トランプ米大統領の号令待ちといった感じだが、イスラエル軍のイラン攻撃はいよいよ最後の一撃を加える段階に突入してきた。戦争嫌いで知られるトランプ氏のことだから米軍の参戦を最後の土壇場で避けるかもしれないが、イスラエル側は米軍の参戦云々とは関係なく、イランの核関連・軍事拠点に最後の一撃を加えることに躊躇しないだろう。

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▲テヘランの集会、トランプ大統領の発言を非難、イスラエルの犯罪を非難,2025年6月18日、Tasnim通信から

 一方、イランのハメネイ師は依然、「米軍の脅しに屈してはならない」と強がりを言っているようだが、本人は地下壕に入って身を潜めている。ちなみに、イスラエルでは敵軍の攻撃が近いと軍当局が警報を流して国民に通報し、国民はすばやく近くのバンカーに逃げることができる。イランの首都テヘランの場合、市民が直ぐに逃げることができるバンカーはほとんどない。

 イスラエル軍の攻撃が激しくなってきたことを受け、テヘランから避難する市民の車の列が長く、道路は渋滞状況だ。ただし、車に必要なガソリンだが、世界有数の原油輸出国イランでは国民は車一台で15リットルしかガソリンを入れることができない。ガソリンの配給制だ。だから、車で家族と一緒に避難しようとしても15リットルのガソリンが切れたならそれまでだ。

 もちろん、ペルシャ民族の国民は賢明だから、「Xデー」のためにガソリンを蓄えてきた人も少なくないはずだ。国が国民の危機管理に関心がないので、国民は自身の危機管理をして生き延びていくしかないのだ。

 イランから空路で隣国に逃げようと考えるエリート国民はいるだろうが、テヘラン国際空港は既にイスラエル軍によって攻撃を受け、飛行機の離着陸ができない状況だ。軍ヘリコプターはあるが、それは命取りとなる危険が伴うのだ。

 思い出してほしい。ハメネイ師の後継者と見られたライシ大統領は昨年5月19日、搭乗していたヘリコプターの墜落事故で死去したのだ。大統領が登場するヘリコプターが部品不足で墜落したのだ。米国がイランに制裁しているために飛行機部品が手に入らないのだ。

 イラン航空はよく墜落するといわれてきた。当方の知人の一人、イラン出身の国連担当ジャーナリストは定期的に家族がいるテヘランに帰国するがイラン航空は使わず、トルコ航空経由で帰国するという。だから、ハメネイ師がロシアに亡命しようとした場合、命がけの逃避飛行となるのだ。イランに留まるのも危険、逃亡するのも命がけ、というのがハメネイ師を含むイランのエリート層の避難事情だろう。

 ところで、イラン国民はどこに逃げることができるかだ。多くの国民は国内避難民として安全な地域を探すだろうが、外国まで逃避するケースもある。イランは東にはトルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタン、西にはトルコ、イラク、アゼルバイジャンやアルメニアと国境を接している。現地からの情報によると、イラクに逃げる国民が多い。イラクにはシーア派が多数いるからだ。アゼルバイジャンもシーア派国民が多いが、イスラエルとはここにきて関係が改善されてきたこともあって、イラン国民は躊躇するかもしれない。パキスタンは国境を閉鎖してイランからの避難民の殺到を回避している、といった具合だ。ちなみに、北はカスピ海、南はペルシャ湾だ。

 ユダヤ民族はディアスポラで世界を放浪してきた。1948年、放浪しなくてもいい独自の国家イスラエルを建国した。ただし、周辺は全て反イスラエルを国是とするアラブ諸国だった。その構図もここにきて次第に変化してきた。

 ユダヤ民族が忘れてはならないことは、イランがペルシャと呼ばれていた時代、ペルシャ王朝のクロス王がBC538年、ユダヤ民族を解放し、エルサレムに帰還させたことだ。クロス王が神の声に従ってユダヤ人を解放しなければ、現在のイスラエルは存在していなかっただろう(「旧約聖書「エズラ記」)。このコラム欄では何度か書いてきたが、イランのマフムード・アフマディネジャド前大統領が、「イスラエルを地上の地図から抹殺してしまえ」と暴言を発したこともあって、イスラエルとイランは常に対立してきたと考えがちだが、事実はそうではないのだ

 国際政治は愛や善意で動かないが、それとまったくかけ離れた原理で機能しているわけでもない。やはり、被災した他国民への善意や愛は人の心ばかりか国家をも動かす力を持っている。イスラエルはイラン国民の避難を援助してほしい。ちなみに、イスラエル軍はテヘラン攻撃を激しくする直前、テヘラン市民に避難するように呼び掛けていた。