27カ国から構成された欧州連合(EU)の加盟国間で国益の利害もあって統一した政策が難しいケースが増えてきた。ロシア軍が2月24日、ウクライナに侵攻後、EUが米国らと連携して対ロシア制裁に乗り出したが、制裁を実施する段階で加盟国間の不協和音が高まってきた。特に、ロシア産天然ガス、石油などのエネルギーに大きく依存しているハンガリーは、EU委員会が発表する対ロシア制裁に対し、「制裁はロシアよりEU加盟国の国民経済を一層損なっている」(ハンガリーのオルバン首相)として批判を強めてきた。

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▲プーチン大統領と会談後、記者会見に応じるオルバン首相(2022年2月1日、ロシア大統領府公式サイトから)

 EU欧州員会のフォンデアライエン欧州委員長は20日の記者会見で、「ロシアは天然ガスの欧州供給を武器に、欧州の対ロシア政策に揺さぶりをかけてきた。ロシアの天然ガス供給が完全に途絶えた時を想定して、われわれは準備しなければならない」と指摘し、冬場のガス供給を確保するために「天然ガス消費量の15%節約」を加盟国に呼びかけた。

 ロシアはこれまでEUの制裁を実施する12カ国への天然ガス供給を停止、削減するなど圧力を既に行使してきた。ブリュッセルによると、ロシアからの供給量は現在、3分の軌焚爾僕遒噌んでいる。現在の域内在庫量は貯蔵能力の約65%という(時事通信)。

 天然ガス消費の4割をロシア産に依存してきたEUは、ロシア産に代わり、米国やアゼルバイジャンなど別の供給先を探す一方、EU域内の消費量の節約、長期的視点から代替エネルギー源の拡大に乗り出してきている。

 フォンデアライエン委員長が記者会見で天然ガス消費量の節約をアピールした翌日(21日)、ハンガリーのペーテル外務貿易相はロシアの首都モスクワを訪問し、ロシア産天然ガスの輸入拡大について協議している。ハンガリーの与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が明らかにした。ブリュッセルの「天然ガス消費量の節約」アピールをあざ笑うかのように、ハンガリーはロシア産天然ガスの供給量を増やすためにロシア側と交渉し、長期契約で定められた量に加え、7億立方メートルの天然ガスの追加購入を決めたというのだ。

 ちなみに、ハンガリーは4月7日、首都ブダペスト南方にあるパクシュ(Paks)原発への核燃料をロシアから空輸している。同原発はハンガリーの国内電力の半分を供給している。ハンガリーは石油、天然ガスばかりか、原発とその核燃料もロシアに依存しているわけだ。

 ハンガリーとEUの本部ブリュッセルとの関係は良好からは程遠いことは周知の事実だ。EU欧州員会は15日、オルバン首相が率いるハンガリー政府に対し、「民主主義と法の遵守」、「メディアの自由」などを要求し、その是正を求めてきたが、ハンガリー政府が応じなかったとして、ハンガリーを相手に欧州司法裁判所(EuGH)に3件、提訴したばかりだ(「ハンガリーの主張が『正論』の時」2022年7月17日参考)。

 例えば、昨年6月15日に可決、7月1日に発効したハンガリーの新法「反小児性愛法」は、小児性愛者対策を目的とし、教材や宣伝で同性愛や性転換の描写や助長を禁じる内容だ。オルバン首相は、「子供の権利を守る法律だ」とその法案の目的を強調したが、EU各国から非難が続出。ハンガリー側が是正に応じなかったことから今回、EU委員会は提訴に踏み切った。

 オルバン首相は今月15日、ロシア産石油、天然ガスに対するEUの制裁に対し、「EUのトップは制裁によってロシアに打撃を与えられると考えていたが、実際はわれわれが受けた打撃の方が大きかった。自らの肺を撃ち抜き、欧州経済は息も絶え絶えだ」と述べているほどだ(AFP通信)。

 オルバン政権はプーチン大統領のウクライナ侵攻を批判し、ウクライナからの難民を受け入れる一方、軍事支援、武器供給に対しては拒否してきた。オルバン首相によると、ウクライナへ武器供給した場合、同国最西端ザカルパッチャ州に住むハンガリー系少数民族に危険が及ぶと説明している。

 ウクライナのゼレンスキー大統領はEUの対ロシア制裁に異議を唱えるハンガリーのオルバン首相を名指しに「EUの結束を崩すロシアの共犯者」と批判している。