ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

国連記者室

人は誰でも「幸福」を求めている

 20日は「世界幸福デー」だった。それに合わせて慣例の国連「年次世界幸福度報告書」(調査期間2021年〜23年、143カ国を対象)が発表されたが、それによるとフィンランドが7年連続、世界で最も幸福な国に選ばれた。2位はデンマーク、3位アイスランド、4位スウェーデンと北欧4カ国が上位を独占した。同時に、調査を担当した学者たちによると、幸福度の国のランクでは多少の変化が見られたが、世界の幸福度の不平等は過去12年間で全ての地域と年齢層で20%以上増加した。

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▲ウィーン市の世田谷公園の3月の風景(2024年3月16日、撮影)

 「世界幸福デー」は2012年、南アジアの小国ブータンが提案したもので、国連総会で採択された。この日は、世界中の幸福と福祉の重要性に焦点を当てることを目的としている。なぜならば、グロバールな世界でどの国、民族、社会でも人は誰でも幸せを求めているという認識に基づくからだ。その意味で、経済力、軍事力の国別比較とは違い、国民の幸福度に焦点を合わせたものだ。

 人は幸せを求めるが、具体的には、人間として衣食住が保障されることが最優先となる。家族があるなら、家族が安心して住み、食事、衣服などの基本的欲求が満たされるならば、その人、家庭、社会は幸せを感じる。ただし、心理学でいう「要求水準」は人、国、経済、社会・文化などの分野でそれぞれ異なってくる。

 衣食住が保障されていない社会や国に生きる人間はそれが少しでも満たされれば、その人の幸福度は高まる。一方、衣食住は当然で、無数の消費財に囲まれた生活をしている先進諸国の国民は家族で一緒に旅行したい、環境のいい郊外に住みたい、家や車が欲しい等々、さらなる欲求が満たされない場合、その人、家族は幸せを感じないというケースも出てくる。

 フィンランドが7年連続世界で最も幸福な国に選ばれたが、フィンランドの冬は厳しいし、衣食住を含む全ての分野で他の国よりそう幸せかというと、そうとも言えないのではないか。確かな点は、フィンランド人はどの国の国民より、現在の環境、衣食住、政治システムに満足しているといえるのではないか。最高の衣食住の環境にあっても、その人の要求水準が高く、それに満足できない場合、その人は幸せだとはいえないからだ。

 西側諸国では過去、若者が最も満足しており、主観的幸福度は成人初期に減少し、中年以降に再び大幅に増加するというものだったが、今回発表された報告書は、この「U字カーブ」が当てはまらず、場合によっては若者の幸福度が低下していることを示しているというのだ。

 北米では初めて15歳から24歳が上の世代よりも幸福度が高く評価されなかった。西欧でも同様の傾向が見られるという。「若者がミッドライフ・クライシス(中年の危機)のような状況を経験している」という専門家の意見も聞かれるほどだ。

 報告書はその原因については述べていないが、ソーシャルメディア利用の増加、所得格差、住宅危機、戦争や気候変動への懸念が若者の幸福度に影響を与えている可能性が懸念されている。未来に対する不安がソーシャルネットワークで増幅され、若者が希望を失っていくというサイクルだ。幼少期の幸福と精神的健康が、大人になってからの人生の満足度を決定する要因となるといわれるだけに、幼少期を含む若い世代の幸福度の減少は大きな社会問題だ。

 欧州の経済大国ドイツの場合を考えてみたい。ドイツのランクは前回16位から24位に後退した。ドイツは世界第3位の経済大国だが、国民経済は現在リセッション(景気後退)でエネルギー代、住居費、消費物価は高騰し、国民の懐はけっして豊かではなくなった。鉄道、航空会社、農業関係者など様々な産業分野で賃金アップ、労働条件の改善を訴えるデモが起きている。要するに、ドイツを取り巻く経済、社会、そして政治環境は不安定となり、国民は生活をエンジョイできる環境にあるとは決して言えない。ドイツでは若者の満足度が47位と低い。

 ただし、平均的ドイツ人の生活は他の地域の国民より数段恵まれていることも事実だ。ドイツの給料が自国のそれより高いのでドイツで職を探すオーストリア人も少なくない。国民経済は厳しくなったが、夏の休暇には必ず家族連れで旅行に出かける。生活水準自体は高い。ただ、そこに住む国民の満足度が低下しているのだ。同じように、米国は世界最大の経済国だが、そこに住む米国民の幸福度は15位から23位に後退している。衣食住を含む経済状況は人の幸福度とは必ず一致しているわけではないわけだ。

 実際、毎年、中東・北アフリカ・アジアから多数の移民・難民がドイツを目指してくる。メキシコを含む南米からは米国に不法入国しようとする難民が多い。彼らから見たならば、米国やドイツは豊かな国であり、それを共有したいと願うわけだ。

 幸福度は結局はそこに住む国民の満足度と関連してくるが、同時に、人間の基本的欲求が満たされている場合、という前提条件付きだ。「女性の権利」という基本的人権すら遵守されていないアフガニスタンが世界で最も不幸な国、幸福度最下位であるのは当然の結果といえる。参考までに、日本は51位、韓国は52位、中国は60位だった。

核を巡る世界情勢は大きく変わった

 大量破壊兵器、核兵器を巡る世界情勢は益々厳しくなってきた。ロシアのプーチン大統領はウクライナ戦争で核兵器の使用を何度も示唆し、ならず者国家の北朝鮮やイランは核兵器を製造し、世界の核保有国入りを目指している。ロシアは核兵器の宇宙空間配置すらちらつかせ、世界を威嚇している。ウクライナ戦争に対峙している欧州諸国では核の独自の抑止力の構築を求める声が飛び出してきた。

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▲国連安全保障理事会は議長国・日本の主催で「核軍縮・不拡散」をテーマに閣僚級の公開会合開催(2024年3月18日、日本外務省公式サイトから)

 そのような状況下で18日、国連安全保障理事会は議長国・日本の主催で「核軍縮・不拡散」をテーマに閣僚級の公開会合を開いた。議長の上川陽子外相は、「兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始機運を高めるため、フレンズ(友好国)グループを立ち上げる」と発表した。FMCTは、核兵器用の高濃縮ウランやプルトニウムなどの生産を禁止する条約だ。

