勝負は早朝だ。1日にやらなければならない仕事は朝の時間しかない。ということで、このコラムを書き出している。この時間帯を何らかの理由で逃すと、昼食後にはもはや戦闘意欲は減退し、イエスが「生きているのは名ばかりで実は死んでいる」といったような状況に陥り、総身からは活力は失われ、思考は停止、テーブルの上で回る中古の扇風機の風の向きだけに関心がいってしまう。

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▲「地球」NASA公式サイトから

 外電をみると、熱風がフランス、スぺイン、ポルトガルを襲撃し、40度を超える灼熱が国土を覆い、至る所で山火事が発生、消防士たちが燃え盛る森林に必死に放水しているシーンがテレビ中継されている。熱中症で亡くなる人も出てきたというから、深刻だ。

 夏でも比較的快適な気温だったイギリスでもとうとう40度を超える最高気温を記録したという。英気象庁によると、ロンドンのヒースロー空港で19日、観測史上最高気温の40.2度(速報値)を記録した。英国で40度を超えたのはもちろん初めて。英国の過去最高気温は2019年7月に南部ケンブリッジで観測された38.7度だった(この項、時事通信)。ロンドンっ子の最大の話題は辞任を表明したジョンソン首相の後継者に誰が選出されるかではなく、「どうしたら暑さから逃れるか」だ。

 ドイツでも20日、各地で40度を超えた。ドイツ気象局(DWD)によると、バートメルゲントハイム-ニューンキルヒェンで40.3度を記録し、ハンブルクではハンブルク-ニューウィデンタールで40.1度が測定された。DWDによると、ドイツで最も暑い日は2019年7月25日、クレーフェルト近くのライン川下流域にあるデュイスブルクとテイスヴォルストのノルトラインヴェストファーレン観測所で41.2度が測定されている。

 当方が住むアルプスの小国オーストリアでは20日、最高気温はインスブルックで37度だった。 36度を超える値は、ツィラータールのマイヤーホーフェンを含むオーストリアの他の3つの場所で測定された。

 岸田文雄首相は、「この夏はクーラーで快適に生活してがんばろう」という趣旨の発言をしたと聞く。日本の場合、どの家にもクーラーはあるし、会社や電車の中でもクーラーが効いているから、そこにいる限りどうにか過ごせる。一方、オーストリアでは冬対策での経験はあるが、夏対策では遅れている。クーラーを設置している電車もあるが、まだ数少ない。普通の住居はクーラーなど設置していない。せいぜい、扇風機があるだけだ。ちょっとした暑さならば、扇風機で凌げるが、40度となると、ヤリをもって戦車に向かう兵士のように、扇風機だけでは猛威を振るう灼熱には勝てない。

 個人的体験だが、当方は過去、少なくとも3度、40度を超える気温を体験した。イタリアのフィレンツェ、チェコのプラハ、ヨルダンのアンマンにいた時だ。フィレンツェでは「ダビデの像」をみるためにアカデミア美術館前で長蛇の列で待っていた時、気温は確か40度を超えていた。ミネラルウオーターを定期的に飲みながら、長時間外の暑さに耐えた後、博物館に入った。部屋の真ん中に立っていたダビデの像はライトに浮かび上がって圧倒的な存在感を与えていた。

 プラハではカレル橋を渡って国際会議に取材にいった日、知人が「今、気温は40度に達した」と、敵の戦闘機が襲撃してきたように、真剣な顔をしながら叫んだのを思い出す。

 ヨルダンの首都アンマンへ取材に行ったとき、空港から外に出た瞬間、暑い空気が襲ってきた。「自分は中東にいる」と実感したものだ。ただ、その空気は限りなく乾燥し、湿気がなかった。

 ところで、欧州では2018年も暑い夏を迎えた。当方は当時、このコラム欄で「40年間余り、オーストリアに住んできたが、これほど暑い夏を体験したことがない。今年の暑さは異常を越して、少々不気味さを感じる。アルプスのオーストリアの気温が完全に変わったのだ。地球温暖化という話は聞いてきたが、他人事のように受け取ってきた面が否定できない。アルプスの氷河は既に溶け始めている。ウィーンの森のブドウ畑では1カ月も早く実が熟してしまった」と書いた(「『地球』に何が起きているのか」2018年8月8日参考)。

 中国武漢から発生した新型コロナウイルスのパンデミック、今年2月24日以降はロシア軍のウクライナ侵攻で両国間で戦争が起き、世界の関心がそこに集中したのは仕方がないが、地球温暖化問題は環境保護対策といった領域を超えて人類の存続をかけたテーマとなってきた。

 「AIが神になる日」という著書がある実業家、松本徹三氏の新作「2022年地軸大変動」は近未来の世界の情勢を地軸の大変動という仮定に基づいて描かれたSFの力作だ。地軸の大変動で熱帯地域から極寒帯地になるアフリカ大陸の人々を救うために世界の指導者たちは英知を結集して、地軸の変動が始まる前にアフリカの人々を安全な地域に移住させようと、史上最大規模の移住計画が立てられる。異星人の地軸大変動という計画を詳細に、そして専門的にも論理的に説明しながら、地球が直面している未曾有の危機に立ち向かう人類の姿が冷静に描写されている。ある意味で、21世紀に生きる人類への警告だ(「『2022年地軸大変動』を読んで」2021年11月7日参考)。

 東日本大震災で地球の軸が僅かだが動いたともいわれる。その惑星に住む人類は地球温暖化といった課題に直面し、「生き方」を再考しなければならない時を迎えている。