トランプ米大統領はドイツ駐留の米軍の縮小を進めている。その理由は、「ドイツはその国力に相応しい軍事費を支払わないからだ」というものだ。どこかで聞いたことがある内容だ。そうだ。在韓米軍の軍事費負担交渉で今、ワシントンとソウルの間で激しい外交戦が繰り広げられている。トランプ氏は次期大統領選で再選するために努力する一方、世界の同盟国に対し、「もっと軍事費を払え」と外交攻勢をかけているわけだ。
▲NATO軍事演習(2020年6月11日、NATO公式サイトから)
米軍は現在、約3万4500人の兵力をドイツに駐留させているが、9500人減らし、2万5000人とするというものだ。トランプ大統領は今月24日、その一部をポーランドに再配置する意向を明らかにしている。ドゥダ・ポーランド大統領と会談後の共同記者会見で語った。
軍事費の増額や欧州の自力防備の強化を要求するのはトランプ大統領が初めてではない。米国はジョン・F・ケネディ大統領時代(任期1961〜63年11月)に既にドイツ側に要求してきたものだ。第2次世界大戦で荒廃した欧州の再建に関わってきた米国はその後、欧州の復興に伴い欧州側の軍事負担を求めてきた。ソ連共産陣営との対立の激化で米国は欧州の安全を守る立場でこれまで駐留してきたが、冷戦が終焉した今日、米国が欧州に自力防衛の強化を訴えるのは当然の流れだろう。
ドイツ駐留の米軍の撤退問題がここにきて急展開してきたのは、トランプ氏が2018年5月、駐ドイツ大使として派遣したリチャード・グレネル氏(53)とベルリンのメルケル政権との気まずい関係の後遺症が噴き出てきたからではないか。
グレネル米大使は6月1日、大使職を終え、離任した。ドイツではこれまで米大使の帰国の際には慰労のバイバイ・パーティを大々的に開催するのが慣例だったが、新型コロナ感染の予防ということもあって今回は開かれなかったと聞く。グレネル大使はベルリン政界では人気がなかった、というより嫌われてきたから、というのが真相のようだ。同大使の帰国が伝わると、ドイツの政治関係者は「うるさい大使がいなくなった」と喜んだといわれるぐらいだ。
グレネル氏はベルリン政界では米国の“カーボーイ大使”、“ミニ・トランプ”と受け取られ、欧州の右派勢力を鼓舞するなど、言動に対して批判の声が絶えなかった。その大使がワシントンに帰国した直後から、トランプ氏の駐独米軍の撤退話が急速に展開してきたことから、「陰で前大使がトランプ氏を突っついている」といった囁きすら聞かれた出した。要するに、「グレネル前大使の仕返し」というわけだ。なお、グレネル氏は2月、マグワイア国家情報長官代行に任命され、6月1日まで代行を務めている。
ロイター通信によると、米下院の共和党議員6人は23日、トランプ大統領に対し、ドイツに駐留している米軍を削減する計画の再考を要請する書簡を送っている。与党の共和党内でも駐独米軍の一部縮小には批判の声があることが分かる。トランプ氏の駐独米軍縮小は政権内や与党関係者の間で良く話し合った結果ではないことが推測できるわけだ。
下院外交委員会のマイケル・マコール議員ら6人の共和党議員は、「駐独米軍は欧州だけではなく、ロシアや中国の影響が強くなってきた中東、アフリカに対し、米国の戦略上の利益に資する。駐独米軍の規模縮小はロシアへの抑止力を弱め、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が集団安全保障に対する米国のコミットに疑いを持つ契機ともなる」と懸念を表明し、「駐独米軍の一部撤退は米国の安全にもかかわる問題だ」と主張している。
