ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

北朝鮮

ICCが金正恩氏に逮捕状を発付する日

 トランプ大統領は9月22日の国連総会一般討論演説で、国際刑事裁判所(ICC、本部オランダ・ハーグ)を「ならず者機関」と非難し、全加盟国に脱退を要求するなど、米国はICCへの圧力を強めている。ICC非加盟国の米国が加盟国に対して脱退するように圧力を行使すること自体は少々、奇妙なことだ。米国がICCに対して抱く最大の懸念は、自国民が米国以外の国際機関によって有罪判決を受け、収監されることだ。主権国家への介入と受け取られるからだ。

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▲オランダのハーグにある国際刑事裁判所(ICC),ICC公式サイトから

 ICCには、国家元首や政府首相を起訴し、有罪判決が下れば収監(拘禁刑の執行)する「法律上の権限」がある。国際法上、現職の国家元首や首相には他国の裁判所から裁かれない特権があるが、ICCの根拠条約であるローマ規程第27条では、国家元首などの公的資格による「免責(不訴追の特権)」を一切認めていない。ただし、軍隊などの実力組織は有していない。 ICCは、125の加盟国(締約国)に対し、容疑者が自国領内に入った際に身柄を拘束してハーグへ引き渡すよう要求する。

 過去にはスーダンのバシル元大統領などに逮捕状が出され、近年ではロシアのプーチン大統領や、イスラエルのネタニヤフ首相に対しても戦争犯罪などの容疑で逮捕状が発付されている。歴史的に見ても、国のトップが在任中に逮捕された例は極めて稀。2025年にフィリピンのドゥテルテ前大統領が国内で逮捕されハーグへ移送された例がある。加盟国であっても政治的・外交的配慮から、訪問してきた指名手配中の首脳(例:モンゴルを訪問したプーチン大統領)を逮捕せずに出国させてしまう事例もあり、法律上の権限と実際の執行力の間には大きな乖離があるのが実情だ。

 ICCの課題と問題点を考えるうえで、北朝鮮の金正恩総書記とイスラエルのネタニヤフ首相の立場が参考になるのでここでは両者とICCの関係について考えたい。前者はICCから逮捕状は出ていない一方、後者は2024年11月に逮捕状が発布されている。共通点は北朝鮮もイスラエルもICCには加盟していないことだ。2人の状況が分かれている最大の理由は、ICCが裁判を行うために必要な「管轄権( jurisdiction )」の有無にある。

 北朝鮮の場合、ICC非加盟国であり、国内での人道に対する罪(強制収容所での虐殺や拷問など)は自国内(非加盟国の領土内)の出来事であるため、ICCは原則として捜査する権限がない。ただし、非加盟国の国内犯罪であっても、国連安保理が「国際社会に対する脅威」とみなしてICCに捜査を付託すれば、ICCは管轄権を持つことができる(過去のリビアのガダフィ大佐などの例)。実際は、安保理ではロシアと中国が拒否権を行使して反対するので難しい。

 ただし、ここにきて金正恩氏を取り巻くICCの立場に変化が出てきている。北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻に対して軍隊や武器を派遣している。そしてウクライナはICCの管轄権を受け入れているため、ウクライナ領内(またはロシア領内の戦闘地域)で北朝鮮軍が関与した戦争犯罪については、金正恩氏が「共犯」や「指揮官」としてICCの捜査対象になる法的な足がかりが出てきたのだ。金正恩氏を戦争犯罪容疑でICCに告発する条件は整ってきている。今後のウクライナ情勢やICC検察官の動き次第では、将来的に逮捕状が出る可能性がゼロではなくなった(「金正恩総書記をICCに引き渡しを」2024年5月05日参考)。

 一方、イスラエルはICC非加盟国だが、事件の舞台であるパレスチナ(ガザ地区など)がICCの加盟国(締約国)として承認されているため、そこでの戦闘行為や人道危機(餓死の武器化など)に対してICCの管轄権が及ぶ。ネタニヤフ氏は「加盟国(パレスチナ)の領土内での犯罪容疑」として逃れられずに逮捕状が出たわけだ。

 ただし、パレスチナは正式の主権国家としては認知されていない。にもかかわらず、ICCがパレスチナ内での戦争犯罪がICCの管轄権が及ぶと判断したのは、ICCの裁判部が「一般的な国際法上の国家承認の是非」と「ICC条約(ローマ規程)における加盟資格」を切り離して判断したからだ。

 2012年、国連総会においてパレスチナの地位が「オブザーバー組織」から「非加盟オブザーバー国家(Non-member Observer State)」へと格上げされる決議が採択された。これにより、パレスチナは国連機関が管理する様々な国際条約に「国家」として加入する資格を実質的に得ることになった。

 パレスチナはこの国連での地位をもとに、2015年にICCの根拠条約である「ローマ規程」の加入書を国連事務総長に提出し、正式に受理された。その結果、条約のルール(第12条2項a)に基づき、加盟国であるパレスチナの領域内(1967年の第3次中東戦争以降にイスラエルが占領したガザ地区、ヨルダン川西岸、東エルサレム)で起きた犯罪については、自動的にICCの管轄権が及ぶことになったわけだ。

北朝鮮、ロシアへミサイル部隊を派遣

 戦争研究所(ISW)によると、ロシアが5日夜に発射した28発のミサイルに対し、ウクライナ軍は1発も迎撃することができなかった。ロシアは、ウクライナの弾道ミサイル迎撃弾の備蓄が枯渇している状況を知っている。ロシア軍が夜間に発射したミサイルはすべて、弾道ミサイル、あるいは弾道軌道を描いて飛来するミサイルであり、これらを迎撃可能なのは米国製の「パトリオット」システムや同等のシステムに限られるからだ。

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▲「軍事同盟」を宣言したプーチン大統領と金正恩総書記、平壌で、2024年6月19日、クレムリン公式サイトから

 ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、主に中東での紛争の影響により、2026年の初め以降、ウクライナが受け取る弾道ミサイル迎撃弾の数が3分の1に減少していると指摘した。ロシアは2026年7月、ウクライナに対して過去最多のミサイルを発射した。ロシア軍はここ数週間、ドローン攻撃の回数を減らす一方、ミサイル攻撃をより重視する作戦を展開しているのだ。