 同会合にウィーンから包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)のロバート・フロイド準備委員会事務局長が参加し、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効を改めてアピールした。ジュネーブの軍縮閣議でCTBTが採択され、1996年9月の国連総会で核物質の爆発を禁止する条約の署名、批准が始められたが、条約発効に必要な要件(条約第14条=核開発能力所有国の44カ国の署名・批准)を満たしていないため、条約は28年経っても依然発効していない。ただし、米英仏ロ中の5カ国は核実験のモラトリアム(一時停止)を遵守してきた。

 フロイド事務局長は第2次世界大戦中に原爆が投下された地球上に2カ所のうちの1カ所、広島を訪問して感じたことを報告してから演説を始め、核兵器の破棄という問題を「この世界で最も困難な課題」と指摘、「今日の不確実な地政学的状況は3年前よりさらに複雑となってきた」と述べた。

 「1945年から1996年の間、CTBTが署名されるまでに2000回以上の核実験が行われた。そのほとんどは広島を破壊した爆弾よりも遥かに大きい。広島の爆弾の爆発はTNTで1万5000トン相当だ。今までにテストされた最大の爆弾はTNT5000万トンだ。全ての力が破壊するために使われた」

 (現在、世界9カ国が核兵器保有国と受け取られている。米ロ英仏中の国連安保常任理事国の5カ国、それにインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮だ。次期核保有国候補国としてイランが挙げられている)。

 その後、1996年にCTBTが合意され、核実験の包括的禁止に向かって世界は動き出した。337カ所の監視施設からなるグローバルネットワークは地球上のどこででも核爆発を監視する。地震活動を監視し、海洋の音波、大気中の音波、空気中の放射性粒子を検出し、そのデータをウィーンのCTBTOに送信する。データはすべてのCTBT加盟国が共有する。

 しかし、核兵器を取り巻く状況は2021年以来、変わってきた。フロイド事務局長は、「新しい戦争と紛争によって引き起こされた不安と不確実性が高まってきた。核兵器が再び公衆の意識に戻ってきた。オスカー賞受賞のオッペンハイマー映画のおかげではない。1つの国が非常に懸念すべきレベルの高濃縮ウランを蓄積しているとの報告がある。いくつかの国の旧核実験場での活動の増加に関する報告が届いている。いくつかの国が核兵器の使用を検討している可能性がある」と指摘した。

 (オーストラリア外交官出身のフロイド事務局長は国名を挙げなかったが、イランは核兵器用の濃縮ウランの生産に邁進し、ロシアと中国は旧核実験場での活動を活発化し、ロシアはCTBTから脱退し、北朝鮮は核兵器の増強に余念がない)。

 同事務局長は、「不確実な時代には、より多くの確実性が最良の対応だ。CTBTの検証システムは、地球上のどこででも核爆発を検出できる。透明性をさらに高めるためのツール、確実性を提供するためのツール、信頼を築くためのツール、秘密裏にテストを行っているとの疑念や主張を晴らすためのツールを有している」と強調、々餾欖道襯轡好謄燹文什滷坑亜鶸粟)協議と明確化、信頼構築メカニズム、じ獣郎沙,亮孫圓裡甘世魑鵑欧討い襦

 フロイド事務局長は最後に、「2021年以降、世界は変わったが、CTBTが発効すれば、世界はもっと確実性と信頼が生まれ、共有された政治的指導があれば、私たちは2度と核兵器による無差別な破壊を見ることがなくなるだろう」と強調した。

 CTBTOから配信されたフロイド事務局長のスピーチテキストを読んでいると、「悔い改めよ、天国は近づいた」と砂漠で叫び続けた洗礼ヨハネの姿を彷彿させる。事務局長には申し訳ないが、世界の流れはここにきて核兵器の価値の見直し、その核の抑止力の強化といった方向に傾斜してきている。第2次冷戦時代の到来だ。

 例えば、北朝鮮は核兵器を自国存続の保証と考えているから、核カードを放棄することは絶対にない。朝鮮半島の非核化は金正恩総書記体制が続く限り、考えられない。金正恩総書記は、核開発計画を放棄した直後、権力の座から追放されたリビアのカダフィー大佐の二の舞を踏まないからだ。

 参考までに、核開発計画放棄表明後(2003年)、リビアが欧米諸国の支援を受けて国民経済を発展させ、繁栄していったならば、核兵器を模索している国も“リビアに続け”ということになっていたかもしれない。時代の針を元に戻せないが、リビアのカダフィー政権の崩壊は世界の非核化プロセスからいえば、大きな後退となった。その後、“第2のリビア”は出現していない。

イスラエルの批判は国連機関に向かう

 イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激テロ組織ハマスの間で停戦交渉、人質解放が行われている。イスラム教の5行の一つ、ラマダン(断食の月)が今月10日から始まるが、その前に停戦が実現できるかは流動的だ。

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▲国連総会で支援の継続を訴えるUNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長(2024年03月04日、ニューヨークで、UNRWA公式サイトから)

 そのような中で、イスラエル軍報道官は4日、ガザで活動する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に「テロ組織の戦闘員450人以上が雇用されていた」と明らかにした。報道官は、「人道目的であるはずの国際社会の寄付金が大量殺人者の資金源となっていた」(カイロ発時事電)と厳しく批判している。同時期、ニューヨークからは国連のパッテン事務総長特別代表(紛争下の性暴力担当)がハマスのイスラエル奇襲テロの際、「ハマスによる性的暴力が起きていたことを実証する根拠が発見された」という趣旨の報告書を公表した。すなわち、UNRWA職員のハマスやイスラム聖戦のメンバーが性暴力を行っていた、というショッキングな内容だ。

 上記の2件のニュースは一見、偶然に同じ日に公表されたように感じるかもしれないが、国際社会からのイスラエル批判の声が高まってきたことを受け、イスラエル側の情報攻勢ではないだろうか。そのターゲットは国連機関だ。ガザ北部で2月29日、支援物資を待っていた100人以上が死亡、多数が負傷した問題で、ガザの保健当局は、イスラエル軍の発砲で多数が犠牲になったと発表した。それを受け、国連は早速イスラエル軍の発砲を激しく批判している。そして国連安全保障理事会は2日、「深い懸念」を示し「イスラエルに対し、救援物資の迅速かつ安全な搬入を支持するよう要請する」とした報道機関向け声明を出したばかりだ。

