ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ヨーロッパ

「不法移民法案」は英国の命運を左右?

 独週刊誌シュピーゲルが昨年、英国のスナク政権誕生(2022年10月25日)に関連して特集記事を掲載していたが、その中で「移民家庭出身の政治家、閣僚は移民問題ではハードだ」と書いていたことを思い出した。同誌の予測は当たり、スエラ・ブレイバーマン英内相は7日、新しい不法移民法案(The Illegal Migration Bill、不法移民対策の強化案)を下院に提出したが、その内容は「ノー移民」、「移民禁止法と同じだ」といった酷評が聞かれるほど、ハードな内容だ。

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▲不法移民法案を下院に提示したブレイバーマン英内相(2023年3月7日、英国内務省公式サイトから)

(スナク首相は祖父がインド生まれ、父親がケニア出身、母親がタンザニア出身の長男として出生。ブレイバーマン内相は父親インド、母親タミル系出身、1960年代に両親は英国に移民)。 

 「不法移民法案」は、正式な移民許可を有していない移民希望者、すなわち不法移民は一時収容された後、即ルワンダや他の外国の移民収容所に送られる。不法入国した前歴のある移民は英国では移民権をはく奪され、移民申請は出来ない。国外退去強制に対する上訴の可能性も制限される。そのうえ、英国は今後、合法的に移民できる移民の数の最上限を設定する、といった内容だ。

 新しい「不法移民法」は国内だけではなく、他の欧州諸国や国連の難民機関、移民問題を扱う非政府機関(NGO)からも批判にさらされている。アムネスティ・インターナショナルは「英国は移民問題の責任から逃避している」と指摘し、「この法律は移民を禁止することと同じだ」と批判。野党の労働党は「法律は人権に反するもので、法として成立できるか疑問視せざるを得ない」と述べている、といった有様だ。

 ブレイバーマン内相は、「私たちの海岸に数万人の不法移民を運んでくるボートを止めなければならない。わが国では不法入国した者は逮捕され、速やかに国外追放されることが世界に知られるまで、不法移民は英国に来るだろう」と述べている。ちなみに、同内相は不法移民の殺到を「侵略」と表現している。同内相自身、「不法移民対策は中途半端ではない」(No half measures)と認め、「不法移民法案は、われわれの法律と英国民の意志に違反してわれわれの海岸に何万人もの移民を運んでいる船を止めることができる」と強調した。同相によると、2018年以降、約8万5000人が小型ボートで不法入国し、2022年だけで4万5000人が英国に入国した

 ジュネーブの難民条約によれば、政治的、民族的、宗教的な理由などで迫害されている人は誰でも亡命する権利がある。英国にも本来、適用される国際条約だが、同内相が提示した「不法移民法」は明らかにそれらの権利すら拒否している、という声が強い。

 興味深い点は、不法移民法案が移民関連の国際条約や英国の人権法に違反している可能性があることを同内相自身が自覚していることだ。英紙ガーディアンによると、ブレイバーマン内相は保守党議員に自分の計画を提示したとき、その法案が人権法に「50%以上」違反していることを認めたというのだ。

 ガーディアン紙によると、英国で現在、16万6000人が移民申請の決定を待っている。英国通信社PAによると、既に今年これまでに約3000人の移民が英仏海峡を渡ってきた。2022 年には4万5755人だった(前年比60%増)。フランスは英国の要請でフランス側沿岸の取り締まりを警官を増員して強化したが効果を上げていない。

 国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR) も英国の不法移民法案について深い懸念を表明している。UNHCRによると、「この法律は移民禁止を意味し、英国に不法に到着した難民は、その主張がいかに真実で説得力があるものであっても、難民として保護される権利が認められないことになる」と指摘している。また、「英仏海峡を渡る男性、女性、子供の大半は、戦争、紛争から逃れるためにくる。新しい法案は海峡を渡ってくるボート難民のトラウマをさらに悪化させ、世界での英国の評判を損なうだけだ」という声すら聞かれる。

 英国は過去、不法移民をルワンダに収容するためにルワンダと協定を締結し、英国はルワンダに1億4000万ポンド(約1億5600万ユーロ)を支払っているが、欧州人権裁判所 (ECtHR) が介入して以来、英国からルワンダへの強制送還便は今のところない。

 なお、リシ・スナク首相は、「不法移民を止めることができない場合、将来、本当の難民を助ける可能性が制限されるだろう。これらの措置の厳しさについて議論があることを理解している。私が言えることは、私たちはあらゆる方法をこれまで試みたが、うまくいかなかったということだ」と述べている。

 ところで、スナク首相もブレイバーマン内相も移民家族の出身だ。ブレイバーマン内相は8日、「不法移民法」への批判に対し、「思いやりと共に、必要かつ公正な措置が重要だ」と説明している。スナク首相やブレイバーマン内相は、移民問題で厳しい政策を主張する保守党内の右派勢力の支持を得るために、厳しい移民政策を施行しようとしている、といった意見も聞かれる。いずれにしても、家族の出自が移民の場合、閣僚や政治家は「移民問題」では不自然なほど厳しく対応する傾向がみられる。

 同内相は下院での法案発表時に、「2015 年以来、英国は50万人近くの人々の移住を認めてきた。その中には、独裁政治から逃れた香港からの15万人、プーチンの戦争から逃れた16万人のウクライナ人、タリバンから逃れた2万5000人のアフガニスタン人が含まれている。実際、私の両親は何十年も前にこの国に移住し、安全と機会を見いだした。私の家族は永遠に英国に感謝している」と述べた。不法移民法案のプレゼンテーションの中でこの発言部分が最も印象的だった。

ポルトガル教会よ、お前もか!!

