米軍が21日(日本時間22日午前)、イランの3か所の核施設を空爆したことで、イスラエルとイラン間の戦争は米軍の参戦で、「歴史的転換点」(イスラエルのネタニヤフ首相)を迎えた。同時に、戦争が中東全土に拡散することを阻止するための懸命な外交活動が進められてきた。

▲ネタニヤフ首相「イラン攻撃に関する声明」発表,2025年6月13日、イスラエル首相府公式サイトから
ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は23日、米軍のイラン核施設空爆による安全問題などについて特別理事会を招集した。一方、欧州連合(EU)は同日、ブリュッセルで外相会議を開き、イスラエルとイラン間の戦争のエスカレーション防止について話し合った。また、24日からオランダのハーグで北大西洋条約機構(NATO)の首脳会談が開かれ、トランプ米大統領も参加する予定だ。同首脳会談では中東情勢についても32か国の加盟国が協議する、といった具合だ。
「戦争は外交の敗北を意味する」といわれるが、有名な動画「トラベリング・イスラエル」は「欧米諸国は外交による政治交渉で紛争を解決するために腐心しているが、イスラエル・イラン間の紛争は宗教戦争であるという認識に欠けている」と指摘している。
また イスラエルの著名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏はレックス・フリードマン氏のポッドキャストで、「問題が国家的、民族的なものだったら、妥協や譲歩は可能だが、信仰や宗教的な対立となれば、妥協が出来なくなる。イスラエルとパレスチナ問題は既に宗教的な対立になってきている。それだけに、解決が一層難しいのだ」と語ったことがある。
中東は「信仰の祖」アブラハムから発生したユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教と世界3大の唯一神教が誕生した地だ。そして歴史を通じて戦ったり、時には共存したりしてきた。イスラエルが1948年、パレスチナ地域で建国して以来、イスラエルと他の中東アラブ諸国との間で戦いが激化してきた。
中東では現在、キリスト教徒への迫害が激しくなっている。イラク、シリアなどで少数宗派のキリスト教徒はイスラム根本主義勢力によって迫害され、追われている。イスラム教徒によれば、イスラム教徒ではないことはアラーへの不敬と受け取られ、非イスラム教徒の迫害は敬虔なイスラム教徒の義務と考えられているというのだ。
ユダヤ民族のイスラエルとイスラム教シーア派のイラン間の戦争の背後にも宗教的対立がある。ネタニヤフ首相は「イスラム国家のイランに核兵器を絶対に保有させない」と表明してきた。すなわち、イランがイスラム国家だという事実がネタニヤフ氏の「イラン拒否」の大きな理由となっているのだ。
ところで、北朝鮮は核兵器を製造したが、なぜ極東アジアの小国・北朝鮮が中東の大国イランより核兵器を早く保有できたのだろうか。その答えの一つは、北の核開発問題では周辺諸国で政治的、戦略的な対立はあったが、宗教的な対立問題は全くなかったからだ。
ちなみに、神学者ヤン・アスマン教授は、「「唯一の神への信仰(Monotheismus)には潜在的な暴力性が内包されている。絶対的な唯一の神を信じる者は他の唯一神教を信じる者を容認できない。そこで暴力で打ち負かそうとするのだ」と説明している。
そこで提案だ。紛争解決のために政治家や外交官が交渉テーブルについて話し合うことは当然だが、中東問題ではやはり宗教指導者の関与が不可欠となる。宗派間の和解がない限り、実効性のある合意は実現できないからだ。
宗教指導者には、紛争や戦争が眼前で展開されている時、それを止めさせる使命がある。特に、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は「信仰の祖」アブラハムから派生した宗教だ。換言すれば、同じアブラハム家出身の兄弟といえる。兄弟同士が残虐な武器を持って互いに殺し合う戦争は本来、あってはならないのだ。
イランが2015年7月、国連安保理常任理事国の米英仏露中にドイツを加えた6カ国と核合意を実現し、包括的共同作業計画(JCPOA)が明らかになった時、イスラエル側はその核合意に強く反発し、軍事力による核関連施設の破壊を計画し出した。イスラエルにはイスラム教国のイランに強い不信があるからだ。
このコラム欄で「民衆は獅子のように立ち上がる」(2025年6月14日)を書いた。ネタニヤフ首相はイラン攻撃の前日(6月12日)、ユダヤ教の最も神聖な礼拝所、エルサレムの旧市街にある聖地「嘆きの壁」を巡礼している。国難に直面し、ネタニヤフ氏は自身のユダヤ民族のルーツに戻り、ヘブライ語聖書の世界に引き寄せられたのではないか。