 そのような事情を考慮すると、上記の2件の外電は明らかにイスラエル側の情報攻勢といえる。その内容はプロパガンダでもフェイク情報でもない。イスラエル軍とガザ区のハマスとの間の戦闘は、昨年10月7日のハマスの奇襲テロから端を発していることを改めて想起させる狙いがあるはずだ。イスラエル軍の軍事攻勢への批判がハマスの奇襲テロ(1200人以上のイスラエル人が虐殺された)へのそれより高まることは少なくとも公平とはいえない。

 イスラエル側が発表した「UNRWAに450人以上のハマス戦闘員が雇用されていた」という指摘は深刻だ。UNRWAは3万人以上の職員を抱え、そのうち1万3000人がガザで従事している。彼らの大部分はパレスチナ人であり、学校や医療機関での難民支援に従事している。問題は、学校でUNRWA職員のパレスチナ人教師が子供たちに反イスラエル、反ユダヤ民族の教育をしていることだ。学校はハマスの“戦闘員育成の予備機関”となっている。ネタニヤフ首相がガザ戦闘後の統治でUNRWAの解体を強く主張しているのは当然だろう。UNRWAがガザ区で第2、第3のハマスを養成している限り、イスラエルとハマスの戦いは終わらないからだ。

 イスラエル外務省は4日、ハマスの奇襲テロでの性的虐待問題を扱った今回の報告書を軽視するような姿勢を取っているアントニオ・グテーレス事務総長に対して激怒し、イスラエルのカッツ外相は在国連イスラエルのギラド・エルダン大使を「直ちに協議するため帰国するように」と指示している。理由は「10月7日にハマスとその同盟者が犯した大量強姦に関する情報を国連側は隠蔽しようとしている」というものだ。

 専門機関を含む国連機関は戦後、世界の平和実現、紛争防止を目標として創設され、世界各地で働いてきた。平和実現や紛争解決に成果があったこともあるが、国連は加盟国の外交舞台という事実に大きな変わりはない。その外交は国益重視を第一目標としている。そのような加盟国が寄せ集まったのが国連だ。だから、公平な判断や議論が難しいケースが出てくる。ウクライナ戦争でも安保理常任理事国にロシアや中国が入っている限り、ウクライナ問題で国際社会のコンセンサスを打ち出すことはできない。同じことがイスラエルとハマス間の戦闘でも言えることだ。

 例えば、開発途上国の工業、経済の発展を支援する国連工業開発機関(UNIDO)は現在、中国が自国の利益のために完全に支配している。コンサルタントと呼ばれる中国職員がUNIDOに溢れている。彼らの一部は情報員だ。

 UNIDOの李勇前事務局長は在任時期、2018年4月の中国メディアとのインタビューの中で、「UNIDOは中国共産党と連携し、習近平主席が提唱した『一帯一路』関連のプロジェクトを推進させてきた」と述べ、本音を堂々と表明していた。李事務局長が2期の任期を終えると、ドイツのゲルト・ミュラー氏が2021年12月に就任したが、中国は新事務局長を北京に招き大歓迎したばかりだ。ミュラー氏自身もUNIDO最大の分担金拠出国の中国の言いなりになっている。(UNIDO第2の分担金を担う)日本を含む加盟国の資金が中国に利用されているのだ。

 ハマスはこれまでパレスチナ人職員が運営するUNRWAに集まるパレスチナ人救援資金をテロ資金に利用してきた。救援資金を統治し、管理すべき責任があるUNRWAは他の国連専門機関と同様、ハマスにその統治権、管理権を奪われてしまっていたのだ。

UNRWAの解体と人道支援の行方

 パレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織ハマスが昨年10月7日、イスラエルを奇襲襲撃し、キブツなどで1200人余りのイスラエル人を殺害したテロ事件に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員の少なくとも12人が直接関与していたことが判明、UNRWAに支援金を拠出してきた米国、ドイツ、日本などが次々と支援金を一時停止した。

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▲パレスチナ避難民の子供たち(2023年、UNRWA公式サイトから)

 国連グテーレス事務総長は支援金提供国に対して、「パレスチナ人の人道支援が途絶えれば、多くの犠牲が出てくる」として支援金停止撤回を求めている。UNRWAによると、欧米諸国からの支援金が途絶えた場合、2月末までに人道支援活動は停止に追い込まれてしまうという。

 UNRWAはガザ区に約1万3000人の職員を抱えているが、その大部分がパレスチナ人だ。そしてパレスチナ人職員の10%以上がハマスやイスラム聖戦と関係がある。イスラエルのネタニヤフ首相は「ガザ戦争が終われば、UNRWAは解体だ」という。

 UNRWAは1948年のイスラエル建国とその後の第1次アラブ・イスラエル戦争により難民として登録されたパレスチナ人とその子孫を支援してきた。国連の統計によると、ガザ地区の住民240万人のうち約170万人が難民として登録されている。彼らの多くは難民キャンプで暮らしている。

 ところで、イスラエル側のUNRWA解体論にはそれなりの理由はある。ハマスはガザ区でパレスチナ人に対して食糧や医療の提供のほか、学校教育まで支援してきたが、ガザ区の学校教育ではイスラム教徒のテロは美化され、イスラエルを悪者にする憎悪に満ちたコンテンツをカリキュラムとしている。すなわち、米国やドイツ、日本からの支援金でガザ区でテロ組織ハマスの予備軍が育てられているわけだ。UNRWAの職員がハマスのテロ奇襲に関与していたことが判明し、イスラエル側のUNRWA解体要求はもはや譲歩の余地がないわけだ。

 一方、国連側や人権擁護団体はUNRWAの職員がテロに関与していたという事実より、困窮下にあるパレスチナ人に食糧や医療品などを支援してきたUNRWAの職員がいなくなれば、パレスチナ人は生存できなくなるといった危機感のほうが強い。眼前で苦しむパレスチナ人の姿、負傷して苦しむ子供たちの姿を目撃すれば、欧米のメディアを含む多くの人権団体がイスラエル軍の軍事活動に対して批判的になるのは理解できる。

 中東専門家のベンテ・シェラー氏はオーストリア国営放送とのインタビューの中で、「UNRWA以外に現時点で迅速に救援活動ができる組織はない。特にイスラエル軍との戦闘の最中ではなおさらだ。戦前でさえ、ガザの人口の大部分は援助団体からの物資に依存してきた」という。また、UNRWAへの支援金が途絶えれば、ヨルダンやレバノンの不安定化をもたらす危険が出てくると警告する。