 南欧ポルトガルは伝統的なローマ・カトリック教国だ。首都リスボンから北部ほぼ130kmに小村ファティマがある。ブドウ畑の小村には1917年5月13日、3人の羊飼いの子供たち(フランシスコ、ヤシンタ、ルチア)に聖母マリアが降臨し、通称「ファティマの預言」と呼ばれる3つの預言を告げた。1960年まで封印された3番目の預言はひょっとしたら人類の終末、核戦争の勃発を予言していたのではないか、ということでメディアでも一時大きな話題を呼んだ。

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▲聖職者の性犯罪報告書を発表する独立調査委員会(2023年2月13日、リスボンで、ポルトガル司教会議公式サイトから)

 当方は1997年、「ファティマの預言」80周年を取材するためにファティマに出かけた。3人の羊飼いの1人、ルチアが当時まだ存命で、コインブラのカルメル会修道院に住んでいると聞いていたので、ルチアに会って封印された3番目の預言について聞き出そうという野心に燃えていた。いずれにしても、ポルトガルは欧州では当時、貧しい国だったが、カトリック教会は国の大きな支柱となっていた。

 そのポルトガル教会の聖職者の性犯罪を調査する「独立調査委員会」が13日、最終報告書を発表した。それによると、過去70年間で少なくとも4815人の子供たちが聖職者たちから性的虐待を受けている。

 独立調査委員会(6人構成)の議長、児童精神科医のペドロ ・ストレヒト氏は、「500人以上の犠牲者から聞き取りをしてきた。実際の犠牲者数はもっと多いと予想している」という。同議長によると、犠牲者は平均11・2歳で、25件の虐待事件はすでに検察に送致されている。そのうち数件はすでに時効となっていた。いずれにしても、教会と司法当局は今月末までにカトリック教会で聖職者としてまだ活動している全ての加害者のリストを受け取る予定だという。

 独立委員会は2022年初頭から調査を開始している。同議長は、「われわれは合計で500人以上の証人から話を聞いてきた。ほとんどの虐待事件は1960年から2000年の間に発生したものだ。時効となった件数も多い。25件は警察に引き渡された。いくつかの調査は始まっている」と語った。

 調査委員会関係者によると、インタビューを受けたさまざまな年齢の犠牲者のほぼ半数 (43%) は、過去の事で苦しみ、何十年も沈黙を守ってきた後、初めて委員会に話したという。被害者が聖職者の性犯罪を法的に訴えた件数は全体の4%に過ぎない。聖職者の性的虐待件数の27%は、「虐待行為が1年以上続いた」という。

 報告書は、被害者の悲惨な発言を引用している。「母に話したとき、母は私を信じてくれませんでした。そして、彼女は私が有罪だとさえ言いました」と、子供の頃に聖職者から虐待を受けた1人の女性は証言している。「ポルトガルで聖職者の性犯罪について話すことは非常に難しい」と被害者が述べている。報告によると、43歳の女性は17歳のときに告白中に神父にレイプされている。彼女の事件は、現在警察が捜査している数少ない事件の1つだ。

 ポルトガル教会司教会議(CEP)のドン・ホセ・オルネラス議長は、「苦しんでいる人々の痛みに深く懸念する」と述べた。CEPの特別セッションは3月3日に開催されることになっている。CEPによると、被害者1人あたり最大6万ユーロ(約850万円)の金銭的補償が議論されることになっているという。それを聞いた被害者とそのスポークスマンは憤慨してCEPの提案を拒否したという。

 独立調査委員会は記者会見で、「聖職者の未成年者への性的虐待問題を今後も継続して監視していくためには新しい機関の設立が願われる」と提言している。なお、ローマ教皇フランシスコは8月、リスボンを訪問し、聖職者の性犯罪の犠牲者と会合する話が出てきているが、正式にはまだ決まっていない。

 アイルランド、ドイツ、フランス、イタリア、米国、オーストラリアなど世界各地のカトリック教会で聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発している。教会指導者はその度に事件を隠ぺいしてきたことが明らかになっている。

 ポルトガル教会よ、お前もか!!

ウクライナ支援で蘇った英国の外交

 ロシア軍のウクライナ侵攻から今月24日で1年目を迎える。ロシアのプーチン大統領は軍の再編成を終え、大規模な軍攻勢を仕掛けてくるのではないかと予想されている。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は今月8日からロシア軍侵攻以来2回目の海外訪問に出かけ、英国、フランス、欧州連合(EU)の本部ブリュッセルを次々と訪問し、軍事支援を訴えてきた。

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▲ゼレンスキー大統領を歓迎するスーナク英首相(2023年2月8日、英首相官邸公式サイトから)

 興味深い点は、ゼレンスキー大統領が最初の欧州訪問先に英国を選んだことだ。ある意味で当然の選択ともいえる。ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、英国は欧米諸国の中で最も早く支援を実施し、キーウが願う軍事支援を迅速に応じてきたからだ。攻撃用戦車の供与が問題となった時、ドイツのショルツ首相が世界最強の戦車「レオパルト2」の供与問題で国内のコンセンサスを得るのに時間がかかった。スーナク英首相は1月14日、同国の主力戦車「チャレンジャー2」の供与をいち早く申し出ている。ショルツ首相が「レオパルト2」の供与を決定したのはそれから11日後の1月25日だ。

 軍事的観点からいえば、ウクライナ軍にとって北大西洋条約機構軍(NATO)で最も広く配備されているドイツ製「レオパルト2」が最適だったが、英国の攻撃用戦車の供与はショルツ独政権や他の同盟国に戦車供与への圧力となったことは間違いない。その意味で、ゼレンスキー大統領は欧米諸国の中で常に先頭を切って支援を実施してくれる英国に感謝しているはずだ。

 一方、EU離脱(ブレグジット、2020年1月31日以降)後、英国は厳しい経済事情、国内問題を抱えていた時、ウクライナ戦争が勃発した。ジョンソン首相(当時)はいち早くキーウを訪問し、ウクライナへの軍事支援を世界に向かってアピール。ジョンソン氏は辞職後もキーウを再度訪問し、ゼレンスキー大統領と会談している。表現は不適切かもしれないが、ウクライナ戦争はEU離脱後の英国の外交を復活させる絶好の機会となったわけだ。

 インスブルック大学の政治学者、ゲルハルト・マンゴット教授はオーストリア国営放送とのインタビューで、「英国はウクライナ戦争に深く関与することで、往年の英国の外交力を回復させようとしている」と述べている。

 英国にとって対ロシア関係は久しく険悪な関係だったこともあって、英国の外交は全面的にウクライナ支援に傾斜していった。英国で2018年3月4日、亡命中の元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が、英ソールズベリーで意識を失って倒れているところを発見された通称スクリパリ事件が起きた。調査の結果、毒性の強い神経剤、ロシア製の「ノビチョク」が犯行に使用されたことが判明し、英国側はロシア側の仕業と判断し、ロシア側の情報機関の蛮行に対して、強く反発してきた経緯がある。

 英国の外交にとって有利な点は、EUの盟主ドイツが第2次世界大戦時のナチス・ドイツ軍の戦争犯罪という歴史的な負い目もあって、紛争地への軍事支援が難しい事情があることだ。ショルツ首相が「レオパルト2」をウクライナに供与するかどうかで多くの時間をかけた姿が世界に流れ、「ドイツはウクライナ支援にブレーキをかけている」といったドイツ批判がメディアで報道された。

