ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ドイツ

ベルリン市で4日間のブラックアウト

 都市に電気を送っている送電塔が爆発されれば、その周辺は停電となり、厳冬の中、人々は暖房や電気がないといった状況に陥る。数時間で停電が回復する場合もあるが、それが4日間も続くとなれば、国にとっても緊急事態だ。それが新年早々、ドイツの首都ベルリンの南西部で発生した。

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▲災害救援・人道支援組織の独連邦技術支援庁(THW)、2026年1月6日、THW公式サイトから

 ドイツの首都ベルリン南西部で3日の朝、4万5000世帯と2200の事業所が停電に見舞われた。カイ・ウェグナー市長によると、停電の影響を受けた人は約10万人に上る。ベルリン市は4日に非常事態を宣言した。冬の寒さのため、電力復旧作業は遅々として進まず、多くの世帯が停電のために暖房も使えなくなった。

 7800人の警察官が住民の支援と保護のために派遣され、隣接するブランデンブルク州からも支援隊1500人が動員された。消防署と連邦技術支援庁(THW)は、ノルトライン=ヴェストファーレン州からの支援を含め、2500人以上の人員を現場に派遣した。ドイツ連邦軍(Bundeswehr)も関与した。

 1月7日の朝、全世帯への電力供給がようやく復旧した。予定より1日早く回復したことになる。ベルリンのイリス・シュプランガー内相は10日、1週間前に宣言された非常事態を解除した。

 電力系統運営会社によると、今回の停電は戦後首都圏で最長となった。昨年9月には、市南東部で放火事件が発生し、約60時間にわたる停電が発生した。この停電では、当初約5万人の電力顧客が影響を受けた。

 ところで、左翼過激派グループ「火山グループ」が犯行声明を発表したが「火山グループ」は、捜査当局に以前から知られている。同グループは2011年以降、主にベルリンとブランデンブルクで公共インフラへの放火を繰り返している左翼過激派だ。

 「火山グループ」という名称は、アイスランド南西部のレイキャネス半島の火山爆発で世界の航空便に大きな影響が出たことをみて、極左過激派が自身のグループ名に「火山」という名称を付けたとみられている。彼らは鉄道インフラや送電網を複数回攻撃した疑いがある。2024年3月、ブランデンブルク州のグリュンハイデという町にあるテスラ工場で電気を送る送電塔が放火され、生産が停止されるという事件が起きた。その時も、「火山グループ」が犯行声明を出している。カールスルーエ連邦検察庁はドイツの最高法執行機関の観点から、違憲の破壊工作、テロ組織への関与、放火、公共サービスの妨害の疑いがあるとして捜査を引き継いだ。

 今回、4日間の停電となり、影響を受けたベルリン市民は寒さの中、電気のない大規模停電(ブラックアウト)を強いられた。自宅ではなく、避難所に宿泊した市民がカリタスらの慈善団体が用意したスープなど温かい飲食物を受け取っているシーンがニュース番組で放映されていた。

  ベルリン南西部の送電網への放火事件を受け、アレクサンダー・ドブリント内相はビルト日曜版とのインタビューで、左翼過激派と過激な環境活動家への取り締まりを強化する意向を表明した。具体的には、諜報機関の人員増強に加え、現場をより綿密に精査し、デジタル証拠をより迅速に追跡するためのデジタル権限の拡大が含まれている。また、重要インフラ保護法(Kritis-Dusseldorfer-Gesetz)の強化だ。同法はエネルギー会社、空港、その他の主要インフラ施設を破壊行為、テロ攻撃、自然災害の影響からより強力に保護することを目的としている。事業者は、停電の可能性に備えることも義務付けられている。

 ところで、ウェグナー市長は市民が停電の中で生活している時,女性とテニスをしていた、ということが明らかになり、メディアから激しいバッシングを受けている。ドイツ民間放送ニュース専門局NTVによると、「壊滅的な停電の最中、ウェグナー市長は凍えるベルリン市民にろうそくを配る代わりに、数球のボールを打っていた。そして自宅オフィスに閉じこもっていたと嘘の主張をした」というのだ。この秋、ベルリンで選挙が実施されるが、「キリスト教民主同盟」(CDU)のウェグナー市長は災害時の行動が原因で苦戦するだろう、といった具合だ。

 災害時の対応がまずく、メディアから批判にさらされた政治家はドイツではウェグナー市長が初めてではない。2021年7月、大洪水の被災地を視察した当時CDU党首で次期首相候補者のアルミン・ラシェット氏は災害地で同僚と冗談を言い合い笑っている様子がテレビカメラに捉えられ、批判された。災害地での笑いはラシェット氏には高くついた。同氏の政治家としての評価は低落したのだ。ウェグナー市長もそのことを思い出しているのではないか。

 NTVは「政治家は災害時、その行動、ふるまいを慎重にしなければならない。そのことをしっかりと認識すべきだ」と助言している。

エンジン車禁止の撤廃は中国にプラスか

 欧州連合(EU)欧州委員会は16日、2035年から予定していたガソリン車などエンジン車の新車販売禁止措置を見直す方針を発表した。再生可能燃料の利用や低炭素鋼材の活用などによる排出削減を条件に、2035年以降に新規登録される車両について、自動車メーカーのCO2排出量目標として、従来の100%削減ではなく、90%削減が義務付けられる。自社の新車全体で平均90%削減が達成できればエンジン車やハイブリッド車(HV)の販売を認める。2040年以降も100%削減目標は設定されないという。

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▲内熱機関車の新車発売禁止阻止を撤回した欧州委員会、2025年12月16日、欧州委員会公式サイトから

