日本では岸田文雄首相のウクライナ訪問の情報が流れているという。確かに、岸田首相はまだキーウを訪問していない。80歳のバイデン米大統領はウクライナをまだ訪問していないが、安全問題と共に健康上の問題があるからだろう。一方、65歳の岸田首相は若いうえ、好きな外交分野で岸田カラーを出していこうとしている時だ。世界の注目が集まるウクライナを訪問し、アジアの代表国としてウクライナ支援をアピールできれば、その政治的効果は大きい。

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▲バイデン米大統領と会談する岸田首相(2023年1月13日、首相官邸公式サイトから)

 英国のジョンソン首相(当時)やフランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相ら欧州の主要国のトップは既に最低1度はキーウ詣でを済ましている、ジョンソン氏は退職した後も今月22日、キーウを突然訪問し、ゼレンスキー大統領と会談している。最近では、北大西洋条約機構(NATO)に加盟申請しているフィンランドのニーニスト大統領は今月24日、ウクライナ中部キーウ州のボロジャンカとブチャを訪れ、ロシアの侵略の被害を視察している。要するに、欧米諸国の国家元首は軍事大国ロシアと闘うウクライナを応援し、連帯を表明することが西側政治家の使命と考えているわけだ。

 「困った時の友こそ真の友」(A friend in need is a friend indeed)という諺がある。ロシア軍の侵攻を受け、電気や水道も不通の中、国の主権を守ろうとするウクライナ国民に連帯を伝え、経済支援、人道支援をしてくれる国々に対し、ウクライナ国民は感謝してくれるだろう。地理的には遠く離れているが、日本は支援国として経済的支援を中心に応援してきた。ただ、欧米諸国のようには軍事支援はできないから、世界のメディアが日本をウクライナ支援国の一員であると報じる機会は少ないかもしれない。

 湾岸戦争後のクウェートの支援国への感謝広告を思い出す。日本は他の欧米諸国に負けないほどの経済支援を行ったが、クウェート政府の「感謝広告」の中に日本の名前はなかった。日本外務省はショックを受けたが、国民も国際支援がどのように受け取られているかを学んだ。姿の見えない支援は時には忘れられるという現実だ。

 会談でもオンライン会談は能率的であるが、対面会談のように躍動感は期待できない。その意味で岸田首相がキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領に日本国民の支援を伝えることは大きな意味がある。「外交の岸田」の名目躍如だ。

 日本は中国の台湾進攻を警戒し、米国、オーストラリア、台湾など同盟国と連携して対策を講じてきた。地理的には遠い英国、フランス、ドイツら欧州の主要国は軍隊を台湾海峡に派遣し、台湾を中国からも守る日米軍と軍事連携を深めてきている。経済支援や政治家の発言だけではなく、相手の事情に呼応して具体的な支援をアピールすることは欧米諸国の指導者たちはうまい。日本の岸田首相がウクライナまで訪問し、連帯をアピールできれば、その効果はビデオ会談より大きいことは間違いない。

 それでは、岸田首相の訪問時期だ。ウクライナ情勢を考えると、ロシア軍がウクライナを侵攻して1年目となる2月24日前しかないだろう。ロシア軍は軍再編成を終え、今春にはウクライナに再び攻勢をかけてくると予想されている。キーウも安全ではない。ロシア軍の攻撃が再び激しさを増す前にキーウを訪問することは賢明だ。西側の指導者を迎える側のウクライナにとってもそのほうが都合がいいだろう。一方、岸田首相にとって、4月の統一地方選挙、衆院補欠選が控えているから、2月中旬までにしか外遊する時間がない。

 最後に、安全問題だ。戦争中の国を訪問するのだから完全な安全はあり得ない。日本の首相のウクライナ訪問日程がロシア側に伝えられれば、もちろん危険は増すだろう。岸田首相は覚悟が必要だ。岸田首相が米国と共にウクライナを支援し、ロシアを批判していることにプーチン大統領は不快に思っている。ウクライナ戦争が勃発して以来、ロシア・メディアの日本批判は急増している。岸田首相のキーウ訪問で何が起きても不思議ではない、と考えるべきだろう。

 岸田首相はG7(主要国首脳会議)の議長国だ。首相は今年5月、出身地の広島でG7サミット会議を開催し、世界に向かって原爆の恐ろしさを訴える予定だ。同時に、広島G7サミットではウクライナへの支援が最大のテーマだ。岸田首相のキーウ訪問は最高の機会だ。世界の指導者は「発言」だけではなく、「行動力」がこれまで以上に問われている。

 岸田首相の長男の「物見遊山」疑惑問題を野党は追及する考えという。その時だけに、キーウ訪問はメディアの目をそらすことはできる、といった計算でキーウ訪問を決定すべきではない。多くの国民が犠牲となっている戦争下のウクライナを訪問する以上、私心や政治的野心を捨て、訪問してほしい。ロシアの侵略戦争が如何なる結果をもたらしているかを目撃し、日本国民に伝えてほしい。岸田首相のキーウ訪問が実現できれば、日本とウクライナ両国民は親密感を一層深めていくことができるだろう。

 最後に提案だ。ウクライナ国民は今、電気や水道がない中で生活をしている。厳しい冬はまだ続く。5000台の発電機をポーランドから列車で運び、ウクライナに届けてはどうだろうか。