 一方、ドイツの過去の負い目を巧みに利用し、欧州外交の主導権を狙うマクロン仏大統領にとってドイツ抜きでは経済支援を含めウクライナ支援は難しい。27カ国から構成されたEU加盟国の中には、フランス主導のパフォーマンスを中心としたEU外交を良しとしない国が少なくない。慎重だが、経済力を持つドイツ抜きではEUの問題を解決できないからだ。

 ゼレンスキー大統領は8日、ロンドンでスーナク英首相と会談し、議会で演説を行った。そこで同大統領は、「ウクライナの勝利のために戦闘機の供与を」と訴えた。スーナク首相はキーウの願いに対して快諾したわけでないが、検討を約束している。

 攻撃用戦車の供与問題でもそうだったが、欧州諸国が決定するまで時間がかかることを学んだゼレンスキー大統領は攻撃用戦車の供与が決定した直後、時間を置かず素早く「次は長射程ミサイルと戦闘機の供与を」と要求した。ゼレンスキー大統領がその最初のアドバルーンを英国で上げたのは当然だった。

 EU加盟国の間では、ウクライナを支援する点でコンセンサスはできているが、ハンガリーのオルバン政権はロシアのプーチン大統領に親密感を持ち、その人脈で低価のロシア産天然ガスを獲得するなど、加盟国内で対ロシア政策、制裁では一致はしていない。

 ちなみに、マクロン仏大統領がEU首脳会議の前日の8日、欧州歴訪中のゼレンスキー大統領をパリに招き、ショルツ独首相と共に会談し夕食会まで開催したことについて、招待されなかったイタリアのメローニ首相は9日、「不適切だ」と批判している。EUの首脳陣の中には、いがみ合い、嫉妬、嫌悪といった感情が皆無ではないわけだ。

 なお、EUのフォンデアライエン欧州委員長によると、EUは過去1年でウクライナ支援に670億ユーロ(約9兆4300億円)を拠出したという。EUは9日、対ロシア追加制裁として100億ユーロ(約1兆4000億円)超相当の輸出禁止措置を盛り込むことを明らかにしたばかりだ。

 英国はEUから離脱したこともあってブリュッセルの意向に拘束されず、フリーハンドでウクライナ支援を決定できる。これは、英国がウクライナ支援でEUのドイツやフランスより一歩先行している大きな理由だ。

 ウクライナで戦争が続く限り、英国の外交はEUの外交を上回るスピードと決断力を発揮するだろう。戦争が終わり、「ウクライナの復興」問題が前面に出てきた時、ドイツを中心としたEUの外交が英国に代わって主導的な役割を果たすのではないか。

英国王子と名誉教皇秘書の「暴露本」

 著名人の暴露本は人気がある。英王室から追放されたヘンリー王子(38)が英王室時代の出来事を書いた自伝「スペア」(SPARE)が10日、発表されるが、スペインで間違って早く公表されたこともあってメディアでは今年に入り、同自伝の中で興味深い話が既に報じられている。その結果、王子の自伝に関する関心は高まり、ベストセラー入りは確実で、出版社も大喜びといった状況だ

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▲ヘンリー王子の自伝「スペア」とゲンスヴァイン大司教の新著「Nothing but the Truth」

 王子の自伝の中には、ヘンリー王子がメガン妃の件でウィリアム皇太子(40)と喧嘩し、兄のウィリアム皇太子から暴力を受けたという話から、ヘンリー王子がアフガニスタンに従軍していた時、25人のタリバン兵士を殺害した、といったかなり際どい内容まで書かれているという。兄弟喧嘩はどこの社会でもあるから問題はないが、後者は英軍関係者も深刻に受け止めている。英国の国家安全保障を危険にさらす事態も予測される。タリバンも黙ってはいないからだ。

 また、ヘンリー王子は父・チャールズ国王(74)に対してもその人物評は厳しい。新国王は冷たい人間だと切り捨て、自分が生まれた時、ダイアナ王妃に対し「これで後継者(ウィリアム皇太子)とそのスペア(ヘンリー王子)ができた」と語ったという。ヘンリー王子はその話を聞いて、自分が英王室のスぺア的な存在に過ぎないと感じ、自虐的に受け止めたとしても不思議ではない。

 ヘンリー王子の暴露本を紹介するのが今回のコラムの目的ではない。読者の多くは既にご存じだろう。ここではもう一つの暴露本がまもなく出版されるという話を紹介したい。世界に約13億人の信者を有するローマ・カトリック教会の総本山、バチカン教皇庁は英王室と同様、閉鎖社会だ。その中心はペテロの後継者のローマ教皇だ。そして昨年末に死去した名誉教皇ベネディクト16世の私設秘書ゲオルグ・ゲンスヴァイン大司教がフランシスコ教皇とベネディクト16世に仕えてきた聖職者の立場から、両教皇の関係や問題などを暴露した本を出版したのだ。同暴露本「Nothing but the Truth」がフランシスコ教皇を批判していることから、バチカン関係者は心穏やかではない。予定では今月12日に出版される(電子版)。

 66歳のドイツ人聖職者ゲンスヴァイン大司教の本の狙いは亡くなったベネディクト16世の知られていない顔を読者に伝えるといった穏やかなものではなく、ズバリ、フランシスコ教皇批判に集中しているのだ。教理省内高官が2017年5月、自分は同性愛者だと告白して、バチカン内に広がる同性愛傾向を暴露した本(「最初の石、同性愛神父の教会の偽善への告発」)を出版した時、カトリック教会内外で大きな反響を呼んだが、ゲンスヴァイン大司教の本はカトリック教会最高指導者への批判が記述されているからその影響はさらに深刻だ。

 ゲンスヴァイン大司教の本を理解するためには同大司教とフランシスコ教皇との関係を知る必要がある。同大司教はベネディクト16世の在位期間、その公設秘書として常に同16世の傍で従事してきた。その同16世が2013年に生前退位し、南米出身のフランシスコ教皇が後継の教皇に選出された後、数年間はフランシスコ教皇の秘書の仕事を継続していたが、2020年、フランシスコ教皇は自身の秘書を選び、ゲンスヴァイン大司教を解任する形で教皇庁教皇公邸管理部室長の立場を停職させた。大司教の仕事を名誉教皇となったベネディクト16世のお世話係の地位(私設秘書)に限定したわけだ。フランシスコ教皇の人事について、同大司教は本の中で「大きなショックを受けた」と正直に告白している。

