ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ヨーロッパ

スイスで「中立国の堅持」問う国民発議

 フィンランド、そしてスウェーデンと北欧の代表的中立国の2カ国がその国是の中立主義を放棄し、北大西洋条約機構(NATO)に加盟した。ロシア軍がウクライナに軍事侵攻したことを受け、中立主義ではロシアの軍事的侵略から国を守れないという判断からのシフトチェンジだ。欧州では中立主義を堅持している国は2カ国となった。アルプスの小国オーストリアとスイスの両国だ。

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▲スイスのジュネーブの国連欧州本部(2012年11月1日、撮影)

 オーストリアではロシアのウクライナ侵略後、中立主義の堅持について議論が沸いたことがある。中立国だから紛争の地での軍事活動はできないが、地雷除去は人道支援の一環という判断からヴァン・デア・ベレン大統領が外遊先で提案した時、「地雷除去支援は中立主義に違反する」という声が出てきた。野党極右党「自由党」だけではなく、与党「国民党」党首、ネハンマー首相自ら「わが国は中立国だからウクライナでの地雷除去支援はできない」と説明し、大統領の提案をあっさりと却下した。

 そのネハンマー首相とタナー国防相は昨年7月1日、欧州の空域防衛システム「スカイシールド」(Skyshield)へのオーストリアの参加への意思表明を発表した時もそうだった。中立国と「スカイシールド」参加は整合するか、という議論が野党を中心に出てきた(「『中立主義』との整合問う2つの試験」2023年7月5日参考)。

 「ヨーロッパ・スカイ・シールド・イニシアチブ」(ESSI)はドイツのショルツ首相が2022年8月末に提案したものだ。現在設置されている防護シールドは、基本的にイランからの潜在的な脅威に備えたものだ。例えば、弾道ミサイルとの戦いや、無人機や巡航ミサイルからの防御において欠陥があり、ロシアからの攻撃には対応できない。そのため、新たな空域防衛システムが必要というわけだ。

 ただし、国民の大多数が中立主義の堅持を支持している段階では同国の中立主義の放棄、NATOの加盟といったギアチェンジは考えられない。実際、政府も国民もウクライナ戦争に直面しても中立主義を放棄するような動きはほとんど見られない。ある欧州外交官は、「オーストリアでは中立主義は宗教だ。改宗することは難しい」と解説していた。

 一方、スイスは中立主義の定義の見直し(「協調的中立主義」)や武器再輸出法案の是非を検討するなど試行錯誤してきた。ここにきて直接民主主国のスイスで「中立主義の厳格な維持」についての国民発議を問う国民投票が実施される可能性が出てきた。

 右翼ポピュリスト政党、スイス国民党(SVP)の元国会議員ウォルター・ウォブマン氏が新聞「ブリック」のインタビューで語ったところによると、「スイスの中立性の維持」という国民発議の国民投票実施に必要な10万人を大幅に上回る署名が集められたという。この発議は4月11日に正式に連邦首相府に提出されるという。

 スイスでもロシアのウクライナ侵略戦争が始まって以来、中立性は議論の対象となってきた。欧州連合(EU)加盟国ではないスイスは、EUがロシアに対して課した制裁を受け入れたが、軍事的中立は維持されてきた。

 国民党が準備している発議は、いかなる軍事同盟や防衛同盟にも参加しないよう求めている。軍事同盟や防衛同盟との協力は、スイスに対する直接の軍事攻撃があった場合にのみ可能と記されている。また、スイスは交戦国に対して「非軍事的強制措置」を取ることも禁止されるべきであり、今後対ロシア制裁に参加することは許されるべきではないと主張。国連に対する国の義務のみがこの禁止から免除されるというのだ。長年スイスで最も強い政治勢力を担ってきたSVPは当初からEUの対ロシア制裁導入を拒否し、ウクライナ戦争を含めスイスの中立性を厳格に解釈することを要求してきた。

 1815年のウィーン会議で永世中立を承認されて以来、スイスの中立は200年以上の歴史を有する。スイス公共放送(SRF)が発信するウェブニュースによると、ロシア外務省は2022年8月11日、「スイスがウクライナの権益を保護する利益代表部の役割を果たすことを認めない」という趣旨の声明を発表した。この声明は第1は敵国ウクライナへの対策だが、スイス側にとって「スイスを中立国とは見なさない」というロシア側の宣言と受け取られた。実際、ロシア側は「スイスは違法な対ロシア制裁に加担している」と説明し、同国が中立主義を破り、欧米側に立っていると非難した(「ロシア『スイスは中立国ではない』」2022年8月22日参考)。

 国民投票でどのような結果が出てくるかは分からないが、スイス国民はオーストリア国民と同様、現時点では中立主義を放棄する考えはない。ただし、その運営に当たってより柔軟に対応する方向に動いてきただけに、国民党の中立主義の明確化と堅持を求めた発議に対して、国民がどのような反応を見せるかが注目される。

独仏の間に隙間風が吹く

 人と人の関係はスムーズにいく時とそうではなく刺々しくなることがある。同じように、国と国との関係でも良好な時もあれば、対立する状況も出てくる。欧州の代表国フランスとドイツの関係もそうだ。ミッテラン大統領とコール首相が政権を担当していた時代、両国の関係は良好だった。しかし、独仏関係がここにきてウクライナ戦争での対応で意見の相違が表面化し、両国間で刺々しい雰囲気すら出てきたのだ。

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▲独仏ポーランド3国のワイマール・トライアングル首脳会談(中央・ポーランドのトゥスク首相)ベルリン、2024年03月15日、ドイツ連邦政府公式サイトから

 華やかな国際会議を主催することを好み、大胆な政策を表明するマクロン大統領に対し、派手なパフォーマンスは少ないが、着実に政策を推進するタイプのショルツ首相とはその言動が好対照だ。英国がまだ欧州連合(EU)の一員であった時、フランスとドイツの関係に大きな波紋は立たなかったし、問題があれば英国が両国の間で仲介的な役割を果たせた。しかし、英国のEU離脱(ブレグジット)後、フランスとドイツ両国は迅速に決断を下せるメリットもあるが、両国が対立する状況では英国のような調停役がいないため、関係の険悪化に歯止めがつかなくなるといった状況に陥る。

