とうとう飛び出してしまった、といった感がある。ドイツのメルツ首相は26日、ベルリンで開催されたドイツ公共放送「西部ドイツ放送」(WDR)主催の「ヨーロッパフォーラム」で、イスラエルのガザでの行動について、「ガザの民間人の苦しみはもはやハマスのテロとの戦いによって正当化されることはない」と強調し「イスラエル政府は最良の友人でさえも受け入れることができなくなるようなことをしてはならない」と、イスラエルのガザ戦闘を厳しく批判した。

▲「ヨーロッパフォーラム」で語るメルツ首相、2025年5月26日、ドイツ首相府公式サイトから
ドイツでは過去、個々の政治家がイスラエルを批判することがあっても、政府レベル、首相が公の場でイスラエル政府を非難することはなかった。ドイツではイスラエルに対して無条件で支援するという国家理念(Staatsrason)があって、それがドイツの国是となってきた。その背景には、ドイツ・ナチス軍が第2次世界大戦中、600万人以上のユダヤ人を大量殺害した戦争犯罪に対して、その償いという意味もあって戦後、経済的、軍事的、外交的に一貫としてイスラエルを支援、援助してきた経緯がある。
ドイツとイスラエル両国は今年、外交関係を樹立して60周年を迎えた。イスラエルからはヘルツォーク大統領がドイツからはシュタインマイヤー大統領が相手国を交互に訪問して、60周年を祝ったばかりだ。、シュタインマイヤー大統領は、2023年10月7日のハマスのイスラエル奇襲テロ事件に言及しながら、「ドイツはどのようなことがあってもイスラエル側を支援する」と語っている。
ちなみに、メルケル元首相は2008年、イスラエル議会(クネセット)で演説し、「イスラエルの存在と安全はドイツの国是(Staatsrason)だ。ホロコーストの教訓はイスラエルの安全を保障することを意味する」と語っている。メルケル氏の‘国是‘発言がその後、ドイツの政治家の間で定着していった。
メルツ首相は今回、その国是を打ち破ったことになる。メルツ氏は「ドイツは引き続きイスラエルの側にしっかりと立っており、歴史的な理由から今後も世界のどの国よりも、イスラエルに対する公的な批判を自制しなければならない国だが、ハマスのテロとの戦いでは民間人の苦しみを正当化することはできない」と指摘している。
看過してならない点は、メルツ首相のイスラエル批判は首相個人の突発的な発言ではないことだ。イスラエルのガザ地区での行動を踏まえ、ドイツで静かだが、対イスラエル政策の再考が進められてきている。そのようなプロセスの中でメルツ氏の発言が出てきたわけだ。
例えば、ドイツの反ユダヤ主義担当委員であるフェリックス・クライン氏は、「イスラエルと世界中のユダヤ人の安全を守るために、私たちは全力を尽くさなければならないが、同時に、これが全てを正当化するものではないことも明確にしなければならない。パレスチナ人を飢えさせ、人道状況を意図的に劇的に悪化させることは、イスラエルの存在権を確保することとは何の関係もない。そしてそれはドイツの国家存在理由でもない」と述べている。ただし、イスラエルのガザでの行動を理由にイスラエルへの武器供給を停止するよう求める社会民主党(SPD)議員らの要求には反対している。
同氏によれば、イスラエルの現政府の行動と国家としてのイスラエルを識別する必要があるというわけだ。具体的には、ネタニヤフ政府を批判できても、イスラエル国自体を糾弾することはできないという立場だ。
欧州ではイスラエルに対する批判が勢いを増し続けている。スロベニアのナターシャ・ピルツ=ムサル大統領は、「ガザで我々が目にしているのはジェノサイドだ」と述べている。また、スペインとフランスはイスラエルとの連合協定の見直しを推進している。アイルランドは26日、占領地で活動する企業との貿易禁止を検討していると発表。スウェーデンはイスラエル大使を召喚し、EUに制裁を求めると発表している、といった具合だ。