 本の中ではまた、フランシスコ教皇がラテン語のミサなどを完全に撤回した時、ベネディクト16世はショックを受けたという。また、フランシスコ教皇のジェンダ―政策に対し、ベネディクト16世が「社会のジェンダー政策は間違っていると、もっと明確に批判すべきだ」という趣旨の書簡をフランシスコ教皇に送ったが、フランシスコ教皇からは答えがなかったという。同大司教は、ベネディクト16世とフランシスコ教皇の関係がメディアで報じられるような兄弟関係ではなく、最初から厳しいものがあったことを示唆、その責任の多くをフランシスコ教皇に押しやっている、といった具合だ。

 バチカン関係者によると、フランシスコ教皇はゲンスヴァイン大司教の本の内容を不快に感じているという。同大司教はベネディクト16世以上に保守的な聖職者と言われている。バチカン教皇庁内では「大司教の本の出版は教会の統一を破壊する恐れがある」として、本の出版を阻止すべきだという強硬発言すら出てきている。

 オーストリア日刊紙スタンダートのドミニク・ストラウブ記者は8日付のローマ発の記事の中で、「フランシスコ教皇とは異なり、ゲンスヴァイン大司教はローマの上流社会を愛し、テニスをし、バチカンのジョージ・クルーニーとしての評判を楽しんできた」と記し、両者は生活スタイルから全く違っているという。

 いずれにしても、現教皇を批判した本を出版したゲンスヴァイン大司教は無傷では済まないだろう。バチカン教皇庁から追放され、ドイツ教会で空席となっている2つの大司教区のどちらかに左遷させられるかもしれない。ただ、改革志向のドイツ司教会議では保守派の任命には抵抗を示すだろう。教皇の大学で教授職を得るかもしれない。同大司教がフランシスコ教皇を過度に苛立たせたならば、彼は使徒使節として世界の遠隔地に強制派遣されるかもしれない。

 ヘンリー王子の英王室批判、ゲンスヴァイン大司教のフランシスコ教皇批判も基本的には個人的な恨みがその原動力となっている。悪いのは相手で自分は正しい、自分は犠牲者だという思いが両者には強い。現代社会で席巻している犠牲者メンタリティーだ。

 英王室の場合、社会からの批判に対して反論してはならない。ヘンリー王子の批判に対し、チャールズ国王もウィリアム皇太子も反論できないのだ。民主的社会ではフェアではないが、英王室の慣習だ。ヘンリー王子の中傷やフェイクに対しても沈黙しかない。フランシスコ教皇の立場も英王室のそれに似ている。教皇本人は論争に絶対加わらない。

 著名な人物の暴露本は多くの読者を獲得する。特に、英王室やバチカン教皇庁といった閉鎖社会の内輪話に読者は好奇心を煽られるからだ。ただ、暴露本の話が全て事実とはいえない。なぜならば、暴露本を出版する側には明確な目的、狙いがある。ヘンリー王子もゲンスヴァイン大司教もやはり自分を追い払った王室、教皇に対する批判的な思いを払しょくできないだろうから、公平で客観的な記述は難しい。読者は暴露本を通じてこれまで知らなかった事実、情報を発見して驚くかもしれないが、フェイク情報、憎しみに基づいた偽情報にも出くわす。暴露本の読者はその点を忘れてはならないだろう。

加速する西バルカンの欧州統合

 欧州連合(EU)27カ国の加盟国首脳は15日から始まるサミット会談でボスニア・ヘルツェゴビナのEU加盟候補国入りを正式に決定する。同時に、コソボとジョージアの2カ国に「潜在的な候補国」のステイタスを付与する予定だ。

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▲ボスニアのファディル・ノヴァリッチ連邦首相(ボスニア・ヘルツエゴビナ連邦政府公式サイトから)

 欧州委員会は10月、ボスニアの加盟候補国入りを推奨していた。欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は今月6日、アルバニアの首都ティラナで開催されたEU・西バルカン諸国サミット会議で、「加盟プロセスがここにきて再び勢いを増している」と述べ、西バルカン6カ国、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、北マケドニア、モンテネグロ、セルビアの国家元首と政府元首に対し欧州統合への希望を提示したばかりだ。EUは6月の首脳会談でウクライナとモルドバ2カ国を加盟候補国に引き上げた。

 EU加盟の新規拡大に対してはこれまでフランスなどは慎重な姿勢を崩してこなかった。フランスのマクロン大統領は、「先ずEU27カ国内の結束の強化を優先すべきで、新規拡大はその後だ」と主張してきた。

 一方、ドイツやオーストリアは西バルカン諸国の欧州統合推進派だ。オーストリアのカール・ネハンマー首相は、「西バルカン諸国のEU加盟国促進は歴史的な一歩」と称賛し、旧ユーゴスラビア共和国のEU加盟候補国の地位を支持してきた。その理由として、「欧州の入口の西バルカンの地域安全と安定は極めて重要であり、それを構築するのは欧州の責任だ」と説明している。

 ちなみに、オーストリアのファスルアーベント元国防相は11月11日、当方とのインタビューで、「ロシアのウクライナ侵攻で軍事力を行使して国境線を変更する軍事的試みは失敗した。そして将来も成功することはあり得ないことを教えている。欧州は統合と多様性のあるシステムを構築し、各民族の特徴を維持する政治、社会体制を築いていくことが大切だ。その観点から、EUは西バルカン諸国の安定問題では大きな役割を担っている」と述べている。

 西バルカンを含むバルカン全域は過去、「民族の火薬庫」と呼ばれ、民族間の紛争が絶えなかった。ボスニア紛争(1992年3月〜95年12月)やコソボ戦争(1998年2月〜99年6月)が勃発し、多数の犠牲者を出してきた。その西バルカン諸国の安定は欧州にとって死活的問題であり重要な意味がある。

 ところで、フォン・デア・ライエン委員長の「新規加盟プロセスがここにきて勢いを増してきた」とは具体的に何を意味するのか。ズバリ、ロシアが2月24日、ウクライナに軍事侵攻したことだ。同委員長にはロシアのウクライナ侵攻を前に、西バルカンの欧州統合を急ぐ必要が出てきた、という戦略的な判断が働いていることは間違いない。同時に、西バルカンでの中国の経済的影響力の拡大が大きな懸念材料として浮かび上がっていることだ。

 フォン・デア・ライエン委員長は、「ウクライナ戦争は独裁政治が勝つのか、民主主義と法の支配が勝つのかの問題を提示している。どちらの側にいるかを決定する必要がある。後者はEU加盟だ」と述べ、西バルカン諸国のリーダーに欧州統合への意欲を促している。

