ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

国連記者室

非常任理事国選での独の「痛恨の敗北」

 国連総会で3日、安全保障理事会の非常任理事国選挙(任期:2027年1月〜2028年12月)が実施され、オーストリア、ポルトガル、キルギス、トリニダード・トバゴ、ジンバブエの5カ国が新たに選出された。西欧その他(定数2)地域では3カ国が立候補する激戦区となった。結果はポルトガル(134票)、オーストリア(131票)が当選し、ドイツは104票で落選した。経済大国ドイツの落選は予想外の結果と受け取られ、大きな衝撃を与えている。

260602-bm-ny
▲非常任理事国入りを訴えるドイツのヴァ―デフール外相、国連総会で、ドイツ外務省公式サイトから、2026年6月3日

 世界第3位の経済大国であり、多額の国連分担金を支払うドイツの落選は「異例の失態」と報じられている。ドイツ国内では、今回の落選を「外交上の大失態」と捉える向きが強く、連立政権内からの不満や野党からの激しい批判にさらされ、国民からの支持率が低迷するメルツ首相への政治的打撃となっている。

 ドイツ(統一ドイツ前を含む)は計6回、非常任理事国に選出されてきた。落選はこれまでなかった。今回の結果は、メルツ首相が政権発足直後から掲げてきたドイツ外交の復興、「多国間協調主義」の推進、それを支える常任理事国入りの野望にストップがかかった感じだ。

 メルツ首相は「目標を達成できなかった」と敗北を認めつつも、「国連におけるドイツの役割は変わらない」と冷静さを装っている。メルツ首相とヴァーデフール外相は、「わが国は今後も国連における責務を果たす」と国民に即座に表明した。

 ドイツ外交をリードするヴァーデフール外相は、非常任理事国の権限強化を通じて安全保障理事会の発言力を高めることで、長年にわたる膠着状態を打開し、少なくとも米国、ロシア、中国、フランス、英国といった核保有国である常任理事国に一定の抵抗力を持たせようと考えていた矢先だけに、今回の選挙結果は顔面を殴打されたようなダメージだ。

 ベルリンでは責任追及を求める声が高まっている。連立政権を組む社会民主党(SPD)の外交政策報道官アディス・アフメトヴィチ氏は、今回の結果を「単なる不運ではなく、ドイツが国際社会でどう見られているかを示す警告のサイン(イエローカード)だ」と厳しく指摘している。

 一方、野党「緑の党」は、「現政府は、この立候補を裏付けるような現代的なアイデアを提示するための努力を怠った」とし、メルツ首相とヴァーデフール外相(CDU)の責任を追及。

 左派政党(ディ・リンケ)のヤン・ファン・アーケン共同党首は公共放送(ARD)で、ガザ情勢におけるイスラエルへの擁護や、年初の米軍によるベネズエラ介入に対するメルツ首相の曖昧な態度を念頭に、「国際法を自ら形骸化させた結果がこれだ」と吐き捨てた。

 野党第一党の極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアリス・ワイデル共同党首は、X(旧Twitter)で「国際舞台への復帰を掲げて誕生したメルツ政権にとって、この落選は国辱(恥さらし)だ」と一蹴した。

 国連やアフリカなどのNGO関係者からは、メルツ政権が国内の経済改革・予算緊縮を理由に、開発援助(ODA)予算を何度も大幅に削減したことが、グローバルサウス諸国の「ドイツ離れ」を決定づけたという構造的な批判も噴出している。

 参考までに、メディアの声を少し拾う。
 「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」(FAZ)はドイツの「痛恨の敗北」とし、「事前の根回し不足と、国際舞台で重要な役割を果たすという目標を達成できなかった手痛い挫折である」と厳しく指摘。
 「南ドイツ新聞」はこの落選を「Quittung(報い/しっぺ返し)」と表現し、「特にガザ戦争に関するドイツのダブルスタンダードな対応が、国際的な信頼を損ねた結果である」と論じた。
 「ヴェルト紙」は外交政策における「明らかな失敗」としつつも、一部の専門家の見解を引用し、「世界の終わりというわけではなく、国際社会におけるドイツの立ち位置を根本的に見直す良い機会である」と前向きな軌道修正を促している。

 ドイツの落選の背景についてまとめる。
 �|翕譟ΕΕ�ライナへの外交姿勢。ドイツの親イスラエル姿勢への反発がある。パレスチナ自治区ガザ地区の戦闘を巡り、国際法違反が指摘されるイスラエルをドイツが強く批判しなかったため、国連内でアラブ諸国や「グローバルサウス」と呼ばれる途上国からの広範な支持を失った。

 �▲蹈轡△砲茲襦嵌親肇�ャンペーン」。ウクライナを強力に支援するドイツに対し、常任理事国のロシアが、国連安保理にドイツを入れさせないよう他の加盟国へ熱心な「反対の根回し(反独キャンペーン)」を行った。

 �N�候補、選挙戦の出遅れ。ドイツが立候補したのは2020年と準備が大幅に遅れ、スペイン・ポルトガル語圏の票を固めたポルトガルやオーストリアに競り負けた。

 ドイツは日本、インド、ブラジルと共に「G4」と呼ばれるグループを結成し、時代遅れとなった安保理の枠組みを改める「安保理改革」を主導してきた。「分担金を多く支払う主要国が、常任理事国として国際安全保障に責任を持つべきだ」と主張し、自身の常任理事国入りを目指す外交を続けてきた。非常任理事国選挙の落選はドイツだけではなく、他のG4国にとっても痛手だ。

 経済や内政の改革で求心力が揺らいできたメルツ政権にとって、今回の非常任理事国落選は「ドイツの外交的影響力の低下」を国内外に露呈する形となり、メルツ首相の指導力に対する懐疑論を一層強める結果となっている。

