ドイツの宗教図はローマ・カトリック教会(旧教)とプロテスタント教会(新教)の2大キリスト教会でほぼ2分される。信者数は旧教が少し上回っているが、ほぼ均衡だ。それだけではない。どうやら聖職者の未成年者への虐待事件件数でも両キリスト教会は変わらないことがこのほど明らかになった。“神の宮”と呼ばれる教会の性犯罪問題は旧教だけの問題ではなく、新教も同じように抱えているのだ。ちなみに、ドイツ福音主義教会(EKD)はルター派、改革派、合同派の20の福音主義の加盟州教会の共同体で、ドイツ人口の約25・6%、約2114万人の信者を有する。
▲ドイツ民族に大きな影響を与えた宗教改革者マルティン・ルター
「ドイツのプロテスタント教会全体でどれくらいの性的虐待が起きてきたか」という疑問に答えるため、EKDの要請を受けて専門家たちの研究フォーラムが3年の年月をかけて初めて調査した。その結果が25日、メディアに公表された。EKDや20の地方教会の責任者の多くが認めようとしているよりもはるかに広範囲に性犯罪が起きてきたことが明らかになった。具体的には、6380件以上の懲戒、人事関連のファイル、被害記録や被害者へのインタビューを通じて、1946年以来、福音主義教会とディアコニー(福祉事業団)で1259人の聖職者が性犯罪を犯し、2225人の犠牲者が見つかったという。
上記の調査研究結果は、ハノーバー応用科学大学のマルティン・ヴァツラヴィク氏(Martin Wazlawik )の指導の下、8つの大学、単科大学、研究機関で構成される独立研究ネットワークが過去3年間にわたって調査し、作成したものだ。研究の目的は、「福音主義教会における性的暴力の制度的要因を『特定可能』かつ『変容可能』にすることにある」(EKDのキルステン・フェールス評議会議長)という。言葉による嫌がらせから強姦に至るまで、あらゆる形態の性暴力について20の地方教会と17の関連団体で調査された。
研究責任者のヴァツラヴィク氏は、ハノーバーでの研究結果発表の中で、「これは氷山の一角に過ぎない」と強調している。その理由は、この研究が4282の懲戒ファイルと780の人事ファイル、および1318の他の文書の検討に制限されているからだ(カトリック教会の類似の研究では2018年に総計3万8156の人事ファイルが検討され、1670人の被告と3677人の被害者が特定された)。
研究者たちは、州教会がデータの提供が遅く、不十分な品質が多いと批判している。教会側が全ての資料、情報を公開したならば、被害者数、被告数も大幅に増加するという。法医学の精神科医であり、プロジェクトの責任者の1人、ハラルト・ドレッシング氏は被告の数を3497人、被害者の数を1946年以来、9355人以上と推定している。EKDはこれまで被害者数を約900人と推定してきた。
もう一つの驚くべき結果は、EKDの被害者は犯行に遭った時、平均11歳だったということだ。これまで主要な被害者グループは若い成人と考えられてきた。旧教の聖職者の性犯罪と同様、新教の場合も被害者は未成年者が多数を占めているということだ。
聖職者の性犯罪問題に対してEKDはこれまで消極的であった。EKDが性暴力に対する11項目の行動計画を決定したのは2018年に入ってからだ。2023年末、EKDは連邦政府の虐待委員と共同宣言に署名した。これにより、今後の虐待行為の処理に関する基準が設定された。それまで教会内の聖職者の性犯罪は旧教と同様、隠蔽されてきた。2021年からEKD評議会議長だったアネッテ・クーアシュス氏は2023年11月20日、1人の聖職者の性犯罪を隠蔽していたという疑いを受け、辞任に追い込まれている。
ドイツ教会といえば、宗教改革者のマルティン・ルター(1483〜1546年)の名前を思い出す人が多いだろう。ルターは教会の改革案「95カ条の議題」を提示し、当時教会が抱えてきた問題点に質問状を突きつけ、欧州全土に大きな影響を与えたことはよく知られている。聖アウグスチノ修道院の神父だったルターは42歳の時、修道女のカトリーナ・フォン・ボラさん(当時25歳)と結婚した。ルターは人間は善行によって義となるのではなく、信仰で義とされると主張(信仰義認)、教会や修道院生活ではなく、信仰を土台とした生活の重要性を指摘、修道士、修道女には修道院から出て結婚するようにと説得。同時に、多くの修道女の結婚を斡旋したが、最後まで相手が見つからなかった修道女カトリーナさんと結婚したという。