トランプ大統領は、「ドイツはロシアから天然ガスを購入するために数十億ドルを支出し、エネルギー供給をロシアに依存している一方、対ロシア防衛のためには米国の資金に依存している」と指摘、ドイツを“ロシアに捕囚されている”と批判し、「ドイツは経済大国だ。即刻、防衛支出を増額できるはずだ」と述べてきた。それに対しメルケル首相は、「ドイツ軍はアフガニスタンでは米軍を支援している。わが国はアフガン派遣では米軍に次いで2番目だ。わが国は米国の利益も守っていることになる」と強調するとともに、「わが国はドイツ再統一ではNATOに助けられたが、今日、ドイツはNATOの為に貢献している」と反論している(「欧米間に新しい『戦線』が拡大」2018年7月13日参考)。
ちなみに、NATO加盟国は2014年、軍事支出では国内総生産(GDP)比で2%を超えることを目標としたが、それをクリアしているのは現在、米国の3・5%を筆頭に、ギリシャ2・27%、エストニア2・14%、英国2・10%だけで、その他の加盟国は2%以下だ。ドイツの場合、防衛費は年々増加しているが、昨年はGDP比で1・38%に留まっている。
米共和党はNATOの防衛費の公正な負担を求めるトランプ氏の主張を基本的には支持している。米大統領は軍の撤退を実施できるが、そのための経費獲得には下院の認可が求められるから、下院が駐独米軍の一部削減にストップをかけるケースも完全には排除できない。
トランプ大統領とメルケル首相の関係は特別悪いということはないが、友好的な関係からは程遠い。移民・難民問題でも壁を建設するトランプ大統領に対し、メルケル首相は難民歓迎政策を実施するなど、両者の間には政策でかなり違いがある。
ヴォルフガング・ショイブレ連邦議会議長(独与党「キリスト教民主同盟」CDU)は独週刊誌シュピーゲルとのインタビュー(6月13日号)の中で、「ドイツは防衛費でこれまで以上に負担すべきだ。NATOとの公約を実行すべきだ。わが国は長い間、有利な状況を享受し、経済的繁栄を成し遂げることができた一方、防衛では他国(米国)の世話になってきた」と述べている。
▲NATO軍事演習(2020年6月11日、NATO公式サイトから)
米軍は現在、約3万4500人の兵力をドイツに駐留させているが、9500人減らし、2万5000人とするというものだ。トランプ大統領は今月24日、その一部をポーランドに再配置する意向を明らかにしている。ドゥダ・ポーランド大統領と会談後の共同記者会見で語った。
軍事費の増額や欧州の自力防備の強化を要求するのはトランプ大統領が初めてではない。米国はジョン・F・ケネディ大統領時代(任期1961〜63年11月)に既にドイツ側に要求してきたものだ。第2次世界大戦で荒廃した欧州の再建に関わってきた米国はその後、欧州の復興に伴い欧州側の軍事負担を求めてきた。ソ連共産陣営との対立の激化で米国は欧州の安全を守る立場でこれまで駐留してきたが、冷戦が終焉した今日、米国が欧州に自力防衛の強化を訴えるのは当然の流れだろう。
ドイツ駐留の米軍の撤退問題がここにきて急展開してきたのは、トランプ氏が2018年5月、駐ドイツ大使として派遣したリチャード・グレネル氏(53)とベルリンのメルケル政権との気まずい関係の後遺症が噴き出てきたからではないか。
グレネル米大使は6月1日、大使職を終え、離任した。ドイツではこれまで米大使の帰国の際には慰労のバイバイ・パーティを大々的に開催するのが慣例だったが、新型コロナ感染の予防ということもあって今回は開かれなかったと聞く。グレネル大使はベルリン政界では人気がなかった、というより嫌われてきたから、というのが真相のようだ。同大使の帰国が伝わると、ドイツの政治関係者は「うるさい大使がいなくなった」と喜んだといわれるぐらいだ。
グレネル氏はベルリン政界では米国の“カーボーイ大使”、“ミニ・トランプ”と受け取られ、欧州の右派勢力を鼓舞するなど、言動に対して批判の声が絶えなかった。その大使がワシントンに帰国した直後から、トランプ氏の駐独米軍の撤退話が急速に展開してきたことから、「陰で前大使がトランプ氏を突っついている」といった囁きすら聞かれた出した。要するに、「グレネル前大使の仕返し」というわけだ。なお、グレネル氏は2月、マグワイア国家情報長官代行に任命され、6月1日まで代行を務めている。
