中国、韓国、そして日本を訪問して帰国したドイツのベアボック外相は19日、ベルリンの連邦議会に出席し、与党「社会民主党」(SPD)の過去のロシア政策と現在の中国政策を「間違いだ」と批判した。その発言に対し、SPD議員から反発の声が出た一方、外相が所属する「緑の党」と野党第一党の「キリスト教民主同盟」(CDU)から支持を得た(「独外相の“ダメージ・コントロール”」2023年4月16日参考)。

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▲首脳会談前のショルツ首相と習近平国家主席(独日刊紙ヴェルト動画のスクリーンショットから、2022年11月4日、北京)

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▲ハンブルク湾のハンバーガー コンテナ ターミナル トレロート (CTT)の全景(HHLACTT公式サイトから)

 ベアボック外相は、「SPD主導の過去の対ロシア、対中国政策を2度と繰り返すべきではない。その外交路線はドイツをロシア、中国に依存させる結果となり、わが国を恐喝することを可能にさせてきた」と発言した。同外相の発言は、SPD、「緑の党」、そして自由民主党(FDP)の3党からなるショルツ連立政権(信号機連合)下の外交政策で意見の相違があることを改めて浮き彫りにした。

 ショルツ連立政権下では「首相官邸と外務省」、そして「SPDと緑の党」の間には対立が出てきた。最近では、SPD議会グループのクライス議員はベアボック外相を批判する記事を発表し、その内容がベアボック外相の中国訪問中に明らかになったばかりだ。

 ショルツ連立政権は現在、国家安全保障戦略と中国戦略の両方を策定中だが、首相官邸と外務省の間の対立もあってまだ完成していないという。ただ、「信号機連合」が一致していることは、|羚颪悗琉預犬ドイツとドイツ経済のリスクとなるべきではない、∧胴颪梁价羚颯妊ップリング政策には同意しない、の2点だ。

 ベアボック外相は、「ドイツの戦略的重要なインフラを中国企業に委ねたり、依存するリスクを回避すべきだ」と強調している。ベアボック外相は「中国はパートナーであり、競争相手であり、体系的なライバル」であると定義した欧州連合(EU)の対中国路線を繰り返す一方、「中国が将来、より強力なライバルになるかどうかは、中国がどの道を選ぶかにかかっている」と強調、自身の中国訪問を通じて「中国が対外的にはより攻撃的に、対内的にはより抑圧的になってきているのを感じた」という(ドイツ通信)。

 例えば、ショルツ連立政権は昨年10月26日、ドイツ最大の港、ハンブルク湾港の4つあるターミナルの一つの株式を中国国有海運大手「中国遠洋運輸(COSCO)」が取得することを承認する閣議決定を行った。同決定に対し、「中国国有企業による買収は欧州の経済安全保障への脅威だ」という警戒論がショルツ政権内ばかりか、EU内でも聞かれた。それ故に、ショルツ首相は中国側の株式35%取得を25%未満に縮小し、人事権を渡さないという条件を提示し、ハベック経済相(兼副首相)やリントナー財務相らを説得、閣議決定した経緯がある。あれから半年余りが経過したが、独連邦情報セキュリティ局 (BSI) がその後、ターミナルを戦略的重要なインフラと分類したこともあって、計画されていた約25%の株式取得の許可はまだ行われていない。連邦内務省は現在、コスコとの契約内容を再検討中という。

 ちなみに、BSIによると、戦略的重要なインフラストラクチャー(KRITIS)とは、「公共の安全に対する重大な混乱、またはその他の劇的な結果をもたらす産業や生活の基盤となる社会資本」を意味する。

 「中国共産党政権の管理下にある国営企業がドイツの有数の港湾のコンテナターミナルを買収すれば、ドイツの安全を損なう危険が出てくる」といった懸念の声が聞かれたが、SPD関係者やハンブルク市のペーター・ツェンチャー市長は、「中国の参加により、コンテナターミナルの持続可能な計画が約束される。コスコが共同所有者である場合、ドイツ北部の港がハブ、つまり優先積み替え拠点になる」と期待してきた。ちなみに、コスコは近年、ヨーロッパの多くの港に関心を寄せてきている。同社は、ピレウス (ギリシャ)、ゼーブルッヘ (オランダ)、ロッテルダム (オランダ)、アントワープ (ベルギー)、バレンシア (スペイン)などの戦略的および経済的に重要なヨーロッパの港の株式を保有している(「ハンブルク湾港に触手を伸ばす中国」2022年10月22日参考)。

 ドイツは輸出大国であり、中国はドイツにとって最大の貿易相手国だ。ドイツの主要産業、自動車製造業ではドイツ車の3分の1が中国で販売されている。2019年、フォルクスワーゲン(VW)は中国で車両の40%近くを販売し、メルセデスベンツは約70万台の乗用車を販売している。2020年の中国とドイツの2国間貿易額は前年比3%増の約2121億ユーロに達し、中国は5年連続でドイツにとって最も重要な貿易パートナーとなっている。

 16年間の任期中、12回訪中したメルケル前首相は訪中前後に常に「経済関係の強化と共に、人権問題も話し合った」とコメントを出すのが慣例だった。一種のアリバイ工作だが、メルケル首相の対中融和政策を公の場で批判する国や政治家はいなかった。

 ただし、ドイツの産業用ロボット製造大手「クーカ」が2016年、中国企業に買収されたことから、ドイツは先端科学技術をもつ企業の買収阻止に本腰を入れ始めている。ドイツのシンクタンク、メルカートア中国問題研究所とベルリンのグローバル・パブリック政策研究所(GPPi)は、「欧州でのロシアの影響はフェイクニュース止まりだが、中国の場合、急速に発展する国民経済を背景に欧州政治の意思決定機関に直接食い込んできた。中国は欧州の扉を叩くだけではなく、既に入り込み、EUの政策決定を操作してきた」と警告している。

 参考までに、中国は昨年、欧州企業に約40億ユーロを投資したが、その額は前年比で大幅に減少した。中国企業は現在、政治的に物議を醸す大規模な購入を避けているという。EYストラテジー・アンド・コンサルティング会社の分析によると、昨年、中国人投資家による欧州企業への買収または投資は139件で、2021年より16件少ない。中国が過去、欧州で最も多く投資した年は2016年で309社の企業を買収、または投資、その総額は860億ユーロだった。なお、中国政府が「ゼロ・コロナ政策」を全面解除したことから、今年第2四半期以降、欧州と中国間の経済交流が再び活気を帯びると予想されている。