2020年はあと2週間弱で幕を閉じる。今年は中国武漢発の新型コロナウイルス(covid-19)のパンデミックの年となった。英国や米国でワクチンの接種が始まったが、コロナ禍を克服するまでにはまだ時間がかかるだろう。

 今年を振り返る時期となった。コロナ抜きのニュースとしては、米大統領選やイスラム過激テロ事件などがあった。「何か書き忘れたテーマがあったのではないか」と考えた。楽聖ベートーヴェン生誕250年目の年だった。コロナ感染防止のために大規模な記念イベントは開催されなかったが、各地で祝いの行事があった。

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▲文鮮明師は北朝鮮の金日成主席に「主体思想は間違っている」と説いた(1991年12月6日、北朝鮮咸鏡南道興南市麻田主席公館で、世界日報より)

 もう一件、あった。メディアではほとんど報道されなかったが、今年は文鮮明師生誕100年だ。世界基督教統一神霊協会(通称:統一教会、現:世界平和統一家庭連合)創始者の文鮮明師は1920年、現在の北朝鮮平安北道定州で生まれた。その生涯は波乱万丈だった。北では数年間、牢獄生活を体験した後、南で1954年、キリスト教の統一運動を始めた。

 日本では文鮮明師と言えば、いい評判は聞かない。というより、ほとんどが悪評だけだ。同師はあらゆる種類の誹謗・中傷を受けてきた宗教指導者だ。ここではメディアの報道する内容の真偽について検証するつもりはない。メディアが忘れている点は、同師が共産主義思想の悪魔性を明確に指摘した最初の人物だったということだ。世界が共産主義思想に惹かれていった1970、80年代に、共産主義の終焉をいち早く表明した先覚者だ。共産主義思想に惹かれていた多くのリベラルなメディアが文師を反共の頭目として厳しく批判したのは当然かもしれない。

 ソ連・東欧共産国の崩壊を目撃してきた当方は文師の功績は、共産主義の正体を暴露し、その危険性に警鐘を鳴らしたことではなかったかと考えている。同師は1990年4月、ソ連のゴルバチョフ書記長(当時)とクレムリン宮殿で会見し、1991年11月には北朝鮮で故金日成主席と対面した人物だ。

 文師は金日成主席との会談では「主席、主体思想は間違っています」と単刀直入に語ったという。それを聞いた文師の側近たちは「われわれは帰国できなくなるのではないか」と恐れたという。北側はかつて、文師を暗殺しようと画策したことがあった。その文師が金主席の眼前で「貴方は間違っています」と述べたのだ。無事帰国できなくなると恐れても不思議ではない。

 後日聞いた話だが、文師の発言に激怒した北側関係者は金主席に文師をどうするかと話していた時、金主席は「あいつ(文師)は大した男だ」と評価したという。文師が2012年9月に亡くなった時、北は弔花を送っている。ひょっとしたら、北は文師を恐れながら、南北再統一にかけるその情熱を評価していたのかもしれない。

 米国でウォーターゲート事件(1972年6月〜74年8月)が起きた時、リチャード・ニクソン大統領の退陣を要求する声が全米に広がった。文師はその時、ニクソン大統領(任期1969〜74年)を退陣させてはならないとして、「許せ、愛せ、団結せよ」と呼びかける運動を展開した。ニクソン大統領を守るというより、ニクソン氏が退陣すれば、世界の赤化を目論んでいるソ連共産党政権が出てくると考えた文師は共産主義の危険性を指摘し、米国を中心とする西側民主主義圏の団結を呼びかけたわけだ。

 米国民やメディアがニクソン退陣と叫んでいた時だ。そのニクソンを守れと呼び掛けたのは文師だけだった。ニクソン氏は自分を擁護するアジアから来た宗教指導者がいると聞いて、文師をホワイトハウスに招き、会談している。

 文師が語っていたように、ソ連・東欧共産政権は1980年後半から90年にかけ次々と崩壊していった。ただし、文師は南北再統一を目撃出来ずに亡くなった。そして最後の共産国・中国が欧米諸国の混乱をよそに世界制覇を目指して急速に台頭してきた。

 軍事力だけではなく、経済力もある中国共産党政権との戦いは決して容易ではない。中国共産党の野望を打倒するために戦ってきたトランプ米政権が去り、中国と密接な繋がりのあると言われているジョー・バイデン氏が第46代米大統領に就任すれば、中国はこれまで培ってきた人脈を駆使し、分断された米国社会の崩壊に乗り出すだろう。

 共産主義思想の源流を喝破していた文鮮明師は亡くなったが、同師が創刊した米紙ワシントン・タイムズが中国共産党政権の野心を暴露し、警鐘を鳴らし続けている。文師の願いは朝鮮半島の南北再統一であり、米国がその建国精神を取り戻し、世界の平和に貢献することだった。その課題は残されたわれわれが取り組まなければならない。

 文鮮明師の業績を冷静に評価するためにはまだ時間が必要かもしれないが、共産主義の正体を暴露し、冷戦終焉に大きな足跡を残した同師に対し、感謝の辞を送りたい。2020年を「コロナ禍の年」で終わらせるのではなく、少々、遅すぎたが、文鮮明師「生誕百年」を中国共産党政権への戦いに再結束する年として閉じたいものだ。