ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

東欧

与党PiSが過半数失った本当の理由

 ポーランドで15日、議会選挙(上・下院)の投開票が行われた。中間開票結果(開票率99・6%)によると、右派与党「法と正義」(PiS)は下院で第1党を堅持したが過半数には及ばす、野党第1党の中道リベラル政党「市民プラットフォーム」(PO)は第2位につき、同党主導の野党連合が過半数を獲得し、8年間続いたPiS政権に代わって、親欧州連合(EU)路線のPO主導の新政権が誕生する可能性が現実味を帯びてきた。

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▲選挙戦で有権者に語り掛けるPiSのモラヴィエツキ首相(2023年10月12日、ポーランドのリブニクで、PiS公式サイトから)

 議会選では、下院(セイム)の460議席、上院(セナト)100議席がそれぞれ選出される。下院では与党PiSが得票率約35・54%でトップを維持したが、過半数を割った。PiSのカチンス党首は、「わが党は第1党となったが、新政権が発足できるかまだ不確かだ」と述べた。連立パートナーとしては極右政党「コンフェデラツィア」が有力候補だが、両党を合わせても下院で210議席に留まり、過半数には程遠い。他の政党はPiSとの連立を拒否している。一方、PO主導の野党連合は30・56%だが、キリスト教保守政党「第3の道」と左翼同盟「レウィカ」の野党3党を合わせると、下院250議席を獲得でき、50%を超える。

 2007年から7年間、首相を務め、その後、欧州理事会議長(EU大統領)も歴任したPO党首ドナルド・トゥスク氏は15日夜、「第2党であることがこれほどうれしかったことはない。野党連合による新政権の可能性が出てきた」と表明し、8年間のPiS政権に不満をもつ政党と連立政権を発足したい意欲を見せている。

 開票集計が進んでも上記の結果には変化がないだろうから、ここでは「なぜPiSは過半数を失ったか」をまとめてみたい。

 PiSは与党の特権を利用し、選挙戦では年金者や児童への手当ての大幅な増額を公約し、有権者に甘い言葉で訴えるなど、政権維持のためにあらゆる手段を駆使してきた。同国では主要メディアはほぼ全てPiSの影響下にあるから、PiS批判は選挙戦ではほどんど聞かれなかった。その点、ハンガリーのオルバン政権とほぼ同じ状況だ。国営放送ではPiSのライバル、POのトゥスク氏はほとんど登場できず、TV主催の選挙討論会にも招待されなかった。

 にもかかわらず、PiSは得票を失ったのだ。PiSは前回の総選挙(2019年10月13日実施)で得票率43・6%でセイム(下院)とセナト(上院)の両院を独占した。PiSは今回、得票率で約8%失ったことになる。

 投票率が73%と予想外に高く、有権者の選挙に対する関心が高かったことを物語っているが、高投票率がPiSにとってマイナスに働いたといえるかもしれない。すなわち、普段は投票場に行かない若い世代が現政権の交代を願って足を運んだことが考えられるからだ。

 PiSは過去8年間、EU主導の移民政策に強く反対し、「法の秩序と民主主義」の逸脱でEUから制裁を受けるなど、ハンガリーのオルバン政権と同様、反EU路線を推進してきた。また、女性の中絶問題でも同国憲法裁判所が2020年10月22日、「胎児が先天的疾患と診断されたとしても中絶は違憲」という判断を下すなど、女性だけではなく、多くの国民が「女性の権利を蹂躙する」として抗議デモを行った。

 欧米メディアで看過されている点は、欧州の代表的カトリック教国ポーランドで教会離れが急速に進んできていることだ。そして伝統的に保守派のカトリック信者がPiS離れしてきたことだ。

 アンジェイ・ドゥダ大統領が投票日を「10月15日」に決定したのは偶然ではない。ヨハネ・パウロ2世(在位1978年〜2005年)は1978年10月16日にローマ教皇に就任した。与党PiSは支持層のカトリック信者を投票に動員するために、同国の英雄ヨハネ・パウロ2世の就任日の前日を選挙日にしたというわけだ。

 冷戦時代、ポーランド統一労働者党(共産党)の最高指導者ウォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領は、「わが国は共産国(ポーランド統一労働者党)だが、その精神はカトリック教国に入る」と述べ、ポーランドがカトリック教国だと認めざるを得なかった。そのポーランドでクラクフ出身のカロル・ボイチワ大司教(故ヨハネ・パウロ2世)が1978年、455年ぶりに非イタリア人法王として第264代法王に選出された時、多くのポーランド国民は「神のみ手」を感じ、教会の信仰の火は国内で燃え上がったわけだ(「ヤルゼルスキ氏の『敗北宣言』」2014年5月27日参考)

 ポーランドは久しく“欧州のカトリック主義の牙城”とみなされたが、そのカトリック教国のポーランドでも「神の館」と見なされてきた教会の聖職者の未成年者への性的虐待問題が次々と発覚、小児性愛(ペドフィリア)の神父が侵す性犯罪を描いた映画「聖職者」(Kler)は2018年9月に上演されて以来、500万人以上の国民がその映画を観たといわれている。国内では教会の聖職者の性犯罪隠ぺいに批判の声が高まっていった。同国ではヨハネ・パウロ2世は絶対的な英雄だったが、その神話は崩れてきた。その結果、カトリック教会を支持基盤とするPiSは有権者を失っていったわけだ(「ポーランドのカトリック主義の『落日』」2020年11月7日参考)。

ポーランドで現政権批判の大規模集会

 ポーランドで15日、議会選挙(上・下院)が実施される。投票日を2週間前に控えた1日、首都ワルシャワで現保守派与党「法と正義」(PiS)政権打倒を訴える野党第一党「市民プラットフォーム」(PO)主導の10万人以上の大規模集会が開催された。

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▲ワルシャワで反政権抗議デモ集会(2023年10月1日、野党「市民プラットフォーム」公式サイトから)

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▲野党「市民プラットフォーム」指導者トゥスク氏らがデモ集会に参加(同)

 選挙では、下院(セイム)の460議席、上院(セナト)100議席がそれぞれ選出される。複数の世論調査では、PiSがリードし、それを数ポイント差でPOが追っている。選挙の焦点は、2期8年間、政権を運営してきた保守系与党PiSが政権を維持するか、それとも中道リベラル派の最大野党PO主導の新政権が生まれるかだ。

