イスラエル軍は13日未明(日本時間同日朝)、イラン中部ナタンズのウラン濃縮施設や各地の軍関連施設を標的に攻撃を加えた。イランのIRNA通信によれば、首都テヘランなどで複数の爆発音が聞こえ、イラン軍参謀総長モハメド・バゲリ少将、イスラム革命防衛隊(IRGC)総司令官ホセイン・サラミ少将をはじめとする軍人指導者がイスラエル軍の攻撃で暗殺された。また、核開発に関与していた核物理学者たちも殺害された。イランの最高指導者ハメネイ師はイスラエルへの報復を宣言。イラン軍は同日午前、約100基の無人機をイスラエル攻撃に向け発射させたばかりだ。イスラエル側は非常事態を宣言し、国民に注意するように呼び掛けている。
 なお、ニュースサイト「Walla」や「Maariv」といったイスラエルのメディアは12日、イスラエルがイラン攻撃の準備を完了したと報じていた。イスラエル軍の今回のイラン攻撃は昨年10月以来、2回目だ。

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▲イスラエル軍、イランの首都テヘランや他の都市を攻撃,2025年6月13日未明、IRNA通信から

 それに先立ち、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は12日、定例理事会でイランの核不拡散義務違反を批判する決議を可決されたばかりだ。IAEAは先月31日、イランの核活動に関する包括的な報告書を加盟国に送付し、核不拡散のためのIAEAの活動に対するイランの協力について、「満足いくものではない」と批判した。IAEAによると、イランによる濃縮度最大60%のウランの保有量は、5月17日時点で3カ月前から133.8キロ増の推定408.6キロとなり、核爆弾9個分に相当する。IAEAは「高濃縮ウランの生産と備蓄を大幅に拡大させており、深刻な懸案事項だ」と指摘した。

 それに対し、イラン外務省とイラン原子力庁は5月31日、共同声明を出し、IAEAがまとめたイラン核活動に関する包括的な報告書について「根拠のない主張」と一蹴。また、テヘランはIAEAのイラン非難決議に即座に反応し、新たなウラン濃縮施設の建設と生産量の増加を発表した。同時に、国営メディアは、イラン軍が12日、予定より早く軍事演習を開始したと報じた。演習の焦点は「敵の動き」だと報じた。

 イランは昨年10月1日、イスラエルが9月27日、イランが軍事支援するレバノンのシーア派武装勢力「ヒズボラ」の最高指導者ナスララ師を殺害した報復として約180発の弾道ミサイルをイスラエルに向けて発射した。それに対して、イスラエルは10月26日、イランに報復攻撃。イスラエル側の発表では、3基のS−300地対空ミサイルシステムが破壊され、イランはロシア製のこの防空システムを失った。また、ロケット用固体燃料の部品製造施設が破壊された。
 
 イランはイスラエル軍の攻撃が近いことを受け、今年に入り、ペルシャ語で「信頼」を意味するエテマドと名付けられた射程距離1,700キロメートルの新型弾道ミサイルを初公開している。エテマドはイラン国防省が開発した最新の弾道ミサイル。長さ16メートル、直径は1.25メートルで、衝突するまでミサイルを操縦できる誘導弾頭を備えている。また、イランはロシア製最新戦闘機SU-35を購入したという。イスラエル空軍の主用戦闘機F−35対策だ。

 なお、イスラエル軍のイラン攻撃に米軍の関与はなかったという。米国はイランの核兵器保有阻止に向けて同国との核協議を優先。トランプ米大統領は3月7日、核交渉の可能性を念頭にハメネイ師に書簡を送り、対話を求めている。ルビオ米国務長官は今回のイスラエル軍のイラン攻撃について、「イスラエルが単独行動を取った」と表明。米軍基地などを報復の対象にしないようイランに警告した。

 ちなみに、イランを取り巻く政治・経済情勢は厳しい。イランは、宿敵イスラエルを打倒するためにこれまでパレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激派テロ組織「ハマス」、レバノンの民間武装組織ヒズボラ、イエメンの反体制派武装組織フーシ派に軍事支援してきた。同時に、アサド政権下のシリアに対してもロシアと共に軍事支援してきた。しかし、ハマスはイスラエル軍の報復攻撃を受けてほぼ壊滅状況だ。ヒズボラはイスラエル軍によって最高指導者ナスララ師が殺害され、統制が難しくなってきた。そしてアサド政権の崩壊だ。

 ドイツ民間ニュース専門局ntvは13日、イランの同盟国、ロシアは「イスラエルのイラン攻撃は正当化できるものではない」というロシア外務省関係者のコメントを報じている。