国際的な児童虐待被害者団体「SNAP」は、バチカンに対し、6人の著名な枢機卿を告発した。理由は、聖職者や教会職員による性的虐待を隠蔽したり、教会法上の十分な措置を取らなかったことだ。カトリック通信が先月27日、報じた。

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▲退院後、信者たちの前に初めて姿を見せたフランシスコ教皇、2025年04月06日、バチカンニュースから

 SNAPが告発した枢機卿は、ペーター・エルドー枢機卿、ケビン・ファレル枢機卿、ビクトル・フェルナンデス枢機卿、マリオ・グレック枢機卿、ロバート・プレヴォスト枢機卿、ルイス・タグレ枢機卿の6人だ。彼らは、将来のローマ教皇候補として取り沙汰されている人物でもある。

 SNAPは「Survivors Network of those Abused by Priests(聖職者による虐待の被害者ネットワーク)」の略称で、1989年にアメリカで設立され、現在では世界規模のネットワークを持つ組織だ。

 この告発は、バチカン国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿およびその他のバチカン当局の責任者に向けられている。SNAPの見解によると、この告発は2023年3月25日に発布されたローマ教皇の勅令「Vos estis lux mundi(あなたがたは世の光)」に基づくものである。告発書の日付は2025年3月25日とされており、この勅令の恒久施行2周年に合わせて提出されたことになる。

 この勅令により、性的虐待に関する犯罪の情報を持つ「誰もが」バチカンに告発を行うことが可能となった。この法律のもとでは、性的虐待に関する調査を妨害または回避しようとする行為や、不適切な対応も処罰の対象となる。この規定により、教会法においても初めて、犯罪の隠蔽を試みる行為が処罰されることとなった。

 報道によると、告発された枢機卿たちは、それぞれの教区を統括していた時期に、聖職者や教会職員に対する性的虐待の告発に迅速かつ徹底的に対応しなかった、あるいは加害者への処罰が十分ではなかったとされている。

 枢機卿はローマ・カトリック教会ではペテロの後継者ローマ教皇に次いで最高位の聖職者だ。世界で約14億人の信者を抱える最大のキリスト教派、ローマ・カトリック教会には昨年12月現在、253人の枢機卿がいる。次期教皇選出会(コンクラーベ)に参加できる80歳未満の枢機卿は140人だ。

 フランシスコ教皇は今年に入り、肺炎を患い2月14日から1カ月以上ローマの病院に入院していた。イタリアのメディアではフランシスコ教皇の生前退位が表明されるのではないか、といった憶測が流れた。現教皇が退位した場合、即コンクラーベが開催されて次期教皇が選出される運びとなる。すなわち、80未満の現枢機卿は次期教皇の候補者でもあるわけだ。その高位聖職者の枢機卿に未成年者への性的虐待疑惑が飛び出したり、隠蔽の容疑を受ける枢機卿が出てきているわけだ。

 米教会のマッカーリック枢機卿(元ワシントン大司教)は2019年、未成年者への性的虐待で聖職を解任されている。また、不動産投資などに絡み横領の罪に問われたアンジェロ・ベッチウ枢機卿は2020年9月24日、突然辞任を表明し、フランシスコ教皇はその辞任申し出を受理した。バチカンで権勢を誇った両枢機卿の解任、辞任劇は当時、大きな話題を呼んだ。看過できない事実は、両枢機卿ともフランシスコ教皇の友人サークルに入る聖職者だったことだ。枢機卿はローマ教皇から任命されるので、通常の会社、組織ならば、教皇に任命責任が問われるケースだろう。

 ちなみに、高名な神学者、オーストリアのパウル・ツーレーナ氏は昨年12月、同国のカトリック系週刊紙「ディ・フルへ」とのインタビューの中で「コンクラーベを廃止すべきだ」と発言して物議を醸した。ジャーナリズム的に表現すれば、‘爆弾発言’だ。同氏は「コンクラーベは中世の遺物」と言い切っている。そのうえで、各国の司教会議を中心としたシノドス的な教会改革を提案しているのだ。同氏は言及しなかったが、教皇候補者である枢機卿たちの体たらくがコンクラーベ廃止論の背景となっているのはないか。