 EUが温暖化対策の柱として掲げてきたエンジン車(内燃機関車)の新車販売禁止を破棄することを決めたことに、自動車製造王国のドイツでは歓迎する一方、懸念する声も聞かれる。「輸出大国ドイツ」の看板を長い間支えてきた自動車産業界は今、揺れている。

 ドイツの自動車産業、特にフォルクスワーゲンやBMW、ダイムラーなどは長らく内燃機関車を主力としてきたが、近年の気候変動に対する懸念から、世界的に電動車(EV)へのシフトが加速している。特にヨーロッパでは、EUが厳しい排出基準を課し、2035年までに新車の内燃機関車販売を禁止する方向に進んできた。テスラなどのアメリカ企業や、中国のBYDといった電動車に特化した新興メーカーに先行を許し、ドイツの自動車メーカーは電動化シフトで遅れてきた。

 ドイツ車の最大の購買先は中国市場だが、中国政府が国内の電動車メーカーを保護する政策を強化してきた。中国の自動車メーカーも技術と品質を急速に向上させているため、ドイツの自動車メーカーにとって中国市場の競争が一段と厳しくなってきている。特に電動車の分野で中国勢が急速に成長していることから、ドイツのメーカーはシェアを失ってきた。

 16年間続いたメルケル政権時代、メルケル首相(当時)は12回、ドイツの経済界、特に、自動車メーカーのトップを引き連れて訪中した。中国はドイツにとって最大の貿易相手国だからだ。例えば、ドイツ車の3分の1が中国で販売されていた。2019年、フォルクスワーゲン(VW)は中国で車両の40%近くを販売し、メルセデスベンツは約70万台の乗用車を販売した(「輸出大国ドイツの『対中政策』の行方」2021年11月11日参考)

 欧州委員会の今回の決定には、ドイツ、イタリアなどの自動車メーカ―を抱える国々から圧力があったことは間違いない。自動車業界の専門家たちは独民間放送ニュース専門局NTVとのインタビューで、「EUと自動車メーカーは時間を稼いだと考えているが、実際は、中国メーカーは競争力をさらに強化するための時間を得たことになる。内燃機関の段階的廃止の終了は、ドイツの自動車メーカーにとって短期的にはプラスとなるが、長期的にはマイナスだ。なぜなら、内燃機関への多額の投資が継続され、その資金が電気自動車に回らなくなるからだ」と主張している。

 NTVは「内燃機関車禁止の撤廃は中国への贈り物」という見出しで、「電気自動車において極めて重要な役割を果たすバッテリーにおいて、中国メーカーの優位性はさらに拡大する可能性が高い。ドイツの自動車メーカーは、世界市場における主導的地位を維持するために、特にバッテリーセルにおいて、早急に追い上げを図る必要がある。さもなければ、自動車業界における世界的な競争に負けてしまう。現在、ドイツの電気自動車は、中国メーカーの製品と同等の品質を実現するにはあまりにも高価すぎる。イノベーションと必要な投資が早急に必要だ」と報じている。

 いずれにしても、EUが2035年以降、新しい内燃機関を厳しく禁止しなくても、「今後10年間でeモビリティが主流になる。内燃機関の禁止解除されたとしてもそのトレンドは変わらない」という予測が専門家の間では支配的だ。

 なお、欧州自動車工業会(ACEA)によると、EU内で2025年1月から10月の新車登録台数累計は前年同期比で1.4%増、そのうち電気自動車の市場シェアは16.4%だった。

独「年金改革法案」と新「兵役法案」可決

 ドイツ連邦議会(下院)で5日、2件の重要な法案、「年金改革法案」と新たな「兵役法」が可決された。国民から指導力と統率力の不足を指摘されてきたメルツ首相にとって、大きなハードルをクリアした。連邦参議院(上院)で可決されれば、いずれも来年1月から実施される予定だ。

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▲年金給与の財源で苦しむドイツ、ドイツ連邦議会公式サイトから、

 連邦議会で5日、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)によるメルツ連立政権が提出した「年金改革法案」が、数ヶ月に及ぶ議論の末、絶対多数で可決された。

 ラメロウ連邦議会副議長によると、賛成318票、反対224票、棄権53票で過半数316票を辛うじて上回った。採決前、メルツ首相(CDU)は、「首相の過半数」(Kanzlermehrheit) である316票を目標にしてきた。連立政権は、下院定数630議席のうち328議席を占めている。連邦参議院(上院)が12月9日に同改正法案を承認すれば、法案は1月1日に発効する。

 ドイツは日本と同じように。急速な高齢化により、法定年金のコストは年間約3600億ユーロ(約65兆円)、国内総生産(GDP)比8%となっている。年金給付の財源は給与税の税収だけでは賄えず、ドイツは昨年、社会保険制度全体で960億ユーロの不足分を補うために一般税収に手を付けることを余儀なくされてきた(ウォール・ストリート・ジャーナルから)。

 「年金改正法案」に関する議論が高まった背景には、CDUの若手連合(Young Union)のパスカル・レディグ議員が「政府の法案は私の根本的な信念に反する」として反対票を投じる意向を表明するなど、18人の若手同盟議員が政権が提出した改革の主要部分を批判、採決で政府の改正案が否決される可能性が出てきたことがある。

 CDUから18人の議員が反対に回れば、同改正法案は実際に過半数割れで否決される危険性があった。そうなれば、CDU/CSUとSPDの連立政権は再び崩壊の危機に直面することになる。ちなみに、採決の結果(点呼投票)は、SPD議員は120人全員が賛成し、CDU・CSUからは7人が反対、2人が棄権、1人は無投票だった。

 若者連合の18人の議員は、2031年まで公的年金を現行水準に維持することを目指す同法案が若い世代にとって大きな負担となると懸念してきた。主要条項では、2031年まで標準年金支給額を平均給与の48%に維持することが保証されている。