 ところで、ロイター通信によると、北朝鮮は約90名からなるミサイル部隊の展開を開始し、ウクライナ攻撃用として120発の弾道ミサイルを移送する準備を進めている。ロシアは同部隊を自国の第112ミサイル旅団に編入し、ウクライナ攻撃用に最大120発の弾道ミサイルと6基の発射装置を配備する計画という。北朝鮮はすでに、KN-23およびKN-24ミサイル40発からなる新たな一団を納入済みだ。

 ウクライナの諜報当局者は北朝鮮のミサイル部隊がロシア西部へ展開中であることを確認している。ウクライナ軍事情報局のアンドリー・チェルニャク氏は5日、「北のミサイル部隊はウクライナ攻撃用に120発の弾道ミサイルと6基の発射装置を装備している可能性がある」と述べている。

 北朝鮮は2022年のウクライナ侵攻以来、ロシアの緊密な軍事同盟国だ。両国は2024年6月、安全保障・防衛分野などを網羅した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、約12000人の兵士をロシア軍を支援するためにウクライナに派遣するなど、ロ朝両国が軍事同盟の関係を深めてきた。ウクライナ側の報告によると、北朝鮮はすでに数百万発の砲弾を供給し、1万4000人の兵士をロシアのクルスク地域に派遣している。

 ウクライナのシビハ外相は「モスクワと平壌の協力関係は、ウクライナのみならずインド太平洋地域にとっても直接的な脅威となっている。国際社会は、より強力な制裁圧力と、当該政権の完全な孤立化をもって対応すべきだ」と主張している。

 ISWによると、アナリストらは、「ロシアと北朝鮮は、ウクライナの限られた弾道ミサイル迎撃用弾薬を消耗させつつ、北朝鮮製ミサイルの性能を試験できる」と指摘する。ISWが指摘するように、ロシアによる北朝鮮製ミサイルの使用は、北朝鮮にとって実戦試験を行い、ミサイル改良のためのデータを収集できる機会ともなる。実戦での試験やフィードバックを通じてミサイルの性能を向上させるチャンスというわけだ。

 なお、北朝鮮はロシアによるウクライナ侵攻への関与を強めてきた。北朝鮮は2024年10月下旬にクルスク州へ歩兵、工兵、建設作業員を派遣したが、今回新たにミサイル運用要員を派遣したことは注目に値する。

 派遣されるミサイル運用要員は、クルスク州での戦闘や運用を通じて北朝鮮兵士が既に得たものとは異なる、新たな戦闘の教訓を本国に持ち帰ることになる。北朝鮮がなぜ今、ミサイル運用要員とミサイルをロシアに派遣することを選んだのかは不明だが、ロシアと北朝鮮は、ウクライナの弾道ミサイル迎撃弾の在庫が枯渇している現状に乗じ、北朝鮮製ミサイルの性能を試験しようとしている可能性がある。

 「北朝鮮製ミサイルの命中度が向上した」(2025年2月8日参考)で報告済みだが、ウクライナでの戦闘で使われている北朝鮮製ミサイルがより正確に命中するようになっている、という情報がある。北朝鮮の部隊がウクライナに派遣された当初、西側軍事専門家は北製ミサイルの性能の悪さを嘲笑していたが、2025年に入ってミサイルの命中度が劇的に向上したというのだ。

 北のミサイル性能の向上について、北側のミサイル専門家がロシア軍からフィールドバックを受けていること、北製ミサイルにロシア製の優れたナビゲーション システムまたは改良されたステアリング機構が装備された可能性、また、ロシアは制御システム用の改良されたコンポーネントを提供したことなどが考えられている。

 いずれにしても、ロシアの兵器庫に北朝鮮製ミサイルが加わることで、ロシアはS-400や「ツィルコン」ミサイルの在庫を消費することなく、近い将来ウクライナに対する弾道ミサイル攻撃を強化できるわけだ。

 ちなみに、ウクライナの防衛関連情報源である「ミリタルニ(Militarnyi)」は2026年7月19日、ロシアが同年7月の最初の19日間だけで、「ツィルコン」ミサイルの年間生産計画量の最大3分の2を消費したと分析している。

北朝鮮、4年連続最悪の「宗教弾圧国」

 国際援助団体「オープン・ドアーズ」が14日、「2026年度版ワールド・ウォッチ・リスト」を発表した。それによると世界中で3億8,800万人のキリスト教徒が、信仰ゆえに深刻な迫害や差別を受けている。報告書によれば、世界中で昨年、4,849人のキリスト教徒が信仰を実践したために殺害された。前年より犠牲者は約400人減少した。ナイジェリアだけでも反キリスト教徒による暴力の犠牲者は3,490人に上り、イスラム過激派が特に北部で攻撃や虐殺を繰り返している。

 北朝鮮を除くと、キリスト教徒への迫害が最も深刻な10カ国は、主にイスラム教徒が居住する国だ。特に、サハラ以南アフリカの状況は悪化している。中国(17位)でも、政府は圧力を強めている。新たな規制により、聖職者のあらゆるオンライン活動が規制されている。北朝鮮は2023年以来、4年連続「キリスト教徒弾圧国」1位だ(調査機関2024年10月1日〜25年9月30日)。

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▲1993年以来毎年作成されている「ワールド・ウォッチ・リスト」には、キリスト教徒が生活し、信仰を告白することが最も危険な50カ国が掲載されている。

 以下、キリスト教徒迫害が最悪の北朝鮮について、報告書から総括する。

 20世紀初頭、平壌で大きな復興が始まり、北朝鮮の首都は「東のエルサレム」として知られた。数百もの教会が設立され、宣教師たちは全国に教育機関を開設した。第2次世界大戦での日本の敗戦後、金日成が権力を握り、共産主義(無神論)政権を樹立した。朝鮮戦争(1950〜1953年)の間、多くのキリスト教徒が国外に逃れた。戦後、数万人のキリスト教徒が殺害、投獄、あるいは辺境地への追放を受け、残りのキリスト教徒コミュニティは地下に潜った。

 現在義務付けられている国教は、いわゆる「金日成主義」と「主体思想」だ。主体思想は基本的に人間は自給自足であり、自分自身にのみ頼るべきであると説いている。すべての国民は毎週「自己批判」のセッションに出席し、100ページ以上に及ぶ思想資料を暗記しなければならない。儒教の影響を受けた北朝鮮は、「成分」と呼ばれる社会階層分け制度を発展させ、すべての国民を3つの階層に分類している。「中核」(社会の28%)、動揺層(45%)、敵対層(27%)だ。キリスト教徒とその子孫は「敵対層」に分類される。キリスト教は、撲滅すべき危険な異宗教と見なされている。