国連「フェミサイド報告書」の衝撃

 11月25日は「女性に対する暴力撤廃の国際デー」だが、国連の推計によると、世界中で昨年、約8万3000人の女性が故意に殺害された。これらの事件の約60%(約5万人)は加害者が家族またはパートナーであったと発表した。

message_womens_day_2025
▲女性に対する暴力撤廃を呼び掛ける国連のグテーレス事務総長、国連広報センターから

 ウィーンに事務局を置く国連薬物犯罪事務所(UNODC)は25日、「2024年フェミサイド報告書」を公表した。そのプレスリリースの見出しは「2024年には毎日137人の女性と女児が殺害された」という。これは、ほぼ10分ごとに1人の女性または少女がパートナーまたは家族によって殺害されていることを意味する。参考までに、同年における男性の殺人事件のうち、親密なパートナーまたは家族によって殺害されたのはわずか11%だった。

 国連の統計によると、フェミサイド(女性が性別を理由に殺害される致命的な暴力事件)は、特にアフリカ諸国で蔓延している。南北アメリカがそれに続く。アジアやヨーロッパ諸国でもフェミサイド(Femicide)は依然として頻繁に発生しているが、人口規模と比較するとその数は少ない。

 「2024年フェミサイド報告書」によると、世界中のあらゆる地域で、女性と女児はこの極端な形態の暴力にさらされている。親密なパートナー/家族によるフェミサイドの発生率が最も高かったのはアフリカ(女性人口10万人あたり3人)で、次いで南北アメリカ(1.5人)、オセアニア(1.4人)、アジア(0.7人)、ヨーロッパ(0.5人)と推定されている。

 ちなみに、当方は2021年11月27日、「11分に1人の女性が家庭で殺された」というコラムを掲載した。その3年後の2024年は「10分に1人」というわけだ。

 4年前、アントニオ・グテーレス国連事務総長はビデオスピーチで、「女性と女児に対する暴力は、今日の世界で最も蔓延した、差し迫った人権問題であり続けている」と述べ、「私たちがともに一層の努力を重ね、2030年までに女性と女児に対する暴力を撲滅しなければならない」と語っていたが、現実はフェミサイドは年々増加傾向にある。

 UNODC事務局長代行のジョン・ブランドリーノ氏は「家庭は、世界中の多くの女性や少女にとって、依然として危険で、時に命を奪う場所となっている。報告書は、フェミサイドに対するより良い予防戦略と刑事司法の対応、そしてこの極端な形態の暴力を蔓延させる状況を考慮した対応の必要性を痛烈に想起させる」と述べている。

 また、国連女性政策局長のサラ・ヘンドリックス氏は「フェミサイドは単独で発生するものではない。多くの場合、支配的な行動、脅迫、そしてオンラインを含むハラスメントから始まる一連の暴力行為の連鎖の中で発生している。今年の国連16日間キャンペーン(来月10日の「人権デー」まで)は、デジタル暴力がオンラインにとどまらないことを強調している。それはオフラインでもエスカレートし、フェミサイドを含む致命的な危害につながる可能性がある。こうした殺人を防ぐには、オンラインとオフラインの両方で女性や女児の生活全体に暴力がどのように現れるかを認識し、それが致命的になるずっと前に加害者を責任追及する法律を施行する必要がある」と強調している。

 例えば、オーストリアでは2020年1月、家庭内暴力防止法が施行された。また、夫や父親から暴力を受ける女性や少女に対してはFrauenhaus(女性たちの家)と呼ばれる避難場所が設置されているし、24時間のホットラインが敷かれている。

 家庭内の男性の暴力は些細な事として問題視しない傾向がある。例えば、家庭で女性に暴力を振るう男性は警察側が知っていても具体的な対策を取らないことがこれまで多かった。フェミサイドには過去の家父長制や歪んだ男尊女卑の残滓が色濃く反映しているケースが多いだけに、対策も容易ではない。

 家庭は本来、家族の憩いの場であるが、それがいがみ合い、紛争の場となり、女性や少女たちが犠牲となるケースは絶えない。フェミサイドの増加は国際社会の恥辱だ。

国連都市の改修費は誰が払うのか

 アルプスの小国オーストリアは中立主義を国是とし、欧州ではスイスと共に北大西洋条約機構(NATO)に加盟していない国だ。同時に、首都ウィーン市のドナウ沿いには国連都市がある。イランや北朝鮮の核開発問題でメディアに頻繁に登場する国際原子力機関(IAEA)の他、国連薬物犯罪事務局(UNODC)、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会、国連工業開発機関(UNIDO)、国際麻薬統制委員会(INCB)、国際連合宇宙局(UNOOSA)などの国連専門機関が入っている。ウィーン子は国連シティと呼んでいる。

848dd449-s
▲ウィ―ン国連都市の正面入口(2013年4月撮影)

 国連都市は、ウィーン市が土地を提供し、1973年から1979年にかけ、オーストリアの建築家ヨハン・シュターバーの設計に基づいてドナウ川沿いに建設された。建物はA、B、C、D、E、F、Gビルがあり、会議所として後日、新たにMビルが建てられた。IAEAはAビルとBビル、UNIDOはDビル、CTBTOはEビルといった具合に機関によってビルが異なる。IAEAやUNIDOの理事会が行われる時はCビルで通常開催されるが、年次総会などは多数の参加者が集まるのでMビルで開かれる。

 ところで、国連都市は建築された当時は非常にモダンな建物で目を引いたが、建設から45年以上を経て、改修が必要となってきた。問題は、その改修費を誰が払うかでホスト国オーストリア、ウィーン市と国連機関の間で協議を重ねているが、いまだ合意できずにいる。

 ニューヨークの国連本部やジュネーブの欧州本部とは異なり、ウィ―ンの国連都市(ウィーン国連センター=VIC)の建物はオーストリアの所有だ。その建設費用は当時、オーストリアとウイーン市が負担。そして同都市に誘致された国連機関は年間、28セントという象徴的な賃料を払うことになっている。問題はメインテナンス代だ。国連の高層ビルが後日、建築基準や消防基準を満たしていない点も発見されて、緊急に対策が必要となってきたのだ。

