ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

北朝鮮

米国「 金正恩氏の執務室も撮影中です」

 朝鮮中央通信(KCNA)は28日、打ち上げに成功した軍事偵察衛星「万里鏡1号」が米国のホワイトハウスやペンタゴン(国防総省)を撮影したと発表、それらの画像を見て金正恩総書記は「大きな満足」を示したと報じた。

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▲金正恩総書記、道・市・郡人民会議代議員選挙に参加(KCNA公式サイトから、2023年11月27日)

 同日の韓国の通信社聯合ニュースによると、「北朝鮮は21日夜に偵察衛星を打ち上げて以降、朝鮮半島だけでなく米領グアムやハワイなどにある韓米の主要な軍事基地を撮影したと主張し続けているが、その衛星画像は公開していない。北朝鮮は同衛星が打ち上げ後1週間から10日間の『精密操縦』を経て、12月1日から正式に偵察任務に就くと説明していた」という。

 偵察衛星の開発では後発国の北朝鮮にとって独自に打ち上げた偵察衛星から宿敵米国の大統領執務室のあるホワイトハウスを撮影し、ペンタゴンを撮影したということは文字通り、大成果だろう。金正恩氏が「大満足」したのも頷ける。

 ところで、北の偵察衛星はホワイトハウスやペンタゴンだけを撮影したのだろうか。KCNAによれば、太平洋グアムのアンダーセン空軍基地、米バージニア州のノーフォーク海軍基地などを撮影したというが、ひょっとしたらディズニーランドやシーワールドの場所も撮影したのではないか。ただ、KCNA通信は前者だけを言及し、後者は非公開にしたのではないか。

 金正恩氏は2011年12月父親の金正日総書記の死後、政権を継承して以来、「人民」の生活向上を機会ある度に強調したが、具体的には、綾羅人民遊園地を完成し、平壌中央動物園の改修、そして世界的なスキー場建設など、遊戯用インフラの整理に腐心してきた。その後、空の玄関、平壌国際空港が近代的に改築オープンした。ただし空腹に悩まされる北の一般国民が遊園地やスキー場に足を運ぶだろうか、海外旅行の自由もない人民に、国際空港の近代化はどんな意味があるのか、といった素朴な疑問が出てくる。

 子煩悩の金正恩氏が何を最も喜ぶかを知っている側近たちはホワイトハウスやペンタゴンの写真などと共に、ディズニーランドやシーワールドを撮影した写真の画像を金正恩氏に見せたのではないか、というのが当方の推測の根拠だ。

 北朝鮮は昨年11月18日、全米を射程内に置く新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射試験を行ったが、その発射現場に金正恩氏の娘「金ジュエ」が随伴していたことで大きな話題を呼んだことを思い出してほしい。偵察衛星の画像の件で金正恩氏が「大満足」を表明した時にも、KCNA通信の写真を見る限りでは、ジュエさんが写っていた。彼女はホワイトハウスやペンタゴンの写真よりディズニーランドの写真のほうを喜ばないのだろうか。

 北朝鮮は今年5月、軍事偵察衛星の打ち上げに失敗、2回目も同様だったが、それを3カ月余りの時間で、打ち上げに成功し、画像撮影にも成功するということは通常の開発プロセスとは言えないから、韓国の情報機関・国家情報院(国情院)はロシア側の技術的支援があったと推測している。

 北朝鮮の軍事偵察衛星の打ち上げは国連安保理決議違反に当たるが、27日に招集された安保理会合ではロシアと中国が反対したために、何の対応も取れずに終わったばかりだ。

 参考までに、米国の軍事偵察衛星(通称キーホール)の解像度は15センチともいわれているが、実際は5センチまでの解像力を有するという。キーホールは金正恩氏の官邸執務室はいうまでもなく、金氏の国内の複数の保養地も写真撮影しているはずだ。金正恩氏は米偵察衛星キーホールの目から逃れることはできないのだ。

 キーホールの威力はロシア軍がウクライナに侵攻する際も実証された。米国はロシア軍の動向を偵察衛星からの写真でキャッチし、同盟諸国にロシア軍侵攻の可能性を数日前に警告していた。

 北の偵察衛星がホワイトハウスの写真を撮影したことを金正恩氏が喜んだというニュースを聞いて、ホワイトハウス関係者は多分、笑いを禁じ得なかったのではないか。米国の軍事偵察衛星は24時間、金正恩氏の執務室を監視し、撮影し、その画像をホワイトハウスに送っているからだ。

 北の偵察衛星がキーホールと同程度の地上分解能を得るまでにはまだ多くの時間が必要だろう。ただし、近未来の話だが、北の衛星能力が向上すれば、敵国、特に、米国の軍事偵察衛星への宇宙戦を仕掛けてくるはずだ。その結果、北朝鮮問題は地上から宇宙空間へと舞台を広げていくことになる。

世界最古の日刊紙と北の「金星銀行」

 国営日刊紙「ウィーン新聞」(ヴィーナー・ツァイトゥング)が今年6月30日を最終発行日とし、紙の発行を止めてネットメディアに移行することになった。同紙関係者が27日、明らかにした。メディア関連法の改正に基づくものだ。

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▲世界最古の現存する日刊紙「ウィーン新聞」(「ウィーン新聞」公式サイトから、2023年4月27日)

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▲ウィーン市で開業していた「金星銀行」

 同紙は1703年に始まって2023年まで320年の歴史を有する「現在まで発行している世界最古の日刊紙」と受け取られてきた。320年間といえば、神童モーツァルトも楽聖ベートーヴェンも同新聞に目を通していただろうし、ハプスブルク王朝の栄枯盛衰を目撃してきたことになる。第1次、第2次の世界大戦を目撃し、1938年以降はヒトラーのナチス政権をフォローしたはずだ。

 当方が1980年初頭にウィーンに赴任した時、「ウィーン新聞」の名前は知っていたが、申し訳ないが読むことはほとんどなかった。国連の記者室にはオーストリア代表紙プレッセ、ザルツブルガ―ナハリヒト、カトリック系週刊誌フルヒェなどが毎日、配達されてきたが、「ウィーン新聞」はなかった。官製新聞(Amtsblatt)ということで、オーストリア通信(APA)の記事がそのまま掲載されていたので、簡単にいえば、読んで面白いとか、関心を引くという記事はあまり無かった。前日の出来事を通信社主体の記事で埋めている。

 ただし、当方が年に数回は「ウィーン新聞」を読んだり、キオスクで買ったのには、理由がある。欧州で唯一の北朝鮮の銀行「金星銀行」の会計報告書が掲載されるからだ。全ての金融機関や法人などはその会計報告を公表する義務がある。その掲載先は官製の「ウィーン新聞」だからだ。

 「金星銀行」は現地では「ゴールデン・スター・バンク」と呼ばれていた。同銀行は1982年、ウィーンの一等地バーベンベルガー通りに開業した。ウィーン金融界は当時、北の銀行の開業は金融拠点のウィーンの評判を落とすとして反対が強かったが、社会党関係者の支援を受けてオープンした。同銀行はその後、ウィーン市7区カイザー通りに移転した。