 SPDは同改正案の可決を歓迎し、「同改正案は社会福祉公約の復活」と捉えている。ベビーブーマー世代の退職移行は税収によって支えられることになっており、その費用は2032年だけで約110億ユーロに達する。なお、SPDのマティアス・ミールシュ院内総務は「連立政権は依然として政権運営能力があることを示した」と述べた。ちなみに、メルツ首相は同法案が可決されたことで、SPDとの政権危機が回避されたとし安堵の表情を見せていた(「オーストリア国営放送=ORF」の中継から)。

 連邦議会は同日、連邦軍(Bundeswehr)の強化を目的とした「新たな兵役法」を可決した。同法は主に志願制をベースとした兵力の大幅な増強を盛り込んでいる。来年以降、18歳になる男子全員に適性検査を義務付ける。新兵が不足する場合は、更なる立法府の決定を経て、義務的な兵役を導入することが可能となる。誰が義務的な徴兵の対象となり、どのように公平に実施されるかという問題は、まだ明確にされていない。兵役法は2026年1月に施行される予定だ。従来の徴兵制度は2011年に停止された。

 ピストリウス国防相は、採決に先立ち、「新たな兵役法はドイツの国防力にとって決定的な一歩だ。この法律の目的は、現役兵数を2035年までに現18万3000人を25万5000人から27万人まで増加させることだ。さらに20万人の予備兵を募集する予定だ。これは、ロシアによるウクライナ侵略戦争の開始以来、脅威レベルが高まっていることが理由だ」と説明。
 北大西洋条約機構(NATO)の目標は、ドイツの総兵力を現役26万人、予備役20万人の計46万人とすることだが、現在の兵力は現役18万3000人、予備役4万9000人の計23万1000人にすぎず、目標には程遠い

 新たな兵役法は人員増強の目標範囲を設定し、現役兵と志願兵を区別している。現役兵は即戦力であり、より長い訓練が必要。国防省は2027年以降、6ヶ月ごとに志願兵数の内訳を議会に提出する必要がある。連邦議会は必要に応じて徴兵を宣言することができる。

 なお、ピストリウス国防相は「徴兵制は最後の手段だ。魅力的な兵役制度の設計に重点を置く。北欧では、志願兵制と魅力的な兵役制度の組み合わせが機能している。我が国でも同様の結果が得られると期待している」と楽観的だ。

 メルツ首相は、敵対的なロシア軍への対応と米軍の欧州からの撤退を想定し、装備が不十分なドイツ連邦軍を強化、軍事費を大幅に増額して「欧州最強の通常軍」にすると表明している。


独与党は「もっとキリスト教カラー」を

 ドイツ民間放送ニュース専門局NTVは11日、政治的動向調査の結果を公表したが、それによると、メルツ政権の与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSD)の支持率は24%で野党第1党の極右「ドイツのための選択肢」(AfD)に依然2ポイント差をつけられている。この傾向はメルツ政権発足後から続いている。

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▲「もっとCを」と呼び掛けるCDU元党首アルミン・ラシュット氏、2025年8月10日、ドイツ・カトリック通信から

 ドイツの政界では選挙が行われるたび得票率を伸ばすAfDの躍進にどうしたらストップをかけられるかが、CDU/CSUばかりか社会民主党(SPD)や「緑の党」にとって久しく大きな課題となってきた。ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)がAfDを危険な団体として監視対象に指定した後もAfDの躍進は続いているのだ。

 メルツ政権が政権発足後最初に取り組んだのは厳格な移民・難民政策の実施だ。なぜならば、AfDが国民の支持を得る最大の理由は、AfDの厳格な移民政策にあるからだ。そこでメルツ政権は国境の監視の再実施、不法な移民・難民の強制送還などを実施してきた。AfDからは「CDU/CSUは第2のAfDとなった」と冷笑され、「AfDの移民政策が正しいことを証明した」と言われる羽目となった。

 メルツ政権の移民政策はそれなりの成果を挙げているが、AfDの躍進をストップすることはできていない。アフガニスタンやシリアからの移民の強制送還では与党内で意見の対立が生まれるといった事態が生じた。ちなみに、移民・難民政策はドイツが国レベルで解決できるテーマではなく、欧州連合(EU)加盟国内の統一政策が不可欠となる。

 ところで、、CDU・CSUの本来の支持基盤はキリスト教会だが、教会は現在、存続の危機に直面している。社会の世俗化、聖職者の未成年者への性的虐待問題などに対峙し、キリスト教会は国民の信頼を失ってきている。社会学者エドガー・ヴンダー氏によると、25年後にはドイツ国民の約5分の1しか主要教会(新旧両キリスト教会)に所属していないだろうという。同氏は「現在の傾向が続けば、2050年までに二大教会のいずれかに所属する人口はわずか20%程度になるだろう」というのだ。

 欧州では「政教の分離」を基本とする国が多いが、混迷する時代に遭遇し、人々は未来への不安が高まっている時だ。政治家だけではなく、宗教者も積極的に人々に話しかけるべきだという主張が出てきても不思議ではない。

 例えば、CDU関係者から「わが党はキリスト教の価値観を政治信条としている政党だ。もっと政治活動にキリスト教色(C)を反映すべきだ」という声が出てきた。CDU元党首のアルミン・ラシュット氏は「たとえ論争を巻き起こすとしても、教会は関与すべきだ。キリスト教をより積極的に公に表現すべきだ。政治活動でも同様だ。もっとキリスト教カラーを取り入れるべきだ」というのだ。