 オーストリア国営放送(ORF)のフーベルト・キキンガ―記者によると「必要な改修工事については、国連機関とオーストリアが50:50で分担することで合意してきたが、その費用の上限は年間総額600万ユーロに制限されている。それを超過する場合、誰が支払うかが問題となる」という。国連側も経費節約モードだから、予算以外の費用を工面することは容易ではない。ちなみに、未払いの改修費用の総額は約3億3000万ユーロになる。

 例えば、現行の配管では、緊急時に消防車が建物の1階から上階へ消火用水を直接ポンプで送ることができないから、緊急に対応しなければならない。防火対策だけではない。オフィス、会議室、平屋根、そして暖房・空調システムの改修なども控えている、といった具合だ。

 国連の場合、緊急に特別資金が必要となった場合、経済力のある加盟国が通常予算の枠外で資金を提供するケースがある。国連(加盟国193カ国)で最大の分担金を担っているのは米国で、通常予算への分担金率は22%だ。ただし、トランプ米大統領がホワイトハウス入りして以来、国連を「米国民の税金を浪費するだけで成果のない機関」と受け取られ、米国は国連に対して距離を置いてきている。米国から援助はもはや期待できないだろう。可能性があるとすれば、2019年に日本を抜いて国連の第2の分担国となった中国や、サウジアラビアなどの一部の裕福なアラブ諸国からの支援だ。

 いずれにしても、イランの核問題やウクライナ戦争で国連の紛争解決能力のなさが明らかになった今日、国連機関に多くの資金を提供する加盟国は少ない。ウィーンの国連都市も建物の改修が必要だが、その前に、国連全体が世界の平和実現に貢献できるため機関となるために改革が求められているのが現状だ。

イラン「アフガン人難民を大量追放」

 国際移住機関(IOM)は先月30日、「イランから帰還するアフガニスタン人不法移民の数が前例のないほど急増している」と警鐘を鳴らした。それによると、6月だけで25万6000人以上が母国に送還されている。この記録的な移動により、国境の対応は限界に達している。また、深刻な資金不足により、IOMとパートナー団体の支援活動が阻まれている。
 IOMによると、今年初め以降,約71万5000人のアフガン人がイランを出国した。一方、パキスタン政府は4月に強制送還のキャンペーンを開始して以来、20万人以上のアフガン人を出国させている。

pope-1
▲IOMのエイミー・ポープ事務局長、IOM公式サイトから

 IOMのエイミー・ポープ事務局長は先月30日、「パキスタンからの帰還急増に続いて、イラン政府が居住許可のないアフガニスタン人の出国期限を設定したことを受け、帰還者数は増加した。イランからの帰還者が余りにも多いため、既に脆弱な支援体制に計り知れない負担をかけている」と述べ、「人々は着の身着のままで到着し、疲弊し、食料、医療、そして支援を緊急に必要としている。より強力かつ迅速な国際社会の対応が必要だ。アフガニスタン政府だけではこれに対処することはできない」と警告を発した。

 IOMによると、イラン政府は3月20日までに不法滞在のアフガニスタン人全員の国外退去を義務付けた。それを受け、帰還者数は4月に増加し始め、5月まで続き、6月にピークに達した。6月25日だけで、1日で2万8000人以上がアフガニスタンに帰還したという。

 ちなみに、IOMは、2025年1月1日から6月29日までの間にイランから帰還したアフガニスタン人移民を合計71万4572人と記録している。このうち99%は不法滞在者であり、70%は強制送還されたものだ。懸念が高まっているのは、家族連れの強制送還が増加していることだ。帰還者の大半が独身の若い男性だった以前の数ヶ月とは状況が一変しているのだ。

 IOMは6月3日、イランから強制送還されるアフガニスタン人家族の増加について懸念を表明した。5月には1万5675件が記録され、前月の2倍以上に上った。イラン当局は、不法滞在のアフガニスタン人に対し、7月6日までに国外退去を求めている。イラン内務省のナデル・ヤラフマディ氏は国営テレビで、イラン国内に600万人以上いるとされるアフガニスタン人のうち、約400万人が影響を受けると述べた。

 一方、パキスタン政府は4月に強制送還のキャンペーンを開始して以来、20万人以上のアフガン人を出国させた。パキスタンは、居住許可を取り消された80万人以上のアフガニスタン人を追放するための強力なキャンペーンを開始した。これらのアフガニスタン人の中には、パキスタンで生まれた人や数十年にわたってパキスタンに住んでいる人もいる。内務省によると、4月には13万5000人以上、5月には約6万7000人がパキスタンを出国し、6月最初の2日間で3000人以上が帰国した。

 過去数十年にわたり、数百万人のアフガニスタン人が相次ぐ戦争から逃れ、パキスタンに流入した。加えて、2021年にタリバン政権が政権に復帰した後には、数十万人がパキスタンに流入した。2023年にはアフガニスタン人追放運動が始まり、数週間のうちに数十万人が嫌がらせや逮捕を恐れて国境を越えた。パキスタンを出国したアフガニスタン人は合計で100万人を超えたといわれている。

 治安と経済問題が悪化する中、多くのパキスタン人はアフガニスタン人の受け入れにうんざりしていることもあって、国外追放キャンペーンは幅広い支持を得ている。パキスタンは現在、国連難民高等弁務官事務所が6月末に発行した難民カードを所持する130万人のアフガニスタン人に対する保護を撤回すると警告している。

 IOMは「両国境を越えた流入は、アフガニスタンの既に脆弱な受け入れ・社会復帰システムを圧倒する恐れがある」と指摘し、「帰還は安全で、尊厳を保ち、自発的であり、受け入れコミュニティが管理可能なものでなければならない」と強調し、全ての国に対し、アフガニスタン人の移民資格に関わらず、安全で自発的かつ尊厳のある帰還条件が整うまで、アフガニスタン人の強制送還を即時停止するようにと改めて求めている。

 ちなみに、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンの暫定政権は国外脱出者に「恩赦」を与えるとして、帰還を求めているが、多くのアフガン人はタリバン政権を恐れ、帰国を渋っている。

