パレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織「ハマス」が昨年10月7日、イスラエルに侵入し、奇襲テロで1200人以上のイスラエル人を虐殺、250人余りを人質にしてから7カ月以上が経過した。イスラエル側はその直後、ハマスに報復攻撃を開始し、イスラエル軍とハマス間の戦闘が続いてきた。人質はまだ「ハマス」のテロリストの手にある一方、ガザ戦闘でハマスの盾に利用されたパレスチナ住民3万5000人以上が犠牲となっている。
▲パレスチナ国家承認を発表するスペインのサンチェス首相(2024年5月28日、スペイン首相府公式サイドから)
ガザ戦闘への国際社会の反応は、戦闘開始直後はハマスの奇襲テロを受けたイスラエルへの理解があったが、パレスチナ住民に多くの犠牲が出てきたことから、イスラエルへの批判が高まり、イスラエル側の即戦闘停止を求める声が聞かれてきた。子供、女性、患者たちの悲惨な姿を映像で見てきた国際社会では当然、イスラエル側への非難が高まってきた。その頂点はイスラエルのネタニヤフ首相への国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状請求だろう。ここにきて、ハマスの奇襲テロへのイスラエルの報復攻撃といった構図は完全に消滅し、軍事力の強いイスラエル軍の脆弱なパレスチナ人への戦争犯罪行為、強者の弱者への一方的な攻撃といった構図に変質していった。これは新しい現象ではない。イスラエルと中東諸国間のこれまでの戦闘は最後にはそのような構図に落ち着く。正義、公平の結果といったものではないのだ。
なぜ、上記の事をここで書いたかというと、ノルウェー、アイルランド、スペインの欧州3カ国が28日、パレスチナを国家承認すると発表したからだ。再度、明確にガザ戦闘の経緯を想起しなければならないと考えるからだ。
欧州3国のパレスチナ国家承認は、「パレスチナ国家をイスラエルとの和平合意の一部としてのみ承認する」という西側諸国の長年の姿勢から明らかに逸脱している。イスラエルが欧州3国のパレスチナ国家承認に対し、「ハマスのテロへの報酬だ」として激しく非難したのは当然だ。ハマスの「10月7日奇襲テロ」から始まった今回のガザ戦闘がパレスチナ国家承認という成果をパレスチナとハマス側にもたらしているからだ。換言すれば、ガザ最南部ラファへの攻撃を開始したイスラエルへの懲罰といった意味合いすら出てくるのだ。
イスラエル軍の圧倒的な軍事力の前に壊滅寸前のハマス側は「われわれはイスラエルに戦争では勝てないが、国際社会の外交舞台では勝利した」と豪語するかもしれない。ガザ最南部ラファのパレスチナ避難所へのイスラエルの空爆で少なくとも45人のパレスチナ人が犠牲となったと報じられ、その画像は世界に大きな衝撃を投じたばかりだ。
ちなみに、イスラエル軍は28日、「パレスチナ避難所の火災状況を分析すると、イスラエルの空爆で発生した火災を上回る火災が生じている。避難所の地下に保管されていたハマスの弾薬倉庫が空爆で爆発して大火災が生じ、その結果多くのパレスチナ避難民が犠牲となったのではないか」と分析している。昨年10月17日のガザ区のアルアハリ・アラブ病院爆発を思い出してほしい。ハマスはイスラエル軍との戦闘では常にパレスチナ人を人間の盾に利用してきた。ハマスにとってパレスチナ住民の犠牲が多いほど、都合がいいのだ。
現在、193カ国の国連加盟国のうち145カ国がパレスチナ国家を承認している。欧州連合(EU)の27カ国の加盟国のうち、スウェーデン、キプロス、ハンガリー、チェコ、ポーランド、スロバキア、ルーマニア、ブルガリアはパレスチナ国家を承認済みだ。日本を含む先進首脳会議(G7)の7か国は未承認だ。
ノルウェー、アイルランド、スペイン3国は、今回の決定でパレスチナ自治区ガザの戦闘終結に向けてイスラエルに圧力をかけ、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」による和平実現を促す契機となり、他の諸国にも国家承認へと動かす契機となると期待している。実際、マルタは検討中で、スロベニアは30日にもパレスチナの国家承認を発表するものと予想されている。
スペインのペドロ・サンチェス首相は「今回の決定はイスラエルとパレスチナ人が平和を築く助けとなることを目的としたものだ。イスラエルを敵とするものではない」と指摘し、パレスチナの国境問題については「マドリードの立場は国連安全保障理事会の決議とEUの伝統的な立場に完全に一致している」と述べた。具体的に、1967年の六日戦争前の国境を認めるという。ヨルダン川西岸地区とガザ地区は回廊で結ばれ、東エルサレムを首都とし、自治政府の合法的な政府の下に統一されるというわけだ。
「オスロ合意」の舞台となったノルウェーは過去30年間余り、パレスチナ国家の擁護者だった。ノルウェーのエスペン・バース・エイデ外相は「他の国がノルウェーの例に続けば、和平解決により大きな勢いを与えることができる。二国家解決が平和への唯一の道だ」と述べている(「『オスロ合意』30年と関係者の証言」2023年9月13日参考)。
