ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ドイツ

独国民が衝撃受けた2件の犯罪

 ドイツにおける国政レベルの政治ではウクライナ支援、それに関連した武器供与問題、移民対策などが大きなテーマであり、国内レベルでは物価、家賃の高騰、エネルギー危機などへの対策が頻繁に報道されてきたが、過去1週間で2件の犯罪事件が発生し、ドイツ国民に衝撃を与えている。

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▲「ルイーゼ殺人事件」に関する記者会見風景(中央=コブレンツのユルゲン・ズース警察副長官)2023年3月14日、ドイツ民間ニュース専門局NTVのビデオからスクリーンショット

 1件は新興キリスト教系宗教団体「エホバの証人」の施設で9日夜、8人が死亡、8人が重軽傷者を負った銃撃事件、そして2件目は11日夜に起きた12歳と13歳の2人の児童による同級生殺人事件(ルイーゼ事件)だ。前者はこのコラム欄で2回、報じたので今回はその続編だ。後者は12歳と13歳による殺人事件だ。ドイツでは刑事責任年齢に満たない14歳未満の者を「児童」と呼び、「児童の保護」を最優先とする理由で、警察側は事件の詳細については口を閉じている。そのような事情を踏まえながら、ドイツ社会で起きた2件の犯罪事件を紹介する。

1)「エホバの証人」の宗教施設での銃撃事件

 犯行日:2023年3月9日午後9時頃
 犯行場所:独北部ハンブルク市の「エホバの証人」施設
 犯行者:フィリップ・F、35歳のドイツ人(バイエルン州出身)、元「エホバの証人」信者
 犯行武器:・独ヘッケラー&コッホ社の半自動拳銃(H&KP30)、犯行現場には135発の銃弾の跡
 犠牲者:自殺した犯人を含む8人が死亡、8人が重軽傷、死者の中には7カ月の胎児が含まれる
 犯行動機:「エホバの証人」、特にハンブルクの同団体への恨み

 <フィリップ・Fについて>

 Fはバイエルン州のメミンゲン出身で、アルゴイ地方のケンプテンで成長した。家族のメンバーは「エホバの証人」のメンバーだった。親戚も同様、グループのメンバーだったが、その後脱会した。 Fは非常に敏感な子供で、家族から愛情をこめて育てられた。ただし、Fが育った環境は簡単ではなかった。Fは20代前半で、仕事上の理由でハンブルグに移り、数年後に再び「エホバの証人」と接触して入会。しかし、その後、彼は「エホバの証人」のシステムがどのように機能しているかを知って失望したと親戚に話したという。1年半後、Fは「エホバの証人」から去った。事件が起きたハンブルグの「エホバの証人」メンバーによると、Fは、意見の相違の後、自分の意志でグループを去った。Fの親戚関係者はFは精神的に非常に打ちのめされ、精神病の兆候が見られたが、助けを望まなかったという。

 国家安全保障局長の Thomas Radszuweit氏 によると、Fは独身で、銃の免許と射撃手としての銃を持っていた。Fは自身のウェブサイトで、企業向けのコンサルティングサービスを提供し、アルスター郊外のハンブルグで最も物価の高い地域の1つにオフィスを構えていた。

 彼は、アルゴイ地方の厳格な福音主義の家庭で育ち、ある出来事をきっかけに霊性の必要性を感じたと自費出版した本の中に書いている。彼は子供の頃を思い出し、「予言的な夢」を見、突然、以前にはなかった聖書の理解ができたという。Fはまた、「3年以上続いた地獄の個人的な旅を経験した」と告白している。

 事件後、ドイツでは「武器関連法」の強化について与野党の間で議論が出てきている。

2)「ルイーゼ殺人事件」(児童による殺人事件)

 犯行日:2023年3月11日夜
 犯行場所:独ノルトライン=ヴェストファーレン州の人口1万8000人の町フロイデンベルク
 犯行者:12歳と13歳の児童(女子)
 犯行武器:ナイフ(ただし、犯行武器はまだ発見されていない)
 犠牲者:12歳のルイーゼ(犯行者の同級生)
 犯行動機:不明

 犯行状況(独メディアの報道から)
 警察もメディアも殺人が12歳と13歳の児童によって行われたことにショックを受けている。犯行に使用されたナイフはまだ発見されていないが、2人は犯行を認めているという。ルイーゼは友人宅から帰途に向かうはずだったが、家には戻らず、同級生の2人と自宅とは反対の離れた場所で会っている。その辺の事情は不明だ。同級生の2人がルイーゼをスマートフォンで呼びだしたのかもしれない。死因は複数の刺し傷による出血多量によるという。司法解剖の結果、性的な暴行は受けていなかった。

 2人の児童は現在、ユーゲンド保護所で収容されている。ドイツでは14歳未満の児童は刑事責任がないためだ。2人に対する捜査、犯行動機などが調べられるが、時間がかかるものと予想されている。コブレンツのユルゲン・ズース警察副長官は14日の記者会見で、「40年以上、犯罪取り締まりの仕事をしてきたが、今回の事件(児童による殺人事件)には言葉を失う」と述べている。

 メディアは未成年者による殺人事件として大きく報道した。検察官、警察副長官、捜査官などが記者たちの質問に答えたが、犯行の動機や2人のプロフィールなどについては、「児童の保護」という理由で答えることができないと言った。ルイーゼが通っていた学校関係者は生徒たちの殺人事件に大きなショックを受けている。

 独メディアによると、ルイーゼが2人を何らかの理由で揶揄ったことを、2人は根に持ち、呼びだして殺したのではないかと推測している。最近の学校では同級生間でモビング(虐め)が原因で様々な被害や不祥事が生じている。

 事件後、刑事責任を問う年齢を現行の14歳から下げるべきだという意見が出ている。英国では10歳、オランダは12歳、ポルトガルでは16歳といった具合で、刑事責任が問われる年齢は欧州でも違いがある。

フィリップ・Fが撃った135発の銃弾

 ドイツ北部ハンブルクで9日夜起きた宗教団体「エホバの証人」施設内での銃撃事件はドイツ国内で大きな波紋を投じている。10日現在、銃撃犯のフィリップ・Fを含み8人が死亡、8人が重軽傷を負った。死者の中には7カ月目の胎児が含まれる。犯行現場を見た警察関係者は、「これまで多くの現場を目撃してきたが、これほどおぞましい状況は初めてだった」と証言している。ハンブルク市のアンディ・グローテ上院議員は、「ハンブルク市の歴史で最も悲惨な犯罪」だと呟いたと報じられていた。

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▲犯行の場となったハンブルクの「エホバの証人」の宗教施設(2023年3月10日、NDR公式サイトから)

