門家マンゴット教授は15日、ドイツ民間ニュース専門局ntvでのインタビューの中で、「マクロン大統領は大口をたたくが、実際の行動は僅かだ」と指摘し、「フランスとドイツ両国間の歴史的に強固な枢軸は益々重要性を失いつつある。パリとベルリンの間の対立はその明らかな証拠だ」と説明する。

 例えば、マクロン氏はウクライナ支援では「無制限な支援」を強調する一方、ショルツ首相は「レッドラインを維持しながら可能な限りの支援」を主張してきた。地上軍のウクライナ派遣問題についても、マクロン大統領は「戦略的曖昧さ」政策を強調するが、NATOは既にロシアとの全面的戦争はしないと表明済みだから、今更戦略的曖昧さと言っても意味がないというわけだ。

 ドイツがウクライナの要請にもかかわらず、巡航ミサイルタウルスの供与を拒否していることに、マクロン大統領は批判的だ。一方、フランス側のドイツの軍事供与への批判に対し、ドイツ側は「フランスの納入量はドイツよりはるかに少ない」と反論してきた。

 ウクライナ支援問題で意見を調整するために15日、ベルリンでドイツ、フランス、そしてポーランド3国のワイマール・トライアングルの首脳会談が開催された。それに先立ち、ショルツ首相はマクロン大統領と2時間余り首相官邸で会談している。ベルリンとパリの間で議論すべき多くの議題があったからだ。

 参考までに、フランスとドイツの両政府は、ショルツ首相とマクロン大統領の間に亀裂があることを否定している。ちなみに、フランスのセジュルネ外相は3月初め、「仏独間に対立はなく、問題の80%で合意している」とメディアに語っている。一方、ショルツ首相は13日、連邦議会で野党「キリスト教民主同盟」の議員から「マクロン大統領との関係」を問われ、「フランスとの意見の対立はない」と否定している。

 興味深い点は、仏紙フィガロの分析によると、ロシア軍のウクライナ侵攻直後、マクロン大統領は、「ロシアに余り屈辱を与えるべきではない」と、プーチン大統領に融和的な姿勢を取っていたが、ここにきて、「ヨーロッパとフランス人の安全がウクライナで危機に瀕している。もしロシアが勝てば、フランス国民の生活は変わり、ヨーロッパの信頼性はゼロになる」と警告し、ロシアに対して強硬姿勢を取ってきていることだ。その点、ショルツ首相のロシア観はロシア軍のウクライナ侵攻から今日まで変わらない。ロシアとの軍事衝突を回避するということだ。

 このようにウクライナ政策でマクロン大統領とショルツ首相との間で政策の相違が見られ出した。その違いが決定的な亀裂となるか、それとも外交上のニュアンスの相違に留まるか、ここ暫くは両国のウクライナ支援の動向を注視する必要があるだろう。
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