 要するに、UNRWAを解体すべきか、新しい支援体制を敷いて活動を継続するか、まったく新しい組織を設置するかなど、さまざまなシナリオが考えられるが、ガザ区のパレスチナ人の状況はそれらの政治的なやり取りが決着するまで待つことが出来ない。今日をどうするか、明日はどうなるか、といった切羽詰まった問題だからだ。

 難民救済を目的とした国連機関は現在、2つある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)だ。イスラエルが1948年に建国された際、70万人のパレスチナ難民の救済を目的としてUNRWAが創設された。パレスチナ難民は世界の難民の中でも一種の特権的な位置にあって、国連を含む世界から支援金を受けている。

 参考までに、1948年の国連総会決議194の第11条には、「パレスチナ難民の故郷への帰還の権利」が明記されている。一方、イスラエルはパレスチナ難民の帰還の権利を拒否している。しかし、1949年に創設されたUNRWAはウェブサイトで、「UNHCRとは異なり、出身国への帰還を含む難民に対する永続的な解決策を模索する」と述べている。イスラエルがUNRWAに対し批判的なのは、UNRWAがパレスチナ難民の帰還の権利を認めているからだともいえる。

 以下は当方の考えだ。

 UNHCRが一時的にパレスチナ人の難民救援に関与し、UNRWAをUNHCRの管轄下に置き、その活動を管理、実施する。世界からのパレスチナ難民支援金を受けてきたパレスチナ自治区は強く反対するだろうが、ガザ地区の状況が落ち着くまで、パレスチナ人への人道支援を継続し、イスラエル側の理解を得るためには難民問題の専門機関であり、中立的な立場のUNHCRがUNRWAの職員管理、その支援内容の指導などを担当する、というのはどうだろうか。

ハマスのテロ襲撃に加わった国連職員

 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員の一部がパレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織ハマスのイスラエル奇襲テロ事件に関与していた疑いが浮上、欧米諸国の中から「疑惑が解明するまでUNRWAへの支払いを一時停止する」と表明する加盟国が続出してきたことはこのコラム欄でも速報してきた。

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▲カーン・ユニスからガザ地区南部ラファへの避難を強いられたパレスチナ家族(2024年1月22日 UNRWA公式サイトから、写真提供:アシュラフ・アムラ氏)

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▲UNRWAへの2022年支援金供与国リスト(単位百万ドル)2024年01月30日、オーストリア国営放送ORF公式サイトから

 ここにきて昨年10月7日のハマスのイスラエル奇襲テロ事件にUNRWAの12人の職員がどのように関与してきたかが次第に明らかになり、欧米諸国では「UNRWAとテロ組織ハマスの繋がりは想像以上に深い」と驚きの声が出てきている。

 米紙ニューヨーク・タイムズ28日付によると、ハマスは境界網を破壊し、近くで開催していた音楽祭に来ていたイスラエル人らの若者たち、キブツに住むユダヤ人家族を奇襲襲撃し、イスラエル国内で約1200人が犠牲となり、ガザ区では約250人が人質となった。このテロ事件に、UNRWAの職員の1人は女性の拉致に加わり、別の職員はキブツでの奇襲テロに直接関与、他の職員は車両や武器をハマスのテロリストに手渡すなどしていたというのだ。ちなみに、テロ関与が疑われている12人の職員のうち、10人はハマスのメンバーだという。これらの情報が事実とすれば、その衝撃が如何に大きいかは想像に難くない。

 イスラエルが1948年に建国された際、70万人のパレスチナ人が難民となったが、彼らの救済目的で、1949年にパレスチナ難民の支援のために創設されたUNRWAはこれまでガザ地区、ヨルダン川西岸、ヨルダン、シリア、レバノンのパレスチナ人に人道支援を提供してきた。

 UNRWAには3万人以上の職員がおり、そのほとんどがパレスチナ人だ。UNRWAはガザ地区だけで約1万3000人を雇用している。そのほか、ヨルダンやレバノンなどでも事業を展開し、パレスチナ難民に教育や医療などの基本的なサービスを提供している。

 ガザ区のUNRWA職員のうち約10%はハマスやイスラム聖戦と関係があるという。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが諜報機関の報道を引用して報じた。諜報報告書の情報は、携帯電話のデータ、捕らえられたハマス戦闘員の尋問、殺害された戦闘員から回収された文書に基づいているから、その信頼性は高いという。米政府はこの情報文書について知らされていたという。

 これまで支援金の一時停止を決定した国は米国、ドイツ、フランス、カナダ、オーストラリア、英国、イタリア、スイス、フィンランド、オーストリアなどだ。日本もこれに加わった。UNRWA職員のハマスのテロ関与の事実が更に判明したならば、多くの加盟国が支援金の供与を停止する可能性が出てくる。事態の深刻さに衝撃を受けたグテーレス国連事務総長は31日、援助国の代表と会談し、UNRWAの活動継続とその支援を訴えるという。

 例えば、ドイツは2023年、UNRWAに2億ユーロ以上を支援するなど最大の支援国の一つだ。支援金はガザ区のパレスチナ人に水、食糧、衛生設備、医療品など基本的必要物質の資金調達に使用されてきた。ドイツ外務省は「UNRWAへの新たな資金は提供しないが、人道支援は今後とも継続する」という(ドイツ週刊紙ツァイト=オンライン版)。

 ブリンケン米国務長官は、「重要な点は事実の解明だ。UNRWAはパレスチナ人にとって必要不可欠の仕事に従事している機関だ」と述べている。一方、イスラエルのカッツ外相はラザリーニUNRWA事務局長の辞任を要求する一方、「ガザ地区の紛争後、UNRWAはもはや存続する余地がない」と考えている。

 参考までに、ハマスは「パレスチナ人を支援する国際機関に対するイスラエルの中傷作戦だ」と指摘し、「イスラエルはパレスチナ人のライフラインを全てカットしようとしている」と批判し、国連や他の国際機関に対して「イスラエルの脅迫に屈してはならない」と主張した。なお、西側諸国がUNRWAへの支援停止を続ければ、UNRWAの活動は2月末で停止に追い込まれることが予想される。

 ちなみに、日本政府は1953年以来、UNRWAを積極的に支援し、パレスチナ難民の教育、医療などを支援してきた。日本は2022年時点でUNRWAへの支援では6番目に多い拠出国だ。

