ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

ヨーロッパ

レオ14世、フランスを歴史的な司牧訪問

 ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ教皇レオ14世は今月25日から28日にかけてフランスを公式訪問する。教皇のフランス訪問は、2008年のベネディクト16世以来18年ぶりで、歴史的な司牧訪問と受け取られている。

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▲71歳の誕生日を迎えた教皇レオ14世、2026年9月14日、バチカンニュースから

 バチカン側が公表した日程によると、教皇レオ14世は25日午前10時にパリに到着して公式の歓迎を受けた後、エリゼ宮(大統領官邸)でマクロン大統領を表明、同日午後にはユネスコ本部を訪れる。同日夕方には、2024年12月に再建・再開されたノートルダム大聖堂で数千人の司祭、助祭、修道会のメンバーらと面会し、その後サン=ドニの競技場「スタッド・ド・フランス」で若者たちとの祈りの集いを持たれる。

 26日には難民や移民の支援を行う施設「メゾン・サント=ジョセフィーヌ・バキタ」を訪問。その後、聖職者による性的虐待のサバイバー(被害者)らと非公開で面会する。ちなみに、2021年10月、仏教会の聖職者の性犯罪報告書が発表されたが、それによるとフランスで1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたことが明らかになった。教会関連内の施設で、学校教師、寄宿舎関係者や一般信者による性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るというのだ。国際社会に大きな衝撃を与えたことはまだ記憶に新しい。

 そして同日夕方,コンコルド広場の野外ミサでは、シャンゼリゼ通りが参加者で埋め尽くされると見込まれている。27日に入ると、世界的に有名な巡礼地であるルルドを訪問し、最大15万人の人々と共に野外ミサを執り行う。最終日の28日はドイツ国境に近い歴史的都市メスを訪れ、ヨーロッパの未来へのメッセージを発信する予定だ。

 レオ14世のフランス訪問で最も重要なメッセージはユネスコ(UNESCO)本部で予定されている演説だ。テーマは「AI(人工知能)の倫理的発展」だ。レオ14世は2025年5月に発表した初の主要な回勅(公式な親書)の中で、AIの暴走や誤情報の拡散、人間によるコントロールの喪失に強い警鐘を鳴らしている。ユネスコという知性と文化の殿堂において、AIの進歩が人間の尊厳を脅かすのではなく、「平和と教育のために用いられるべきだ」とする倫理的規制(アルゴエシックス)を世界へ向けて強く呼びかける予定だ。

 また、デジタル化やアルゴリズムによる社会の分断が進む中、若者たちの教育、そして「情報の誠実性(Information Integrity)」をいかに守るかがテーマだ。若者、研究者、知識人が集まるパネルディスカッションも同日開催され、次世代へ向けた知的・精神的指針を示すことになっている。そして世界各地で紛争が頻発し、国際機関の機能不全が叫ばれる中、対話と国際協調こそが平和の唯一の道であると訴え、ユネスコが担う教育・科学・文化による平和構築の役割を全面的に支持し、多国籍主義(マルチラテリズム)を擁護する。

 マクロン大統領は今回の教皇訪問を極めて重視し、教皇が最終日に訪れるドイツ国境近くの都市メスでの演説に、ヨーロッパ各国のリーダーたちを招待している。メスは「EUの父」の一人であるロベール・シューマンの故郷。国際的な孤立主義が台頭する中、マクロン大統領は教皇の権威を借りて、改めて「キリスト教的価値観に根ざした欧州の結束」と「国際法に基づく平和への歩み」を世界に誇示したい狙いがあるといわれる。

 バチカンニュースによると、教皇側はホスト国フランスに「あまり派手な歓迎は控えてほしい」と要請している。具体的には、フランス政府は教皇に対し、最高勲章である「レジオン・ドヌール勲章グラングロワ」の授与や、公式な宮廷晩餐会(State Dinner)を計画していたが、聖座(バチカン)はこれらをすべて辞退。また、共和国衛兵隊による大々的な歓迎セレモニーや太鼓の演奏も避けるよう要請したという。

 レオ14世は、今回の訪問を政治的な国家イベントとしてではなく、あくまで「宗教的・牧霊的(パストラル)な巡礼」として位置づけたい意向という。ウクライナ情勢や中東情勢など世界が戦禍にある中、華美な外交儀礼を避けたいという。

 フランスは歴史的にカトリック教会と深い結びつきを持つ一方で、「ライシテ(厳格な政教分離・世俗主義)を国是としている。近年、フランス国内ではカトリックの成人洗礼者(志願者)の増加や若者の信仰への回帰といった「スピリチュアルな渇き」や信仰の刷新が見られる。米国出身で現代の欧米社会の空気をよく知るレオ14世は、世俗化が進む社会における教会の新たな存在意義を指し示そうとしている。その意味で、教皇のフランス訪問は脱世俗化(世俗化社会)への新たなアプローチを模索する司牧訪問というわけだ。

 国際的に著名な神学者、チェコの宗教社会学者トマーシュ・ハリーク氏は15日、オーストリア北部のヴェルスにあるプフベルク城で開催された国際シンポジウム「欧州におけるシノダリティの形成」で講演し、「欧州は世俗的な環境におけるキリスト教の存在のあり方を問う実験室だ」と述べている。その意味で、フランスは最高の教材だ。

 教皇の訪問は、EU(欧州連合)の創設者の一人であるロベール・シューマンの故郷、フランス東部の都市メスで締めくくられる。カトリック教会は現在、シューマンの列福に向けた手続きを進めている。メス大聖堂で行われるミサには、マクロン大統領に加え、他の欧州諸国の元首や政府首脳も出席する見通しだ。教皇はメスにおいて、欧州の平和と結束を訴えることになっている。

スイス国民発議「中立の維持の是非」問う

 スイスで今月27日、国民発議「スイスの中立の維持」の是非を問う投票が行われる。同イニシアチブはロシア軍が2022年2月末、ウクライナに軍事侵攻したことを受け、スイス国内の保守勢力、国民党らが2024年4月、200年以上の歴史を有する自国の中立主義が揺れてきたことに危機感を感じ、中立主義の堅持などを憲法に明記する中立イニシアチブ(国民発議)の署名集めを開始、10万人以上の有効投票を集めて発議が成立。この度、その是非を問う投票が実施されることになったわけだ。

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▲スイスで国民発議「スイスの中立の維持(中立イニシアチブ)」の是非を問う投票が実施。スイス政府ポータルから