 マクロン大統領がパリで開催されたウクライナ支援国際会議で演説し、北大西洋条約機構(NATO)の地上軍をウクライナに派遣する提案をした時、ショルツ首相は表情を曇らせ、「そのようなことは出来ない。戦闘をエスカレートさせるだけだ」と一蹴した。米国からの独立を模索するマクロン大統領はこれまでも欧州軍の創設を提案してきた。マクロン氏は、「フランスは地上軍をウクライナに派遣する用意がある」と指摘し、「ロシア側に戦略的曖昧さを与える」と説明する。 

 ロシア軍とNATO軍の衝突でウクライナ戦争が欧州全域に拡大することを懸念するショルツ首相にとってマクロン氏の提案は危険過ぎる。それ以上に、マクロン大統領がショルツ首相とそのテーマで事前協議することなく、国際会合の場で地上軍の派遣の用意があると公表したことに、ドイツ側は不快を感じているのだろう。

 一方、フランス側に不快感を与えたのは、ショルツ首相が、イギリスとフランスの両国軍関係者がウクライナで自国の巡航ミサイル「ストームシャドウ」と「スカルプ」の使用に関与していることを公に語ったことだ。この種の軍事情報はコンフィデンシャルだが、それを公の場で語ったショルツ首相に対し、マクロン大統領は「外交上の慣例を破る」として不快感を露わにした、といった具合だ。

 マクロン大統領はウクライナ支援の重要性を強調し、ウクライナ問題では先駆的な役割を果たしているといった思いが強いが、欧州諸国のウクライナ支援ではドイツが米国に次いで2番目の支援国だ。実質的な欧州最大の支援国はドイツだ。実際より大げさに語るマクロン大統領に対して、ドイツ側はイライラしているといわれる。

 インスブルック大学のロシア問題専門家マンゴット教授は15日、ドイツ民間ニュース専門局ntvでのインタビューの中で、「マクロン大統領は大口をたたくが、実際の行動は僅かだ」と指摘し、「フランスとドイツ両国間の歴史的に強固な枢軸は益々重要性を失いつつある。パリとベルリンの間の対立はその明らかな証拠だ」と説明する。

 例えば、マクロン氏はウクライナ支援では「無制限な支援」を強調する一方、ショルツ首相は「レッドラインを維持しながら可能な限りの支援」を主張してきた。地上軍のウクライナ派遣問題についても、マクロン大統領は「戦略的曖昧さ」政策を強調するが、NATOは既にロシアとの全面的戦争はしないと表明済みだから、今更戦略的曖昧さと言っても意味がないというわけだ。

 ドイツがウクライナの要請にもかかわらず、巡航ミサイルタウルスの供与を拒否していることに、マクロン大統領は批判的だ。一方、フランス側のドイツの軍事供与への批判に対し、ドイツ側は「フランスの納入量はドイツよりはるかに少ない」と反論してきた。

 ウクライナ支援問題で意見を調整するために15日、ベルリンでドイツ、フランス、そしてポーランド3国のワイマール・トライアングルの首脳会談が開催された。それに先立ち、ショルツ首相はマクロン大統領と2時間余り首相官邸で会談している。ベルリンとパリの間で議論すべき多くの議題があったからだ。

 参考までに、フランスとドイツの両政府は、ショルツ首相とマクロン大統領の間に亀裂があることを否定している。ちなみに、フランスのセジュルネ外相は3月初め、「仏独間に対立はなく、問題の80%で合意している」とメディアに語っている。一方、ショルツ首相は13日、連邦議会で野党「キリスト教民主同盟」の議員から「マクロン大統領との関係」を問われ、「フランスとの意見の対立はない」と否定している。

 興味深い点は、仏紙フィガロの分析によると、ロシア軍のウクライナ侵攻直後、マクロン大統領は、「ロシアに余り屈辱を与えるべきではない」と、プーチン大統領に融和的な姿勢を取っていたが、ここにきて、「ヨーロッパとフランス人の安全がウクライナで危機に瀕している。もしロシアが勝てば、フランス国民の生活は変わり、ヨーロッパの信頼性はゼロになる」と警告し、ロシアに対して強硬姿勢を取ってきていることだ。その点、ショルツ首相のロシア観はロシア軍のウクライナ侵攻から今日まで変わらない。ロシアとの軍事衝突を回避するということだ。

 このようにウクライナ政策でマクロン大統領とショルツ首相との間で政策の相違が見られ出した。その違いが決定的な亀裂となるか、それとも外交上のニュアンスの相違に留まるか、ここ暫くは両国のウクライナ支援の動向を注視する必要があるだろう。

欧州人が理解できない「トランプ人気」

 2024年は「史上最大の選挙イヤー」(英誌エコノミスト)と呼ばれ、世界各地で大統領選、議会選などが実施されているが、そのハイライトは何といっても世界最強国・米国の大統領選だ。今年11月の大統領選には民主党から現職のバイデン大統領、共和党からはトランプ前大統領の出馬が確定したばかりだ。2020年の大統領選の再現となった。ここでは米大統領選の見通しをまとめるつもりではない。

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▲ワシントンで開かれたCPACの年次総会に参加したトランプ氏(UPI)

 欧州人は米国の大統領選に強い関心を寄せている。大西洋を挟んで米国と欧州の2大大陸が横たわっている。そして、欧州と米国は共にキリスト教圏に入り、民主主義を国是とする点など多数の共通点を持っている。同時に、多くの欧州人が理解できないことがある。その一つは共和党の大統領候補者に選出されたトランプ前大統領の人気だ。ズバリいえば、欧州ではトランプ氏への評価は高くない。それ故に、そのトランプ氏が再選された場合、欧州はどうすべきか、というシナリオが囁かれ出している。一種の危機管理メカニズムだ。

 トランプ氏は最近も、「軍事費をGDP比2%をクリアしない北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対して米国は防衛しない」と発言した。NATOはロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州の防衛という重要な役割を担っている時だ。それだけではない。「ウクライナ支援には一銭も出さない」とハンガリーのオルバン首相との会談の中で語った、というニュースが流れてきたばかりだ。その度に欧州の多くの政治家は首を傾げる。

