ローマ・カトリック教会の広報塔、バチカンニュース(独語版)に「アラン・ドロンはカトリック教会の埋葬を希望」という見出しの記事が掲載されていた。普段はフランシスコ教皇や聖職者の動向、世界各地の教会の歩みなど堅苦しいニュースが多いが、バチカンニュースは18日、「アラン・ドロン氏の最後の願い、カトリック教会の埋葬を願っていた」という記事をAFP配信の写真とともに大きく報道していたのだ。バチカンニュースの独語版担当編集メンバーに熱心なアラン・ドロンのファンがいるのかもしれない。

CANNES-INTERNATIONAL-FILM-FESTIVAL
▲フランスのカンヌで開催された第72回カンヌ国際映画祭で、映画『隠された人生』の上映前にレッドカーペットに登場したアラン・ドロン=2019年5月19日(UPI)

 バチカンニュースが18日に報じた訃報を紹介する。

 「日曜日(18日)に88歳で亡くなったフランスの俳優アラン・ドロン氏は、自分の葬儀についてはっきりとした希望を持っていた。フランス映画界のレジェンド、アラン・ドロン氏は、2021年最後のインタビューの中で、カトリック教会の埋葬式への願望を表明した。同氏は、葬儀は公の注目を集めることなく慎重に行われるべきであると強調した。敬虔なカトリック教徒である彼は、生涯を通じて何よりも愛した犬の近くに埋葬されたいという希望も表明した。ドロン氏はパリ近郊ドゥシーの自宅で安らかに息を引き取った」

 アラン・ドロンさんには日本でも多くのファンがいる。特に、映画「太陽がいっぱい」(1960年公開)はよく知られている。ちなみに、フランスは欧州の代表的なカトリック教国だ。1935年11月、パリ郊外のセーヌ県ソー生まれのドロンさんが敬虔なカトリック教会の信者であったこと自体は驚かないが、「愛する犬」(ルーボ)の近くに埋葬されたいという希望を生前、残していたというのだ。

 ドロンさんは1964年にフランスの女優ナタリー・バルドー(Nathalie Barthelemy)と結婚した。彼らの間には息子のアンソニー・ドロンさんがいるが、結婚生活は長続きせず、1969年に離婚した。ドロンさんはその後も多くの有名な女性と交際したが、再婚はしていない(カトリック教会で再婚は認められていない)。その一人のオーストリアの女優ロミー・シュナイダー(1938〜1982年)との関係はよく知られていた。彼女は43歳の若さで病死した。

 ウィーン郊外には欧州最大の墓地、中央墓地がある。そこには「音楽家たちの墓」コーナーがあって、楽聖ベートーベンからシューベルト、ブラームス、ヨハン・シュトラウスなど著名な音楽家が一堂に埋葬されている。「音楽家たちの墓」の中でも最も人気がある墓はベートーヴェンの墓だ。その傍には「歌曲の王」と呼ばれたシューベルト(1797〜1828年)の墓がある。シューベルトは31歳の若さで亡くなったが、生前、「私が死んだら、ベートーヴェンの墓の傍に埋めてほしい」という遺言を残していた。シューベルトはベートーヴェンを尊敬していたのだ。

 ちなみに、欧州では遺体を埋葬してお墓をたてるといった「埋葬文化」が次第に廃れ、埋葬の代わりに火葬が増えてきている。時代の変遷や文化の多様性もあって、「墓場で埋葬する」といった伝統的な埋葬文化が消滅してきたわけだ(「変わりゆく欧州の「埋葬文化」」2010年10月29日参考)。

 いずれにしても、人は「自分が死んだ後も愛していた人の傍にいたい」と願うものだ。シューベルトは敬愛するベートーヴェンの傍に、ドロンさんは愛犬ルーボの傍に、安らぎを得たいと願っていたわけだ。