 銃撃犯人は35歳のドイツ人でバイエルン州出身。2014年以来、仕事のためハンブルクに移って住んでいた。独身。Fがどのようにして「エホバの証人」の信者となったかは不明だが、年齢からして「宗教2世」の可能性は排除できない。ハンブルク市警察当局はFの犯行動機を調査しているが、10日現在、はっきりとしている点は、|影犯塙圈↓▲謄軈反イ箍燭蕕の過激派グループとの繋がりは見つかっていない、ことぐらいだ。犯人が自殺したことで詳細な犯行動機を知ることが難しくなったことは間違いない。

 ただ、犯行動機を知る上で貴重な情報がある。ハンブルク警察のラルフ・マイヤー長官によると、今年1月、ハンブルク警察宛てに一通の匿名文書が送られてきた。その中に、銃撃犯となったFについて、自宅に多数の武器を所持していること、精神的に正常ではない面がみられる、等が記されていたという。また、Fは、ー分が所属していたハンブルクの「エホバの証人」への憎悪、⊃場の元上司への憎悪が激しかったというのだ。

 匿名の情報者はFを良く知っている人間であるはずだ。親族関係者、「エホバの証人」の信者たち、勤務していた会社関係者などが考えられる。いずれにしても、Fは上記の2点に関連した人間を激しく憎んでいたということだ。ハンブルク警察当局は匿名情報者に、Fについてどうして知っていたのかなどを語ってほしいとアピールしている。

 ちなみに、武器所有の件では警察当局がFを捜査したが、所持している武器は2022年12月に購入し、合法的に保管されていたこと、Fと会った警察官は精神的な異常さなどを感じなかったことから、警察側はそれ以上、Fの周辺調査をしていない。犯行はその1カ月半後、起きた。犯行に使用された武器は独ヘッケラー&コッホ社の半自動拳銃(H&KP30)だった。

 犯行が起きた9日夜9時ごろ、「エホバの証人」の集会には約50人が参加していた。Fは参加者全員を射殺できるだけの銃弾を所持していたという。警察部隊が最初の発砲を聞いてから数分後、現場に到着。Fは慌てて建物の上階に逃げようとした。その数分後、1発の銃声が聞こえ、Fは自殺した。犯行時間は10分にもならない。その間、Fは135発を撃ったという。

 警察側の情報によると、集会参加者約50人のうち、20人は犯行直後、建物から無事逃げることができたという。30人は集会場内に留まっていたことになる。Fはその30人の信者たちに向かって135発を乱射したわけだ。「警察隊の到着が遅れていたならば、もっと多くの犠牲者がでたかもしれない」と受け取られている。

 宗教団体の集会中に乱入して、銃を発射した事件といえば、 ニュージーランド(NZ)のクライストチャーチで2019年3月15日、極右過激派テロリストが2カ所のイスラム寺院(モスク)を襲撃し、集会に参加していたイスラム教徒51人が死亡、49人の重軽傷者を出した銃乱射テロ事件を思い出す。また、フランス北部のサンテティエンヌ・デュルブレのローマ・カトリック教会で2016年7月26日、2人のイスラム過激派テロリストが神父(当時86)を含む5人を人質とするテロ事件が発生し、礼拝中の神父は首を切られ殺害されたほか、1人が重傷となった事件がある。

 「エホバの証人」は世界に850万人の信者を擁し、ドイツでも17万5000人の信者をもつ新興キリスト教会系団体だ。その教えは聖書の逐次解釈をもとに、根本主義的傾向がみられ、輸血を拒否し、兵役も拒否することから、さまざまな社会的な批判を受けてきた面は否定できない。いずれにしても、信者には強い終末観があるために、時には排他的な傾向がみられる。

 元信者Fがどのような思いで自分が所属していた団体の集会に入り、顔見知りの信者たちに向かって135発の銃弾を発したのだろうか。Fの世界を理解するためには、「エホバの証人」から脱会した時の事情を知る必要があるだろう。「エホバの証人」から脱会した「宗教2世」や若い信者たちがその後、人生の目的を失い、絶望から自殺するケースが多いと聞くだけに、Fの犯行は一つの警鐘だ。

独「エホバの証人」施設で銃撃事件

 ドイツ北部ハンブルク市で9日夜(現地時間)、宗教団体「エホバの証人」の施設で礼拝が開かれていた時、銃撃事件が発生し、銃撃犯人を含み8人が死亡したほか、8人が負傷し、そのうち4人は重傷を負った。銃殺された1人の女性は妊婦で、胎児は7カ月目だった。ハンブルク警察関係者によると、犯人は35歳のドイツ人で1年半前に「エホバの証人」から脱会した元信者という。

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▲宗教施設周辺を警備する治安部隊(2023年3月10日、独日刊紙「ハンブルガ―・モルゲンポスト」電子版から)

 犯行は9日夜、グロースボルステル地区で起きた。犯行は当初、複数説が流れ、銃撃した犯人は逃走中といわれたが、銃撃犯は単独で、犯行直後、建物の中で自殺して見つかった。警察当局は銃撃犯の犯行動機などを捜査中という。警察の捜査員は10日午前、犯人の住居を捜査、スマートフォンや弾薬などを押収したという。ただ、犯人とテロ組織とのつながりなどは現時点では見つかっていないという。

 警察のスポークスマンによると、9日午後9時頃、「エホバの証人」の宗教施設の3階建ての建物の中で礼拝が行われていた。集会には約50人が参加していたという。最初の発砲は9日午後9時頃と見られ、警察官が近くにいたので、数分後に犯罪現場に到着し、建物内で数人の死傷者を発見した。その直後、建物の最上部から銃声がし、銃撃の犯人と思われる死体が発見されたという。治安部隊は1発も発砲しなかった。そして10日早朝、爆発専門隊を含む治安部隊は宗教施設の建物周辺の全ての措置を解除した。

 ハンブルク市のマイヤー警察長官は10日、記者会見で、「今年1月、匿名の電話が警察にあった。今回の銃殺犯人が不法な銃を保有していること、精神的に不安定な人間だ、という情報だった。警察側はその情報に基づいて調べたが、犯人は銃(スポーツシューター)を合法的に保有していることが分かったので、捜査はその段階で終わった」という。また、犯人が「エホバの証人」から脱会する際、教団側との激しいやり取りがあったという情報が流れている。

 ハンブルク市長を務めたことがあるドイツのショルツ首相は、「ハンブルクからの恐ろしいニュースに非常に驚いている。私の思いは犠牲者とその家族と共にある」と述べている。

 なお、ドイツの「エホバの証人」は声明文を発表し、「警察、救急車関係者の迅速な救援活動に感謝する。私たちは警察当局の捜査に協力していきたい。現在は、亡くなった信者とその家族に対して深い哀悼の意を表明する」と述べている。