「国連憲章」調印80周年を迎えて

 国連憲章は1945年6月26日にサン・フランシスコ市において調印され、1945年10月24日に発効した。国連憲章は19章、全111条から構成され、過去、3度改正された。国連広報センターの公式サイトは国連憲章80周年を迎え、その目的などを説明している。

p_image_5
▲国連憲章、国連広報センターから

「1945年6月26日は、50カ国が国連憲章に署名し、平和、安全、そして人権の促進を目的とする組織が設立された日だ。すべての個人の尊厳を強調するこの憲章は、戦争の予防、社会の進歩の促進、そして国際法の遵守を目的としている。以来、国連は193カ国を加盟国とするまでに成長し、世界で重要な役割を果たしてきた。憲章発効80周年は、その意義と、共通の利益のために協力するという各国の決意を改めて認識させる」。

 国連憲章の前文には、「われら連合国の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進する・・これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した」と記されている。以上、国連広報サイトから引用した。

 国連が過去80年間、「第2次世界大戦後の各国の復興を支援し、旧植民地の独立を支援し、平和を促進し、援助を提供し、人権と開発を推進し、気候変動といった新たな脅威に取り組んできた」ことは事実であり、国連の貢献は決して小さくない。

 その一方、アントニオ・グテーレス事務総長は「国連憲章の原則はますます脅威にさらされている。国連憲章は選択できるものではなく、アラカルトメニューではない。それは国際関係の基盤だ」と述べ、「平和、正義、進歩、そして我々人民のための」という憲章の約束を改めて果たす必要性を強調している。国連存続への危機感の表れだ。経済社会理事会(ECOSOC)のボブ・レイ議長は「国連は政府ではなく、憲章も完璧ではないが、偉大な志と希望をもって創設された」と擁護している。

 80年前に誕生した国連憲章は「第2次世界大戦後の混乱の中、大恐慌とホロコーストの傷跡を負い、国際連盟崩壊の痛ましい教訓を学んだ世代によって制定されたもので、新たな世界的協定を象徴する」が、21世紀を迎え、その改革が急務となってきている。

 グテーレス事務総長は「国連憲章は単なる羊皮紙とインクの文書ではない。それは、諸国間の平和、尊厳、そして協力という約束だ。憲章は始まりに過ぎず、世界が日々実践しようと努める理念と原則を定めたものだ」と強調し、国連憲章の死文化に警告を発している。

 世界中で戦争や危機が発生している。ロシア軍が2022年2月、ウクライナに侵攻し、これまで数万人の犠牲者、負傷者が出ている。イスラム過激派テロ組織「ハマス」のイスラエルでの奇襲テロを契機に、イスラエルとハマス、そしてイランとの戦争が起きたが、国連は戦争・紛争の解決にほとんど関与できず、蚊帳の外にいる。国連への信頼度は地に落ちてしまった。

 ところで、欧州連合(EU)で新規加盟国を求めた拡大政策が叫ばれた時、一人の政治家が「加盟国は増えればそれだけ、その組織の行動力、結束力は弱まる」と述べていた。国連は80年前の国連発足当時は50カ国に過ぎなかったが、現在193か国の加盟国だ。193カ国の加盟国を抱える国連は193の異なる国益外交の衝突の場となってしまっている。

 その一方、世界最強国・米国の国連離れが進む一方、国連内での中国の影響力が急速に拡大している。中国共産党政権は国連専門機関のトップポストを掌握するなど、その影響力は国連最上層部までに及ぶ。例えば、グテーレス氏は中国のウイグル民族に対する中国共産党政権の弾圧政策を厳しく批判したことがあったか。法輪功信者への強制臓器摘出問題に対して北京を追及したことがあったか。大国間の利害調整は重要だが、中国の人権蹂躙問題に対する事務総長のスタンスは過去、揺れてきた。

 国連改革と言えば、安全保障理事会の改革を意味することが多い。ロシアと中国の2カ国と米英仏の3カ国の常任理事国が対立している現時点では、世界の紛争は解決できない。対立を調停し、妥協可能な解決策を見出すためには、安保理改革だけではない。国益を超えた明確な理念を提示する必要がある。共生、共栄、共義の世界実現の為の理念だ。そこで共通の価値観を有する新しい国際機関の創設という案が飛び出すわけだ。

 当方は4年前、このコラム欄で「直径最大200ナノメートル(nm)の新型コロナウイルスは今日、民族、国境、大陸を超え、世界全土でその猛威を振るっている。一方、われわれ人類は民族、国境、大陸の壁を超えることが出来ず、戦い、苦悩してきた。このままの状況が続くならば、人類はウイルスよりも劣る存在となってしまう。民族、国境、そして宗教の壁という‘地の重力‘から自らを解放しなければならない」と書いた。国連改革の前に、人類は飛躍しなければならないのだ。

人は誰でも「幸福」を求めている

 20日は「世界幸福デー」だった。それに合わせて慣例の国連「年次世界幸福度報告書」(調査期間2021年〜23年、143カ国を対象)が発表されたが、それによるとフィンランドが7年連続、世界で最も幸福な国に選ばれた。2位はデンマーク、3位アイスランド、4位スウェーデンと北欧4カ国が上位を独占した。同時に、調査を担当した学者たちによると、幸福度の国のランクでは多少の変化が見られたが、世界の幸福度の不平等は過去12年間で全ての地域と年齢層で20%以上増加した。

IMG-20240318-WA0017
▲ウィーン市の世田谷公園の3月の風景(2024年3月16日、撮影)

 「世界幸福デー」は2012年、南アジアの小国ブータンが提案したもので、国連総会で採択された。この日は、世界中の幸福と福祉の重要性に焦点を当てることを目的としている。なぜならば、グロバールな世界でどの国、民族、社会でも人は誰でも幸せを求めているという認識に基づくからだ。その意味で、経済力、軍事力の国別比較とは違い、国民の幸福度に焦点を合わせたものだ。

 人は幸せを求めるが、具体的には、人間として衣食住が保障されることが最優先となる。家族があるなら、家族が安心して住み、食事、衣服などの基本的欲求が満たされるならば、その人、家庭、社会は幸せを感じる。ただし、心理学でいう「要求水準」は人、国、経済、社会・文化などの分野でそれぞれ異なってくる。