 フィンランド、そしてスウェーデンと北欧の代表的中立国は国是を放棄して北大西洋条約機構(NATO)に加盟したことで、欧州で中立国はオーストリアとスイスの2カ国だけ。そのスイスでもロシアの軍事的侵略から国が守れないという声が高まり、中立主義の定義の見直しや武器再輸出法案の是非を検討するなど試行錯誤してきた。また、スイスは欧州防空構想「欧州スカイシールド・イニシアチブ(ESSI)」に加盟するなど、NATOとの協力関係を急速に深めていった。これらの一連の動きに対し、ロシアから「非友好国」と指定され、「スイスは中立主義を放棄した」と糾弾されたが、スイス側は中立主義の放棄ではなく、「協調的中立」を主張してきた経緯がある。

 その一方、スイス国内の保守・右派勢力(最大政党のスイス国民党:SVP/UDCなど)は中立主義の形骸化を警戒し、「このままでは他国の戦争に巻き込まれる」「スイスのアイデンティティである中立が死んでしまう」と強い警戒心から、今回の発議となったわけだ。憲法には記述されていない「中立主義の維持」を憲法に明記することで、中立主義を守っていこうというわけだ。

 現行のスイス憲法には、中立の具体的な「定義」は記述されておらず、政府や議会に運用の裁量(柔軟性)が残されている。国民党ら保守勢力が推進する今回の発議の狙いは、憲法を改正し、超厳格なルールを明記することで、政府の裁量を奪うことだ。具体的な、�々餾欸从兩�裁への参加禁止を憲法に明記し、国連(UN)が全会一致で決定した制裁以外の、EUや他国が独自に行う経済制裁(対露制裁など)への参加を一切禁止させる。��軍事同盟との協力禁止。スイス自体が直接攻撃されない限り、NATOなどの軍事同盟との共同演習や協力関係を禁止。�B�3国間の紛争への不介入の徹底し、他国同士の戦争に対し、武器の提供はもちろん、他国を経由したスイス製武器の再輸出なども法律レベルではなく憲法レベルで厳しく封じ込める、等の内容だ。

スイス政府ポータルによると、「このイニシアチブは、中立性のより厳格な適用を求めるとともに、スイスの中立性が永続的かつ武装を伴うものであることを憲法に明記しようとするものだ。これにより、軍事攻撃を受けた場合や攻撃の準備がなされている場合を除き、いかなる軍事同盟や防衛同盟への加盟や協力も禁止されることになる。さらに、第三国間の軍事紛争への関与や、交戦国に対する制裁の実施も行わないこととする。ただし、国連による制裁や、制裁の回避を防ぐための措置については例外だ」という。

 今回の国民発議を巡り、スイス国内の世論は真っ二つに分かれている。直近の世論調査(2026年8月時点)では、反対(否決)派が50%〜60%台を占めて優勢で、賛成(可決)派を上回っている。賛成派(保守・右派)の代表的な主張は「厳格な中立に立ち戻らなければ、スイスの安全は守れない。信頼できる和平仲介国としてのブランドを取り戻すべきだ」というものだ。一方、反対派(政府・議会・他政党)は、「世界情勢が激変する中で、憲法で手足を縛れば、有事の際に自国を守るための安全保障上の柔軟性が失われ、国際的に孤立する」と説明する。国民の間では、中立の大切さを認めつつも、「あまりに厳格すぎる縛りは現実的ではない」とする見方が広がってきているという。

 バチカンニュースによると、スイスのローマ・カトリック教会系のシンクタンク「ヴォックス・エティカ(倫理の声)」は中立イニシアチブ(国民発議)を否決するよう勧告している。同倫理委員会は「真の平和とは単に戦争がない状態を指すのではなく、公正な秩序を積極的に推進することを求めるものだ。中立性は、基本的価値を守るための手段としての役割を果たすが、中立性を絶対的なものとして扱えば、スイスは人権擁護のために行動する能力を失い、国際的に孤立するリスクを負う」と主張、「中立はそれ自体が価値を有するものではない」と言い切っている。

 スイスの永世中立は、1515年の軍事的な敗北を契機に芽生え、1815年のウィーン議定書で国際的に承認された、世界で最も古い外交方針の一つだ。 アルプスの小国が、国家の独立と国内の結束を維持するために選択した現実的な生存戦略として発展してきた。スイス政府は今日、「他国の軍事同盟(NATOなど)には加盟しない」「紛争当事国へ武器を直接輸出しない」という軍事的中立の根幹は維持しつつも、国際法違反や人権侵害に対しては明確に意見を表明する姿勢を取っている。

 ちなみに、スイスは、周囲の大国から国を守り、多言語・多宗教の国内の結束を保つために、自らの意志で何世紀もかけて中立を育てた。一方、第2次世界大戦後、米英仏ソの4カ国に分割占領されていたオーストリアはソ連占領軍を撤退させ、主権を回復するための「条件(バーター取引)」として、ソ連の要求に応じる形で中立を宣言した経緯がある(1955年オーストリア国家条約)。両国の中立主義は出発点から明らかに異なっている。

英首相「国民からアンディと呼ばれたい」

 バチカンニュースによると、「保守党の元党首であるボリス・ジョンソン氏は、カトリックの洗礼を受けていたものの、英国国教会の信徒として育ち、特定の宗教を実践することはなかった。一方、英国国教会の信徒であったトニー・ブレア氏は、在任中からカトリックの信仰を実践していたが、正式に改宗したのは2007年に首相を退任した後だ」という。一つの宗教を最後まで全うするのが通常と考えている人にとって、ジョンソン氏のように、生まれはカトリック、その後英国教会の信徒となり、現在は教会に距離を置いている、といった宗教歴を聞けば、「英国人は宗派に捉われない人間だ」と驚く。

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▲ダウニング街10番地で就任演説するバーナム新首相、2026年7月20日、英国首相府公式サイトから

 一般的に、英国国民は宗教の問題を政治の場に持ち込むことを好まない。そのような中、アンディ・バーナム新首相(56)が「公にカトリックの信仰を表明する初の英国の政府首脳」(バチカンニュース)ということにどれだけニュースバリューがあるか自信はないが、「何事も初物には特別の価値がある」と考え、生え抜きの初のカトリック系首相について書いてみた。ちなみに、英国の人口に占めるカトリック教徒の割合は1割弱に過ぎない。英国国教会(アングリカン・チャーチ)が最大宗派だ。