 同銀行は北朝鮮の商業銀行「大聖銀行」の頭取、崔秀吉氏が故金日成主席の意向を受けて、100%出資して開設した銀行だ。崔頭取は労働党中央委員会財政部長の肩書をもち、日朝国交正常化政府間交渉の際には、日本を頻繁に訪問、在日朝鮮人の資産の見積もりをしていた人物だ。

 銀行が入った同ビル上階には北のスパイ工作機関「ゴールデン・ウイング」の事務所があった。要するに、「金星銀行」と「ゴールデン・ウイング」が入った同ビルは北朝鮮の欧州工作の主要拠点だったわけだ。

 「金星銀行」は2004年6月末、中道保守派シュッセル政権時代に営業を閉じた、というより、閉じざるを得なくなった。シュッセル政権は財務省独立機関「金融市場監査」(FMA)に「金星銀行」の業務監視を実施させた。米国が不法経済活動の証拠をつかんだことを知った北側は、強制閉鎖に追い込まれる前に自主的に営業を停止した、というのが真相だ。「金星銀行」は米ドル紙幣偽造、麻薬密売、武器取引などの不法な活動の拠点だったこともあって、米中央情報局(CIA)が早くからマークしていた。

 当方は数回、同銀行に入って、関係者と話したことがあるが、客はほとんどいない。2人の銀行員が窓口にいる。1人は現地雇いの社員で、部屋の奥には北朝鮮の銀行マンが事務仕事をしている、といった感じだった。「金星銀行」が通常の銀行業務をしていないことは外観からでも明らかだった。その「金星銀行」の活動を知る数少ない道は、毎年公表される会計報告書を入手することだった。だから、当方は普段は読まない「ウィーン新聞」を購入した。「金星銀行」の取材では「ウィーン新聞」は貴重な情報源だった。他のメディアは北朝鮮の銀行の年間会計報告書などを掲載しない。載るのは官製新聞だけだ。

 そういう訳で、当方は、世界最古の日刊紙「ウィーン新聞」といえば北朝鮮唯一の欧州銀行「金星銀行」を思い出すのだ。その「金星銀行」は2004年6月に閉鎖された。「ウィーン新聞」は今年6月末にネットメディアに移行するが、その後、存続できるか否かは不確かだという。時代は確実に動いている。

北無人機の韓国侵入が見せた近未来

 悲しい事実だが、人類はいつの時も戦争をしてきた。戦いも騎馬戦から歩兵戦に始まり、銃撃戦、砲撃戦、そして戦闘機が開発され、空中戦が展開されてきた。多くの犠牲者が出た。第2次世界大戦後、大量破壊兵器による核戦争はその寸前までいったことがあったが、幸いこれまで行われなかった。核の抑止力が全面戦争を回避させてきたわけだ。その代わりといっては可笑しいが、無人機による攻撃が頻繁に行われてきた。近未来のロボット戦への伏線かもしれない。

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▲大型無人機「ガザ」(IRIB通信社から)

 例えば、ウクライナ戦争では戦車、兵士などが大量に動員され、地上戦が行われ、その後はミサイル攻撃に移り、陸や海からミサイル攻撃が繰り返されてきた。そしてここにきて無人機による攻撃が報告されている。人的犠牲を最小限に防ぐために、無人機、ロボット兵器が今後、戦争で主要な役割を果たすことになるかもしれない。

 それでは、戦争で無人機、ロボット兵器が主要な戦争の武器となることで何が変わるだろうか。攻撃する側には人的被害を最小限に抑えられるメリットがある一方、生物・化学兵器、ダーティ爆弾が搭載できる無人機が出撃すれば、攻撃を受けた側に大きな被害をもたらす。地対空ミサイル防衛システムがより高性能となったとしても、数十機、数百機の無人機の集中攻撃を受けた場合、地対空ミサイルも限界だ。

 ウクライナ軍は「ロシアからの80発のミサイル攻撃中、70発余りを撃墜した」とその戦果を報告していたが、高価な攻撃ミサイルではなく、安価で小型の無人機、それも大量の無人機による攻撃を完全に防御することは難しく、撃墜率の低下は避けられない。

 北朝鮮の5機の小型無人機が26日、韓国領空に侵入したというニュースを聞いた。北朝鮮問題といえば、核トライアド(大陸間弾道 ミサイル、弾道ミサイル搭載潜水艦 、巡航ミサイル搭載戦略爆撃機の3つの核兵器)が主要テーマだったが、無人機が加わることで、北の軍事力、日韓への攻撃力は飛躍的に拡大することが予想される。

 韓国の首都ソウルに姿を現した北の無人機に対し、「なぜ撃墜しなかったのか」といった批判の声が上がっていると聞くが、韓国関係者によると、「戦闘機は無人機の撃墜を避けた」というのだ。その理由は「撃墜した場合、地上で民間人が犠牲になる危険性が考えられた。無人機に化学兵器が搭載されていたならば大惨事だ。そのため、韓国空軍パイロットはあえて撃墜しなかった」という。韓国筋によると、領空内に侵入してきた無人機の場合、撃墜するかはパイロットが自主的に判断する」という。時間が十分ないということもあるが、パイロット以上に無人機の様子を目撃できる立場の者はいないからだ。

 5年前、北の無人機が侵攻した時、韓国側は撃墜し、北の無人機を回収して調べたことがある。韓国側によると、「北の無人機は初歩的な技術で製造されていた」という。韓国側はその後、北の無人機を撃墜し、それを回収してチェックしたことはないから、北の無人機の性能を正確には掌握していない。

 ロシアは北朝鮮から武器や銃弾などを入手している、というニュースが流れたが、ロシア軍が現在使用している無人機はイラン製が多い。プーチン大統領は無人機の国内生産を急がせている。北朝鮮の無人機がロシア軍のウクライナ戦争で使用されているかは不明だが、完全には排除できない。明らかな点は、ウクライナ戦争がさらに長期化する一方、ウクライナ側が欧米製の最新武器を入手していくならば、ロシア側は自国産だけではなく、同盟国からの重火器入手、無人機の投入を検討することは間違いないだろう。

 例えば、イラン製無人機だ。「ガザ」と命名された大型無人機は監視用、戦闘用、偵察任務用と多様な目的に適し、連続飛行時間35時間、飛行距離2000km、13個の爆弾と500kg相当の偵察通信機材を運搬できるという。イスラエルはイラン側の軍事力の強化に脅威を感じると共に、パレスチナのガザ地区のイスラム過激派組織「ハマス」がイラン側の軍事支援を受けてその攻撃能力を強めることを警戒している。

