ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ドイツ

財政危機に直面する独信号機連立

 独バーデン=ヴュルテンベルク州のカールスルーエにある独連邦憲法裁判所は15日、ショルツ政権が2021年末、新型コロナウイルスのパンデミック対策予算の未利用分を気候変動基金(KTF)に振り替える予算調整措置を実施したが、それは違憲に当たると判決を下した。この結果、社会民主党(SPD=赤)、緑の党、そして自由民主党(FDP=黄色)の3党から成るショルツ政権(通称「信号機連立」)はKTFなどへの財政資金600億ユーロを失うことで財政危機に陥った。

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▲財政危機に直面するリントナー独財務相(FDP公式サイトから)

 連邦憲法裁判所の今回の判決は、野党第一党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が「政府の財政措置は将来、債務を急増させる契機ともなる」として提訴してきたことへの返答だ。問題は、ショルツ政権の顔の一つ、再生エネルギー政策を目指すKTFを継続していくためには、不足する資金をどこから調達するかだ。考えられる対策は、〜税するか、他の分野の予算縮小だ。

 予想されたことだが、KTFの財源探しではショルツ政権内で意見の対立が見られる。FDPのリントナー財務相はドイツの国民経済がリセッションにある現在、増税は景気を一層冷やす危険性があることで強く反対してきた。となれば、他の予算をカットして、その分をKTFの財源にあてる以外にないが、予算がカットされる他の省から強い反発が予想される。家庭児童手当の増額や様々な政府補助金を受けてきた部門への拠出停止が既に囁かれ出しているのだ。

 SPD、緑の党、FDPの3党の連立政権が発足して任期4年の中間点を迎えているが、政権発足直後からドイツの政界で初の3党連立政権の誕生には「いつまで持つか」といった懸念の声が聞かれた。それなりの理由がある。簡単にいえば、政治信条で大きく異なる政党の寄せ集め政権であるからだ。SPDは社会福祉政策を重視し、緑の党は環境保護対策と再生エネルギーへの転換を、FDPは企業の自立性を重視、増税には反対し、規律ある財政政策を主張してきた、といった具合だ。

 「時代の転換」(Zeitenwende)を標榜し、国防費を増額してウクライナを積極的に支援してきたショルツ政権としては国防費を削減するわけにはいかない。緑の党は再生エネルギーの推進を党の看板に掲げる以上、環境保護対策での予算カットは受け入れられない。ハベック副首相(緑の党出身)は既に「環境保護予算の削減は受け入れない。予定通りに政策を継続する」と表明している。

 SPDと緑の党は、増税や新規融資、債務ブレーキの停止などを通じて支出計画のための新たな資金を調達したいと考えている。一方、FDPはこれまで債務ブレーキの停止には反対してきたが、リントナー財務相は23日、2023年の補正予算案を今月29日に閣議に提出すると発表した。これにより、連邦政府は今年新たな債務を大幅に増やす機会が得られると受け取られている。財務省からの情報によると、これには約450億ユーロの追加額が含まれており、主にエネルギー危機基金の支出を別の基準に置くことを目的としている。

 ただ、ショルツ政権が基本法に根ざす債務ブレーキを2023年末まで再び停止することで財政危機を乗り越えることが出来るか否かは不明だ。連邦会計検査院は、カールスルーエの憲法裁判所の予算判決を受けて、今年と来年度の連邦予算は「憲法の観点から非常に問題がある」と考えている。ハベック副首相は23日、緑の党大会で、「債務のブレーキは柔軟に対応する必要がある」と述べ、リントナー財務相の債務ブレーキの停止を歓迎する一方、2024年以降も債務ブレーキの停止継続を求めている。

 ところで、ショルツ政権の3党の中で今回の財政危機を最も深刻に受け止めているのはFDPだ。同党内には「連立政権発足後、わが党は全ての選挙で得票率を失ってきた。SPDと緑の党と政権を組んで最も損をしてきたのがFDPだ」という声が聞かれ出しているからだ。例えば、バイエルン州議会(10月8日実施)では得票率3%で州議会の議席を失ったばかりだ。

 FDP党員には、ギド・ヴェスターヴェレ党首時代がトラウマとなっている。ヴェスターヴェレ党首下のFDPは2009年の連邦議会選で得票率14・6%を獲得し、第2次メルケル政権(2009年10月〜13年12月)に参加したが、2013年の連邦議会選では議席獲得に必要な5%のハードルすらクリアできず、連邦議会の議席を失った。リントナー氏は間違いなくそれを避けたいところだ。SPDと緑の党に金融政策の根本的な変更を行う用意がなければ、FDPは近いうちに政権から離脱するのではないかというのだ。

 いずれにしても、ショルツ連邦政府の行方はFDPの出方にかかっている。FDP内の多くのリベラル派はリントナー党首に対し、ヴェスターヴェレ党首時代のように政権にしがみ付いて盲目的に破滅に突き進むのではなく、1982年のハンス=ディートリッヒ・ゲンシャー時代のように、党にとってマイナスと判断すればさっさと政権から離脱することを勧めているからだ。

 リントナー党首には、ヴェスターヴェレの政権継続の道かゲンシャーの政権離脱の道かの2通りの選択肢がある。同党首が後者を選べば、不人気なショルツ連立政権は即幕を閉じ、早期総選挙の実施となる(ドイツ民間ニュース専門局ntvサイト11月21日のヴォルフラーム・ヴィマー記者)。

 なお、ドイツ民間ニュース専門局ntvによると、党の支持率(11月21日)では野党第1党のCDU/CSUが30%、それを追って極右「ドイツのための選択肢」(AfD)が21%、SPD15%、緑の党14%、FDPは5%だ。ショルツ政権は3党を合わせても支持率34%と安定政権の50%の過半数からほど遠い

地政学的に重要なトルコの大統領訪独

 この人が外遊すると、訪問の先々で騒音が絶えない、というか、訪問先の(亡命)反体制派活動家から批判の声が飛び交う。その点、中国共産党政権の習近平国家主席の外遊時と似ている。

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▲記者会見に臨むエルドアン大統領(左)とショルツ独首相(ドイツ連邦首相府公式サイトから、2023年11月17日、ベルリン)

 トルコのエルドアン大統領は17日、ベルリンを公式訪問した。ほぼ4年ぶりのドイツ訪問だったが、同大統領のドイツ訪問が発表されると、独メディアは「トルコ大統領のベルリン訪問は厄介なテーマが多い」と、早速報じた。エルドアン大統領のドイツ訪問のために約2800人の警察官が動員され、ゲストの身辺警備に当たった。

