ドイツの民族過激派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の外交政策でワイデル共同党首が主導する親米派がクルバラ共同党首ら親ロ派を抑えて主導権を掌握しつつある。AfD内の外交政策の変動を報じたドイツ民間放送ニュース専門局(ntv)のトム・コルマー記者の記事は注目される。そこで以下、AfD内の最新の動向を報じた同記者の記事の概要を紹介する。

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▲AfDの外交路線で親米派のワイデル党首(右)と親ロ派のクルバラ党首、AfD公式サイトから

 AfD内の外交路線で変更を示唆する出来事は、連邦議会の外交委員会でAfDの外交政策のスポークスマンだったマティアス・モースドルフ議員が同委員会の議席を失ったことだ。コルマー記者は「モースドルフ氏はAfDの新たな戦略の最初の犠牲者だ。同党は、外部の世界に対して、自分たちが親ロシア的ではないという印象を与えたいと考えている。ロシアを定期的に訪問し、チェロ奏者としてクレムリンに近いグネーシン音楽アカデミーの名誉教授も務める外交政策報道官は適任ではないのだ」と分析している。

 党内でも特に旧西独出身の党員にとって、一部の同僚のロシアへの接近は長い間悩みの種となってきた。例えば、モースドルフ氏の前任者であるペトル・ビストロン氏は、ロシアからの贈賄の疑いで捜査を受けている。また、プーチン大統領の再選を称賛した国会議員など、AfD内ではロシアを支持する議員が少なくなかった。

 AfDには2人の党首、アリス・ワイデル党首とクルバラ党首の2人党首体制だ。前者は親米派、後者は伝統的な親ロシア派だ。そして前者がここにきて主導権を握ってきているのだ。実例は、AfDのバーデン=ヴュルテンベルク州のマルクス・フロンマイヤー氏がAfD議員団の新たな外交政策報道官に選出されている。同氏はワイデル党首の側近だ。

 ロシアの侵攻開始直後、AfDは連邦議会で、「ウクライナ戦争は西側諸国にも一部責任がある」とするプーチン氏の主張を支持してきたが、同党からここにきて異なる論調が聞こえてくる。例えば、連邦執行委員会および国防委員会の委員であるハンネス・グナウク氏は、雑誌「シュテルン」に対し、「ロシアは復活した超大国としての利益をある種の残忍さと冷酷さで追求している。ロシアは我々の友人でも敵でもない」と語っている。

 また、AfDの思想的指導者、テューリンゲン州のAfDの代表,ビュルン・ヘッケ氏は、ホロコーストやナチス時代の罪を軽視または否定する歴史修正主義者であり、極右思想の中核にある「民族的純粋性」や「国家主義」に通じる思想の持主だ。そのヘッケ氏が突然ワシントンを称賛しているのだ。

 ここで看過できない点は、親米派の土台はトランプ大統領の側近、バンス副大統領や実業家イーロン・マスク氏のAfD支持発言が契機となっていることだ。世界的実業家であり、トランプ米大統領の最側近の一人、テック業界の億万長者、イーロン・マスク氏は今年1月25日、ハレで開催されたドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の公式選挙キャンペーン開始集会にビデオ出演し、AfD支持をアピールした。マスク氏は「AfDこそがドイツの最良の希望だ。ドイツ人であることを誇りに思うことは良いことだ」と語り、AfD党員たちに発破をかけている。

 マスク氏は「ワイデル党首が首相になれば、ドイツにとって非常に良いことだ」と繰り返し、AfD支持を表明。「AfDは私の完全な支援を受けており、トランプ政権からも支援を得ている」と述べた。

 一方、親ロシア路線を支持してきたAfD議員は現在のプーチン大統領のロシアを支持することが難しくなってきている。クルパラ党首は、プーチン大統領が西側諸国に平和の手を差し伸べていると繰り返し主張してきたが、ここ数週間のプーチン大統領の行動を見ると、この議論は非現実的に思えてくる。

 コルマー記者は「 AfDは、より穏健なイメージを外部世界に示すことで、ファイアウォールを打ち破りたいと考えている。これには、モスクワから距離を置くことに加え、本会議において演壇に立つ際も、また議場にいる国会議員たちの間でも、より控えめな態度をとることも含まれる」と指摘している。党のイメージチェンはAfDが将来、他の政党と連立を組むうえで必要となるからだ。

 ところで、ドイツ連邦憲法擁護庁(BfV)は5月2日、AfDを右翼過激派に分類した。BfVの内部資料によると、同党が自由民主主義の基本秩序に反する活動を行っているとの疑惑が確認されたという。それに対し、バンス米副大統領は「ドイツには言論の自由がないのか」と批判したばかりだ。AfDでは国内のAfD禁止の動きに対し、トランプ政権の介入に期待する声すら聞こえる。

 AfDの支持率は現在,、約24%だ。特に東部では、支持率が高く、親ロシア派のAfD議員が多い。そのような中、ワイデル党首が主導する親米路線がAfDのさらなる飛躍をもたらすかは現時点では不明だ。