 欧州理事会議長(EU大統領)を務めた元首相のPO党首ドナルド・トゥスク氏は現政権に不満をもつ国民に「100万人の心の行進」の参加を呼びかけた。外電によると、同デモには左翼同盟「レウィカ」も支援した。多くのデモ参加者がポーランドとEUの国旗を掲げて首都中心部でデモ行進。元大統領でノーベル賞受賞者のレフ・ワレサ氏も参加した。デモ参加者は「私たちはもうたくさんだ。変化を望んでいる」、「団結すれば力がでる」と書かれたプラカードを掲げて行進した。

 ちなみに、デモ主催者側は参加者数を100万人と主張し、ワルシャワ市長広報官は、「これは間違いなくワルシャワ史上最大規模の集会だ」と追認したが、警察側によるとデモ参加者数は約10万人だ。同国のメディアは参加者数を「10万人〜80万人」と報じている。

 トゥスク氏はデモ参加者に向かって、「この力を止めることはできない。この変化は避けられない」と述べ、国民にチェンジをアピールしている。同氏は先月28日、デモ開催に先立ち、「もう誰も現政権を恐れていない。右翼民族主義政党(PiS)はポーランドの民主制度、特に司法を弱体化させている。また、女性や少数派の権利はますます削減されている」と批判した。

 PiS政権は総選挙を有利に進めるために、ロシアの影響を受けている政治家を公職追放する新法を成立させたが、その新法に抗議する反政府デモが首都ワルシャワで6月4日起きるなど、PiS政権への不満は国民の間で充満している。

 例えば、最近、金銭と引き換えに移民にビザを不法に発給するというスキャンダルが発覚し、移民政策における強硬な姿勢で知られる政府は窮地に陥っている(オーストリア国営放送ヴェブサイト)。なお、PiSは1日、南部カトヴィツェで独自の集会を開いた。

 同国の世論調査によると、与党PiSが支持率38%でトップを走り、それを追ってPOが30%だ。そのほか、左翼同盟「レウィカ」が10%、極右党「コンフェデラツィア」は9%となっている。

 前回の総選挙(2019年10月13日実施)ではPiSは43・6%でセイム(下院)とセナト(上院)を独占したが、ここにきて民族主義的政策、女性の権利はく奪などで有権者の支持を失うとともに、ローマ・カトリック教会の聖職者の未成年者への性的虐待問題が次から次と暴露され、教会離れする国民が増えてきたこともあって、支持率が落ちてきている。

 参考までに、同国でほぼ全ての国民がカトリック信者だった時代は過ぎ去った。聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚し、教会への信頼は失われてきた。同国ではヨハネ・パウロ2世は絶対的な英雄だったが、その神話は崩れてきている。カトリック教会の敬虔な信者で、保守的な愛国主義者を支持基盤とするPiSにとって、教会の影響力の低下は、即、支持率の低下となって跳ね返ってきているわけだ。

 ロシア軍の侵略を受けるウクライナを支援することでは与野党の間には大きな相違はなかったが、ロシアがウクライナ産穀物の黒海経由での輸出にストップをかけて以来、安価なウクライナ産穀物がポーランド市場に流れ、ポーランドの農民たちがウクライナ産穀物の流入に反対した。そのため、政府は支持基盤の農民たちの苦情を配慮し、ウクライナ産穀物の取引禁止策を取らざるを得なくなってきたことから、ポーランドとウクライナ間で不協和音が流れている。

 ちなみに、ポーランドのPiS政権はハンガリーのオルバン政権と同様、EUとは対立を繰り返してきた。ブリュッセルとしては、親EU派のトゥスク氏が勝利して、政権交代が実現することを願っていることは間違いないだろう。いずれにしても、PiSは第1党をキープしても単独ではもはや政権を樹立できないため、連立パートナーが必要となる。その際、極右政党「コンフェデラツィア」が有力候補と見られている。

スロバキア議会選からの「警告」

 9月30日に実施されたスロバキア議会の繰り上げ選挙(一院制、定数150)で、ロバート・フィツォ元首相が率いる野党「社会民主党(スメル)」が第1党にカムバックした。同国選挙管理委員会が集計率99%の段階で公表した投票結果によると、野党「スメル」(スロバキア社会民主主義に向けて=Smer-SSD)が得票率23.3%を獲得した。 欧州連合(EU)副議会議長ミハル・シメツカ率いるリベラル政党「進歩的スロバキア」は、得票率約17%で2位に留まった。この結果を受け、選挙後「スメル」主導の組閣工作が開始されるが、連立交渉は難航すると予想されている。

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▲議会選で勝利し、政治カムバックしたスロバキアのフィツォ元首相(2023年9月30日、オーストリア国営放送のスクリーンショットから)

 スロバキア総選挙では、ウクライナ支援を継続するか、中止するかで主要政党間で対立してきた。特に、今回第1党になった「スメル」のフィツォ元首相はウクライナへの武器供与に反対を表明してきた。それだけに、EUのウクライナ支援の継続路線にまた新たなハードルが生まれた、と受け取られている。ちなみに、スロバキアはロシアのウクライナ侵攻以来、積極的にウクライナを支援、EU加盟国で初めて旧ソビエト製ミグ29戦闘機をキエフに提供してきた。

 フィツォ氏は2006年から2010年、そして2012年から2018年まで首相を務めた。2018年にジャーナリストのヤン・クシアク氏とその婚約者が殺害された事件を受けて、イタリアのマフィアとフィツォ首相の与党の関係が疑われ、ブラチスラバの中央政界を直撃、国民は事件の全容解明を要求して、各地でデモ集会を行った。フィツォ首相(当時)は2018年3月15日、辞任を余儀なくされた経緯がある(「スロバキア政界とマフィアの癒着」2018年3月17日参考)。

 その後のスロバキアの政情は腐敗とカオスの状況が続いた。フィツォ首相の後継者に同じ社会民主党系「スメル」からペレグリニ副首相が政権を担当、スメル主導の連立政権を継続した。ただし、2020年2月に総選挙が行われ、マトヴィチ党首率いる「普通の人々」、「我々は家族」、「自由と連帯」、「人々のために」の4党から成るマトヴィチ首相率いる新政権が発足した。

 しかし、連立政権内で対立が生じ、マトヴィチ首相は辞任。ヘゲル新政権が発足したが、少数派政権となって2022年12月、内閣不信任案が可決され、総辞職に追い込まれるなど、今年9月の繰り上げ総選挙実施までスロバキア政権はドタバタ劇が続いてきた。

 5年前のジャーナリスト射殺事件の引責で辞任に追い込まれ、マフィアとの関係、腐敗政治家というレッテルを貼られ、「政治キャリアは終わった」と見られてきたフィツォ氏が今回カムバックできた背景には、その後の政権の行政能力のなさがあることは明らかだ。また、新型コロナウイルスの席巻、ウクライナ戦争の長期化で、国民経済は停滞し、国民の生活は厳しいという事情がある。