 それでは、エルドアン大統領のドイツ訪問が如何に厄介な訪問だったかを少し説明する。エルドアン大統領は先月、トルコ国会で中東情勢について演説し、パレスチナ自治政府ガザを軍事攻撃し、女性や子供たちを殺害するイスラエルを「テロ国家」と糾弾する一方、イスラム過激テロ組織「ハマス」を「パレスチナ民族の解放勢力」と主張したのだ。北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコの国家元首がイスラエルを「テロ国家」と呼ぶこと自体、通常のことではない。

 ちなみに、エルドアン大統領の「イスラエルはテロ国家」発言を聞いたイスラエルのネタニヤフ首相は冷笑を見せ「シリアの内戦でトルコ軍が行ったテロはどうしたのか」と述べ、一蹴している。

 一方、エルドアン大統領を迎えたホスト国ドイツのショルツ首相は、「テロ組織が10月7日、イスラエルにテロ奇襲し、1300人以上のイスラエル国民を殺害した。イスラエル側には自国の安全を守る自衛権がある」と述べ、イスラエルを全面的に支持する姿勢を改めて強調した。

 中東問題でその立場が全く異なるトルコ大統領とドイツ首相が同じテーブルについて中東情勢を話したならば、どのような会話が展開するか、両国関係者でなくても心配になってくる、というわけだ。

 ショルツ首相は17日午後、エルドアン大統領と共に記者会見に出席し、中東問題でのドイツの立場を説明した時、「エルドアン大統領とドイツではパレスチナ問題では異なった立場、非常に異なるスタンスであることは知られていることだ」と断り、ドイツのイスラエル支持を明確に繰り返した。ただし、ゲストの立場を考慮し、「ドイツはパレスチナ人の人道支援では多くを実施してきた」とわざわざ述べている。

 エルドアン大統領は欧州では「交渉相手としては手ごわく、出方が前もって予想できない指導者だ」と受け取られている。エルドアン大統領のトルコは地政学的な観点から見るならば、「非常に重要なポジッションにある」(オーストリア国営放送ドイツ特派員)ことは間違いない。

 例えば、ウクライナ戦争での穀物輸出問題ではトルコはロシアとウクライナの両国間の調停役を演じ、スウェ―デンNATO加盟問題では依然、加盟の批准を拒否し、ストックホルムのNATO加盟にブレーキをかけ、欧州連合(EU)との難民収容協定(2016年締結)問題では協定の延期交渉が控えている(トルコ国内には数百万人の難民、特にシリア難民が収容されている)。すなわち、エルドアン大統領の意向を無視しては決定できないテーマが山積しているわけだ。

 エルドアン大統領はベルリン訪問時には、トルコのEU加盟の早期実現を強く要求する一方、EU諸国へのビザ発給の迅速化を求めるなど、抜け目がない。ドイツにとってもトルコは重要な貿易相手国だ。国内には約500万人のトルコ系国民は住んでいる。エルドアン大統領のドイツ訪問では、トルコの与党「公正発展党」(AKP)を支持しているトルコ系住民は大歓迎する一方、反対派はエルドアン大統領の独裁的な政治を批判するといった具合で、ドイツのトルコ・コミュニティは完全に分裂している。

 ドイツ民間ニュース専門局ntvは17日、「エルドアン大統領はモスクワとNATOの間でダブルゲームをプレイしている。エルドアン大統領の下、トルコはロシアによるウクライナ攻撃以来、繰り返し微妙なバランス調整を進めている。西側諸国との同盟、モスクワとの取引、ウクライナの工場――エルドアン大統領はあらゆるところで多大な問題を引き起こして、最終的に利益を得るのは主に彼自身である」と、エルドアン大統領の政治を辛らつに評している。

 ショルツ首相は記者会見で、「われわれは非常に困難な時代に直面している。それだけに、指導者間の直接対話は大切だ」と述べ、ボスポラス海峡からのゲストとの会談の意義を説明している。

 なお、ベルリンで18日夜、サッカー国際親善試合、ドイツ対トルコの試合が行われるが、エルドアン大統領は試合を観戦せずに、「トルコに戻って観る」という。それを聞いて、トルコ大統領の安全対策に腐心してきたドイツの治安関係者はホッとしたことだろう。

独国民の10人に8人は宗教に無関心

 ドイツの代表的週刊紙ツァイト(オンライン版)は週末に入ると「グッドニュース」だけを掲載して、読者に配信する。10を超えるグッドニュース集はもちろんドイツ人読者を対象としたものだから、他国の読者にとってグッドニュースとは言えないケースもあるが、それは仕方がないだろう。いずれにしても、多くの読者には週末には明るい、希望に満ちたニュースが必要、といったツァイト編集部の配慮が働いているのだ。

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▲暗雲が漂う教会の塔(2023年11月14日、バチカンニュース、写真ANSA通信)

 それゆえに、というわけではないが、週末前にこの記事を書き終えるべきだと考えた次第だ。ドイツはローマ・カトリック教会とプロテスタント教会の信者数はほぼ半々だ。その両教会に対する国民の意識調査がこのほど公表されたが、両教会関係者にとっては予想されたことだが、やはり衝撃的な結果だ。バッドニュースだ。

 大規模な教会会員調査(KMU)の結果が14日、公表された。1972年以来、10年ごとに教会員の意識調査が実施されてきたが、この度はカトリック教会も初めて参加した。テーマは国民の宗教的なむすびつきを調査するものだ。その結果、ドイツではカトリック教会とプロテスタント教会に対する教会員の信頼が低下し、多くの教会員が教会から離れることを考えているという。

 具体的には、回答者5282人のうち、10人中ほぼ8人にとって、「宗教はまったく意味がない」(38%)、または「ほとんど意味がない」(40%)というのだ。教会員の中でも、「自分は信者であり、教会に近い」と考えているのはわずか4% (カトリック教徒) と6% (プロテスタント信者) に過ぎない。ただ、少なくとも36(33)%は、「たとえ多くの点で教会に対して批判的であっても、私は教会とのつながりを感じている」と答えている。

 KMUはドイツ国民の56%を「世俗的」、25%を「宗教的に遠い」、13%を「教会信仰を有する」、6%を「オルタナティブ」に分類している。全回答者の9%がカトリック教会を依然として信頼していると答えたのに対し、プロテスタント教会では24%だった。カトリック教会への信頼はイスラム教よりもわずかに高いだけで、調査ではカトリック教会員の43%、プロテスタント教会員の37%が「離脱傾向にある」と分類されている。