 「エホバの証人」は、19世紀に米国でチャールズ・テイズ・ラッセルらを中心に発足したキリスト教系新宗教グループ。世界本部はニューヨーク州ウォーウィックに置き、全世界で「ものみの塔」聖書冊子協会などの法人名で活動している。信者数は世界で約850万人と推定されている。ドイツでは約17万5000人の信者がいる。

 教義は聖書を経典とし、創造主・神をエホバ(ヤハウェ)と呼ぶ。キリストは神の子であって神ではなく、天使長ミカエルと同一と受け取っている。人類の始祖、アダムとイブが神の戒めを破り、サタンのもとに走った結果、世界と人類はサタンの支配下にあると考える。神は終りの日に世界を救うためにキリスト率いる神の軍団を降臨させ、大戦争(ハルマゲドン)の末、地上に神の国を再建する。神の教えに従う人間のみが、救われ、復活し、永遠の命を得るという。その教えは聖書の聖句をその文字通り解釈して、実践する。神の名「エホバ」と「神の王国」がその教えの中核だ。「エホバ」と「神の王国」について語るゆえに、「エホバの証人」と呼ばれる(日本「エホバの証人」公式サイトから)

 「エホバの証人」は教義に基づき、輸血を拒否し、兵役を拒否している。そのため欧米社会ではたびたび物議を醸したことがある。また、終りの日(終末)を聖書に基づいて予言してきたが、その予言が外れ、多くの信者たちが教会から脱会するということが過去、起きている。政治に対しては中立を保っている。

親ウクライナ派の破壊工作か…

 米紙ニューヨークタイムズや独紙ツァイトは7日、昨年9月に発生したバルト海の「ノルド・ストリーム」ガスパイプライン爆発の背後について、「米政府は親ウクライナ・グループが関与していると考えている」と報じた。ニューヨーク・タイムズは数人の匿名の米国政府関係者を引用して報じた。ドイツのメディアは、「爆発にウクライナの関与があった」と報じた。

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▲「ノルド−ストリーム」のパイプライン(「ノルド・ストリーム」公式サイトから)

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▲「ノルド・ストリーム2」のルート図(ガスプロム公式サイトから)

 ロシアからバルト海峡を経由してドイツに天然ガスを送るパイプライン「ノルド・ストリーム1」と「ノルド・ストリーム2」で昨年9月、爆発が生じ、亀裂が生じてガス漏れが発覚した。デンマークとスウェーデン両国では自国の排他的経済水域(EEZ)内でガスの流出が確認された。爆発当時、パイプラインは稼働していなかったが、ガスが含まれていた。スウェーデン政府筋は当時、爆発の背後には破壊工作があり、爆発物の残留物が検出されたと発表した。

 パイプラインの爆発直後、ウクライナとポーランド両国は「ロシアが爆発させた」と主張してきた。2005年、ドイツのシュレーダー首相(当時)とロシアのプーチン大統領がロシアの天然ガスをドイツまで海底パイプラインで繋ぐ「ノルド・ストリーム」計画で合意した時、ポーランドのラドスワフ・シコルスキ国防相(当時)は、「ヒトラー・スターリン協定」(独ソ不可侵条約)の再現だと批判したことがあった。

 ただし、パイプラインを破壊できる軍事的、技術的能力(潜水艦や特殊部隊)を有している国はロシアだけではない。ロシアのペスコフ大統領報道官は当時、「米国の破壊工作の可能性がある」と指摘し、「欧州がロシアのエネルギーに依存しないように、両パイプラインを破壊したい国がある」と述べ、米国の仕業を示唆した。

 ちなみに、米国は欧州のロシア産天然ガス依存を回避するためにショルツ独政府に「ノルド・ストリーム2」の操業開始を断念するように圧力を行使。ショルツ首相は昨年2月22日、「ノルド・ストリーム2の操業開始を停止する」と公表した。パイプライン建設は昨年秋に既に完成し、関係国の承認待ちだった。

 米独メディアの報道によると、9月26日夜の犯行に使用された可能性のあるヨットはポーランドに本拠を置く会社がレンタルしたもので「ヨットは2人のウクライナ人の所有だった」という。そして「船長、ダイバー2名、潜水助手2名、医師1名からなるチームが爆発物を犯罪現場に持ち込んだ。ただし、彼らがどの国籍に属していたかは不明。偽造パスポートを使用していた可能性もある」という。しかし同破壊工作にウクライナのゼレンスキー大統領、または彼の側近が関与したという証拠はないという。

 ニューヨークタイムズによると、匿名の米国政府関係者は「解体を正確に実行したのは誰か、誰が命令したか、誰が資金を提供したか等、多くの点がまだ不明だ」と認めている。ツァイトによると、「捜査官は、加害者の疑いのあるグループを誰が依頼したかをまだ突き止めていない」という。 独公共放送ARDによると、「爆発事件をウクライナ側の仕業とするために故意に痕跡を残した可能性も排除できない」と慎重な姿勢を崩していない。

 ウクライナ大統領府高官はウクライナの関与を報じた米独報道の内容を否定した。一方、ドイツ首相府のスポークスマンは、「米紙の報告に注目している」と語った。情報が確認された場合、ドイツのウクライナ支援に深刻な影響を与える可能性が出てくる。ニューヨークタイムズは「ウクライナの関与の兆候は、直接的であれ間接的であれ、ウクライナとドイツのデリケートな関係に影響を与える可能性がある」と報じている。

 16年間のメルケル前独政権時代の対ロシア融和政策、ロシアのプーチン大統領の蛮行を追認した「ミンスク合意」(独仏ロシア・ウクライナ)などもあって、ゼレンスキー大統領のドイツ観は批判的だった。メルケル政権時代の外相だったシュタインマイヤー独大統領のキーウ訪問をウクライナ側が拒否するなど、ドイツ・ウクライナ両国関係はウクライナ戦争後、一時期険悪だった。「ノルド・ストリーム」の破壊工作がウクライナ人、ないしは親ウクライナ勢力となれば、ドイツ国内でウクライナ支援に批判的な声が高まり、他の欧州連合(EU)加盟国にもマイナスの影響を与えることが予想される。

 なお、ショルツ首相は3日、ワシントンに飛び、バイデン大統領と会談したばかりだ。訪米ではショルツ首相はほぼ単独で随伴者もなく、会談後の共同記者会見もなかった。両首脳の会談内容は非公開だったが、バイデン大統領は、欧州のウクライナ支援に大きな影響を与えるかもしれない「ノルド・ストリーム破壊工作」に関する「新しい情報」をショルツ首相に知らせ、その対応について話し合った可能性が考えられる。

独「信号機政権」に赤ランプが灯った?

