ウィーン発 『コンフィデンシャル』

 ウィーンに居住する筆者が国連記者室から、ウィーンの街角から、国際政治にはじまって宗教、民族、日常の出来事までを思いつくままに書き送ります。

カトリック

レオ14世「聖職者の性犯罪はペストだ」

 今月6日から12日にかけてスペインを訪問中のローマ教皇レオ14世はマドリードでフェリペ6世国王とレティシア王妃の謁見を受けた後、6日夜、スペインの首都で約50万人が参加する「青少年の徹夜祈祷会」を執り行い、7日にはマドリード中心部のシベレス広場周辺でコルプス・ドミニ(聖体祭)のミサと聖体行列が行われ、約120万人の群衆が教皇を歓迎した。教皇は「神は貧しい人々や虐げられた人々と心を共にされる」と他者を助ける信仰の大切さを訴えた。

 そして8日、教皇レオ14世はマドリードのスペイン議会で演説を行い、イラン・イラク戦争の再燃をはじめとする武力紛争の激化を受け、平和を訴え、「武器は真の永続的な平和を決して生み出すことはできない。各国は国際法で定められた平和的手段によって意見の相違を解決しなければならない」と語った。スペイン訪問は米国人教皇にとって、イタリア以外の主要欧州諸国への初の司牧訪問だ。

cq5dam.thumbnail.cropped.1500.844 (46)
▲聖職者の未成年者への性的虐待犯罪の犠牲者6人と会合するレオ14世、バチカンニュースから、2026年6月8日

 レオ14世は8日、教皇として初めてスペイン議会で演説した。教皇は流暢なスペイン語で兵器システムへの人工知能(AI)の利用に警鐘を鳴らし、「ヨーロッパを含む世界の様々な地域で、国際情勢の不安定化に対するほぼ必然的な対応として、軍備再編が再び台頭しつつあることは憂慮すべき事態だ。世界は深刻な精神的・文化的危機に直面しており、それは暴力、分断、相互不信という形で現れている」と強調した。70歳の教皇は先月25日発表した回勅「マニフィカ・ヒューマニタス」の中で人工知能の軍事利用に警告を発している。

 また、移民問題にも言及し、「移民や難民の状況は、人々を第一に考え、避難の根本原因に対処する政策を必要としている。出身、宗教、言語、社会的地位に基づく差別は、すべての人々の平等な尊厳という原則に反する。この問題は単なる人口問題や経済問題ではなく、何よりも国際社会にとって道徳的かつ法的な課題だ」と指摘、安全で合法的な入国経路の確保と、避難の根本原因へのより強力な取り組みを求めた。

 また、社会の分断に警鐘を鳴らし、政治的議論における相互尊重を訴えた。意見の相違は政治的対立者を中傷するものではなく、民主的な対話を通じて解決されるべきだと訴えた。

 演説後、教皇は「ブラボー!」「ビバ!」という歓声とともに、数分間にわたる拍手喝采を受けた。報道によると、スタンディングオベーションは7分間続いた。

 それに先立ち、レオ14世は、スペインのペドロ・サンチェス首相と会談した。教皇は8日午前、マドリードにあるバチカン大使館で、自らを無神論者と称する社会党所属のサンチェス首相と会見した。両者ともイラン・イラク戦争を批判しており、トランプ米大統領から繰り返し攻撃を受けている。ただし、カトリック教会とスペイン左派政権の間には、中絶、同性愛者の権利、フェミニズムといった問題に関して、意見の相違がある。

 なお、スペインのカトリック教徒の割合は、現在人口の約55%〜70%とされている。かつては国民の90%以上を占めていたが、近年は明確な減少傾向にあり、無宗教層や無神論者の割合が増えている。

 ところで、教皇レオ14世は8日午後、スペインで聖職者や教会職員による虐待の被害者6人と面会した。被害者支援に尽力する教会関係者も同席した。バチカン広報部によると、面会は8日の午後、マドリードの教皇大使館で行われた。教皇はその直後、「聖職者による虐待を受けた人々との面会は特に辛いものだった」と述懐している。オーストラリアのシドニー教会を訪問したべネディクト16世が2008年7月、聖職者の性犯罪の犠牲者と会合して涙を流したという話を思い出す。

 レオ14世は、スペインの司教会議に関連する約120人の司教たちを前に、聖職者による未成年者や弱者への性的虐待に対して「「この悪に直面して、教会共同体は、傾聴、真実、正義、償い、そして予防とケアの文化という観点から、これまで以上に断固とした行動をもって対応することが求められる」と述べた。教皇は性的虐待を「疫病」と表現した。教皇の発言は、これらの犯罪の捜査と被害者への賠償金支払いをめぐり、教会、政治家、司法の間で長年にわたる論争が続いている中でなされた。教会代表と政府は、金銭的賠償の手続きについて、今年1月に暫定合意に達したばかりだ。

 ちなみに、聖職者の未成年者への性的虐待はレオ14世が表現したようにペスト(疫病)ではない。
ペストは、ペスト菌を病原体とする感染症だ。聖職者の性犯罪は明らかにローマ・カトリック教会という世界最大のキリスト教会の組織的犯罪だ。外部から感染するペストではなく、教会内部から発生し、隠ぺいしてきた犯罪だ。

 聖職者の性犯罪は米国、スペイン、フランスのカトリック教会だけに発生しているのではない、世界のほぼ全てのカトリック教会で程度の差こそあれ発生している。それ故に、神父個人による性犯罪ではなく、教会が組織的に関与している犯罪だといわざるを得ないのだ。

 ペストは現代では適切な抗生物質(ストレプトマイシンやテトラサイクリンなど)による早期治療を行えば完治する病気だが、カトリック教会の聖職者の性犯罪にはまだ適切な抗生物質が見つかっていないのだ。

 なお、教皇レオ14世はマドリード訪問後、バルセロナとカナリア諸島を訪問する。ローマ教皇は10日、バルセロナのサグラダ・ファミリアで、著名な建築家アントニ・ガウディ(1852年〜1926年)の没後100周年を記念するミサを執り行い、世界一高い教会の塔を正式に祝福する。

教皇レオ14世の「外遊」計画とその費用

 ローマ教皇レオ14世は6日から12日にかけて、カトリック教国スペインとカナリア諸島を訪問する。トルコ(昨年11月27〜30日)、レバノン(同年11月30〜12月2日)、モナコ(2026年3月28日)、アフリカ(同年4月13〜23日)に続き、レオ14世にとって4度目の外遊だ。バチカンニュースが先月31日公表した訪問日程によると、教皇レオ14世は6日、マドリードでフェリペ6世国王とレティシア王妃の謁見を受ける。

cq5dam.thumbnail.cropped.1500.844 (44)
▲スペインのサンチェス首相の訪問を受けるレオ14世、2026年5月27日、バチカンニュースから

