イスラエルは13日早朝(現地時間)、イランの核施設と軍事拠点を破壊するため戦闘機約200機を出動させ、約100か所に攻撃を開始した。以下、「ライジング・ライオン作戦」と呼ばれるイスラエル軍のイラン攻撃のタイミングについて少し検証してみたい。戦争開始にグットタイミングといった表現は相応しくないが、イスラエル側の冷静な地政学的判断が目立つ。

▲テヘランでは数万人の市民がシーア派の祝日「イード・アル=カディール」を祝う。2025年6月14日、IRNA通信
13日が金曜日だったことから、イエス・キリストが十字架に受難した日に当たるとして、キリスト信者の中には不吉な日と考えた人もいただろう。それはいいとして、戦争勃発の前日(12日)、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)がイランの核計画が不透明なうえ、IAEAが要求する査察などを拒否するなど「イランがIAEAの核監視業務に協力する義務に違反した」と認定する非難決議を賛成多数で採択した。すなわち、イランの核開発が国際機関によって改めて‘問題あり‘と表明されたわけだ。
それを受け、ネタニヤウ首相は13日、「イランは原爆9個分に当たる濃縮ウランを製造し、核兵器を製造できる寸前までにきている。イスラエルはイランが核兵器を製造することを絶対に許さない」と宣言し、イラン攻撃が同国の核関連施設と軍事施設への攻撃が目的であると述べた。同首相にとって、IAEAの対イラン非難決議案採決はイスラエルのイラン攻撃にお墨付きを得たようなものだったはずだ。
次に、イランを取り巻く政治情勢を振り返る。イランはホメイニー師がパリの亡命先から帰国し、イスラム教国家を建設していったイラン革命(1979年)以来、イスラエルはイランの最大の敵とみなされた(イランのパフラヴィー国王時代はイスラエルとは友好関係だった)。そしてこれまでイスラエル包囲網を構築していった。イランのアハマディネジャド大統領は2008年6月、「イスラエルを地図上から抹殺すべきだ」と豪語を発した。しかし、ここにきてイランが長年、軍事支援してきたイスラム過激武装組織がことごとく弱体化してきたのだ。
イスラエルに奇襲テロ(2023年10月7日)を行ったパレスチナ自治区のイスラム過激テロ組織「ハマス」はイスラエル軍の報復攻撃で指導者は殺害され、ほぼ壊滅寸前だ。レバノンのシーア派武装組織「ヒズボラ」の最高指導者ナスララ師は昨年10月、イスラエル軍に殺害された。一方、イランがロシアと共に軍事支援してきたシリアのアサド政権は昨年12月、崩壊し、2代にわたり半世紀余りを君臨したアサド政権は消滅した。すなわち、イランが巨額の資金と軍事援助をしてきた反イスラエル包囲網は現在、存続の危機、ないしは無力化しているのだ。イスラエルがイラン攻撃でハマスやヒズボラといった武装組織の大規模な反撃を懸念する必要は少なくなった。
イスラエルは中東ではイスラム国家に包囲された小国家だ。どこをみても反イスラエルを掲げている。それがトランプ米大統領の一期目、アラブ諸国でイスラエルと国交を樹立する国が出てきた。その背後には、米国からの圧力もあったが、イスラエルの最先端科学技術を土台として経済力に関心が高まってきた事がある(イスラエルは、1979年にエジプト、94年にヨルダンと平和条約を締結、2020年にはUAE=アラブ首長国連邦、バーレーン、スーダン、モロッコと国交正常化に合意した)。
中東のカギを握るサウジアラビアとイスラエルの関係が正常化するならば、中東の治安は一段と安定する。ガザ紛争とイラン攻撃でサウジ側はイスラエルとの関係正常化に躊躇する姿勢を見せているが、両国の国交回復はもはや時間の問題だろう。イランはシーア派の代表国だ。一方、サウジはエジプト共にスンニ派の盟主だ。シーア派のイランが核兵器を製造することを最も警戒してきたのはサウジの実質的最高指導者ムハンマド皇太子だ。その意味で、イスラエル軍のイラン核関連施設破壊は願ってもないことだ。
イランの同盟国ロシアと中国の動きだが、ロシアにはイスラエルを批判したとしてもイランに具体的な軍事支援はできないだろう。ロシアとイラン両国は長い間、軍事協定の締結を目指してきたが、ロシアの北朝鮮との軍事協定のように、相互軍事支援という内容はない。例えば、ロシアと北朝鮮は昨年6月、一種の軍事協定に「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。この場合、北朝鮮が他国から攻撃された場合、ロシアは北側の防衛する義務がある。一方、イランがイスラエル軍の攻撃されたとしても、ロシアにイランを軍事支援しなければならない義務事項はない。ただし、ロシアにとって無人機供給国のイランがその能力を失うことだけは回避したいはずだ。その点、イランから原油を輸入している中国にも言える。王毅共産党政治局員兼外相は14日、イスラエル外相との電話会談でイラン攻撃を批判する一方、仲介する意図を表明しているが、具体策はない。
以上、イスラエルは13日早朝、長い間準備してきたイラン攻撃を始めたが、そのタイミングはこの上もないグット・タイミングだったわけだ。ネタニヤフ首相が言うように、イランの核開発を今ストップしなければ、中東全土に更に大規模な紛争が起きる危険性が出てくる。イスラエル軍がイランの核施設への攻撃に集中している限り、中東アラブ諸国はイスラエルに強く反対はしないだろう。イラン攻撃が契機となってアラブ中東諸国が参戦し、大規模な戦争に発展するといったシナリオは現時点では非現実的だ。