 興味深い点は、カトリック教会に対する教会員の不満からプロテスタント教会が利益を得るということはなく、カトリック教会の脱会者がその後、他の教会(プロテスタント教会)に入会するということはあまり多くない。

 ちなみに、アイルランド人で「幸福の王子」や「サロメ」などの作家オスカー・ワイルド(1854〜1900年)は死ぬ数日前にプロテスタント教会からカトリック教会に移っている。

 ただ、大切なことは、教会員が教会に対して無関心ではなく、抜本的な改革を望んでいることだ。とりわけ、カトリック教会の会員の96%とプロテスタントの会員の80%は、「教会に将来を望むなら根本的に変わらなければならない」と述べている。

 例えば、独司教会議が提示した主要な改革案は、.蹇璽沺Εトリック教会はバチカン教皇庁、そして最高指導者ローマ教皇を中心とした「中央集権制」から脱皮し、各国の教会の意向を重視し、その平信徒の意向を最大限に尊重する。∪賛者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者を受け入れる。女性信者を教会運営の指導部に参画させる。女性たちにも聖職の道を開く。だ賛者の独身制の見直し。既婚者の聖職者の道を開く、等々だ。また、教会の社会的関与を期待し、社会相談センターを維持し、難民のために活動し、気候保護を強化することを望んでいる。

 いずれにしても、ドイツのカトリック教会、プロテスタント教会が大きな危機に瀕していることは間違いない。聖職者の未成年者への性的虐待の増加などを理由に教会からの脱会者は過去最高を記録している。2021年の教会統計によると、ドイツのカトリック信者総数は2164万5875でドイツ全体で26%を占める一方、プロテスタント信者数は約1972万人で23・5%。ドイツで新旧両教会の信者総数が50%を初めて下回った(「独カトリック教会、脱会者が急増」2022年6月29日参考)。 

 両教会が国民の信頼を回復し、教会を再び活性化できるだろうか。両教会を取り巻く環境はこれまでにないほど厳しいことが今回のKMUの調査結果で判明した。

突出するドイツのイスラエル全面支持

 ロシア軍がウクライナに侵攻した時、欧米諸国のほとんどが迅速にウクライナへ人道支援、武器供与を実施していった。ドイツは紛争地への武器供与は禁止されているという理由から慎重な姿勢を堅持し、重武器を提供した他の欧州諸国とは違い、軍用ヘルメット5000個をキーウに供与すると発表し、欧米メディアから冷笑された。その後、ショルツ独政権はZeitenwende(時代の転換)を標榜し、米国と歩調を合わせて、主力戦車レオパルトなど重兵器をウクライナに提供していったことは周知の通りだ

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▲ネタニヤフ首相、イスラエル国防軍(IDF)のヤハロム部隊を訪問(2023年10月24日、イスラエル首相府公式サイトから)

 ところが、パレスチナのガザ地区を実効支配しているイスラム過激テロ組織「ハマス」が今月7日、イスラエルとの境界網を破壊、侵入し音楽祭に参加していたゲストや集団農園(キブツ)を襲撃して1300人余りのユダヤ人らを射殺、200人以上の人質をガザ地区に拉致した「ハマス奇襲テロ」が起きると、ドイツ側の反応は素早かった。バイデン米大統領は戦時中のイスラエルを現職大統領として初めて訪問したが、その数時間前、ショルツ首相はイスラエル入りし、17日、ネタニヤフ首相と会談した。欧米諸国ではハマスのテロ事件後、イスラエルを訪問した最初のリーダーという名誉を獲得している。

 ハマスの奇襲テロ事件に対するドイツの立場を最も明確に述べたのはハベック副首相(経済相兼任)の声明だろう。同副首相はハマスのテロを厳しく批判する一方、イスラエルに対して、「ドイツは常にイスラエル側を支援する。その連帯には制限がない」と強調し、「ハマスのテロで多くのイスラエル人が犠牲となった。そのような中でドイツ国内で親ハマスのデモ集会が開催されることは絶対に許されない」と指摘し、ドイツ国内では反イスラエル、親ハマスのデモ集会に参加する者は処罰されるべきだと述べた。ハベック副首相はイスラエル支援を「ドイツの義務」と呼んでいる(「イスラエル軍のガザ攻撃の『正当性』」2023年10月17日参考)。

 シュタインマイヤー大統領もショルツ首相も、「ドイツ民族はイスラエル民族の安全に責任がある」という点で同じだ。ドイツは、ナチス・ドイツ政権が第2次世界大戦で600万人のユダヤ人を虐殺したという歴史的事実に対し、謝罪し、2度とそのような蛮行を繰り返さないことを戦後何度も宣言してきた経緯がある。

 イスラエル軍はハマス壊滅に乗り出し、空爆を繰り返す一方、ガザ地区への地上軍の導入を準備している。イスラエル軍の空爆でガザ地区のパレスチナ人に多くの犠牲が出てきた。国連児童基金(ユニセフ)によると、2360人の子供が犠牲になったという。そのようなニュースが報じられてくると、アラブ・イスラム国家だけではなく、欧米社会でもイスラエルは空爆を中止、人道的停戦を実施すべきだという声が高まってきた。

 例えば、国連のグテーレス事務総長は24日、安保理会合でハマスのテロを批判する一方、ガザ地区のパレスチナ人の困窮にも言及し、イスラエルによる56年間のガザ地区の統治を間接的ながらも批判した。グテーレス事務総長の発言を聞いたイスラエルの国連大使は激怒し、「事務総長は辞任すべきだ」と要求した。国連事務総長は自身の発言が大きな物議を醸し出したことを知って、「私の発言を誤って解釈している」と反論している。

 欧州連合(EU)の加盟国が人道的停戦かイスラエル軍の報復攻撃続行かで意見が対立している中、ドイツのベアボック外相は国連安保理で、「テロリストと闘って壊滅してこそイスラエルとパレスチナに平和と安全がもたらされる。ハマスは依然、ロケット弾をイスラエルに向けて発射し続けている」と説明、イスラエル軍のガザ報復攻撃を全面的に支持している。ドイツのイスラエル支持は欧米諸国の中でも少々特出している、という印象すらあるほどだ。