 訪問初日、レオ14世は社会事業を視察し、若者たちと共に夕方の祈りの集会を執り行う。6月7日には、聖体祭の行列を伴う日曜ミサを執り行う。その後、教皇就任前に長年率いていたアウグスティヌス修道会の会員たちと会談する。また、文化、芸術、経済、スポーツ界の代表者とも会談する予定だ。スペインのメディア報道によると、教皇はマドリードでカトリック聖職者による性的虐待の被害者と面会する。この面会は6月7日か8日に教皇大使館で行われる。

 6月9日、ローマ教皇はカタルーニャ州の州都バルセロナを訪れ、オリンピックスタジアムで夕方の祈りの集会を行う。翌日には、刑務所と有名なサンタ・マリア・デ・モンセラート修道院を訪問する。夕方には、世界で最も高い教会の塔、高さ172.5メートルのサグラダ・ファミリアのイエス・キリストの塔の落成式に出席する。この式典は、建築家アントニ・ガウディの没後100周年にあたる。国王夫妻、サンチェス首相、そして約200人の枢機卿や司教を含む4000人の招待客が出席する予定だ。

 今回の訪問の締めくくりに、6月11日と12日、アフリカ沖のカナリア諸島を訪問する。これらの島々は、深刻な移民問題に直面している。グラン・カナリア島とテネリフェ島で、教皇は援助関係者、教会関係者、そして移民たちと面会する。彼は島の港でミサを執り行った後、6月12日にローマへ戻る。

 9月に入ると、フランス訪問が控えている。 教皇レオ14世のフランス訪問は、9月25日から28日までの4日間の日程。マクロン大統領との会見、教会当局との会談、およびユネスコ(UNESCO)本部への訪問などが予定されている。

 前任の教皇フランシスコもフランスを訪れているが、欧州議会への出席など「非公式」な位置づけだった。今回のレオ14世の訪問は、ローマ教皇として18年ぶりとなる歴史的な公式訪問だ。フランスは政治と宗教を厳格に分離する「世俗国家(ライシテ)」であり、行政トップが宗教指導者を公式に国賓として迎えることには歴史的に抵抗が強い。任期最終年を迎えるマクロン大統領からの招待に応じる形でのこの公式訪問は、バチカンとフランスとの外交関係において極めて重要な意味を持つ。

 ところで、ローマ教皇の訪問は、受け入れ国にとって莫大な費用がかかる。数日間の海外訪問には、通常、ロジスティクス、警備、技術などに数百万ドルもの費用がかかる。これらの費用は、受け入れ国と現地の教会が負担する。カトリック教徒は通常、教皇の行事や教会関連費用を直接負担する。警備は、国賓訪問の慣例通り、開催国が担当する。

 例えば、レオ14世が4月にアフリカを訪問した際、フランスのメディアは、教皇訪問の最終訪問地である赤道ギニアで、公務員と軍人の給与が訪問費用を捻出するために削減されたと報じた。2011年のベネディクト16世のドイツ訪問では、教会だけで2500万ユーロから3000万ユーロの予算を計上していた。最終的に当初の予算の2倍にあたる2330万ユーロ(当初は1100万ユーロ)となった。

 2022年のフランシスコ教皇の12日間のカナダ訪問には、カナダ政府は約5600万カナダドル(約4100万ユーロ)を費やした。2024年9月のルクセンブルクへの8時間の訪問には、150万ユーロ以上がかかったという。

 後継者のレオ14世は、すでに3回の外遊を終え、イタリア国内の様々な場所も訪問している。南イタリアのカンパニア州には2度滞在している。教皇選出記念日にはポンペイとナポリを訪問し、5月末にはアチェッラの町で4時間を過した。この2回の短い訪問のために、関係地域は60万ユーロを拠出した。

 ちなみに、教皇のスペイン訪問には、1500万ユーロから3000万ユーロの費用がかかると見込まれている。スペインの司教たちは、寄付によって費用の一部を賄おうとしている。組織委員会は、費用を賄うために、企業、財団、富裕層向けに5段階のスポンサーシップ制度を提示した。すべての寄付者に対する税制優遇措置に加え、50万ユーロから100万ユーロを寄付する「主要寄付者」には、今回の訪問における主要イベントの指定席、バチカンでの実務会議、そして教皇との面会が提供される。さらに、寄付者の企業または財団のロゴは、教皇訪問の公式ウェブサイトに掲載される。9月のフランス訪問費用も同様の方法で賄われる可能性がある。

 なお、レオ14世はスペイン、フランス訪問後、11月には南米を訪問する。ウルグアイ、ペルー、そして前教皇フランシスコの故郷であるアルゼンチンを訪れる予定だ。

 冷戦時代、58歳と若い時に教皇に選出されたヨハネ・パウロ2世は在位27年間、世界を飛び回った。世界のメディアからは「空を飛ぶ教皇」と呼ばれた。レオ14世は約20年間、南米ペルーで宣教師として働いてきたキャリアを有する。それだけに、バチカン宮殿に留まるより、外に飛び出し、現地を司牧訪問することを好む。いずれにしても、レオ14世の外遊に伴う財政負担が今後増大することは必至だ。

レオ13世「ヒトラーの『政治の師』を評価」

 コンクラーベ(教皇選出会)でペテロの後継者ローマ教皇に選出された後、ロバート・フランシス・プレボスト枢機卿は自身の教皇名を「レオ13世」とすることを明らかにした。その理由について、「教皇レオ13世(1810年〜1903年)は、歴史的な回勅『レールム・ノヴァルム』の中で、第一次産業革命の文脈における社会問題について初めて言及した教皇だ。そして教会は今日、人間の尊厳、正義、労働の保護などを突きつける新たな産業革命と人工知能(AI)への対応が求められている。現代の世界がレオ13世時代(在位1878年〜1903年)と同じ社会課題に直面しているという認識から、『レオ13世』の後継者として『レオ14世』という教皇名を選んだ」(バチカンニュース)ということだった。

Papa_Leone_XIII_(3x4_cropped)
▲第256代ローマ教皇レオ13世、ウィキぺディアから

 レオ13世は一般的には、「産業革命で搾取される労働者の権利の擁護と、資本主義の行き過ぎに警告を発した社会派教皇だった」と言われてきた。前教皇フランシスコが自身の教皇名を尊敬する貧者の聖者、アシジの聖フランシスコから取ったように、米国人のプレボスト枢機卿は自身の教皇名をレオ13世の足跡を継承するという意味から「レオ14世」としたわけだ。

 ところで、レオ13世の教皇時代の言動を振り返ってみた。レオ13世はハプスブルク帝国の皇帝フランツ・ヨゼフ1世の警告を無視して、ウィーン市長にカール・ルエーガ―の就任を認めているのだ。ルエーガ―は当時、ウィーン市民から愛される政治家だったが、同時に、激しい反ユダヤ主義的扇動で知られていた。

