ドイツのキリスト教信者数はローマ・カトリック教会(旧教)とプロテスタント教会(新教)ではほぼ均衡している。マルティン・ルター(1483〜1546年)の宗教改革の発祥国ドイツでは歴史的に教会改革への機運が漂っている。そのドイツのカトリック教会では聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発し、その対応で教会指導部が混乱している現状に対し、信者からだけではなく、教会指導部内からも刷新を求める声が高まってきた。ちなみに、ローマ教皇フランシスコは2019年6月、シノダルパスと呼ばれる教会改革のプロセスに号令をかけている(「独カトリック教会、脱会者が急増」2022年6月29日参考)。

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▲独カトリック教会司教会議のゲオルク・べッツィング議長(独カトリック教会司教会議公式サイトから)

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▲バチカンのサンピエトロ大聖堂のファサード(2022年7月21日、バチカンニュースから)

 ところが、問題が生じてきたのだ。ドイツのカトリック教会司教会議(議長ゲオルク・ベッツィング司教)が推進中の教会刷新政策(通称シノダルパス)に対し、「その改革案は行き過ぎだ」という声が教会内外で聞こえてきたのだ。

 バチカン教皇庁は21日、ドイツ司教会議のシノダルパスに対し、「司教と信者に新しい形態の統治と教義と道徳の方向性を導入し、それを受け入れるように強いることは許されない」という趣旨の公式声明を発表し、「普遍的な教会のシステムを一方的に変更することを意味し、脅威となる」として「ドイツ教会の行き過ぎ」に警告を発した。フランシスコ教皇自身も6月14日、インタビューの中で、「ドイツには立派な福音教会(プロテスタント派教会=新教)が存在する。第2の福音教会はドイツでは要らないだろう」と述べ、ドイツ教会司教会議のシノダル・プロセスに異議を唱えているほどだ。

 改革派のフランシスコ教皇が「行き過ぎ」と警告するドイツ教会のシノダルパスはどのような内容だろうか。バチカンニュースを参考にその内容を紹介する。ドイツ教会の改革案は4項目から構成されている。

 .蹇璽沺Εトリック教会はバチカン教皇庁、そして最高指導者ローマ教皇を中心とした「中央集権制」だ。教皇の指令に基づいて教会運営が行われている。それに対し、ドイツ教会司教会議は各国の教会の意向を重視し、その平信徒の意向を最大限に尊重する「非中央集権制」を唱えている。

 ∪賛者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者へ教会をオープンにする。バチカンはその教義に基づき、同性愛者への差別には反対するが、同性婚は公認していない(「『クィアの人々』との対話進める教会」2022年1月26日参考)。

 女性信者を教会運営の指導部に参画させる。バチカン内でも女性信者の抜擢が行われてきたが、「女性聖職者」には躊躇している。ドイツのカトリック教会では「マリア2・0」運動と呼ばれる女性グループが男性主導の教会組織から脱皮し、女性たちにも聖職の道を開くべきだと主張している(「独教会の女性信徒が『スト』に突入」2019年5月14日参考)。

 だ賛者の強制独身制は教会のドグマではなく、伝統であることから、その制度の見直し。既婚者の聖職者の道を開くことで、聖職者不足も解決できる。2019年10月、バチカンで開催されたアマゾン公会議ではこのテーマは大きな議論を呼んだ(「公会議『既婚男性の聖職叙階』を提言」2019年10月28日参考)。

 ドイツ教会の「シノダルのプロセス」は、教会の権力分立、指導部と平信徒の関係改善を核とした内容だ。具体的な改革としては、〇紛気稜ぬ燭砲弔い匿者に発言権を与える、同性カップルのための祝福を正当化する、女性聖職者の任命、等が含まれる。

 4項目の内容を見る限りでは、フランシスコ教皇でなくても、カトリック教会の“福音教会化”と揶揄されても可笑しくはない内容だ。バチカンで「それでは何のためにカトリック教会か」という疑問の声が出てくるのは頷ける。

 シノダルパスは教会聖職者の性犯罪の多発を契機に始まったもので、フランシスコ教皇が2019年に開始し、世界各教会で積極的に協議されてきたものだ。それがここにきてフランシスコ教皇を含む教会指導者から「ドイツのシノダルパスは行き過ぎだ」という声が高まってきたわけだ。

 ドイツの教会法専門家、ミュンスター大学のトーマス・シュラー教授は21日、「バチカンはドイツ教会の教会改革案を明らかに拒絶している。その改革案はローマの壁の前にぶつかった」と述べている 。

 フランシスコ教皇は昨年1月5日、ドイツの「シノドス方式」に異議を唱えるマニフェストを受け取ったことを明らかにしている。11カ国語で発表されたマニフェストには、ドイツをはじめとする欧州各国から5832人の署名が寄せられたという。また、教皇庁キリスト教一致推進評議会前会長のワルター・カスパー枢機卿は昨年11月7日、ドイツの司教と信徒を集め、教会における権力の行使の仕方、性道徳、神権、女性の役割について話し合うシノダルプロセスについて、繰り返し「懸念」を表明している。

 ドイツ教会司教会議議長のべッツィング司教は5月27日、シュトゥットガルトで開催されたドイツの「カトリックの日」で、「ドイツのカトリック教会の改革プロセスに対し米国や他の国の教会で大規模な反対運動がある」ことを認めている。

 ドイツ教会の独自の教会改革がバチカンや他の教会からの批判に直面して暗礁に乗りだすか、それとも貫徹するか、その成り行きはドイツ教会の将来だけではなく、欧州を含む世界のカトリック教会に大きな影響を及ぼしそうだ。バチカンニュースは7月21日のトップに、「バチカン教皇庁、ドイツ教会にシノダルパスの限界を示す」と大きく報じている。