 「オープン・ドアーズ」は、数万人のキリスト教徒が強制労働収容所に収容されていると推定している。2020年の国連報告書によると、強制収容所では女性に対する人権侵害が日常茶飯事で行われ、性的暴力、強制裸体化、レイプ、強制中絶などが含まれる。

 「オープン・ドアーズ」は、北朝鮮のキリスト教徒の数を約40万人(人口1・5%)と推定している。そのほか、イスラム教徒2,669人(<0・1%)、仏教徒405,306人(1・5%)、民族宗教信者3194,008人(12・1%)、無神論者4052,070人(15・4%)、不可知論者14901,417人(56・6%)、その他3364,830人(11・8%)だ(出典:世界キリスト教データベース、一部はオープン・ドアーズの推定値を基に作成)。

 北朝鮮の秘密警察と中国警察の協力により、北朝鮮から逃亡した人々(主に女性)の身元確認と強制送還が増加している。これは、中国で使用されている顔認識技術によってさらに促進されている。現在、北朝鮮は農業生産の減少と食糧配給システムの不備により、深刻な食糧不足に陥っている。

 北朝鮮では、平壌にある公式教会での礼拝を除き、すべての教会活動は違法。公式教会での礼拝は観光客が連れて行かれ、同国における信教の自由の「証」となることになっている。政権は、キリスト教団体の指導者を特定し、処罰し、そのネットワークの他の構成員について尋問することに主眼を置いている。観光客は入国時と出国時に手荷物検査を受け、個人使用の聖書を1冊のみ持参でき、北朝鮮国内に置き忘れないように厳重に監視される。

 キリスト教関連資料の輸入と制作は禁止されている。韓国統一研究院が発行した「北朝鮮人権状況白書2021」によると、聖書を所持しているだけで公開処刑されるケースが増えている。聖書の配布は所持よりもさらに厳しく処罰される。北朝鮮の住民は政府の許可なしに出国できないため、海外で開催される他のキリスト教徒との会議や会合に参加することはできない。

 なお、「オープン・ドアーズ」の「2026年度ワールド・ウォッチ・リスト」によると、キリスト教迫害トップ10は�)鳴�鮮、�▲愁泪螢◆↓�イエメン、�ぅ后璽瀬鵝↓ゥ┘螢肇螢◆↓Ε轡螢◆↓Д淵ぅ献Д螢◆↓┘僖�スタン、��リビア、��イランとなっている。

朝鮮半島に‘ミニ・ロシア‘が出現する日

 北朝鮮の金正恩総書記は2024年6月、ロシアのプーチン大統領と会談し、安全保障・防衛分野などを網羅した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結する一方、約12000人の兵士をロシア軍支援のためウクライナに派遣するなど、露朝両国は軍事同盟の関係を深めている。この動向は単に朝鮮半島だけではなく、日本の安全問題にも直結する深刻な問題を提示している。北に先端兵器で重武装した‘ミニ・ロシア‘が出現する日が近いことを意味するのだ。

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▲新型対空ミサイルの発射,2025年8月23日、KCNAから

 ロシアと北朝鮮の軍事協定後、北朝鮮の軍事力は著しく強化されてきた。北朝鮮側がプーチン大統領の要請を受けて弾薬や大砲などの武器供給のほか、兵士も派遣しているとすれば、北側はロシアから何らかの代価を得ていると考えて当然だろう。具体的には、ロシアから核関連、軍事衛星、原子力潜水艦関連の技術支援を得ているはずだ。

 ドイツ民間ニュース専門局NTVによると、ウクライナでの戦闘で使われている北朝鮮製ミサイルが突然、より正確に命中するようになったという。北朝鮮の部隊がウクライナに派遣された当初、西側軍事専門家は北製ミサイルの性能の悪さを嘲笑していたが、今年に入ってミサイルの命中度が劇的に向上したという。

 西側軍事専門家は「北側のミサイル専門家がロシア軍からフィールドバックを受けていることは間違いないだろう。北製ミサイルにロシア製の優れたナビゲーション システムまたは改良されたステアリング機構が装備された可能性が考えられる。また、ロシアが制御システム用の改良されたコンポーネントを北側に提供したこともあり得る」と分析している。

 北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)は24日、2種類の新型対空ミサイルの性能を確認するための試射が23日に行われ、金正恩総書記が視察したと伝えた。無人攻撃機などの目標を撃破する能力が確認されたとしている。

 KCNAは新型対空ミサイルの詳細や発射場所については言及していない。ミサイルの「運用と対応モード」は「独自の特殊技術に基づく」、「今回の発射は、2種類のミサイルの技術的特性が様々な空中目標の破壊に非常に適していることを実証した」とだけ報じている。KCNAが公開した写真には、対空ミサイルが空に打ち上げられる様子が写っている。「金委員長は、次期党大会までに国防部門が達成しなければならない重要な課題について語った」という。

 北朝鮮はロシアを通じて弾道ミサイルや対空ミサイルの性能を急速に向上させていることが伺えるわけだ。それだけではない。ワシントンに拠点を置く戦略国際問題研究所(CSIS)は20日、中国国境から約27キロ離れた場所に「未申告」のシンプンドンミサイル基地があると報告した。この基地には、核兵器搭載可能な大陸間弾道ミサイル6発と発射台が設置されている可能性がある。CSISは、これらの兵器は「東アジアおよび米国本土に対する潜在的な核の脅威をもたらす」と付け加えている。

 また、ウィ―ンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は3月3日の定例理事会の冒頭演説の中で、北朝鮮の核関連施設の近況について報告している。曰く「寧辺(ヨンビョン)の5MW(e)原子炉が約60日間の停止期間を経て、2024年10月中旬に運転を再開したことを確認した。この停止期間は、原子炉の燃料交換を行い、第7次運転サイクルを開始するためと考えられる。また、放射化学研究所に蒸気を供給する施設の稼働を含め、新たな再処理キャンペーンの準備を示す強い兆候が観察された」という。

