「ウクライナは単なる始まりに過ぎない」、「モスクワは北大西洋条約機構(NATO)の結束をテストしたいのだ」・・ドイツ連邦情報局(BND)のブルーノ・カール長官は9日、自身のポッドキャストでこのように警告した。

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▲BNDのブルーノ・カール長官、BND公式サイトから

 カール長官は「ロシアの拡張主義的な動きを過小評価すべきではない。ロシアにとってウクライナが西側への道のほんの一歩に過ぎないことを裏付ける情報証拠がある」という。また、「モスクワには、NATO第5条がもはや機能していないと考えている人々がいる。彼らはそれをテストしたいのだ」と指摘する。

 NATOの第5条には、加盟国が一国でも攻撃を受けた場合、NATO加盟国全てへの攻撃とみなし、集団的自衛権の行使が規定されている。米国内同時テロ事件(2001年9月)の時、加盟国・米国への攻撃と受け取り、NATOは第5条を初めて発動させたことがある。

 カール長官は、「ロシアは米国を欧州から追い出したい。そのためにはどんな手段も使うだろう。ロシアはそのために大規模な爆撃を行ったり、戦車部隊を派遣したりする必要はない。抑圧されているロシアの少数民族を守るためと称して、エストニアに小規模の軍隊を派遣するだけで十分だ」という。

 カール長官は「ロシアとの交渉には期待は持てない。プーチン大統領は攻撃的な姿勢をとってきたが、その姿勢に変化は見られない。戦争を防ぎ、血を流さない最善の方法はNATO側の抑止力の強化だ」と主張した。そして、最近のウクライナとロシア間の直接協議に言及し、「実際に要求されている内容はウクライナの降伏であり、それ以外の何物でもない」と述べた。

ちなみに、トルコの国際都市イスタンブールで開催されたロシア・ウクライナ直接協議の第2回目は2日、1時間余りで終了した。ロシア側(メジンスキー大統領補佐官)がウクライナ代表団(ウメロフ国防相)に提示した3ページの覚書の全容はウクライナ側に全面降伏を要求するものだった。例えば、クリミア半島、ドネツィク、ルハンシク、ヘルソン、ザポリージャの各州がロシア連邦の一部であることをウクライナが国際的に拘束力のある形で承認することを求めている。

 ところで、問題は、ロシアがNATO加盟国に侵略した場合、米大統領は自国の兵士を欧州に派遣するだろうかだ。この点について、トランプ大統領は過去、曖昧な発言をしてきた経緯がある。
 NATO首脳会談は今月24,25日の両日、NATO本部があるオランダのハーグで開催される。トランプ米大統領も出席する予定だ。同大統領のNATOへのコミットメントが注目されるゆえんだ。

 なお、BNDのトップがロシアの拡張主義的野心に警告を発することはこれまでは考えられなかった。BNDは今年に入り、中国武漢発の新型コロナウイルスの発生源問題で「武漢ウイルス研究所(WIV)流出説」を主張する証拠を発表するなど、ここにきて積極的に情報活動を展開させている。