欧州連合(EU)欧州員会は15日、オルバン首相が率いるハンガリー政府に対し、「民主主義と法の遵守」、「メディアの自由」などを要求し、その是正を求めてきたが、ハンガリー政府が応じなかったとして、ハンガリーを相手に欧州司法裁判所(EuGH)に提訴した。

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▲性的少数派関連法改正を弁護するオルバン首相(2021年7月23日、ハンガリー国営通信)

 最初の侵害訴訟は、性的少数派への差別に繋がる新法に対する提訴だ。昨年6月15日に可決、7月1日に発効したハンガリーの新法「反小児性愛法」は、小児性愛者対策を目的とし、教材や宣伝で同性愛や性転換の描写や助長を禁じる内容だ。オルバン首相は、「子供の権利を守る法律だ」とその法案の目的を強調したが、EU各国から非難が続出。ハンガリー側が是正に応じなかったことから今回、EU委員会は提訴に踏み切ったわけだ。

 2件目は、言論・メディアの自由問題だ。国内の最後の独立無線局「クラブラジオ」の放送ライセンスが取り消された問題だ。放送局は2021年2月にFM放送を停止することを余儀なくされた。オルバン首相が2010年に就任して以来、民間放送局は当局による弾圧に定期的にさらされてきた。それに対し、ブリュッセルは「メディアの自由」を遵守すべきだと訴えてきた経緯がある。ちなみに、オルバン政権が今年4月の総選挙で再度議会の3分の2の議席を獲得できた理由は、政府に批判的なメディアがないからだ。「クラブラジオ」は現在、インターネット経由で番組を放送している。

 3件目は、外国ナンバーの車両がガソリンスタンドで燃料を補給する場合、燃料に関する政府の補助金対象外となる問題だ。EU加盟国内では全てが等しく扱うべきとなっているにもかかわらず、ハンガリー政府は外国ナンバープレートの車両所有者を差別しているという理由だ。EU委員会によると、「ハンガリーの自動車所有者は、ガソリンスタンドで安くガソリンを補給できる一方、外国のプレートナンバー車両保有者は政府補助金の恩典から外される」というのだ。

 EU委員会はハンガリーに対し、「EU内での物品と人の自由な移動に関する規則を遵守すべきだ。特にウクライナ戦争の経済への影響を和らげるために、域内市場が機能することが重要だ。国レベルでの個別の措置や差別的な規則は解決策ではない」と指摘している。ハンガリー側はブリュッセルが国を超えて加盟国の主権問題や国内政策にまで口をはさみ、その是非を追及することにこれまで強く反発してきた。

 2番目と3番目の訴訟内容はEU委員会が正論だろう。ただ、問題は最初の通称「反LGBTQ法」だ。EU委員会は、「ハンガリーの新法は性的少数者への差別に通じる。未成年向けの教材などでのLGBTら性的少数者に関する描写を禁じるハンガリーの新法は基本的権利を侵害している」と主張。それに対し、オルバン首相は、「わが国は同性愛者の権利を擁護している。新法は性的少数派コミュニティを攻撃することを意図していない。学校の教材やメディア、本などでLGBTQ問題を取り扱うことには危険を感じるからだ」と指摘、「発育途上の子供たちに悪い影響を与えることを懸念する」と説明している。

 EU委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は新法が可決した直後、「人間をその性的指向に基づいて差別するもので、EUの基本的価値観に反する」と指摘し、「ハンガリーの法改正は欧州の恥だ」と批判。オランダのマルク・ルッテ首相は、「ブダペストの政府がこのように続ければ、EUにハンガリーの居場所はない」と明言し、ハンガリーをEUから追放すべきだとまで述べていた(ハンガリーがECJ=欧州司法裁判所の判決に従わない場合、高額の罰金が科せられる)。

 6月は「LGBT月間」だった。オーストリア国営放送では性的少数派のコマーシャルが流れていた。若い男性同士が接吻したり、女性同士が抱擁しているシーンが流れる。「LGBT月間」のピーク、路上パレード(レーゲンボーゲン・パレード)では半裸姿の男女が踊りながら行進する。なぜそのような行進がLGBTの啓蒙につながるのか、少々理解に苦しむ。「パレード行進の姿をみた子供たちはどう思うだろうか」と考える人が出てきても不思議ではない。

 ハンガリーの新法をフォン・デア・ライエン委員長は「欧州の恥」と述べたが、そうだろうか。同性愛問題でメディアなどの扇動に乗って「LGBT支持派」に走るほうがむしろ「欧州の恥」ではないか。LGBT関連の改正法の是非問題では、オルバン首相のほうが「正論」だ。

 ハンガリー政府がキリスト教の教えに基づき関連法案の改正を施行することが、なぜ欧州の価値観に反するのだろうか。欧州社会がキリスト教の教えを基本的価値観にしないというのならば理解できるが、そうではない。とすれば、ブリュッセルこそ婚姻、家庭問題について再考すべきだろう。