 ドイツのショルツ政権は社会民主党(SPD)、緑の党、そしてリベラル政党「自由民主党」(FDP)から成るドイツ初の3党連立政権だ。2021年12月に発足した当初、政党のカラー赤、緑、黄から「信号機連立政権」と呼ばれた。交通渋滞する路上で車のスムーズな流れを監視する信号機のように、政治信条が異なる3党が16年間続いたメルケル政権後の舵取りができるかが注目された。

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▲連邦議会で座るリンドナー財務相(左)とハベック経済相(右)独公営放送「ドイチュランドフンク」2023年2月16日から

 3党連立政権にとって最初の、そして想定外の大きな試練がきた。ロシアのプーチン大統領が昨年2月24日、ウクライナに軍事侵攻して以来、ドイツを含む欧米諸国は戦後初の欧州の領土での戦争勃発問題に没頭せざるを得なくなったからだ。

 ショルツ政権はウクライナへの武器供与問題で他の欧州諸国よりも時間がかかったのは致し方なかった。ナチス・ドイツ政権の戦争犯罪問題もあって戦後、ドイツは紛争地への武器供与は厳禁だった。それゆえに最初ドイツが軍ヘルメット5000個をウクライナへ供与した時、他の欧州諸国から批判を受けた。ただ、ウクライナ戦争が激化するなかで、ドイツも防衛費GDP比2%超を決める一方、軽火器から重火器へ支援の幅を広げ、先月25日、米国との合意にも基づいて攻撃用戦車レオパルト2の供与を決めた経緯がある。

 ショルツ政権の中で戦争反対、平和政党を標榜してきた「緑の党」にとって180度の政策転向を強いられることになったが、ハベック経済相(副首相兼・気候保護相兼任)、ベアボック外相ら「緑の党」所属閣僚はウクライナ全面支援を打ち出すことでSPD出身のショルツ首相をプッシュしてきた(「ショルツ独首相は苦悩する事情とは」2023年1月25日参考)。

 以上、ショルツ政権のウクライナ支援政策は多くの試練があったものの及第点を取れる危機管理といえるだろう。ロシア軍の蛮行に直面、SPD、緑の党、FDPがウクライナ支援でコンセンサスができやすかったことがある。

 ただ、3党間の対立は皆無ではない。一つはエネルギー危機に対応するために脱原発政策の見直し問題、もう一つは世界最大の港湾運営会社の一つ、 中国のCosco Schipping (コスコ・シッピング)のハンブルク湾のハンバーガー・コンテナ・ターミナル・トレロート(CTT)株式取得問題だ。両問題は党内で意見が大きく割れた。

 1)ドイツの脱原発は2000年代初頭のSPDと「緑の党」の最初の連合政権下で始まった。それだけに「緑の党」だけではなく、SPDにも原発操業の延長には強い抵抗がある。一方、産業界を支持基盤とするFDPは3基の来年以降の操業を主張するなど、SPD、「緑の党」、そしてFDPの3党の間で熾烈な議論が続けられてきた。ショルツ首相は「緑の党」とFDPと交渉を重ね、2022年10月17日夜、首相の権限を行使し、2基ではなく、3基を今年4月15日まで操業延長するというガイドラインを提示、そのための法的整備を関係閣僚に命じた。

 2)ショルツ連立政権は昨年10月26日、ドイツ最大の港、ハンブルク湾港の4カ所あるターミナルの一つの株式を中国国有海運大手「中国遠洋運輸(COSCO)」が取得することを承認する閣議決定を行ったが、同決定に対し、「中国国有企業による買収は欧州の経済安全保障への脅威だ」という警戒論がショルツ政権内ばかりか、欧州連合(EU)内からも聞かれた。特に、緑の党とFDPは強く反対したが、ショルツ首相が最終決定を下した。

 ここにきて緑の党のハベック経済相(兼副首相)とFDP党首のリンドナー財務相との関係が気まずくなってきている。ハベック経済相とリンドナー財務相間のコミュニケーションが難しくなり、文書で要求するだけで、互いに対面で意見の交換をしない、といわれるほどだ。ドイツ公共放送局「ドイチュランドフンク」は16日、「両者は相手宛てに怒りの手紙を書くなど、連合の雰囲気は毒されてきている」と報じている。

 理由は明確だ。FDPはベルリン市議会選(2月12日実施)で敗北し、党内からリンドナー党首へ党の政策をもっと全面的に主張すべきだという声が一段と高まってきているのだ。FDPは、政権発足後の5つの州議会選挙のうち3つで議席獲得に必要な5%のハードルを越えることができず、残り2州でも得票率が急減した。

 ハベック経済相がリンドナー財務相に「財政ではもっと創意工夫するべきだ」と要求すると、「エネルギー供給のために新しい送電線を建設するが、そのために先ず新しい道路を建設しなければならない」と、FDP側から巨額の資金が必要となるグリーン・プロジェクトに対して不満の声が飛び出す。また、ウクライナ戦争で防衛費が急増、国内総生産(GDP)比2%をはるかに超える可能性が出てきた。そこにピストリウス新国防相は「2024年までにさらに100億ユーロが必要となる」と求めているが、どこから財源を獲得するかが大きな問題となるわけだ。

 党の独自色を出すためにリンドナー財務相は今後、減税、規制緩和を進める一方、不法移民対策の強化など右派的な政策を訴えてくるかもしれない。そうなれば、SPD・緑の党との連立政権の運営にも支障が出てくることが予想される。

米独主力戦車のキーウ供与と「その後」

 ドイツの主力戦車「レオパルト2」と米国の主力戦車「M1エイブラムス」のウクライナ供給が25日、両国でほぼ同時期に決定した。欧米の攻撃用戦車を要求してきたキーウにとって望み通りとなったが、米独の主力戦車がウクライナで実際活躍するまでにはまだハードルが控えている。「レオパルト2A6」の場合、ベルリンとキーウ間を16時間の車両輸送でウクライナまで運べるが、近代的な戦車を兵士たちが駆使できるまでには訓練が必要となる。ショルツ独首相は25日、「3カ月間〜4カ月は必要だろう」という。一方、米国の「M1エイブラムス」の場合、「6カ月から9カ月の時間が必要」という。

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▲ビデオメッセージをするウクライナのゼレンスキー大統領(2023年1月25日、ウクライナ大統領ホームページから)

 ロシア軍は来月24日でウクライナ侵攻1年目を控え、軍の再編成を実施し、2月から3月にはウクライナに大攻勢をかける計画ではないかと予想されている。供与される米独主力戦車はその戦いには間に合わない。米独のハイテク戦車の供与は、ウクライナ戦局のゲームチェンジャーとはなりえないことはほぼ間違いないだろう。