 ルエーガ―は1885年、キリスト教社会党を率いてウィーン市議会選挙で圧倒的な勝利を収めたが、フランツ・ヨゼフ1世はルエーガ―が危険な政治家であるとして、市長への承認を4回拒否してきた。皇帝から就任拒否を突きつけられ、ウィーンの市政が麻痺しかけたが、その事態を動かしたのがローマ教皇レオ13世だったのだ。

 オーストリアの一部の高位聖職者(保守的な司教たち)は、ルエーガーの過激な手法や反ユダヤ主義を嫌い、バチカンに「ルエーガーの党を禁止してほしい」と直訴していた。ルエーガーは当時、民衆の支持(ポピュリズム)を集めるため、激しい反ユダヤ主義的煽動を行った。多民族・多宗教の帝国を維持し、全臣民の平等を建前とする皇帝にとって、特定の層を排斥するルエーガ―は社会秩序を乱すデマゴーグ(煽動政治家)に映った。ルエーガーの政治スタイルは、ハプスブルク王朝の伝統的な支配体制を脅かす「危険な革命分子」に見えたからだ。

 しかし、レオ13世は逆にルエーガーとその政党を支持する決定を下したのだ。レオ13世は、当時台頭していた「神を信じない社会主義(無神論)」や、教会を軽視する「自由主義(リベラリズム)」を最大の脅威とみなしていた。ルエーガーは熱心なカトリック信者であり、労働者や下層中産階級(民衆)を味方につけてカトリックの価値観を守ろうとしていた。教皇は自身の有名な社会回勅『レerum Novarum(レールム・ノヴァールム)』の精神に基づき、民衆に根ざした新しいキリスト教社会運動として、ルエーガーの活動に「お墨付き(祝福)」を与えたのだ。

 バチカン側からの事実上の調停(介入)があったことで、皇帝フランツ・ヨゼフ1世も折れざるを得なくなった。帝国の最高精神的支柱であるカトリック教会のトップが認めた人物を、いつまでも拒否し続けることは政治的に不可能だったからだ。1897年、5回目の選出を経て、皇帝はついにルエーガーのウィーン市長就任を承認した。

 それだけの話なら問題ではなかった。歴史家によると、ルエーガ―の政治スタイル、「近代的ポピュリズム」と「反ユダヤ主義の煽動政治」は、当時ウィーンに暮らしていた若き日のアドルフ・ヒトラーに決定的な影響を与えたという。

 実際、ヒトラーは著書「我が闘争」第1巻第3章でカール・ルエーガーを「Heute sehe ich in dem Manne mehr noch als fruher den gewaltigsten deutschen Burgermeister aller Zeiten.」と称賛している。ヒトラーはルエーガーの政治的手腕や大衆扇動術を高く評価し、ナチズムのモデルとしたわけだ。

 19世紀末から20世紀初頭にかけてウィーン市長を務めたルエーガーとヒトラーは、直接的な面識や個人的な付き合いはなかったが、ルエーガーは若き日のヒトラーに極めて大きな思想的・政治的影響を与えた人物であり、ヒトラーの「政治の師」として歴史的に位置づけられている。

 ルエーガーは「キリスト教社会党」を率い、大衆の支持を集めるために反ユダヤ主義(アンチセミティズム)を政治利用した。1907年から1913年にかけて青年期をウィーンで過ごしたヒトラーは、ルエーガーがユダヤ人をスケープゴートにして下層・中産階級の不満を吸収する姿を目の当たりにした。ヒトラーはこの手法を学び、後にナチスにおける過激な反ユダヤ主義政策に応用していった。

 また、ルエーガーは、巧みなプロパガンダと圧倒的な雄弁さで民衆の心を掴むポピュリズム(大衆迎合主義)の天才だった。ヒトラーは、それまでのエリート主義的な政治とは異なる、近代的な「大衆の動員方法」をルエーガーの政治運動から学んだ。

 ちなみに、歴史でイフはタブーだが、ルエーガーがウィーン市長に就任できなかったならば、ヒトラーへの影響も限定的に終わったかもしれない。レオ13世はルエーガーの政治的危険性を過小評価したため、ヒトラーが後日、ルエーガーから学んだ政治スタイルを駆使してドイツで政権を奪い、ナチス・ドイツの蛮行へと突き進んでいったわけだ。

 米国人のプレボスト枢機卿はそのレオ13世を社会的問題に関心がある教皇だったという理由で高く評価し、自身の教皇名につけた。ローマ教皇は共産主義が台頭した時もその正体を正しく認知できなかった。歴史は繰り返されるのだ。

教皇、トランプ政権のAI政策に警戒

 バチカンニュースによると、教皇レオ14世は25日、初の回勅「「マニフィカ・ヒューマニタス:人工知能時代の人類保護について」を発表するが、その回勅発表に米国のAI企業アントロピックの共同創設者のクリストファー・オラー氏が出席することが明らかになった。教皇レオ14世が規制問題で米政府と法廷闘争中のアントロピック社の代表をローマに招いたことに対し、トランプ米大統領が反発するのは必至だ。

cq5dam.thumbnail.cropped.1500.844
▲バチカン主催で21日開催されたAI国際会議、バチカンニュースから

 レオ14世は25日、回勅「マグニフィカ・ヒューマニタス(偉大なる人類)」を発表する。バチカンによると、カトリック教会の最も重要な文書の一つであるこの回勅は、「人工知能時代の人類保護」をテーマとしている。これは、教皇の社会政策における最初の重要な節目となる。

 バチカンで行われる「マニフィカ・ヒューマニタス」の公式発表には、レオ14世のほか、国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿、教理省長官ビクトル・マヌエル・フェルナンデス枢機卿、教皇庁社会福祉評議会議長ミヒャエル・チェルニー枢機卿らに加え、政治神学者のレオカディ・ルションボ氏とアンナ・ローランズ氏も同席する。それだけではない。米国企業Anthropic(アンソロピック社)の共同創設者であり、著名なAIセキュリティ研究者のクリストファー・オラー氏が参加する予定となっていることだ。オラー氏はスタートアップ創業者で、GoogleとOpenAIでの勤務を経て、2021年にAnthropicを設立。同社は強力なClaudeモデルで国際的な基準を確立している。ChatGPT最大のライバルと称されている。

 アンソロピック社は、AIの安全性と倫理性を最優先に掲げる、世界最高峰のアメリカの人工知能(AI)開発スタートアップ企業だ。OpenAI社の元研究幹部らによって2021年に設立され、現在はOpenAI社に次ぐ世界第2位のAI企業として圧倒的な存在感を誇っている。

 2026年4月に発表された最新モデル「Claude Mythos」(クロード・ミュトス)は、人間の指示なしに主要OSやブラウザの脆弱性を見つけ出すなど、これまでに作られた中で最も高性能な数値を叩き出した。あまりにも強力で悪用のリスクがあるため、現在は一般公開を制限し政府等と連携している。