「パレスチナ支援」再考の時を迎えた

 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員の一部がパレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織ハマスのイスラエル奇襲テロ事件に関与していた疑いが浮上、UNRWA支援国の中から「疑惑が解明するまでUNRWAへの支払いを一時停止する」と表明する加盟国が続出してきた。

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▲UNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長とパレスチナ日本代表の中島洋一大使(2023年2月6日、UNRWA公式サイトから)

 イスラエルが1948年に建国された際、70万人のパレスチナ人が難民となったが、彼らを救済するために、パレスチナ難民の支援目的に1949年に創設されたUNRWAはこれまでガザ地区、ヨルダン川西岸、ヨルダン、シリア、レバノンのパレスチナ人に人道支援を提供してきた。UNRWAの職員が昨年10月7日のハマスのテロに関与していたことが実証されれば、UNRWAは存続の危機に直面することが予想される。

 ドイツ外務省は「UNRWA職員がハマスのイスラエル奇襲テロに関与」という情報を深刻に受け取り、「疑いが解明されるまで、わが国は当面これ以上の資金を支払うつもりはない。ドイツは他の援助国と連携し、ガザ地区のUNRWAへの新たな資金を一時的に承認しない」と表明した。ドイツは2023年、UNRWAに2億ユーロ以上を支援するなど、UNRWAの最大の支援国の一つだ。支援金はガザ区のパレスチナ人に水、食糧、衛生設備、医療品など基本的必要物質の資金調達に使用される。ドイツ外務省は「UNRWAへの新たな資金は提供しないが、人道支援は今後とも継続する」という(ドイツ週刊紙ツァイト=オンライン版)。

 それに先立ち、米国務省は「UNRWAの12人の職員がハマスのテロに関与した疑いがある」と指摘、詳細が明らかになり、国連側が適切に対応するまでUNRWAへの新たな資金拠出を停止すると発表した。そのほか、カナダ、オーストラリア、英国、イタリア、フィンランドは同じようにUNRWAへの援助金支払い停止を表明している。

 2020年からUNRWAのトップのラザリーニ事務局長は27日、「ハマスのイスラエル奇襲テロに関与した疑いのある12人の職員に対して契約を即解除し、解雇した」と説明、ハマスのテロ関与問題の調査に乗り出していることを明らかにした。同時に、「支援国の援助停止は組織の活動を危険にさらす。特に、ガザ区のパレスチナ人の人道的支援活動が困難になる」として、支援国の再考を促している。

 同事務局長によると、「テロに関与した職員は刑事訴追を含む責任が問われる」という。ただし、国連側はテロに関与した職員がどのような活動をしていたのかについては言及していない。アントニオ・グテーレス事務総長は「事態は深刻だ」と懸念を表明している。

 一方、イスラエルのカッツ外相はX(旧ツイッター)で、「UNRWA職員が1200人以上のイスラエル民間人を虐殺したテロ事件に関与していたことは深刻な問題だ」として、ラザリ―二事務局長の引責辞任を要求している。

 (イスラエルは26日、UNRWAに「ガザ地区にいる数千人の同組織職員のうち12人が10月7日のハマスの虐殺に関与した」という情報を提供。それを受け、UNRWAは12人の職員を即解雇すると共に、調査を開始した)。

 UNRWA職員のテロ関与問題について、ハマスは「パレスチナ人を支援する国際機関に対するイスラエルの中傷作戦だ」と指摘し、「イスラエルはパレスチナ人のライフラインをすべてカットしようとしている」と批判し、国連や他の国際機関に対して「イスラエルの脅迫に屈してはならない」と主張した。また、パレスチナ解放機構(PLO)のフセイン・アル・シェイク事務総長は、Xで「UNRWAへの資金提供停止は大きな政治的・人道的リスクをもたらす。UNRWAへの支援停止決定をただちに撤回すべきだ」と書いている。

 難民救済を目的とした国連機関は現在、2つある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)だ。イスラエルが1948年に建国された際、70万人のパレスチナ人が難民となったが、彼らを救済するために、パレスチナ難民だけを対象としたUNRWAが1949年に創設された。パレスチナ難民は世界の難民の中でも一種の特権的な位置にあって、国連を含む世界から支援金を受けている。

 ハマスが大規模なテロを行った直後、欧米諸国ではパレスチナ支援の停止を求める声が出ていた。UNRWAに1953年以来、積極的に支援してきた日本政府に対しても、「日本のパレスチナ人への支援金はハマスのテロを助けている」として、UNRWAへの支援を停止すべきだという声が聞かれた。日本はUNRWAに対し3320万米ドルを援助し、パレスチナ難民の教育、医療などを支援してきた。日本は2022年時点でUNRWAへの支援では6番目に多い拠出国だ。UNRWA職員がハマスのテロに関与したことが実証されれば、日本政府もUNRWAへの支援を停止するなど対策が急務となる。

 重要な点は、国際社会からの難民救済資金でパレスチナ人の生活が向上し、教育、国民経済が発展したかだ。現実は、ハマスはそれらの資金で武器を購入し、イスラエルへ侵入するためにトンネルを建設してきた。一方、アッバス議長が率いるパレスチナ自治政府には腐敗、汚職の噂が絶えない、といった具合だ(「『難民』はパレスチナ人だけではない」2023年12月14日参考)。

中国の悩み「核実験回数が少ない」

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は20日、衛星写真を基に中国が同国西部新疆ウイグル自治区にある核実験地を再改修、拡大していると報じた。中国の習近平国家主席が2013年に就任して以来、人民解放軍が核兵器の強化と増加に乗り出していることは久しく知られてきたが、今回、衛星写真で追認されたわけだ。

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▲中国の最初の核実験(1964年10月16日、CTBTO公式サイトから)

 ウイグル自治区のロブノール(Lop Nor)は旧ソ連カザフスタンのセミバラチンスク核実験所と共に核実験所として知られてきた。ウィーンに本部を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)によると、中国は過去、ロブノールで地上、地下計45回の核実験を行った。同国の最初の核実験は1964年10月16日、これまで最後の核実験(地下実験)は1996年7月29日だ。