 ドイツ政府の無条件のイスラエル寄り政策は問題がないわけではない。ハマスの奇襲テロ事件後、ドイツ国内で反ユダヤ主義的言動が増加し、親パレスチナ派のデモ集会が頻繁に開かれ、一部、治安部隊と衝突している。もちろん、反ユダヤ主義を標榜し、パレスチナを支援する国民は主にアラブ系、イスラム系の国民が多いが、それだけではない。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は移民反対、外国人排斥を掲げる一方、党指導部には反ユダヤ主義傾向が見られ、ガス室の存在を否定し、ホロコーストを否定する発言をする支持者もいるのだ(「独AfDは本当にネオナチ党か」2017年9月26日参考)。

 そのAfDは最新の世論調査によると、「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)に次いで20%以上の支持率を得ている。すなわち、国民の5人に1人は反ユダヤ主義的傾向のある政党を支持しているという現実があるわけだ。ちなみに、世論調査ではショルツ連立政権の3党、社会民主党(SPD)、「緑の党」、「自由民主党」(FDP)は合わせても40%以下の支持率しかない。

 パレスチナではイスラエルとハマスの戦いが続く一方、欧州ではドイツがパレスチナ紛争の第2フロントとなって親パレスチナ派と親イスラエル派が路上で衝突する、といった懸念すら予想され出したのだ。

ドイツで反ユダヤ主義が拡大

 ドイツのロベルト・ハベック副首相(経済相兼任)は、パレスチナ自治区ガザのイスラム過激派テロ組織「ハマス」が今月7日、イスラエル領内に侵入し、1300人余りのイスラエル人を殺害し、200人以上を人質として拉致した直後、「ドイツは無条件にイスラエルを支援する。これはドイツの義務だ」と表明するメッセージを公表した。

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▲ベルリンで開催されたイスラエルへの連帯集会(2023年10月22日、バチカンニュースから、写真イタリア通信ANSA)

 そのドイツでその後、パレスチナ人を支援するデモ集会が開催され、ガザ地区に軍侵攻を図るイスラエルを批判する声が高まる一方、国内のユダヤ教関連施設が襲撃されるといった出来事が絶えない。ナンシー・フェーザー内相は記者会見で、「反ユダヤ主義的犯行が増加してきている。わが国はそのような犯行を絶対に容認しない」と強調している。なお、独週刊誌シュピーゲル(10月14日号)はドイツで最も反ユダヤ主義傾向が強い首都ベルリン市南東部のノイケルン区のルポ記事を掲載し、アラブ系住民の声を拾っている。

 ドイツのユダヤ人中央評議会のヨーゼフ・シュスター会長はフランクフルター・アルゲマイネ日曜版(10月21日付)とのインタビューで、「ドイツに住むユダヤ人は脅威を感じている」と説明、反ユダヤ主義がドイツで高まっていると警告を発している。

 シュスター会長は、「ドイツでパレスチナ人のデモへの参加者が大幅に増えている。(欧州に難民が殺到した)2015年以後、ドイツに入国し、当初は目立たずに行動していた人々の一部が、今では街頭に繰り出して暴力的に振舞ってきている」という印象を述べている。

 同会長によると、「右翼過激派の反ユダヤ主義がドイツで最も危険だが、イスラム教徒移民の間での反ユダヤ主義的態度が大きな問題だ。ドイツに来るアラブ系の人たちは、家庭で毎日反イスラエルの歪んだイメージを教えられていることを知っておく必要がある」という。

 シュスター会長は、「デモで反ユダヤ主義のスローガンを唱えることに対する厳罰が必要だ。ドイツの都市では親パレスチナデモを禁止しているところもある。デモは単に親パレスチナ的なものではなく、反イスラエル、反ユダヤ主義的だ」という。ただし、宗教的な理由からイスラエルに移住するユダヤ人はいるが、反ユダヤ主義の高まりゆえに、ドイツから出国するユダヤ人はほとんどいないという。その点、フランスに住むユダヤ人の事情とは異なる。

 ベルリンで18日、2人の犯人が火炎瓶を使ってベルリンのシナゴーグを襲撃した。被害はなかったが、ベルリンで進行中の反ユダヤ主義暴動との関連性は明らかだと受け取られている。

 中央評議会の説明によると、シナゴーク放火未遂事件の前夜、若者を中心とした数百人が反イスラエル集会のためにブランデンブルク門に集まった。彼らはガザ地区の病院へのロケット弾攻撃はイスラエル軍によるものだとするハマスの報告を受けて激怒していたという。

 また、ベルリンのラビ、イェフダ・タイヒタル師はベルリン・モルゲンポスト(10月18日付)とのインタビューの中で、「ユダヤ人の命が確実に守られるように、あらゆる手段を講じてほしい。ユダヤ人が公の場でヤムルカ(浅くて丸い帽子)やダビデの星を着用できなくなる状況は悲劇だ」と述べている。

 イスラエル軍はハマスのテロ奇襲に報復するためにガザ地区を包囲し、いつでも攻撃できる体制に入っている。ガザ地区での戦いが始まれば、パレスチナ人にも多くの犠牲者が出るだろう。そうなれば、パレスチナ人だけではなく、アラブ・イスラム国でイスラエルを批判する声が更に高まることは必至だ。同時に、欧米社会でも親パレスチナデモが拡大し、過激派による反ユダヤ主義的言動が広がるだろう。参考までに、隣国オーストリアではハマスのテロ奇襲後、これまでに78件の反ユダヤ主義的言動が登録されている。

 イスラエルの著名な歴史学者ハラリ氏はドイツのツァイト(オンライン版)とのインタビューの中で、「イスラエル国民はハマスのテロに衝撃を受け、国民は混乱と痛みを抱えている。一方、パレスチナ人側もイスラエル軍の攻撃を受け、多くの犠牲者が出、その痛みは大きい。双方が大きな痛みを感じている時、一方が他方の痛みを理解することは難しいのだ」と説明している。

 レバノンのシーア派過激テロ組織「ヒズボラ」がイランの要請を受けてイスラエルを攻撃する動きも見られる。ヒズボラが出てくれば、イスラエルは南部と北部の両面で戦争状況に対峙することになる。イスラエルとパレスチナ双方の痛みが癒える間もなく、戦いが中東全土に拡大するという事態が考えられる。

 ベルリンのブランデンブルク門で22日、宗教代表者や政治家らがイスラエルのための連帯集会に参加した。モットーは「イスラエルへの連帯と思いやりをもって、テロ、憎悪、反ユダヤ主義に立ち向かおう」で、主催者によると2万5000人が参加した。ドイツでは同日、親パレスチナ人のデモも行われている。デモは許可なく開かれたが、平和的に行われた。