 無人機が戦闘で大きな役割を担うことで、戦闘はこれまで以上にコンピューターのウォー・ゲームのようになっていく。ボタン一つで相手側のターゲットを破壊できる。攻撃する側は戦場を目撃しないこともあって、戦場で戦死する兵士の数は減少する一方、無人機による民間人などを含む犠牲者は増加することが予想される。

 日本は米国から地対空ミサイルシステム「パトリオット」を購入しているが、北から核弾頭ミサイルだけではなく、化学兵器などを搭載した無人機が大量に襲撃した場合のシナリオを検討しなければならない。北朝鮮からの無人機攻撃という新たな脅威が生まれてきたのだ。韓国領域内に侵入した北の無人機はその夜明けを告げるものだ。

 ちなみに、北側が5機の無人機を韓国領域内に侵攻させたのは、韓国側の領空防備体制を調べるという意味合いもあるが、それ以上に性能を向上させた北製無人機をロシアや関心を有する国にオファーするための一種のプレゼンテーションだったのではないか。敵国の領域内に入り、ターゲットを破壊できる高性能の無人機を大量生産する狙いがあるのではないか。

 無人機の場合、攻撃ミサイルとは違い撃墜はしやすいかもしれないが、生物化学兵器搭載の可能性がある無人機を容易には撃墜できないから、無人機防御システムは別の意味で難しいわけだ。今回の韓国側の対応をみれば、そのことが理解できる。

 無人機は本来、人が入り込めない地域や空間を観察し、撮影し、運送できる目的で開発されたが、全てはデュアル・ユースだ。人類のために貢献する一方、人類を破壊する目的のためにも利用できる。どちらを選択するかは人間の判断にかかっている。無人機の場合も同じだろう。いつものことだが、問題解決のカギは外ではなく、私たち一人ひとりの中にあるわけだ。


 2022年は過ぎ、明日から新しい2023年が始まる。「人は如何にしたら良くなるか」という大きなテーマを新年は読者の皆さんと共に考えていきたい。この一年、お付き合い下さりありがとうございました。どうぞ良き新年を迎えられますように。

金正恩氏が「英王室」から学んだ事

 北朝鮮は18日、全米を射程内に置く新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射試験を行った。同国国営の「朝鮮中央通信」(KCNA)が19日報じた。ICBMは北海道渡島大島西方沖約200キロの日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。

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▲大陸間弾道ミサイル発射場を視察する金正恩総書記と長女(2022年11月18日、時事通信のKCNAの写真から)

 日韓の軍事関係者によると、ミサイルは最高高度6040キロまで上昇し、999・2キロの距離を約69分間飛行したという。KCNAによると、同ミサイル発射の現場には金正恩総書記が立ち合い、李雪主夫人と長女が同行していたという。

 金正恩総書記は、「わが国の核戦力はいかなる核の脅威にも抑止できる最強の能力を確保した。敵が脅威を与え続けるなら、核には核で、正面対決には正面対決で応えるだろう」と述べ、米国やその同盟国をけん制したという。

 「火星17は車軸が11軸ある移動式発射台で運ばれてきた。弾頭部も複数の核弾頭を搭載できる形状」という。なお、「火星17」は今月3日にも発射して2段目の分離に失敗したが、今回は成功した。北側のミサイル開発技術が短期間にアップしたことを裏付けている(以上、時事通信を参考)。

 ところで、北朝鮮メディアは金正恩総書記と同行する家族を写真で報じた。金正恩氏の娘「金ジュエ」の写真が公に報じられたのは今回が初めて、ということから、いつものようにさまざまな憶測が流れている。金正恩氏には3人の子供がいるといわれている。

 そこで、「なぜ金正恩氏は火星17の発射実験の場に妻ばかりか娘も同行させたのか」を読者と一緒に考えてみたい。

 家族一同の記念写真を大陸間弾頭ミサイルを背景に撮影する、といった発想は尋常ではない。金正恩氏は李夫人と家庭をもち始めた頃、夫人と共に綾羅人民遊園地の完成式に参加したり、平壌中央動物園を改修した。それだけではない。家族でウィンタースポーツを楽しむために馬息嶺スキー場まで作った。独裁者の金正恩氏は愛妻家であり、子煩悩であることはほぼ間違いない。

 しかし、今回の写真の書割は米国も恐れるICBMだ。たとえ、子供が「お父さんの自慢のミサイルを1度見たい」と願ったとしても簡単に「そうか」と快諾できない。危険が伴う上、子供にとってその轟音はあまりにも刺激的過ぎるからだ(「北の『遊園地と国民経済』の改革」2012年7月28日参考)。

 考えられるシナリオを羅列する。〔爾どうしてもミサイルを見たいと懇願したため(ひょっとしたら、娘の誕生日だったのかもしれない。父親金正恩氏は娘に何でもほしいものを言ってごらんと約束したのではないか)、△燭泙燭沺△修瞭、子供を世話する世話人が病気で見つからなかった。妊娠中の李夫人1人では大変だということで、金正恩氏はミサイル発射現場の視察に娘だけ同行させた、6眄飢源瓩鰐爾鮓にすることで金王朝が3代で終わらず、4代以降も続くことを国内外にデモンストレーションした、等々だ。

 興味深いシナリオはだ。当方の憶測だが、金正恩氏は多分、英国のエリザベス女王の葬儀の場面を観たのではないか。その葬儀では、ウィリアム皇太子の2人の子供ジョージ王子とシャーロット王女が同行していた。英国内では「葬儀の場に子供連れは良くない」といったコメントが見られたが、欧州王室に通じる専門家は、「そうではない。英国民から愛されたエリザベス女王の死後、チャールズ新国王、ウィリアム皇太子と英王室が続く。そしてジョージ王子とシャーロット王女を葬儀の場に同行させることで、英王室は永遠に続くことを公の場で見せる。世界の目が注がれるエリザベス女王の葬儀の場は、その意味で絶好の機会となるからだ」と解釈していた。

 ウィリアム皇太子が2人の子供を同行させる姿をみて、金正恩氏は、祖父金日成主席、金正日総書記、そして金正恩総書記の3代後も金ファミリーから金王朝を継承する人物が出てくることを国民と世界に向かって見せる機会を探っていたのではないか、そこで「火星17」の発射実験の場に子供を同行させる考えが浮かんできたのだろう。その意味で、金正恩氏はエリザベス女王の葬儀から王室継承のノウハウを学んだといえるわけだ。

 「火星17」が天に向かってその堂々とした雄姿を見せている。一方、その数十メートル離れたところで金正恩氏と娘が手をつないで歩きながら話している。そのシーンは映画の最高潮の場面を見ているような気分にさせる。「火星17」は金王朝を軍事的に支えるシンボルである一方、父親と娘は金王朝が永遠に続くことを示す。計算された演出とでもいえる。

 ちょっと気になる点は、李雪主夫人だ。「火星17」を背景とした場面には登場していない。夫金正恩氏の傍には娘だけだ。ひょっとしたら李夫人は現在、妊娠中ではないか。寒い外に長時間いるのは健康に良くない。そこで娘が家族の代表という大役を演じた。