 新疆ウイグル自治区では核実験の放射能の影響で多くの奇形、障害児が生まれている。国際社会は同自治区の現地調査を中国側に要求すべきだ。

 ロプノールは広大な地域で、そこにある乾燥した塩湖が核兵器の実験場だ。1964年10月の最初の実験から60年が経て、中国は実験場を再建している。ニューヨーク・タイムズ紙によると、米国の諜報機関はロプノールの再建を何年にもわたって監視してきたという。

 現在、世界9カ国が核兵器保有国と受け取られている。米ロ英仏中の国連安保常任理事国の5カ国、それにインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮だ。次期核保有国候補国としてイランが挙げられている。

 1996年9月、包括核実験禁止条約(CTBT)が作成され、核物質の爆発を禁止する国際条約の署名、批准が始められたが、条約発効に必要な要件(条約第14条=核開発能力所有国の44カ国の署名・批准)を満たしていないため、条約は依然発効していない。ただし、米英仏ロ中の5カ国は核実験のモラトリアム(一時停止)をこれまで遵守してきた。

 中国は1996年にCTBTに署名したが、批准していない。中国と同様、署名したが、未批准の米国の出方を伺っている、と受け取られている。また、ロシアはCTBTを署名・批准済みだったが、昨年11月に批准を撤回している(「ロシアは近い将来『核実験』再開か」2023年8月18日参考)。

 ところで、中国は核兵器開発では米国やロシアに後れを取っている、という認識を有している。中国は1964年〜96年の間、ロプノールで45回の核兵器実験を行ったが、モスクワは冷戦時代、700回以上、米国は1000回以上の核兵器実験を実施してきた。核実験回数では中国は米ロ両国と比較して圧倒的に少ない。核兵器の性能向上を実現する目的にとっては、それは大きなマイナスだ。

 それだけではない。中国共産党政権派の環球時報の編集長・胡錫進氏は2020年7月28日、「中国は比較的短期間に核弾頭の数を1000基水準に増やすことが必要だ」と話し、「米国との戦争に勝利するためには1000個の核弾頭が必要だ」という趣旨の論評を掲載し、大きな反響を呼んだ。すなわち、中国は核弾頭の数も米ロに比較して少ないという認識があるはずだ。それが中国の核実験の再開情報の根拠となっているわけだ。

 もちろん、核実験の再開への誘惑は中国だけではない。米国を含む核保有国は「1980年代、90年代の核兵器が依然機能するかを知りたがっている」(軍事専門家)からだ。実験を繰り返し、問題がないと確認されない限り、その兵器は実戦では使用できない。米国やロシアは過去、臨界前核実験を実施したが、核兵器の安全性などをチェックするためには核実験以上の手段はないからだ。

 北朝鮮を除く8カ国の核保有国はどの国も「核実験のモラトリアムを最初に破った国」という汚名を避けたいと思っている。逆にいえば、核保有国の一国でも核実験を再開すれば、他の核兵器保有国も次々と雪崩を打って核実験を再開することが予想されるのだ(「CTBTOは存続できるか」2023年11月13日参考)。

 北京だけでなく、ワシントンやモスクワも近年、核実験場を大規模に拡張している。アメリカのネバダ州の実験場、北極にあるロシアの極地ノヴァヤ・ゼムリャ上空で撮影された衛星画像によってそれは証明されている(ノヴァヤ・ゼムリャでの核実験は、1955年9月21日から90年10月24日までの間に130回行われた)。

CTBTOは存続できるか

 ウィーンに暫定技術事務局を置く包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)の行方は一層不透明となってきた。CTBT(包括的核実験禁止条約)は1996年の国連総会で署名が開始され、今年で27年目を迎えたが、条約発効に必要な要件(条約第14条=核開発能力所有国の44カ国の署名・批准)を依然満たしていないため、条約は発効していない。

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▲北京で外務省軍備管理軍縮局長の孫暁波氏と会談するフロイド事務局長(CTBTO公式サイトから、2023年10月30日)

 そのような中、核大国のロシアは今年10月、CTBTの批准を撤回する意思を表明し、下院が10月18日、上院は10月25日にそれぞれCTBT批准撤回法案を可決。それを受けてプーチン大統領は今月2日、CTBTの批准を撤回する法案に署名し、同法は成立したのだ。

 CTBT署名国数は11月現在、187カ国、批准国177国だ。条約発効には核開発能力を有する44カ国=発効要件国の署名、批准が条件だ。その44カ国中で署名・批准した国は36カ国に留まり、8カ国の署名・批准が依然欠けている(米国、中国、インド、パキスタン、イラン、エジプト、イスラエル、北朝鮮)。過去6回の核実験を実施した北朝鮮は未署名、未批准だ。

 CTBTOは現在、国際監視制度(IMS)を構築中。IMSは核爆発を探知するネットワークで全世界に4種類の観測所(地震観測所、微気圧振動観測所、水中音波観測所、放射性接種観測所)を設置し、監視している(IMSは過去、インドネシアの大津波など自然災害の対策にも貢献した)。

 米国は1996年9月24日にCTBTに署名したが、クリントン政権時代の上院が1999年10月、批准を拒否。それ以後、米国は批准していない。一方、ロシアは2000年6月30日に批准済みだ。ロシアが今回、CTBT批准の撤回を決定したが、米国はモスクワを批判できない立場だ。

 プーチン大統領は今年2月21日、年次教書演説でウクライナ情勢に言及し、「戦争は西側から始められた」と強調し、戦争の責任は西側にあるといういつもの論理を展開する一方、米国との間で締結した核軍縮条約「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を発表した。ロシアのCTBT批准撤回はその第2弾目の核軍縮に逆行する決定だ。

 プーチン大統領は近い将来、北極のソ連時代の核実験場ノヴァヤ・ゼムリャ島(Nowaja Semlja )で1990年以来初めての核実験を実施するのではないか、という懸念の声が欧米軍事関係者から聞かれる。ロシア国防省関係者は、「プーチン大統領によって命令された核実験の再開準備は確実に遂行される。そのための準備を行ってきた」と説明している(「ロシアは近い将来『核実験』再開か」2023年8月18日参考)。

 ロシアのCTBTの批准撤回はCTBTOにとって大きな打撃だ。もはや「条約の発効」云々ではなく、「CTBTOの存続」にもかかわるからだ。米国と並んで世界の核大国が核軍縮に対してはっきりと「ノー」というスタンスを取り出したからだ。