 衣食住が保障されていない社会や国に生きる人間はそれが少しでも満たされれば、その人の幸福度は高まる。一方、衣食住は当然で、無数の消費財に囲まれた生活をしている先進諸国の国民は家族で一緒に旅行したい、環境のいい郊外に住みたい、家や車が欲しい等々、さらなる欲求が満たされない場合、その人、家族は幸せを感じないというケースも出てくる。

 フィンランドが7年連続世界で最も幸福な国に選ばれたが、フィンランドの冬は厳しいし、衣食住を含む全ての分野で他の国よりそう幸せかというと、そうとも言えないのではないか。確かな点は、フィンランド人はどの国の国民より、現在の環境、衣食住、政治システムに満足しているといえるのではないか。最高の衣食住の環境にあっても、その人の要求水準が高く、それに満足できない場合、その人は幸せだとはいえないからだ。

 西側諸国では過去、若者が最も満足しており、主観的幸福度は成人初期に減少し、中年以降に再び大幅に増加するというものだったが、今回発表された報告書は、この「U字カーブ」が当てはまらず、場合によっては若者の幸福度が低下していることを示しているというのだ。

 北米では初めて15歳から24歳が上の世代よりも幸福度が高く評価されなかった。西欧でも同様の傾向が見られるという。「若者がミッドライフ・クライシス(中年の危機)のような状況を経験している」という専門家の意見も聞かれるほどだ。

 報告書はその原因については述べていないが、ソーシャルメディア利用の増加、所得格差、住宅危機、戦争や気候変動への懸念が若者の幸福度に影響を与えている可能性が懸念されている。未来に対する不安がソーシャルネットワークで増幅され、若者が希望を失っていくというサイクルだ。幼少期の幸福と精神的健康が、大人になってからの人生の満足度を決定する要因となるといわれるだけに、幼少期を含む若い世代の幸福度の減少は大きな社会問題だ。

 欧州の経済大国ドイツの場合を考えてみたい。ドイツのランクは前回16位から24位に後退した。ドイツは世界第3位の経済大国だが、国民経済は現在リセッション(景気後退)でエネルギー代、住居費、消費物価は高騰し、国民の懐はけっして豊かではなくなった。鉄道、航空会社、農業関係者など様々な産業分野で賃金アップ、労働条件の改善を訴えるデモが起きている。要するに、ドイツを取り巻く経済、社会、そして政治環境は不安定となり、国民は生活をエンジョイできる環境にあるとは決して言えない。ドイツでは若者の満足度が47位と低い。

 ただし、平均的ドイツ人の生活は他の地域の国民より数段恵まれていることも事実だ。ドイツの給料が自国のそれより高いのでドイツで職を探すオーストリア人も少なくない。国民経済は厳しくなったが、夏の休暇には必ず家族連れで旅行に出かける。生活水準自体は高い。ただ、そこに住む国民の満足度が低下しているのだ。同じように、米国は世界最大の経済国だが、そこに住む米国民の幸福度は15位から23位に後退している。衣食住を含む経済状況は人の幸福度とは必ず一致しているわけではないわけだ。

 実際、毎年、中東・北アフリカ・アジアから多数の移民・難民がドイツを目指してくる。メキシコを含む南米からは米国に不法入国しようとする難民が多い。彼らから見たならば、米国やドイツは豊かな国であり、それを共有したいと願うわけだ。

 幸福度は結局はそこに住む国民の満足度と関連してくるが、同時に、人間の基本的欲求が満たされている場合、という前提条件付きだ。「女性の権利」という基本的人権すら遵守されていないアフガニスタンが世界で最も不幸な国、幸福度最下位であるのは当然の結果といえる。参考までに、日本は51位、韓国は52位、中国は60位だった。

核を巡る世界情勢は大きく変わった

 大量破壊兵器、核兵器を巡る世界情勢は益々厳しくなってきた。ロシアのプーチン大統領はウクライナ戦争で核兵器の使用を何度も示唆し、ならず者国家の北朝鮮やイランは核兵器を製造し、世界の核保有国入りを目指している。ロシアは核兵器の宇宙空間配置すらちらつかせ、世界を威嚇している。ウクライナ戦争に対峙している欧州諸国では核の独自の抑止力の構築を求める声が飛び出してきた。

100639169
▲国連安全保障理事会は議長国・日本の主催で「核軍縮・不拡散」をテーマに閣僚級の公開会合開催(2024年3月18日、日本外務省公式サイトから)

 そのような状況下で18日、国連安全保障理事会は議長国・日本の主催で「核軍縮・不拡散」をテーマに閣僚級の公開会合を開いた。議長の上川陽子外相は、「兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始機運を高めるため、フレンズ(友好国)グループを立ち上げる」と発表した。FMCTは、核兵器用の高濃縮ウランやプルトニウムなどの生産を禁止する条約だ。

 同会合にウィーンから包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)のロバート・フロイド準備委員会事務局長が参加し、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効を改めてアピールした。ジュネーブの軍縮閣議でCTBTが採択され、1996年9月の国連総会で核物質の爆発を禁止する条約の署名、批准が始められたが、条約発効に必要な要件(条約第14条=核開発能力所有国の44カ国の署名・批准)を満たしていないため、条約は28年経っても依然発効していない。ただし、米英仏ロ中の5カ国は核実験のモラトリアム(一時停止)を遵守してきた。

 フロイド事務局長は第2次世界大戦中に原爆が投下された地球上に2カ所のうちの1カ所、広島を訪問して感じたことを報告してから演説を始め、核兵器の破棄という問題を「この世界で最も困難な課題」と指摘、「今日の不確実な地政学的状況は3年前よりさらに複雑となってきた」と述べた。

 「1945年から1996年の間、CTBTが署名されるまでに2000回以上の核実験が行われた。そのほとんどは広島を破壊した爆弾よりも遥かに大きい。広島の爆弾の爆発はTNTで1万5000トン相当だ。今までにテストされた最大の爆弾はTNT5000万トンだ。全ての力が破壊するために使われた」