 IAEAの情報によると、「北朝鮮は2025年1月下旬、金正恩総書記が核物質生産基地および核兵器研究所を視察する写真を公開している。写真に写る遠心分離機のカスケードや施設の構造は、遠心分離濃縮施設の配置や寧辺のウラン濃縮工場の構造と一致する。北朝鮮が2024年9月に未申告のカンソン(江先)施設の濃縮施設の写真を公開したことに続くものだ。江先と寧辺における未申告の濃縮施設の存在は、金総書記が兵器級核物質の生産計画を超過達成するよう指示したことを裏付けている。江先および寧辺のウラン濃縮工場が稼働を継続している兆候があり、また寧辺の軽水炉(LWR)も運転を続けている兆候がある。LWRの隣接地では、支援インフラの追加が確認された」という。

 朝鮮人民軍の軍事能力の向上を受け、金正恩総書記は自信を深めているはずだ。ロシアとウクライナ間の戦争が長期化し、北朝鮮の兵士が実戦を体験する機会を得ることから、兵士たちの戦闘力も強化される。すなわち、ウクライナ戦争の「前」と「後」では、北朝鮮の軍事能力は急速にアップしていると受け取って間違いないだろう。

 独裁者・金正恩総書記が自国の誇る軍事力を実戦の場で試したいという誘惑に駆り立てられるとしても不思議ではない。朝鮮半島の軍事情勢は韓国、日本を含むアジア全域にとって非常に危険な水域に入ってきている。

北はいつから「核保有国」入りしたか

 トランプ米大統領は決して口の堅いタイプではない。むしろ今聞いたばかりの情報を直ぐに口に出さないと落ちつかないタイプではないか。同大統領は13日、北朝鮮を核保有国と呼んでいる。今年に入って少なくとも2回目だ。発言内容は間違っていないが、正式に核保有国と呼ばないことが米国を含む西側のスタンスだった。トランプ氏の発言を聞いた金正恩総書記は「それみろ、米国がわが国を核保有国と呼んだぞ」と側近たちと大喜びだろう。

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▲ロシアのプーチン大統領と金正恩総書記の会見(2023年9月13日、クレムリン公式サイドから)

 トランプ氏が言うように、北が核保有国(核兵器国)メンバーとすれば、北との非核化交渉といったテーマはもはや意味がなくなる。トランプ氏は「賢明な指導者」と褒める金正恩氏との米朝首脳会談が実現した場合、核拡散防止条約(NPT)に基づいて、「核軍縮」と「核管理」について話し合うことになる。

 ちなみに、NPT第9条3によれば、「核兵器国」とは、1967年1月1日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国をいう。すなわち、米ロ中英仏の5か国だ。ただし、インド、パキスタン、イスラエル、そして北朝鮮も核を保有している。しかし、それらの国を「核兵器国」と正式に認知すれば、NPT体制が崩壊するから、それらの国を核兵器国とは呼ばないわけだ。

 ウィ―ンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は3日の定例理事会の冒頭演説の中で、北朝鮮の核関連施設の近況について報告している。曰く「寧辺(ヨンビョン)の5MW(e)原子炉が約60日間の停止期間を経て、2024年10月中旬に運転を再開したことを確認した。この停止期間は、原子炉の燃料交換を行い、第7次運転サイクルを開始するためと考えられる。また、放射化学研究所に蒸気を供給する施設の稼働を含め、新たな再処理キャンペーンの準備を示す強い兆候が観察された」という。

 また、「北朝鮮は2025年1月下旬、金正恩総書記が核物質生産基地および核兵器研究所を視察する写真を公開している。写真に写る遠心分離機のカスケードや施設の構造は、遠心分離濃縮施設の配置や寧辺のウラン濃縮工場の構造と一致する。北朝鮮が2024年9月に未申告のカンソン(江先)施設の濃縮施設の写真を公開したことに続くものだ。江先と寧辺における未申告の濃縮施設の存在は、金総書記が兵器級核物質の生産計画を超過達成するよう指示したことを裏付けている。江先および寧辺のウラン濃縮工場が稼働を継続している兆候があり、また寧辺の軽水炉(LWR)も運転を続けている兆候がある。LWRの隣接地では、支援インフラの追加が確認された」という。

 寧辺の5MWの原子炉は激しく老化しているから、それを修復して原子炉活動を再開するためには多くの費用と時間が必要となる。北朝鮮は5MWの原子炉の再開をちらつかすことで米国を核協議に誘導しようとしているだけで、今後はウラン濃縮活動に力を入れてくるはずだ。ウラン濃縮施設で兵器用ウランを入手する作業は使用済み核燃料の再処理施設でプルトニウムを入手するより容易な上、監視衛星から隠蔽する上でメリットがあるからだ。

 豊渓里(プンゲリ)の核実験場については、大きな変化は見られず、引き続き核実験をいつでも実施できる状態が維持されている。北朝鮮の核計画の継続は、関連する国連安全保障理事会決議やIAEA理事会決議に違反している。グロッシ事務局長は「北朝鮮は関連する国連安保理決議に完全に従うこと、NPTの保障措置協定を全面的かつ効果的に履行するために速やかにIAEAと協力すること、そして、IAEA査察官が不在の間に生じた問題を含め、未解決のすべての問題を解決するよう求める」と述べている。

 明確な点は、北朝鮮は核兵器を自国存続の保証と考えているから、核カードを放棄することは絶対にないことだ。朝鮮半島の非核化は金正恩総書記体制が続く限り、考えられない。

 北朝鮮は昨年6月、ロシアと安全保障・防衛分野などを網羅した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結する一方、約12000人の兵士をロシア軍を支援するためにウクライナに派遣するなど、ロ朝両国が軍事同盟の関係を深めている。北朝鮮側がプーチン大統領の要請を受けて弾薬や大砲などの武器供給のほか、兵士も派兵しているとすれば、北側はロシアから何らかの代価を得ていると考えて間違いないだろう。具体的には、ロシアから核関連、軍事衛星、原子力潜水艦関連の技術支援を得ているはずだ。

 ドイツ民間ニュース専門局NTVによると、ウクライナでの戦闘で使われている北朝鮮製ミサイルが突然、より正確に命中するようになったという。北朝鮮の部隊がウクライナに派遣された当初、西側軍事専門家は北製ミサイルの性能の悪さを嘲笑していたが、今年に入ってミサイルの命中度が劇的に向上したという。ロシアとの軍事協力の成果が出てきているのだ。

 なお、北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)は8日、金正恩総書記が海軍の原子力潜水艦や艦艇を建造する造船所を視察したと報じた。正恩氏は「海軍戦力の精鋭化、核武装化」が重要な課題だと強調している。