 EU加盟候補国は現在、8カ国だ。トルコ(2005年以来、EUとの加盟交渉は現在凍結中)、モンテネグロ(2012年)、セルビア(2014年)、北マケドニアとアルバニア(2022年)の5カ国にウクライナとモルドバ(2022年6月)、そして今回のボスニアを入れて8カ国だ。2008年にセルビアから独立宣言したコソボはジョージアと共に「潜在的な候補国」の立場だ。

 ただ、加盟候補国にとってEUへの道のりは決して平坦ではない。ボスニアの場合、デイトン和平協定は3民族間の紛争を停止させたが、民族間の和解の道は依然、見えてこない。ただ、10月2日に実施されたボスニアの国政選挙で親欧州派の候補者が民族主義派の候補者を破った。コソボの場合、“バルカンの盟主”セルビアから2008年独立したが、コソボ北部に住むセルビア系住民(約5%)とコソボの多数派アルバニア系住民(約90%)との間で小競り合いが絶えない。ベオグラードは今なお、コソボを独立国として認知していない。コソボを主権国家と承認した国は100カ国を超えた程度だ。EU加盟国の中でもスペインばコソボの独立を認めていない。

 西バルカン諸国にとってハードルの一つは、EUの対ロシア制裁だ。旧ユーゴスラビア連邦の盟主セルビアは歴史的に親ロシア派だ。セルビア正教会はロシア正教会と密接な関係を有している。ブリュッセル(EU本部)はまた、西バルカン諸国に対し、EUに渡航する第3国国民のビザの円滑化を終了するよう要求している。西バルカン・ルートを介した不法な移民の入国問題が深刻だ。

 セルビアの首都ベオグラードで11月16日、オーストリア、ハンガリー、セルビア3カ国の首脳会談が開催された。目的は、不法移民との戦いで強力な軸を形成し、国境保護のための措置を共同で講じることだった。10月の欧州国境沿岸警備機関(Frontex)によると、年初以来、10万人を超える人々がEUに不法入国しており、その数は2016年以降で最も多い。

難民殺到に苦悩するオーストリア

 まず、欧州連合(EU)の統計局「Eurostat」が25日、公表した加盟国の8月の難民申請件数を紹介する。EU全体で、難民申請件数は8月、前月の7月と比較して17%増加した。加盟国の中でドイツが最も多く、8月には1万6950件、EU全体の22%だ。それに次いでオーストリアは1万4030件で全体の18%、フランス1万1900件15%、スペイン8650件11%、イタリア5985件8%だった。上記のEU5カ国は、EU内の全亡命申請者数のほぼ4分の3を占める。ちなみに、今年8月に合計7万7595件の最初の申請があり、前年同月比で54%の増加だ。

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▲ブリュッセルでヨハンソン委員と難民対策で話し合うカーナー内相(2022年11月25日、オーストリア内務省公式サイトから)

 人口比でみると、オーストリアは人口100万人あたり1563人の申請者で最も多く、それを追って、キプロス(1482人)、クロアチア(351人)が続く。亡命申請数が最も少ないのはハンガリーだ。

 8月の難民申請者の出身国別をみる、第1がシリア難民で1万1860人、それに次いでアフガニスタン(1万0675人)、インド(4170人)、トルコ(4105人)、ベネズエラ(3565人)と続く。

 また、オーストリアは、保護者のいない未成年者難民件数でもEUのトップで、8月に1885件の申請があった。前月7月と比較して48%増。これにドイツ(585件、21%増)、オランダ(580件、29%増)と続く。

 EU本部ブリュッセルで25日、EU内相理事会が開催され、増加する不法移民問題が話し合われた。欧州委員会は西バルカンルートの行動計画を発表した。これはオーストリアの要求を受けたものだ。欧州委員会で移民担当のマルガリティス・スキナス副委員長は、「西バルカンルートに関する更なる行動計画を来月6日にアルバニアの首都ティラナて開催される西バルカン首脳会談で提示したい」と述べている。

 スキナス副委員長は、「移民と難民のための包括的で構造的なフレームワーク構築が求められる。一つの危機から他の危機へ、事件から事件へというその場凌ぎの対応ではなく、EUの法律、価値観、原則に基づいた枠組みが急務だ」と説明した。

 イルヴァ・ヨハンソン欧州委員(内務担当)は、「オーストリアは難民殺到で最も圧力を受けている国の1つだ。西バルカンルートへの対策に取り組むことが重要だ」と述べ、既に実施されている対策に言及し、「今後の課題」に対するアクションプランを提示したいという。

 オーストリアのカーナー内相はそれに先立ち、EU委員会に5つの要求項目を送っている。具体的には、。釘佞粒杏国境に接するEU加盟国での難民申請手続きのためのパイロットプロジェクト、個別の評価を必要としない強制送還に関する「ルフールマン指令」、0汰瓦並茖街颪任瞭駝運柔措蠡海、そ殿腓任覆と蛤瓩両豺腓任癲⊆蠡海指令に基づく保護ステータスの撤回の簡易化、ィ釘佞旅餠および第3国でのFrontex(欧州国境沿岸警備機関)に対するより多くのサポート、等々だ。

 カーナー内相は、「オーストリアは耐え難い状況にある。今年、国境で10万件以上の不法越境があったが、内陸国であるにもかかわらず、そのうち7万5000件が登録されていない。EUの移民対策のシステムが機能していないからだ」と述べた。同内相はシェンゲン協定の拡大に反対を表明し、「わが国に到着する大多数の難民はバルカン半島のルートを経由して入って来る。現時点ではシェンゲン拡大は想像することはできない」と述べている。EU内相は12月8日、シェンゲン拡大について話う予定だ。

 EU内相理事会に先立ち、セルビアの首都ベオグラードで16日、オーストリア、ハンガリー、セルビア3カ国の首脳会談が開催された。3国サミットの目的は、不法移民との戦いで強力な軸を形成し、国境保護のための措置を共同で講じることだった。

 オーストリアのカール・ネハンマー首相、セルビアのアレクサンダー・ヴチッチ大統領、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相の3首脳は3国間の移民対策で協力を強化することを目的とした「了解覚書」に署名した。その目的は、不法移民、テロ、組織犯罪と戦うことだ。また、難民と移民の明確な区別だ。

 ネハンマー首相は「EUの移民対策は失敗した」として、難民旅行者を拒否すべきであり、経済難民はジュネーブの難民条約に合致しないと主張。ハンガリーのオルバン首相も、「移民は管理すべきではなく、防止すべきだ。我々はセルビアと運命を共にしている」と指摘、「不法移民の阻止はわれわれが生き残るための問題のため、3国は協力が不可欠だ」と述べている。

