ルーマニア大統領選挙の決選投票が18日、実施され、第1回投票で第2位だった親欧州派の無党派候補者、ブカレスト市の二クソル・ダン市長(55)が極右派「ルーマニア統一同盟」(AUR)の党首ジョージ・シミオン氏(38)を破り、勝利した。
 中央選挙委員会によると、約95%の投票の集計段階で、ダン氏が約54%の票を獲得し、約46%のシミオン氏をリードしている。

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▲ダン氏(左)とシミオン氏のテレビ討論会,2025年5月8日、ウィキぺディアから

 親欧州派のダン氏の勝利は単にルーマニアの未来だけではなく、同国と国境を有するウクライナ、北大西洋条約機構(NATO)にとって大きな戦略的意味がある。極右派のシミオン氏は親ロシア派で、ウクライナへの武器支援には拒否姿勢を示してきた政治家だ。

 ウクライナのゼレンスキー大統領,EUの欧州委員会ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、フランスのマクロン大統領、そしてモルドバのマイア・サンドゥ大統領はダン氏の選挙勝利を祝った。フォンデアライエン委員長は「国民の多くが強力な欧州における開かれた繁栄したルーマニアに投票した」と強調し、ゼレンスキー大統領は「信頼できるパートナーとしてのルーマニアの重要性」を指摘している。
 
 ところで、第1回投票ではシミオン氏が約41%、ダン氏は約21%の得票率で、シミオン氏は対抗候補者のほぼ倍の得票率を獲得した。2週間後の決選投票でもシメオン氏が断然有利という予測が広がっていた。にもかかわらず、ダン氏がシミオン氏を破ったのだ。シミオン氏の得票率は第1回より約5%を加えただけで過半数には届かなった一方、ダン氏は21%から54%と倍以上、得票率を伸ばして逆転勝利したわけだ。

 ダン氏は選挙戦ではシミオン氏が当選した場合のシナリオを有権者に訴え、ルーマニアがロシア寄りに傾斜する危険性があると警告してきた。そのアピールが功を奏したのだろう。第1回目の投票率は約53%だったが、決選投票では約65%と上昇している。すなわち、多くの有権者が国の命運を左右する大統領選の投票に出かけたというわけだ。AFP通信が報じるように、投票率の上昇した分がほとんどダン氏支持だったわけだ。

 勝利を確信したダン氏は18日夜、「抜本的な変化を切望するルーマニア国民の勝利だ。明日からルーマニアの再建を始めよう」と勝利宣言している。一方、シミオン氏は議会で「私がルーマニアの新大統領だ」と宣言し、ダン氏陣営の選挙違反を非難した。しかし、BBCによると、シメオン氏は最終的には自身の敗北を認めたという。

 ルーマニア大統領は首相を任命する権限を有している。ダン氏は現暫定大統領のイリエ・ボロジャン氏を将来の政府首脳にしたい希望を繰り返し強調している。

 今回の大統領選は再選挙だった。昨年11月24日に実施された大統領選でカリン・ジョルジェスク氏(62)は有力候補とされていたチョラク首相らを抑え、約23%の得票率でトップに躍り出た。ジョルジェスク氏はロシアのプーチン大統領を「国を愛する男」と称賛し、ウクライナを「敵対国家」と呼び、NATOに批判的な姿勢を強調するなど、親ロシア的な立場を明確にしてきた。ルーマニア憲法裁判所は決選投票直前の昨年12月6日、選挙資金の不正やロシアの干渉などを理由に第1回投票の結果を無効とし、12月8日に予定されていた決選投票を中止。そしてジョルジェスク氏は再出馬禁止となり、今年5月4日に選挙の再実施が決まった経緯がある。

 いずれにしても、大統領選の結果、国民の約半数が過激な民族主義者のシミオン氏を支持していることが明らかになった。ルーマニアの政情が落ち着きを取り戻すまでにはまだ時間がかかるだろう。

 なお、ルーマニア大統領は首相を任命する権限を有している。ダン氏は現暫定大統領のイリエ・ボロジャン氏を将来の政府首脳にし、マルチェル・チョラク首相の辞任で空席となった政権を迅速に組閣して国の刷新に乗り出したい意向だ。