 商業化路線にシフトしてきたOpenAIとは違い、アンソロピック社は「人類にとって安全で制御可能なAIの構築」を目指し、AIに善悪の基準となる独自の「憲法(Constitution)」を組み込む手法(Constitutional AI)を採用している。

 ところで、アンソロピック社は現在、トランプ米政権との間で「AIの軍事・監視利用の制限(安全規制)」を巡り、法廷闘争で全面対決の最中だ。AIの安全性を最優先する同社の理念と、圧倒的な軍事優位を求めるトランプ政権の思惑が激突した形だ。米国防総省はアンソロピック社に対し、AIモデルへの「完全かつ無制限のアクセス」を要求。しかし同社は、自社のAI「Claude」が「大量監視システム」や人命を奪う「完全自律型兵器」に使用されることを防ぐための規制(ガードレール)の維持を主張し、この要求を拒否した。

 これに激怒したドナルド・トランプ大統領は2026年2月、「過激な左派(ウォーク=woke)企業に軍の戦い方を決めさせない」として、連邦政府の全機関に対しアンソロピック製品の使用停止を命令した。同時にヘグセス国防長官は、同社を国家安全保障上の「サプライチェーンリスク」に指定し、米政府と取引する企業に対しても同社との商取引を禁止した。それに対し、2026年3月、アンソロピック社は2026年3月、政府の制裁措置は不当な報復であり権力の乱用だとして提訴した。

 問題は、現米政権と激しく対立している当事者をバチカンに招くことは、教皇が米政権のAI政策に対し明確に「不信任」を突きつけた、と受け取られる可能性が高いことだ。ただし、米政府はここにきてアンソロピック社へ歩み寄りを見せてきているという。

 米国政権がAIの規制緩和を推進する一方で、レオ14世は倫理的な取り扱いを主張している。同14世は2025年にローマで開催された会議で「軍事部門と民間部門の両方において、AIの開発と応用を綿密に監視し、AIが人間の意思決定の責任を免除したり、紛争の悲劇を悪化させたりしないようにしなければならない」と警告を発してきた。

 レオ14世はまた、人間が介在しないAI兵器の戦場投入(自律型兵器)に強い懸念を示している。対イラン作戦など軍事力を誇示するトランプ政権の路線とは真逆だ。トランプ政権が経済・軍事競争に勝つための「規制緩和と開発至上主義」を進める一方、教皇は富の集中や労働者の権利侵害を防ぐための「厳格な国際規制」を求めているなど、トランプ氏とレオ14世はAI政策では立場が違う。

 トランプ氏は「米大統領を批判する教皇は要らない」「犯罪や核兵器に弱腰だ」と公然とレオ14世を批判している。それに対し、教皇は先月13日、「私はトランプ政権を恐れていない」と言い切っている。AIを巡る規制問題で両者の関係がさらに険悪化する可能性は排除できない。

バチカン、イラン大使に勲章を授与

 2023年からローマ教皇庁駐在イラン・イスラム共和国大使を務めるモハマド・ホセイン・モフタリ氏は12日、他の12人の外交官とともにピウス勲章を授与された。イタリアの主要日刊紙や米国のポータルサイト「ザ・ピラー」などがこの出来事を報じた。イラン大使にバチカン勲章が授与されたことがメディアに報じられると、その数時間後、ソーシャルメディア上で怒りの声が爆発した。イラン民主女性協会などは、この名誉ある賞がイラン大使に授与されたことに対し、「最も強い言葉で非難する」と表明している。

699106115_1498034298439759_2754060952853252484_n
▲バチカンからピウス勲章が授与されたイランのモフタリ大使(左)、

 一方、イランのメディアは早速このニュースを大きく報道し、「ローマ教皇によるイランの政策への個人的な賛辞だ」と表現している。そして「この賞の授与と教皇による侵略行為への非難は、バチカン駐在イラン大使館が平和、正義、そして戦争への抵抗のメッセージを広めるために継続的に行っている活動と密接に関連している」と評価。、あるイランのメディアは授賞式の報道に、レオ14世とモフタリ大使が写った2025年の写真を大きく掲載している。

 バチカン教皇庁によると、この勲章は教皇本人からではなく、慣例に従い国務省を統括するパオロ・ルデッリ大司教から授与された。授与証書にはピエトロ・パロリン国務長官が署名している。ピウス勲章は、1847年にピウス9世(1846年〜1878年)によって創設された。

 バチカンのマッテオ・ブルーニ報道官は、「ピウス勲章は伝統的に、聖座に赴任したすべての大使が2年間の勤務を終えた後、通常は教皇の就任記念日に授与される勲章である」と説明した。イラン大使のほか、12人の外交官にピウス勲章大十字章が授与されたという。

 全てには適切な時、タイミングがあるが、バチカン勲章の授与が誤ったメッセージを送るのではないかと疑問視する声が上がっても不思議ではない。 ユダヤ系週間新聞「アルゲマイネ」は論説で、「バチカン勲章はモフタリ大使への思いがけないPRギフトとなった。イラン大使は同国で今年1月に3万5000人以上の抗議デモ参加者を虐殺した政権の代表者だ。教皇レオ14世と外交手腕に長けたピエトロ・パロリン枢機卿国務長官が、まさにこの政権の代表者に賞を授与するなど、言語道断だ」と辛らつに批判している。

 「アルゲマイネ」紙の論説を読むと、トランプ米大統領の発言を思い出す。 トランプ氏がイランに対して「石器時代」発言を発した時、世界から批判の声が出たが、教皇レオ14世も名指しこそ避けたが、「イラン国民への恫喝は絶対に受け入れられない」と、トランプ氏を暗に批判した。それに対し、トランプ大統領はレオ14世を「犯罪対策に弱腰だ」、「彼はあまり良い仕事をしていない」という趣旨をソーシャルメディア「Truth Social」に投稿した。それだけではない。「誰か教皇に、イランが過去2ヶ月間で少なくとも4万2000人の罪のない、完全に非武装のデモ参加者を殺害したことを教えてくれないか?」と、自身のプラットフォームに書き込んだことがある。

 トランプ氏がレオ14世に思い出してほしいといった事実とは、イランのムッラー政権が今年初めに反体制派抗議デモに対して発砲し、多数の抗議デモ参加者、若者を殺害した、という犯罪行為のことだ。当方はこのコラム欄で「トランプ氏がレオ14世に突き付けた『正論』」(2026年4月16日)で書いたが、イラン大使へのバチカン勲章授与はトランプ氏の発言を追認した感じがする。

 トランプ大統領が「イランのモフタリ大使がバチカン勲章を得た」というニュースを聞けば、「ほらみたことか。バチカンや教皇レオ14世はイランの実態を何も知らないのだ」と呟き、自分が正しかったと自負するかもしれない。