一方、イスラエル軍は26日、ガザ地区南部のほとんどの町の住民に対し、同地域から退去するよう呼びかけた。イスラエルメディアによれば、軍は2か月以内に領土の4分の3を制圧することを目指している。今後のガザ情勢次第では、ドイツ国内で対イスラエル政策の見直しを求める声が一層高まることが予想される。

▲「ヨーロッパフォーラム」で語るメルツ首相、2025年5月26日、ドイツ首相府公式サイトから
ドイツでは過去、個々の政治家がイスラエルを批判することがあっても、政府レベル、首相が公の場でイスラエル政府を非難することはなかった。ドイツではイスラエルに対して無条件で支援するという国家理念(Staatsrason)があって、それがドイツの国是となってきた。その背景には、ドイツ・ナチス軍が第2次世界大戦中、600万人以上のユダヤ人を大量殺害した戦争犯罪に対して、その償いという意味もあって戦後、経済的、軍事的、外交的に一貫としてイスラエルを支援、援助してきた経緯がある。
ドイツとイスラエル両国は今年、外交関係を樹立して60周年を迎えた。イスラエルからはヘルツォーク大統領がドイツからはシュタインマイヤー大統領が相手国を交互に訪問して、60周年を祝ったばかりだ。、シュタインマイヤー大統領は、2023年10月7日のハマスのイスラエル奇襲テロ事件に言及しながら、「ドイツはどのようなことがあってもイスラエル側を支援する」と語っている。
ちなみに、メルケル元首相は2008年、イスラエル議会(クネセット)で演説し、「イスラエルの存在と安全はドイツの国是(Staatsrason)だ。ホロコーストの教訓はイスラエルの安全を保障することを意味する」と語っている。メルケル氏の‘国是‘発言がその後、ドイツの政治家の間で定着していった。
メルツ首相は今回、その国是を打ち破ったことになる。メルツ氏は「ドイツは引き続きイスラエルの側にしっかりと立っており、歴史的な理由から今後も世界のどの国よりも、イスラエルに対する公的な批判を自制しなければならない国だが、ハマスのテロとの戦いでは民間人の苦しみを正当化することはできない」と指摘している。
看過してならない点は、メルツ首相のイスラエル批判は首相個人の突発的な発言ではないことだ。イスラエルのガザ地区での行動を踏まえ、ドイツで静かだが、対イスラエル政策の再考が進められてきている。そのようなプロセスの中でメルツ氏の発言が出てきたわけだ。
例えば、ドイツの反ユダヤ主義担当委員であるフェリックス・クライン氏は、「イスラエルと世界中のユダヤ人の安全を守るために、私たちは全力を尽くさなければならないが、同時に、これが全てを正当化するものではないことも明確にしなければならない。パレスチナ人を飢えさせ、人道状況を意図的に劇的に悪化させることは、イスラエルの存在権を確保することとは何の関係もない。そしてそれはドイツの国家存在理由でもない」と述べている。ただし、イスラエルのガザでの行動を理由にイスラエルへの武器供給を停止するよう求める社会民主党(SPD)議員らの要求には反対している。
同氏によれば、イスラエルの現政府の行動と国家としてのイスラエルを識別する必要があるというわけだ。具体的には、ネタニヤフ政府を批判できても、イスラエル国自体を糾弾することはできないという立場だ。
欧州ではイスラエルに対する批判が勢いを増し続けている。スロベニアのナターシャ・ピルツ=ムサル大統領は、「ガザで我々が目にしているのはジェノサイドだ」と述べている。また、スペインとフランスはイスラエルとの連合協定の見直しを推進している。アイルランドは26日、占領地で活動する企業との貿易禁止を検討していると発表。スウェーデンはイスラエル大使を召喚し、EUに制裁を求めると発表している、といった具合だ。
一方、イスラエル軍は26日、ガザ地区南部のほとんどの町の住民に対し、同地域から退去するよう呼びかけた。イスラエルメディアによれば、軍は2か月以内に領土の4分の3を制圧することを目指している。今後のガザ情勢次第では、ドイツ国内で対イスラエル政策の見直しを求める声が一層高まることが予想される。