 スロバキア総選挙が国際的に注目されたのは、同国のウクライナ政策が選挙結果次第では激変するのではないか、という懸念があったからだ。フィツォ氏は選挙戦では「武器の支援は戦争を長期化し、平和をもたらさない。対ロシア制裁ではスロバキアにとってマイナスをもたらさない場合に限り、守る」と主張してきた。なお、フィツォ氏の「スメル」主導が新政権を確立するためには少なくとも他の2党との連立が不可欠だ。

 EU内の旧東欧加盟国でウクライナ支援で揺れが見られ出した。ロシア軍のウクライナ侵攻以来、ウクライナに人道支援、軍事支援してきたポーランドはウクライナ産穀物の輸入問題が発火点となり、ウクライナと対立してきた。ハンガリーのオルバン首相は先月25日、ブタペストの国会演説でロシアと戦争中のウクライナを酷評し、「キーウ政府はウクライナ最西端ザカルパッチャ州に住むハンガリー系少数民族約15万人の母国語の権利を制限している。その権利が回復されるまで、わが国はウクライナを国際政治の舞台では支援しない」と述べたばかりだ。そしてウクライナ支援の中止を表明してきたスロバキアの野党「スメル」が選挙で勝利した。

 それだけではない。ウクライナへの最大の支援国・米国連邦政府の議会上下両院は30日、11月半ばまでのつなぎ予算案を賛成多数で可決したが、その予算案にはウクライナ支援は除外されたという。ウクライナ政府にとって悪夢だ。

 一方、ロシアのプーチン大統領はウクライナ支援で欧米諸国が揺れ出してきたのを見て、「チャンス到来」と受け取り、戦争の長期化を通じて欧米の結束を更に崩す作戦に出てくることが予想される。

 ロシアが始めたウクライナ戦争は世界の戦争に拡散する危険性を内包していることを再確認し、欧米諸国の指導者はウクライナ戦争の危険さを改めて国民に伝え、ウクライナ支援で結束を緩めてはならない。世界は正念場を迎えている。これがスロバキア議会選からの「警告」だ。

オルバン氏はロシア情報工作の手先?

 先ず、ブタペスト発の2つの外電を紹介する。

 .魯鵐リーのオルバン首相は25日、ブタペストの国会演説でロシアと戦争中のウクライナを酷評し、「キーウ政府はウクライナ最西端ザカルパッチャ州に住むハンガリー系少数民族約15万人の母国語の権利を制限している。その権利が回復されるまで、わが国はウクライナを国際政治の舞台では支援しない」と述べた。オルバン首相が批判しているのは、ウクライナ政府が2017年、学校での少数言語の使用を制限する法律を可決したことだ。

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▲ハンガリーのオルバン首相(「フィデス」の公式サイトから)

 ▲ルバン首相は25日、「スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟の批准を迅速には実施しない。スウェーデンのNATO加盟の批准を急ぐ事情はないからだ。スウェーデンの安全は決して脅かされていない」と主張する一方、「スウェーデンはこれまでわが国に対して法の支配が損なわれているという中傷を繰り返してきた。ストックホルムには先ずわが国への敬意を求めたい」と述べている。

 ,魯Εライナのハンガリー系住民(マジャール人)政策への批判だ。ところで、オルバン首相はなぜ突然、2017年の少数民族の言語の権利に関する法律を持ち出して、ロシアと戦争中のウクライナを批判し出したのだろうか。そして「ハンガリーは今後、ウクライナ側が政策を変えない限り、国際政治上、ウクライナを支援しない」と脅迫しているのだ。

 オルバン首相がハンガリー・ファーストを標榜する政治家であることは良く知られているが、米国、欧州連合(EU)加盟国が結束してウクライナへの支援を実施している最中に、2017年の法律を持ち出してウクライナを批判するだけではなく、支援しないと警告を発しているのだ。

 △両豺隋▲ルバン首相がスウェーデンのNATO加盟の批准を迅速に取り扱わないという声明だが、理由が希薄だ。トルコがスウェーデンのNATO加盟を急がないのは、クルド労働者党(PKK)活動家へのストックホルムの対応が甘いことへの反発があるが、ハンガリーの場合、理由が明確ではない。ただ、オルバン政権へのEU加盟国の批判を理由に挙げているが、スウェーデンを名指しで批判する特別の理由は見当たらない。

 以上、上記の2つの外電の背景を考える時、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロの手助けは無用だろう。上記の2つのニュースで最も喜ぶ国、人間はロシアのプーチン大統領だ、という結論が容易に生まれてくるからだ。

 EU加盟国のハンガリーがウクライナを批判することで、EUの結束を揺るがすことになる。また、北欧スウェーデンのNATO加盟が遅れることはプーチン氏にとって朗報だろう。要するに、オルバン氏の25日の発言はプーチン氏を喜ばすニュースであったことは疑いないのだ。オルバン首相が事前にプーチン大統領と連携して今回の発言をしたとは思わないが、プーチン氏の意向に沿った発言だといえる。

 それでは、オルバン氏にはプーチン氏を喜ばせたい事情があるのだろうか。ハンガリーはウクライナ戦争後も安価のロシア産ガスの輸入を続けている。同国はまた、昨年4月7日、首都ブダペスト南方にあるパクシュ(Paks)原発への核燃料をロシアから空輸している。要するに、ハンガリーは石油、天然ガスばかりか、原発とその核燃料もロシアに依存しているのだ。

 ハンガリー・ファーストのオルバン首相はウクライナ避難民の救助など人道的な支援は行うが、それ以外のEUの軍事支援、武器供給を拒否し、EUの対ロシア制裁を拒んでいるわけだ。換言すれば、プーチン氏を怒らせたくはないのだ。

 だから、オルバン首相は、「EUの対ロシア制裁はロシアよりEU加盟国の国民経済を一層損なうだけだ」として反対の立場を取ってきた。ちなみに、ゼレンスキー大統領は、「オルバン首相はEUの結束を崩すロシアの共犯者だ」と批判している。

 オルバン首相は、EUの本部ブリュッセルからは「民主主義と法の遵守」を求められ、「言論の自由に反する」として制裁を科せられているが、プーチン大統領とは友好関係を維持し、中国とは経済関係を深めている(「ハンガリーの中国傾斜は危険水域に」2020年4月30日参考)。