ローマ教皇とその「道徳的権威」について

 ローマ教皇就任1年を迎え、米国人初のペテロの後継者に選出されたレオ14世の1年間の歩みを振り返る記事が掲載されていたが、欧米メディアはトランプ米大統領とレオ14世の間の米国人指導者同士の対立問題に大きなスペースを割いていた。トランプ大統領は先月12日夜、レオ14世を「あまり良い仕事をしていない」、「非常にリベラルな人物だ」と指摘、「過激左派に迎合するのをやめるべきだ」と述べ、イランの核開発を容認してきたと批判すると、レオ14世自身は今月5日、「私を批判するのはいいが、真実に基づいて批判しなければならない」とトランプ氏に釘を刺す、といった具合だ。

cq5dam.thumbnail.cropped.1500.844 (38)
▲アンゴラ訪問中のレオ14世、2026年4月19日、バチカンニュースから

 ところで、レオ14世の就任1年目に関連した時事通信のパリ発の記事を読んで少々戸惑いを感じた。記事は「ローマ教皇レオ14世が2025年5月に就任し、8日で1年となった。滑り出しは平穏だったが、トランプ米大統領との対立が次第に表面化。平和・反戦を訴えて譲らず、世界最大の権力者に物申す希有な存在として、信徒以外からも注目を集めている」と書いたうえで、外交筋は『バチカンには軍事力も経済力もない。あるのは道徳的権威だけだ』と述べた」というのだ。

 驚いたのは、バチカンに、そしてレオ14世に「道徳的権威がある」と記していた箇所だ。世界各地のローマ教会で数十万人の未成年者が聖職者による性的虐待の被害を受けてきた。その教会のどこに「道徳的権威」があるのか。レオ14世は聖職者の性犯罪には関与していない、と指摘されるかもしれない。ただ、レオ14世は世界に約14億人の信者を有するキリスト教会の最高指導者だ。教会に従事する聖職者が未成年者に性的犯罪を犯したとするなら、その最終的責任者はローマ教皇にある。社員が経済的犯罪を犯した会社の場合、社長が謝罪する。教会の場合も同様ではないか。個々の聖職者が犯した性犯罪に教皇は関係がない、と言い切ることはできない。
 
 ローマ教会の聖職者の未成年者への性的虐待問題を過去20年以上フォローしてきた立場上、「ローマ教皇には軍事力も経済力もないが、道徳的権威を有する」といった持ち上げる記事に接すると、「そうではない」と反論せざる得ないのだ。

 オーストラリアのローマ教会を訪問したドイツ人教皇べネディクト16世(在位2005年〜2013年)は当時、聖職者によって性的虐待された犠牲者と初めて会合し、その話を聞いて涙を流したという話が報じられた。

 犠牲者の数が1人、2人であるならば、犯罪を犯した聖職者個人の問題と言い逃れることが出来るが、その件数が数十万件にもなり、刑事訴訟で有罪判決を受けたケースがある場合、教会組織と性犯罪の関係に何らかの繋がりがあると考えざるを得ない。そのような教会の最高指導者、ローマ教会に「道徳的権威がある」と、どうしても言えないのだ。

 レオ14世は教皇就任後、平和のために祈り、戦争に反対を表明、武力行使をたしなめ、対話を呼びかけてきたことから、レオ14世を「平和の教皇」と称賛している論評があったが、歴代のローマ教皇の中で戦争や闘争を鼓舞した教皇が過去、いたか。ペテロの後継者の教皇が平和を説き、対話を求めるのは当然だ。難民問題でトランプ米政権の行き過ぎた政策に異議を唱えたとしても、教皇としては当然の職務だ。

 欧米メディアは、トランプ大統領とレオ14世を恣意的にライバル関係と見なし、ボクシングの世界ヘビー級チャンピオン戦のように煽っている。そしてトランプ氏を反難民政策の権化とし、それを批判するレオ14世を正義の味方のように報じる傾向がみられる。

 政治指導者と宗教指導者は、立場も求められる資質も異なる。米国民を守り、米国の国益を堅持することを第一職務とするトランプ氏と、イエスの福音を伝えることを第一聖職とする教皇では立ち位置が異なる。それをメディアは同じリング内で戦わそうとする。カトリック信者でもあるルビオ米国務長官は「ローマ教皇は政治問題に関与せず、教会の聖業に邁進すべきだ」と述べていた。トランプ氏もレオ14世も世界的指導者だ。両者の棲み分けが求められる、というわけだ。

 以下は当方の私見だ。
 ローマ・カトリック教会、バチカン教皇庁、そしてローマ教皇が本来の「道徳的権威」を回復するためには教会内の聖職者の性犯罪を先ず撲滅することだ。具体的には、聖職者の独身制義務の廃止、性犯罪に関連している場合の守秘義務の再考だ。前者は教会のドグマではなく、教会の作られた伝統だから、撤廃も可能のはずだ。後者は少々厳しい。告解の守秘はカトリック教会では13世紀から施行されている({聖職者の性犯罪と「告白の守秘義務』」2021年10月18日参考)。

 ちなみに、カトリック教会では、告解の内容を命懸けで守ったネポムクの聖ヨハネ神父の話は有名だ。同神父は1393年、王妃の告解内容を明らかにするのを拒否したため、ボヘミア王ヴァーソラフ4世によってカレル橋から落下させられ、溺死した。

 しかし、教会上層部が性犯罪を犯した聖職者を隠蔽してきたという実態が明らかになった結果、聖職者の告白の守秘義務を撤回すべきだという声が高まってきた。だから、「性犯罪の場合」、守秘義務の見直しを実行すべきだ。レオ14世には教皇と教会の「道徳的権威」を回復できるチャンスはまだある。

レオ14世、元難民を米国司教に任命

 バチカンニュースが2日発表したところによると、ローマ教皇レオ14世は55歳のエベリオ・メンヒバル=アヤラ神父を、米国ウェストバージニア州のウィーリング=チャールストン教区の司教に任命した。同神父は1990年、エルサルバドルから不法に国境を越えて米国に入国した経験を持つ元難民だ。同神父は20歳の時、車のトランクに隠れてメキシコと米国の国境を越えたという。当時、エルサルバドルは血みどろの内戦の渦中にあった。

f941998f-s
▲米国人初のローマ教皇レオ14世が誕生、2025年5月8日、バチカンニュースから

 レオ14世の今回の任命は、トランプ米大統領の移民政策に対するバチカン側の挑戦状と受け取る向きがある。共和党のトランプ氏が大統領に復帰して以来、米国政府は中南米出身者を含む移民に対し、極めて厳しい姿勢をとっている。そのような時だけに、元難民の司教任命が当然、政治的に解釈されるのは避けられないだろう。

 米国の大都市シカゴ生まれのレオ14世は人生の半分をアメリカ国外で過ごしてきた。宣教師としてペルーで24年間暮らし、最初は貧しい農村地帯のチュルカナスで、その後はトルヒーリョで神学校の校長および教会法の教授として歩み、2015年からはチクラヨの司教として歩んだ。プレボスト司教(当時)は同年、ペルーの国籍を取得している。その教皇が難民への人道的な対応を繰り返し訴えるのはこれまた理解できることだ。
 