 ちなみに、後継者問題では、実務派で行動力のある実妹の金与正党第1副部長の名前が久しく囁かれてきた。それを快く思わない李夫人は夫金正恩氏に、「後継者はあなた(金正恩氏)の直系から」と強く嘆願してきたのではないか。北朝鮮では後継者は直系の血縁者から、というのが重視される。李夫人と金与正さんの“女の戦い”がICBMの背後で展開していたのではないか、と考えられるのだ。

 いずれにしても、北朝鮮が今回発射したICBMは米国領土まで届くことが実証されたことで、金正恩氏は米国との交渉カードを獲得する一方、後継者問題では「俺が倒れても金王朝は不変だ」というメッセージを発信したわけだ(以上、当方の一方的憶測だ)。

 蛇足だが、北側がICBMを発射した日(18日)、ロシア軍は新しいICBM「サルマト」の発射実験に成功したと発表した。同ICBMは欧米のミサイル防衛(MD)網を突破できるほか、極超音速ミサイルシステムを搭載可能という。北の「火星17」とロシアの「サルマト」の発射に何らかの繋がりがあるのか、それとも、偶然、発射実験日が重なっただけだろうか。
 

北朝鮮「米国を核協議へ誘導戦略」

 ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は13日から17日まで5日間、定例理事会を開催したが、国連外交筋は、「北朝鮮はここにきて米国との核協議の再開に意欲的となってきている」と語った。

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▲国連工業開発機関(UNIDO)の李勇事務局長に信任状を提出する北朝鮮の崔ガンイル大使(2020年7月14日、UNIDO公式サイトから)

 北朝鮮は15日、短距離弾道ミサイルを2発発射し、ミサイルは日本の排他的経済水域(EEZ)に落下したことについて、米国務省は同日、「複数の安保理決議に違反し、近隣諸国と国際社会に脅威を及ぼす行為だ」として非難したばかりだ。それに対し、先の国連外交筋は、「北朝鮮の狙いは米国の関心を引くことであり、米朝協議の再開を狙ったもの。北朝鮮にとって、核問題は米国との問題だ。韓国や日本とは全く関係がない」と説明した。

 IAEA定例理事会の冒頭声明でグロッシ事務局長は13日、北朝鮮が7月初めから寧辺の黒鉛減速炉(5000kw)を再稼働させた兆候があると明らかにした。北朝鮮は過去、黒鉛減速炉の使用済み核燃料を再処理し、核爆弾の原料となるプルトニウムを抽出してき。

 IAEAの9月定例理事会の報告書によると、黒鉛減速炉で冷却水排出などの兆候が観測されたという。同時に、「建設中の軽水炉は内部工事が継続されている。北の核計画は明らかに安保理決議、IAEA理事会決議に反している。核拡散防止条約(NPT)の核保障措置協定を遵守し、IAEAと協力すべきだ」と強調し、北朝鮮の核問題に深い懸念を表明した。

 先の外交筋は、「寧辺の5MWの原子炉は激しく老化しているから、それを修復して原子炉活動を再開するためには多くの費用と時間が必要となる。北朝鮮は5MWの原子炉の再開をちらつかすことで米国を核協議に誘導しようとしているだけだ」と指摘、5MW原子炉の再開情報はあくまでも誘導を目的としたもので、兵器用プルトニウムの生産ではない、との見方を明らかにした。

 ちなみに、北朝鮮は今後はウラン濃縮活動に力を入れてくるのではないか、と予測されている。ウラン濃縮施設で兵器用ウランを入手する作業は使用済み核燃料の再処理施設でプルトニウムを入手するより容易な上、監視衛星から隠蔽する上でメリットがある。米CNNは北朝鮮が寧辺のウラン濃縮施設を拡張していることを示す衛星写真を報じている。

 バイデン米政権は北朝鮮との外交的なアプローチを模索しているが、バイデン氏自身はトランプ前大統領のような首脳会談の開催には依然消極的だといわれる。先の国連筋はバイデン政権が北朝鮮との核協議を秘かに進めていることを認めた。北側の窓口は在ウィーン国際機関の北朝鮮代表部の崔ガンイル大使だ。米国側は同大使との間で協議を進めているという。崔ガンイル大使は2020年3月、金光燮大使(大使夫人は故金日成主席と故金聖愛夫人の間の娘で、大使は金正恩朝鮮労働党委員長の叔父に当たる)の後任としてウィーンに就任した。

 崔ガンイル大使は「米国通」外交官といわれ、崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官の補佐としてシンガポール(2018年6月)、ハノイ(2019年2月)での米朝首脳会談やスウェーデンの米朝実務会談に参加してきた実務型外交官だ。同大使は平壌から「IAEA再加盟というカードをチラつかせながら、米国を引き寄せろ」との指令を受けていると推測されている。

 北朝鮮の狙いは、米朝協議を通じて対北制裁の解除を実現することだ。新型コロナの感染問題もあって、中国からの経済支援は停滞してきている。それだけに北朝鮮の国民経済は深刻だ。金正恩氏はバイデン政権の関心を高めるために今後様々手段を行使してくると予想される。

 以下、北朝鮮とIAEAとの関係史だ。

 北朝鮮は1992年1月30日、IAEAとの間で核保障措置協定を締結した。IAEAは93年2月、北が不法な核関連活動をしているとして、「特別査察」の実施を要求したが、北は拒否。その直後、北はNPTからの脱退を表明した。翌94年、米朝核合意がいったん実現し、北はNPTに留まったものの、ウラン濃縮開発容疑が浮上すると、2002年12月、IAEA査察員を国外退去させ、その翌年、NPTとIAEAからの脱退を表明した。2006年、6カ国協議の共同合意に基づいて、北の核施設への「初期段階の措置」が承認され、IAEAは再び北朝鮮の核施設の監視を再開したが、北は09年4月、IAEA査察官を国外追放。それ以降、IAEAは北の核関連施設へのアクセスを完全に失い、現在に至る。IAEAは過去12年間、北の核関連施設へのアクセスを完全に失った状況が続いている。

「東京五輪」不参加の北に期待する事

 誰も敢えて言わないし、「あの国はもともと存在していない」とばかりに無視されている、といった感じすら受ける。第32回東京夏季五輪・パラリンピックには205カ国・地域と難民選手団が参加し、1万人を超える選手たちが33競技に熱気ある試合を展開させているが、あの国の選手たちは参加していない。北朝鮮だ。

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▲北朝鮮・朝鮮労働党創建75周年の祝賀会で演壇に立つ金正恩党総書記(朝鮮中央通信公式サイトから)

 23日の国立競技場での開会式を観戦した。行進する参加国の選手たちの姿、そのユニフォームはカラフルで目を楽しませてくれた。「世界にこんな多くの国があったのか」と改めてビックリ。初めて聞く国の代表団もあった。彼らはオリンピックというスポーツの祭典に参加するために集まってきた選手、関係者だ。