北朝鮮製ミサイルの命中度が向上した

 ドイツ民間ニュース専門局NTVによると、ウクライナでの戦闘で使われている北朝鮮製ミサイルが突然、より正確に命中するようになったという。北朝鮮の部隊がウクライナに派遣された当初、西側軍事専門家は北製ミサイルの性能の悪さを嘲笑していたが、今年に入ってミサイルの命中度が劇的に向上したという。この情報はウクライナと米国がロイター通信の質問に答えたもので、NTVが6日報じた。ただし、なぜ北製ミサイルの性能が突然、向上したかという疑問に対して西側軍事専門家はまだ自信をもって答えられない。

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▲大陸間弾道ミサイル発射場を視察する金正恩総書記と長女ジュエさん(2022年11月18日、時事通信のKCNAの写真から)

 米高官がロイター通信に答えたところによると、「年初以来発射されている北朝鮮製のミサイル約20発は、以前よりも著しく目標に近づいている。現在、標的の50〜100メートル以内だ」という。
 北朝鮮のミサイルはこれまで目標を1キロから最大3キロも外れたという。ウクライナ側も北朝鮮の兵器の信頼性に疑問を持っていた。発射された24発のロケットのうち「比較的正確」だったのは2発だけだったという。それが突然その性能を向上させたのだから、軍専門家は首を傾げるわけだ。

 なお、北朝鮮のミサイルには核弾頭を搭載できる短距離および中距離ミサイルが含まれる。北朝鮮にとって問題は、これまで兵器を実戦実験できなかったことだ。しかし、ロシアに派遣され、ウクライナ戦争で実戦でミサイルを使用できる機会を得たわけだ。

 ロイター通信の報道によると、北朝鮮のミサイルはその積載量と射程はロシアの飛翔体をある程度上回っている。一部のタイプは最大1トンの弾頭を搭載でき、一部のミサイルの射程は800キロメートルだ。一方、ロシアのイスカンデル-Mロケットの射程は500キロメートルだ。

 ロシアと北朝鮮は、平壌がクレムリンにミサイルを供給したことを否定している。しかし、両国は昨年6月、「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。それ以来、ロシアは兵力や武器の供給と引き換えに北朝鮮へ対空ミサイルや対空装備を提供している。ミサイル部品や資金援助でも北朝鮮を支援していると見られる。

 なぜ、北朝鮮のミサイルの性能が突然向上したかについては目下、専門家も推測する以外にない。北側のミサイル専門家がロシア軍からフィールドバックを受けていることは間違いないだろう。北製ミサイルにロシア製の優れたナビゲーション システムまたは改良されたステアリング機構が装備された可能性も考えられる。また、ロシアは制御システム用の改良されたコンポーネントを提供したこともあり得るだろう。

 北製ミサイルの性能向上は平壌とモスクワにとって朗報だが、韓国や日本など朝鮮半島周辺の国々の安全にとって懸念される内容だ。性能を高めた北製ミサイルや武器が海外に密輸される危険性も排除できない。

 北朝鮮から約12000人の兵士が派遣された当初、西側諸国は「北朝鮮兵士はウクライナ軍の大砲の餌食となる」と軽く考えてきた。北朝鮮兵士は現在、前線から撤退したとも言われる。北朝鮮兵士にとって実戦経験がないこと、戦場が山や森といった環境ではなく、平地のため、平地戦、市街戦の経験のない北朝鮮兵士にとって危険が多い。しかし、経験を積んでいけば、北朝鮮の兵士の戦闘力はアップするだろう。ウクライナ戦争が終わり、帰国した北朝鮮兵士は韓国側にとって手強い敵となる。ミサイルは命中度を増し、兵士は戦闘経験を有するからだ。

 最後に、北朝鮮ミサイルの命中度が向上したというニュースを読んで、ある面で少しほっとした。なぜなら、ウクライナには欧州最大の原発サポリージャ原子力発電所がある。北兵士の派遣先のクルスク州にもクルスク原発(4基の原子炉)が操業中だ。戦場で北朝鮮のミサイルが発射され、そのミサイルが目標と数キロ離れた原発に命中したならば、それこそ第2のチェルノブイリ原発事故となるからだ。

トランプ氏「米ロ朝の3カ国会議」模索か

 トランプ米大統領は北朝鮮の最高指導者金正恩総書記を「賢明な指導者だ」と評価するなど、第一次政権時代と同様、金正恩総書記との首脳会談に依然関心があることを示唆しているが、欧州駐在の韓国外交筋が明らかにしたところによると、トランプ氏は米朝両国にロシアのプーチン大統領を加えた3国首脳会談の開催に意欲を有しているという。

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▲「軍事同盟」を宣言したプーチン大統領と金正恩総書記(クレムリン公式サイトから、平壌で、2024年6月19日)

 北朝鮮がロシアと昨年6月、安全保障・防衛分野などを網羅した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結する一方、約12000人の兵士をロシア軍を支援するためにウクライナに派遣するなど、ロ朝両国が軍事同盟の関係を深めていることを踏まえ、トランプ氏はウクライナ戦争の停戦が実現すれば、朝鮮半島の非核化問題は米朝両国だけではなく、ロシアを加えた米ロ朝3カ国会議で進展が期待できると考えているという。ただし、金正恩総書記はトランプ氏との米朝首脳会談の開催を願っているといわれるだけに、3カ国会議が実現できるかは現時点では不透明だ。

 一方、韓国政府は朝鮮半島問題の解決で韓国が会議から外されることを懸念、米朝ロに韓国を加えた4か国会議になるように米国側に要請していきたい考えという。ただし、尹錫悦大統領が弾劾され、「内乱罪の首謀」の容疑で起訴されるなど、韓国内の政情が不安定であることもあって、トランプ側は「韓国外し」が会議の進展で都合がいい、といった判断に傾きつつあると見られている。

 ところで、北朝鮮がプーチン大統領の要請を受けて約1万2000人の兵士をロシアに派遣、北朝鮮兵士がウクライナ戦場で戦闘をしているが、ここにきて北朝鮮兵士が前線から後退したという情報が流れてきた。それに対し、先の韓国外交筋は「後退しているが、訓練を受けた後、再び前線に送られると予想している」と指摘。北朝鮮兵士がウクライナ軍との現代的な戦闘に不慣れで多くの犠牲が出ているといわれるが、「北朝鮮の兵士は優秀だ。しかし、ウクライナ軍との戦闘では戦場が平地のため、山や森林に囲まれた朝鮮半島の戦場とは明らかに異なっている。北朝鮮兵士は戦いで隠れる場所がないためウクライナ軍の射撃の対象となりやすいのだ」と解説。同時に、「ウクライナ戦争終焉後、実戦を積んだ北朝鮮兵士の戦力はアップされているだろう」と指摘し、警戒を示した。