 さぞかしCTBTO関係者は失望しているだろう、と考えていたが、オーストラリア人のロバート・フロイド事務局長は先月末から中国を訪問し、CTBTOと中国との間でパートナーシップを強調するなど、活発な動きを見せている。ロシアが出て行っても中国がいる、というわけではないだろうが、フロイド氏は中国政府高官らと会談し、中国の国家データセンター(NDC)や複数の国際監視システム(IMS)施設を訪問している。国連機関のトップが1週間も中国を集中的に訪問することは異例といわざるを得ない。

 フロイド事務局長は中国からCTBTに対する継続的な支持を得るために、北京で外務省軍備管理軍縮局長の孫暁波氏と二国間会談を行い、IMSネットワークの中国側の推進に向けて前進していくことで一致している。フロイド氏はまた、中国の馬昭徐外務次官とも会談し、今回の訪問を中国とCTBTOのパートナーシップにおける「新たな章」の始まりと歓迎し、CTBTの普遍化と発効に向けた勢いが今後も続くとの期待を吐露しているのだ。

 ちなみに、フロイド氏は王暁明所長率いる中国のNDCを訪問後、IMSステーションを視察した。完成すると、IMSネットワークの中国セグメントには、2カ所の超低周波観測所、4カ所の補助地震観測所、2カ所の主要地震観測所、3カ所の放射性核種観測所、および1カ所の放射性核種研究所の計12の施設が含まれる。CTBTが誇る国際監視システムに対する中国の貢献が広がるわけだ。現在5カ所のIMS施設は認証を受けており、フロイド氏は残りの施設の認証を進める重要性を強調している。

 ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)はその機関の非効率、腐敗などからカナダ、米国、英国、フランスなど欧米主要国が次々と脱退し、組織としての存続の危機に直面してきたが、ここにきて中国との関係を深め、中国共産党の習近平国家主席が提唱した新シルクロード構想「一帯一路」の下請け業者のような使命を受け、延命を図っている。同じように、CTBTOは中国に接近し、そのパートナーシップの強化に乗り出している。両者はよく似ているが、その試みが成功するか否かは不明だ(「UNIDO、中国との関係を深める」2023年10月21日参考)。

 いずれにしても、フロイド事務局長が取り組まなければならない最初の課題は中国のCTBTの批准だ。中国は1996年9月に署名したが、批准していない。曰く、「国会で慎重に検討中」と弁明してきた。中国は米国の批准待ちの姿勢を崩していないのだ。

 なお、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国の核弾頭数は2023年1月時点で約410発と推定され、「中国は核戦力を急速に拡大している」という。

チェコ国防相「国連から脱退しよう」

 国連総会で27日、イスラエルとイスラム過激テロ組織「ハマス」の戦闘が続くパレスチナ自治区ガザを巡る緊急特別会合が開かれ、ヨルダンが提出した「敵対的な行為の停止につながる人道的休戦」を求める決議案が賛成多数で採決された(賛成120、棄権45、反対14)。

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▲ロイド・オースティン米国防長官と会合したチェコのヤナ・チェルノホワ国防相(2022年4月21日、米国防総省で、ウィキぺディアから)

 ヨルダンが提出した同決議案ではイスラエルとパレスチナの民間人に対するあらゆる暴力を非難し、「不法拘束」されている全ての民間人の即時無条件解放を求め、ガザ地区への人道支援への無制限のアクセスを要求している。また、「敵対行為の停止」につながる「即時恒久的かつ持続可能な人道的停戦」を求めている。ただし、1300人以上のイスラエル人が犠牲となったハマスの奇襲テロに対する非難もなく、イスラエルの自衛権についても何も言及されていないことから、米国、イスラエルなど14カ国が決議案に反対票を投じたことは前日のコラムでも報告した。

 イスラエルのギラッド・エルダン国連大使は、「採択された文書ではイスラエルをテロ襲撃したハマスの名前は言及されず、ただ、10月7日以後のイスラエル軍の報復攻撃の激化に対する懸念だけが表明されている」として、「国連にとって今日は暗い日だ。不名誉な日として歴史に記録されるだろう」と述べた。

 それだけではない。反対票を投じたチェコのヤナ・チェルノホワ国防相( Jana Černochova)は28日、自身のX(旧ツイッター)の中で、「ハマスの前例のないテロ攻撃に明確かつ明白に反対したのは、わが国を含めてわずか14カ国だけだ。私は国連を恥じる」と述べ、「わが国はテロリストのファンの集まりである国連から立ち去ろう」と呼び掛けたのだ。

 イスラエルのエルダン国連大使の批判は紛争当事国として理解できるが、東欧のチェコがパレスチナ紛争での国連機関の無能さに激怒し、国連からの脱退を要求したのだ。

 国連の紛争解決能力についてはこれまでも何度も批判する声があがってきた。その意味で、国連批判は珍しいことではない。193カ国から構成される現行の国連は人道支援などではその役割を果たせるが、残念ながら紛争解決では無能だ。

 ロシア軍がウクライナに侵攻し、民間施設を砲撃し、ダムを破壊するなど多くの戦争犯罪を行ってきたが、国連安保理事会はその度に招集されても、ロシア非難決議案が採択されたことがない。理由は明らかだ。安保理で拒否権を持つ5カ国の1国に、戦争犯罪を繰り返し、多数のウクライナの民間人を殺害してきた紛争当事国ロシアが入っているからだ。米英仏などの常任理事国がロシア非難決議案を提出しても拒否権を有する常任理事国ポストにロシアとその同盟国の中国が座っている限り、採択される可能性は限りなくゼロだ。

 ロシアが今年4月1日、国連機関の最高意思決定機関ともいえる安全保障理事会の議長国に就任した(安全保障理事会の議長国は15カ国メンバーの輪番制で、アルファベット順に毎月交代する)。戦争犯罪を繰り返すロシアが国連の檜舞台で安保理議長国に就任すること自体、現行の国連が置かれている状況を端的に示している(「露の安保理議長国就任は『冗談』か」2023年4月5日参考)。

 ウクライナの国連常駐代表、セルギー・キスリツァ氏は、「4月1日は、不条理のレベルを新たなレベルに引き上げた。安保理は現在の形では麻痺しており、安保理の重要な問題、紛争防止と紛争管理に対処することができない」と述べている(ちなみに、ジュネーブに本部を置く国連人権理事会で今年10月10日、理事国の選出の投票が行われたが、ウクライナ侵攻が理由で理事国から追放されていたロシアは理事国復帰を目指したが落選した)。