 実際、CDUは昨年5月の党大会で新たな党綱領を採択した。その際、CDUのキリスト教的側面を表す「C」について広範な議論が交わされた。

 党大会に参加したキリスト教連合福音派作業部会(EAK)のトーマス・レイチェル議長は、「私たちキリスト教民主党員にとって、人類は神によって神の似姿に創造された。出自、肌の色、性別に関わらず、すべての人の尊厳は侵すべではない。さらに、私たちの政治は、神と人類に対する責任に基づいている。これがキリスト教民主党の特質である」と述べている。

 採択された党綱領でも、このことが明確に示されている。「キリスト教民主党の政治の基盤は、キリスト教的な人間観だ。その核心にあるのは、すべての人間の、侵すべからざる尊厳だ。神によって創造されたすべての人間は、唯一無二の存在であり、侵すべからざる存在であり、自由に、そして自律的に生きるべきだ。この人間観が、私たちの政治行動の指針となる」と記されている。

 党大会から1年以上が経過した。CDU内では「もっとCを」(もっとキリスト教カラーを)という声がさらに高まってきた。興味深い点は、CDU内の「もっとC」という叫びはトランプ政権からの影響が少なからずあることだ。トランプ米大統領は自身の政権下に信仰局を設置し、「信教の自由」を重視する政策を行ってきた。その波動を受け、欧州でも政治的には右派傾向が強まる一方、宗教の役割を再評価する政治的動きが出てきているのだ。

独外相がシリアで見た「不都合な現実」

 ドイツのメルツ政権の重要な課題は停滞する国民経済の回復と共に不法な移民、難民問題の解決だ。メルツ政権は発足後、国境監視を強化する一方、国内の不法な移民、難民を強制送還してきた。メルツ政権の強硬な難民・移民政策はメルケル政権(在任2005年11月〜2021年12月)の難民ウエルカム政策からの完全な決別を意味すると受け取られている。

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▲シリアの首都ダマスカスを訪問したドイツのワーデフール外相、2025年10月31日、シリアSANA通信から

 ところで、ワーデフール外相が先月31日、訪問先のダマスカスでの記者会見で「多くのインフラが破壊されているため、シリア人の帰国は現時点では非常に限定的な範囲でしか考えられない。短期的には、多くのシリア人が自発的に帰国しようと動かされることはないだろう」と述べた。

 外相のダマスカスでの発言が報じられると、メルツ首相の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)や姉妹政党「キリスト教社会同盟」(CSU)から「外相の発言は政府の難民政策に反している」といった批判の声が出てきた。ベルリンでシリア人の男性がテロ攻撃を計画した疑いで逮捕されたばかりだったこともあって、外相の「シリア人の帰還は難しい」発言は与党関係者に強い反発を引き起こした。

 ザクセン=アンハルト州のCDU党首スヴェン・シュルツェ氏は「帰還先の国が部分的に破壊され、生活環境がドイツよりも劣悪だからといって、シリア難民の送還を控える理由にはならない」と反論している。また、テューリンゲン州のマリオ・フォークト首相(CDU)は「内戦終結後、人々が家を再建できるよう支援することが重要だ。送還はこれを実現するための正しい方法だ」と語った。

 ドイツの場合、シリアからの難民の送還が大きな課題となってきた。強制送還の対象は犯罪歴のあるシリア人のほか、失業者も含まれる。CDU/CSUと社会民主党(SPD)間で締結された連立協定は「ドイツはシリアへの強制送還を最終的に再開すべきである」と規定している。内戦が終焉し、半世紀以上続いたアサド独裁政権が昨年12月崩壊した現在、、スンニ派アラブ人がシリアに帰国しない理由はもはやないというわけだ。

 ちなみに、欧州連合難民庇護機関(EUAA)が9月8日発表したところによると、EU内の今年上半期(1月〜6月)の難民申請件数が、前年同期比で大きく減少した。難民申請件数が急減した最大の理由は、シリアのアサド政権の崩壊だ。内戦から逃れたシリア人が一時期、欧州に殺到したが、アサド政権の崩壊で欧州に逃避するシリア人は減少した。シリア人は過去10年間、難民申請者の中で最大グループだったが、シリア人の難民申請者はここにきて3分の2減少し、2万5000人となったという。

 ドブリント内相(CSU)は3日、マンハイムで開催された市町村会議の開会式で、「連立協定を厳格に遵守し、シリアへの送還準備を進めている。ドイツでは既にアフガニスタンへの犯罪者の送還を開始した。また、定期便による定期的な送還の実施にも取り組んでいる」という。

 なお、ドブリント内相は、(移民・難民を受け入れる)地方自治体への負担を挙げ、「私たちは限界に達した。公共広場や駅だけでなく、特に保育所や学校、住宅市場、医療制度の状況を見れば明らかだ」と付け加えた

 メルツ首相はキールでの記者会見で、「ワーデフール外相は国外追放に反対するとは言っていない。外相はダマスカスの一部地域を訪問し、そこは甚大な被害を受けただけでなく、一部に地雷が埋まっていた、と説明しただけだ。それを『シリアへの強制送還は事実上不可能だ』と発言したと誤解されている」と指摘している。

 ここで明確に区別しなければならない点は、「帰還」と「送還」の違いだろう。「帰還」はあくまでも自発的に行われるものであり、「送還」は法に基づく義務を意味するからだ。戦火で荒廃したダマスカス郊外を視察したワーデフール外相は、「シリアでは人々が尊厳を持って暮らすことはほとんど不可能だ。だから、シリアの現状ではドイツからの自発的な帰還件数は少なくなる」という現実を指摘しただけで、「強制送還を止めろ」とは言っていない。犯罪者や危険人物の送還では完全に一致しているからだ。