ロイター通信によると、米下院の共和党議員6人は23日、トランプ大統領に対し、ドイツに駐留している米軍を削減する計画の再考を要請する書簡を送っている。与党の共和党内でも駐独米軍の一部縮小には批判の声があることが分かる。トランプ氏の駐独米軍縮小は政権内や与党関係者の間で良く話し合った結果ではないことが推測できるわけだ。
下院外交委員会のマイケル・マコール議員ら6人の共和党議員は、「駐独米軍は欧州だけではなく、ロシアや中国の影響が強くなってきた中東、アフリカに対し、米国の戦略上の利益に資する。駐独米軍の規模縮小はロシアへの抑止力を弱め、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が集団安全保障に対する米国のコミットに疑いを持つ契機ともなる」と懸念を表明し、「駐独米軍の一部撤退は米国の安全にもかかわる問題だ」と主張している。
トランプ大統領は、「ドイツはロシアから天然ガスを購入するために数十億ドルを支出し、エネルギー供給をロシアに依存している一方、対ロシア防衛のためには米国の資金に依存している」と指摘、ドイツを“ロシアに捕囚されている”と批判し、「ドイツは経済大国だ。即刻、防衛支出を増額できるはずだ」と述べてきた。それに対しメルケル首相は、「ドイツ軍はアフガニスタンでは米軍を支援している。わが国はアフガン派遣では米軍に次いで2番目だ。わが国は米国の利益も守っていることになる」と強調するとともに、「わが国はドイツ再統一ではNATOに助けられたが、今日、ドイツはNATOの為に貢献している」と反論している(「欧米間に新しい『戦線』が拡大」2018年7月13日参考)。
ちなみに、NATO加盟国は2014年、軍事支出では国内総生産(GDP)比で2%を超えることを目標としたが、それをクリアしているのは現在、米国の3・5%を筆頭に、ギリシャ2・27%、エストニア2・14%、英国2・10%だけで、その他の加盟国は2%以下だ。ドイツの場合、防衛費は年々増加しているが、昨年はGDP比で1・38%に留まっている。
米共和党はNATOの防衛費の公正な負担を求めるトランプ氏の主張を基本的には支持している。米大統領は軍の撤退を実施できるが、そのための経費獲得には下院の認可が求められるから、下院が駐独米軍の一部削減にストップをかけるケースも完全には排除できない。
トランプ大統領とメルケル首相の関係は特別悪いということはないが、友好的な関係からは程遠い。移民・難民問題でも壁を建設するトランプ大統領に対し、メルケル首相は難民歓迎政策を実施するなど、両者の間には政策でかなり違いがある。
ヴォルフガング・ショイブレ連邦議会議長(独与党「キリスト教民主同盟」CDU)は独週刊誌シュピーゲルとのインタビュー(6月13日号)の中で、「ドイツは防衛費でこれまで以上に負担すべきだ。NATOとの公約を実行すべきだ。わが国は長い間、有利な状況を享受し、経済的繁栄を成し遂げることができた一方、防衛では他国(米国)の世話になってきた」と述べている。
その本質とは『米国にとって“ドイツの立ち位置”が好ましくない。つまり米国は独逸が中国に半分以上寝返ったと見ており、そんな国に重要な軍事機密を含む大規模部隊を駐留させ続けることは、米国の安全保障上から不適切と判断した』というのが私の考えだ。
その証拠に、ボルトンの著書で『日本に8500億円の負担を要求した』と書かれ、日本が『そんな話は無い』と突っぱねても、在日米軍を縮小するという話は出て来ないどころか、逆にF35戦闘機のMRO&Uの対日依存を強めつつあるのは、米国が“日本は裏切らない”と強い信頼を寄せているからだろう。
F35の米国外MRO&U拠点は「日、豪、伊」の3カ国であり、独・仏が含まれないのは何故かを考えるべきだ。
欧州では予備拠点として「英、蘭、ノルウェー」が予定されており、伊の中国寄りの姿勢に変化が無ければ、EU離脱後の英国に移されることも十分考えられる。
(続く)