 米イスラエル軍のイラン攻撃が開始されて以来、トランプ大統領とレオ14世の関係が険悪化してきた。レオ14世が先月7日、名指しこそ避けたが、「イラン国民への恫喝は絶対に受け入れられない」と批判した。それに対し、トランプ大統領は先月12日夜、レオ14世に対し異例の激しい非難を浴びせた。レオ14世を「あまり良い仕事をしていない」、「非常にリベラルな人物だ」と指摘、「過激左派に迎合するのをやめるべきだ」と示唆し,「私はレオ14世のファンではない」と述べている。

 AP通信は「ローマ教皇と米大統領の意見が食い違うことは珍しくないが、教皇がアメリカの指導者を直接批判することは極めて稀であり、トランプ大統領の痛烈な反論は、それ以上に異例と言えるだろう」と総括しているほどだ。

 それだけではない。トランプ氏は「教皇レオ14世は感謝すべきだ。周知の通り、彼の選出はサプライズだった。教皇候補リストには載っていなかった。米国人だったからこそ教会が選んだのだ。ドナルド・J・トランプ大統領に対処する最善の方法だとコンクラーベに参加した枢機卿たちが考えたからだ。私がホワイトハウスにいなかったら、レオはバチカンにいなかっただろう」とTruth Socialで語っているのだ。トランプ氏は最近、ローマ教皇に対し、政治に介入しないように警告を発している。

 ところで、難民問題をトランプ氏とレオ14世の個人的レベルの対立と見るのは間違っている。米ローマ・カトリック教会司教協議会(USCCB)の総会が昨年11月12日にボルチモアで開催され、トランプ大統領が実施する移民政策に反対する特別声明を賛成216人、反対5人、棄権3人の圧倒的多数で採択している。すなわち、トランプ氏の難民政策への批判は米教会の公式的な見解だということだ。同総会に参加した司教たちは「神から与えられた人間の尊厳を守るために声を上げる義務がある」と声明し、米国の移民問題で教会の基本的立場を鮮明にした。

 バチカンニュースによると、「司教協議会総会で政治問題についてこれほど明確に教会の立場を発言したのは12年ぶりだ」という。具体的には、オバマ政権下の2013年、職場の健康保険制度における無料避妊薬の義務的給付に関する議論の時以来という。いずれにしても、米教会が特別コミュニケという形式で政治問題で発言することは非常に稀だ。司教協議会は「国家には移民を規制する権利があるが、私たちは無差別な大量送還を拒否する」と述べている。

 ただ、後日、レオ14世が米教会の司教協議会総会前に関係者に難民問題で教会の立場を明確にした特別声明を採択するように要請していたということが明らかになった。換言すれば、米司教協議会の特別声明の内容はレオ14世の意向をまとめたもの、というのだ。

 ロバート・フランシス・プレボスト枢機卿がペテロの後継者、ローマ教皇に選出されて今月8日で1年目を迎える。コンクラーベで米国人初の教皇が選出された、ということで新教皇の動向に世界の関心は一層高まった。

 レオ14世はフランシスコ教皇と同様、修道会出身(前者はアウグスチノ会、後者はイエズス会)だ。前者は20年以上ぺルーの宣教師として歩み、後者はブエノスアイレスの大司教だった。両教皇は南米教会と深く関係を有してきたことから、一部ではレオ14世はフランシスコ教皇のクローンだ、といった論評も聞かれたほどだ。就任して1年が経過し、レオ14世が前教皇フランシスコとは明らかに違ったタイプの教皇であることが次第に明らかになった。

 レオ14世は社会問題に強い関心を示したレオ13世(在位1878〜1903年)を模倣しながら、教会の教理ではドイツ人教皇べネディクト16世に近い。レオ14世自身、「私は教会のドグマを変更する考えはない」と強調している。それは中絶問題や同性愛問題などで既に明らかになっている。誤解を恐れずにいえば、レオ14世は‘米国人べネディクト16世‘だ。フランシスコ前教皇とは異なる。

 レオ14世は運、不運は別にしてトランプ米政権時代にローマ教皇に選ばれた。3回の暗殺未遂事件に遭遇したトランプ氏には強い宗教的な使命感がある。レオ14世はトランプ氏のナラティブと共存できるか、それとも決裂するかは現時点では分からない。ただ、レオ14世が今回難民出身の聖職者を司教に任命したことで、トランプ氏との関係は一層厳しくなったことは間違いない。

米国民の70%「トランプ氏は宗教的でない」

 ローマ教皇レオ14世は18日、自身の発言がトランプ米大統領を批判するものと受け取られたことについて「そのような意図は全くなかった」と遺憾の意を表明、トランプ氏との緊張緩和を模索している。米国生まれの教皇とトランプ大統領は、米イスラエル軍のイラン攻撃を契機に、激しい言葉の応酬を繰り広げてきた。

cq5dam.thumbnail.cropped.750.422
▲アフリカ4カ国を歴訪中(4月13日〜23日)のレオ14世、バチカンニュース

 レオ14世は中東における「無意味で非人道的な暴力」を非難し、キリスト教徒は「今日爆弾を投下している者たちに加担することはできない」と宣言、イラン戦争の終結を促し、「もう戦争はたくさんだ!」と訴えた。

 また、「神は戦争を仕掛ける者の祈りを聞き入れず、拒絶する」とも述べている。そして、旧約聖書イザヤ書の一節を引用し、「あなたがたが多くの祈りを捧げても、わたしは聞かない。あなたがたの手は血で満ちている」と語っているのだ。かなり厳しい審判だ。

 それに対し、トランプ米大統領は12日、ローマ・カトリック教会初の米国人教皇のレオ14世を「犯罪対策に弱腰でその外交政策はひどい」、「彼はあまり良い仕事をしていないと思う」と、ソーシャルメディア「Truth Social」に長文の教皇批判を投稿した。また、「イランが核兵器を保有することを容認するような教皇は望まない。極めて左寄りのリベラルであり、都市における犯罪を容認するような教皇も望ましくない。私はレオ14世を余り好きではない」と付け加えた。

 その後、トランプ大統領はAIで生成した自身のイエス・キリスト像をオンラインに投稿し、キリスト教会関係者からも強い批判の声が飛び出した(現在は削除されている)。

 ちなみに、レオ14世は現在、アフリカ大陸を歴訪中だ。アルジェリア、カメルーンに続き、18日には3カ国目の訪問先のアンゴラに到着した。それに先立ち、教皇はアンゴラへの機内で記者団に対し、「私はトランプ政権を恐れていない」と答え、「教皇の目標は、世界中に平和と正義のメッセージを広めることにある」と説明している。