 北朝鮮が五輪大会に参加しないのは、核開発関連の国連制裁を受けたからではない。国連加盟国全てからは国家としてまだ承認されていないコソボも代表団を派遣しているし、国連が創設した難民選手団も参加している。それなのに日本の隣に位置する北朝鮮は代表団を派遣していないのだ。それも自らボイコットしたのだ。

 北朝鮮体育省は4月6日、公式サイトで東京五輪大会不参加を表明した。その理由は「北朝鮮オリンピック委員会は先月25日の総会で、悪性ウイルス感染症(新型コロナウイルス感染症)による世界的な保健の危機状況から選手を保護するため、委員の提議により第32回オリンピック競技大会に参加しないことを決定した」(韓国聨合ニュース)という。

 北の五輪不参加の理由をそのまま鵜呑みにする人は少ないだろう。国民の人権を蹂躙してきた北朝鮮当局がここにきて突然、「選手を新型コロナ感染から守るために五輪大会の不参加を決めた」というのは信じられない。国民を犠牲にしても国家の威信を高めるためなら何でも実行する国だ。北の為政者が突然、国民の人権、福祉を強調したとしても土台無理があるわけだ。

 当方はこのコラム欄で、「五輪大会不参加の理由ははっきりとしている。第32回東京五輪大会に参加してもメダルを取れるチャンスは限りなくゼロに近いからだ。五輪大会を含む国際スポーツ大会で、北朝鮮の選手がメダルを取り、国家の威信を世界に発信できないならば、選手団を派遣する意味がないのだ。スポーツと政治をリンクさせてきた北朝鮮にとっては当然の決定だ。『オリンピックは参加に意義がある』といった贅沢な世界は北には当てはまらない」と書いたうえで、「北の五輪不参加表明にはもっと深刻な事情が考えられる。北では五輪参加資格を有する『民族代表スポーツ選手』の場合、選手は特別扱いされ、国民が食糧不足で飢餓状況にあっても国家から食糧は優遇されてきた。その優遇が出来なくなってきたのだ。これが大きな理由だ」と指摘した(「北朝鮮の東京五輪不参加の『事情』」2021年4月7日参考)。

 興味深い点は、東京五輪開幕直後の7月25日、北朝鮮は対外宣伝メディアを通じて、「日本が東京五輪を帝国主義の復活の好機と考えている」と、日本批判を展開させていることだ。曰く、「日本は東京五輪を機に歴史歪曲と領土強奪策動に一層拍車をかけている。各国のスポーツ選手が集まり、世界中から注目される五輪を軍国主義復活に向けて利用している」(聯合ニュース)と非難しているのだ。東京五輪開催と日本の軍国主義の復活をリンクして日本を批判する国は世界を見渡しても北朝鮮しかいないだろう。全くのピンぼけ丸出しの論理だ。五輪参加できない国の恨みが込められていると感じるほどだ。

 どの国からも北の五輪不参加を残念がる声が聞かれないことに、北側はプライドを傷つけられているはずだ。当方は北が東京五輪大会に参加しないことを残念に思ってきた。五輪大会というスポーツの祭典に北の若者たちの姿が見られないことはやはり寂しい。同時に、世界から孤立化している北朝鮮が国際社会への再統合の姿勢を見せることが出来るチャンスでもあっただけに、金正恩総書記の今回の「五輪不参加」決定には失望している。

 北朝鮮には国民が3食を堪能できる食糧が基本的に欠如している。「新型コロナウイルスの感染者はいない」という北側の公式発表は信じられない。ひょっとしたら多くの国民が感染しているのではないか。肝心のコロナワクチンは手に入らない。中国共産党政権が同国のシノバック製ワクチンを提供しようとしても、北側は、「中国製のワクチンは信頼できない。米国製ワクチンがほしい」と主張しているのだ。しかし、米製薬大手ファイザー社などのmRNAワクチンには零下70度で保存できる冷凍保存設備(コールドチェン)が必要だが、北にはそれがない。そうだ、北には全てが「ない、ない」状況なのだ。そんな国がメダルを獲得するためにスポーツ選手を派遣できる余裕があるだろうか。

 冷たく言えば、3代世襲独裁国家の悲惨な状況は独裁者の自業自得と言えるから、誰を恨んだとしても意味がない。北の国民だけが恨みをぶつけることができる。しかし、北が現状の困窮から脱出するチャンスがまったくないか、といえばそうではない。人は変わることが出来るように、国も変わることが出来るのだ。

 130kgの巨漢だった金正恩氏が短期間で10kgあまりの減量に成功したというニュースが平壌から流れてきている。過去の重みから少しづつ解放されてきた金正恩氏に「人民第一主義」を実践していただきたい。「真夏の夢」物語に終わらせてはならない。独裁者も変わることができることを金正恩氏は世界に証明すべきだ。10kgの減量だけではまだまだ不十分だ。

中国も北朝鮮も本当は米国が大好き

 中朝友好協力相互援助条約が締結されて11日で60周年を迎え、両国首脳間で祝電の交換が行われた。同条約では「条約国の一国が敵国から攻撃を受けた時、締結国の他国が軍事支援をする」という条項が盛られているという。

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▲習近平主席「歴史と人民は中国共産党を選んだ」(2021年7月1日、人民網日本語版サイトから)

 中国共産党は今月、党創建100年を迎え、盛大に祝い、中国が世界の指導国家として君臨していく“中国の夢”を再確認したばかりだ。一方、平壌からは、首領様・金正恩労働党総書記の体重問題に世界の関心が集まっているが、中国武漢発新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため中朝国境間は閉鎖され、中朝間の貿易は停止状態のため、中国からの経済支援が途絶え、国民は飢餓状況を呈している、というブルーな情報が流れてくる。

 それだけに、というか、中国も北朝鮮も両国の友好協力相互援助条約を改めて思い出し、その価値を再確認しているのかもしれない。中国共産党は米国を含む欧米諸国の反中包囲網に対抗している時だ。たとえ小国とはいえ中国共産党政権を慕う国がいることは心強いだろう。

一方、北朝鮮の現状は深刻かもしれない。中国からの物質的支援がなければ3代世襲国家の土台が崩れてしまう危険性がある。金正恩総書記は祝電の中で、「朝鮮労働党も中国共産党も真の同胞であり、戦友だ」と強調し、兄貴分の中国共産党を称えることを忘れない。

 中国共産党と朝鮮労働党が君臨する中朝両国は同じ独裁国家であり、同じ敵と対峙している。相互の結束を強めるためには同じ敵をもつことだが、中朝両国の目下の最大の敵は米国だろう。問題は次だ。それでは中朝両国は心底から米国を憎み、敵意を燃やしているのかだ。共産党機関紙や労働新聞の掛け声とは違い、中朝両国とも本当は米国が大好きではないのか。