 オーストリアのインスブルック大学の政治学者ゲルハルト・マンゴット教授は、「欧米の主力戦車供与問題で明らかになったことは、ウクライナに軍事支援する欧米には統一した戦略的コンセプトがないことだ」と指摘する。バルト3国、ポーランド、英国、ルーマニアなどの国は、クリミア半島を含み、ロシア軍をウクライナの国境外に追い払うまで戦争を遂行すべきだと主張し、積極的な軍事支援を支持している。一方、ドイツは戦闘のエスカレートを警戒し、ロシア軍から全領土を解放するまで戦争を推進するという考えには懐疑的だ。

 同教授は、「欧米の主力戦車の供与で戦争がウクライナ内に留まらず、欧州の他の地域に広がる危険が出てくる。一方、ロシア軍は戦いで厳しくなれば、戦略核など大量破壊兵器の使用などを考え出すだろう」と懸念している。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は25日夜の慣例のビデオメッセージで、主力戦車の供与を決めた米国とドイツに感謝する一方、「欧米の軍事支援には迅速性と量が求められる」と注文を付けることを忘れなかった。例えば、ドイツは「レオパルト2」を最初は14両、米国は31両と供与する数が少ないことに関連した発言だ。ロシア軍は性能は別として数千両の戦車を有している。欧米諸国がウクライナに戦車を支援するとしても現時点では300両を少し超える程度だ。数では依然ロシア軍が圧倒している。

 同大統領は、「ロシア軍を完全に破り、ウクライナを完全に解放するまで戦いを続けていく」と表明している。同大統領は北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長との会談では「長距離ミサイルと戦闘機の供与」を要求している。ちなみに、ウクライナのアンドリーイ・メルニック外務次官(前駐ドイツ大使)はツイッターで、「F16、F35、ユーロファイターの戦闘機供与が勝利のためには不可欠だ」と、具体的に機種を挙げて要求している。

 ショルツ首相は、「われわれはウクライナを最後まで支援し続ける」と表明してきたが、ウクライナ側と欧米諸国側には戦略だけではなく、戦争の目標について相違がある。戦争がさらに長期化した場合、その相違は表面化し、欧米諸国の中でウクライナ支援から離脱していく国も出てくるかもしれない。

 世界は軍事大国ロシア軍の侵攻に直面するウクライナに巨額な経済支援、軍事支援を行ってきたが、ゼレンスキー大統領の側近の中には、贈収賄疑惑や、ロシアによる侵攻が続く中、ぜいたくな生活を送っていると非難される人物が出てきた。ウクライナは戦争前も政治家の腐敗汚職は大きな問題だった。政権内の人事刷新に乗り出したゼレンスキー大統領は24日、大統領の側近1人、副大臣4人、州知事5人を辞任させたばかりだ。ゼレンスキー大統領は武器の獲得に奔走するだけではなく、政権内の腐敗問題にも迅速に対応していかなければ、今後のウクライナ支援の行方に影響が出てくるだろう。

 戦いは戦場だけではなく、フェイク情報を流して相手の弱さを叩き、結束を破壊させるハイブリット戦争の様相を一層深めてくるだろう。2024年3月の大統領選で5期目を目指すプーチン氏にはウクライナ戦争ではっきりとした成果が必要となる。プーチン大統領はあらゆる手段を使って戦争を有利にするために腐心するはずだ。それゆえに、ウクライナ戦争は戦闘開始1年目が過ぎる来月24日以降、さらに激しさを増すと予想せざるを得ないのだ。

バチカンが独教会の「改革」を批判

 独ローマ・カトリック教会で進行中の教会刷新活動「シノドスの道」を巡って、カトリック教会総本山のバチカン教皇庁が一通の書簡を独教会司教会議宛てに送り、その改革案の見直しを要求していたことが明らかになった。

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▲独カトリック教会司教会議のゲオルク・べッツィング議長(独カトリック教会司教会議公式サイトから )

 独司教会議(DBX)は23日、バチカン高官が独教会司教会議ゲオルク・ベッツィング議長に宛てた書簡の内容を発表した。それによると、バチカンは、独司教会議が改革プロセスで最も重要な意思決定機関として「シノドス議会」の設置を決定したことに異議を唱えている。

 フランクフルト・マインで昨年9月に開催されたシノドス議会は、司教、教会聖職者、および信徒たちが、教会の運営について将来も継続的に会合を持つことを決定し、そのために常設機関「シノドス委員会」が設置され、2026年までに「シノドス評議会」を発足することになった。同評議会は今後、聖職者と信徒が話し合い、教会の活動を決定することになる。

 教会離れが進む現在、教会側の聖職者と信者たちが頻繁に話し合い、教会の活動を進めていく、という考えは取り立てて反対することではないはずだ。通常の民主社会では当然のことだが、バチカンは昨年夏、「ドイツ教会は新しい統治機関を創設する権限を与えられていない」と批判。今回の独司教会議議長宛ての書簡では「シノドスによって設立された組織や司教会議が『シノドス評議会』を設立する権限を持っていないことを明確にしたい」と重ねて指摘しているのだ。

 この書簡は、バチカンのナンバー2のピエトロ・パロリン国務長官、カトリック教義の遵守を監視する教理省長官のルイス・フランシスコ・ラダリア・フェレール枢機卿、そして司教省長官のマーク・クエレット枢機卿の3人の高位聖職者によって署名されている。

 バチカンが独教会司教会議の決定事項に介入することになった直接の契機は、独教会ケルン大司教区のライナー・マリア・ヴェルキ枢機卿とアイヒシュテット、アウグスブルク、パッサウ、レーゲンスブルクの司教たちからの手紙だ。彼らは司教会議の改革案に懐疑的な立場で、バチカンに「決定されたシノドス委員会に参加する必要があるか」と問い合わせたことから、バチカン側は独司教会議が実施中の教会改革案を知り、驚いたという次第だ。

 ベッツィング司教は、プレスリリースでバチカンの懸念を否定し、「シノドス評議会が司教会議の上に立つとか、司教の権威を弱体化させるといった懸念はまったく根拠がない。司教の権威に疑問を呈する者は誰もいない」と断言している。

 ドイツのカトリック教会の「シノドスの道」は、教会での女性の地位向上、カトリックの性的道徳、聖職者の独身制などの改革に取り組んでいる。それに対し、バチカンは、バチカンの現体制を無視し、各国の教会が独自の意思決定機関(「シノドス評議会」)で教会の運営を決定していく内容と判断し、「教会の分裂をもたらす危険性がある」と受け取っているわけだ。

 バチカン教皇庁は昨年7月21日、独司教会議の「シノドスの道」に対し、「司教と信者に新しい形態の統治と教義と道徳の方向性を導入し、それを受け入れるように強いることは許されない」という趣旨の公式声明を発表し、「普遍的な教会のシステムを一方的に変更することを意味し、脅威となる」と警告を発した。

 教会の改革を目指すフランシスコ教皇は昨年6月14日、インタビューの中で、「ドイツには立派な福音教会(プロテスタント派教会=新教)が存在する。第2の福音教会はドイツでは要らないだろう」と述べ、独教会司教会議の改革案に異議を唱えている(「教皇『教会改革も行き過ぎはダメ』」2022年7月23日参考)。