 イングランド北部リバプール近郊のアイランド系カトリックの家庭に生まれたバーナム氏は2017年5月からグレーター・マンチェスター市長を務めてきた。。バーナム氏は近隣のウォリントンでカトリック教徒として育ち、そこで侍者も務めたことがある。そして、自分の子供たちをカトリック系の学校に通わせてきた。

 英国のカトリック教会は、労働党党首のバーナム氏が英国の初のカトリック首相に就任したことに、慎重ながらも期待を寄せてきた。教会関係者は、政治の根本的な転換まではさすがには予想していないが、カトリックの社会教説が政治的行動により強く反映される可能性はあると見ている。司教協議会議長のウェストミンスターのリチャード・モス大司教は、7月20日付の祝賀メッセージの中でバーナム氏に対し、「人間としての尊厳、そして家族や社会的に疎外された人々、弱い立場にある人々のニーズに対して、真の配慮と敬意を持って行動してほしい」と控えめな要望を表明している。

 バチカンニュースには「英国初のカトリック首相」にさまざまな期待と要望が報じられている。英国の司教らは、バーナム新首相が緩和ケアに対して示している姿勢を歓迎し、カトリック系の慈善団体は貧困層への支援や気候危機への対策に取り組むにあたり、自身の信仰を指針とするよう求めている、といった具合だ。

 バーナム氏は、自身の政治的姿勢に対する信仰の影響について、「カトリック社会教説が私の政策の基盤を成している」と述べている。実際、首相に任命されるわずか数時間前に、バーナム氏はロンドンを拠点とするホームレス支援団体「ザ・パッセージ(The Passage)」を訪問している。バーナム氏は首相就任演説において、「わが国の路上からホームレス状態をなくす。正しい価値観と正しい規範を、政府運営の中心に据えることこそが重要だ」と述べている。

 政治的には、中道左派に属する労働党の政治家として、公教育、社会福祉給付、税制改革、住宅開発などを主張してきた。マンチェスター市長時代のインフラ改革や投資に関する実績は、公に高く評価されてきた。一方、中絶、安楽死、性教育、LGBTQ+の権利といった問題については、リベラルな見解を持っている。特に2015年には、同性婚をめぐり、教皇フランシスコに対し教会を「21世紀へと」導くよう呼びかけたことがある。バーナム氏が中絶問題や同性婚問題などでカトリック教会と衝突することが予想される。

 ところで、バーナム新首相は7月20日、ダウニング街10番地(首相官邸)前で就任演説をしたが、その要点は、「政治的安定の回復」「新経済モデル(大きな政府)への転換」「地方分権の推進」の3点に集約されるだろう。

  バーナム氏はここ10年間で7代目の首相(第59代英首相)だ。英国の政界は腐敗とスキャンダルが絶えなかった。国民の政治不信は深い。それ故に、政治的安定を取り戻すことを急務となるというわけだ。また、国家が経済や社会により介入する「大きな政府」への転換を掲げている。「生活に欠かせない必需品」を国家の管理(公有化)に戻し、公共料金を支払える水準まで引き下げることで、国民の生活費負担を軽減すると明言している。そして新たな経済・政治モデルの道筋を示すため、年内に「10カ年計画」を策定すると発表した。ロンドン中心主義から脱却し、政治権力をロンドン(ウェストミンスター)から切り離し、全国の地方へ権限を分散・移譲させることなども目標に挙げている。政策はかなり過激だ。

 バーナム首相は「早期の解散総選挙は行わない」と明言し、2029年までの任期をフルに使ってこれらの課題に挑む構えだ。バーナム首相は国民から「アンディ」と呼ばれることを願っているという。そのような日が早く到来することを期待したい。

ポーランド、他国での同性婚を承認せず

 ワルシャワからの情報によると、ポーランド最高裁判所は28日、「ポーランド国外で成立した同性婚を承認しない」とする判断を下した。同裁判所は今年3月、他の欧州連合(EU)加盟国で成立した同性婚をポーランドも承認すべき義務があるとの昨年11月の欧州司法裁判所(ECJ)の判決を受け、今年8月末からECJの判断をポーランド国内法に反映させる予定だった。それをここにきて、「憲法違反」として、ECJの判決内容の施行をストップさせた。

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▲トゥスク首相とキエルヴィンスキ内相(右)、ポーランド内務省公式サイトから、2026年7月27日

 ECJが昨年11月、EU加盟国は他の加盟国で成立した同性婚を承認しなければならないと判断した背景には、EU市民がEU域内の異なる国々をまたいで家族生活を継続できるという保証が必要と判断したからだ。この権利は、EU域内における「移動の自由」の一環と見なされた。これは2018年にベルリンで結婚した男性2人がECJに提起した訴訟への判決だ。

 ポーランドではECJの判決を受け、キエルヴィンスキ内相が発令し、すべての戸籍登録機関に遵守が義務付けられた。同通達は、8月末に施行される予定だった。それを今回、最高裁判所がキエルヴィンスキ内相の発令した通達を「憲法違反である」と決定したわけだ。最高裁判所が土壇場に立場を変えた背後には、右派保守の野党「法と正義(PiS)」の議員らが憲法裁判所に異議申し出を行うなど、政治的圧力を強めてきたからだ。同裁判所は主に、PiS政権下で任命され、同党に近い判事らによって構成されている。ちなみに、ポーランド憲法では、「結婚を男女間の結合」と定義している。

 ところで、EU27カ国で同性婚を認めていない国は11カ国。西ヨーロッパの大部分で同性婚が合法化されている一方、東欧や中欧の国々を中心に、現在も認められていない。

 同性婚を認めていない11カ国の中で、同性婚は認めないものの「登録パートナーシップ(シビル・ユニオン)」などの代替制度を認めている国(5カ国)と、一切認めていない国に分かれる。

 パートナーシップ制度も同性婚も、どちらも認めていない国は6カ国、スロバキア、ポーランド、ブルガリア、ルーマニア、リトアニア、ラトビアだ。ポーランド以外は憲法で「婚姻を男女間に限る」と明記している。なお、エストニアは2024年、ギリシャも2024年に同性婚を合法化した。

 これら11カ国の国内では同性婚の挙式や登録はできないが、ECJの判決により、別のEU加盟国で合法的に成立した同性婚カップルが、同性婚を認めていない国に移住した場合、滞在権や居住権などの目的において、その婚姻関係を「配偶者」として承認しなければならない。