 EUは現在、ハンガリー向けに割り当てられた約300億ユーロのEU資金をブロックしているが、これには新型コロナウイルス復興基金からの援助と優先融資の120億ユーロが含まれる。EUは「ハンガリーの司法機関と監督機関はEU資金を正しく運営することを保証する十分な独立性を持っていない」と受け取っているからだ。

 ハンガリーは2024年7月1日、EUの議長国に就任する。任期は半年間だ。欧州議会は6月1日、ハンガリーのEU議長国に反対する決議案(全619票)を賛成442票、反対144票、棄権33票の賛成多数で採択した。同決議案は法的拘束力はないが、「象徴的な意味合いがある」という。EU加盟国ではハンガリーに対して不信感が強いわけだ。口の悪い人は「ハンガリーがまだEU加盟国に留まっていること自体、不思議だ」という。

 いずれにしても、オルバン首相の25日の発言を聞けば、「ハンガリーがロシアの情報工作の手先となっている」といった憶測さえ生まれてくるのだ。

ポーランド総選挙の行方は

 ポーランドで10月15日、議会選挙(上・下院)が実施される。選挙の焦点は、2期、8年間政権を運営してきた保守系与党「法と正義(PiS)」が政権を維持するか、それとも中道リベラル派の最大野党「市民プラットフォーム」(PO)主導の新政権が生まれるかだ。選挙では、下院(セイム)の460議席、上院(セナト)100議席がそれぞれ選出される。複数の世論調査では、両党は拮抗している。投票日が決まる前から、ポーランドでは選挙戦は既に始まっている。

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▲ドゥダ大統領の出迎えを受ける岸田文雄首相(2023年3月22日、ポーランドで、=写真提供:内閣広報室)

 ここではポーランドの政界を少し振り替えってみる。ロシアのプーチン大統領が2022年2月24日、ウクライナに軍を侵攻させて以来、隣国ポーランドは一貫してウクライナを支援、欧州でもウクライナからの避難民を最も多く収容してきた。人道支援だけではなく、武器供与でも常に先行してきた。ちなみに、ポーランドは欧州の代表的なローマ・カトリック教国だが、ウクライナ西部地域には、ローマ・カトリック教会に近い東方帰一教会の信者が多いことから、昔から人的な交流がある。

 ところで、アンジェイ・ドゥダ大統領が投票日を10月15日に決定したのは偶然ではないだろう。ヨハネ・パウロ2世(在位1978年〜2005年)が1978年10月16日にローマ教皇に就任した日の1日前だ。与党PiSは、教会に通う保守的な有権者がPiSに投票してくれることを期待しているわけだ。

 同国でほぼ全ての国民がカトリック信者だった時代は過ぎ去った。聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚し、教会への信頼は失われてきた。同国ではヨハネ・パウロ2世は絶対的な英雄であり、聖人だったがその神話は崩れてきている。カトリック教会の敬虔な信者で、保守的で愛国主義者を支持基盤とするPiSにとって、教会の影響力の低下は、即支持率の低下を懸念せざるを得なくなるわけだ。

 ロシア軍の侵略を受けるウクライナを支援することでは与野党の間には大きな相違はなかったが、ロシアがウクライナ産穀物の黒海経由での輸出にストップをかけて以来、ウクライナ産の穀物がポーランドに輸送され、そこで取引される事態が生じてくると、ポーランドの農民たちが一斉にウクライナ産穀物の流入に反対した。政府は農民たちの苦情を無視できないので、ウクライナ産穀物の取引禁止といった対策を取らざるを得なくなってきたことから、ポーランドとウクライナ間で不協和音が一時期流れた。

 PiS政権は総選挙を有利に進めるために、ロシアの影響を受けている政治家を公職追放する新法を成立させたが、その新法に抗議する反政府デモが首都ワルシャワで6月4日起きた。メディア報道によると、50万人が参加した大規模デモだった。新法は選挙での「野党排斥」が狙いと受け取られている。歴史的に見れば、ポーランド人はバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の国民と同様、ロシア嫌いで知られている。

 また、ベラルーシでロシアの民間軍事組織ワグネルの傭兵たちがポーランド国境周辺で軍事訓練を受けていることから、ポーランドは警戒している。ブワシュチャク国防相は10日、国境警備の強化のため最大1万人の兵士を増派すると表明している。ポーランドはベラルーシと418キロの国境を接している。2021年、数千人の難民が両国間の国境からEUに不法に入ろうとしたことがあった。EU側は当時、ベラルーシのルカシェンコ大統領がEUに圧力をかけるために難民を組織的に国境線に集めていると非難した。いずれにしても、ポーランドの議会選挙は否が応にもウクライナ戦争の影響を受ける。プーチン大統領はポーランド選挙にさまざまな手段を駆使して関与していることは間違いない。

 選挙ではPiSが第一党となろうがもはや過半数を獲得することは難しい。一方、野党の元首相で欧州連合(EU)大統領を歴任したドナルド・トゥスク氏率いるリベラル保守主義政党「市民プラットフォーム」がトップになっても、過半数には及ばないだろう。すなわち、投票日後の連立交渉が避けられないわけだ。

 ちなみに、ポーランドのPiS政権はハンガリーのオルバン政権と同様、EUとは対立を繰り返してきた。その意味で、ブリュッセルとしては、親EU派のトゥスク氏が勝利して、政権交代が実現することを願っていることは間違いないだろう。

ハンガリーの「ゼロ移民」政策の行方

 オーストリアのネハンマー首相の主催でウィーンの連邦首相府でハンガリーのオルバン首相、セルビアのヴチッチ大統領を招き、3カ国の「難民対策首脳会談」が開催された。この種の会談は今回が3回目でオーストリアのホストは初めて。

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▲首脳会談後の共同記者会見(右オルバン首相、中央ネハンマー首相、左ヴチッチ大統領)2023年7月7日、ウィーンで、セルビア大統領府公式サイトから

 3首脳会談のテーマは如何に殺到する難民、不法移民を抑え、国境警備を強化するかだ。北アフリカ・中東からバルカン・ルートを通じて欧州に入る不法難民が急増してきている。会談には3国の外相、内相、警察署長も参加した。

 会議では、各内相による警察業務の分野における4ページにわたる協力覚書の署名が行われた。合同国境警備タスクフォースの設立、密航業者との戦いにおけるより集中的な協力などが合意された。オーストリアはハンガリーとセルビアの国境に警察官を現在の20人から70人に増員することを表明した。

 ネハンマー首相は会合後の共同記者会見で、「EU(欧州連合)の難民・移民対策は壊れており、機能していないことを認識する必要がある。3カ国が協力すれば難民・移民の殺到にブレーキをかけることができる」と強調した。