 ちなみに、韓国国家情報院によると、北朝鮮はクルスク州に約12000人の兵士を派遣し、そのうち少なくとも300人が死亡し、2700人が負傷したと見られている。

 同外交筋は「戦場では多くの北朝鮮兵士が負傷し、捕虜になることを避けるために自害する兵士が少なくない」と述べ、多くの北朝鮮兵士が国の家族の安否を考えて自害する件数は多いと指摘。北朝鮮軍指導部はウクライナ戦争に派遣された兵士に「捕虜にならず、自害せよ」と教育しているという。

 なお、2人の北朝鮮兵士が負傷し、ウクライナ側に捕虜となったが、その一人の兵士がウクライナに留まりたい意向を明らかにしたとの情報が流れている。それに対し、韓国外交筋は「大韓民国の憲法によれば、北朝鮮国民は本来、韓国の国民だ。だから、北朝鮮兵士たちは韓国に行く権利を有している。捕虜に関するジュネーブ第3条約を基本にし、彼らが強制的に北側に帰国させられないためにも、北朝鮮兵士の自発的な韓国送還を願っている」と述べている。

北朝鮮はサイバー犯罪大国に

 韓国のサイバーセキュリテイ問題の専門家ボラ・パク氏(Bora Park) はこのほどオーストリア国営放送(ORF)とのインタビューに応じ、制限されたインターネットアクセス、不安定な電力にもかかわらず、北朝鮮が「サイバー犯罪のプレイヤーへと成長してきている」と警告を発した。また、「プログラムによる成果だが、ロシアと北朝鮮の軍事分野での協力が深化する中、平壌のハッカー集団がヨーロッパを標的にし始めてきた」と述べた。

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▲「軍事同盟」を宣言したプーチン大統領と金正恩総書記(クレムリン公式サイトから、平壌で、2024年6月19日)

 以下、パク氏がORFとのインタビューの中で語った内容をまとめたORFのヴェブサイドの記事をほぼそのまま日本語訳した。

 北朝鮮には約7,000人がサイバー部門で活動していると推定され、軍事、政治、経済、科学の分野で技術や情報を吸い上げ、暗号資産取引所を荒らしているという。朴氏によると、北朝鮮の目的は2つある。制裁を回避し、政権を維持するために資金を獲得すること、そして他国の機密情報を収集することだという。

 米分析企業チェイナリシス(Chainalysis)が12月中旬に発表した報告書によると、今年だけで北朝鮮のハッカー集団は13億ドル(約1,250億円)を盗んだ。これは2024年に世界中で盗まれた総額の半分以上に相当する。また、国連の報告によれば、2017年から2023年の間に北朝鮮のハッカーは暗号資産企業に58回のサイバー攻撃を仕掛け、約29億ユーロの損害を与えている。こうして得られた資金は貧困にあえぐ一般市民には使われず、平壌のミサイルおよび核計画に利用され、米政府の推定ではこれらのプログラムの半分が盗まれた資金で賄われているというのだ。

 北朝鮮のサイバー作戦は、同国の軍事情報機関である「偵察総局」によって管理されている。この機関に所属するハッカー集団には「ラザルス」「アンドラニール」「キムスキー」といった名前がつけられている。その高度な攻撃能力は、北朝鮮国内の状況と著しい対照をなしている。要するに、エリート集団だ。

 北朝鮮は国際的に孤立しており、新型コロナウイルスのパンデミック中は国境線は完全に閉鎖された。また、電力不足に長年苦しんでおり、とりわけ冬季には深刻だ。同国では電力の大部分を水力発電に頼っている。人口約2,500万人のうち、わずか1%しかインターネットにアクセスできず、国内のイントラネットへのアクセスさえ厳しく規制されているという。 

 一方、北朝鮮政権はインターネットの戦略的価値を早くから認識していた。パク氏によれば、そのルーツは1986年に遡る。当時、北朝鮮はコンピューター科学専用の特別な大学を設立した。そこで学ぶ学生たちは、北朝鮮政府から特権を与えられる。数学に特別な才能を持つ子どもたちは幼少期に家族から引き離され、徹底的な教育を受けた後、軍のサイバー部隊に配属され、特定の任務に従事する。作戦は北朝鮮国内や中国、その他東南アジア諸国にある北朝鮮の拠点で行われる。

 攻撃は主にマルウェアを使って行われ、データの吸い上げは模倣したログインページを通じて行われることが多い。最近では、偽の身分を利用して北朝鮮国外の企業にIT専門家として潜入する手法も増えているという。

 攻撃の大半は韓国を標的にしている。特に、ソウルの統一部やその他の南北関連機関が狙われている。韓国の発表では、これらの機関に対するサイバー攻撃は2022年から2024年にかけて2,300件超に達した。近年に入り、西側諸国も標的にされるようになり、特に国連制裁が厳しくなった後はその傾向が強まっている。

 北朝鮮のサイバー犯罪は2014年、ハリウッドのソニー・ピクチャーズを標的に始まった。その理由は、独裁者金正恩への架空の暗殺を扱った風刺映画「ザ・インタビュー」公開への報復だ。2017年には「ラザルス」グループが「WannaCry」マルウェアによるサイバー攻撃を行い、政府機関や銀行、大企業を含む世界中のWindowsコンピューターが影響を受けた。2023年2月には、ドイツ連邦憲法擁護庁と韓国の国家情報院(INS)が、ヨーロッパの防衛産業に対する北朝鮮のサイバー攻撃について警告を発している。同年6月には、ドイツの防空システムメーカーであるディール・ディフェンスがスパイ攻撃を受けたと報じられた。また、北朝鮮のサイバーチームは、ウィーンにあるオープン・ニュークリア・ネットワーク研究グループのデータを狙ったとされている、といった具合いだ。

 北朝鮮とロシア両国は2024年6月、安全保障・防衛分野などを網羅した「包括的戦略パートナーシップ条約」を宣言したが、両国の軍事同盟は、ヨーロッパのサイバーセキュリティにも影響を及ぼす可能性がある、北朝鮮とロシアがサイバー分野での協力を強化し、共同で特定の攻撃を実行する可能性がある。パク氏は「北朝鮮とロシアのハッカー集団が過去に協力していた例がある」と述べている。例えば、北朝鮮のサイバーグループが韓国の企業を攻撃した際に得た情報をロシアのハッカーグループに提供し、その情報がウクライナや西側諸国の機関へのサイバー攻撃に使用されたという。