 ちなみに、欧州ではポーランドやスロバキア、ハンガリーなどの民族主義的政権が強い国では依然、同性婚拒否の傾向が強い。例えば、スロバキアは2014年に婚姻を男性と女性の独自の結合と明記した憲法改正案を可決しているが、2025年9月、婚姻の定義をさらに補強し、LGBTQ+コミュニティの権利を制限する新たな憲法改正を実施している。

 具体的には、性別の厳格化だ。憲法に「スロバキアは、生物学的に決定された男性と女性の二つの性別のみを認める」という条文(第52条a)が追加され、出生時の性別が基準となり、「法律で定められた重大な理由がない限り、性別を変更することはできない」と規定された。また、養子を受け入れられるのは「法律上の婚姻関係にある夫婦(異性間の夫婦)」に事実上限定された。あわせて代理母出産(サロガシー)も禁止された。家族のあり方や教育などの「文化的・倫理的な問題」においては、EU法よりもスロバキアの国内法・主権を優先することが明記された。

 オルバン政権が16年間続いたハンガリーでは2025年4月14日、「人は男か女のいずれかである」という生物学的性別の二元論を憲法に明記し、トランスジェンダーやノンバイナリーの法的承認を完全に排除した。また、2021年に制定されていた「反LGBTQ+法(子供の保護を名目に同性愛の描写を制限する法律)」をベースに、プライド・パレードなどのLGBTQ+関連の公的な集会を憲法レベルで永久に禁止・制限できるようにした。

 しかし、オルバーン長期政権が今年4月の選挙で敗北し、新首相に就任したペーテル・マジャル氏が対話姿勢を見せているため、同性婚問題で動きが出てくるかもしれない。ただし、新首相はプライド・パレード開催禁止を撤廃したが、同性婚禁止を見直しする意向は現時点ではない。マジャル新首相もオルバン政権下で要職を務めた政治家で、その政治信条は中道保守派だ。

 いずれにしても、EUの「他国での同性婚の承認義務」について、ポーランドだけではなく、国内法やキリスト教的伝統を守りたい東欧諸国(ポーランドやルーマニアなど)の最高裁判所が「国内の憲法に反する」として拒絶の姿勢を示すことが予想される。換言すれば、「EU法」を優先するか、「国内法」を重視するかのホットな争いだ。

 

欧州で初めて確認された「火災積乱雲」

 太陽の灼熱と火災の猛襲を受け、フランス、スぺイン、ポルトガル、イタリアなどの南欧諸国に住む人々は、「かつて経験したことがない暑さ」、「このような大規模な火災は初めてだ」といった嘆きが飛び出す日々を送っている。当方が住むアルプスの小国オーストリアでも30日以降、1週間余り再び猛暑が再来し、気温も40度を跳ね上がるという天気予報が発表され、人々を憂鬱にさせている。

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▲スペインのサンチェス首相、カステリョン州ラ・バル・ウイショの火災被害地域を視察、2026年7月27日、スペイン首相府公式サイトから

 オーストリア国営放送(ORF)によると、 「専門家は、特にフランスにおいて、『火災雲』(火災積乱雲)の発生を初めて確認した。これらは独自の風や雷を発生させる巨大な嵐の雲であり、こうした現象はこれまでオーストラリアや米国でしか確認されていなかった」というのだ。

 「火災雲」という気象用語はあまり聞きなれない。オーストラリアでは、今世紀初頭から火災積乱雲(パイロキュムロニンバス)が確認され、2022年にカリフォルニアで発生した壊滅的な山火事の際にも形成されたという。しかし、ヨーロッパにおいては、これらは目新しい現象という。「火災雲」とは、大規模な山火事や火山の噴火、大火災などによる猛烈な熱で発生する強い上昇気流によって作られる特殊な雲(火災積雲)のことで、別名「熱対流雲」とも呼ばれているという。

 そこで生成人工知能(AI)に、「火災雲」が発生するメカニズムを説明してもらった。火災積乱雲が形成されるには、森林火災のような強力な熱源が地上に存在することが前提だ。山火事などの火災で地表の空気が激しく熱せられることで、上昇気流が作られる。上昇した空気は、上空に行くほど気圧が下がり温度が低下する。火災によって植物などから蒸発した水分や、大気中の水蒸気が冷やされて水滴に変わり始める。大気中の水蒸気や燃えたものから出た水分が、煙や灰の微粒子(エアロゾル)を核にして冷やされ、雲が作られる。大量のすすや灰を巻き込むため、通常の白い雲とは異なり、黒や茶色っぽく汚れたカリフラワーのように見える。

 火災積乱雲は対流圏と成層圏の境界にまで達し、夏場には高度約16キロメートルにまで及ぶ。そのため、火災による煙を成層圏へと運び上げ、地球規模で拡散させる可能性が出てくる。また、突風は火災の動きを予測不能なものにしてしまう。「火災積乱雲」になると、雲の中で乱気流や雷が発生する。激しい突風が地表に吹き付けて火災をあおり、落雷によって新たな火災を引き起こすなど、被害を急激に拡大させる恐れが出てくるという。

 ところで、「火」と「雲」という話になると、どうしても旧約聖書の「出エジプト記」の話を思い出す。モーセが約60万人のイスラエル人を率いてエジプトから出て、神の約束の地カナンに向かうが、その間、神は「雲の柱」と「火の柱」で彼らを導く。「主は彼らに先立って進み、昼は雲の柱をもって導き、夜は火の柱をもって彼らを照らされたので、彼らは昼も夜も行進することができた。昼は雲の柱、夜は火の柱が、民の先頭を離れることはなかった」。厳しい荒野の環境の中で、神はこの2つの柱でイスラエルの民を守ったわけだ。

 また、聖書の世界では、「火」は神のみ言葉、「雲」は神を信じる人々(聖徒たちの群れ)を象徴している。「ヨハネの黙示録」 11章3〜12節では、終末における神の民(雲)が、口から出る神のみ言葉(火)を武器にして悪と戦い、最終的には復活して栄光の雲に包まれて勝利するというのだ。、そして聖書全体の終わり(終末)の象徴として、「イエス・キリストが再びこの世界に来る(再臨)とき、イエスは『雲に乗って』来られ、その裁きは『燃え盛る火』のようだ」と描写されいる、といった具合だ。

 話を21世紀の現実世界に戻す。西欧および南欧全体で、現在30万人以上が火災から逃れるために避難している。フランス南西部では、火災が26日の時点でボルドー都市圏から15キロの地点にまで迫っている。緊急対応チームは、夜通し、炎の海と化した現場で消火活動にあたっている。多数の観光客は既に同地域からの避難を余儀なくされている。消防当局によると、この火災で一時期、「火災積乱雲」が発生したと報告している。