 ドイツには約95万人のシリア人が滞在している。同外相の発言が誤解された背景には、移民・難民政策がドイツではデリケートな問題だからだ。ドイツでは登録住所に住み、仕事を持ち、子供を学校に通わせている人々、つまり社会にうまく溶け込み、規則を守っているシリア人が国外追放されるケースも出てきているからだ。

 メルツ首相は「シリア内戦は終結した。ドイツには難民を受け入れる根拠は全くない」と述べ、シリアのアハメド・アル=シャラア大統領をベルリンに招き、この問題について協議する予定だという。シャラア大統領は欧州に避難したシリア人の帰還を歓迎している。

ドイツ元首相「メルケル氏の弁明」

 ドイツで16年間も首相の座に君臨した政治家が引退した場合、その政治家の言動は引退後も機会がある度にメディアで報じられても不思議ではない。政界のトップから降りた後も名誉職や院政で後の政権に影響を行使するというケースはよくあることだ。ドイツのアンゲラ・メルケル氏(71)の場合、首相退陣後、その発言がメディアを飾ることが驚くほど少ない。それなりの理由はある。

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▲独週刊誌「シュピーゲル」の表紙(2024年11月23日号)を飾るアンゲラ・メルケル元独首相

 政界から退陣した政治家の常でメルケル氏も昨年11月、回顧録を出版した。700頁に及ぶ回顧録の中で16年間の首相としての体験談や会合した政治家への評価のほか、人生35年間を過ごした旧東独時代への思い出などが綴られている。

 ところで、メルケル首相は10月1日、ハンガリーの首都ブダペストを訪れ、自身の回顧録のハンガリー語版のプロモーションを行った。同時に、ハンガリーのポータルサイト「パルチザン」のインタビューを受けている。問題はそのインタビューの中でのメルケル氏の発言が一部で批判を呼んでいるのだ。

 同氏は、ロシア軍のウクライナ侵攻の理由について、「開戦直前、プーチン大統領との対話を模索していたが、ポーランドとバルト3国が強く反対したこともあって、実現できなかった」という趣旨の発言をしたのだ。

 メルケル氏によると、2022年2月のロシアのウクライナ攻撃以前、EUとロシアのプーチン大統領とのより緊密な対話を望んでいた。同氏は2021年夏、フランスのマクロン大統領と共に欧州連合(EU)としてプーチン大統領と直接対話する新たな協議形式を模索していた。そのプロジェクトが実現できなかった責任はポーランドとバルト諸国にあったというのだ。

 メルケル氏は当時、「ミンスク合意」がもはや真剣に受け止められていないと感じていた。同時に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、プーチン大統領と直接交渉する機会がなくなり、将来の問題解決が難しくなったという。

 興味深い点は、メルケル氏は「新型コロナウイルス感染症が起きなかったら、プーチン大統領のウクライナ侵攻はなかったかもしれない。」と指摘していることだ。同氏によると、プーチン大統領はパンデミックを恐れて、2021年のG20サミットに参加しなかった。ゆえにプーチン氏と直接会う機会がなくなった。 意見の相違を直接会って解決できなければ、新たな妥協点を見つけることはできない。ビデオ会議では不十分だからだという。すなわち、ウクライナ戦争を誘発した最大の原因は中国武漢発の新型コロナウイルスだったという見解だ。新説だ。


 メルケル氏の発言に対し、エストニアのツァクナ外相は「メルケル首相の発言は言語道断で虚偽だ。ロシアが全面的な攻撃に踏み切った理由は、プーチン大統領がソ連の崩壊を受け入れられなかったこと、そして西側諸国が常にプーチン大統領と交渉しながらも、彼の行動を無視しようとしていたことだ。 2008年のジョージア戦争も、2014年のロシアによるクリミア併合も、欧州の主要国は強い反発をしなかった」と指摘した。

 ちなみに、メルケル氏は2008年のブカレストで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会談でウクライナのNATO加盟に反対している。ウクライナが当時、NATOに加盟できていたら、ロシアの侵攻はなかったかもしれない。メルケル氏は後日、ウクライナの加盟を阻止した張本人としてウクライナ側から批判を受けている。ゼレンスキー大統領はブチャ虐殺事件後(2022年3月)、「メルケル氏の2008年ブカレストでの加盟反対がこの結果をもたらした」と、名指しでメルケル氏を批判している。

 独週刊誌シュピーゲル(2024年11月23日号)とのインタビューで、ロシアのクリミア半島の併合(2014年)後もメルケル政権がロシアとの間の天然ガスのパイプライン建設(ノルドストリーム2)を継続したことについて、メルケル氏は「ドイツの国民経済に私は責任を有していた。安価なガスをロシアから得ることは経済的に重要だからだ。私がもし当時、ノルドストリーム2の操業中止を主張したとしても議会や産業界は支持しなかっただろう」と説明し、「政治的にもガスパイプライン計画は意味がある。それを通じて、ロシアは西側と同じような経済的享受を受けることができるようになるからだ」と説明し、ロシアとの関与を一切遮断することは正しくないという自論を展開した。

 いずれにしても、ドイツの政界ではメルケル氏はヘルムート・コール氏(任期1982年〜98年)と共に最長任期記録保持者だけに、短期政権だった政治家より弁明しなければならない問題が多く出てくるのは当然かもしれない。

「歴史」が投影する欧州のイスラエル政策

 ドイツのメルツ首相は18日、首相就任して以来初めてスペインを訪問し、サンチェス首相らと会談した。マドリードのモンクロア宮殿での会談後の記者会見では、ドイツとスペインのイスラエル政策の相違が改めて浮かび上がった。

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▲メルツ首相、スペインのサンチェス首相と会見,2025年9月18日、独連邦首相府公式サイトから