独2州議会選、連邦与党3党は後退

 ドイツで8日、バイエルン州(南部)とヘッセン州(中部)両州議会選挙の投開票が行われた。両州とも現与党、ヘッセン州ではボリス・ライン州首相が率いる「キリスト教民主同盟」(CDU)、バイエルン州ではCDUの姉妹政党、マルクス・ゼーダー首相の「キリスト教社会同盟」(CSU)が第1党を堅持した一方、ショルツ現連邦政権の与党「社会民主党」(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党は両州でいずれも得票率を大きく失った。それに対して、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は得票率を伸ばし、ヘッセン州ではCDUに次いで第2党に躍進した。

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▲バイエルン州議会選で第1党を堅持した「キリスト教社会同盟」(CSU)のゼーダー党首(州首相CDU/CSU公式動画からのスクリーンショット、2023年10月8日

【バイエルン州議会選】

 ゼーダー州首相のCSUは得票率約37%で第1党を堅持、前回選挙(2018年10月)比で0・2%微減したが、他党を大きく引き離して勝利した。それを追って右派の「自由な有権者」(FW)が15・2%で前回比で4・2%増だった。FWのフーバート・アイヴァンガ―党首は選挙戦で、若い時代に書いた反ユダヤ主義的な文書がメディアに報道され、辞任要求などの厳しい批判を受けたが、選挙結果を見る限りではマイナスの影響はなく、むしろ支持者を増やした。

 FWと2位を争っていたAfDは14・6%で微差で3位に留まったが、前回比で4・4%得票率を伸ばした。一方、ショルツ現連邦政権に参加する「緑の党」は14・4%(前回比で3・2%減)、SPD8・4%(1・3%減)と得票率を減らし、FDPは3・0%で議席獲得のハードル5%をクリアできずに州議会での議席を失うなど、3党連立与党は後退を余儀なくされた。

 バイエルン州ではFW、AfDと右派系政党が票を伸ばすなど、「バイエルン州は一層、右に傾斜した」と言われている。ゼーダー州首相はCSUとFWの現連立政権を維持する意向だ。ちなみに、ゼーダー州首相は2025年の次期連邦選挙でCDU/CSUの統一首相候補のポストを狙っているが、州選挙ではもう一つアピールできずに終わった。投票率約73%。

【ヘッセン州議会選】

 ボリス・ライン州首相のCDUは得票率約34・6%を獲得し、前回選比で7・6%増と大勝利だった。両州議会選で唯一、選挙で勝利した政党ともいえる。AfDは18・4%で前回比で5・3%得票率を伸ばし第2党に躍進。一方、SPDは15・1%(前回比4・7%減)、緑の党14・8%(5・0%減)と両党とも大きく得票率を失い、FDPは5・1%(2・5%減)で辛うじて5%を超えた。ショルツ連邦政権に参加するSPD,緑の党、FDPの3党はいずれも得票率を失う厳しい結果となった。

 SPDは同州ではナンシー・フェーザー連邦内相を党筆頭候補者に迎えて選挙戦を展開してきたが、党史上最悪の結果となった。フェーザー内相は選挙戦で敗北したならば、ベルリンに戻り、内相を継続したいと表明してきたが、選挙後の同内相の立場は不確かだ。投票率は約66%。なお、ライン州首相は「緑の党」との現連立政権を継続する意向が強い。

【ミニ解説】

 米国の中間選挙では大統領ポストを有する与党が野党に苦戦するケースが多いが、任期2年目が終わるショルツ連立政権にとって今回の2州議会選は国民の中間評価という性格がある。そして米国と同様、与党の3党は両州で得票率を失った。エネルギー価格、物価の高騰、住居問題などを抱えるドイツの国民経済は目下リセッション(景気後退)だ。ウクライナ支援でも国民に疲れが見える一方、不法な移民・難民の急増に直面して、現政権は対応に苦慮している。その当然の結果として、移民・難民政策では厳格な路線を主張するAfDが両州で飛躍したわけだ。

 独週刊誌ツァイト(オンライン版)は「右傾化は東ドイツだけの問題ではない」という見出しで報じている。バイエルン州もヘッセン州も旧西独の州だ。AfDはこれまで旧東独州の有権者を支持基盤としてきたが、旧西独地域でもAfDは着実に支持基盤を広げていることが明らかになった。ただし、ドイツではどの政党もAfDとの連立を拒否しているため、AfDは永遠の野党としての地位に甘んじるか、過半数の支持を獲得して単独政権を目指すかの選択肢しかない。後者は当分、非現実的だ(「極右政党の“政権パートナー探し”」2023年6月14日参考)。
https://wien2006.livedoor.blog/archives/52363741.html

独語圏2大「極右政党」の接触

 オーストリアの極右政党「自由党」(FPO)の招きを受け、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ワイデル共同党首が19日、ウィーン入りし、FPOのヘルベルト・キックル党首と会合すると、「2大極右党の接近か」といった憶測が流れるなど、欧州のメディアでは大きな話題を呼んだ。

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▲インタビュー番組に出演したキックル党首(左)とワイデル党首(右)、中央は司会者(2023年9月19日、FPO公式サイトから)

 AfdとFPO両党は現在、ドイツとオーストリアの政界を震撼させている。FPOは最新の世論調査では支持率30%を超え、与党の保守派政党「国民党」を抜いて第1位を独走している。一方、AfDはドイツ民間ニュース専門局ntvの最新世論調査によると、「キリスト教民主・社会同盟」CDU/CSU)の27%に次いで約22%で第2位に躍進し、ショルツ首相の社会民主党(SPD)の17%を大きく引き離している。すなわち、FPOもAfDも世論調査を見る限り、躍進中の政党だ。その両政党の代表がウィーンで会合したわけだから、メディアが騒ぎ出すわけだ(「極右『自由党』が支持率で独走」2023年9月3日参考)。

 AfDとFPOは極右政党と呼ばれる。両党は外国人排斥、難民移民の受け入れ反対、欧州連合(EU)に批判的であり、反米的といった政治信条は酷似しているが、相違点もある。AfDはドイツ連邦憲法擁護庁から2021年3月に「危険団体」として監視対象に指定されている。旧東独地域では30%を超える支持率を誇るが、連邦レベルでは政権に参画したことがない。一方、FPOはこれまで政権入り(例シュッセル政権、クルツ政権)を体験、現在は3州(ニーダーエステライヒ州、オーバーエステライヒ州、ザルツブルク州)で連立政権に入っている。ドイツとオーストリアの国民の人口比では10対1だが、政治キャリアではFPOは2013年2月に創立されたAfDのそれを上回っているわけだ。