 神は紀元前12世紀頃、モーセに率いられたイスラエルの民を守るために、昼は「雲の柱」で熱帯の激しい直射日光から民を守り、夜は「火の柱」で急激に冷え込む荒野で暖房となり、真っ暗な闇を明るく照らす灯りとなった。21世紀の今日、「火」と「雲」は火災積乱雲を形成して、強風で火災を拡散し、周辺に住む人々を熱風と火の粉で苦しめている。

欧州の観光事情と次世代の‘旅の哲学‘

 クロアチアの観光地における過剰なアルコール消費を受け、ザグレブの議会は29日、自治体が夜間のアルコール販売を禁止する権利を認める法律を可決した。クロアチア議会の議員151人中、出席した117人全員が同改正案に賛成票を投じた。可決された法律によると、市町村は「公衆衛生、治安、文化遺産、環境を保護するため」にアルコール販売を制限できる。ただし、バーやレストランは対象外だ。グラヴィナ観光相は、「この法律の目的は観光と健全な共生関係を築きたいと願う地元住民の生活向上が狙いだ」と説明した。

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▲海水浴旅行者で溢れるクロアチアのアドリア海沿いのプーラ(2017年8月1日撮影)

 現地からの報道によると、歴史的なディオクレティアヌス宮殿を擁するスプリト市のトミスラフ・スタ市長は、この改革に基づき、アドリア海沿岸のリゾート都市であるスプリトで午後9時以降のアルコール販売を禁止すると発表した。フヴァル島やクロアチア中部沿岸都市ザダルなど、他の人気観光地でも同様の禁止措置が発表されている。首都ザグレブでも禁止措置を検討中という。

 西バルカンに位置するクロアチアは人口400万人弱の小国だ。アドリア海沿いには欧州有数のリゾートエリアを有し、夏季に入ると欧州から多数の旅行客がアドリア海沿いの避暑地を訪れる。クロアチア議会の今回の決定もシーズンインを控えての対応の一つだ。

 ちなみに、クロアチアのようなアルコール販売禁止などを実施している欧州の観光地としては、ヨーロッパ屈指のパーティーアイランドとして知られるスぺイン・バレアレス諸島(マヨルカ島、イビサ島)では、2024年5月から非常に厳しいアルコール規制が導入されている。観光客が集まる特定エリアの小売店(スーパーなど)において、夜21:30から翌朝8:00までのアルコール販売が全面禁止されている。路上での飲酒行為そのものも禁止されており、違反した観光客には最高3,000ユーロ(約50万円)近くの巨額の罰金が科される。

 また、ポーランド・ワルシャワ(および主要都市)では、観光客や夜間の酔客による治安悪化を防ぐため、地方自治体に夜間のアルコール販売禁止権限を与える動きが広がっている。首都ワルシャワや、歴史的な観光都市であるクラクフなどの一部の区・エリアにおいて、夜22:00から翌朝6:00まで小売店での酒類販売を禁止する条例が導入・検討されている。

 6月に入ると、欧州はいよいよ観光シーズンを迎えるが、今年は少し事情が異なっている。米イスラエル軍のイラン攻撃が開始され、世界の原油輸送ルートのホルムズ海峡がイラン側によって封鎖されて以来、世界の原油価格が急騰し、旅客機の燃料ケロシン(ジェット燃料)不足などで、一時期飛行機が飛ばなくなるのではないかといった懸念の声が聞かれたほどだ。オーストリアでは「今年は外国旅行はやめて、国内旅行に切り替える国民が増えてくるだろう」と予想されている。

 ところで、観光都市ではオーバーツーリズム(観光過剰)への懸念やその対策が大きなテーマとなっている。ベネチアやバルセロナのような「住民が観光客を拒絶する」といった状況も見られる。

 「観光公害」に発展する前に、住民と観光が調和して共存できる独自の画期的な取り組みを進める声も聞かれる。例えば、ウィーン市とウィーン市観光局は、2019年に他都市に先駆けて「ヴィジター経済戦略(Visitor Economy Strategy)」を策定している。住民ファーストの視点で、「都市が観光のために何ができるか」ではなく、「観光が都市(住民)のために何ができるか」を重視する。

 音楽の都ウイーンでは「オプティマム・ツーリズム(最適な観光)」の推進が行われている。単なる観光制限ではなく、都市の許容量に合わせた良い成長を目指している。例えば、特定の地域への集中を防ぐため、周辺区やローカルな魅力を発信して観光客を市内全域へ自然に分散させる施策を行っている。

 ちなみに、「観光」という言葉は、「光」を「観る」という意味だが、東洋と西欧ではその「光」の内容が異なる。東洋の古典(『易経』の「観国之光」)によると、「国の光(優れた文化、政治、風俗)を観る」という意味だ。一方、キリスト教的社会では「神の創造された自然や、人間の内にある神聖な光(創造性)を観る」という意味合いがある。

 オーバーツーリズムの時代に本来の「観光」を取り戻すために、近年「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」や「リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)」という新しい旅の哲学が生まれている。「再生型観光」は、環境や社会を単に維持するだけでは手遅れであり、旅を通じて、傷ついた土地やコミュニティを旅の前より良い状態にして返す(再生・修復)必要がある」、という危機感から生まれた次世代の観光哲学だ。

 イギリスの観光戦略家であり「Conscious Travel(意識的な旅)」の創設者アン・ポロック氏は「観光を産業(工業的な生産ライン)として捉えるのをやめ、土地、住民、そして旅行者が互いに影響し合って生きる生態系として捉え直す手法」を提唱している、といった具合だ。 

ノルウェ―がフランスの「核の傘」に入る

 英国とポーランドは27日、新たな包括的な防衛、安全保障条約を締結した。英国政府によると、スターマー首相とトゥスク・ポーランド首相がロンドンで署名した条約には、大規模な合同軍事演習や、NATO東部国境防衛のための無人航空機システムの活用拡大などが含まれている。

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▲トゥスク首相とスターマー首相は、ノースホルト空軍基地で防衛・安全保障・防衛条約に署名、ポーランド首相府公式サイトから、2026年5月27日

 トゥスク首相はノースホルト空軍基地(ロンドンから北西約24キロ)で安全保障・防衛パートナーシップ条約に署名した後、「私たちはポーランドとイギリスの安全を守り、我々の価値観を守りたい」と強調、ワルシャワとロンドンは二国間関係を最高レベルに引き上げたと述べた。
 