 バチカンニュースによると、レオ14世はアンゴラではジョアン・ロレンソ大統領らと会談を行った。レオ14世は、他国や国際企業によるアフリカ大陸の搾取が続いていると指摘し、「この搾取の論理によって、どれほどの苦しみ、どれほどの死、どれほどの社会的・環境的災害が引き起こされているのか」と問いかけた。同時に、「アフリカ諸国自身にも行動が求められる。アフリカは、多くの国の社会・政治構造を引き裂き、貧困と排除を助長している紛争と敵対行為を早急に克服する必要がある」とアピールすることを忘れなかった。

 アンゴラに3日間滞在した後、レオ14世は旅の最終目的地である赤道ギニアを訪れる。なお、アフリカには約2億9000万人のカトリック信者が暮らしており、これはヨーロッパ全体より多く、その主流は若い世代だ(「レオ14世のアフリカ4カ国訪問」2026年4月10日参考)。

 ところで、トランプ大統領がレオ14世を激しく非難し、救世主のようなポーズをとったりイエス・キリストと並んだりしたAI生成画像を公開する直前に実施された世論調査で、大統領の宗教性に疑問を抱く米国民が増加していることが明らかになった。

 ワシントンD.C.を拠点とする、中立的で非営利のシンクタンク「ピュー・リサーチ・センター」の調査によると、回答者の70%がトランプ大統領を「特に宗教的ではない」または「全く宗教的ではない」と考えていると回答した。これは2024年10月の調査結果より8ポイント高い。

 「ピュー・リサーチ・センター」が16日に発表したところによると、トランプ大統領を「非常に宗教的」と評価した回答者はわずか5%、「やや宗教的」と評価した回答者は24%だった。この調査は、4月6日から12日にかけて、約3,600人のアメリカ人成人を対象に実施された。

 調査結果によると、トランプ大統領の最も熱心な支持者の間ですら、大統領を非常に信心深いと考えている人は比較的少なく、共和党支持者のわずか8%、白人福音派の5%にとどまった。ただし、共和党支持者の43%、白人福音派の49%は、トランプ大統領が自分たちの宗教的利益を擁護していると考えている。

トランプ氏「私はレオ14世が好きでない」

 トランプ米大統領は12日、ローマ・カトリック教会初の米国人教皇のレオ14世を「犯罪対策に弱腰でその外交政策はひどい」、「彼はあまり良い仕事をしていないと思う」と、ソーシャルメディア「Truth Social」に長文の教皇批判を投稿した。

dpa_84539667_trump_betet-1
▲キリスト教会関係者と祈るトランプ氏、ホワイトハウス公式サイトから  

 トランプ氏は「イランが核兵器を保有することを容認するような教皇は望まない。都市における犯罪を容認するような教皇も望ましくない。私はそれが気に入らない。レオ14世はあまり好きではない」と付け加えた。それに先立ち、レオ14世はトランプ大統領に対しイラン戦争の終結を促し、先週のイースターメッセージでは、「世界が暴力に対して無関心になりつつある」と、名指しこそ避けたが、トランプ氏を批判している。

 AP通信のウィル・ワイサート、ジョシュ・ボーク両記者は「トランプ大統領は12日夜、レオ14世に対し異例の激しい非難を浴びせた。レオ14世を『あまり良い仕事をしていない』、『非常にリベラルな人物だ』と指摘、『過激左派に迎合するのをやめるべきだ』と示唆し,『私はレオ14世のファンではない』と述べた」と報じた。

 AP通信は「ローマ教皇と米大統領の意見が食い違うことは珍しくないが、教皇がアメリカの指導者を直接批判することは極めて稀であり、トランプ大統領の痛烈な反論は、それ以上に異例と言えるだろう」と総括している。

 ちなみに、トランプ氏は「教皇レオ14世は感謝すべきだ。周知の通り、彼の選出はサプライズだった。教皇候補リストには載っていなかった。米国人だったからこそ教会が選んだのだ。ドナルド・J・トランプ大統領に対処する最善の方法だとコンクラーベに参加した枢機卿たちが考えたからだ。私がホワイトハウスにいなかったら、レオはバチカンにいなかっただろう」とTruth Socialで語っている。

 典型的なトランプ氏の人物評だ。日本で高市早苗首相が選挙で3分の2を超える議席を獲得して圧勝した時、トランプ氏は「私が高市首相に支持表明したからだ」と述べ、高市首相の勝利は自分の支持表明があったからだと示唆したことを思い出す。多くの日本人は当時、驚いた。

 トランプ氏はレオ14世に対し常に批判的だったわけではない。トランプ氏は昨年5月の教皇選出の時、「我が国にとって名誉なことだ。米国人の教皇が誕生したことは、我が国にとってこの上ない名誉だ。これ以上の名誉があるだろうか?少し驚いたが、大変嬉しく思っている。本当に、この上ない名誉だ」と語っていたのだ。

 レオ14世は今月11日、サン・ピエトロ大聖堂で夕方の祈祷会を執り行った。この日は、米国とイランがパキスタンで直接会談を開始した日でもあった。教皇は米国やトランプ大統領の名前を直接挙げることはなかったが、米国がその軍事的優位性を誇示し、宗教的な観点から戦争を正当化することはできないとはっきりと主張している。

 レオ14世は、「神は戦争を仕掛ける者の祈りを聞き入れず、拒絶する」と述べている。また、旧約聖書イザヤ書の一節を引用し、「あなたがたが多くの祈りを捧げても、わたしは聞かない。あなたがたの手は血で満ちている」とも語っているのだ。かなり厳しい審判だ。

 停戦合意前、トランプ大統領がイランの発電所やその他のインフラに対する大規模攻撃を警告し、「今夜、一つの文明が滅びるだろう」と述べた際、レオ14世は「そのような発言は到底容認できない」と非難している。

 トランプ大統領は「アメリカがベネズエラを攻撃したことをひどいことだと考える教皇などいらない。ベネズエラは大量の麻薬をアメリカに送り込んでいた国だ」と書き込んだ。そして「私が圧倒的な勝利で選出された目的をまさに果たしているからといって、アメリカ大統領を批判する教皇などいらない」と付け加えている。

 米国カトリック司教協議会会長のポール・S・コークリー大司教は、トランプ氏の一連の発言に「落胆した」との声明を発表した。同大司教は「レオ14世はトランプ氏のライバルではない。また、教皇は政治家でもない。教皇はキリストの代理者であり、福音の真理に基づき、人々の魂の救済のために語る方だ」と必死に諭している。

 ちなみに、1月22日、ワシントンD.C.の国防総省本部で行われたコルビー米国家安全保障担当補佐官と当時の駐米教皇大使クリストフ・ピエール枢機卿との会談は、国際社会に大きな波紋を広げた。一部のメディアは、米国政府が会談ではバチカンに圧力をかけ、トランプ大統領の政策を支持するように脅迫したというのだ。バチカン報道官のマッテオ・ブルーニ氏は後日、「一部メディアが報じた会談に関する内容は全く事実無根だ」と述べ、報道内容を一蹴した。