 参考までに、ドイツで起きた事はある一定の期間の後、隣国オーストリアでも起きる、といわれてきた。モードや文化的な流行だけではなく、社会的な出来事でもそうだ。ドイツとオーストリアは言語が同じということで、両国は兄弟国と受け取られている。

 ただ、歴史的にみると、政治的な動向は弟のオーストリアが先行し、その潮流がドイツに流れていくケースが多い。例えば、オーストリアで画家の道を塞がれたアドルフ・ヒトラーはドイツに入って国民社会主義ドイツ労働者党(ナチス)を掲げて政権を掌握したように、現代ではオーストリアのFPOの政治運動が先行し、ドイツの極右政党AfDに影響を与えている、ということができるわけだ。

 AfDは旧東ドイツのテューリンゲン州のゾンネベルク郡で6月25日に行われた選挙で、AfDの候補がCDUの候補との決選投票を制し、首長に選出された。そしてザクセン=アンハルト州では市長に選出された。連邦レベルでは政権入りした経験がないが、党創設10年という短期間での実績としてはAfDの躍進は目を見張るものがあるといわざるを得ない。

 AfDとFPOの現在の悩みは、他の政党が悉く両党との連立を拒否していることだ。キックル党首は19日の記者会見で、「わが党もAfDも他の政党から非民主的政党との烙印を押され、国民から支持を得ながらも政権担当の道が閉ざされている」と指摘、「両党とも犠牲者だ」と述べている(「極右政党の“政権パートナー探し”」2023年6月14日参考)。

 独週刊誌シュピーゲルのAfD問題の専門記者アン・カトリ―ン・ミュラー氏は19日、オーストリア国営放送(ORF)とのインタビューに応じ、「AfDは外国人・少数民族への排斥などその政治信条は極右的だ。同党を支持する国民の票は単に現政権への抗議票ではない」と指摘し、警戒している。南ドイツ新聞が「AfDを解体すべきだ」と提言していることに対して、ミュラー氏は、「民主的なプロセスで選出されている限り、その政治的活動を禁止することは難しい。国が政党助成金という形で支援することを先ず中止すべきだ」と述べ、「禁止」の前に「政党助成金のストップ」を提示していた。

 ちなみに。ドイツの評論家ミハエル・フリードマン氏はORFの別のニュース番組で、「少数派をスケープゴートにして有権者の支持を集めるAfD、FPOは人権を無視している。民主的プロセスで躍進してきたとしても、両党を民主的政党とはいえない」と指摘している。

 なお、AfDのワイデル党首は19日夜、FPOの党アカデミーで講演し、ショルツ3党連立政権の無策を厳しく批判し、観衆からスタンディング・オベーションを受けていた。

 最後に、そのワイデル党首について少し紹介したい話がある。彼女は同性愛者で知られている。パートナーはドイツ人ではなく、スリランカ出身の外国人女性だ。AfDはこれまで同性婚には反対し、外国人排斥だ。ワイデル党首の生き方は、AfDの政治プログラムからみれば180度異なっている。その彼女が昨年6月以後、AfDの共同党首を務めているのだ。この矛盾をAfDはどのように止揚しているのだろうか。

独外相「習近平国家主席は独裁者」

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、自国を軍事侵略し、軍事施設だけではなく、民間施設や産業インフラを破壊し、占領地から子供を拉致するロシアのプーチン大統領を「戦争犯罪人」、「テロリスト」と最大級の非難を込めて批判してきたが、ゼレンスキー氏の批判を問題視する国もメディアもない。プーチン氏に全ての落ち度があることが明らかなうえ、人道的観点から見てもその批判は妥当だからだ。

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▲訪米でブリンケン国務長官と会談するベアボック外相(2023年9月12日、ドイツ外務省公式サイトから)

 ウクライナとロシアは戦争当事国だから、その国の政治家が発する言語も戦時用語となるのは致し方ないが、そうではない場合(平時の場合)、外相や外交官は他国の政治家と接する時、たとえ自分とは政治信条が別としても最低限の礼を忘れないものだ。

 外相がその外交慣習を忘れて相手国の指導者を「独裁者」と呼べば、外交交渉は始まる前から行き詰ることが予想される。その危険性を無視してドイツのベアボック外相は中国の最高指導者習近平国家主席を「独裁者」と呼んだのだ。中国側は独外相の発言を問題視し、「公然とした政治的挑発だ」と反発し、中国外務省はドイツのパトリシア・フロール大使を呼びだして抗議している。

 ベアボック外相(「緑の党」出身)は14日、テキサスを訪問中に米国のFox Newsとのインタビューに応じ、ウクライナの戦争について、「ロシアのプーチン大統領が戦争に勝った場合、中国の習近平国家主席のような他国の独裁者たちにとってどのようなシグナルを送ることになるだろうか。だからこそウクライナはこの戦争に勝たなければならないのだ」と述べている。

 参考までに、習近平国家主席を「独裁者」呼ばわりをしたのはベアボック外相が初めてではない。バイデン米大統領も6月、習近平主席を独裁者呼ばわりしたことがある。その時も中国側は反発したが、米国が大国であること、バイデン大統領の問題発言はこれが初めてではなく、一部では高齢による認知症的兆候と診断されていることなどを考慮したのか、その反発は時間の経過と共に収まっていった。

 ベアボック外相の発言について、ドイツ国内の反応はいたって冷静だ。ショルツ首相(社会民主党=SPD)はコメントしていないが、ヴォルフガング・ビュシュナー政府副報道官は、「明らかな点は、中国が共産主義の一党制で統治されていることであり、これは民主主義の理念には合致しない」と説明している(独週刊誌ツァイト・オンライン9月18日掲載)。

 このコラム欄で紹介したが、SPD、緑の党、自由民主党(FDP)の3党から成るショルツ連立政権の中で、ベアボック外相の外務省とショルツ首相の首相府との間で対中国政策では常に対立してきた。例えばハンブルク港のコンテナターミナルの運営会社に中国国営船会社Coscoが参入する問題ではベアボック外相は反対したが、ショルツ首相は最終的には中国側が取得する株式の割合を落とすことで承認した経緯がある(「独『首相府と外務省』対中政策で対立」2023年4月21日参考)。