 (現在、世界9カ国が核兵器保有国と受け取られている。米ロ英仏中の国連安保常任理事国の5カ国、それにインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮だ。次期核保有国候補国としてイランが挙げられている)。

 その後、1996年にCTBTが合意され、核実験の包括的禁止に向かって世界は動き出した。337カ所の監視施設からなるグローバルネットワークは地球上のどこででも核爆発を監視する。地震活動を監視し、海洋の音波、大気中の音波、空気中の放射性粒子を検出し、そのデータをウィーンのCTBTOに送信する。データはすべてのCTBT加盟国が共有する。

 しかし、核兵器を取り巻く状況は2021年以来、変わってきた。フロイド事務局長は、「新しい戦争と紛争によって引き起こされた不安と不確実性が高まってきた。核兵器が再び公衆の意識に戻ってきた。オスカー賞受賞のオッペンハイマー映画のおかげではない。1つの国が非常に懸念すべきレベルの高濃縮ウランを蓄積しているとの報告がある。いくつかの国の旧核実験場での活動の増加に関する報告が届いている。いくつかの国が核兵器の使用を検討している可能性がある」と指摘した。

 (オーストラリア外交官出身のフロイド事務局長は国名を挙げなかったが、イランは核兵器用の濃縮ウランの生産に邁進し、ロシアと中国は旧核実験場での活動を活発化し、ロシアはCTBTから脱退し、北朝鮮は核兵器の増強に余念がない)。

 同事務局長は、「不確実な時代には、より多くの確実性が最良の対応だ。CTBTの検証システムは、地球上のどこででも核爆発を検出できる。透明性をさらに高めるためのツール、確実性を提供するためのツール、信頼を築くためのツール、秘密裏にテストを行っているとの疑念や主張を晴らすためのツールを有している」と強調、�々餾欖道襯轡好謄燹文什滷坑亜鶸粟�)��協議と明確化、��信頼構築メカニズム、�じ獣郎沙,亮孫圓裡甘世魑鵑欧討い襦�

 フロイド事務局長は最後に、「2021年以降、世界は変わったが、CTBTが発効すれば、世界はもっと確実性と信頼が生まれ、共有された政治的指導があれば、私たちは2度と核兵器による無差別な破壊を見ることがなくなるだろう」と強調した。

 CTBTOから配信されたフロイド事務局長のスピーチテキストを読んでいると、「悔い改めよ、天国は近づいた」と砂漠で叫び続けた洗礼ヨハネの姿を彷彿させる。事務局長には申し訳ないが、世界の流れはここにきて核兵器の価値の見直し、その核の抑止力の強化といった方向に傾斜してきている。第2次冷戦時代の到来だ。

 例えば、北朝鮮は核兵器を自国存続の保証と考えているから、核カードを放棄することは絶対にない。朝鮮半島の非核化は金正恩総書記体制が続く限り、考えられない。金正恩総書記は、核開発計画を放棄した直後、権力の座から追放されたリビアのカダフィー大佐の二の舞を踏まないからだ。

 参考までに、核開発計画放棄表明後(2003年)、リビアが欧米諸国の支援を受けて国民経済を発展させ、繁栄していったならば、核兵器を模索している国も“リビアに続け”ということになっていたかもしれない。時代の針を元に戻せないが、リビアのカダフィー政権の崩壊は世界の非核化プロセスからいえば、大きな後退となった。その後、“第2のリビア”は出現していない。

イスラエルの批判は国連機関に向かう

 イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激テロ組織ハマスの間で停戦交渉、人質解放が行われている。イスラム教の5行の一つ、ラマダン(断食の月)が今月10日から始まるが、その前に停戦が実現できるかは流動的だ。

news_article_134748_46252_1709587296
▲国連総会で支援の継続を訴えるUNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長(2024年03月04日、ニューヨークで、UNRWA公式サイトから)

 そのような中で、イスラエル軍報道官は4日、ガザで活動する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に「テロ組織の戦闘員450人以上が雇用されていた」と明らかにした。報道官は、「人道目的であるはずの国際社会の寄付金が大量殺人者の資金源となっていた」(カイロ発時事電)と厳しく批判している。同時期、ニューヨークからは国連のパッテン事務総長特別代表(紛争下の性暴力担当)がハマスのイスラエル奇襲テロの際、「ハマスによる性的暴力が起きていたことを実証する根拠が発見された」という趣旨の報告書を公表した。すなわち、UNRWA職員のハマスやイスラム聖戦のメンバーが性暴力を行っていた、というショッキングな内容だ。

 上記の2件のニュースは一見、偶然に同じ日に公表されたように感じるかもしれないが、国際社会からのイスラエル批判の声が高まってきたことを受け、イスラエル側の情報攻勢ではないだろうか。そのターゲットは国連機関だ。ガザ北部で2月29日、支援物資を待っていた100人以上が死亡、多数が負傷した問題で、ガザの保健当局は、イスラエル軍の発砲で多数が犠牲になったと発表した。それを受け、国連は早速イスラエル軍の発砲を激しく批判している。そして国連安全保障理事会は2日、「深い懸念」を示し「イスラエルに対し、救援物資の迅速かつ安全な搬入を支持するよう要請する」とした報道機関向け声明を出したばかりだ。

 そのような事情を考慮すると、上記の2件の外電は明らかにイスラエル側の情報攻勢といえる。その内容はプロパガンダでもフェイク情報でもない。イスラエル軍とガザ区のハマスとの間の戦闘は、昨年10月7日のハマスの奇襲テロから端を発していることを改めて想起させる狙いがあるはずだ。イスラエル軍の軍事攻勢への批判がハマスの奇襲テロ(1200人以上のイスラエル人が虐殺された)へのそれより高まることは少なくとも公平とはいえない。