 ただ、上記の問題は落ち着いて考えれば理解できる。グローバルな多様性社会を標榜してきたが、ここにきてその反動もあって米国ファーストに倣ったハンガリー・ファーストといった標語が欧州でも広がってきている。自国優先の政策を主張する国が増えてきている。トランプ氏はそれを誰よりも声高く叫ぶから批判にさらされるわけだ。

 欧州人が米国の政情を理解するうえで難しい問題がある。トランプ氏には4件の刑事裁判のほか、数多くの民事裁判が待っている。にもかかわらず、トランプ氏は11月の大統領選で再選される可能性があるという現実だ。欧州では1件でも刑事裁判を控えているならば、大統領に当選することは難しいだろう。トランプ氏は4件の刑事裁判と数多くの民事裁判を抱えているのだ。同氏の人気が衰えることはなく、再選の可能性は日増し現実的となってきているのだ。欧州人はやはり「米国は我々とは違う」と呟くことになる。

 例えは、トランプ氏はポルノ女優との不倫疑惑、口止め料13万ドル(約1950万円)の支払い問題で裁判を抱えている。ビル・クリントン元大統領(在任1993年〜2001年1月)のホワイトハウスのインター、モニカ・ルインスキー女史との性的スキャンダル事件を思い出してほしい。この種のスキャンダルは政治家に致命的なダメージを与える。欧州でも米国でも性スキャンダルが表面化した場合、選挙で苦戦を余儀なくされる。

 しかし、米国でのトランプ人気は変わらないのだ。トランプ人気を理解する上で興味深い点は、米国のキリスト教福音派関係者の対応だ。約7000万人の信者を抱える福音派はクリントン氏の性スキャンダルの時、「大統領にある者は道徳的、倫理的にもクリーンでなければならない」と批判し、「道徳と大統領職は分けることはできない」と強調してきた。もっともな主張だ。

 その福音派は今日、トランプ氏を熱烈に応援している。トランプ氏が中絶に厳格に反対を主張し、イスラエルの米大使館をエルサレムに移転させたことを評価し、「トランプ氏は神が遣わした大統領」と称賛してきた。トランプ氏の不倫問題については、「神はダビデを使われた。ダビデは側近ウリアの妻を愛していた。そこでダビデはウリアを最も激しい戦場に送り、そこで戦死させると、ウリアの妻をめとった。ダビデは明らかに過ちを犯したが、神は間違いを犯す人物を使って巨悪に立ち向かう。トランプ氏も間違いがあるが、神はそのような人物を神の摂理で利用されている」と解釈するのだ。ちなみに、トランプ氏は1月末、支持者にビデオを送り、そこで「私は神が遣わした者だ」と宣言している(独週刊誌シュピーゲル2024年03月09日号)。

 要するに、クリントン氏に対しては「道徳と大統領ポストは密接に繋がっている」として、不倫問題を抱えるクリントン氏は大統領には相応しくないと切り捨てたが、トランプ氏の場合、「人間は弱さを抱えている。神はその弱さ持つ人間を敢えて選んで、巨悪との戦いに使う」という論理を展開する。欧州の知識人がその論理を聞いたら、「典型的なダブルスタンダードだ」と一蹴するだろう。

 トランプ氏を熱烈に支援する米国の国民は、自分のように弱さをもち、不倫を犯しながらも神から離れられない人間トランプにシンパシーを感じているのではないか。一方、トランプ氏を好きになれない層はエリート層が多く、自分は間違いないという自負心が強いから、トランプ氏の発言に反発が湧いてくるのだろう。

 トランプ氏の伝記を読むと、トランプ氏の母親は「あの子は頭が悪いのよ」と口癖に言っていたという。母親から頭が悪いといわれ続けてきたトランプ氏はその後、その汚名を晴らすために努力していった。そんな出世話は米国では受けるが、欧州では「やっぱり、トランプ氏は頭が悪いのだ」と受け取る。多くの欧州人は米国のリベラルなメディアが報じる「トランプはプレイボーイ」「彼は虚言癖がある」といったトランプ評を信じる一方、米国の熱心なトランプ支持者はトランプ氏を救世主、神が遣わした者と受け取っている。欧州人と米国のトランプ支持者の間には乗り越えることが出来ない大きなパーセプションギャップがある。

ルペン女史とワイデル党首のパリ会合

 2024年は「スーパー選挙イヤー」だ。政治家の動きが活発化している。欧州では6月、欧州議会選挙が実施されることもあって、国を超えた政党間の話し合いも水面下で行われている。その一つ、フランスの右翼ポピュリスト政党「国民連合」( Rassemblement National=RN)のマリーヌ・ルペン女史(国民議会議員会長)とドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ワイデル共同党首が2月初め、パリで会合している。

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▲バルデラRN党首とルペン女史(2024年3月3日開催のマルセイユ大会のポスター、RN公式サイトから)

 欧州の代表的右翼過激派政党の代表、それも女性同士の会合ということでさぞかし華やかな雰囲気の中で話し合われただろうと想像するが、実際はかなり突っ込んだ話し合いが持たれたという。それだけではない。 欧州の政界では先輩格のルペン氏(55)はワイデル党首(45)に宿題を出し、ワイデル党首は近日中にその返答を書簡で送ると約束したというのだ。

 ルベン女史が出した宿題は「AfDが考えている移民について説明してほしい」、もう少し具体的にいうと、「Remigration」(再移民、集団国外追放)の概念について」というものだった。ルペン氏はワイデル党首に、「納得できなければ、欧州議会での会派としての連携を停止する」と脅迫したというのだ。ベルリンに戻ったワイデル党首はAfDの移民についての政策を説明した書簡を早速パリに送った。

 フランスは欧州最大のイスラム・コミュニティがある。欧州一の移民国家だ。だから、ルペン氏が隣国のAfDが移民政策をどのように捉えているかを理解しておく必要があったわけだ。特に、昨年11月のポツダムでの右派政党関係者の会合内容がメディアに報道されて以来、ルペン氏はAfDに距離を置き出していた矢先だった。