 ガザ戦争をめぐって、イスラエル批判の先頭に立つスペインのサンチェス首相は「明らかにイスラエル側のジェノサイドだ」と厳しく批判する一方、メルツ首相はパレスチナの人道的状況に同情を示しながらも、イスラエルとの連帯を強調、パレスチナ国家の承認問題ではフランスやスペインとは異なり、慎重な立場を貫いている。

 ドイツの場合、イスラエルに対して無条件で支援するという国家理念(Staatsrason)があって、それがドイツの国是となってきた。その背景には、ナチスドイツ軍が第2次世界大戦中、600万人以上のユダヤ人を大量殺害した戦争犯罪に対して、その償いの意味もあって戦後、経済的、軍事的、外交的に一貫としてイスラエルを支援、援助してきた経緯がある。メルケル元首相は2008年、イスラエル議会(クネセット)で演説し、「イスラエルの存在と安全はドイツの国是だ。ホロコーストの教訓はイスラエルの安全を保障することを意味する」と語っている。メルケル氏の‘国是‘発言がその後、ドイツの政治家の間で定着していった。
 
 メルツ首相は、ガザ地区の人道状況と、イスラエル軍によるガザ市への地上攻撃について、「我々は深い懸念を共有している。パレスチナ人の人道危機は受け入れることはできない」と批判。実際、ドイツは8月8日、イスラエルへの武器輸出を一時停止すると発表している。ただし、欧州連合(EU)の欧州委員会が進めているイスラエル制裁については、メルツ首相は同意していない。

 一方、スペイン政府はアイルランドと並び、ガザ紛争に関して、欧州諸国の中で最もイスラエル批判が強い。サンチェス左派政権は2024年、パレスチナをいち早く国家承認した。サンチェス首相は15日、イスラエル軍の軍事蛮行が停止されるまで、欧州内でのスポーツ、文化競技(例・次期ユーロヴィジョン歌謡祭)からイスラエルの参加除外を求めている、といった具合だ。
 
 ところで、なぜスペインは他の欧州諸国の中でもイスラエル批判を強めているのか。考えられる理由の一つは、スペインにはイスラム教文化が歴史的に根付いていることだ。

 スペインの位置するイベリア半島は、約800年間にも及ぶイスラム教の支配を受けてきた。西暦711年のイスラム勢力のイベリア半島侵攻から始まり、イスラム王朝の支配下で独自の文化が形成された。イスラム教徒、キリスト教徒、そしてユダヤ教徒が長期間共存し、多様な文化が入り混じり、盛んな文化交流が生まれ、後世のルネサンスの土台となった、といわれている。その結果、スペインにはパレスチナ人などイスラム系民族に対して敵対心は少なく、むしろ歴史的な親密感が定着していったのではないか。

 しかし、1492年にキリスト教国家であるスペインがイスラム王朝最後の拠点グラナダを陥落させ、レコンキスタ(国土回復運動)が実現し、スペインはキリスト教国家として統一されていく。

 ちなみに、スペインでは今日、イスラム教徒の数はローマ・カトリックに次いで第2の宗教で、全人口の約2.5%を占める。ドイツでは2020年時点でイスラム教徒の割合は人口の4.6%から6.7%と推定されている。ドイツのほうがイスラム教徒の数では圧倒的に多い。

 参考までに、スペインと共にイスラエルに対して厳しい政策を実施するアイルランドの場合、事情は少し異なる。フランスの「ル・モンド・デイプロマティ―ク」5月号は「アイルランドは、パレスチナ・イスラエル戦争の当初から、パレスチナ支援を表明している。英国による植民地の歴史が長く、イスラエルの抑圧を被るパレスチナに自らの姿を投影して共感を抱いているからだ」と解説している。

 なお、アイルランドは2024年5月22日に、ノルウェーおよびスペインと並んでパレスチナ国家を承認し、2025年1月6日には国際司法裁判所(ICJ)にジェノサイドでイスラエルを提訴した南アフリカに同調することを決めている。

 いずれにしても、ドイツ、スペイン、アイルランドの3国に共通している点は、自国の「歴史」がイスラエル政策に投影されている、ということだろうか。

ポーランド、独に巨額の戦争賠償金要求

 第2次世界大戦が終戦して80年が経過したが、戦争の痛みや被害が既に癒されたか否かは犠牲者の個々の事情によって異なってくるだろう。これは国にとっても当てはまることかもしれない。

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▲ナブロツキ大統領(左)を迎えるドイツのメルツ首相、2025年9月16日、独連邦首相府公式サイトから

 今年8月に大統領に就任したポーランドのナブロツキ大統領は16日、ドイツを初訪問し、シュタインマイヤー独大統領と会談したほか、メルツ首相とも会合した。初顔合わせだったが、42歳の若いポーランド新大統領はシュタインマイヤー大統領との会談ばかりか、メルツ首相との話し合いの中でもドイツ・ナチス政権による戦争賠償金を要求したという。1兆3000億ユーロの賠償金請求だ。

 独のメディアによると、シュタインマイヤー大統領もメルツ首相も隣国の新大統領に対してやんわりと拒否したという。ベルリンの大統領府の報道官によると、シュタインマイヤー大統領は「戦争時の賠償金問題はドイツの観点では法的に解決されている」と述べる一方、「しかし、戦争被害者に対する追悼や記念行事の促進は依然として共通の懸念事項である」と答えたという。

 ナブロツキ大統領は訪独直前、ドイツの大衆紙「ビルト」とのインタビューの中で、「賠償問題はまだ法的に解決されていない」と述べ、「ドイツが戦争賠償金として1兆3000億ユーロを支払うことを願っている。この額は非常に綿密で確固たる科学的研究に基づいてはじき出された数字だ」と説明している。