 ところで、ワシントンとバチカンの関係が今日、以前ほど円滑でないのは、トランプ大統領とその強引な政治スタイルだけが原因ではない。オバマ大統領時代にも緊張関係は存在していた。ベネディクト16世(2005年〜2013年)の在位中には、その緊張はさらに高まった。彼の反リベラルな政策は、当時ワシントンで勢力を誇っていた「ウォーク」派の間で公然とした不満を引き起こし、CIA内部では政権交代の可能性まで検討される事態となった。フランシスコ教皇の就任後も、例えばオバマ大統領によるシリア内戦への介入の脅迫などをめぐって、緊張が高まった、といった具合だ。

 しかし、世界最大の軍事大国と世界最大の宗教共同体との間の緊張が、今ほど明白になったことはかつてない。レオ14世は、トランプ大統領の政策の問題点ついてかなり積極的に発言している。最初は移民税関捜査局(ICE)の行動について、次にベネズエラへの介入について、そして最近では異例の率直さでイランとの戦争について発言している。レオ14世の発言はワシントンではトランプ大統領批判と受け取られてきたのだ。

レオ14世のアフリカ4カ国訪問

 ローマ教皇レオ14世は13日から23日までの11日間、アフリカ大陸の4カ国を司牧訪問する。レオ14世にとって教皇就任以来3度目の外遊で、最長の海外訪問となる。訪問国はアルジェリア、カメルーン、アンゴラ、赤道ギニアの4カ国だ。レオ14世は、4カ国でそれぞれの大統領との会談、政府関係者、市民社会代表、外交団との会談も予定されている。同4カ国では教皇は主に屋外でミサを執り行うことになっている。

cq5dam.thumbnail.cropped.500.281
▲4カ国のアフリカ諸国を訪問するローマ教皇レオ14世、バチカンニュース公式サイトから

 バチカンが公表した訪問日程によると、最初の訪問国は4月13日、アルジェリア訪問だ。イスラム教(スンニ派)を国教としたアルジェリアを訪問した教皇は過去いないが、レオ14世は、ロバート・フランシス・プレボスト枢機卿(司教)時代、アウグスティヌス修道会の長として、北アフリカ最大の国アルジェリアを2度訪れたことがある。

 イスラム教徒が大多数を占めるアルジェリアでは、レオ14世はアルジェ大モスクや内戦記念碑を訪問するほか、かつてヒッポ・レギウスと呼ばれていたアンナバへ移動し、聖アウグスティヌス大聖堂でミサを執り行う。カトリック教徒は同国人口のわずか0.2%に過ぎない。現在、アルジェリアで公式に登録されているキリスト教共同体はカトリック教会のみ。今回の訪問では、イスラム教徒とキリスト教徒の対話、そして地元のカトリック共同体の強化に重点が置かれている。

 15日にはカメルーンへ移動し、首都ヤウンデ、経済の中心地ドゥアラ、そしてバメンダでミサを執り行い、様々な会合に出席する。ドイツの植民地支配(1884年〜1916年)後、この地域はフランスとイギリスによって分割統治された。1960年/61年の独立後、カメルーンは二言語主義の遺産と国内紛争という課題に今も直面している。

 教皇レオ14世は、英語圏の都市バメンダで和平会合を開き、人々の対話を促進したいと考えている。カメルーンの司教たちは、教皇の訪問が、イスラム過激派組織ボコ・ハラムが北部で繰り返し攻撃を行っている国における団結を促すことを期待している。教皇は、世界最高齢の国家元首、 93歳のポール・ビヤ大統領と会合する。同大統領は1982年から40年以上君臨し、「表現の自由」と「報道の自由」を厳しく制限している。

 4月18日はアンゴラを訪問。アンゴラではポルトガル語が公用語だ。教皇は首都ルアンダ近郊で大規模なミサを執り行い、アンゴラで最も重要な巡礼地ムキシマにある聖母マリア聖堂を訪れる。

 この聖地はここ数年、巡礼ブームを迎えています。毎年9月初旬には、ムキシマで数十万人の巡礼者が大規模な巡礼を行う。年間を通して、200万人の巡礼者がこの聖地を訪れ、政府は観光地としての開発にも力を入れている。

 アンゴラではカトリック教会は至る所に存在する。約3800万人の人口のうち40%以上がカトリック教徒であり、プロテスタントもそれに次いで約40%を占めている。アンゴラはサハラ以南アフリカで最も古いキリスト教化地域とされている。

 アンゴラにはローマ教皇が過去2度、訪問した。1992年にはヨハネ・パウロ2世、2009年にはベネディクト16世がアンゴラを訪れた。レオ14世は首都ルアンダとムキシマ、そして北東部の都市サウリモを訪問する予定だ。

 アンゴラはアフリカで7番目に大きな経済規模を持ち、石油やダイヤモンドなどの天然資源に恵まれているが、約3800万人の人口の半数が貧困層とされている。レオ14世は、キランバでのミサで、若者の多くと出会う予定だ。中国が建設した都市キランバは、首都ルアンダから約30キロの場所に位置する。教皇はまた、約800キロ離れたサウリモ市にも足を運ぶ予定だ。

 そして最後の訪問地は4月21日から始まる赤道ギニアだ。赤道ギニアはアフリカで最も小さな国の一つで、赤道ギニアは1979年以来、テオドロ・オビアン・ングエマ・ムバソゴ大統領による独裁政権下にある。スペインの植民地支配の影響で、人口の80%以上がカトリック教徒だ

 赤道ギニアでは、国民の大部分が国の貧困ラインを下回る生活を送っており、その割合は増加傾向にある。また、基本的な自由も著しく制限されている。レオ14世は、同国最大の都市バタの囚人を訪問する予定だ。さらに、2021年に発生した一連の大規模爆発の犠牲者を追悼する。この爆発では100人以上が死亡し、多くの人々が家を失った。旧首都マラボでのスタジアムミサは、ローマに戻る前のアフリカ大陸における最後の行事となる。

 なお、最新の教会統計によると、アフリカにおけるカトリック信者の数は平均を上回るペースで増加し、直近の統計では2023年の2億8100万人から2024年には2億8800万人強へと2.7%増加した。世界のカトリック信者の5分の1以上がアフリカに居住していることになる。その一方、今回訪問する4カ国を含め、政治的には独裁国家が多く、腐敗、汚職が広がっている。

 レオ14世は訪問先の国々で政治情勢にどれだけ踏み込んで言及するだろうか。2023年初頭にアフリカ大陸を訪問した前教皇フランシスコとは異なり、米国人の教皇は政治問題に関しては控えめな姿勢を貫き、通常は外交的かつ融和的な態度に終始してきた。オーストリアのカトリック通信は「訪問先のアフリカではこれまでとは異なる姿勢を示す必要があるだろう」と指摘し、「独裁政権に対して教会の明確な考えを示すべきだ」と助言している。
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

Recent Comments
Archives
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