 イスラエル側が発表した「UNRWAに450人以上のハマス戦闘員が雇用されていた」という指摘は深刻だ。UNRWAは3万人以上の職員を抱え、そのうち1万3000人がガザで従事している。彼らの大部分はパレスチナ人であり、学校や医療機関での難民支援に従事している。問題は、学校でUNRWA職員のパレスチナ人教師が子供たちに反イスラエル、反ユダヤ民族の教育をしていることだ。学校はハマスの“戦闘員育成の予備機関”となっている。ネタニヤフ首相がガザ戦闘後の統治でUNRWAの解体を強く主張しているのは当然だろう。UNRWAがガザ区で第2、第3のハマスを養成している限り、イスラエルとハマスの戦いは終わらないからだ。

 イスラエル外務省は4日、ハマスの奇襲テロでの性的虐待問題を扱った今回の報告書を軽視するような姿勢を取っているアントニオ・グテーレス事務総長に対して激怒し、イスラエルのカッツ外相は在国連イスラエルのギラド・エルダン大使を「直ちに協議するため帰国するように」と指示している。理由は「10月7日にハマスとその同盟者が犯した大量強姦に関する情報を国連側は隠蔽しようとしている」というものだ。

 専門機関を含む国連機関は戦後、世界の平和実現、紛争防止を目標として創設され、世界各地で働いてきた。平和実現や紛争解決に成果があったこともあるが、国連は加盟国の外交舞台という事実に大きな変わりはない。その外交は国益重視を第一目標としている。そのような加盟国が寄せ集まったのが国連だ。だから、公平な判断や議論が難しいケースが出てくる。ウクライナ戦争でも安保理常任理事国にロシアや中国が入っている限り、ウクライナ問題で国際社会のコンセンサスを打ち出すことはできない。同じことがイスラエルとハマス間の戦闘でも言えることだ。

 例えば、開発途上国の工業、経済の発展を支援する国連工業開発機関(UNIDO)は現在、中国が自国の利益のために完全に支配している。コンサルタントと呼ばれる中国職員がUNIDOに溢れている。彼らの一部は情報員だ。

 UNIDOの李勇前事務局長は在任時期、2018年4月の中国メディアとのインタビューの中で、「UNIDOは中国共産党と連携し、習近平主席が提唱した『一帯一路』関連のプロジェクトを推進させてきた」と述べ、本音を堂々と表明していた。李事務局長が2期の任期を終えると、ドイツのゲルト・ミュラー氏が2021年12月に就任したが、中国は新事務局長を北京に招き大歓迎したばかりだ。ミュラー氏自身もUNIDO最大の分担金拠出国の中国の言いなりになっている。(UNIDO第2の分担金を担う)日本を含む加盟国の資金が中国に利用されているのだ。

 ハマスはこれまでパレスチナ人職員が運営するUNRWAに集まるパレスチナ人救援資金をテロ資金に利用してきた。救援資金を統治し、管理すべき責任があるUNRWAは他の国連専門機関と同様、ハマスにその統治権、管理権を奪われてしまっていたのだ。

UNRWAの解体と人道支援の行方

 パレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織ハマスが昨年10月7日、イスラエルを奇襲襲撃し、キブツなどで1200人余りのイスラエル人を殺害したテロ事件に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員の少なくとも12人が直接関与していたことが判明、UNRWAに支援金を拠出してきた米国、ドイツ、日本などが次々と支援金を一時停止した。

news_article_134576_46139_1706118203
▲パレスチナ避難民の子供たち(2023年、UNRWA公式サイトから)

 国連グテーレス事務総長は支援金提供国に対して、「パレスチナ人の人道支援が途絶えれば、多くの犠牲が出てくる」として支援金停止撤回を求めている。UNRWAによると、欧米諸国からの支援金が途絶えた場合、2月末までに人道支援活動は停止に追い込まれてしまうという。

 UNRWAはガザ区に約1万3000人の職員を抱えているが、その大部分がパレスチナ人だ。そしてパレスチナ人職員の10%以上がハマスやイスラム聖戦と関係がある。イスラエルのネタニヤフ首相は「ガザ戦争が終われば、UNRWAは解体だ」という。

 UNRWAは1948年のイスラエル建国とその後の第1次アラブ・イスラエル戦争により難民として登録されたパレスチナ人とその子孫を支援してきた。国連の統計によると、ガザ地区の住民240万人のうち約170万人が難民として登録されている。彼らの多くは難民キャンプで暮らしている。

 ところで、イスラエル側のUNRWA解体論にはそれなりの理由はある。ハマスはガザ区でパレスチナ人に対して食糧や医療の提供のほか、学校教育まで支援してきたが、ガザ区の学校教育ではイスラム教徒のテロは美化され、イスラエルを悪者にする憎悪に満ちたコンテンツをカリキュラムとしている。すなわち、米国やドイツ、日本からの支援金でガザ区でテロ組織ハマスの予備軍が育てられているわけだ。UNRWAの職員がハマスのテロ奇襲に関与していたことが判明し、イスラエル側のUNRWA解体要求はもはや譲歩の余地がないわけだ。

 一方、国連側や人権擁護団体はUNRWAの職員がテロに関与していたという事実より、困窮下にあるパレスチナ人に食糧や医療品などを支援してきたUNRWAの職員がいなくなれば、パレスチナ人は生存できなくなるといった危機感のほうが強い。眼前で苦しむパレスチナ人の姿、負傷して苦しむ子供たちの姿を目撃すれば、欧米のメディアを含む多くの人権団体がイスラエル軍の軍事活動に対して批判的になるのは理解できる。

 中東専門家のベンテ・シェラー氏はオーストリア国営放送とのインタビューの中で、「UNRWA以外に現時点で迅速に救援活動ができる組織はない。特にイスラエル軍との戦闘の最中ではなおさらだ。戦前でさえ、ガザの人口の大部分は援助団体からの物資に依存してきた」という。また、UNRWAへの支援金が途絶えれば、ヨルダンやレバノンの不安定化をもたらす危険が出てくると警告する。

 要するに、UNRWAを解体すべきか、新しい支援体制を敷いて活動を継続するか、まったく新しい組織を設置するかなど、さまざまなシナリオが考えられるが、ガザ区のパレスチナ人の状況はそれらの政治的なやり取りが決着するまで待つことが出来ない。今日をどうするか、明日はどうなるか、といった切羽詰まった問題だからだ。