 このコラム欄で数回、ポツダム会合については報じてきた。ブランデンブルク州の州都ポツダム市(人口約18万人)で昨年11月25日、AfDの政治家や欧州の極右活動家のほか、「キリスト教民主同盟」(CDU)や保守的な「価値同盟」の関係者が参加し、オーストリアの最大極右組織「イデンティテーレ運動」(IBO)の元代表マーテイン・セルナー氏がその会合で、北アフリカに最大200万人を収容する「モデル国家」を構築し、難民を収容するという考えを提示したという。その際、Remigrationという言葉を使用したというのだ。第2次世界大戦の初めに、ナチスはヨーロッパのユダヤ人400万人をアフリカ東海岸の島に移送するという「マダガスカル計画」を検討したことがあったが、セルナー氏の「モデル国家」はそれを想起させるものがあった。

 調査報道プラットフォーム「コレクティブ」の報道によると、AfDの政治家、右翼保守団体「価値観同盟」のメンバー、右翼過激派や起業家らが2023年11月にホテルに集まり、そこで「外国人、移民の背景を持つドイツ人、そして難民を支援する全ての人たちを強制移住するマスター計画」などについて議論していたことが明らかになり、ドイツ国民や政界に大きな衝撃を投じた。その直後、ルペン氏は「AfDとは距離を置く」と述べていた。

 ワイデル氏はルペン氏に宛てた書簡の中で、AfDが「移民」という用語を使用したことを正当化し、「この言葉は単にドイツの既存法の適用を意味する」と主張。ポツダムでの会合については「AfDを弱体化させることを目的としたメディアの嘘と操作だ」と反論している。そして「国民の支持を失った不人気なショルツ主導政権は実質的な問題をカムフラージュするためにポツダム会合の内容を捏造してAfD批判をメディアに流している」というのだ。

 この説明でルペン氏が納得したか否かは不明だ。ルペン氏は中道派と調和し、右翼過激派の一角から抜け出すために努力してきた。2011年に党指導部に就任したとき、ルペン氏の最初の関心事は、当時まだ国民戦線と呼ばれていた党のイメージ改善だった。彼女は反ユダヤ主義的な発言をした党員を追放している。その中には彼女自身の父親、ジャン=マリー・ルペンも含まれていた。

 その後、ルペン氏は選挙で成功してきたが、その政治信条は大きくは変わらない。フランス・ファーストであり、国家、フランスの主権を強調し、大国を誇示、欧州連合(EU)とドイツを批判。外国人嫌悪が強く、イスラム教徒に対しては批判的だ。

 一方、AfDで思想的に影響力のある人物の1人、チューリンゲン州議長のビョルン・ヘッケ氏は国家社会主義の言葉を彷彿とさせるレトリックを常用し、国家社会主義に基づく専制政治を公然と主張している。ドイツの基本法は「ドイツ国籍を有する者はすべてドイツ人」と明記しているが、ヘッケ氏はそれを認めていない。単なる外国人排斥政策だけではない。反憲法、反民主主義、反ユダヤ主義的な世界観を標榜している。AfDは思想的にRNより過激であることは間違いないだろう。独連邦憲法擁護庁(BfV)がAfDを監視対象としているのも根拠がある。

 いずれにしても、RNは近い将来、中道右派としてその過激な言動を抑えていけば、AfDとの連携は遅かれ早かれ難しくなることが予想される。

欧州の「独自の核抑止力待望論」

 ドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンで16日から18日まで 第60回ミュンヘン安全保障会議(MSC)が世界各地から国家元首、政府首脳、軍事問題専門家などを招いて開かれる。MSCはスイスの世界経済フォーラム(通称ダボス会議)の安全保障版と受け取られ、毎年、ドイツ南部のミュンヘンで参加者が世界の紛争防止、安全保障問題などについて話し合う。報道によると、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加する。

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▲記者団の質問に答えるストルテンベルグNATO事務総長(2024年02月15日、ブリュッセルで、NATO公式サイトから)

 ところで、MSC会議の直前、トランプ前米大統領が今月10日、サウスカロライナ州の選挙集会で、「北大西洋条約機構(NATO)がロシアから攻撃されても、米国は軍事支出が少ない加盟国を守らない」と受け取れる発言をしたことが報じられると欧州で大きな動揺と困惑が生じている。MSCではトランプ発言について参加者の間でホットな討議が行われる見通しだ。

 MSCの開催に先駆け、ドイツのジグマ―ル・ガブリエル元外相は独週刊誌シュテルンに寄稿し、「欧州には信頼できる核の抑止力が不可欠だ」と語っている。同氏は、「このテーマを考えなければならない時が来るとは考えてもいなかったが、欧州の抑止力を高めるためには欧州連合(EU)における核能力の拡大が必要な時を迎えている。米国の保護はもうすぐ終わりを告げる。欧州の安全の代案について今すぐ議論を始めなければならない。私たちがこの質問に答えなければ、他の国が答えてしまうだろう。例えばトルコだ」と指摘し、欧州の自主的な核抑止力の強化を強調している。

 ガブリエル氏は、「欧州の安全保障を強化するにはドイツとフランス、理想的にはイギリスと協力した大規模な戦略的攻撃力を構築することだ。例えば、トランプ氏が再びホワイトハウスの住人となった場合、米政権がウクライナへの支援を拒否した時、欧州はどのようにしてウクライナを支援するかについて明確にする必要がある。ドイツを含め、欧州はそのような脅威についてまだ真剣に認識していないのではないかと懸念する」と述べている。

 欧州議会選でドイツ社会民主党(SPD)の筆頭候補者カタリーナ・バーリー氏は「ターゲスシュピーゲル紙」との会見で、「トランプ氏の最近の発言を考慮すると、欧州は米国の核の傘にもはや信頼することはできない」と指摘し、EUに独自の核抑止力が必要であると示唆している。

 興味深い点は、ガブリエル氏もバーリー氏もSPDに所属していることだ。ドイツでは過去、軍事力の強化などの安保問題では中道右派「キリスト教民主社会同盟」(CDU/CSU)が議論を先行させてきたが、ウクライナ戦争が始まって以来、SPDが軍事力の増額やウクライナへの武器支援などで積極的に論議している。ガブリエル氏は、「欧州最大の経済大国ドイツは欧州の抑止力強化に関する議論を主導していくべきだ」と、SPD主導のショルツ現政権に発破をかけているほどだ。ちなみに、CDU/CSU国会議員団のヨハン・ワデプル副議長は、「現時点ではそのような目標(欧州独自の核抑止力)には政治的、戦略的、技術的、財政的根拠がない」と、バーリー氏の独自の核抑止力論について時期尚早と受け取っている。 