 英ポーランド条約の重要な焦点は、「複雑な次世代兵器システム」の共同開発を進め、新たな高性能弾薬や、中距離防空ミサイルシステムの共同生産を推進することだ。また、組織犯罪対策、サイバーセキュリティとハイブリッド脅威対策だ。両国の目標は潜在的な侵略者であるロシアを効果的に抑止することにある。欧州各地で発生しているロシア主導の放火事件、スパイ活動、サイバー攻撃、偽情報の流布といったハイブリッド攻撃への情報共有や防衛を強化する。

 英国にとって、EUとの防衛条約は、ブレグジット(EU離脱)後、スターマー現政権が進める「欧州諸国との信頼回復・連携強化」の一環であり、EU全体との防衛協力を深める布石だ。英国は近年、ドイツおよびフランスとも同様の防衛協定を締結している。ポーランドもフランスと協定を締結済みだ。ベルリンの情報筋によると、ドイツとポーランドの防衛条約に関する協議が現在も継続中だ。

 スターマー首相は「ロシアの侵略ほど我々にとって大きな挑戦はない。これはウクライナ国内だけでなく、国境の外でも見られる。この署名された条約は、両国間の安全保障と防衛関係の世代を超えた強化の真の成果だ」と語った。一方、トゥスク首相は「我々の軍事、技術、サイバー、安全保障の協力は、情報を含む幅広い分野で行われており、この歴史的な条約が本当に私たちの未来をより安全にするという希望を与えている」と説明している。

 なお、両首脳はこの協定について、「ここ数十年で最大の前進」(スターマー首相)」、「歴史的な瞬間」(トゥスク首相)」と位置づけており、トランプ米政権から求められてきた「欧州独自の防衛責任の拡大」への回答としても重要な意味を持っている、という認識を共有している。

 同じ日に、ノルウェーのストーレ首相はパリでフランスのマクロン大統領と会談し、フランス主導の新たな核抑止枠組み(欧州独自の「核の傘」)に加盟する防衛協定(ナルヴィク協定)に署名した。
(ナルヴィク=Narvikとはノルウェー北部にある北極圏の港町の名前。第二次世界大戦中(1940年)にノルウェー侵攻作戦において、戦略上の要衝として激しい海戦が行われた歴史的な場所)。

 ノルウェーは これまで、欧州のNATO加盟国として大国アメリカの核防衛体制の下にあった。そのノルウェーがフランスの核抑止枠組みに加わった背景には、�.蹈轡△砲茲覲砲龍式卅�大、�∧胴颪遼姫劵灰潺奪肇瓮鵐函並于そ0汰簡歉磧砲悗良坡亮太�の2点が挙げられる。北極圏でロシアと国境を接するノルウェーは、間近に迫るロシア極北の核戦力増強に対抗する必要が出てきた。なお、フランスが主導する核防衛構想への加盟国は、英国、ドイツ、ポーランド、スウェーデンなどに続き、ノルウェーが9カ国目。

 ストーレ首相はノルウェー通信社NTBに対し、「今回の措置は欧州の安全保障情勢を踏まえたものである」と強調する一方、「これまで通り安全保障の主軸はNATOと米国だ。平時においてノルウェー領土内に核兵器は配備しない」と指摘した。すなわち、同国の伝統的な核政策を維持したまま、フランスの抑止力を上乗せする形だ。

 ちなみに、フランスの核防衛体制(先進的抑止力)とは、EU加盟国の中で唯一の核保有国の同国が、2026年3月に打ち出した新構想「先進的抑止力(Forward Nuclear Deterrence)」に基づいている。フランス独自の核抑止力を、賛同する欧州の同盟国全体に拡大するものだ。万が一、加盟国が深刻な攻撃を受けた場合、フランスの核兵器による報復措置が発動する可能性(核の傘)を明示して敵国を牽制する。

 ただし、他国の領土に常駐・配備(核共有)する米国のシステムとは異なり、フランスの手法は柔軟な機動展開と作戦共有が特徴だ。具体的には、フランスの核積載可能な戦闘機(ラファールなど)が、必要に応じて同盟国の基地へ一時的に展開、機密情報の共有、合同核演習の実施、および防衛装備品の共同備蓄などを進める。

 英国とポーランドが結んだ防衛条約が「通常兵器やサイバー、ハイブリッド戦」を強化するものであるのに対し、ノルウェーとフランスの協定は「究極の抑止力である核の盾を欧州で分かち合う」という、より高次元の防衛統合だ。いずれにしても、トランプ米大統領の「欧州の安全保障は欧州諸国が責任持つべきだ」という主張は着実に現実化してきているわけだ。

「シャーロック・ホームズの日」を迎えて

 「5月22日」は名探偵シャーロック・ホームズの生みの親アーサー・コナン・ドイルが生まれた日で、「シャーロック・ホームズ・デー」と呼ばれている。アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Arthur Ignatius Conan Doyle)は1859年5月22日、スコットランドのエディンバラで生まれた。シャーロック・ホームズなどの本を書く前はわずかな期間だが眼科医だった。1902年に「サー(ナイト)の爵位が授与された。1930年7月7日、71歳で亡くなった。

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▲シャーロック・ホームズのシルエット(「The Sherlock Holmes」Book、DKから)

 日本でも多数のシャーロック・ホームズ・ファンがいるし、ホームズ関連の情報は既によく知られている。ドイルは短編「最後の事件」でホームズを崖から落として殺し、シャーロック・ホームズ・シリーズを終える考えだったが、読者の猛抗議や巨額の執筆料の提示を受け、後に復活させた話は良く知られている。シャーロック・ホームズが死んだことを知った多くの読者は当時、腕に喪章を付けて、その死を追悼したといわれている。

 当方は欧州に居住してからシャーロック・ホームズの探偵物に関心を持ち出した遅すぎたファンの一人だ。海外に住むようになって、BBCのシャーロックホームズ(2010年)やホームズがニューヨークで活躍するCBSTVシリーズ「エレメンタリー」(2012年)などを楽しく観た。

 年を取るにつれて、眠りにつくのが容易ではないこともあって、直近はもっぱらオーディオブックでシャーロック・ホームズの物語を楽しんでいる。そしていつの間にが眠ってしまうことが多い。だから、「海軍条約文書」や「ボヘミアの醜聞」などは何十回も聞いている。