 難民救済を目的とした国連機関は現在、2つある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)だ。イスラエルが1948年に建国された際、70万人のパレスチナ難民の救済を目的としてUNRWAが創設された。パレスチナ難民は世界の難民の中でも一種の特権的な位置にあって、国連を含む世界から支援金を受けている。

 参考までに、1948年の国連総会決議194の第11条には、「パレスチナ難民の故郷への帰還の権利」が明記されている。一方、イスラエルはパレスチナ難民の帰還の権利を拒否している。しかし、1949年に創設されたUNRWAはウェブサイトで、「UNHCRとは異なり、出身国への帰還を含む難民に対する永続的な解決策を模索する」と述べている。イスラエルがUNRWAに対し批判的なのは、UNRWAがパレスチナ難民の帰還の権利を認めているからだともいえる。

 以下は当方の考えだ。

 UNHCRが一時的にパレスチナ人の難民救援に関与し、UNRWAをUNHCRの管轄下に置き、その活動を管理、実施する。世界からのパレスチナ難民支援金を受けてきたパレスチナ自治区は強く反対するだろうが、ガザ地区の状況が落ち着くまで、パレスチナ人への人道支援を継続し、イスラエル側の理解を得るためには難民問題の専門機関であり、中立的な立場のUNHCRがUNRWAの職員管理、その支援内容の指導などを担当する、というのはどうだろうか。

ハマスのテロ襲撃に加わった国連職員

 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員の一部がパレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織ハマスのイスラエル奇襲テロ事件に関与していた疑いが浮上、欧米諸国の中から「疑惑が解明するまでUNRWAへの支払いを一時停止する」と表明する加盟国が続出してきたことはこのコラム欄でも速報してきた。

main68
▲カーン・ユニスからガザ地区南部ラファへの避難を強いられたパレスチナ家族(2024年1月22日 UNRWA公式サイトから、写真提供:アシュラフ・アムラ氏)

2088551_body_788818_unrwa_zahlungen_a_o
▲UNRWAへの2022年支援金供与国リスト(単位百万ドル)2024年01月30日、オーストリア国営放送ORF公式サイトから

 ここにきて昨年10月7日のハマスのイスラエル奇襲テロ事件にUNRWAの12人の職員がどのように関与してきたかが次第に明らかになり、欧米諸国では「UNRWAとテロ組織ハマスの繋がりは想像以上に深い」と驚きの声が出てきている。

 米紙ニューヨーク・タイムズ28日付によると、ハマスは境界網を破壊し、近くで開催していた音楽祭に来ていたイスラエル人らの若者たち、キブツに住むユダヤ人家族を奇襲襲撃し、イスラエル国内で約1200人が犠牲となり、ガザ区では約250人が人質となった。このテロ事件に、UNRWAの職員の1人は女性の拉致に加わり、別の職員はキブツでの奇襲テロに直接関与、他の職員は車両や武器をハマスのテロリストに手渡すなどしていたというのだ。ちなみに、テロ関与が疑われている12人の職員のうち、10人はハマスのメンバーだという。これらの情報が事実とすれば、その衝撃が如何に大きいかは想像に難くない。

 イスラエルが1948年に建国された際、70万人のパレスチナ人が難民となったが、彼らの救済目的で、1949年にパレスチナ難民の支援のために創設されたUNRWAはこれまでガザ地区、ヨルダン川西岸、ヨルダン、シリア、レバノンのパレスチナ人に人道支援を提供してきた。

 UNRWAには3万人以上の職員がおり、そのほとんどがパレスチナ人だ。UNRWAはガザ地区だけで約1万3000人を雇用している。そのほか、ヨルダンやレバノンなどでも事業を展開し、パレスチナ難民に教育や医療などの基本的なサービスを提供している。

 ガザ区のUNRWA職員のうち約10%はハマスやイスラム聖戦と関係があるという。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが諜報機関の報道を引用して報じた。諜報報告書の情報は、携帯電話のデータ、捕らえられたハマス戦闘員の尋問、殺害された戦闘員から回収された文書に基づいているから、その信頼性は高いという。米政府はこの情報文書について知らされていたという。

 これまで支援金の一時停止を決定した国は米国、ドイツ、フランス、カナダ、オーストラリア、英国、イタリア、スイス、フィンランド、オーストリアなどだ。日本もこれに加わった。UNRWA職員のハマスのテロ関与の事実が更に判明したならば、多くの加盟国が支援金の供与を停止する可能性が出てくる。事態の深刻さに衝撃を受けたグテーレス国連事務総長は31日、援助国の代表と会談し、UNRWAの活動継続とその支援を訴えるという。

 例えば、ドイツは2023年、UNRWAに2億ユーロ以上を支援するなど最大の支援国の一つだ。支援金はガザ区のパレスチナ人に水、食糧、衛生設備、医療品など基本的必要物質の資金調達に使用されてきた。ドイツ外務省は「UNRWAへの新たな資金は提供しないが、人道支援は今後とも継続する」という(ドイツ週刊紙ツァイト=オンライン版)。

 ブリンケン米国務長官は、「重要な点は事実の解明だ。UNRWAはパレスチナ人にとって必要不可欠の仕事に従事している機関だ」と述べている。一方、イスラエルのカッツ外相はラザリーニUNRWA事務局長の辞任を要求する一方、「ガザ地区の紛争後、UNRWAはもはや存続する余地がない」と考えている。

 参考までに、ハマスは「パレスチナ人を支援する国際機関に対するイスラエルの中傷作戦だ」と指摘し、「イスラエルはパレスチナ人のライフラインを全てカットしようとしている」と批判し、国連や他の国際機関に対して「イスラエルの脅迫に屈してはならない」と主張した。なお、西側諸国がUNRWAへの支援停止を続ければ、UNRWAの活動は2月末で停止に追い込まれることが予想される。

 ちなみに、日本政府は1953年以来、UNRWAを積極的に支援し、パレスチナ難民の教育、医療などを支援してきた。日本は2022年時点でUNRWAへの支援では6番目に多い拠出国だ。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