 独司教会議の司教たちは昨年11月、バチカンを5日間、「アドリミナ」訪問し、教皇らと会談したが、改革案では理解が深まらずに「成果なく終わった」(ベッツィング司教)という。ローマ教皇は既に何度か独教会の「シノドスの道」を批判している。それに対し、ベッツィング司教は「われわれはカトリックであり、今後もそうあり続けるが、別の方法でカトリックであることを望んでいる」 と述べている。

 ちなみに、ドイツのキリスト教信者数はローマ・カトリック教会(旧教)とプロテスタント教会(新教)ではほぼ均衡している。マルティン・ルター(1483〜1546年)の宗教改革の発祥国ドイツでは歴史的に教会改革への機運が漂っている。そのドイツのカトリック教会では聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発し、その対応で教会指導部が混乱している現状に対し、信者からだけではなく、教会指導部内からも刷新を求める声が高まってきているわけだ。

 独司教会議が提示した主要な改革案は、.蹇璽沺Εトリック教会はバチカン教皇庁、そして最高指導者ローマ教皇を中心とした「中央集権制」から脱皮し、各国の教会の意向を重視し、その平信徒の意向を最大限に尊重する。∪賛者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者を受け入れる。女性信者を教会運営の指導部に参画させる。女性たちにも聖職の道を開く。だ賛者の独身制の見直し。既婚者の聖職者の道を開く、等々だ。

 フランシスコ教皇でなくても、カトリック教会の“福音教会化”と揶揄されてもおかしくはない内容だ。バチカンの中から「それでは何のためにカトリック教会か」という疑問の声が出てくるのは頷ける。「シノドスの道」は教会聖職者の性犯罪の多発を契機に始まったもので、フランシスコ教皇が2019年に開始し、世界各教会で積極的に協議されてきた。

 独教会の改革案がバチカンや他の教会からの批判に直面して暗礁に乗るか、それとも支持を集めるか、その成り行きはドイツ教会の将来だけではなく、世界のカトリック教会にも大きな影響を及ぼすことは必至だ。

ショルツ独首相が苦悩する事情とは

 ウクライナへの独製攻撃用戦車「レオパルト2」の供与に躊躇するドイツに対し、欧米諸国から圧力が強まっている。ポーランドのモラウィエツキ首相は23日、ドイツ政府に対し、国内にあるレオパルト2のウクライナ供与を正式に申請すると発表したばかりだ。欧州メディアによると、欧州全土にレオパルト1と2は約2000両ある。ロシア軍と戦闘するウクライナに供与できるだけの量はある。ただ、レオパルトの製造元ドイツ政府の承認がない限り、第3国に譲渡できない。それだけに、ドイツのショルツ政権に圧力が高まるわけだ。

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▲「世界経済フォーラム」(ダボス会議)で演説するショルツ首相(2023年1月18日、独連邦首相府公式サイトから)

 ショルツ連立政権は社会民主党(SPD)、環境保護政党「緑の党」、そしてリベラル政党「自由民主党」(FDP)の3党から成る連立政権だ。緑の党とFDPのジュニア政党はレオパルトのウクライナ供与を支持している。「緑の党」のベアボック外相は22日の記者会見の場で、「同盟国が願うのならば、(レオパルト供与の)道を塞がない」と述べ、慎重な姿勢を崩さないショルツ首相の意向を無視している。また、独南西部のラムシュタインにある米空軍基地で開催された20日の「ウクライナ防衛コンタクト・グループ会議」でドイツのボリス・ピストリウス新国防相がレオパルトの供与決定を先送りしたことに対し、連邦議会安全保障委員会のマリー=アグネス・シュトラック=ツィマーマン 委員長(FDP)は「大きな失策だ」と批判した。

 SPD、「緑の党」、FDPの3党の間には政治、経済、安保問題で大きな違いがあるため、政権運営の中で連立政権内で対立が生まれてきても不思議ではないが、国際社会が注目するウクライナ防衛支援問題でドイツ政権の政策決定力の弱さを露呈したことになる。欧米メディアでは「ウクライナへの支援問題でドイツがブレーキとなっている」といった論調が目立つ背景となっている。

 そこで今回、「なぜショルツ政権は……」というより、「なぜショルツ首相はレオパルト供与に抵抗するのか」について、これまでの情報をまとめたい。ショルツ首相はパリで開催されたエリゼ条約(仏独協力条約)60周年記念式典後の記者会見でも繰り返したが、ウクライナへの武器供給問題では3原則を標榜してきた。具体的には、_椎修文造螢Εライナを支援する、∨迷臉祥両鯡鶺々宗複裡腺圍蓮砲肇疋ぅ弔戦争の当事国となることを回避する、ドイツ単独で決定しない、の3原則だ。

 ウクライナへの攻撃用戦車供与問題では、ショルツ首相はを強調する場面が増えてきた。ウクライナへの武器支援でドイツが他の同盟国より先だって実施することを控え、米国、英国、フランスなどの同盟国と歩調を合わせて支援したいのだ。

 欧米で対ウクライナ支援にドイツ批判が高まっていることに対し、SPDの中では、「ドイツは援助額でも他の同盟国より多く支援してきた。支援を渋っている、といった非難は遺憾だ」という声が聞かれる。

 日本は湾岸戦争で米国に次いで多くのクウェートを財政支援したが、クウェート政府の感謝広告には貢献国として日本の名が記載されていなかったことがあった。日本外務省は当時、大きなショックを受けた。日本はその後も同じような苦い経験を重ねてきた。日本と同様、第2次世界大戦の敗戦国ドイツでは今、「わが国は他の国に負けないほどウクライナに支援してきたのに……」といった嘆き節が聞かれるのだ。

 ドイツは戦後、急速に経済復興し、世界の経済大国となったが、安保問題では常に慎重なスタンスを維持してきた。ウクライ支援でも他の欧州諸国に先だってウクライナに主用戦車を供与することに強い抵抗がある。ナチス・ドイツ政権の戦争犯罪問題は戦後のドイツ政権のトラウマとなっているといわれる。だから、ドイツは武器供与問題では単独では決定しない、という原則が生まれてくるわけだ。

 換言すれば、ショルツ首相にはレオパルト2をウクライナに供与する為に「外圧」が必要となるわけだ。米国や英国、フランスが主用攻撃用戦車をウクライナに供与するなら、ドイツは即レオパルト2をウクライに提供できる。ドイツはレオパルト供与に反対しているのではなく、同盟国と一緒に決定する時を待っているわけだ。