 独裁国家のもとに生きている国民は世界の自由国家のシンボル、米国に憧れる傾向があり、可能ならば米国に亡命したいという思いを消すことができない。習近平国家主席は「党と人民は一体だ」と言うが、この点では正しい。中国人民だけではない。中国共産党幹部も公言こそ控えているが、米国大好きなのだ。

 それを実証する事例は少なくない。中国の富豪や共産党幹部がゴールデンパスポートを入手するために腐心し、自分の子供たちを米国のエリート大学に留学させている。米国の悪口を散々いう一方で、中国共産党幹部たちは秘かに自分の子供たちを米国に留学させるために特権を駆使しているのだ。例えば、中国共産党外交問題責任者、楊潔篪党中央政治局委員の娘は米イェール大学に留学中だ(「中国党幹部の楊潔篪氏は『裸官』?」2021年4月16日参考)。

 なぜか、教育の水準の問題ではない。英語が学べ、自由意思で生活できる米国の社会に憧れるからだ。せめて自分の子供たちには自由を満喫させたいと願うのは独裁国家とはいえ、親の心ではないか。そのうえ、中国共産党幹部たちにとって米国のほうが北京より安全だ。米国では十分な資金があれば、大きな屋敷で自由を楽しみながら生活が出来るが、中国では指導者が代われば、いつ粛清されるかは分からないのだ(「中国高官の『ゴールデンパスポート』」2020年8月31日参考)。

 次は中朝友好協力相互援助条約の実情を端的に示す事例を紹介する。新型コロナ防疫のためにコロナワクチンの確保がどの国にとっても最重要課題だ。北朝鮮でも「感染者ゼロ」と誇示するが、ワクチンの公平な分配を目指す国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」を通じてワクチンの確保に乗り出しているが、なかなか入手できないでいる。その理由は、北朝鮮側が「英アストラゼネカ製品は副作用が多いから要らない。中国のシノバック製ワクチンは信頼できないから要らない」と主張し、要求が多すぎるからだという。米ファイザー製やモデルナ製のmRNAワクチンの場合、マイナス70度以下の冷凍保存設備(コールドチェン)が必要となるが、北朝鮮には十分な設備がない。

 もう少し端的に言えば、北朝鮮は中国製ワクチンを信頼していない、怖いから要らないというのだ。もちろん、中国製ワクチンに対する低評価は北朝鮮だけではない。チリやブラジルなど南米諸国だけではなく、インドネシアやシンガポールなどアジア諸国でも中国製ワクチンへの信頼度は少ない。

 中朝友好協力相互援助条約を締結して60年の年月が経過したが、北朝鮮の中国への信頼感は何も変わっていない。中国からの経済支援は必要だが、中国共産党が世界に輸出する中国製ワクチンは信頼できないのだ。韓国も含め朝鮮民族は隣りの大国・中国を心から信頼する事はない。

 米国を敵国として中国共産党も朝鮮労働党も団結と結束を誇示しているが、中朝両国はけっして友人でも戦友でもないのだ。自国に利益をもたらす時だけ友人であり、そうではない場合は内心、敵意すら抱いている。その一方、米国に対しては、否定したくても否定できない憧憬心をもっている。共産党幹部も人民もその点では同じなのだ。

 中朝友好協力相互援助条約は締結して60年を迎えた。朝鮮新報は12日電子版で「『革命戦友』たちの変わらぬ協力と団結」という見出しの記事を大きく報じていたが、その「革命戦友」たちは少なくなってきた。朝鮮動乱も経験していない戦争を知らない世代が政治の表舞台ばかりか、社会でも多数派を占めてきた。そして中国ばかりか、北朝鮮でも自由を求める声は日毎に高まってきている。中朝両国の為政者が米国を敵視し、少数民族への人権弾圧や宗教迫害を繰返せば繰り返すほど、国民の自由社会への憧憬は深まっていく。ソ連共産党主導の共産党一党体制は70年目を迎えることなく崩壊したように、中朝友好協力相互援助条約は締結70年目を迎えることなく死文化するのではないか。

北「青年同盟」の改称理由が分かった

 北朝鮮中央放送は先月30日、「金正恩国務委員長(朝鮮労働党総書記)は4月29日、朝鮮労働党外郭の青年団体『金日成・金正日主義青年同盟』の第10回大会に書簡(「革命の新しい勝利を目指す歴史的進軍で社会主義愛国青年同盟の威力を遺憾なく発揮せよ」)を送り、青年同盟の名称を『社会主義愛国青年同盟』に改称する重大な決定が採択された」と報じた。そのニュースを韓国の聯合ニュースで読んだ時、もう一つ合点がいかなかった。如何なる組織でも、その呼称から金日成主席、金正日総書記の名前を外すという事は少なくとも北では考えられないからだ。

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▲北朝鮮「社会主義愛国青年同盟」第10回大会風景(朝鮮新報2021年5月7日から)

 聯合ニュースによると、北朝鮮は2016年の第9回大会で「金日成社会主義青年同盟」から社会主義をなくし、「金日成・金正日主義」に改称したばかりだが、5年ぶりに「社会主義」を復活させる代わりに、北朝鮮の建国の父・金日成主席ばかりか、金正恩氏の父親・金正日の名前を削除したわけだ。3代の世襲国家の北朝鮮が初代、2代目の名称を削除して「社会主義」という名目を導入しなければならない理由が金正恩氏にあったのだろうか。

 「青年同盟」は党員以外の14歳から30歳までの青年が加入しなければならない政権の土台ともいうべき団体だ。スポーツ団体や文化組織の呼称ではない。約500万人のメンバーをかかえる団体の名前だ。その団体の名前から金日成、金正日の名称を消したのだ。何かあったと考えざるを得ないのだ。

 その謎が解けた。米政府系放送局「自由アジア放送(RFA)」は5月17日、平壌の高層ビル・マンション街で金正恩体制を批判するビラが大量に散布されたと報じたのだ。そのビラには「3代長期独裁政権にわれわれ人民は騙され、アジアの最貧国に落ちている。われわれ人民が総決起して金正恩独裁者を倒すべきだ」と書かれていたというのだ。そして、大量の体制批判ビラ散布は金日成大学理工学部の学生が中心だったというから、反金正恩ビラを配った学生は「青年同盟」のメンバーであったはずだ。

 ここまでくると、金正恩氏が「青年同盟」の名称を改名した理由が浮かび上がってくる。反金正恩ビラ事件は「青年同盟」の改名前に起きた出来事ではなかったか(ビラ事件が「青年同盟」の改名後としても事情は大きくは変わらない)。金正恩氏は先の書簡の中で「青年期の世代が栄達と享楽のみを追求している今の世界で、苦労と試練を楽として、祖国の呼び掛けに忠実で、社会と集団に誠実であり、未来のために献身する革命的な青年はわれわれの青年しかいません」と称賛しているが、彼らの多くが金正恩体制の崩壊を願っているのだ。