 一方、ブタペストからウィーン入りしたオルバン首相は、「ハンガリーとセルビアがなければオーストリアとEUにはさらに数十万人の移民が増えるだろう」と述べ、「ハンガリーはゼロ移民政策を実行している。ゼロ移民だ」と繰り返し強調し、「不法な移民や難民の申請を認めていない」と豪語した。

 傍に立っていたネハンマー首相は 「不法移民がハンガリーにいないのは事実だが、彼らの80%はハンガリー経由でオーストリアに入ってきているのだ。その難民申請件数は10万9000件になる。ハンガリーは同期間で45件だ」と指摘し、オルバン政権から収容を拒否された難民・移民がオーストリアに殺到していると語調を強めて主張した(公平を期すために説明すると、ハンガリーからオーストリアに入国した難民・移民の80%以上が隣国の経済大国ドイツを目指して行く。オーストリアに留まる移民・難民の数は少数だ)。

 それに対し、オルバン首相は笑みを漏らしながら、「われわれはヨーロッパで唯一(不法)移民のいない国だ」と指摘、EUが推進している移民の「強制分配」政策について改めて批判した。 

 EUは6月8日の内相理事会で、移民・難民受け入れの負担を分担することで合意した。イタリアやギリシャなど地中海沿岸国は海から渡ってくる難民への対応で他の国々の支援を求めてきた。具体的には、各国が受け入れる移民・難民の人数枠を設けるが、受け入れを拒否する国はその代わりに、受け入れ国に1人当たり約2万ユーロの現金や資材、人材を提供すると定めている。EUの「移民・難民受け入れ枠」について、オルバン首相は当時、「受け入れられない」といち早く拒否した(「地中海で2万人以上の難民が犠牲」2023年6月17日参考)。

 オーストリア政府関係者によると、1月から5月までの申請件数は昨年同時期と比べて20.5%減少し、5月はマイナス30%だったが、EU域内の残りの地域での亡命申請件数は30%増加しているという。ネハンマー首相は、「EUが移民政策を完全に改革しないのなら、私たちは自助努力をしなければならない」と述べている。

 難民・移民対策ではハンガリーに対する批判が強い。例えば、オルバン首相は国内で拘留中の外国人の不法移民密入国業者を早期釈放して、国外に追放している。この措置は密入国業者への恩赦ではない。外国人の移民密入国業者を刑務所に長期間収容し続けるためには経費がかかるからだ。もう少しシンプルにいえば、経費削減策だ。

 ブタペスト発のニュースが届くと、ウィーンとブダペストの間で外交的緊張を引き起こしたほどだ。オーストリアのシャレンベルク外相は5月21日、ハンガリーのシ―ヤールトー外相と会談して、ブダペスト側の意図について話し合っている。

 公式情報によると、ハンガリーでは現在、73カ国から約2600人の外国人が刑務所に収監されており、その大半が密入国で有罪判決を受けた犯罪者だ。ハンガリーのメディアによると、セルビア、ルーマニア、ウクライナからの密航者700人が既に釈放された。ただし、釈放から72時間以内にハンガリーを出国しなければ、直ちに再逮捕される(「ハンガリー政府の経費削減の『奇策』」2023年5月24日参考)。

 なお、今回のウィーンの首脳会談について、オーストリア野党第一党「社会民主党」(SPO)の安全保障担当広報担当、ラインホルト・アインワルナー氏は、「会談はオルバン氏にとって虚偽を広め、オーストリアを脅迫する舞台となっただけだ」と述べた。一方、極右政党「自由党」(FPO)のキックル党首はハンガリー首相の「ゼロ移民」政策をオーストリアの模範とみなしている。同党首は 「ネハンマー首相はオルバン氏と話し合うだけでなく、不法大量移民に対してオルバン氏のように行動すべきだ」と発破をかけている、といった具合だ。

 中国の習近平国家主席は新型コロナウイルスのパンデミックに対し、「ゼロコロナ」(Zero-Covid)政策を実施し、感染が終息に向かった時にも「ゼロコロナ」に拘った。その結果、中国の国民経済に大きなダメージを与えたことはまだ記憶に新しい。同じように、オルバン首相は「ゼロ移民」(Zero-Migration)政策を実施し、ブリュッセルの「移民受け入れ枠」を拒否する一方、人身売買業者を刑務所から追い払うなど、「ゼロ移民」政策のために徹底した“ハンガリー・ファースト”を実行している。オルバン首相の「ゼロ移民」政策は共同移民政策を目指すブリュッセルにとって大きな障害となってきている。

ハンガリーは「EU議長国」資格なし?

 ハンガリーは2024年7月1日、欧州連合(EU)の議長国に就任する。任期は半年間だ。欧州議会は1日、ハンガリーのEU議長国に反対する決議案(全619票)を賛成442票、反対144票、棄権33票の賛成多数で採択した。同決議案は法的拘束力はないが、「象徴的な意味合いがある」というのだ。

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▲欧州議会での全体会合の採決風景(欧州議会公式サイトから)

 EUは27カ国加盟国から構成されている。半年ごとに議長国が変わる。2023年上半期はスウェーデン、同年下半期はスペイン、そして来年上半期はベルギーで、その次の半年はハンガリーが議長国となるが、欧州議会は「ハンガリーはEUの基本法第7条、法の遵守に違反している」として、同国の議長国就任の適正に疑いを提示したわけだ。ちなみに、EU加盟国がEUの基本原則としての基本権保護に対する重大な違反を犯す時、EU理事会は同国に対し、制裁を発動することができる(EU条約第7条)。

 議長国の資格論争の話を聞くと、ロシアが今年4月1日、国連安全保障理事会議長国に就任した時をどうしても思い出してしまう。安保理議長国は15カ国メンバーの輪番制で、アルファベット順に毎月交代する。安保理事会は5カ国(米英仏露中)の常任理事国と10カ国の非常任理事国から構成されている。4月の議長国はロシアだった。議長国として、ロシアは理事会の決定にほとんど影響を与えることはできないが、議題を設定し、会合の進行役を務める。ウクライナを軍事侵略しているロシアが国連最高意思決定機関の安保理の議長国に就任し、ウクライナ戦争などの国際問題を主導することに対し、ウクライナのクレバ外相は「悪い冗談だろう」と語ったほどだ(「露の安保理議長国就任は『冗談』か」2023年4月5日参考)。

 欧州議会には7会派が存在するが、そのうち欧州人民党(EPP)、社会民主党(S&D)、自由党(再生欧州)、緑の党、左派の過半数は決議案に賛成票を投じた。彼らは、ハンガリーの「法の支配」に関する問題が十分に進展していないと判断し、基本権利の侵害に対する現在進行中の第7条の手続きを継続することを要求している。