 ショルツ首相にとってそれだけではない。2021年の連邦議会選でSPDは「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)を破って第1党に飛躍して政権を担う道が開かれた。同時に、SPD内に左派グループが勢力を拡大した。その結果、ショルツ首相は武器関連問題に強い抵抗がある党内左派勢力の意向を無視できないのだ。

 ショルツ連立政権は昨年10月26日、ドイツ最大の港、ハンブルク湾港の4つあるターミナルの一つの株を中国国有海運大手「中国遠洋運輸(COSCO)」が取得することを承認する閣議決定を行った。同決定に対し、「中国国有企業の買収は欧州の経済安全保障への脅威だ」という警戒論がショルツ政権内で聞かれた。「緑の党」やFDPは対中国政策で厳しい規制を要求したが、最終決定はショルツ首相に一任され、取引は成立した。状況は今回のウクライナへのレオパルト供与問題と似ている。「緑の党」とFDPが供与を支持、SPDが供与に躊躇しているといった構図だ。ショルツ首相はSPD内の左派勢力からの「内圧」を無視できないのだ。

 まとめると、ショルツ首相は安保問題では「外圧」を必要とし、対中、対ロシアとの関係では「内圧」を無視できない。その結果、ショルツ首相は大きな代価を払うことになる。リーダーシップを発揮するチャンスを自ら葬っているのだ。

 2021年12月に発足したドイツ初の3党連立政権はその連立協定の「欧州と世界に対するドイツの責任」という項目で、「ドイツはヨーロッパと世界で強力なプレーヤーである必要がある。ドイツの外交政策の強みを復活させる時が来た」と強調したが、レオパルト供与問題を見る限りでは、ドイツの外交の強みはまだ発揮されていないのだ。

独政権「戦車供与問題」で不協和音

 ショルツ独政権は社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)から成るドイツ初の3党連立政権だ。政治信条、世界観が異なる3党連立政権について、政権発足当初から懸念はあった。SPDは中道左派政党、緑の党は環境保護を核に、安保問題では戦争反対の平和主義を党是としてきた。一方、FDPはリベラルな経済政策を中心に、安保問題では野党に下野した「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)に近い。その3党が2021年12月8日、「連立政権」を発足させた背後には、「ポスト・メルケル時代、ドイツの政界は刷新し、新しい時代の課題を乗り越えていかなければならない」といった使命感が強かったからだ。

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▲ドイツのピストリウス新国防相(独国防省公式サイトから)

 連立協定(178頁)のタイトル「自由、正義、持続可能性の為の同盟」をみても、3党の連立政権発足への意気込みを感じる。違いを超え、ドイツの刷新に取り組む、というものだ。特に、連立協定の中で「欧州と世界に対するドイツの責任」という項目では、「ドイツはヨーロッパと世界で強力なプレーヤーである必要がある。ドイツの外交政策の強みを復活させる時が来た」と強調し、「私たちの国際政策は価値に基づいており、ヨーロッパに組み込まれ、志を同じくするパートナーと緊密に連携し、国際的なルール違反者に対して明確な態度を示す」と記述している。

 特筆すべき点は、外相ポストを得た緑の党のアンナレーナ・ベアボック外相はウクライナ戦争ではいち早く厳しい対ロシア政策を提示、ウクライナへの武器供給でも従来の平和主義から脱皮し積極的に推し進めてきた。ウクライナ戦争で最も厳しいチェンジを要求されたのはシュルツ首相のSPDだ。ショルツ首相は「Zeitenwende」(時代の変わり目)という言葉を頻繁に使い、ウクライナへの軍事支援問題では党内の反対を抑えて同盟国と歩調を合わせてきた経緯がある。

 ウクライナ戦争が勃発して2月24日で1年目を迎える。軍事大国ロシアとの戦いでウクライナ軍は善戦し、ロシア軍に占領された領土を奪い返すなど攻勢に出てきた。その背後に、欧米諸国からの全面的援助、重火器を含む武器の支援があったからだ。

 戦いはいよいよ正念場を迎えてきた。ロシア軍は軍の大幅な刷新と拡大に乗り出してきている。一方、ウクライナ側はロシア軍の反撃を予想し、ゼレンスキー大統領は欧米諸国に重火器、特に攻撃用戦車の供与を要求してきた。

 独南西部のラムシュタインの米空軍基地で20日、「ウクライナ防衛コンタクト・グループ会議」が開催された。その会議ではドイツの攻撃用戦車レオパルト2をウクライナに供給するか否かが焦点となったが、ドイツのボリス・ピストリウス新国防相 は、「ドイツの在庫とパートナー国のシステムとの互換性を確認する必要がある」と説明して、決定を見送った。ポーランドとフィンランドは自国が保有するレオパルト2をウクライナに供与したいが、ドイツは承認に慎重な姿勢を崩していない。

 ところで、ピストリウス国防相はラムシュタインの米軍基地で、キーウに届けられる可能性のあるレオパルト戦車とその数のリストを作成するよう指示したと発表したが、独週刊誌シュピーゲルによると、国防省は軍が使用できるレオパルト2の在庫リストを昨年初夏に作成済みだというのだ。同誌によると、ドイツ連邦軍には合計312両の異なるシリーズのレオパルト2戦車があり、そのうち99両は昨年5月に軍需産業で修理中であり、1両は廃棄されたという。供与できるレオパルト2の在庫数は212両だ。シュピーゲル誌によると、在庫リストには、どのモデルがウクライナ供与に適しているかも示されているという。

 ドイツがレオパルト2の供与の決定を先延ばししたことが伝わると、独連邦議会防衛委員会のマリー=アグネス・シュトラック=ツィマーマン 委員長(FDP)は、「 歴史は私たちを見ています。残念ながら、ドイツは失敗した」と批判、「ポーランドやフィンランドのように自国のレオパルト2をウクライナに供与する問題で、ドイツはゴーサインを送るべきだった」と主張。それに対し、SPDの連邦議会院内総務ロルフ・ミュッツェニヒ氏は、「欧州は現在、戦時下にある。戦時中の政治は怒りや喘ぎのスタイルではなく、明晰さと理性をもって行うべきだ」と反論するといった具合だ。忘れないでほしい。これは与野党間の論争ではなく、ショルツ連立政権内の論争だ。与党内の潜在的な対立が浮かび上がったといえる。SPDがレオポルト2のウクライナ供与に反対し続けるならば、緑の党からもSPD批判の声が出てくるだろう。

 なお、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は20日夜のビデオメッセージで、「私たちは近代的な戦車を得るために戦わなければならない。他の選択肢がないのだ」と強調している。ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相によると、ウクライナ軍はポーランドでレオパルト2主力戦車の訓練を行う予定だという。

 クレムリンのスポークスマン、ドミトリー・ペスコフ氏が強調していたように、ロシアとウクライナ間の戦争の行方はレオパルト2の供与で大きく左右されるわけではない。レオパルト2の供与問題は欧州の盟主ドイツのウクライナ支援の本気度を占うシンボルとなってきているのだ。