 反体制ビラは北朝鮮でも過去、数回報告されているが、今回のビラは「青年同盟」のメンバーが配り、内容は過激な体制転覆を呼び掛けるものだ。金正恩氏はショックを受けたに違いない。金正恩氏はその直後、「金日成・金正日主義青年同盟」から「社会主義愛国青年同盟」と急遽変えることを決めたのでないか。この解釈が正しければ、金正恩氏は政敵、反体制派を片っ端から粛正した政権就任直後のような勢い(モメンタム)を失っている。簡単に言えば、自信をなくしてきているのではないか、という推理が出来るのだ。

 元韓国国防省の高永抻瓩論こζ報で「脅かされる金正恩体制」(5月24日付)というタイトルの記事を寄稿している。同氏は「金日成親子孫の別荘は全国に24カ所も散在しており、特閣と呼ばれる別荘は超豪華施設であると知られている。一般人民は1990年代半ばの『苦難の行軍』時に150万人以上が餓死したのに、指導者は贅沢三昧の生活をしている。鋭い感受性を持つ青年学生たちには、到底受け入れられない常識外れなのである」と述べている。

 「指導者は贅沢三昧の生活をしている」ことは北朝鮮国民ならば皆知っている。他言すれば粛正されるから口に出さないだけだ。青年たちは海外の情報にもアクセスがあるから、「わが国は最貧国だ」という事実を知っている。彼らに核兵器の小型化や米本土にまで届くミサイル開発を誇示したとしても、もはや感動はしない。核兵器やミサイルでは空腹を満たすことができないからだ。

 金正恩氏はビラの内容を読み、そのビラを配った人間を見つけ出すように指令を飛ばしたはずだ。その一方、「青年同盟」の名称から祖父と父親の名前を外すことで、改革の意思を背年たちにアピールしたのではないか。金正恩氏は書簡の中で、「青年同盟の名称を改めたからといって、全同盟の金日成 ・金正日主義化を総体的目標、総体的闘争課題としているわれわれの青年組織の本態が変わるのではありません。社会主義と愛国は、金日成同志と金正日同志の不滅の革命思想と業績を象徴しています」と弁明する一方、「今の青年世代は国が試練を経ていた苦難の時期に生まれ育ったため、朝鮮式社会主義の真の優越性に対する実際の体験やイメージに欠けており、はなはだしくは一部間違った認識まで持っています」と苦言を呈している。この後半の箇所は金正恩氏の本音だろう。

 「青年同盟」の名称変更は、金正恩氏自身が、ゞ温伽治スタイルに限界がきたこと、国内経済の破綻、食糧不足が深刻化していること、等を理解していることを示唆している。それは同時に、金正恩氏にはまだ政権の立て直しのチャンスが僅かばかりだが残されていることを意味する。

 注:金正恩氏の書簡の内容は、在日本朝鮮人総聨合会機関紙「朝鮮新報」から引用しました。

北朝鮮の東京五輪不参加の「事情」

 北朝鮮体育省は6日、公式サイトで「北朝鮮オリンピック委員会は先月25日の総会で、悪性ウイルス感染症(新型コロナウイルス感染症)による世界的な保健の危機状況から選手を保護するため、委員の提議により第32回オリンピック競技大会に参加しないことを決定した」(韓国聨合ニュース)と伝えた。

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▲東京五輪大会は7月23日に開幕へ(国際オリンピック委員会=IOC公式サイトから)

 国民の人権を蹂躙してきた北朝鮮当局がここにきて突然、「選手を新型コロナ感染から守るために五輪大会の不参加を決めた」というのだ。この不参加理由をその発信内容通り受け取る人はさすがに少ないだろう。

 五輪大会不参加の理由ははっきりとしている。第32回東京五輪大会(7月23日開幕)に参加してもメダルを取れるチャンスは限りなくゼロに近いからだ。五輪大会を含む国際スポーツ大会で、北朝鮮の選手がメダルを取り、国家の威信を世界に発信できないならば、選手団を派遣する意味がないのだ。スポーツと政治をリンクさせてきた北朝鮮にとっては当然の決定だ。「オリンピックは参加に意義がある」といった贅沢な世界は北には当てはまらない。

 北の五輪不参加表明にはもっと深刻な事情が考えられる。北では五輪参加資格を有する「民族代表スポーツ選手」の場合、選手は特別扱いされ、国民が食糧不足で飢餓状況にあっても国家から食糧は優遇されてきた。その優遇が出来なくなってきたのだ。これが大きな理由だ。

 北朝鮮でメダルのチャンスがある格闘競技や重量上げの場合、選手が十分な食糧支援を受け、試合に臨むのがこれまでの状況だった。しかし、民族代表のスポーツ選手にも十分な食糧が供給されなくなったのだ。そのような状況下で世界からトップクラスが参加する五輪大会でメダル獲得は夢のまた夢であり、予選通過すら難しい。集団競技はもともとチャンスはない。個人競技だけだが、選手たちが十分な食糧を得られない状況で試合に出ても勝ち目がない。北の五輪委員会は自国の選手が無惨な姿を世界に晒すより、不参加のほうが国家威信が守れると考えても不思議ではないからだ。金日国体育相らスポーツ担当党幹部の地位保全もあるだろう。

 北朝鮮の食糧事情は厳しい。平壌に駐在してきた多くの外国大使館の大使や外交官がここにきて、中国に出国しているというニュースが流れたばかりだ。彼らは外国の外交官として外貨を持っているため食糧は国民より手に入れやすい。その外国ゲストが「食糧や医療品すら満足に手に入らない北には留まれない」と判断し、国に戻るか、北京の自国大使館に避難していったわけだ。在平壌のロシア大使館は1日、フェイスブックを通じて「外交官が次々いなくなっており、平壌に残っている外国人は300人を下回った。この前代未聞の厳しさに誰もが耐えられるわけではない」(時事通信)と状況を報告している。

 五輪大会に選手を派遣できず、駐在の外交官も逃げ出していくという事は何を意味するのだろうか。北国内の食糧不足はメディアで報じられているより深刻だということだ。闇市場で食糧を買えず、食糧を栽培できない国民には2つの選択肢しかない。脱北するか、飢餓を待つしかないのだ。

 そのよう中でも北朝鮮は3月25日、日本海に弾道ミサイル2発を発射した。これは何を意味するのだろうか。バイデン米政権を挑発するという軍事的、政治的意味合いは少なく、「わが国に目を向けて」という絶叫に近い叫びではないのか。

 バイデン氏がオバマ政権時代の「戦略的忍耐」路線を継承してきたことも、北側は一層焦りを感じているだろう。バイデン政権は北が非核化を実行しない限り、米朝会議にも消極的といわれている。北が弾道ミサイルを今後発射したとしても、米国が即動くことはないだろう。金正恩氏にはミサイル発射以外の他の選択肢がないのだ。米国が中国にトランプ前政権時代のように厳しい対応を継続すれば、中国から北への支援はあまり期待できない。