北朝鮮「政府報告書」で日米韓を糾弾

 スイス・ジュネーブの国連人権理事会で来月7日午後(現地時間)、「普遍的・定期的審査」(UPR)の北朝鮮人権セッションが開かれる。北朝鮮のUPRは2009年12月、2014年5月、2019年5月に次いで今回が4回目。北側の「政府報告書」の発表後、加盟国代表から北の人権問題で意見が出る。日本政府代表は日本人拉致問題などで質問する予定だ。北朝鮮軍のロシア派兵が明らかになったこともあって、欧米諸国も北朝鮮の人権問題に対して関心が高まっている。

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▲朝鮮人民軍空軍司令部を視察 した金正恩総書記と娘のジュエ氏(北朝鮮の月刊画報「朝鮮」から)

 国連人権理事会では各加盟国の人権状況、人権問題に関連した国際法、国連憲章の義務の履行状況を調べるために、2006年からUPRという審査メカニズムが設置され、08年4月から具体的に実施されている。UPR作業部会では全ての加盟国が参加し、被審査国の人権状況について質問できる。同審査には非政府機関(NGO)は発言できないが、傍聴できる。その審査内容を理事会の3国代表が報告者国となり、まとめてUPR作業部会に提出。それが採択されると、理事会の全体会合に提出され、正式に採択される運びとなる。

 UPR作業部会には3つの基本文書が審査のたたき台として提出される。一つは審査される国の「政府報告書」、2つ目は国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が人権問題に関連した国際条約や憲章に対する被審査国の義務履行を編集した文書、そしてOHCHRがNGOらの提出した、被審査国の人権問題に関する信頼できる情報をまとめたサマリーの3文書だ。

 北朝鮮は今年8月29日、ナショナル・レポート(政府報告書)をUPR作業グループに提出済みだ。人権関連法案の改正などを挙げ、人権状況の改善への努力を強調する一方、「人権問題が改善しない理由」として米国、日本、韓国らの名前を挙げて厳しく反論している。

 当方は17頁からなる北朝鮮の「政府報告書」を入手した。同報告書は冒頭で、「朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)は偉大な朝鮮労働党の賢明な指導のもと、政策や法制度および実務的措置を採用し、その実施過程に科学的かつ効果的な指導を提供することにより、政治、経済、文化の全分野で人々が権利を十分に享受できる条件を整える努力で顕著な成果を収めた。DPRKの社会体制は、人々を中心に据えたものであり、労働者階級があらゆるものの主人であり、社会のすべてが彼らに奉仕する。DPRKは政策立案と実施の基本原則として、人々の尊厳、権利、利益を守ることを掲げ、どのような仕事においても人々の利益と利便性を最優先にする『人民第一主義』の立場を一貫して維持してきた。報告期間中、DPRKは国家と社会の主人として人々が政治的権利を十分に享受できるよう積極的な措置を講じ、国民経済の包括的発展のための主要な目標を設定し、国民の福祉向上のために多大な業務を遂行した」と記述している。

 北朝鮮の「政府報告書」で注目される点は、「人権の促進と保護に対する朝鮮民主主義人民共和国の努力は、深刻な障害や課題に直面しており、これらは時間の経過とともに増加している」と指摘し、「人民の権利の進展で最大の障害」として、米国のほか、特に日本や韓国に対して厳しい批判を展開させていることだ。

 米国に対しては「アメリカ合衆国は朝鮮民主主義人民共和国の建国当初から一貫して敵対的な政策を追求し、政治、経済、軍事、文化などあらゆる分野でその内政に干渉し、人民が選択した社会主義制度を崩壊させようと必死の努力を続けてきた」と指摘し、日本に対しては「日本は、40年にわたる朝鮮への軍事侵略の中で、強制連行や拉致、数百万人の朝鮮人の虐殺、日本帝国軍による従軍慰安婦としての女性の徴用などの反人道的犯罪を犯し、朝鮮人民に取り返しのつかない被害を与えてきたにもかかわらず、過去の犯罪を清算しておらず、依然として朝鮮民主主義人民共和国に対する敵対的な政策を続けている」と述べている。北朝鮮が「政府報告書」の中で「日本帝国軍の従軍慰安婦」「過去の犯罪の清算」に言及したことに注目が集まっている。

 ちなみに、韓国に対しては「大韓民国もまた、この瞬間においてさえ、アメリカの核戦略資産を朝鮮半島に導入し、アメリカや日本と共にあらゆる種類の戦争訓練を行い、朝鮮民主主義人民共和国の安全保障に対する恒常的な脅威を与え、経済発展および国民の生活向上のための重大な障害を形成している」と強調している。要するに、北朝鮮は人権問題が進展しないのは米日韓らの外部の敵国の妨害のせいにする一方、人権問題を追及する声に対しては「内政干渉」という表現で一蹴している。前回の「政府報告書」と同様だ。

 「政府報告書」は最後に、「単に異なる思想や理念を追求しているという理由で朝鮮民主主義人民共和国の社会主義体制を崩壊させようとするいかなる試みも、我が人民の人権に対する侵害であり、その尊厳に対する侮辱だ」と強調している。

 参考までに「政府報告書」の「将来の目標」の項目で、�。庁丕劭砲蓮�国民の権利と利益の保護、ならびに福祉の増進を活動の最高原則とし、持続可能な経済発展を通じて国民の生活をさらに向上させ、国の包括的な発展を達成するための努力を継続、�■庁丕劭砲蓮�国際的人権動向と国内の実情に応じて人権の促進と保護のための法体系を強化・整備し、国民の法的権利と利益を最大限に保証するとともに、国家開発目標と密接に結びつけて持続可能な開発目標(2030アジェンダ)の実施において国際社会と協力する、��DPRKは、「児童の権利に関する条約」や「女子差別撤廃条約」など、自国が締約国である国際的人権条約に基づく義務を誠実に履行し、人権分野における国際交流と協力をさらに促進していく、と記述している。