 欧州の核抑止力は現在、NATOがその責任を果たしている。ストルテンベルグNATO事務総長は、「欧州全土でNATOの核抑止力を維持することは米国の利益と依然合致している」と説明、近未来、米国の戦略が変わることはないと強調している。

 現在、EUで独自の核兵器を保有している国はフランス1カ国だ。英国も核保有国だが、EU離脱(ブレグジット)以降はEU加盟国ではない。米国の核の傘の代わりに、フランスの戦略核が欧州の核の傘の役割を担えばいいという主張もあるが、核拡散防止条約(NPT)の制約もあって実行には難しい問題がある。米国の核兵器は現在、欧州ではイタリア、ベルギー、オランダ、ドイツのラインラント・プファルツ州のビューヒェルに保管されている。

 なお、ドイツのボリス・ピストリウス国防相は、「平和を望む者は戦争の準備をしなければならない」と述べている。第2次世界大戦後、長い平和の時代を享受してきた欧州は、ロシア軍のウクライナ侵攻後、その安全保障政策の抜本的な見直しを強いられている。

欧州安保論に一石投じたトランプ発言

 北大西洋条約機構(NATO)加盟国内でトランプ前米大統領の選挙集会での発言が大きな波紋と動揺を与えている。トランプ氏は10日、選挙集会で大統領在任時代の話として、「国防費を十分に支出しないNATO加盟国がロシアに攻撃されたとしても米国は守らないし、ロシアにしたいようにさせるだけだ、と語ったことがある」と述べたのだ。それがが報じられると、NATOの本部ブリュッセルからは大きな憤りと批判の声が飛び出したのだ。なぜならば、NATO憲章では加盟国が攻撃を受けた場合、集団防衛がその要となっているが、トランプ氏の発言はそれを完全に無視しているばかりか、ロシアを煽っているからだ。

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▲NATO加盟国の国旗(NATO公式サイトから)

 トランプ氏は現時点で米共和党の次期大統領候補者に最も近い政治家であり、バイデン米大統領とホワイトハウス入りを争っている。トランプ氏が11月の大統領選で勝利した場合、ロシアがバルト3国やポーランドに侵略したとしても、「米国は守らず、ロシアが好きなようにすればいいさ」といった状況が生まれてくる可能性が排除できなくなった、と受け取られている。だから、NATO加盟国はトランプ氏の発言を無視できないわけだ。欧州の盟主ドイツのショルツ首相は12日、「無責任だけではなく、危険な発言だ」と怒りを露わにしているほどだ。

 米軍抜きのNATO軍は脆弱だ。米国がにらみを利かしているからロシアはこれまでNATO加盟国に侵攻できなかったことは周知の事実だろう。トランプ氏のNATO軽視発言は今回が初めてではない。過去、NATO脱退すら示唆したことがある。

 トランプ氏の主張には正当性もある。NATO加盟国(31カ国)はこれまで安全保障問題は米国任せで自国の国防費の増額を実行せずにきた。それに対し、トランプ氏は「米国の若い兵士が約束を守らない国の国民を犠牲を払ってまで保護する義務はない」と批判してきた。米国を除いて国防支出を少なくとも国内総生産(GDP)比2%とするという公約を実行したNATO加盟国はポーランドなど一部だけだ。その意味で、トランプ氏の主張は暴言とは言えない。ちなみに、ロシア軍がウクライナに侵攻した直後、ドイツは国防費の増額を発表している。

 ただ、米国がNATOから脱退するということは現時点では非現実的だ。なぜならば、米上院議会で3分の2の支持がなければ脱退できないからだ。トランプ氏の共和党だけでは脱退できない。

 トランプ氏の発言に対し、NATO加盟国では、米国抜きの欧州の安保体制の強化が急務だという声が改めて出てきている。一部では米国の「核の傘」に代わって、欧州独自の「核の傘」を設置すればいいという意見が聞かれる。NATO加盟国では米国を除くと英国とフランスの2カ国が核保有国だ。米国の核の傘の代わりに、フランスの戦略核が欧州の核の傘となるという主張もあるが、核拡散防止条約(NPT)もあって実行までには難しい問題が山積している。

 ところで、ロシア軍のNATO加盟国への侵攻というシナリオに対し、オーストリアのインスブルック大学のロシア問題専門家、政治学者マンゴット教授は13日、ドイツ民間ニュース専門局ntvとのインタビューの中で、「ロシア軍の実力はウクライナ戦争でも明らかになったように、現在の通常兵器ではNATO加盟国を侵略する能力を有していない。ロシアがNATO加盟国攻撃の能力を有するには6年から10年はかかるだろう」と説明、NATO加盟国内へのロシア侵攻論を一蹴している。

 いずれにしても、トランプ氏の発言は、NATO加盟国向けというより、今年11月の米大統領選を意識した国内向けだろう。トランプ氏にとっては米国の国益を損なうことに反対する“米国ファースト”の延長に過ぎないのかもしれない。その意味で、米国と欧州のNATO加盟国の亀裂か、といって騒ぐ必要はない。プーチン大統領を喜ばすだけだ。ただ、トランプ氏の発言は、米国の軍事力に依存してきた他のNATO加盟国に自国の安全は自国で守るという基本的な立場を再確認する機会を提供したことは間違いないだろう。

 なお、NATOのストルテンベルグ事務総長は14日、記者会見でトランプ氏のNATO軽視発言に重ねて遺憾を表明する一方、「今年末までに18カ国のNATO加盟国が軍事支出をGDP比で2%の目標を実現する予定だ」と語った。

「2重国籍」は国の安全を脅かす問題だ

 日本では2重国籍は法的に禁止されているから、日本国籍所有者しか基本的にはいないことになっている。日本のメディアで2016年から17年にかけ、野党の国会議員が台湾と日本の2重国籍を所有しているのではないか、という疑いがもたれ議論を呼んだことを思い出す。当時、野党「民進党」代表の蓮舫氏だ。同氏は自身の国籍を明確にせずに選挙に出馬し、参議院議員に選出されていたことが明らかになり、選挙法の違犯問題まで浮上した(「蓮舫さんの“日本語”は美しい」2017年7月29日参考)

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▲1割の連邦議員は2重国籍のスイス連邦議会(スイス連邦議会公式サイトから)