米軍がイランの3か所の核施設を空爆したが、繰り返すが、宗派間の和解と連携がない限り、イランの核開発計画は完全には消滅しないだろう。破壊された施設に第2のウラン濃縮施設が再建され、イランはイスラエルに再び立ちはだかるだろう。

▲ネタニヤフ首相「イラン攻撃に関する声明」発表,2025年6月13日、イスラエル首相府公式サイトから
ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は23日、米軍のイラン核施設空爆による安全問題などについて特別理事会を招集した。一方、欧州連合(EU)は同日、ブリュッセルで外相会議を開き、イスラエルとイラン間の戦争のエスカレーション防止について話し合った。また、24日からオランダのハーグで北大西洋条約機構(NATO)の首脳会談が開かれ、トランプ米大統領も参加する予定だ。同首脳会談では中東情勢についても32か国の加盟国が協議する、といった具合だ。
「戦争は外交の敗北を意味する」といわれるが、有名な動画「トラベリング・イスラエル」は「欧米諸国は外交による政治交渉で紛争を解決するために腐心しているが、イスラエル・イラン間の紛争は宗教戦争であるという認識に欠けている」と指摘している。
また イスラエルの著名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏はレックス・フリードマン氏のポッドキャストで、「問題が国家的、民族的なものだったら、妥協や譲歩は可能だが、信仰や宗教的な対立となれば、妥協が出来なくなる。イスラエルとパレスチナ問題は既に宗教的な対立になってきている。それだけに、解決が一層難しいのだ」と語ったことがある。
中東は「信仰の祖」アブラハムから発生したユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教と世界3大の唯一神教が誕生した地だ。そして歴史を通じて戦ったり、時には共存したりしてきた。イスラエルが1948年、パレスチナ地域で建国して以来、イスラエルと他の中東アラブ諸国との間で戦いが激化してきた。
中東では現在、キリスト教徒への迫害が激しくなっている。イラク、シリアなどで少数宗派のキリスト教徒はイスラム根本主義勢力によって迫害され、追われている。イスラム教徒によれば、イスラム教徒ではないことはアラーへの不敬と受け取られ、非イスラム教徒の迫害は敬虔なイスラム教徒の義務と考えられているというのだ。
ユダヤ民族のイスラエルとイスラム教シーア派のイラン間の戦争の背後にも宗教的対立がある。ネタニヤフ首相は「イスラム国家のイランに核兵器を絶対に保有させない」と表明してきた。すなわち、イランがイスラム国家だという事実がネタニヤフ氏の「イラン拒否」の大きな理由となっているのだ。
ところで、北朝鮮は核兵器を製造したが、なぜ極東アジアの小国・北朝鮮が中東の大国イランより核兵器を早く保有できたのだろうか。その答えの一つは、北の核開発問題では周辺諸国で政治的、戦略的な対立はあったが、宗教的な対立問題は全くなかったからだ。
ちなみに、神学者ヤン・アスマン教授は、「「唯一の神への信仰(Monotheismus)には潜在的な暴力性が内包されている。絶対的な唯一の神を信じる者は他の唯一神教を信じる者を容認できない。そこで暴力で打ち負かそうとするのだ」と説明している。
そこで提案だ。紛争解決のために政治家や外交官が交渉テーブルについて話し合うことは当然だが、中東問題ではやはり宗教指導者の関与が不可欠となる。宗派間の和解がない限り、実効性のある合意は実現できないからだ。
宗教指導者には、紛争や戦争が眼前で展開されている時、それを止めさせる使命がある。特に、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は「信仰の祖」アブラハムから派生した宗教だ。換言すれば、同じアブラハム家出身の兄弟といえる。兄弟同士が残虐な武器を持って互いに殺し合う戦争は本来、あってはならないのだ。
イランが2015年7月、国連安保理常任理事国の米英仏露中にドイツを加えた6カ国と核合意を実現し、包括的共同作業計画(JCPOA)が明らかになった時、イスラエル側はその核合意に強く反発し、軍事力による核関連施設の破壊を計画し出した。イスラエルにはイスラム教国のイランに強い不信があるからだ。
このコラム欄で「民衆は獅子のように立ち上がる」(2025年6月14日)を書いた。ネタニヤフ首相はイラン攻撃の前日(6月12日)、ユダヤ教の最も神聖な礼拝所、エルサレムの旧市街にある聖地「嘆きの壁」を巡礼している。国難に直面し、ネタニヤフ氏は自身のユダヤ民族のルーツに戻り、ヘブライ語聖書の世界に引き寄せられたのではないか。
米軍がイランの3か所の核施設を空爆したが、繰り返すが、宗派間の和解と連携がない限り、イランの核開発計画は完全には消滅しないだろう。破壊された施設に第2のウラン濃縮施設が再建され、イランはイスラエルに再び立ちはだかるだろう。