 ちなみに、大統領選でナブロツキ氏を支援した愛国主義的右派政党「法と正義」(PiS)は、政権時代にこの問題に関する議会委員会を設置し、同委員会は3年前、報告書の中で、賠償額を1兆3000億ユーロと概算している。

 ポーランドへのドイツの侵攻は1939年9月1日に始まり、ダンツィヒ(現在のグダニスク)近郊のヴェスタープラッテへの砲撃に先立ち、当時のドイツ・ポーランド国境付近に位置するヴィエルンはドイツ空軍によって爆撃された。この攻撃だけで約1200人の民間人が犠牲になった。戦争全体でポーランドでは約600万人が命を落とした。

 会談に関する政府副報道官の声明では、ナブロツキ氏の賠償要求については言及されていないが、「第二次世界大戦とドイツ占領の惨禍を経て、ポーランドとの和解を促進することは、ドイツ政府にとって歴史的な責務であり続ける」と述べられている。

 メルツ首相はナブロツキ大統領との会談では、ロシア軍の無人機がポーランドの領空侵犯した件に言及し、「ドイツは常にポーランド側に立っている。隣国の領空監視強化のため、ドイツ軍のユーロファイター戦闘機を2機から4機に増やした」と述べている。

 両国関係では、メルツ政権が不法難民対策の一環として対ポーランド国境の監視強化したことから、ポーランド側は「ドイツは不法移民をポーランドに押し返している」と非難、同じように対独国境管理を導入するなど、一時期、両国関係は険悪化した。ただ、ウクライナ戦争では両国とも緊密な関係を維持している。メルツ首相は5月の首相就任直後、まずフランスを訪問した後、ポーランドを訪問し、ドイツ・ポーランド両国関係が重要であることを示したばかりだ。


 【参考】ドイツの戦争賠償金問題
 ドイツ政府は「賠償問題は戦後直後、解決済み」という立場を堅持してきた。日本は戦後、サンフランシスコ平和条約(1951年)に基づいて戦後賠償問題は2国間の国家補償を実施して完了済みだが、第1次、第2次の2つの世界大戦の敗戦国となったドイツの場合、国家補償ではなく、ナチス軍の被害者に対する個別補償が中心だ。ナチスによるホロコーストなどの被害者への補償は、国家や企業が設立した基金などを通じて行われ、これは戦時賠償とは別の問題として扱われた。ポーランドの賠償請求に対しては、ドイツ政府は1953年のポーランドによる賠償放棄宣言を理由に、「既に解決済みだ」としている。

 ドイツにとって過去問題は政治的にはフランスとの関係だが、損害賠償問題はバルカン諸国や旧東独諸国で常にくずぶってきた厄介なテーマだ。例を挙げる。シュタインマイヤー大統領は2024年10月末、アテネを公式訪問した時、ホストのサケラロプル大統領(当時)から第2次世界大戦でギリシャが受けた損害と、当時のナチス・ドイツに支払わされた強制貸付について賠償を請求された。サケラロプル大統領は「戦争賠償と強制貸付の問題は、ギリシャ国民にとって今なお非常に重要な意味を持っている」として、「同問題は依然として宙に浮いたままだ。ナチス・ドイツ軍のギリシャ占領時代(1941〜44年)の蛮行、ユダヤ系住民のアウシュビッツ収容所送還、経済的略奪などに対し、賠償金を支払うべきだ」と語った。

独西部の州地方選挙で極右政党が大躍進

 ドイツ西部に位置し、16の連邦州の中で最大人口(約1800万人)を抱えるノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)で14日、市議会、区議会、市長、区長の各選挙の投開票が行われた。地方選挙だが、今年5月に発足したメルツ政権への最初のテストケースとしてその結果が注目されていた。

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▲投票結果を喜ぶヴュスト州首相、WDR公式サイトから、2025年9月15日

 投票結果によると、ヴュスト州首相が率いる与党「キリスト教民主党」(CDU)は得票率約33.3%で前回選挙(2020年)比で1%減少したが、第1党を維持した。一方、連邦レベルでメルツ連立政権のパートナー政党、社会民主党(SPD)は約22・1%で第2党に入ったが、5年前の前回比で2・2%減に終わった。

 また、「緑の党」が13・5%で前回比で6・5%減と大きく得票率を落とした一方、AfDは14・5%と前回比のほぼ3倍の得票率を確保した。その結果、AfDは同州では「緑の党」を抜いて第3党に躍進した。そのほか、左翼党が5・6%、自由民主党は3・7%に留まった。投票率は56.8%で、過去30年間で最高を記録した。

 ヴュスト州首相(CDU)はAfDの大幅な議席獲得に懸念を表明し、「私たちに考えさせるべき結果となった。安眠など許されない」と述べた。

 今回の地方選(有権者数約1370万人,任期5年)では、396の市町村議会、31の区議会、そしてルール地方連合のルール議会で投票が行われた。市長選挙では過半数を獲得した候補者が出なかったところが多く、アーヘン、ボン、ボーフム、ビーレフェルト、デュッセルドルフ、ドルトムント、デュースブルク、エッセン、ケルン、ミュンスターなどの都市で2週間後、上位2人の候補者の間で決選投票が行われる。

 NRW州最大の都市ケルンでは、「緑の党」の州議会副議長であるベリヴァン・アイマズ氏とSPDのトルステン・ブルメスター氏による決選投票が行われる。州都デュッセルドルフでは、CDUの現職のシュテファン・ケラー氏がリード、「緑の党」候補のクララ・ゲルラッハ氏と決選投票を行う。また、ゲルゼンキルヒェン、デュースブルク、ハーゲンでは、AfDの候補者が決選投票に進出している。