 EUは現在、ハンガリー向けに割り当てられた約300億ユーロのEU資金をブロックしているが、これには新型コロナウイルス復興基金からの援助と優先融資の120億ユーロが含まれる。EUは「ハンガリーの司法機関と監督機関はEU資金を正しく運営することを保証する十分な独立性を持っていない」と受け取っている。

 EUのヨハネス・ハーン欧州委員(予算・総務担当)は、「ハンガリーへの支払いは同国の法の原則の確立にかかっている。ハンガリーはまた、ここ数カ月間、ウクライナ支援などEUの主要な決定を繰り返し阻止してきた」と指摘した。欧州議会の今回の決議は、ハンガリーのEU議長国就任は適正に欠けているというわけだ。議長国は本来、「EU立法に関する理事会の取り組みを前進させ、EUの議題の継続性を確保し、他のEU機関との関係において理事会を代表しなければならない」からだ。

 欧州議会(定数705議席)では来年6月6日から9日、議会選挙が加盟国で実施される。選挙結果を受け、新しい欧州議会が構成されるが、その重要な選挙終了直後にハンガリーが議長国に就任する。欧州議会は選挙後、次期委員会の選挙で重要な役割を果たすから、24年下半期の議長国は政治的な影響力を行使できる可能性が他の時期の議長国より大きいこともあって、加盟国では懸念の声が出ているわけだ。

 問題は、EU条約には、議長国の資格はく奪について何も記述していないことだ。ちなみに、来年上半期はベルギーが続き、その後にハンガリーが議長国となるが、ハンガリーの後には、ポーランドが議長国に就任する。ポーランドは EUのブリュッセル(本部)にとってハンガリーと同様、問題国と見なされているのだ。

 EU条約には「理事会議長職が均等な交代制に従って交代する」ことが明確に規定されている。そのため、加盟国の議長国の資格をはく奪することは条約上難しいうえ、EUの結束を破壊する恐れが出てくる。

 インスブルック大学の欧州法、国際法、国際関係学のウォルター・オブウェクサー教授(Walter Obwexer)はオーストリア国営放送(ORF)のインタビューの中で、「欧州議会の決議案は政治的には重要かもしれないが、法的には価値が小さい。欧州議会は基本的に理事会の議長職問題に介入できない。欧州理事会はハンガリーやポーランドによるEUの価値観の深刻かつ持続的な違反を認定する決定を採択していないから、現時点では理事会議長の職を停止することはできない」という。

 欧州議会が来年下半期の議長国の適正問題を現時点で議論する背後には、EUのウクライナ支援問題が絡んでくるからだ。ハンガリーはEUのウクライナへの財政支援に度々反対してきた。EUでは重要案件の採決では加盟国の全会一致が原則だ。ハンガリーが反対する限り、EUはウクライナに財政支援が出来なくなる。ハンガリーの議長国の資格有無論争はEUの政治メカニズムの見直しを強いる問題に発展する可能性がある。

 以上、ORFの関連記事を参考にまとめた。

セルビアで大規模な銃犯罪防止集会

 バルカンの盟主セルビアの首都ベオグラードで27日、数万人の国民が銃犯罪、暴力犯罪の防止を要求して抗議集会を開いた。同集会は今回が4回目で、親欧州派の5野党が主催した。スロボダン・ミロシェヴィッチ大統領(当時)の辞任を要求した2000年の大規模デモ以来、最大規模の抗議活動に発展してきた。

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▲雨降りの中、傘を差して抗議運動に参加するセルビア国民(ベオグラードの日刊タブロイド紙クリルから、2023年5月27日)

 ベオグラードの日刊タブロイド紙クリルはデモ集会を詳細に報じている。集会は大規模だったが、平和的に行われた。

 「反政府勢力の『暴力に対するセルビア』抗議活動は今回4度目だ。抗議活動は午後6時ごろ始まり、国会前で集会が開かれ、ベオグラード中心部の交通が遮断された。7時半少し前、集まった人々は公共放送ラジオ・テレビジヤ・スルビイェ(RTS)の建物に向かって歩き始め、そこからタシュマイダンスキ公園に移動し、そこで集会の主催者の代表が演説。抗議活動は午後8時頃に終了した」

 デモ集会の直接のきっかけは、5月初めに2件の銃乱射事件が発生し、18人が死亡、多数が重軽傷を負ったことだ。事件にショックを受けた国民が政府に銃規制の強化などを要求する一方、治安担当のガシッチ内相とセルビア保安・情報局(BIA)のブーリン長官の辞任を要求してきた。

 反政府支持者はベオグラードのダウンタウンにあるRTSの建物前で、ヴチッチ大統領がRTSに対する厳しい規制を緩め、非政府の声をもっと反映するように強調し、同局の経営陣と編集長の辞任を求めた。そして若い世代に暴力と憎悪を助長しているピンクとハッピーの2つのテレビ局の周波数ライセンスの取り消しを要求、同時に、権威主義的なヴチッチ大統領の退陣を要求するなど、政治運動に発展してきた。

 セルビア国民をショックに陥れた2件の銃撃事件を少しふり返る。

 .戰グラードの初等学校(小学校=8年制)で3日、13歳の7年生生徒が校内で銃を乱射し、8人の生徒、1人の学校警備員を殺害するという事件が発生し、セルビア国民に衝撃を与えた。

 犯人の少年は自宅から父親の所有している銃を持って犯行に及んだ。少年は犯行後、自分から警察に電話をかけ、現場に駆け付けた警察に逮捕された。セルビア政府は5日から3日間、喪に服した。

 F瓜件の翌日(4日)、今度は21歳の男性がベオグラードの南約50〜60キロにあるムラデノヴァツ市近郊で車から銃を乱射するなどをして8人を射殺し14人が重軽傷を負った。警察は5日、逃走中の男性を逮捕した。犯行の動機は不明だ。セルビアで2日間(3日と4日の両日)、銃による大量殺人事件が発生したことになる(「セルビア国民、3日間の喪に服す」2023年5月6日参考)。

 セルビア政府は4日、今後2年間、新しい銃の免許の発行を停止すると共に、今後3カ月間、内務省が銃器と弾薬が適切に保管されていることを確認するために、銃所有者の検査を強化することを決定した。また、内務省は国民に違法な武器を提出するよう求めた。公式情報によると、これまでに5万丁以上の武器が引き渡されたという。野党は、政権が管理する個々のメディアも社会での暴力の助長に大きく影響を与えていると主張している。