 私人は別として、国会議員が2重国籍所有者だということは考えられない。なぜならば、日本の政治家は与党であろうと、野党であろうと、日本の国益を最優先にして考えなければならないからだ。その政治家が別の国籍をも有しているということは国家の安保問題を脅かすことにもなる。一種の2重スパイとなる危険性があるからだ。グロバリゼーションや多様性という言葉がまかり通る世界だが、国籍はやはり一国の国籍しか所有できないのではないか。

 当方が住むオーストリアでもトルコ人の2重国籍所有者が多い。だから、トルコ与党「公正発展党」(AKP)や野党関係者は欧州に出かけ、選挙運動をする。すなわち、外国で自国の選挙運動をするわけだ。それに対し、ドイツ、オランダ、スイス、オーストリアは国内でのトルコ人政治家の選挙運動を禁止してきた。なぜなら、欧州居住のトルコ人は与党支持派ばかりではない。クルド系や野党勢力を支援するトルコ人も多数いる。与・野党支持者が海外で激しい論争ばかりか、時には衝突も繰り返す危険性が高いからだ(EUには約700万人のトルコ系住民が住んでいる)。

 問題は、欧州居住のトルコ人は居住する国の国籍を得る一方、トルコ国籍を維持しているケースが少なくないことだ。すなわち、2重国籍者だ。欧州では2重国籍を基本的に禁止しているが、誰がトルコ国籍を所有しているかチェックできないため取締りが難しい。そのため、オーストリアの場合、トルコの総選挙などで駐オーストリアのトルコ大使館で投票するトルコ人がいたなら、「そのトルコ人はトルコの選挙権を持っていることになるから、その場でオーストリア国籍をはく奪すればいい」という声はあるほとだ。オーストリアには約36万人のトルコ系住民が住んでいる。その中には、オーストリアとトルコの2重国籍を所有する者が少なくない(「欧州トルコ人の『二重国籍』問題」2017年3月14日参考)。 

 しかし、世界は広い。2重国籍を認めている国が結構ある。そのうえ、政治家の中にも2重国籍者がいるというのだから驚く。スイス公共放送(SRF)のスイス・インフォスイスのヴェブサイトには「スイスの連邦議員、約1割が2重国籍」という見出しの記事が掲載されていた。以下、スイスの2重国籍の状況を同放送から配信されてきたニュースレター(2024年2月1日)から少し紹介する。

 スイス連邦議会では、議員の10人に1人がスイス国籍の他に外国籍を持つ。この割合は増加傾向にあるが、スイス国民に占める2重国籍者の割合に比べれば、まだ低い。SWI(swissinfo.ch)が最近実施した調査で、2023年秋の連邦議会選挙で選出された上下両議員246人のうち24人が2重国籍を持つことが分かった。その内訳は、国民議会(下院)が19人、全州議会(上院)が5人だ。

 同国では2000年代初めには連邦議会に3人しかいなかった2重国籍者は年を追うごとに増えてきた。国民全体で見ても、2重国籍者は増加傾向にある。2010年にはスイス国内に居住する国民の14%だったが、2021年には19%強に増えているのだ。

 2重国籍に反対する保守右派「国民党」は「外国人でもある連邦議員が、利益相反に陥り、スイスに不利益をもたらす可能性は排除できない。そこで議員就任時に、議員に外国籍の放棄を義務づける、あるいは連邦への忠誠宣言を求めるべきだ」という内容の意見書を連邦議会に提出した。ちなみに連邦議員は2022年以来、2重国籍申告を義務づけられている。

 スイス連邦議会では、2重国籍者は左派に多い。社会民主党(SP/PS)が13人、緑の党(GPS/Les Verts)が3人だ。他方、右派では、急進民主党(FDP/PLR)に3人、2重国籍問題を非難する国民党にも3人いる。連邦議会では、最も多いのはイタリア国籍で13人。次いで、ドイツ、フランス、トルコがそれぞれ3人だ。

 最後に、日本の安全問題にもかかわる北朝鮮人の2重国籍所有が増えていることを記しておきたい。2000年1月、イタリアが北朝鮮と国交を樹立したのを皮切りに、欧州連合(EU)加盟国は次々と北朝鮮と外交関係を樹立していった。同時に、欧州には欧州の国籍を有する北朝鮮人が多数生まれてきた。欧州で脱北者数が最も多い英国では、脱北者は政治難民として英国国籍を得る。北国籍はその段階で消滅するが、平壌当局が脱北者の国籍離脱申請に応じることはないから、脱北者は依然、北国籍者といえる。純粋な脱北者の場合は問題がないが、工作員の場合、彼らは欧州の旅券で欧州ばかりか、米国、日本などを自由に出入国できるのだ(「北朝鮮外交官夫人が2重国籍者の時」2016年11月8日参考)。

欧州で「農民一揆」が広がってきた

 農民一揆といえば、封建社会で農民が領主や地主に生活の改善を訴えて騒動を起こすことを意味した。日本史で学んだ代表的な農民一揆といえば、1684年の「貞享の一揆」が思い出されるだろう。年貢の軽減を訴えて農民が立ち上がった大規模な騒動だった。ところが、21世紀のいま、欧州各地で農家たちが政府の農業政策の改善などを訴えて抗議デモを行っている。

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▲ショルツ連立政権の農業政策に抗議するドイツの農業関係者たち 

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▲トラクターの抗議行進(いずれも2024年01月15日、ドイツ公共放送ARDの中継からスクリーンショット)

 ドイツではここ数週間、農業関係者たちがトラクターに乗って路上で抗議行進をし、ショルツ連立政権の農業政策の改善、ディーゼル燃料に対する政府の補助金削減やCO2税など増税の撤回などを訴えてきた。首都ベルリンでは18日、農業関係者数千人が市中心部をトラクターで占拠した。興味深い点は、農民たちの路上抗議デモに対して、一般国民は反対より支持が多いという世論調査が出ていることだ。一般国民はエネルギー価格の高騰、物価高、住居費の急騰などで苦しんでいることもあって、農民たちの苦情に対しても理解しているわけだ。それとは対照的に、過激な環境保護グループ「最後の世代」による路上封鎖などの行動に対しては、国民からは圧倒的に反対の声が強い。