 参考までに、難民対策では加盟国内でも対立が表面化している。例えば、フランスとイタリアの両国は難民受け入れを巡り、対立している。イタリアが最近、救助船の入港を拒否したため、パリ政府は激怒し、「救助船には最寄りの港に行く権利がある」と抗議。それに対し、イタリアは「難民対策における他のEU諸国の連帯が不十分だ」と批判している、といった具合だ。なお、スキナス副委員長はEU域外での難民受け入れセンターの設置案には懐疑的だ。

 バルカン半島は歴史的にロシアの影響圏に入る。同時に、ロシア正教会と繋がりのある国が多い。EUの西バルカンルートへの行動計画が難民殺到を阻止できるか否か不確かだ。「欧州に難民を殺到させ、欧州の政情を不安定にする」と豪語したロシアのプーチン大統領の脅迫がここにきて不気味さを増してきている。

徒歩30分圏内に核シェルターある国

 アルプスの小国、中立国のスイスでもロシアのウクライナ侵攻後、国家の安全問題に対する政府、国民の意識が高まっている。欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)にも加盟せず、国連にも20年前に加盟したばかりのスイスはロシアのプーチン大統領が「必要ならば核兵器の使用も辞さない」と示唆して以来、ロシアがウクライナで核兵器を使用した場合、国内の核爆発後の影響に対する備えが十分かについて協議が行われている。

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▲1964年10月16日の中国の最初の核実験(包括的核実験禁止条約機関=CTBTO公式サイトから)

 スイス公共放送(SRF)が発信するウェブニュース国際部からニュースレター(11月9日)が配信されてきた。「核の脅威の高まり、スイスの備えは?」という記事が目に留まった。欧米の軍事専門家の間では「ロシアの核兵器の使用は現時点では考えられない」という意見が支配的だ。隣国オーストリアで10年間の国防相を務めたファスラアーベント氏は、「ロシアの指導者は核兵器の使用が何を意味するかを知っているから、現時点では使用は考えられない。プーチン大統領は合理的な思考をする政治家だ」と見ている。一方、「ロシア軍が守勢を強いられ、戦争の敗北が現実味を帯びてきた場合、プーチン氏は核兵器のボタンを押すことも躊躇しないだろう」といった見方もある。

 スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)安全保障研究センター(CSS)で核兵器を専門とするスティーブン・ヘルツォーク氏は、「核兵器が使用される危険性はますます高まっている。核戦争が起きれば、ウクライナや欧州、そして世界に壊滅的な影響を与える。こういったシナリオを想定し、備えることが必要だ」と警告を発している1人だ。SRFのニュースレターによると、「スイス政府は2011年の福島第一原発事故以来、核・生物・化学兵器(NBC兵器)の脅威や危険に対する防護対策を強化してきた」という。

 ニュースレターを読んて驚いた点は、スイス国内で有事の際に全国民を収容できる核シェルターが全土に36万カ所以上あるということだ。国民人口比の核シェルター数はおそらく世界一だろう。旧東欧諸国では地下鉄やガレージが核シェルター的役割を果たしている。一方、「スウェーデンやフィンランドでは核シェルターの数こそスイスと同じぐらいだが、収容能力ではスイスより劣る」という。

 スイス側にも問題があるという。「連邦政府は全住民の徒歩30分圏内にシェルターの設置を法律で義務付けているが、全ての州が対応できているわけではない。中でも、ジュネーブ、バーゼル・シュタット、ヌーシャテルの3州が最も遅れている。また、国防省の最近の報告書では、核シェルターなどの民間防衛施設のメンテナンスの悪さも指摘されている」というのだ。

 それにしても国内に全国民を収容できる核シェルターがあり、国民が徒歩30分圏内で行ける場所に核シェルターを配置するというスイスは核の脅威に対する備えは多分、世界でもトップ級だろう。

 核の脅威と言えば、スイスにとってはロシアの核だろう。世界9カ国が核保有と推定され、その核弾頭数は1万3000発、米国とロシア両国は全体の9割以上を占めている。ロシアの核弾頭数は5977発で、戦術核数は2000発以上と言われている。ロシアは核兵器の近代化、小型化を既に実現し、陸、海、空の運搬手段を使用して攻撃できる「核の3本柱(トライアド)」を敷いている。

 ロシアが核兵器を使用するとすれば、戦略核ではなく、戦術核だろう。その場合、スイスの専門家たちは、「放出される放射線は少ないため、国民は核シェルターに避難する必要がないかもしれない」と予想。そして、「核兵器の爆発以上に原発事故のほうが影響が大きい」という。ウクライナには欧州最大の原発、ザポリージャ原発がある。同原発は今年3月からロシア軍の管理下に置かれている。戦争で同原発が爆発されれば、チェルノブイリ原発事故(1986年4月26日)以上の被害が欧州全土に広がるから、放射能汚染はスイスにも及ぶことは必至だ。

 スイスの核対策に関するニュースレターを読んでいると、日本はどうだろうか、という思いが沸いてくる。日本に核シェルターがどのぐらいあるのか、国民が徒歩30分圏内の核シェルターに避難できるだろうか。どう考えてみても日本ではスイスのような備えは不可能だ。

 日本の周辺にはロシアのほか、中国、北朝鮮が核を保有している。北朝鮮の場合、弾道ミサイルを発射するだけではなく、7回目の核実験を計画している。日本はスイス以上に核の脅威にさらされているとみて間違いないだろう。そこで日本は米国との核シェアリングで抑止力を行使するという考えが出てくるわけだ。

 スイスのニュースレターは最後に「核兵器が爆発した場合、その影響を完全には回避できない」として、核兵器が爆発した時の「対処」ではなく、「予防」が重要だと指摘し、記事を締めくくっている。

エリザベス女王の「葬儀」とその後

 エリザベス女王の国葬は19日午前11時(現地時間)、ロンドンのウェストミンスター寺院で挙行された。国葬には新国王のチャールズ3世ら王室関係者ら約2000人の参列者のほか、海外からは天皇・皇后両陛下、バイデン米大統領夫妻、マクロン仏大統領夫妻、カナダのトルドー首相夫妻ら多数の要人が参列した。女王は8日、滞在中のスコットランド・バルモラル城で死去した。96歳だった。

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▲ウェストミンスター寺院に運び入れられたエリザベス女王の棺(BBCのスクリーンショットから、2022年9月19日)

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▲エリザベス女王の国葬に参列する新国王チャールズ3世夫妻(BBCのスクリーンショットから)