 日韓両国は一応、北のミサイル発射に警戒態勢を敷いているが、北がこの時、大規模な軍事行動に出るとは考えていないだろう。北は国家の体力を消耗させているからだ。南北合同チームを作って東京五輪大会に参加し、南北対話を進めたい韓国にとって、北の五輪大会不参加は残念だろう。

 弾道ミサイル発射の時、金正恩氏は現場に立ち会っていない。金正恩氏の頭の中は食糧、医療品の確保に集中しているからだ。新型コロナの感染による国民経済の破綻で、国際社会から一層孤立化しているのだ。対中国境線は閉鎖状況では中国からの経済支援も難しい。高麗航空が平壌と北京間の空路を再開したというが、それを利用できるのは平壌駐在の外交官や家族だけだろうし、実際、飛行するか否かも未定だ。中国からの経済救援物資の緊急輸送のための仕事が主要目的ではないか。

 金正恩氏はいま政権発足後、最大の危機に直面している。直接の契機は新型コロナウイルスのパンデミック、そして米政権の交代だが、換言すれば、核開発など先軍政治を邁進し、国民経済の育成を無視してきた結果が国難の時に、表面化してきたといえる。

 北にとって一層大変な点は、先進諸国を含む世界が新型コロナ禍で国民経済の回復で汲々している時でもあり、国連安保理決議に反して核開発を継続し、ミサイルを発射する北朝鮮にあまり関心を有していないことだ。金与正朝鮮労働党宣伝扇動部副部長が対南、対日、対米で激しい暴言、罵声を飛ばしたとしても、それに反応する国は少なくなっている。

 このような時、暴発を最も恐れるべきだ。中国共産党政権が北朝鮮を吸収するため出てくる可能性が考えられる。北朝鮮の金正恩政権が中国共産党政権下の一自治区に降格するシナリオだ。飢餓に苦しむ国民に不穏な動きが出てきて、金正恩氏が統治できなくなった時、中国に支援を要請、金王朝の存続の代わりに、中国の属国になる道を選択するというシナリオだ。

涙腺が緩んできた金正恩氏の「新年」

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は今月8日、37歳の誕生日を迎える。どれぐらいの祝電が平壌に届くか知らないが、今年は例年より厳しい1年になることは金正恩氏自身が良く知っているだろう。今月上旬に開催予定の第8回党大会を成功裏に終わらせなければならない。新型コロナウイルスの感染問題、停滞する国民経済、そして自身の健康問題の3重苦に悩まされる37歳には「今年を何とか乗り越えたい」という思いが強いのではないか。

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▲北朝鮮・朝鮮労働党創建75周年の祝賀会で演壇に立つ金正恩党委員長(朝鮮中央通信公式サイトから)

 独裁者が公の場で涙を見せることはめったにない。見せた時は何らかの政治的計算に基づくパフォーマンスか、それとも生理的な自律神経の発作現象かのどちらかだろう。金正恩氏は昨年から涙腺が緩くなってきているのだ。

北朝鮮の朝鮮中央通信は1日、金正恩委員長が新年を迎え、人民に直筆の書簡を送ったという。書簡では、「厳しい歳月の中でも変わりなく、わが党を信じ支持してくれた心に感謝する」(韓国聨合ニュース)と記述されているという。金正恩氏は人民思いの指導者に転身しているのだ。

 朝鮮労働党創建75周年祝賀会が昨年10月10日午前零時、平壌の金日成広場で開催され、金正恩党委員長の演説と大規模な軍事パレード が挙行された時を思い出してほしい。金正恩氏は演説の中で、自衛的手段として軍事的抑制力の強化の重要性を強調したうえで、新型コロナウイルスの感染問題、制裁下の経済的困窮、台風などの自然災害の3重苦の人民に謝罪するとともに、その忍耐に感謝を繰返した異例のソフトタッチの内容だった。謝罪と感謝を繰返す金正恩氏の声が涙声だったという報道すら流れた。新型コロナウイルス防疫や水害復旧のために動員された軍将兵には、数回「感謝する」という言葉とともに「すまない」と述べたというのだ。

 金正恩氏の言動に変化が見られだしたのは昨年7月頃からではないか。当時、金正恩氏の健康不安説が日韓メディアで報じられていた。同氏は昨年7月、平壌近郊で建設中の光川養鶏場を視察し、北の採卵、鶏肉加工工場の近代化は遅れていると指摘し、「党が心を砕く人民の食生活問題の解決に寄与できる工場となることを期待する」と述べている。金正恩氏の「人民第一主義」が登場してきたのだ。

 金正恩氏が心の底から人民第一主義を考えているのならば、その強権政治を放棄し、政治収容所に拘留されている人民を釈放し、これまでの人権蹂躙政策に対し人民の前で謝罪するべきだが、金正恩氏の「人民第一主義」はそこまではまだ煮詰まっていないから、同氏の口から「人民の、人民による、人民のための政治」が飛び出すことは期待できないだろう。しかし、金正恩氏は「人民」という言葉を使わないと心が落ち着かなくなってきたことは間違いないだろう。

 独裁者は国民が不満を高め、不穏な動きがある時は一層強権を振り回して力で抑え込むか、懐柔政策に乗り出すかの2通りがある。金正恩氏はどうやら後者を選んだのではないだろうか。だから「人民」という言葉を多用することで、人民に対して懐柔するシグナルを送っているわけだ。その背後には、金正恩氏が自身の健康に自信を失ってきていることがあるだろう。従来の強権政治を継続するだけのパワーがないから、「人民第一主義」を標榜し、休戦を呼び掛けている、といえる。

 5年ぶりに開かれる第8回党大会では過去の成果を検証する一方、同国を取り巻く厳しい環境を乗り越えるために具体的な方針を打ち出す必要がある。同国を取り巻く政治情勢は激変してきた。米国では金正恩氏を「友達」と呼んできたトランプ米大統領に代わってバイデン氏が就任するうえ、米国との橋渡しを自負してきた韓国の文在寅大統領は、不動産の高騰問題や尹錫悦検察総長(検事総長)への政治的圧力などで国民の心は離反し、支持率は40%を大きく割ってしまった。2022年の大統領選前に既にレームダック症状を呈し、もはや大きな役割は期待できない。すなわち、2021年は「ポスト・トランプ」、「ポスト文在寅」の夜明けとなる可能性が高いのだ。

 もちろん、中国との関係がある。新型コロナ感染防止のために中国との国境は閉鎖され、中国からのさまざまな経済支援、物資支援にも支障が出てきている。そのような中で北朝鮮はどのようにして生き延びていくかが大きな課題だ。

 世界情勢の変化、新型コロナ感染防止、停滞する国内経済の回復など難問を抱え、金正恩氏は指導力を発揮できるか、それとも健康問題もあって妹・金与正党第1副部長の助けを必要とするか、不透明で不確かな要因を抱える金正恩氏の新年は明けた。
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