 一方、ヴチッチ大統領は26日、野党側の抗議活動に対抗するために与党支持者を動員し、20万人以上の大集会を開催した。「希望のセルビア」をモットーに開催された同集会には、ハンガリーのペーター・シジャルト外相とスルプスカ・ボスニア共和国のミロラド・ドディク大統領らが演説に招かれた。

 ヴチッチ大統領は、「2件の大量殺人事件の後、人々が怒り、恐怖を感じているのは当然だ。そして抗議活動で何かを変えたいと思っている人は子供たちがより安全になることを願っている。しかし、旧政権または野党の政治家は、直接関係のない議題まで拡大し、今回の出来事を自身の活動に利用している」と指摘し、2件の暴力事件を政治利用していると批判した(クリル電子版)。

 それに対し、野党側は、「国民は子供たちや愛する人のことが心配でデモ集会に参加しているが、政府関係者は攻撃的なレトリックで火に油を注ぎ、抗議活動をますます大規模化させている。政府は市民の抗議活動を嘲笑しているため、政府代表者に対する怒りを更に増大させる結果となっている」と述べている。

 なお、ヴチッチ大統領は27日、野党側の要請を拒否する一方、与党「セルビア進歩党」(SNS)の党首を辞任した。後任には、ヴチッチ氏の腹心、ヴチェヴィッチ国防相を選出している。同大統領は、「今後は大統領職に専念し、全国民のために努力していく」と表明している。なお、テレビ局ピンクは、残忍な暴力シーンで知られるリアリティ番組を中止するという。

ハンガリー政府の経費削減の「奇策」

 日本の広島で開催された先進7カ国首脳会談(G7広島サミット)は無事終わった。これからは欧州の動向に再び焦点を合わせていこうと考えていた矢先、ビックリするようなニュースがブダペストから入ってきた。ニュースバリューはあるが、日本のメディアでは余り報じられていないので、これまた驚くと共に、「日本にとって欧州はやはり遠い世界なのだ」という現実を改めて実感した次第だ。

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▲欧州の移民対策でドイツのフェーザー内相(左)と会談するオーストリアのカーナー内相(2023年5月25日、オーストリア内務省公式サイトから)

 本題。ブダペスト発のニュースは欧州が今、直面している移民問題と関連する。欧州連合(EU)の異端児と呼ばれ、欧州の統合の破壊者と受け取られているハンガリーのオルバン首相は国内で拘留中の外国人の不法移民密入国業者を早期釈放して、国外に追放しているという。この措置は密入国業者への恩赦ではない。外国人の移民密入国業者を刑務所に長期間収容し続けるためには経費がかかるからだ。もう少しシンプルにいえば、経費削減策だ。

 ハンガリー政府が先月末に発布した規制によると、投獄された人身売買業者は72時間以内にハンガリーを出国すれば釈放される。ハンガリーの刑法は、密航者に対して通常2年から20年の長期懲役刑を規定している。

 公式情報によると、ハンガリーでは現在、73カ国から約2600人の外国人が刑務所に収監されており、その大半が密入国で有罪判決を受けた犯罪者だ。ハンガリーのメディアによると、セルビア、ルーマニア、ウクライナから密航者700人が既に釈放された。ただし、釈放から72時間以内にハンガリーを出国しなければ、直ちに再逮捕される。

 最近では、どの国でも麻薬関連法違反者が多く拘留されている。例えば、大麻を初めて消費した人間を全て逮捕して、刑務所に送れば、どの国の刑務所も囚人で溢れる。だから、重犯罪者を収容するために、軽犯罪者を刑務所に収容しなくてもいいように、刑法の改正を進めている国が多い。

 具体的には、大麻消費者の非犯罪化が欧州のトレンドだ。ドイツのショルツ政権は現在、大麻の合法化法案を進めている。特定の施設や消費ルートを政府側が設置することで、大麻の部分的合法化を進めているのだ(「独政府『大麻の合法化法』を発表」2023年4月15日参考)。

 ここまで書いてくると、オルバン政権の「有罪判決を受けた密入国業者を長い間、刑務所に拘留することは経済的負担が大きい」という理由もけっして飛び抜けて驚くべきことではないのかもしれない。「大麻消費者」の非犯罪化を外国人の「密入国業者」の非犯罪化に拡大適応しただけだといえるからだ。ただ、「大麻消費」と「不法移民の密入国業者」ではその犯罪の重さは違う。

 毎年、多くの難民がバルカン半島経由で西ヨーロッパに入ろうとするが、その多くは密入国業者の助けを借りる。ハンガリー政府の決定を受け、現在、条件付きで数千人が釈放されている。隣国オーストリアは釈放された密入国者が入国するのではないかと警戒し、隣国との国境での取り締まりを強化中だ。オーストリア内務省によると、ハンガリー、ルーマニア、セルビアからの車両は集中的に検査されている。

 ハンガリーで有罪判決を受けた密入国者の早期釈放は、ウィーンとブダペストの間で外交的緊張を引き起こしている。オーストリアのシャレンベルク外相は21日、ハンガリーのシ―ヤールトー外相と会談して、ブダペスト側の意図などについて話し合っている。

 不法移民の密入国は重犯罪だ。重犯罪者を一方的に釈放させるということは周辺国家の安全にも大きな影響を与える。ハンガリーのメディアによれば、釈放された密入国業者のルーマニア人、ブルガリア人、セルビア人がハンガリーの刑務所を出た後、オーストリアや他の西側諸国に向かっているという。ハンガリーの厳格な移民政策を評価してきたオーストリアの極右政党「自由党」のヘルベルト・キックル党首も今回のハンガリー政府の決定に対しては「理解できない」と批判している。

 参考までに、2015年8月、ウィーンとブダペストを結ぶ高速道路に放置されたトラックから71人の遺体が発見されたことがある。トラック内で窒息死した遺体の多くはシリア難民だった。密入国業者が彼らを欧州まで運ぶ途上だった。

 移民を欧州に連れて行く密入国業者のビジネスは巨大だ。現在、数千人の移民がセルビアの森林で厳重に警備された国境フェンスを越えてハンガリーに入る機会を待っている。彼らの最終目的地はドイツだ。移民希望者は欧州入りするために数千ユーロをプロの業者に支払う。

 なお、ロシアのプーチン大統領は不法移民の西側殺到を欧州を混乱させる武器として利用しているといわれる。偶然にも、ハンガリーの不法移民の密入国業者早期釈放は、プーチン氏の画策を意識的か、無意識かは別として、支援することになる。ちなみに、ハンガリーはEUによる5億ユーロ相当のウクライナへのさらなる軍事援助を阻止している。資金は欧州平和ファシリティ(EPF)から出されるもので、加盟国の全会一致でのみ放出できる。親ロシア派と受け取られているオルバン首相のためにも、今回の密入国業者釈放はあくまでも経費削減を動機としたもであってほしいものだ。