 財政危機にあるショルツ政権は2024年の予算案をまとめたが、農業関係者への政府補助金は削減されていることが明らかになり、抗議デモ参加者は強く反発し、ショルツ政権の退陣を訴えている。

 隣国オーストリアでも極右政党自由党(FPO)が主導して農民たちの抗議デモがウィーンで19日、首相府官邸前で行われたばかりだ。オーストリアの場合、農業政策は与党の保守政党国民党がこれまで主導してきた経緯がある。すなわち、国民党にとって農業関係者は貴重な支持基盤なのだ。FPOが突然、ドイツに倣って農家たちを動員した背景には次期総選挙を計算にした政治的な狙いがあるわけだ。

 一方、欧州の農業国でもあるフランスでも農業関係者たちが政府の農業政策に抗議してきた。フランス南部で農業関係者が複数の高速道路や幹線道路を封鎖して政府の農業政策に抗議している。仏紙西フランスとTV局フランス・ブルーの報道によると、19日から始まったトゥールーズ広域圏の高速道路A20、A62、A64の封鎖は続いている。また、トラクターやわら俵でいくつかの国道の通行が封鎖されている。

 農業関係者たちはまた、牛に発生した動物間出血性疾患(EHD)への政府の援助を主張し、ガブリエル・アタル新首相が彼らの意見に耳を傾けるまで抗議活動を継続するという強硬姿勢を見せている。干ばつが続く地域では農業用ディーゼルの価格、一般的なエネルギーコスト、農家の収入減などがテーマとなっている。

 オーストリア国営放送は19日、「抗議活動の現場には簡易トイレ、発電機、食糧が供給され、封鎖がしばらく続く可能性があることが示唆された。農業関係者たちは高速道路の封鎖地点で夜を過ごした」と、フランスの農民一揆の状況をルポしている。

 欧州で農業関係者たちの抗議デモが広がってきたことに対し、オーストリア日刊紙スタンダードは19日、「農牧業者は政府からの補助金で潤い、動物たちを虐待しているという風に見られることに関係者は強い不満を感じると共に、若い世代には親代々から継承した農業を継続することを拒否する傾向が出てきている」と記し、問題は単に政府補助金の削減といった経済的な理由だけではないという。

 ウクライナは世界の穀倉地だ。そこで生産される小麦などの穀物は世界中で多くの人々の主食となってきた。それがロシア軍のウクライナ侵攻以来、ロシア側がウクライナの穀倉地帯を攻撃し、湾岸都市を封鎖して食糧の輸出を制止してきた。ロシアのプーチン大統領がウクライナ産食糧を武器にしてウクライナ政府に圧力を行使した時、アフリカやアジアなどウクライナ産穀物に依存している国はロシアの政策を批判したのは当然だった(「『食糧』を武器に利用するロシアのテロ」2022年6月3日参考)。

 その一方、ロシアとの戦争勃発後、一貫してウクライナを支持してきたポーランドで農民たちがウクライナ産の安価な穀物が市場に出回ることに不満を爆発させたため、ポーランド政府はウクライナ側に苦情を伝達したことはまだ記憶に新しい。

 安全保障問題と言えば、多くは軍事的な危機管理の観点から理解するが、国民が日々摂る食糧の確保も安全保障問題だ。世界的に人口増加による食糧需要の増大、気候変動による生産減少など、国内外の様々な要因によって食糧供給は影響を受けるから、国は常に食糧の安定供給に心を配らなくてはならない。国民の貴重な食糧を生産する農業関係者たちの抗議デモの拡大は、国の安全を脅かす深刻な問題と言わざるを得ない。それゆえに、政府と農業関係者の間で建設的な話し合いが行われることを願う。

デンマーク王室の王位継承式から

 中欧全土を治めたハプスブルク王朝時代への名残もあってか、オーストリア国民は欧州の王室の動きに強い関心がある。デンマークで14日、52年在位したマルグレーテ女王が退位し、フレデリック皇太子が新国王に即位する式典が挙行された。オーストリア国営放送は午後1時20分(現地時間)から3時間余り、コペンハーゲンとウィーンとを繋いでライブ中継した。

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▲デンマーク王室の王位継承式(2024年01月14日、デンマーク国営放送からスクリーンショット)

 当方は自宅でTVの前に座って式典をフォローした。家人が「デンマークの式典は明るくて気持ちがいいわね」という。聞くと、昨年5月の英国のチャールズ新国王の戴冠式は70年間在位していたエリザベス女王の死が大きく影響していたこともあって「少々重かった」というのだ。 

 ロンドンの載冠式は1000年の伝統に基づくもので、70年ぶりだったこともあって、全ての関係者が神経質になっていた。経験した者が誰もいないからだ。そのうえ、エリザベス女王が2022年9月、96歳で亡くなったこともあって、新国王の戴冠式は喜ばしい式典というより、亡き女王への追悼という思いが強く、少々寂しい雰囲気があった。

 マルグレーテ女王は自身の即位式の日(1972年1月14日)について、「私の人生でも最も悲しい日だった」と述べている。父王フレデリック9世死去の直後の即位式であったこともあって、女王は当時、華やかさはまったくなく、悲しさが強かったという。マルグレーテ女王が昨年末、突然、退位の意向を表明した背景には、息子フレデリック皇太子に自身が味わったような悲しみを体験させたくないために、存命中に王位の継承を決意したのではないだろうか。女王自身は自身の退位の理由について、健康状況を挙げていた。

 王位の継承式は簡単だった。クリスチャンボー城で政府代表者の立ち合いの中、マルグレーテ女王が退位意思を表明した文書に署名、それを受け、新しい国王に即位するフレデリック皇太子がその文書に署名すれば、王位継承式は完了する。正味20分余りの式典だ。バルコニーから国民の前で国王即位を発表、それを受け国民が3度フラー(万歳)と唱和する、といった具合だ。

 国王や女王に即位することは決して容易ではないだろう。だから、国王に就任したくないという王室関係者も出てくる。逆に、なぜ自分は国王に即位できないのかと不満を吐露する王室関係者も出てくる。