 国葬は1時間15分余り厳かに行われ、その後、女王の棺はロンドン中心を通過し、国民に見送られる中、ウィンザー城に運ばれ、聖ジョージ礼拝堂で最後の追悼の儀が行われた後、昨年4月に死去した夫フィリップ殿下と同様、礼拝堂に納められた。

 国葬の前日まで、多くの人々が女王に感謝と弔意を表明するためにテムズ川沿いから女王の棺が安置されたウェストミンスターホールまで7キロ余りの長い列を作った。英メディアではエリザベス・ラインと呼ばれ、100万人以上の国民が集まった。列の中にはオーストラリアやカナダなど海外からきた人々の姿もあった。10数時間も外で待機している人々の規律ある姿は海外でも大きく報道され、話題となった。国葬の日もエリザベス女王の棺を乗せた車を一目見ようと多くの市民が沿道に繰り出した。

 父ジョージ6世の急死(1952年2月)を受け、当時王女だったエリザベス2世は女王に即位、その後70年間、公務を行ってきた。女王は21歳の誕生日、「自分はどれぐらい生きるか分からないが、国のために最後まで忠誠を尽くしたい」と述べたといわれる。女王はそれを実行したわけだ。

 エリザベス女王は6日、トラス新首相を任命したが、それが最後の公務となった。女王は既に体調が良くなかった。側近が、「新首相の任命はチャールズ皇太子に代行をお願いすれば」と助言した時、エリザベス女王は、「首相の任命は国家元首しかできない」と主張し、公務を優先したという。首相任命式を撮影した写真を見ると、女王の右手が紫色だったことから、女王の健康を懸念する声が聞かれた。その2日後、女王は亡くなった。トラス新首相はエリザベス女王の任期70年間で15人目の首相となった(女王70年間の任期中、7人のローマ教皇、14人の米大統領が入れ替わっている)。

 ちなみに、トラス新首相は8日午後、女王の訃報を聞くと、首相官邸(ダウニング街10番地)前で、「エリザベス女王が只今亡くなった。女王の70年間で英国は発展し、繁栄してきた。エリザベス女王はその礎だった」と、女王の功績を称えている。

 エリザベス女王の死去、チャールズ皇太子は新国王(チャールズ3世)に即位するとスコットランドやウェールズなど英国全土を訪問し、エリザべス女王の足跡を継承しながらポスト・エリザベス時代をスタートした。

 英国の国王は、 英国、カナダやオーストラリアを含む英連邦(コモンウェルス)に加盟する15カ国の国家元首を務める。スコットランドの独立問題のほか、オーストラリアでは共和制運動、カナダでも一部で立憲君主制から共和国への移行を主張する動きが出てきている。新国王を取り巻く環境は容易ではない。

 チャールズ3世は既に73歳だ。“永遠の皇太子”と揶揄された新国王には新鮮さやダイナミックな印象はない。国民的人気のあったダイアナ妃との離婚は大きなダメージとなったことは間違ない。エリザベス女王は国民から「国の母」として信頼されてきたが、新国王が国民から同様の信頼感を得るのは容易ではない。

 英メディアによると、エリザベス女王はその遺書の中で、チャールズ3世は80歳まで国王を勤めた後、ウィリアム皇太子にその座を移譲するように助言したという。それが事実とすれば、チャールズ3世の持ち時間は7年間と限定される。

 いずれにしても、欧州の王室ではスキャンダルや腐敗など不祥事が頻繁に報じられ、王室を見る目はどの立憲君主国でも厳しい。エリザベス女王は「開かれた王室」を掲げて国民から受け入れられたが、新国王のチャールズ3世が王室としての伝統、歴史を継承しながら新しい君主制の在り方を切り開くか、注視される。

あの“エリザベス・ライン”を見よ

 英国人がこんなに忍耐強く、規律ある国民だとは思わなかった。35時間も列に並び、不平を言わず、ましては暴動を起こすことなく、時には笑顔をみせながら待っているシーンは奇跡のように感じる。

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▲ウェストミンスターホールに運ばれるエリザベス女王の棺(2022年9月14日、バッキンガム宮殿サイトから)

 当方は1980年代、半年余りイギリスの都市リバプールに住んでいた。湾岸都市で市内の路上にはフィッシュ・アンド・チップの紙袋が至る所に散らばって、清潔な街という印象からはほど遠かった。国民はパブでビールを飲んで騒ぐことが好きだ。そんな姿を見聞きしてきたこともあって、英国民の国民性を過小評価していたのかもしれない。その印象が激変したのだ。

 ロンドンのテムズ川沿いにエリザベス女王の棺が安置されているウェストミンスター・ホールまで長い人々の列が続いている。それを見て驚かされた。さぞかし人々はイライラしているだろうと思ったが、列の人々は穏やかな表情で自分の番が来るのを待っている。英メディアはその人々の列を「エリザベス・ライン」と呼んでいるのだ。

 エリザベス女王は8日、スコットランド・バルモラル城で96歳で亡くなった。その後、その棺は11日にはバルモラル城を出発し、13日にはエジンバラから英空軍機でロンドンに運ばれ、バッキンガム宮殿に、そして14日にウェストミンスターホールに到着、そこで4日間安置されている。女王の国葬は19日午前11時(現地時間)、ウェストミンスター寺院で行われる。その日まで英国民はエリザベス女王に弔意を捧げることができる。

 そこで英国各地ばかりか、オーストラリア、カナダ、ニュージランドなど英連邦からも女王に最後の別れを告げようと殺到してきているわけだ。その数は最終的には200万人を超えるだろうと推測されている。

 列の話に戻る。上空から撮影した写真をみると、エリザベス女王の棺が安置されているホールまで7キロ余りの長い列だ。ホールの棺に到着して弔意を表明するまで30時間以上の時間がかかるという。

 最初に弔意をした英国女性はテレビのインタビューで、「数日前から弔意が始まるまで待っていた。少し疲れたが、満足している。歴史的な出来事に少しでも参与して感謝している」と答えていた。長い列の中にいる別の女性は、「自分は列を作って待つことは好きではないが、今回は例外だ。多くの人々は静かに自分の番がくるのを待っている」と証言していた。

 1時間でも待たされれば、一言不満を吐露したくなるものだが、BBCの報道をフォローしている限りでは、そのようなシーンは見当たらない。もちろん、数千人の警察官が列を見守っていることもあるが、列の人々は黙々と一歩一歩、女王の棺があるホールに向かっていることに満足しているのだ。当方はそのシーンを見て、“エリザベス・ラインの奇跡”と呼びたくなった。