 「緑の党」は、ロシア軍のウクライナ侵攻(2022年2月24日)以来、従来の平和政党の看板を下ろし、ウクライナへの武器供与を積極的に支持、過去の対ロシア関与政策の見直し、厳格な対中政策などを実施してきた。ベアボック外相は、「SPD主導の過去の対ロシア、対中国政策を2度と繰り返すべきではない。その外交路線はドイツをロシア、中国に依存させる結果となり、わが国を恐喝することを可能にさせてきた」と発言しているほどだ。

 ドイツの対中国政策では、FDP党首のリンドナー財務相も厳しい。同財務相は4月末に開催された党大会で、「ドイツ経済は中国からの経済的自立を推進していかなければならない」と指摘し、ドイツ政府の過去の中国政策を「間違いだった」とはっきり述べている(ドイツ民間ニュース専門局ntv)。そのこともあってか、5月開催予定のドイツ・中国間の政府間協議が延期されたことがあった(「リンドナー独財務相の『中国体験談』」2023年5月10日参考)。

 ちなみに、FDP所属のシュタルク=ワッツィンガー連邦教育・研究相が3月21日、ドイツ連邦政府メンバーとして1997年以来26年ぶりに台湾を訪問した。駐独中国大使館は当時、「国家主権と領土保全、そして中国の核心的利益を守るという中国の決意を過小評価してはならない」と警告を発したほどだ(ドイツ連邦議員団が昨年秋、既に台湾を訪問している)。

 ドイツは輸出大国であり、中国はドイツにとって最大の貿易相手国だ。例えば、ドイツの主要産業、自動車製造業ではドイツ車の3分の1が中国で販売されている。2019年、フォルクスワーゲン(VW)は中国で車両の40%近くを販売し、メルセデスベンツは約70万台の乗用車を販売している。昨年第4四半期以来、マイナス成長を続けるドイツ国民経済は目下、リセッション(景気後退)にある。それだけに、中国側がベアボック外相の発言を受けて、ドイツに対して経済制裁のカードをチラつかせる可能性も考えられる。

 中国では1949以来、中国共産党が統治している。自由な選挙や「言論・報道の自由」、三権分立、法の支配は存在しない。習近平国家主席は3期目の任期を獲得し、中華人民共和国の創設者・毛沢東と同じように終身指導者の道を歩みだしてきた。どうみても、習近平氏は独裁者のカテゴリーに入るといわざるを得ない。事実だけに他国の政治家から指摘されれば、怒り出したくなるわけだ。ベアボック外相発言に対する中国側の異常な反応はその事を端的に物語っている。

「メイド・イン・ジャーマ二ーの落日」?

 2024年度の財政予算に関する議会審議で6日、ドイツのショルツ首相は与野党、地方自治体の首長に向かって自称「ドイツ協定」を提案し、停滞する国民経済回復のために「一体化」を呼びかけた。3日のジョギングで倒れて右目を負傷し、眼帯をつけながらベルリンの連邦議会の演壇に立った首相は厳しい姿勢で話しかけた。

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▲連邦議会の財政予算審議で語るショルツ首相(2023年9月6日、独連邦議会公式サイドから)

 ショルツ首相は、「われわれはこれまで以上にテンポを加速し、国民経済の近代化、堅実な経済を構築していかなければならない。国民はわが国が再生することを願っている。私も願っている。争って時間を浪費している場合ではない」と、キリスト教民主同盟(CDU)の議員席の最前列に座るメルツ党首に目をやりながら語り掛けた。その語調は、海賊船のキャプテンのような力強いものだった。

 独週刊誌ツァイト(電子版)で6日、フェルディナンド・オットー記者は、「国民や与野党に向かって一体化が必要だという訴えは、取りも直さず現政権の無力さを認めることになる」と早速、辛辣に論評している。そして「お互いに、尊重し合い、支え合う―これらはショルツ首相の議会活動の特徴的な用語だ。ドイツ協定も同様だ。それらは複数形でのみ正常に機能する。多くの社会的孤立傾向に対抗するため、首相は新しい『私たち』を提案している」と分析する。

 財政予算を議会で審議する時、通常は与野党間の激しい対決が予想されるが、ショルツ首相はそれに先駆け、「対決している時ではなく、団結すべきだ」と主張し、それを「ドイツ協定」と呼んで、与野党、州、地方自治体の首長に政府と一体化を呼び掛けたわけだ。

 オットー記者は、「ショルツ首相にとって予算はあまり重要ではないのだ。ショルツ連合政権(信号機政権)は自身の政策に対する造語や効果的な見出しを作るのが得意だ。成長機会法、ドイツ・テンポなどの造語、キャッチフレーズを生み出し、今度は『ドイツ協定』を結ぶというのだ」と、首相の提案を冷ややかに受け取っている。

 具体的には、クリーンで安全かつ手頃な価格のエネルギー供給、現代的なデジタルインフラ、迅速で効率的なデジタル行政、強力な企業、そして停滞しつつある住宅建設などの促進を挙げている。ショルツ首相は、「国民はこの停滞にうんざりしている。私もだ。私たちは一体となることによってしか数十年にわたって私たちの国を覆ってきた官僚主義とリスク回避のカビを振り落とすことができない」と強調した。

 ショルツ首相の演説は新しい政策を提示するのではなく、精神論が中心だ。なぜならば、対策自体、既にテーブルに乗せられているからだ。問題はそれを如何に成功裏に実行するかだ。ショルツ首相はそのために、政治家、指導者の考え方のチェンジを求め、対決ではなく、一体化というわけだ。逆にいえば、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FPD)という政治信条も政策も180度異なる3党の連立政権の行政能力は困難に瀕しているといえるわけだ。その意味で、オットー記者のショルツ首相の演説分析は正鵠を射ている。

 英国の週刊誌エコノミストはドイツの国民経済の現状を分析し、「ドイツは欧州の病人だ」と診断を下したが、ドイツの国民経済は過去3期の四半期の経済成長はいずれもマイナス成長だった。経済統計上、ドイツはリセッション(景気の後退)に陥っているといえるわけだ。

 ドイツ国民経済は今年第1四半期の成長率がマイナス0・1%だった。前年第4四半期の成長率マイナス0・4%だったので、連続2期でマイナス成長を記録した。そして今年第2四半期の成長率は前期比でマイナス0・2%だったのだ。