 最近では、「ヤング・シャーロック」(全8話)が3月、放映された。TV用シリーズ(ガイ・リッチー監督)だが、ベーカー街の冷静沈着な名探偵時代ではなく、オックスフォード大学に通う青年シャーロックの話だ。もちろん、ドイルの作品ではないが、シャーロックと父親の関係、そして将来のライバルとなるジェームズ・モリアーティが登場する。続編が制作中という。

 シャーロック・ホームズに関連したエピソードは多い。シャーロック・ホームズのモデルはエディンバラ大学医学部時代の恩師、ジョセフ・ベル教授といわれている。教授は患者の観察から病気だけでなく、職業や経歴まで言い当てる天才的な観察眼の持ち主だったという。

 短編「ボヘミアの醜聞」の中で、ホームズはワトソンに「君は、この部屋へ上がってくる階段が何段あるか知っているか」と聞くと、ワトソンは答えられない。ホームズは「君は見ている(see)が、観察(observe)していないのだ」という有名な台詞を言う。そのシーンにはベル教授の影がちらつく。眼科医だったドイルは「見る』と「観る」の違いに人以上に拘るわけだ。

 英国の推理作家アガサ・クリスティ(1890〜1976年)の名探偵小説の主人公エルキュール・ポワロは難解な事件を事実の積み重ねから論理的な思考で解決していく。一方、シャーロック・ホームズは独自の科学的推理(アブダクション)と観察眼で難事件を解決する。その事件解決へのプロセスには違いがあるが、観察を重視する点では同じだ。シャーロック・ホームズは「マインドパレス」(記憶の宮殿)という言葉をよく使う一方、ポワロは「小さな灰色の脳細胞」という言葉が口癖となっている(「バイデン米大統領の『マインドパレス』」2024年2月10日参考)。

 伝記を読むと、息子を25歳という若さで亡くしたドイルは再び息子と話したいと、晩年には心霊主義に傾斜していく。ドイル自身はその前から心霊には強い関心を持っていたが、息子の死が大きな影響を与えたといわれている。

 興味深い点は、19世紀後半から20世紀初頭にかけ、心霊や幽霊に関心を持つ作家が多いことだ。スウェ―デンの国民的作家ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ(1849年〜1912年)は幽霊を捕まえようとしてガラス瓶を持って墓場を徘徊した話は有名だ。当時、映画や蓄音機が出てきてばかりの時代で、亡くなった人の姿や声が見、聞けることから、多くの人々は死後の世界に関心が高まっていた。フランツ・カフカも当時、映画が好きで頻繁に映画館に通っていた。ちなみに、カフカは日記の中で「シャーロック・ホームズのように観察する」といった表現を記している。

 今年7月でドイル没後96年だ。2030年には没後100年を迎える。その時にはシャーロック・ホームズが再び世界的に登場するだろう。「わが巨人軍は永久に不滅です」といった長嶋茂雄氏に倣って言うならば、「シャーロック・ホームズは永久に不滅です」。

メルツ氏「ウクライナをEU準加盟国に」

 米イスラエル軍のイラン攻撃が勃発して以来、世界の主要メディアの関心はイランの動向を含む中東情勢に注がれ、ウクライナ戦争の動向については報道が著しく少なくなってきた。もちろん、それなりの理由はある。イラン情勢がホルムズ海峡の封鎖などで世界の原油市場に大きな影響が出てきていることもあって、米イラン間の交渉の行方に関心が行かざるを得ないからだ。

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▲EUの旗、EU委員会公式サイトから

 厳密にいえば、ウクライナ情勢はかなりのスピードで動いている。5年目に入った戦争でウクライナ軍がここにきて領土奪回に成功する一方、ロシア軍の動きは停滞気味だ。ロシアは今月9日、対独戦争勝利記念の軍事パレードを挙行したが、ウクライナ軍の攻撃を警戒して小規模な軍事パレードとなり、わずか45分で終了した。厳重な警備体制が敷かれ、市内中心部ではモバイルインターネットがダウンし、普段は賑わうロシアの首都の通りは閑散としていた。

 それだけではない。ドイツ民間放送ニュース専門局NTVのモスクワ特派員が報じていたように、ロシア国民の間で戦争の危機感が高まってきているのだ。16日の夜から17日の朝にかけ、ウクライナ軍の無人機がモスクワおよびその周辺地域を攻撃し、少なくとも3人が死亡、製油所の建設作業員らを含む10数人が負傷した、というニュースはモスクワ市民に大きなショックを与えている。ウクライナのゼレンスキー大統領は「戦争はロシアからウクライナにやってきたが、その戦争は今、元のモスクワに戻って来たのだ」と表現していた。

 戦争が勃発してから5年目に突入した現在、モスクワ市民はロシア軍が隣国ウクライナと戦争を行っているという現実を身に感じてきたのだ。ロシアのプーチン大統領は「特殊軍事行動」と国民をだまし続けることができなくなった。

 欧州のメディアの中には、ウクライナが初めて戦場で優位に立った、ウクライナ戦争は大きな転換点を迎えている、といった論調が見られる。それに対し、インスブルック大学のロシア専門家マンゴット教授はNTVとのインタビューで「ウクライナの軍事的立場は数ヶ月前よりも有利になっているが、大きな転換点とはいえない」と指摘する一方、「ロシアは今後も戦争を苛烈化させ続けるだろう」と警告している。

 トランプ米政権はイラン問題にエネルギーを投入、ウクライナの停戦問題については発言を控えている。その一方、欧州連合(EU)の中でウクライナの和平実現に向けた動きが見られ出している。

 現状は、イラン問題は米国が、ウクライナ問題は欧州が責任を持って解決すべきだ、と言ってきたトランプ大統領の意向通り展開していると解釈ができるかもしれない。

 EUは4月23日、第20回目の対ロシア制裁を採択した。その主な内容は、過去2年間で最大規模とされるエネルギーや金融分野、および制裁迂回防止対策の強化などだ。

 ところで、EUの盟主ドイツのメルツ首相はウクライナにEUの「準加盟国」という新たな特別地位を与えることを提案している。EUのアントニオ・コスタ大統領、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長、そしてEU理事会議長国であるキプロスのニコス・クリストドゥリデス大統領に宛てた書簡の中で提案したものだ。

 メルツ氏は、ウクライナの「準加盟」の構想について、「これはウクライナの正式加盟への道筋において決定的な一歩となり得る。これは簡易加盟ではなく、既存の連合協定をはるかに超えるものであり、加盟プロセスをさらに加速させるだろう」と説明する。