 「人の列」ということで思い出すエピソードがある。ウィーンの韓国大使館でナショナルデーの祝賀会が開かれた。招かれた外交官、ゲストで大使館裏の広い庭は一杯となった。ゲストをもてなす食事が用意されていた。ゲストは好きな料理コーナーで列を作って料理を受け取る。当方はその時、ウィーン大学東アジア研究所の北朝鮮問題専門家、ルーディガー・フランク教授と並んだ。教授は笑顔を見せながら、「列に並ぶことも楽しいですよ」というではないか。教授は旧東独生まれだ。食事の配給から全て列を作ることに慣れてきたという。「たまたま列に並んだ人と知り合い、話すことが出来ることは楽しいものですよ」という。一見、ネガティブなことも角度を変えればポジティブとなることを教えてもらった。

 ところで、“エリザベス・ライン”に並ぶ人々はなぜ長時間、数秒の弔意を表明するために列に並ぶことができるのだろうか。テレビ放送では王室関係者やエキスパートから貴重な話も聞けるにもかかわらず、30時間、外で長い列に並んでいる。BBCはエリザベス女王が如何に国民から愛されてきたかの証明だ、と解説している。たぶん、そうだろうが、列の人が全てそうだとは限らないだろうが。

 興味深い点は、列を作る人々が頻繁に口にする「歴史的出来事に自分も参席したい」というコメントだ。同時代に生きてきた1人の人間として、時代を先導してきた女王の姿を一目見たい、歴史的な存在の女王と自分との間に何らかの接点を結びたい、といった思いがあるのかもしれない。歴史的出来事の瞬間、眠っていることはできない。会社を休んでもその瞬間を自分も共有したい、というのだろう。“歴史的出来事”という言葉に人々の心は動かされ、長い列をも苦にならない。英国民は“歴史”を重視し、“歴史的出来事”をこよなく愛する人々なのかもしれない。

 いずれにしても、エリザベス・ラインは英国民の気質、メンタリティーを学ぶ上で貴重な出来事であることは間違いない。

ルイ王子の話から学ぶ「死後の世界」

 この2日前のコラム欄で書いたが、英国のキャサリン皇太子妃が次男ルイ王子から聞いた話は非常に教えられる、というか、考えさせられた。4歳のルイ王子は、国家元首として70年間歩んだ後、亡くなっ曾祖母のエリザベス女王が今、昨年4月に99歳で死去した夫フィリップ殿下のもとに行っている、と母親キュアサリン妃に語ったというのだ。ルイ王子はその光景を見たのだろうか、それともキャサリン皇太子妃から眠る前に聞いた童話の話を覚えていて、おばちゃんも死後、おじいちゃんのもとに行ったと考えて自然にそのように答えただけだろうか。ひょっとしたら、ルイ王子は曾祖母と曾祖父が会っている場面を見たのではないか。

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▲英王室関係者(バッキンガム宮殿サイトから)

 デンマークの王子ハムレットは、「あの世から戻ってきたものは1人もいない」と嘆いたが、聖書の世界では少なくとも3人が死後復活している。十字架上で亡くなった「イエスの復活」のほか、イエスの友人ラザロは死んだ4日後に蘇り、そして病死した12歳の娘もその父親の信仰ゆえに復活の恵みを得た。新約聖書の世界では少なくとも3人が死から生き返っている(この場合、肉体復活)。 

 臨死体験(体外離脱現象)の話はよく聞く。その体験者の話には共通点が多いことに驚かされる。「死後の世界」と現世の間には“三途の川”や“鉄のカーテン”はなく、非常に交差しているのではないかと考えさせられる(立花隆氏がいう「臨死体験は死の直前に衰弱した脳が見る『夢』に近い現象」という見解があるが、同氏が期待する脳神経学の発展によって「死後の世界」の全容が解明されるとは思わない)。

 ルイ王子は、曾祖母の国葬で忙しい家族たちには見えない、別の世界の光景を見ていたのではないか。残念ながら、「別の世界」を見る能力は年月を経ていくうちに減少する一方、「この世の世界」を追う視力だけが発展していく。ルイ王子が10歳を過ぎると、曾祖母の姿がもはや見えなくなるかもしれない。「この世」で酷使してきた視力は年を取るにつれて弱まり、眼力を完全に失った「死」後、「別の世界」が光をもって迫ってくるのではないか。

 ルイ王子には見え、チャールズ国王やキャサリン皇太子妃たちには見えないのは、年齢の差もあるだろう。人生でさまざまな出来事や体験を繰り返すことで「別の世界」の様相が見えなくなるのではないか。思い煩い、ストレス、悲しみ、特に恨み、ねたみなどがカーテンを下ろし、「この世の世界」の住人になりきることでもう一つの世界の五感は失われていくのではないか。もちろん、例外的に、両世界の視力を有する人はいるが、その数は少ない。

 「この世の世界」と「死後の世界」の関係が理解できるようになると、この世で味わうさまざまな煩いは消えていくかもしれない。同時に、「この世の世界」でいかに生きていくべきかも自然に理解できるのではないか。

 現代人は「死の世界」を忘れるように腐心している。あたかも「この世の世界」が全てであるかのように。「死」の世界に忙しいのは胡散臭い宗教者だけだというばかりにだ。しかし、束の間、忘れることが出来ても「死の世界」は必ず訪れてくる。仏教でいう四苦八苦の世界はリアルだ。耐用年数を伸ばすことはできてもやはり「死」は訪れてくる。

 日本のメディアは現在、安倍晋三元首相の銃殺事件後、容疑者追及ではなく、本来被害者の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をバッシングしているが、旧統一教会の創設者文鮮明師は、死は神のもとに帰る時だから、悲しいときではなく、喜ぶときであり、新しい人生の出発点だと指摘、葬儀を「聖和式」と呼び、見送る人々は黒色の喪服ではなく、白色の服を着て見送るべきだと述べている。「死」は誰にとっても最も身近なテーマであり、「この世の世界」の「死」を如何に乗り越えて生きていくかは、生きとし生ける者の永遠の課題だ。

 どうか笑わないでほしい。ルイ王子の話は啓示的な内容が含まれている。ルイ王子が見える世界を失ってしまったわれわれは、4歳の王子から学ぶべきだろう。「この世の世界」と「死後の世界」は決してかけ離れてはなく、両者間に本来、コミュニケーションが可能とすれば、死をもはや恐れることはない。ただ、生きている時、与えられた才能、性質をフルに活用して全力で走りきることだろう。
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