独「主力戦車の供与で決定先送り」

 ドイツ南西部のラムシュタインにある米空軍基地で開催された「ウクライナ防衛コンタクト・グループ会議」は20日、ロシア軍と戦闘するウクライナ軍に今後も軍事援助を行うこと、特に、対空防衛システムの支援強化で参加国は合意した。ただ、最大の課題であったドイツの主力戦車、攻撃用戦闘車「レオパルト2」の供与では、キーウからの強い要請にもかかわらず、ドイツ側は「ウクライナ戦争のエスカレート」に懸念し、歩み寄りを見せなかった。

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▲オースチン米国防長官とドイツのピストリウス 新国防相(2023年1月20日、ドイツ国防省公式サイトから)

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▲独製攻撃用戦車「レオパルト2」の作成図(オーストリア国営放送公式サイトから、作成・ドイツ通信)

 同会議は、ロイド・オースティン米国防長官が、ウクライナのコンタクト・グループのメンバーを、海外で最大の米空軍基地ラムシュタイン空軍基地にドイツ、英国を含む、約50カ国の代表を招待し、ウクライナへの軍事支援について話し合った。

 ラムシュタイン会議開催1日前に就任したドイツのボリス・ピストリウス国防相は会議後の記者会見で、「供与するケースを考え、レオパルト主力戦車の在庫チェックを指示した。ドイツが攻撃用戦車の供与を阻止しているといった情報は間違っている。実際、ウクライナの支援国の間で意見が統一されていない。ドイツとしては関係国と緊密な調整を行い、レオパルトの供与問題もできるだけ早い段階で決定したい」と述べた。

 ドイツには主力戦車レオパルトにはバージョン1と2があり、ウクライナは特にレオパルト2を望んでいる。新国防相は、「ドイツの在庫とパートナー国のシステムとの互換性を確認する必要がある」として、「まだ何も決定していない」という。ポーランドとフィンランドは自国が保有するレオパルト2の供与を申し出ているが、ドイツは引き渡しには慎重な姿勢を崩していない。

 オラフ・ショルツ首相府は同日、キーウへの武器供与には3原則があると改めて指摘した。具体的には、_椎修文造螢Εライナを支援する、∨迷臉祥両鯡鶺々宗複裡腺圍蓮砲肇疋ぅ弔戦争の当事国となることを阻止する、ドイツ単独で決定しない、の3原則だ。

 会議開始前、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ビデオメッセージの中で、これまでの支援に感謝し、「私たちはウクライナの戦場で成果を上げているが、自由を守るための武器が次第に尽きてきた。ラムシュタインでは、ロシアのテロを終わらせるために、航空機、ミサイル、長距離砲などの供給で具体的な決定を下さなければならない」と要請し、武器の引き渡しの緊急性を強調。「ロシアによって開始された戦争は遅滞を許さない。ロシアは現在、最後の力を結集している。私たちはもっと迅速に対応しなければならない。ロシアのテロは長い議論を許さない。クレムリンを敗北させなければならない」と説明した。

 米国は既に25億ユーロ相当の追加武器供与を発表している。米国防総省によると、最新の援助パッケージには主力戦車 (エイブラムス) は含まれていない。援助内容は、59両のブラッドレー戦車、90両のストライカー装甲車、アベンジャー防空システム、および弾薬などだ。フィンランドは、4億ユーロの兵器、特に重砲を約束した。ドイツは、ウクライナで戦争が始まって以来、ウクライナに33億ユーロの軍事援助を行ってきた。ちなみに、フランスは4日、「軽戦車」の供与を決定、米独両国は5日に歩兵戦闘車を供給する意向を表明。英国も主力戦車を送ることをそれぞれ明らかにしている。

 ゼレンスキー大統領は20日夜のビデオメッセージの中で、「我が国の要望について、参加国から多くの理解を得た。ただし、私たちは近代的な戦車を得るための説得・交渉を続けなければならない」と述べている。

 ドイツがレオパルト供与問題で決定を避けたことについて、ウクライナのアンドリー・メルニク外務次官はヴェルト日曜版で、「大きく失望した。ベルリンはロシアからの攻撃を受けているウクライナへの武器援助において貴重な時間を無駄にしている。決定を渋るドイツ側の対応は不名誉といえる」と強調した。

 一方、オースチン米国防長官は西側の同盟国に対し、ウクライナへの支持をやめないよう警告し、「今はじっとしている時ではない。軍事援助を強化する時が来た。ウクライナの人々は私たちを見ている。クレムリンは私たちを見ている。そして、歴史が私たちを見守っている」と述べ、「必要な限り、ウクライナを支援することは疑いの余地のないことだ」と付け加えた。

 ただ、ドイツの主力戦車レオパルトのウクライナへの引き渡しに関する議論では、米国はドイツの立場を支持したという。オースティン国防長官は、ラムシュタイン会談終了後の記者会見で、「ベルリンは非常に長い間信頼できる同盟国であり、将来もそうであり続けると固く信じている」と述べている。近い将来のレオパルト2の供与を見据えての発言と受け取られている。

 興味深い点は、米国は現在、エイブラムス型主力戦車の提供を考えていないことだ。米国は明らかに、ロシア軍の占領している全地域をウクライナが取り戻せるとは考えていないからだ。米国のマーク・ミリー参謀総長は20日の会議後、「軍事的観点からみて、ウクライナが今年、領土の隅々までロシア軍を追い出すことは非常に難しい」と語っている。すなわち、米国はウクライナ戦争を交渉のテーブルで終わらせるべきだと考えているわけだ。ロシア側の占領領土を全て奪い返すまで停戦交渉には応じないと主張するゼレンスキー大統領とは明らかにスタンスが異なる。

 なお、ドイツがレオパルト2の供与を渋る背景について、私見を述べる。第2次世界大戦後、75年以上の年月が経過したが、ドイツには第2次世界大戦でのナチス政権の蛮行へのトラウマが依然ある。特に、ショルツ首相は冷戦時代の経験もあって、ロシアとの戦いを避けたい思いが人一倍強い。同首相は政権担当以来、「Zeitenwende」(時代の変わり目)という言葉を頻繁に口にし、ウクライナ戦争勃発後、軍事費の急増など安保問題にも積極的に関わってきた。紛争地のウクライナに重火器を供与してきた。ショルツ首相にとって自身のこれまでの政治信条とは異なる決定を下してきた。「Zeitenwende」がそのようにさせてきたというわけだ。レオパルト2の供与問題でも最終的にはウクライナ側の要望に応じる方向に変わるのではないか。同首相にとって、理想はレオパルト2の供与前にウクライナ・ロシア間の停戦交渉が始まることだろう。
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