 マルグレーテ女王はフランス人のヘンリック殿下と結婚したが、同殿下は生前、何度も「どうして夫の自分が国王に即位できないのか」と不満を漏らしていたという。一方、長男として生まれたフレデリック皇太子は「自分は国王にはなりたくない」と考えていたし、弟(ヨアキム)は「自分のほうが国王に相応しい」と述べていたという。ちなみに、フレデリック皇太子は新国王に即位した直後、「自分は生まれてからこの瞬間を迎えるために準備してきた」と述べ、国王としての任務を全うする決意を表明している。

 前日のコラム欄でも書いたが、マルグレーテ女王が退位したことで、欧州の11カ国の王室では女性君主はいなくなった。オランダのベアトリックス女王は33年間在位した後、長男の現国王に王位を譲った。英国のエリザべス女王が96歳の高齢で死去した後、息子のチャールズ皇太子が新国王に即位した。エリザベス女王は70年間在位していた。そしてマルグレーテ女王が52年間の在位後、女王の座から自ら去ったわけだ。

 欧州の王室関係者の高齢化は進み、退位する時期を見つけ出すことが難しくなってきた。ローマ教皇の終身制はドイツ人教皇ベネディクト16世の生前退位表明で崩れた。そしてオランダやデンマークの王室のように、存命中に後継者に王位を継承する傾向が今後、欧州の王室で定着していくのではないか。

欧州の王室から「女王」が消えた

 デンマークで14日、マルグレーテ2世女王(83)が退位し、息子のフレデリック皇太子(55)に王位を譲る式典がコペンハーゲンで挙行された。デンマーク国民はフレデリック新国王・メアリー王妃(51)の国王夫妻の即位を祝った。マルグレーテ女王は健康を理由に退位を表明していた。

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▲フレデリック新国王夫妻(2024年01月14日、オーストリア国営放送の中継からスクリーンショット)

 欧州の王室では近年、女王が退位、ないしは死去して新しい国王が誕生するケースが増えてきた。マルグレーテ女王が退位したことで、欧州の11カ国の王室から女王はいなくなり、全て男性国王となる。

 例えば、オランダで33年間王室のトップを担ってきたベアトリックス女王(85)が2013年4月、長男のアレクサンダー皇太子(56)に王位を譲った。オランダ王室では123年ぶりの男性国王が誕生した。そして、在位70年間という王室歴代最長在位記録を残した英国のエリザベス女王は2022年9月に死去し、長男のチャールズ皇太子(75)が昨年5月、新国王に戴冠した。そして今回のマルグレーテ女王は在位52年後、王冠をフレデリック皇太子に譲ったことで、オランダ、英国、デンマークの3カ国の王室で「女王」から新しい「国王」が誕生したわけだ。

 欧州最古の歴史を誇るデンマークの王室でも過去、いろいろ噂や批判の声も聞かれた。フレデリック皇太子はシドニー五輪大会で知り合ったオーストラリア出身のメアリー妃と婚姻した。同妃の“モード狂”が国民の間で一時期批判されたが、今は国民の人気は高い。また、女王マルグレーテ2世のご主人、ヘンリック殿下(フランス出身)はデンマーク語が流暢に話せなかったことから、国民の間では人気がもうひとつだといわれてきた。一方、気さくな性格のマルグレーテ女王の場合、「デンマークの母」と呼ばれるほど国民的人気があった。デンマークでは男性国王が通常だったが、1953年、国民投票を通じて女王の道が開かれた。なお、マルグレーテ女王はヘビースモーカーとして知られてきた。同国のメディアによると、デンマーク国民の約80%が王室を支持している。

 日本の皇室と関係が深いオランダのベアトリックス女王は2013年1月、退位を表明し、同年4月に長男のアレキサンダー皇太子に王冠を譲ったばかりだ。オランダ王室の場合、1980年から33年間、オランダ王国に君臨してきたべアトリックス女王は息子(次男)王子をスキー事故で失うなど、心労が重なっていた。その意味で、ベアトリックス女王の退位表明は賢明な判断だったといわれた。

 新しい記憶としては昨年5月、チャールズ新国王の戴冠式だろう。母王エリザベス女王は2022年9月8日、96歳で亡くなった。バッキンガム宮殿から戴冠式が行われたロンドン中心部のウェストミンスター寺院までの道路沿いには多くの国民が旗をもち、戴冠式の様子を共有しようと前日から待っていた様子が映されていた。戴冠式の日は快晴ではなく朝から小雨が降っていたが大雨にもならず、世界から数千人のゲストが集まった。

 戴冠式は1000年の伝統に基づくもので、70年ぶりだった。そのため王室問題専門家は、「戴冠式では全ての関係者が神経質になっていた。経験した者が誰もいないからだ」と評していたのが印象的だった。BBCは80歳を過ぎた女性にインタビューしていた。彼女は、「10歳の時、エリザベス女王の戴冠式が行われたことは聞いていたが、何も憶えていない。チャールズ国王の戴冠式が自分にとって初体験だ」と答えていたから国民の大半にとって戴冠式の様子を見るのは初めてだったわけだ(「チャールズ国王は“聖霊”を受けたか」2023年5月8日参考)。

 参考までに、欧州の王室では世代交代が進んでいる。スペインの国王フアン・カルロス1世(86)は2014年6月2日、退位を表明し、フェリペ皇太子(55)に国王を譲位した。スウェーデンでは2010年6月に平民出身のダニエル・ウェストリング氏(50)と結婚したヴィクトリア王女(46)の国民的人気が高い一方、女性問題でスキャンダルが発覚し、人気を落としたカール16世グスタフ国王(77)の退位を要求する声が高まっている。「ヴィクトリア王女が女王に就任すべきだ」という世論調査結果が公表されるなど、王室は揺れている(「欧州王室」で世代交代の風が吹く」2014年6月8日参考)。

 欧州王室では世代交代が進む一方、王室のあり方にも変化がみられる。オランダのアレクサンダー国王は3代続いた女王時代とは違った王室の在り方をみせてきている。

 デンマークのフレデリック新国王は皇太子時代、マラソン大会に自ら参加するなどスポーツ好きで知られている。欧州の伝統的な王室のデンマークでどのような新しい王室を生み出すか注目される。

 ちなみに、英国では昔から女王時代のほうが国は栄えた、といわれてきた。それだけに、男性国王の奮闘が願われる。女王がいなくなった欧州の王室は寂しくなった。近い将来、新しい女王の誕生が期待できる王室はスウェ―デンだろう。
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