 参考までに、イスラエルを無条件に支援すると表明してきたドイツが国連総会では反対票ではなく、棄権したことに対し、駐ドイツ・イスラエル大使のロン・プロサー氏は、「国連におけるドイツの支援が必要だ。ハマスには残酷な虐殺の責任があると直接言及していないという理由で棄権票を投じるだけでは十分ではない」と述べ、ドイツに対し失望を吐露している。

 国連から脱退したとしても、世界の紛争が解決できるわけではない。193カ国の国、機関が所属している国際機関は現在は国連しかない。加盟国が増えれば様々な世界観、価値観、政治体制の国の間で解決策を見出すことは更に難しくなる。新たな国連機関の設置をも含め、世界は知恵を集めて国連の抜本的な改革に乗り出すべきだ。チェコ国防相の国連脱退を呼び掛ける発言は国連の在り方を考えるうえで一石を投じたことは間違いない。

EUの団結が崩れ去った日

 ニューヨークの国連総会で27日、イスラエルとイスラム過激テロ組織「ハマス」の戦闘が続くパレスチナ自治区ガザを巡る緊急特別会合が開かれ、ヨルダンが提出した「敵対的な行為の停止につながる人道的休戦」を求める決議案が賛成多数で採決された。

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▲国連総会特別会合でパレスチナ自治区ガザを巡る決議案が採択される(2023年10月27日、国連総会公式サイトから)

 同決議案は国連加盟国(193カ国、投票国179カ国)のうち、賛成120票、棄権45票、反対14票で必要な3分の3の多数票を獲得した。国連総会決議は国連安保理決議のような国際法上の法的な拘束力はないが、国連加盟国の意思表示として政治的シグナルはある。

 アラブ諸国がまとめた今回の決議案では、イスラエルとパレスチナの民間人に対するあらゆる暴力を非難し、「不法拘束」されているすべての民間人の即時無条件解放を求め、ガザ地区への人道支援への無制限のアクセスを要求している。また、「敵対行為の停止」につながる「即時恒久的かつ持続可能な人道的停戦」を求めている。

 同決議が採択されると、イスラエルのギラッド・エルダン国連大使は、「採択された文書ではイスラエルをテロ襲撃したハマスの名前は言及されず、ただ、10月7日以後のイスラエル軍の報復攻撃の激化に対する懸念だけが表明されている」として、「国連にとって今日は暗い日だ。不名誉な日として歴史に記録されるだろう」と述べ、国連の正当性を糾弾した。

 決議案では加盟国の意見は分かれていた。例えば、エジプトとカタールは決議の採択を主張し、米国は明確に反対していた。同時に、ガザ地区でのイスラエル軍の行動に対する西側諸国の態度にも違いが表面化した。フランス、ベルギーなどは決議案に賛成票を投じたが、ドイツ、イタリア、英国、そして日本は棄権した。

 ちなみに、同決議案に反対票を投じた国は、イスラエル、米国、グアテマラ、ハンガリー、フィジー、ナウル、マーシャル諸島、ミクロネシア、パプアニューギニア、パラグアイ、トンガ、オーストリア、クロアチア、チェコの計14カ国に過ぎない。

 オーストリアのネハンマー首相は28日、同決議案に反対した理由として、「ハマスのテロ攻撃を名指しで非難していないこと、イスラエルの自衛権を認知していない。そのような決議案を賛成できない」というコメントを公表している。

 問題は欧州連合(EU)27カ国の決議案への投票状況だ。共通の外交を標榜してきたEUは国連総会決議ではバラバラだった。フランス、ポルトガル、スパイン、スロバニア、マルタ、アイルランドなどは賛成票を投じ、ドイツやイタリアは棄権に回り、オーストリア、ハンガリー、クロアチア、チェコは賛成票を投じたのだ。

 国連総会開催数時間前、EU首脳会談は26日、ブリュッセルでパレスチナ自治区のガザ情勢を協議し、人道状況が悪化している同地区への安全な援助物資輸送のための停戦と保護された回廊を求め、紛争双方に一時停戦を要求する「首脳宣言」をコンセンサスで採択したばかりだ。

 同宣言では、「ハマスとイスラエルの間の紛争において、われわれは援助物資を届けるために継続的、迅速、安全かつ妨げられないアクセスを求める」とし、必要な措置として「人道目的の回廊」と「休戦」を要求している。そのうえで「EUは地域のパートナーと緊密に連携して民間人を保護し、支援を提供し、食料、水、医療、燃料、避難所へのアクセスを促進する。この援助がテロ組織によって悪用されないようにしなければならない」と明記している。そして首脳宣言では、「停戦」ではなく、「休憩」(Breaks)という言葉が使われている。そして「休戦」は複数で表されている。すなわち、通常の「停戦」ではなく、必要に応じて休戦するという意味合いが含まれる。EUがイスラエルに対しハマスとの戦闘を即時停止するように求めていないことを明確にする狙いがあるといわれた。

 そのEU27カ国の加盟国が舞台を国連総会に移した瞬間、例えば、フランスはハマスを名指しに批判しない決議案を賛成する一方、イスラエルを無条件に支持すると表明してきたドイツは棄権に回ったのだ。

 ドイツのベアボック外相は、「なぜ反対せずに棄権したのか」という質問に対し、「決議案はハマスのテロを明確に名指ししておらず、人質全員の解放を十分に明確に要求していない。そのうえ、イスラエルの自衛権を再確認していないため、棄権に回った。欧州のパートナーの多くは決議案に同意しないことを決めていた」と述べたが、「反対せずに棄権に回った理由」については説明を避けている。

 ウクライナ戦争では、EUを含む欧米諸国は驚くべき団結を示した。そしてガザ問題でもEU首脳会議は「首脳宣言」を妥協の末に採択したばかりだ。その数時間後、EUの団結は崩れ去ったわけだ。その結果、EUの共通外交はさらに非現実的となり、対外的にはEUの信頼的パートナーとしての立場を失うことになったわけだ。

 参考までに、EUの対ウクライナ支援問題でもここにきて加盟国間で違いが出てきている。ハンガリーは対ロシア制裁に反対し、スロバキアの新政権はウクライナへの武器供与をストップする意向といわれるなど、EU加盟国内のウクライナ政策にも亀裂が見え出している。
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