アルバニアのティラナ大司教の「話」

 バチカンニュースは10日付でアルバニアの首都ティラナのカトリック教会のアルジャン・ドダージ大司教(Arjan Dodaj)の証を大きく掲載した。アルバニアはバルカン半島の南西部に位置し、人口300万人弱の小国だ。アルバニアのエンヴェル・ホッジャ労働党政権(共産党政権)が1967年、世界で初めて「無神論国家宣言」を表明したことから、同国の名前は世界の近代史に刻印されることになった。

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▲アルバニアのローマ・カトリック教会ティラナ大司教区のドダージ大司教(バチカンニュース、2023年5月10日から)

 ソ連・東欧共産圏はいずれも無神論国家だったが、正式に「無神論国家宣言」を表明したのはアルバニアが最初だった。冷戦が終焉し、アルバニアが1990年に入り、民主化に乗り出した直後、当方は世界初の「無神論国家」の現状を自分の目で見るためにティラナに飛んだ。直接の契機はアルバニアの民主化後の初代大統領サリ・べリシャ大統領と単独会見の約束があったからだが、出来ればティラナで会いたい人物がいたのだ。ホッジャ政権下で25年間、収容所に監禁されていたローマ・カトリック教会のゼフ・プルミー神父と会見し、「無神論国家」下の宗教事情について聞きたいと思っていた。

 神父は当時、ティラナの他の住居がそうであるように小屋のような家に住んでいた。神父は小柄で痩せていた。眼光だけはしっかりと当方に向けられていたが、声は小さかったことを思い出す。当時の取材ノートを見ると、同神父は、「わが国の民主化は宗教の自由を求めることから始まった。シュコダルで初めて正式に礼拝が行われた時、警察当局はもはや武力で礼拝を中止できなくなっていた。ティラナで学生たちの民主化運動が本格的に開始する前に、神について自由に語る権利を要求する運動が始まっていた。当時の共産政権指導者は恐れを感じていた」と話してくれた。プルミー神父との話はおよそ30年前だ。

 ドダージ大司教は同神父が収容所に拘束されていた時に生れた。同大司教は16歳の時、スターリン主義崩壊後の祖国アルバニアからイタリアに移住し、溶接工として労働していた当時、17歳で洗礼を受け、その後、聖職者の道を歩みだし、アルバニアに戻り、牧会活動を展開している。そのドダージ大司教の話がバチカンニュースでトップで報じられていた。移住者、労働者、神父、司教の道を歩んできたドダージ大司教の「証」だ。

 アルバニアでは多くの若者が西側に移住する。公式統計によると、2021年だけで4万2000人が外国に移住した。出国するのは主に若者で、その多くはイタリアやドイツに移住する。自身が移住を体験しているドダージ大司教は今日、アルバニアの若者たちが祖国に留まることが出来るように運動している。

 ドダージ大司教の移住体験談を少し紹介する。

 「私たちが独裁政権から抜け出したとき、私たちは皆同じ服を着ていて、同じようにやせ細っていた。共産主義が崩壊した時、私は14歳だった。当時、私の友人や仲間たちは皆、アルバニアを出て海外へ行きたがっていた。私たちは極度の貧困の中で暮らしていたため、ここを去りたかったのだ。私もタグボート付きモーターボートでアドリア海を渡って不法入国した。他のアルバニア人が既に働いていた北イタリアに行き、そこで溶接工として働いた。私は当時16歳でイタリアでは未成年だったが、背が高かったので、18歳のふりをした。そうでなければ、誰も私を連れて行ってくれなかっただろう。その後、160万リラの借金を返済するために働かなければならなかった」

 「イタリアに移住した時は神をまったく知らなかった。神についてアルバニアで教育を受けたことがなかったからだ。アルバニアは野外強制収容所だった。私たちはそこで地獄のような暮らしをしていた。逃亡は危険を伴うが、絶望的な状況からの逃亡だった。今日の北朝鮮で見られることは、当時私たちが経験したこととまったく同じだ。恐怖と恐怖の文化だ。アルバニア人の反応を理解するには、そのことを知っておく必要がある」

 「残忍な独裁政権の記憶は今でも鮮明に残っている。宗教、神、信仰の話をするだけでも命がけだった。誰もそれについて話さないし、誰も祈らない。勇敢な信者たちは聖人の像を壁に埋め込み、その場所をメモし、長年にわたってその前に立って秘密の祈りを捧げていた。私自身、同世代の他の若いアルバニア人たちと同様、神なしで育った。家族の中で神について話したことが一度もなかった。私たちは神の存在など考えたこともなかった。三日月がイスラム教、十字架がキリスト教を象徴しているとは知らなかった。首に十字架を掛けた人は誰もいなかった」

 「私はイタリアで初めて信仰を知った。私は教会の近くの『青少年の家』に住んでいた。ホームの責任者が定期的に祈りのために集まる青少年グループの所へ来るよう勧めた。教会の若者たちが祈っていたので、私も祈り始めた。それは私の潜在意識から出てきたものだった。突然、神の生きた臨在の感覚があった。私たちの場合、全てとても物質主義的だったが、教会で祈っている間、神に囲まれていると感じた。私たちの神は具体的で、言葉は事実だった」

 「私は1994年にバプテスマ(洗礼)を受け、1996年まで建設現場で働き続けた。97年にローマの神学校に入学した。2003年5月11日、ヨハネ・パウロ2世によって神父に叙階され、20年にフランシスコ教皇は私をティラナ大司教に任命した」

 同大司教の証を読んでいると、30年前にティラナで会ったプルミー神父の事をどうしても思い出してしまう。同神父の人生はほとんど共産主義政権下の収容所生活に終始したが、アルバニアの1人の若者が外国に移住し、労働者として働いていた時、神に出会い、アルバニアに戻り、プルミー神父が多分そうしたかったように、若者たちに神を伝える日々を送っているわけだ。

 一つの聖句を思い出す。「一粒の麦がもし地に落ちて死ななければ、それは一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる」という有名な「ヨハネによる福音書」第12章24節の聖句だ。

 歴史が前進するためには、責任を担う者の「受難」がなければならないという「受難思想」だ。世界で初めて「無神論国家」を宣言したアルバニアでその後、多くの若者が宗教に目覚めてきているというニュースを聞くたびに、プルミー神父とその聖句が思い出されるのだ。
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