 残念ながら、北朝鮮の「政府報告書」は虚偽が多く、同国の人権状況を正確かつ客観的に報告していない。米国務省が毎年公表する「宗教の自由に関する年次報告書」や迫害されているキリスト教徒を支援する超教派の宣教団体「オープン・ドアーズ」、国際人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(Human Rights Watch= HRW)の報告書では、北朝鮮内の宗教者への迫害、女性の権利の蹂躙状況が赤裸々に報じられている(「北政府「人権報告書」は嘘だらけだ!」2019年5月11日参考)

 北朝鮮最高指導者・金正恩朝鮮労働党総書記は「人民第一主義」という言葉を頻繁に使うが、衣食住もままならず、「言論の自由」「女性の権利」「信教の自由」も保証されていない社会に生きる国民の嘆きが聞こえないのか。

朝鮮半島のヤコブ(南)とエサウ(北)

 北朝鮮が15日に軍事境界線の北側にある南北連結道路、韓国とつながる京義線と東海線の一部を爆破した際の写真が韓国聯合ニュースで掲載されていたが、その爆破シーンは韓国と北朝鮮の現在の険悪な関係を象徴的に表示していた。北朝鮮軍総参謀部は9日、韓国につながる道路と鉄道を完全に遮断し、防御用の構造物で要塞化する計画を発表済みだ。北朝鮮は今月上旬に開催された最高人民会議(国会)で憲法を改正し、韓国を「敵対国家」と明記したばかりだ。南北関係はここにきて険悪の一途を辿っている。

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▲「ヤコブとエサウの和解」(ピーター・パウル・ルーベンスによる1624年の絵画)

 南北関係に話を進める前に旧約聖書の創世記に記述されているヤコブとエサウの兄弟の話を紹介する。

 エサウ(兄)とヤコブ(弟)はイサクの2人の息子だ。エサウはイサクが次男のヤコブに長子権と神の祝福を与えるのを見てヤコブを妬み、殺そうとした。そこでヤコブは母親の助けを受けて、母親方の叔父ラバンのもとに避難する。ヤコブは21年間、ラバンのもとで働いた後、妻と財産をもって帰途に向かう途中、天使と闘い勝利し、神から「イスラエル」という称号を得る。そして遠方に兄エサウの姿を見て、ヤコブは7度地に伏せ、過去の出来事を詫び、全ての財物をエサウに与えた。苦労した弟の姿を見たエサウはヤコブを抱擁し、和解する、という話だ。

 韓国と北朝鮮は本来兄弟国だ。金正恩総書記が韓国を「敵対国」と宣言し、核兵器で脅迫したとしてもその民族的繋がりは変わらない。DNAで検査すれば、それは一目瞭然だ。すなわち、朝鮮半島で展開している南北間の闘争、いがみ合いは兄弟喧嘩といえるわけだ。聖書ではカインとアベル、そして上述したエサウとヤコブの兄弟の話が記述されている。換言すれば、神の祝福を得た弟(アベル、ヤコブ)とそれを得られなかった兄(カイン、エサウ)との愛憎物語だ。

 話を現代に戻す。最近では、ロシアのプーチン大統領はウクライナの民族的主権を無視し、クレムリン前にキエフ大公の聖ウラジミールの記念碑を建てた。聖ウラジミールはロシアをキリスト教化した人物だ。クレムリンの前に聖ウラジミール像を建立するということは、ウクライナもロシアに属していることを意味する。そして軍事的侵攻を正当化してきた。プーチン氏は自身を聖ウラジミールの転生(生まれ変わり)と信じている。

 ロシア正教会の最高指導者モスクワ総主教のキリル1世はウクライナ戦争勃発後、プーチン大統領のウクライナ戦争を「形而上学的な闘争」と位置づけ、ロシア側を「善」として退廃文化の欧米側を「悪」とし、「善の悪への戦い」と解説、ウクライナとロシアが教会法に基づいて連携していると主張し、キーウは“エルサレム”だという。「ロシア正教会はそこから誕生したのだから、その歴史的、精神的繋がりを捨て去ることはできない」と強調、ロシアの敵対者を「悪の勢力」と呼び、ロシア兵士に闘うように呼び掛けてきた。

 プーチン氏とキリル1世の独自のナラティブ(物語)に対し、ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系、UOK)の首座主教であるキーウのオヌフリイ府主教は2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻を「悲劇」とし、「ロシア民族はもともと、キーウのドニエプル川周辺に起源を持つ同じ民族だ。われわれが互いに戦争をしていることは最大の恥」と指摘、創世記に記述されている、人類最初の殺人、兄カインによる弟アベルの殺害を引き合いに出し、両国間の戦争は「兄弟戦争(フラトリサイド)だ」と喝破し、注目を呼んだ(「分裂と離脱が続くロシア正教会」2022年5月29日)。

 カインは弟アベルを殺害した。人類最初の殺人動機は「自分は愛されていない」という絶望からの感情暴発だった。不幸なことだが、同じことが、プーチン氏にもいえるのではないか。欧米諸国から支援を受けるウクライナへの強烈なライバル意識、経済的に繁栄する欧米諸国への憎悪だ。それだけではない。朝鮮半島での韓国と北朝鮮との戦もカインとアベル、エサウとヤコブの兄弟戦争と受け取ることができるのだ。

 太陽政策と呼ばれる緊張緩和政策を掲げて南北再統一を進めた故金大中大統領(任期1998年〜2003年)は南北関係を兄弟関係と受け取っていた一人だ。「北風」ではなく、「太陽」で北朝鮮国民の凍った心を解かそうと腐心した。しかし、その太陽政策は北側の金正日総書記に利用されただけで終わった。太陽政策を支援していたウィーン大学の北朝鮮問題専門家、ルーディガー・フランク教授は当時、「韓国の太陽政策は徹底していなかったから失敗したのだ。韓国側はもっと北側を支援すべきだった」と指摘していた。韓国側にエサウに全ての財宝を捧げた‘ヤコブの精神’が十分でなかったというわけだ。

 ところで、北朝鮮が10月15日に爆破した道路と鉄道は、2001年から2008年にかけて韓国政府から融資された1億3290万ドルをもとに建設されたものだ。金正恩総書記はそれを破壊することで韓国との関係に終止符を打つつもりだったのだろう。南北間の兄弟戦争は危険水域に入ってきた。

 北朝鮮はロシアとの間の軍事協定に基づいてロシアへ派兵を決定した。一方、韓国側がキーウ政府から強い要請を受けてウクライナへ武器支援を決めた場合、ウクライナとロシアの戦場で兄弟国の南北は戦いを始めることになる。
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