 選挙結果について、CDU/CSUのシュパーン院内総務は「今回の選挙結果が連邦レベルでのCDU/CSU-SPD連立政権を強化するものだ」と評価。一方、SPDのクリングバイル党首は、今回の選挙結果に失望を表明しつつも、「決して悲惨な結果ではない」と強調した。

 一方、AfDのクルパラ共同党首は、NRW州地方選挙における党の成果を成功と評し、「我々は国民政党であり、我々全員がドイツに対して大きな責任を負っている。」と主張した。

【解説】
 メルツ首相のCDUは得票率で前回比で1%減だったが、第2党以下を大きく引き離しして第1党の地位を維持したことで、メルツ首相は就任最初のハードルをクリアできた。一方、SPDは本来は労働者の州のNRWでも得票率を落とした。欧州の代表的工業地帯のルール地方は昔はSPDの支持基盤だったが、AfDに労働者層の支持を奪われてきた。ショルツ前政権時代から続く党勢の低迷から抜け出すことが出来ずに苦戦している。CDUとSPDの党勢の差が拡大することで、メルツ連立政権下でのSPDの影響力が今後、低下することが予想される。

 NRW州地方選での最大のハイライトは、AfDの躍進だ。同党は単に旧東独に強い政党ではなく、旧西独にもその支持基盤を拡大した。クルパラ党首は「AfDは国民政党だ」と豪語したが、AfD支持者はもはや抗議票ではなく、同党の政治信条に共鳴している。来年は5州で議会選が行われる。AfDは今後もドイツ政界に旋風を呼び起こすことが必至だ。

フランスの政治混乱は他人事ではない

 フランスのマクロン大統領は9日夜(現地時間)、39歳のセバスチャン・ルコルニュ国防相を新首相に任命した。同大統領は、バイル首相の辞任後、政治的行き詰まりを回避し、批判から身を守るために、速やかに新たな首相を任命したわけだ。同大統領は、元保守派のルコルニュ氏を新首相に任命することで、左派への歩み寄りを拒否したものと受け取られている。なお、バイル氏の退陣により、わずか1年余りで2人の首相が失脚したことになる。

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▲パリで開催された「ウクライナの安全保障」を巡る有志連合会議、2025年9月4日、在日フランス大使館公式サイトから

 バイル中道右派政権は、わずか9ヶ月弱で崩壊した。バイル首相は8日、国民議会(下院、定数577)で緊縮予算政策への信任投票を求めたが、結果は賛成194、反対364と大差で拒否された。その結果、内閣は総辞職に追い込まれた。バイル氏は演説で「(借金増大の)放置が最大のリスクだ」と主張、野党側に理解を求めたが、「混乱の責任は大統領と首相にある」(社会党)といった強い反発を受けた。フランスの政情は再び混沌としてきた。

 バイル氏はわずか9ヶ月の在任期間、大幅な歳出削減による国家債務抑制の試みを実施したが失敗に終わった。

 バイル首相が提示した緊縮予算案は、急増するフランスの国家債務の軌道修正だった。公的債務は国内総生産(GDP)の約114%にまで上昇し、ユーロ圏ではギリシャとイタリアに次いで債務比率が高い。緊縮財政の取り組みが遅れ、新規国債の利子負担でフランス経済に悪影響を及ぼす可能性が出てくる。バイル氏は「債務返済だけで教育費や国防費を上回り、予算の最大の項目になる恐れがある」と警告してきた。

 新首相に任命されたルコルニュ氏にとって緊急課題は、2026年度予算案で議会の過半数を獲得することだ。フランスの財政赤字は現在、EUが定める対GDP比3%の上限のほぼ2倍に達している。

 ルコルニュ氏は、ニコラ・サルコジ前大統領の下で保守党から政治家としてのキャリアをスタートさせた。2017年の初選挙では、共和党を離党し、マクロン氏の中道派に加わった。5年後、マクロン氏の再選につながる選挙運動を主導した。

 マクロン大統領はルコルニュ氏を任命することで、富裕税の廃止や退職年齢の引き上げなどを今後も継続していく意向を明らかにしたことになるが、社会党など左派や極右から強い抵抗が予想される。

 下院ではマクロン氏を支える中道勢力と保守・共和党の連立与党、野党の左派、極右の主要3陣営が激しく対立し、過半数に支持される内閣の樹立は困難な情勢。次期首相が難しい舵取りを迫られるのは必至だ。

 ちなみに、マクロン大統領は国民議会を解散し、新たな選挙を実施することも可能だが、同大統領は早期選挙の実施にはこれまで消極的な発言をしてきた。選挙を実施したとしても、政情の安定は期待できないからだ。

 問題は、フランスの対ウクライナ政策だ。外交は大統領の職権だが、国民経済の停滞は大統領の政治力・外交力を削ぐ。フランスは、軍事力、財政、そして兵士の訓練プログラムを通じてウクライナを支援してきた。国内の政治的混乱や政策転換によって、外交政策、ひいてはウクライナ支援問題が後回しにされる可能性が十分、考えられる。そうなれば、西側諸国とウクライナは、フランスから大きな支援を期待できない。

 ちなみに、フランスの政情は、社会民主党(SPD)と連立政権を組むメルツ独政権にとっても他人事ではない。債務の増加、国民経済の停滞に直面しているドイツでメルツ政権は綱渡りの政治運営を強いられているからだ。

 ただ、マクロン氏の政治的弱体化は、必然的にメルツ首相の責任を拡大させる。米国がウクライナへの支援から撤退を続ける中、ロシアの攻撃を受けているウクライナにとって、武器供与と財政支援の面でドイツは今や最も重要なパートナーと見られ出している。

 なお、上記のコラムはドイツ民間放送ニュース専門局NTVのライブ情報を参考にした。

 
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