 エコノミスト誌の報道を受け、ドイツの週刊誌フォークスは8月25日付のオンライン版で、「ドイツは再びヨーロッパの病人か」という見出しで報じていた。フォークス誌によると、多くの経済学者は現在、今年の経済成長率はマイナスに陥ると予測し、「欧州最大の経済大国ドイツの国民経済は停滞と景気後退の狭間にある」と指摘している。

 昨年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、ロシア産天然ガスの輸入に依存してきた欧州諸国、その中でも70%以上がロシア産エネルギーに依存してきたドイツの産業界は再生可能なエネルギーへの転換を強いられるなど大きな試練に直面している。ショルツ政権が推進するグリーン政策に伴うコストアップと競争力の低下は無視できない。そして外国からの需要は低迷し、商品とサービスの輸出は前四半期比で1・1%減少し、輸入も停滞している。ドイツの産業界は専門職の労働力不足で生産性にも影響が出てきている。高いインフレ率とそれに伴う国民の消費・購買力の低下、失業率と労働市場の悪化がみられる。

 ドイツ民間ニュース専門局ntvは6日、「メイド・イン・ジャーマニー(Made in Germany)はもはや廃れてしまったのか」というテーマで経済界の要人たちに聞いていた。ドイツは日本と同様、輸出国だが、世界経済の低迷、特に、中国経済の低成長もあって、外国貿易が不振だ。

 ドイツは久しく輸出大国として君臨してきた。その頂点には「メイド・イン・ジャーマニー」の表示が品質を証明するものとして受け取られてきたが、その呼称が輝きを失ってきているというのだ。

 参考までに、欧州最大の自動車展示会「ミュンヘンIAAモビリティ」が4日から開催中だが、世界のトップメーカーが最新の電気自動車(EV)を展示していた。ドイツの自動車ジャーナリストは、「自動車メーカーは新しい時代に入ろうとしている。展示場では中国のEV大手、BYDが新たな2車種を展示し、欧州のEV市場に本格的に進出してきた。EVの最新の技術ではアジア系メーカーが目立つ」と述べていた。具体的には、充電時間の短縮、航続距離の延長、そして価格争いでメイド・イン・ジャーマニーのEVは激しい競争にさらされている、というのだ。

海賊船長に変身した独首相

 ドイツのショルツ首相が2日、ポツダムでジョギング中に転び、右目を傷つけ、顔面を負傷したというニュースが流れてきた時、ジョギング中に顔面を負傷するという状況が少しピンとこなかった。80歳の高齢のバイデン米大統領が演説後、躓いて倒れたり、飛行機のタラップから降りる時、躓いて倒れそうになったシーンはよく観てきたが、65歳と若いショルツ首相は倒れた時、先に手をついて顔面を守らなかったのだろうか、それとも、顔面を直接地べたにぶっつけたのだろうか、等々と考えた。

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▲「海賊首相」に変身したショルツ首相(ドイツ民間ニュース専門局ntvからスクリーンショット)

 暫くすると、右目に眼帯をつけ、目の周囲に擦り傷をつけた首相の写真が流れてきた。同時に、インターネット上では、眼帯を付けたショルツ首相の写真が拡散し、大ヒット。コメントには「海賊首相」、「海賊政党」といった見出しまで飛び出していた。

 面白いことに、眼帯をつけたショルツ首相はきわめて上機嫌で、笑顔を見せながらカメランマンたちの要求に応じていたのだ。まるで眼帯を付けた海賊船のキャプテン・キッド役をもらってはしゃいでいる子供のようにだ。ショルツ氏は自身のインスタブラムに眼帯をし、顔に擦り傷を負った写真を載せ、「ミームを楽しんでいる」と書きつけているのだ。

 グーグルでサーチすると、「ミーム(meme)」とは主にインターネットを通じて拡散、模倣、再生産される画像や動画などの情報、それを利用する文化を指す。笑いや共感を得ることを目的としたものが多い」と説明されている。ドイツ民間ニュース専門局nTvは「首相の眼帯写真はミームの波を起こした」と報じていた。

 ドイツ国民経済がマイナス成長でリセッションにあること、世論調査ではショルツ連立政権は野党の「キリスト教民主・社会同盟」(CDUCSU)や極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の後塵を拝しているといったことを忘れてしまったように、ショルツ首相の周囲には明るい雰囲気が漂っている。ミームを楽しんでいるのだ。

 インターネット上で眼帯の写真が人気を呼んでいることに気分を良くしたのか、首相広報官によると、「ショルツ首相は今週の日程は全て予定通りこなす」というのだ。眼帯姿の自分を売り出すわけだ。

 ショルツ首相は65歳で外貌は頭髪は無く、身長は170センチとドイツ人としては低い。会議で欧米諸国の首脳たちと並ぶと、フランスのマクロン大統領と共に背が低い。国内でもハベック経済相やリンドナー財務相など長身で見ばえのいい政治家と並ぶとちょっと見劣りする。その首相がジョギング中、転び、眼帯をしてから俄然と人気が上がってきた。不幸中の幸い、というべきだろうか。

 普段は嫌な質問をして困らせたいと考えている記者たちも、眼帯姿で笑顔を見せるショルツ首相を見ると、同じように笑顔を返し、「首相、眼帯が似合いますね」といった冗談の一つでも飛ばしたくなるのだ。

 「ミームの波」といえば、トランプ前大統領が8月24日、ジョージア州アトランタの拘置所に出頭し、被告人として写真を撮影されたが、米大統領経験者の初の拘置所での写真というニュースが報じられると、その数日後、厳しい目つきをしたトランプ氏の写真はトランプファンの間で人気を呼び、写真をコピーしたTシャツや小物が大売り上げを記録。その一方、トランプ嫌いの人は牢獄のトランプに写真を変えて楽しむ。その結果、トランプ氏は巨額の収入を得て大統領選の費用を稼いだという。ネガティブをポジテイブに変える才能を有するトランプ氏らしい。いずれにしても、被告人トランプ氏の写真は“ミームの波”に乗って広がっていったわけだ。

 参考までに、ショルツ首相関係者によると、右目周辺の傷跡はまだ痛むという。一方、トランプ氏は近い将来、裁判で自身の是非が問われることになる。両者とも本来は笑いごとではないのだ。にもかかわらず、インターネット世界に出回った写真は笑いと共感を広げている。ミームの波が起きることで、そのコンテンツや情報はその濃度を変えていき、いつの間にか事件の核心を忘れさせていく。この現象を“ミームの汚染”と呼ぶという。
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