そのルターから派生したプロテスタント教会で聖職者による未成年者への性犯罪がローマ・カトリック教会と同様、広がっているのだ。ルターは教会の現状を見たならばどのように感じるだろうか。「自分が願ってきた教会ではない」と怒り出すかもしれない(「宗教改革者ルターと『終末』」2014年8月9日参考)。
▲ドイツ民族に大きな影響を与えた宗教改革者マルティン・ルター
「ドイツのプロテスタント教会全体でどれくらいの性的虐待が起きてきたか」という疑問に答えるため、EKDの要請を受けて専門家たちの研究フォーラムが3年の年月をかけて初めて調査した。その結果が25日、メディアに公表された。EKDや20の地方教会の責任者の多くが認めようとしているよりもはるかに広範囲に性犯罪が起きてきたことが明らかになった。具体的には、6380件以上の懲戒、人事関連のファイル、被害記録や被害者へのインタビューを通じて、1946年以来、福音主義教会とディアコニー(福祉事業団)で1259人の聖職者が性犯罪を犯し、2225人の犠牲者が見つかったという。
上記の調査研究結果は、ハノーバー応用科学大学のマルティン・ヴァツラヴィク氏(Martin Wazlawik )の指導の下、8つの大学、単科大学、研究機関で構成される独立研究ネットワークが過去3年間にわたって調査し、作成したものだ。研究の目的は、「福音主義教会における性的暴力の制度的要因を『特定可能』かつ『変容可能』にすることにある」(EKDのキルステン・フェールス評議会議長)という。言葉による嫌がらせから強姦に至るまで、あらゆる形態の性暴力について20の地方教会と17の関連団体で調査された。
研究責任者のヴァツラヴィク氏は、ハノーバーでの研究結果発表の中で、「これは氷山の一角に過ぎない」と強調している。その理由は、この研究が4282の懲戒ファイルと780の人事ファイル、および1318の他の文書の検討に制限されているからだ(カトリック教会の類似の研究では2018年に総計3万8156の人事ファイルが検討され、1670人の被告と3677人の被害者が特定された)。
研究者たちは、州教会がデータの提供が遅く、不十分な品質が多いと批判している。教会側が全ての資料、情報を公開したならば、被害者数、被告数も大幅に増加するという。法医学の精神科医であり、プロジェクトの責任者の1人、ハラルト・ドレッシング氏は被告の数を3497人、被害者の数を1946年以来、9355人以上と推定している。EKDはこれまで被害者数を約900人と推定してきた。
もう一つの驚くべき結果は、EKDの被害者は犯行に遭った時、平均11歳だったということだ。これまで主要な被害者グループは若い成人と考えられてきた。旧教の聖職者の性犯罪と同様、新教の場合も被害者は未成年者が多数を占めているということだ。
聖職者の性犯罪問題に対してEKDはこれまで消極的であった。EKDが性暴力に対する11項目の行動計画を決定したのは2018年に入ってからだ。2023年末、EKDは連邦政府の虐待委員と共同宣言に署名した。これにより、今後の虐待行為の処理に関する基準が設定された。それまで教会内の聖職者の性犯罪は旧教と同様、隠蔽されてきた。2021年からEKD評議会議長だったアネッテ・クーアシュス氏は2023年11月20日、1人の聖職者の性犯罪を隠蔽していたという疑いを受け、辞任に追い込まれている。
ドイツ教会といえば、宗教改革者のマルティン・ルター(1483〜1546年)の名前を思い出す人が多いだろう。ルターは教会の改革案「95カ条の議題」を提示し、当時教会が抱えてきた問題点に質問状を突きつけ、欧州全土に大きな影響を与えたことはよく知られている。聖アウグスチノ修道院の神父だったルターは42歳の時、修道女のカトリーナ・フォン・ボラさん(当時25歳)と結婚した。ルターは人間は善行によって義となるのではなく、信仰で義とされると主張(信仰義認)、教会や修道院生活ではなく、信仰を土台とした生活の重要性を指摘、修道士、修道女には修道院から出て結婚するようにと説得。同時に、多くの修道女の結婚を斡旋したが、最後まで相手が見つからなかった修道女カトリーナさんと結婚したという。
そのルターから派生したプロテスタント教会で聖職者による未成年者への性犯罪がローマ・カトリック教会と同様、広がっているのだ。ルターは教会の現状を見たならばどのように感じるだろうか。「自分が願ってきた教会ではない」と怒り出すかもしれない(「宗教改革者ルターと『終末』」2014年8月9日参考)。