▲テヘランでは数万人の市民がシーア派の祝日「イード・アル=カディール」を祝う。2025年6月14日、IRNA通信
13日が金曜日だったことから、イエス・キリストが十字架に受難した日に当たるとして、キリスト信者の中には不吉な日と考えた人もいただろう。それはいいとして、戦争勃発の前日(12日)、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)がイランの核計画が不透明なうえ、IAEAが要求する査察などを拒否するなど「イランがIAEAの核監視業務に協力する義務に違反した」と認定する非難決議を賛成多数で採択した。すなわち、イランの核開発が国際機関によって改めて‘問題あり‘と表明されたわけだ。
それを受け、ネタニヤウ首相は13日、「イランは原爆9個分に当たる濃縮ウランを製造し、核兵器を製造できる寸前までにきている。イスラエルはイランが核兵器を製造することを絶対に許さない」と宣言し、イラン攻撃が同国の核関連施設と軍事施設への攻撃が目的であると述べた。同首相にとって、IAEAの対イラン非難決議案採決はイスラエルのイラン攻撃にお墨付きを得たようなものだったはずだ。
次に、イランを取り巻く政治情勢を振り返る。イランはホメイニー師がパリの亡命先から帰国し、イスラム教国家を建設していったイラン革命(1979年)以来、イスラエルはイランの最大の敵とみなされた(イランのパフラヴィー国王時代はイスラエルとは友好関係だった)。そしてこれまでイスラエル包囲網を構築していった。イランのアハマディネジャド大統領は2008年6月、「イスラエルを地図上から抹殺すべきだ」と豪語を発した。しかし、ここにきてイランが長年、軍事支援してきたイスラム過激武装組織がことごとく弱体化してきたのだ。
イスラエルに奇襲テロ(2023年10月7日)を行ったパレスチナ自治区のイスラム過激テロ組織「ハマス」はイスラエル軍の報復攻撃で指導者は殺害され、ほぼ壊滅寸前だ。レバノンのシーア派武装組織「ヒズボラ」の最高指導者ナスララ師は昨年10月、イスラエル軍に殺害された。一方、イランがロシアと共に軍事支援してきたシリアのアサド政権は昨年12月、崩壊し、2代にわたり半世紀余りを君臨したアサド政権は消滅した。すなわち、イランが巨額の資金と軍事援助をしてきた反イスラエル包囲網は現在、存続の危機、ないしは無力化しているのだ。イスラエルがイラン攻撃でハマスやヒズボラといった武装組織の大規模な反撃を懸念する必要は少なくなった。
イスラエルは中東ではイスラム国家に包囲された小国家だ。どこをみても反イスラエルを掲げている。それがトランプ米大統領の一期目、アラブ諸国でイスラエルと国交を樹立する国が出てきた。その背後には、米国からの圧力もあったが、イスラエルの最先端科学技術を土台として経済力に関心が高まってきた事がある(イスラエルは、1979年にエジプト、94年にヨルダンと平和条約を締結、2020年にはUAE=アラブ首長国連邦、バーレーン、スーダン、モロッコと国交正常化に合意した)。
中東のカギを握るサウジアラビアとイスラエルの関係が正常化するならば、中東の治安は一段と安定する。ガザ紛争とイラン攻撃でサウジ側はイスラエルとの関係正常化に躊躇する姿勢を見せているが、両国の国交回復はもはや時間の問題だろう。イランはシーア派の代表国だ。一方、サウジはエジプト共にスンニ派の盟主だ。シーア派のイランが核兵器を製造することを最も警戒してきたのはサウジの実質的最高指導者ムハンマド皇太子だ。その意味で、イスラエル軍のイラン核関連施設破壊は願ってもないことだ。
イランの同盟国ロシアと中国の動きだが、ロシアにはイスラエルを批判したとしてもイランに具体的な軍事支援はできないだろう。ロシアとイラン両国は長い間、軍事協定の締結を目指してきたが、ロシアの北朝鮮との軍事協定のように、相互軍事支援という内容はない。例えば、ロシアと北朝鮮は昨年6月、一種の軍事協定に「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。この場合、北朝鮮が他国から攻撃された場合、ロシアは北側の防衛する義務がある。一方、イランがイスラエル軍の攻撃されたとしても、ロシアにイランを軍事支援しなければならない義務事項はない。ただし、ロシアにとって無人機供給国のイランがその能力を失うことだけは回避したいはずだ。その点、イランから原油を輸入している中国にも言える。王毅共産党政治局員兼外相は14日、イスラエル外相との電話会談でイラン攻撃を批判する一方、仲介する意図を表明しているが、具体策はない。
以上、イスラエルは13日早朝、長い間準備してきたイラン攻撃を始めたが、そのタイミングはこの上もないグット・タイミングだったわけだ。ネタニヤフ首相が言うように、イランの核開発を今ストップしなければ、中東全土に更に大規模な紛争が起きる危険性が出てくる。イスラエル軍がイランの核施設への攻撃に集中している限り、中東アラブ諸国はイスラエルに強く反対はしないだろう。イラン攻撃が契機となってアラブ中東諸国が参戦し、大規模な戦争に発展するといったシナリオは現時点では非現実的だ。