繰り返すが、イスラエル軍とハマスの戦闘が続いている時、欧州3国のパレスチナ国家承認発表はその意図は別として、ハマスにとって大きな‘戦果’として受け取られるだろう。残念なことだが、現在はパレスチナ国家承認の時ではないのだ。
▲パレスチナ国家承認を発表するスペインのサンチェス首相(2024年5月28日、スペイン首相府公式サイドから)
ガザ戦闘への国際社会の反応は、戦闘開始直後はハマスの奇襲テロを受けたイスラエルへの理解があったが、パレスチナ住民に多くの犠牲が出てきたことから、イスラエルへの批判が高まり、イスラエル側の即戦闘停止を求める声が聞かれてきた。子供、女性、患者たちの悲惨な姿を映像で見てきた国際社会では当然、イスラエル側への非難が高まってきた。その頂点はイスラエルのネタニヤフ首相への国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状請求だろう。ここにきて、ハマスの奇襲テロへのイスラエルの報復攻撃といった構図は完全に消滅し、軍事力の強いイスラエル軍の脆弱なパレスチナ人への戦争犯罪行為、強者の弱者への一方的な攻撃といった構図に変質していった。これは新しい現象ではない。イスラエルと中東諸国間のこれまでの戦闘は最後にはそのような構図に落ち着く。正義、公平の結果といったものではないのだ。
なぜ、上記の事をここで書いたかというと、ノルウェー、アイルランド、スペインの欧州3カ国が28日、パレスチナを国家承認すると発表したからだ。再度、明確にガザ戦闘の経緯を想起しなければならないと考えるからだ。
欧州3国のパレスチナ国家承認は、「パレスチナ国家をイスラエルとの和平合意の一部としてのみ承認する」という西側諸国の長年の姿勢から明らかに逸脱している。イスラエルが欧州3国のパレスチナ国家承認に対し、「ハマスのテロへの報酬だ」として激しく非難したのは当然だ。ハマスの「10月7日奇襲テロ」から始まった今回のガザ戦闘がパレスチナ国家承認という成果をパレスチナとハマス側にもたらしているからだ。換言すれば、ガザ最南部ラファへの攻撃を開始したイスラエルへの懲罰といった意味合いすら出てくるのだ。
イスラエル軍の圧倒的な軍事力の前に壊滅寸前のハマス側は「われわれはイスラエルに戦争では勝てないが、国際社会の外交舞台では勝利した」と豪語するかもしれない。ガザ最南部ラファのパレスチナ避難所へのイスラエルの空爆で少なくとも45人のパレスチナ人が犠牲となったと報じられ、その画像は世界に大きな衝撃を投じたばかりだ。
ちなみに、イスラエル軍は28日、「パレスチナ避難所の火災状況を分析すると、イスラエルの空爆で発生した火災を上回る火災が生じている。避難所の地下に保管されていたハマスの弾薬倉庫が空爆で爆発して大火災が生じ、その結果多くのパレスチナ避難民が犠牲となったのではないか」と分析している。昨年10月17日のガザ区のアルアハリ・アラブ病院爆発を思い出してほしい。ハマスはイスラエル軍との戦闘では常にパレスチナ人を人間の盾に利用してきた。ハマスにとってパレスチナ住民の犠牲が多いほど、都合がいいのだ。
現在、193カ国の国連加盟国のうち145カ国がパレスチナ国家を承認している。欧州連合(EU)の27カ国の加盟国のうち、スウェーデン、キプロス、ハンガリー、チェコ、ポーランド、スロバキア、ルーマニア、ブルガリアはパレスチナ国家を承認済みだ。日本を含む先進首脳会議(G7)の7か国は未承認だ。
ノルウェー、アイルランド、スペイン3国は、今回の決定でパレスチナ自治区ガザの戦闘終結に向けてイスラエルに圧力をかけ、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」による和平実現を促す契機となり、他の諸国にも国家承認へと動かす契機となると期待している。実際、マルタは検討中で、スロベニアは30日にもパレスチナの国家承認を発表するものと予想されている。
スペインのペドロ・サンチェス首相は「今回の決定はイスラエルとパレスチナ人が平和を築く助けとなることを目的としたものだ。イスラエルを敵とするものではない」と指摘し、パレスチナの国境問題については「マドリードの立場は国連安全保障理事会の決議とEUの伝統的な立場に完全に一致している」と述べた。具体的に、1967年の六日戦争前の国境を認めるという。ヨルダン川西岸地区とガザ地区は回廊で結ばれ、東エルサレムを首都とし、自治政府の合法的な政府の下に統一されるというわけだ。
「オスロ合意」の舞台となったノルウェーは過去30年間余り、パレスチナ国家の擁護者だった。ノルウェーのエスペン・バース・エイデ外相は「他の国がノルウェーの例に続けば、和平解決により大きな勢いを与えることができる。二国家解決が平和への唯一の道だ」と述べている(「『オスロ合意』30年と関係者の証言」2023年9月13日参考)。
繰り返すが、イスラエル軍とハマスの戦闘が続いている時、欧州3国のパレスチナ国家承認発表はその意図は別として、ハマスにとって大きな‘戦果’として受け取られるだろう。残念なことだが、現在はパレスチナ国家承認の時ではないのだ。