米軍は21日夜(日本時間22日午前)、イランの3つの核施設に爆弾を投下した。その直後、トランプ大統領はホワイトハウスから国民に向かって演説し、「米軍の攻撃は成功した。イランの核施設は完全に破壊された。イラン政府は平和の道を選択するか、それとも破壊の道を行くか決めなければならない」と指摘した。そして「イランが報復攻撃に乗り出し、米国人に被害が出た場合、今回以上の激しい攻撃を行うことになる」と警告を発した。

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▲国民に結束を呼び掛けるイランのペゼシュキアン大統領(右)、イラン大統領府公式サイトから、2025年6月21日

 トランプ大統領はイラン攻撃参戦の理由として、「イランは3週間内に10個の核兵器を製造する計画だった。国際テロ組織を支援するイランが核兵器を保有すれば世界は恐ろしいことになる」と説明した。「イランが10個の核兵器を3週間内に製造する間際だった」というトランプ氏の発言内容は今回初めて明らかにしたものだ。ちなみに、ギャバード米国家情報長官は3月、「イランは核兵器を製造していない」と発言している。トランプ氏は今月20日、同長官の発言を「間違っている」と否定したばかりだ。

 米軍の参戦に対して、イスラエルのネタニヤフ首相は「トランプ大統領に感謝する。歴史的転換の日だ」と歓迎し、「平和はまず力で実現されるものだ。その逆ではない」と強調した。

 一方、イランのアラグチ外相は「米国は国連憲章を無視した犯罪だ」と批判し、国連安全保障理事会に米国のイラン攻撃についての緊急会合を要請すると共に、「わが国は報復する」と主張した。また、イラン原子力担当関係者は「われわれは核開発計画を継続する」と述べた。同国当局によると、米軍がバンカーバスター弾を投下したフォルドウの地下濃縮施設は上部が破壊されたが,地下の施設には問題がないという。ちなみに、米軍が攻撃した3か所の核関連施設はナタンズのウラン濃縮施設、イスファハン施設、そしてフォルドウ地下施設。ウィーンの国際原子力機関(IAEA)によると、イランの3か所の核関連施設からの放射能漏れは今のところ報告されていないという。

 米軍がイラン攻撃に加わったことで、中東の米軍基地へのイランの報復攻撃のほか,パレスチナのイスラム過激テロ組織「ハマス」やレバノンの民間武装組織「ヒズボラ」,イエメンのシーア派武装勢力「フーシ派」などからイスラエル、米国関連施設への攻撃が予想される。それだけに、トランプ政権は世界各地の米国関連施設、大使館・領事館の警備を一層強化するとともに、要人の警備体制を高める予定だ。

 ところで、トランプ氏は19日、米軍のイラン攻撃について「2週間以内に決定する」と述べていたが、その2日後、イラン攻撃にゴーサインを出したことになる。米国では民主党下院のジェフリーズ院内総務が「議会への報告なくして戦争を始めた」としてトランプ氏の議会無視を批判。共和党はトランプ氏の決定をほぼ支持しているが、トランプ氏の「米国を再び偉大な国に」(MAGA)の支持基盤から「海外の戦争や紛争には関与しないと公約していたにもかかわらず、イラン攻撃に参戦した」として不満の声が出ている。トランプ氏の政権運営が困難になる危険性も排除できない。

 一方、イランは米軍参戦の事態に直面し、現体制の維持に腐心してきた。テヘランからの情報によると、イラン当局はインターネットの使用を制限する一方、体制批判する国民への弾圧を強めてきた。米メディアによると、イランの最高指導者ハメネイ師は既に後継者を選出し、自身が殺害された場合も国内が混乱しないように対応しているという。
 
 イスラエル軍は13日、イラン攻撃を開始、そして21日、米軍が参戦したことで、イラン側は追い込まれてきたが、地上軍の派遣なくして空爆だけで大国イランを完全に制圧することは軍事的には難しい。最終的には、米国と「弱体化したイラン」が交渉を通じて何らかの合意を実現する方向に行く可能性が考えられる。

 懸念される点は、イランが既に製造済みの濃縮60%以上のウラン約409キログラムの行方だ。イラン側は「安全な場所に運んだ」と述べているが、その真偽は確認されていない。最悪のシナリオは、イランがダーティ爆弾(汚い爆弾)をイスラエル側に投下することだ。

 なお、イランは22日午前(現地時間)、米軍の攻撃後もイスラエルに向けてミサイルを発射し、テルアビブや湾岸都市ハイファではミサイルが着弾して、多数の負傷者が出ている。イスラエルのイラン攻撃はまだ終わっていない。