 首相の構想によれば、この特別な地位には、ウクライナが欧州理事会およびEU理事会の会合に参加すること(議決権はなし)が含まれる。また、担当分野と議決権を持たない欧州委員会の準委員、議決権を持たない欧州議会の準委員、そして「副報告者」という形で欧州司法裁判所の準判事としての役割も考えられる。同提案によれば、ウクライナは当初、通常の加盟国のようにEU予算への拠出や恩恵を受けることはないが、直接管理下のプログラムは、セーフガード条項を付帯して段階的に開放される可能性があるというのだ。

 同提案の中で重要な点は安全保障政策に関する部分だ。メルツ首相は、「ウクライナは外交・安全保障政策をEUと完全に整合させるべきだ。同時に、加盟国はEU条約第42条第7項に基づく相互援助条項をウクライナにも適用するという政治的コミットメントを行うべきだ」と主張している。

 メルツ首相は、ウクライナがEUの基本的価値観に違反した場合、あるいは加盟交渉で重大な後退が生じた場合に備え、代替措置、あるいは権利剥奪条項を設けることも構想している。メルツ氏の提案はその実現性は別として、ウクライナのEU加盟問題で突っ込んだ提案が飛び出したこと自体、画期的だ。

 また、ロシアのプーチン大統領との和平交渉の際のEU側の代表者問題が話題に上がってきている。フィナンシャル・タイムズ紙の報道によると、候補者としてアンゲラ・メルケル元ドイツ首相、あるいはマリオ・ドラギ元欧州中央銀行(ECB)総裁の名前が挙がっている。そのほか、フィンランドのアレクサンダー・スタッブ大統領とその前任者サウリ・ニーニスト氏も、欧州各国政府から候補として挙げられているという。EUのカラス外交安全保障上級代表は11日、月末の加盟国外相会合でロシアとの交渉の可能性や要求内容を議論すると明らかにしている。

 ちなみに、EU側の動きに先立ち、ロシアのプーチン大統領は9日、ウクライナ戦争の解決に向けて欧州諸国と交渉する意向があることを示唆している。プーチン大統領自身、仲介役としてドイツ社会民主党(SPD)のゲルハルト・シュレーダー元首相を推薦していた。

 いずれにしても、EU側からの案に対し、トランプ米大統領がどのように反応するかは不明だが、EU側がウクライナの和平実現に向け、具体的な代案を提示したことは高く評価される。

ナポリの奇跡「聖人の血の液状化現象」

 ローマ教皇レオ14世は8日、教皇就任1年を迎え、イタリア南部ナポリの大聖堂を訪問し、そこで、「血の奇跡」で知られる聖ヤヌアリウスの聖遺物を拝謁した。聖ヤヌアリウス(イタリア語でサン・ジェンナーロ)は、イタリア・ナポリで絶大な信頼を集める守護聖人であり、3世紀末から4世紀初頭に実在したベネヴェントの司教だ。

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▲ナポリの大聖堂を訪れたレオ14世、バチカンニュースから、2026年5月8日

 伝承によると、ヤヌアリウスは西暦272年にイタリアのナポリまたはベネヴェントで生まれたとされ、若くしてベネヴェントの司教となった。ローマ皇帝ディオクレティアヌスによるキリスト教迫害の時代(305年頃)、捕らえられた仲間の信者を励まそうとして自らも逮捕された。当初は円形闘技場で猛獣の餌食にされる刑を宣告されたが、獣たちが彼を襲わなかった(あるいは火炉に投げ込まれても無傷だった)ため、最終的にナポリ近郊のポッツォーリで斬首された。

 聖ヤヌアリウスが有名な理由は、ナポリ大聖堂に保管されている「聖ヤヌアリウスの血液」にまつわる不思議な現象があるからだ。普段はガラス瓶の中で黒く固まっている乾燥した血液が、特定の祝祭日に液状化する現象だ。

 伝統的に、ナポリの守護聖人の血は年に3回液状化する。5月の第1日曜日の前の土曜日(聖遺物がナポリに移送された祝日)、9月19日(聖人の祝日)、そして12月16日だ。その日は1631年のベスビオ山の噴火からナポリが守られたことを記念する日だ。

 それらの特定の日に液状化現象が起こらない場合、多くのナポリ市民はそれを不吉な前兆と考える。地震や噴火などの災厄の前触れと受け取るわけだ。ナポリは歴史的にヴェスヴィオ火山の噴火や地震、ペストの流行といった災厄に見舞われてきた。、1980年(イルピニア大地震)にナポリ近郊で約3,000人が亡くなる壊滅的な大地震が発生した。2020年(新型コロナウイルス)の パンデミックが猛威を振るい始めた時、12月の儀式で液状化が起こらなかった。
 
 ちなみに、1631年の大噴火で、ヴェスヴィオ火山の溶岩がナポリ市街に迫った際、信者たちが聖人の遺物(血液)を掲げて行進し祈りを捧げたところ、溶岩の流れがピタリと止まり、街は壊滅を免れた。このことから、12月16日は「奇跡の日」として現在も祝祭が行われているわけだ。聖ヤヌアリウスは単なる歴史上の聖人ではなく、ナポリの運命を共にする「街の守護者」だ。

 聖ヤヌアリウスの血が液化すれば、ナポリの人々にとって吉兆を意味する。レオ14世が8日、大聖堂に入る直前、この奇跡が起きたのだ。わずか数日の間に2度目の奇跡だ。レオ14世は、「聖ジェンナーロに敬意を表したい。彼はとても大切な存在だ」と述べ、大聖堂に集まった人々の歓声の中、液化した血の入った小瓶を掲げ、キスをしている。

 なお、「血の奇跡」は、過去の教皇訪問時にも記録されている。1848年のピウス9世の訪問時には、血の液化現象が記録された。1979年のヨハネ・パウロ2世と2007年のベネディクト16世の訪問時には、この奇跡は起こらなかった。

 「血の奇跡」は1389年以来、数世紀にわたり記録されているが、科学的に完全な説明はついていない。科学者たちは、この現象をチキソトロピー(特定の物質が刺激を受けると液化する性質)などに起因するものと考えている。

 カトリック教会はナポリの「血の奇跡」を公式に「奇跡」とは断定せず、「驚異的な現象(prodigy)」と呼んで慎重な姿勢を保っているが、信仰の対象として尊重している。「血の奇跡」はナポリの文化やアイデンティティと深く結びついた民間信仰と呼ぶべきかもしれない。
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